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参考人(中島道治君) 繊維労連の中島でございます。
中小企業に働く労働者の
立場から
繊維新法について
意見を申し述べたいと思います。
第一に、本
法案の背景とその政策的意図でございます。戦前の
紡績を中心として
繊維産業の歴史は操短の歴史であったことは、すでに諸
先生方の御存じのとおりでございます。しかも、戦後においても繊維資本はその復興
過程において、
昭和二十七年、三十年と労働者の大量人員整理によって不況——操短の
犠牲を労働者に転嫁してまいりました。特に、婦人労働者に対するその
犠牲、しわ寄せについての歴史的経過については、私たちは忘れることができないのであります。しかも、三十三年以降も依然として慢性的な過剰生産のもとで、膨大な
設備が遊休化しております。市場
条件の変化による
輸出の停滞、
繊維産業のウエートが天然繊維から
化合繊へと移行しつつある中で、いわゆる
自由化のもとで新産業
体制を確立しようとする中で本案が出されております。しかも、繊維の
中小企業は
金融引き締めに体質的に弱いという面を持っており、とりわけ現在の
金融引き締めの
過程でこの問題が出されておることは、繊維の
中小企業及びそこに働く労働者に一段と
犠牲がしいられるのではないかという点についてたいへんな危惧を持つものであります。
本
法案は、一見したところ、繊維工業の
設備規制のための臨時
措置法的なよそおいをこらしているが、法制定の背景をなす政策的意図は、繊維製品の
需給構造の変化、
輸出貿易における繊維
輸出の相対的低下によって
綿紡績業の相対的斜陽化が進行しているため、過剰精
紡機の
スクラップ・アンド・ビルドをてことして、複合繊維時代に対応し得る
紡績業の
体質改善を促進することにあり、そのため
金融、
税制上の
優遇措置、生産、出荷、価格カルテル等独占禁止法の適用除外の
措置が許されることを求めております。その意味で
特定産業振興法の
繊維産業版ともいえる
性格を持っております。
繊維産業の二重構造という実態を
考えたとき、頂点では、ゴールドラッシュで無計画的にこの膨大な
設備投資が行なわれております。たとえば三十七年の実績で三百二十六億、三十八年の見込みで七百四十六億、三十九年の計画では八百億というような形になっております。ところが、膨大な底部分となっている第二次加工部門の
中小零細
企業の問題が、この頂点となっている
化合繊の
設備投資の問題と同様に本
法案からははずされている。そういう点を見ますと、本
法案に、繊維工業
一般ではなく、むしろ「原糸や
化合繊製造
企業振興法」という
性格が強く、はたしてこの本
法案の第一条であげている目的、「繊維工業の
合理化を図るとともに、繊維製品の正常な
輸出の
発展に寄与すること」という目的にはたして沿うことができるかどうかという点について、たいへん疑問に感ぜざるを得ないのであります。
第二に、本法の制定と
中小企業及び労働者へ及ぼす
影響についてでございます。従来とってきた
政府の伝統的な
繊維産業政策は、
一つは、生産力の
発展に伴う
過剰設備の買い上げ、技術革新に即応した新
設備導入に対する
金融、
税制上の
優遇措置、二つは、原糸
市況の維持のための操短の実施のための
勧告、監督、滞貨
金融の補償
措置でございました。また、
繊維産業の生産構造は、原糸の製造を行なう十大紡、化繊七社、羊毛、麻
紡績数社を頂点として、この糸を織り、加工染色し、縫製する製品加工の
中小、零細
企業の産地群を底辺とするピラミッド型構造をなしております。そうして、これに流通段階で五棉商社と少数の産地問屋が介入しております。こういう意味で典型的な二重構造を形成しておる。しかも、常に糸商の製品安は、このような
体制的生産、流通構造によって再生産されてきております。その上伝統的な
繊維産業政策は、その政策の保護対策を主として原糸の製造を行なうこれらのピラミッドの頂点に位置する大手独占
企業に置いてきております。
輸出競争力は織布、縫製、染色加工の
中小零細
企業による低賃金、長労働時間により手間をかけたものほど競争力が強いとされており、国際的水準によって装備された大手独占
企業と加工段階の後進国並み水準の
中小企業、農村より供給される女子年少
労働力による低賃金労働のたくみな結合によって、このような二重構造を温存してきたのであります。戦後、商社資本の
金融力が後退し、綿糸、綿布
輸出からスフ織物、メリヤス、綿合繊の二次加工製品などが
輸出の面で伸びてきたことから、原糸メーカーによる織布・加工・縫製段階の系列化が一そう進み、大手独占
企業は一そうその資本支配の
合理化を貫徹しております。
もし、本
法律の制定を機会にこのような行政指導が進められたならば、大手
紡績による
中小紡績の賃紡化、大手
紡績内部の集中生産に伴う工場閉鎖、生産の一部を
中小企業に切りかえることによる大
企業の労働者の人員整理、特に女子労働者について工場閉鎖に伴う配置転換という名目で、表面にあらわれない形での自己
希望退職という問題の発生、複合繊時代に対応した大
企業の製品によるチョップ販売
体制の確立によって起こる
中小企業との生産分野の競合、メリヤス、縫製、織機部門の系列化の促進がすでに進行しております。たとえば十大紡ではまねのできない超番手の生産、日清紡の二百番手とか、あるいは
特定需要先と結びついた大量生産方式、日紡は大型衣料店と結合したシルウオーキの生産、あるいは東洋紡の小売り店の組織計画、富士紡の地方卸売り店の組織化など、従来の糸売り中心から
特定需要先のほうへと
体制を固める市場拡大をはかっております。こういうやり方に対して、はたして現在の競争力のきわめて弱い
中小紡が太刀打ちできるかどうか。もし太刀打ちできないとなれば、このしわ寄せをさらに
中小企業で働く労働者に一そう寄せられることは、従来の経過からみてきわめて明らかでございます。たとえば、現在の労働基準法の実施
状況につきましても、労基法の無法地帯と言われる大阪の泉州地帯では、基準法について、せめて八時間労働ではなく九時間労働ぐらいは守らせたいというような形での労働基準監督署の行政指導さえもうまく受け入れられていない
企業がたくさんあるわけです。さらに、業者間協定による労働者の賃金統制化、そういうものを
考え、さらにその面における労働組合の組織率化、たとえば三十九人以下の繊維の零細
企業では、〇・九七%しか進んでいないというような
状況を
考えるときに、独自に労働組合でもちろんこのような
状況を改善するために運動していかなければならないのですが、この運動が私
どもの微力のせいか、たいして現在のところ効果を上げてないところからみますと、このような形での
中小紡の労働者に対するしわ寄せというものは、一そう今後も強まるのではないかというふうに思われます。
第三番目に、
意見でございますが、今後の繊維工業は、糸及び糸の生産と
輸出から今後はメリヤス、二次加工製品分野への生産と
輸出の伸びが
期待されるところであります。にもかかわらず、織布業、染色整理業、メリヤス業、縫製業の近代化がきわめて立ちおくれております。本
法案は、従来の生産秩序の近代化を平行的に進める
配慮が欠けており、右にあげた業種の近代化というものは、わずかに
中小企業団体法と
中小企業近代化促進法
一般の行政指導にゆだねられ、
紡績業を中心とした大
企業本位の政策がきわめて露骨であります。私
ども組合といたしましては、以下述べますような
事項が着実に実施されるように経過を見ながら、本
法案の独走化には反対せざるを得ないのでございます。
第一に、労働者対策について。織布業あるいはメリヤス業を中心に、主として先ほ
ども申し上げましたような、産地における労働基準法の完全実施のための監督を強化すること、これはぜひ労働省とのタイ・アップで一そう進めていただきたいと思います。
二番目は、現行最賃法、特に業者間協定を中心としたような賃金統制に類するような現行最賃法は一刻も早く改正し、全産業全国一律に適用する法定最低賃金制の制定を進めていただきたい。同時に並行して
繊維産業における労使協定による産業別最低賃金制の実施についても十分な
措置をとっていただきたい。このようにして低賃金構造の打破をはからない限り、しかも、底辺部分において打破をはからない限り、
繊維産業における近代化というものは絵にかいたもちにひとしいと思うのであります。
三番目は、織布、メリヤス縫製業における家内労働の広範な動員の実態が、
繊維産業労働者の労働
条件向上の死錘になっております。たとえば私
どもが
中小企業で賃上げを要求しますと、会社のほうは生産を制限して、その部分を家内工業のほうに回す、そうして家内工業のほうはなかなか組織化が困難である、工場で働いている労働者よりもさらに一そう劣悪な
条件で放置されている。こういう点から
考えますと、家内労働法の早急な制定が、これもまた
繊維産業の近代化のために欠くことのできない
条件でございます。
四番目は、
国際競争力の強化を名目とする交代制の強化、たとえば自動連動装置による三交代の導入が前紡関係ですでに行なわれつつある。こういうふうになりますと、
国際競争力をとかく
至上命令にする繊維の資本は一段と三交代制を強化する。そうしますと、せっかく
過剰設備を
凍結しても、だんだん意味がなくなっていくのじゃないか。しかも、三交代制による労働密度の強化が一段と進められていく。そういうことによって、特に婦人年少労働者保護に関するILO八十九号条約の批准、さらにILO週四十時間労働制に関する
勧告への移行についても、
繊維産業の近代化の関連において十分検討していただきたいと思います。
次に
中小企業の対策でございますが、第一に、織布、染色整理メリヤス、縫製、撚糸業に対する近代化のための産業政策を早急に確立していただきたい。特に
設備近代化
資金の大幅
融資ワクの確保、それからその協同化、専業化の促進のための
金融、
税制上の具体的
措置をとっていただきたい。
二番目は、
中小下請け
企業に対する加工賃の大幅な引き上げと、手形決済
期限の短縮、あわせて最近の
金融引き締めからきているような黒字倒産などの実情にかんがみて、
中小企業の
資金調達の困難性から、銀行の両建て、歩積みについての廃止についても十分行政指導を加えていただきたいと思います。
さらに、大
企業が従来
中小企業が生産してきた分野に徐々に入り込んでくるというような形、傾向は非常に強くなっておりますので、
中小企業と大
企業との間の生産分野の調整
措置についても十分に
考えていただきたいと思います。
ついで、消費者の対策でございますが、
化合繊の
発展によっていろいろな種類の繊維原糸が、しかも質のいいものが安く供給できるという
体制については私
どもも賛成でございます。しかしながら、独占禁止法の穴あけに通ずるような各種産業政策の立法化というのはどうしても賛成できません。この際繊維工業
審議会の構成
委員にぜひ消費者代表として主婦、小売商、そういうものを加えて、できるだけ
国民経済的視野に立って、国民の衣料というものを十分
考えていただくような行政政策こそ望ましいと思います。そういう意味で、そういう消費者団体の関係者を多数参加させて、この人たちの
意見が十分反映するようにやっていただきたいし、さらに加うるに、
中小企業労働組合の代表もぜひこういう
審議会に参加させて、そしていろいろな
審議会、あるいは
法律できまって、その実施の
過程で、個別
企業の中で労使で角を突き合わす段階以前に、ぜひ国の産業政策、繊維の産業政策全体の中で、
中小企業労働者の意向を反映するような
措置を十分とっていただきたいと思います。
さらに、最後に付け加えて申し上げたいのは、従来の
審議会がこれが一番関連があるのですが、ある
業界筋と
当局のほうで、あらかじめどんどん話をこなしておいて、そしてあと組合とか、その他もし消費者代表が加えられるようなことがあっても、その
意見をただ聞きおくというようなことのないよう、十分留意されて、
審議会が民主的に運営されるよう切望してやみません。以上でございます。