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参考人(
笠原四郎君)
笠原でございます。突然のことでございまして、私ちっとも頭がまとまっておりませんし、
ポリオの生
ワクにつきまして、ごく概略のことを御
説明申し上げようと思います。
ポリオにつきましては、すでに皆さん十分の御
知識があると存じまするけれども、まあ一応簡単にお話申し上げたいと思います。
今度の
予防接種法の改正で、従来と申しますか、
ソークワクチンが使われておった、それを
セービンの生
ワクチンに切りかえるその
理由ははたして何であるかということを、私といたしまして、簡単に申し上げたいと思います。
大体
ポリオという、これは御
承知のとおり、
ポリオ病原体は
細菌でございませんで、例の
ウイルスというものでございます。
ビールス病の
予防ということにつきましては、一般的に申しますと、これは死んだ
ウイルス、つまり不
活性ウイルスよりも生きた
ウイルス、生
ワクチンがいいということは、これは常識でございます。早い話が例の
天然痘でございます。
天然痘は、現在のところ、不
活化ワクチンというものは無効でございます。
効力が少ない、ほとんど実用にならない。したがって、
天然痘におきましては生
ワクチンを使っておる。何であるか、これは植えぼうそう
——種痘でございます。
次に、
ポリオというものの
発病機転——病原体がどこから入ってどうして発病するかということを考えてみますと、これも御案内のように、
ポリオは
径口——口から入る、
つまり便、うんこですね、便の何がしかが口に入って、そして
感染——ちょうど赤痢と同じようでございます。したがいまして、その
ポリオウイルスを防ぐ。どこで防ぐかというと、これは明らかでございます。敵が海から上陸してくる場合、海岸で防ぐのが最も合理的でございます。したがいまして、
ポリオウイルスは口から胃を通って腸へきて、腸で初めて
粘膜を通って、やかましく言えば
リンパ管へ、それから腸管の
リンパ腺へくるわけでございますから、まず小腸の
粘膜で敵を押えるのが最も合理的でございます。
セービンワクチン——ポリオの生
ワクチンがすなわちそれであります。まず敵がくる第一歩で防ごう、そういうわけでございますね。
ソークワクチンはどうか、
ソークワクチンは
皮下注射でございます。つまり間接的でございます。
ソークのほうは
皮下注射いたしまして、そうしてその抗原によって身体に
血清抗体をつくらせるということでございますね。
つまり防御の武器は何であるかと言えば、これは
血清抗体でございます。生
ワクのほうは口から移す。やかましく言いますと、生
ウイルスがどうやって一般的に申しまして
病原の
ウイルスを防ぐかは、なかなかむずかしい問題でございますけれども、まあ私考えまするに、何と言っても
第一線の
腸粘膜細胞免疫ということになりますけれども、
細胞が
免疫になるということでございますね、それが第一次でございます。それから、腸の
粘膜から、先ほど申しました
腸間膜の
リンパ腺あたりが第二次の
防御線になるわけでございますね。
粘膜から
リンパ腺まではまだまだよろしいんです。腸の
リンパ腺を通って
血流へ入ってくると、いよいよ敵が入ってきたわけですね。そういうことになります。ですから、
ソークワクチンはそれからのことなんですよ。
第一線では防いでおらないということでございますから、学問的に言いましても、生
ワクのほうがはるかに合理的であるということになります。
次に、これまた一般的に申しまして、
ウイルスでも
細菌でも、
予防接種というものは
異物を
皮下なりに
注射するわけでございますね。そうして
抗体をつくらせる。簡単に申せば、これは
宿主——人間から言えば
異物になるわけでございます。したがって、すべての生体というものは、
異物が入ってくれば必ず外へ排せつする、不要のものを外に排せつするという能力があるものでございます。それは、ですからいろいろな場合がございますけれども、つばから出るとか、あるいは尿から出るとか、あるいはふん便から出すとか、あるいは汗から出すとかございますけれども、とにかく
異物なんです。したがって、たとい有効なものでありましても、早く体外に排せつされてしまう。ところが、生
ウイルスの場合では、先ほど申しましたように、
細胞なり
組織なりが
免疫になるのでございます。ですから
有効期間が長いということは、これは自明の理でございます。それが第二の
理由でございます。
次に、
注射と生
ワクチンを飲むのと、しかも、その
対象というのは幼い
子供である、お医者さんのところへ行けば
子供は泣く、
注射の針で刺されて痛いから。それよりも口からゆくと、しかも、そこに甘い砂糖の液が入っているという点で、まあ簡単に
投与できるという
利便がございます。
それから、次に、
ソークワクチンと
セービンワクチンを比べて、価格はどうかということは当然問題になります。これは
セービンワクチンのほうがはるかに安くできるということ、これまたそれぞれの
製造所をお調べになるとわかるところでございまして、
ソークワクチンのほうがはるかに高価につきます。
それから、先ほど
効力で
期間のことを申し上げました。それから、その安くつくということは、これはいろいろございまするけれども、
製造施設がりっぱであり、
製造技術がじょうずであるならば、まあこれは
セービンでも
ソークでも、
組織培養という
技術を使うのでございますけれども、非常に
力価——おわかりだと思いますけれども、
有効度、
ウイルスの力といいますか、量と申しますか、それが非常に高く出るのでございますね。実際
投与するときはそれを薄めます。
ソークの場合にはほとんど薄められないのですけれども、生
ワクの場合には薄められる。なぜならば、
病原体が生きているのですから、早い話が一匹でも二匹でも
——これはそういう
数字はわかりませんですけれども、非常に微量でも、さっき言った
腸粘膜からからだの中へ入れば、それがわんさと天文学的な
数字でふえるわけでございます。不
活化ワクチンではそういうことはない、殺しちゃっているわけですから、
ウイルスはふえないわけです。おわかりでございますね。希釈ができるということ、したがって、
ソークよりも安くできるということになりますね。そんならもう安いほうがいいことは、これはきまっているというわけでございます。まあ大体のところ、まだ少し漏らしているかもしれませんけれども、とにかく不
活化ワクチン——ソークワクチンよりも生
ワク——セービンワクチンのほうが
有効度が高くて
有効期間が長くて、しかも、安全である。まあ安全のほうは詳しく申し上げませんでしたけれども、安全で、もう絶対安全でございます。これは安全のことをちょっと申し上げますれば、この
日本で取り上げました
セービンワクチン、つまり
アメリカの
セービン博士が発明いたしました
ポリオの種
——株でございますね、これは現在まで発見されております弱毒生
ワクチン用
ポリオウイルスと申しますか、一番
セービンの種が安全なんでございます。で、ソビエトで使ったのは、
日本よりも一、二年ほど前に非常に多くの民衆に使ったわけでごさいますけれども、この種は何か、これはドクター・
セービンの種でございます。
日本の国産品と同じ種、それをちょっと詳しく申しますと、ドクター・
セービンという方は、これは
アメリカでございますけれども、ほんとうの由来はスラブ系なんでございます。それで、
アメリカでは、最初のころは
セービン博士の業績に対して非常に批判的だった。で、
セービン博士は、ぜひ自分の発明した弱毒
ウイルスの種につきまして大衆に野外実験をやってみたい。ところが、
アメリカで取り上げてくれない。したがって、ソビエトにまあコネクションができた。そうしてソ連あるいは共産圏内、チェコスロバキアで使ったわけですね。それで、その種はもちろん
セービン博士の種を送りまして、
セービンの指導のもとにソビエト人がつくったわけですね。
日本のものはどうか。これはやはりドクター・
セービンが、これは厚生省あたりにもいろいろお骨折り願ったのですけれども、
日本が使うのだがどうかと、
セービン博士に
日本のために種を送ってくれと交渉されたところが、
セービン博士は喜んで、パテントも何も要らぬということで、無償で分けてくだすったわけです。そして、そのつくり方につきましても、去年の六月でしたか、
日本での
セービンワクチンの
ポリオ生
ワクチンの
製造基準というものが告示されまして、その基準というものは、これは要するに大もとは
セービン博士の原稿がもとでWHOがこれを承認して、それを
日本の厚生省が、ほとんど大綱はちっとも変わっておらぬと思っております。ですから、結局ソビエトの使ったのと用いました
技術は全く同じわけです、
セービンが指導しているのですから。また、その
セービンの種を使い、
セービンの方法で使わなければ
セービンもおれの種はやらぬというので、一切の責任は
セービンが持つと言っておるわけですから、全然同じ種で、全然同じしかたでやっておる。
なお、ちょっとここで申し上げなければならないのは、ソビエトで使いました種は、
セービン博士が弱毒化
ウイルスを見つけてから間がない種でございまして、この種は弱毒化でありますが、少し不都合な
ウイルスが入っているのです。なぜかといいますと、代継ぎに使っておりますサルから迷入してくる
ウイルスSV40というサルの
ウイルスが含まれているのです。これは動物実験をやりますと発ガン性
——ガンをつくる危険性がある。そういった種をソビエトでは大衆に
投与したのですね。しかし、ソビエトによれば、何らの事故がないとはっきり言っておるわけです、一例も事故はないのだ。それで、三十六年に
厚生大臣の責任のもとにおいて大衆に飲まされたわけです。その種はソビエトから送られたわけです。その種にはSV40が入っておるのです。それで今度本年の四月一日にドクター・
セービンがI型、II型、III型のオリジナルのスタンをくれましたが、
セービン博士は、SV40が入っているのだから、これを除かなければいかぬと、除くにはこれこれの方法があるから、これを実施しなければいかぬ。したがいまして、
日本でつくりましたときには、
セービン博士の指示に従いましてSV40を完全に取っている。その
期間が約二カ月ぐらいたっておるのだけれども、取ったのはソビエトで使ったのよりも
日本で用いました
セービン博士の種はなおさらに純化している、完全な白砂糖になっておるという種でつくられたものである。したがって、厚生省あるいは
予防衛生
研究所が指示している種は完全に安全なもので、純化されたもので使われておるので、何らの危険性はないということを申し上げたいと思います。
まだ言い残したことがあると思いまするけれども、これで終わります。