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佐藤尚武君 一九五四年かのジュネーブ
協定でもって三国からの撤兵が
協定されたりなどしまして、三国の主権はほぼそれできまったように見えますけれ
ども、それであのジュネーブ
協定でさえも守られないで今日のような混乱を来たしておるのでありまして、これにつけ加えまして、いまの
中立問題などを持ち出して、そうしてこういう
情勢のもとで何がしかの
裏づけのない
中立制度をおこしらえになるなどということは、私としてはこれは非常に危険なことであって、したがって、
政府も十分にその点注意をされましてこれに対処されることが必要かと思うのでありまするが、いまの
外務大臣の御説明、御
同感のようでございますので、たいへん私はそれに満足を表するわけでございます。
私は、一九五九年のあの有名な
北京での浅沼声明がありました当時から、あるいは本会議の場所において、あるいは
委員会において、再三私自身の
考え方を述べておいたのは、
日本と
国民政府との
関係でございます。今度
フランスの
中共承認問題を中心としまして
国民政府との
関係もまた新たに見直さなければならぬというような状況に達しましたので、この機会にまた私の考えを申し述べまして、大臣のお考えを伺いたいと思うのでありますが、私の
考え方は、一九五九年当時から
一つも変わっていないのでございます。それは、何といいましても、あの終戦当時蒋介石総統のとったあの寛容な態度、そのおかげでもって、
日本人は軍隊を込めて少なくとも二百万人もの
人たちが無事に引き揚げてきたということは、これはたいしたことでなければならぬと思うのでありますが、私は、目の子勘定でおよそ二百万人の
日本人が引き揚げたというふうに
感じておりましたが、今度周鴻慶の問題で
国民政府側から
新聞に発表したところによりますと、やっぱし二百万と言っているようでございます。軍隊が百五十万、一般人が五十万、この合計二百万の
人たちが無事に
日本に帰れたではないかと言って
向こうからしっペい返しを受けてきたようなまずいいきさつがございましたが、それはきょうは論ずることを避けまして、ただ、二百万人もの
日本人があの際引き揚げることができたということを
指摘したいと思うのでございます。もしそうでなくして、スターリンがとったような態度を蒋介石総統があの当時とったとしましたならば、この二百万というものは
中国に残ったままで、そしてシベリアで抑留邦人の約半分が死んでしまったと同じように、二百万人の少なくとも半分の
人たちがあの外地
——中国でもって命を落としたというようなことになり得たでありましょうし、それなくして済んだということは、これはたいしたわれわれとしては恩義をこうむっておるわけでございます。それに、蒋介石総統は
日本に対しての賠償を放棄しておる。およそ今度の大東亜戦争でもって一番大きな損害を受けたのは、何といっても
中国に相違はございません。もし蒋介石総統があの際賠償を
——当然請求することのできた賠償を請求したとしたならば、それはインドネシア、ビルマ、シャム、フィリピン、あるいはマレーシア等に対して払っておる
日本の賠償の何十倍もの大きな損害賠償をしなければならないことになったろうと思うのでありますが、それを
日本は免除されておるということ、これはえらいことでなければなりません。その上に、
中国自身、あの終戦後
日本に
中国軍を進駐させることを拒否したということ、これもまた大きな結果をもたらした問題であります。そうしてまた、カイロ宣言のときでごさいましたろう、蒋介石総統は、
日本の終戦にあたって、天皇制を維持するということが、
日本の平和を維持するゆえんであるということを力説したということ、これもまたわれわれとしては忘れることのできない大きな
中国側から得たサービスでなければならないと思うのであります。そういうふうにして考えていきますというと、
日本としては、この蒋介石総統に負っているところの恩義というものを忘れることができないはずと思うのであります。これは、私は一九五九年以来、機会あるごとに主張してまいった点でございます。
ところが、一部の
考え方では、なるほどこうむった恩義は恩義だ。しかし、国としてのあり方からいうならば、その恩義ばかりに拘泥しているわけにいかない、現実の
情勢に従ってこの国の
方針をきめていかなければならないのだというような、そういう
議論があるということも御承知のとおりであります。しかし、そういうような
考え方に対しまして私は非常に反抗を感ずるのでありまして、恩義は単にこれを忘れてしまったというならば、まだ恩義を忘却したという汚名を着るだけでありますが、その上に、蒋介石
政権の最も苦痛とするところ、最も嫌悪している問題をとらえて、そうして
日本が平然とある手段をとるというようなことがありましたならば、それはまるで恩義を忘却するどころではない、恩をあだでもって返すということになるわけでありまして、それは
日本としてはたいへんなことだと思うのであります。蒋介石総統が最も忌みきらっている、そうしてまた最も苦痛を
感じている問題は何であるかといえば、
日本と
中共との
関係の改善、つまり、
承認問題ということでなければならぬと思うのであります。もし
日本がこの
フランスのしり馬に乗って
中共をこの際
承認するというところまでいくとしまするならば、これはまさにいま私が申しまするとおりに、恩をあだで返すということになると思うのでありまして、
日本としては十分に腹をきめてかからなければならぬ問題、つまり、そういう問題に対しては、慎重な態度をもって臨まなければならない問題だと私は思うのでございますが、大臣、この点もう一度お確かめくださればありがたいと思いますが、いかがでしょうか。