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川俣清音君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
森林基本法案について、その提案の
理由及び概要を御説明申し上げます。
現在
わが国の山林原野は、国土総面積の約六七%を占めております。これを有効かつ高度に開発することによりまして
国民経済の発展と
国民の福祉の増進に寄与することは、国の重要な債務であります。
ところが、現状をながめてみますと、山林原野の三分の一を占める国有林は特権的支配を受け、健全な経営が行なわれず、地元住民の利用が阻害されております。地方公共団体の所有する公有林は、地方財政窮迫のしわ寄せを受けて、過伐や乱伐におちいり、粗放な状態に放任されております。私有林はどうかといいますと、山林所有者の大部分は零細山持ちで、その過小経営と資本不足のためにその山林を有効に利用できず、他方少数の大山林地主は地元住民の利用から隔絶された大山林を独占しておりますが、多くの場合その経営がきわめて粗放かつ前近代的であります。すなわち、国有、公有、私有いずれの場合も、森林の所有権がすべてに優先して過度に重視され、その基盤の上にきわめて不適正な財産保持的な性格の濃い経営が行なわれております。このため林業生産の発展が妨げられ、木材需要の増大に対して供給が伴わず、木材価格が高騰し、しかもその価格の多くの部分が地代として山林所有者の不労所得に吸収され、他方では林業
労働者、山村農民、及び中小産業者の所得水準は著しい低水準に押えられております。山村における産業の発展が停滞し、山村と他の地域との
経済的格差がますます拡大している根本的な原因はここにあります。このような
事態を根本的に改めるため、森林に関する新しい政策の目標と原則を示すというのが、この
法律案の骨子であり、提案の
理由であります。
次に、その内容であります。
第一に、私どもは、国土は、
国民に与えられた天然の資源として、何人もこれを公共の利益に合致するように最高度に利用しなければならないという義務をになっておると確信するものであります。そこで、まず
全国土を科学的に調査し、合理的な土地利用区分と土地利用
計画を定めるべきであるというのが私どもの主張であります。このためには、国土高度利用促進法という
法律の立法化が必要となるわけであります。こうして、農業に利用すべき土地の区分と、林業に利用すべき土地の区分が明確になった上で、農業適地においてはわが党の農業基本法を実施し、林業適地においてはこの森林基本法を実施する、こうして国土の開発と高度利用を行なうということ、これがこの
法律案の前提となる根本理念であります。したがって、この根本理念を貫くためには、土地に関する所有権、利用権等の権利
関係にも、それに応じた改革を加えなければならないというのが私どもの
立場であります。
第二は、森林というものの機能をどう
考えるかということであります。森林の機能は、一つは国土を保全して災害を防止するとともに、さらに積極的に水源を涵養し、
国民の保健、福祉を増進することにあります。これを森林の公益的機能と呼ぶことができると
考えます。もう一つは、産業としての林業の生産力を高めて木材等の林産物の供給を安定的に拡大し、林業従事者の所得と
生活の向上をはかり、もって
国民経済に奉仕し貢献することにあります。これを森林の
経済的機能と呼ぶことができるでありましょう。この二つの機能はともに重要な機能でありますが、中でも前者の機能をまず十分に発揮せしめ、その前提の上に立って後者の機能をも十分に発揮せしめることが、この
法律案の目ざすところであります。この
法律案の第一条においてこの目標を
規定いたしております。最近自民党
政府の林業政策が、ややもすると森林の公益的機能を軽視し、
経済的機能だけを重視しようとする
傾向が顕著に見えることはまことに危険な
傾向といわなければなりません。
第三は、林政の
計画性の問題であります。ただいま申しました森林の公益的機能と
経済的機能を効果的に発揮せしめるには、国及び地方公共団体の行なう林政の施策が具体的にそれに即した事項に向けられなければなりません。これを
規定しているのが第二条、第三条、第四条であります。そして第五条では、
政府が、林政審議会の意見を聞いて、森林資源及び林業に関する長期の見通しを立て、これに即して十年を一期とする林政基本
計画を樹立し、
国会に
提出するということを
規定いたしております。第六条では
政府の実施した施策の結果の年次
報告、及び基本
計画に基づいて
政府がこれから講じようとする施策の年次
計画を作成して
国会へ
提出すべきことを
規定いたしております。
また、第十五条では、第五条の林政全般にわたる基本
計画とは別に、現在も行なわれている森林
計画制度を強化改善して、個別の森林の所有者または森林にかかる使用収益の権利を有する者の森林施策を森林
計画に基づかせることを
規定いたしておりますが、この場合も、各個別の林業者は森林の公益的機能と
経済的機能を十分に発揮させるように施業する
責任を負うことは当然のことであります。この
責任が効果的に果たされるように、第十五条第二項では、林業者、林業
労働者、地方公共団体の長、学識経験者の代表で構成する地域林業協議会を設けてその意見を十分に反映させるということを
規定しているのであります。
第四は、国有林のあり方であります。森林の二つの機能を効果的に発揮せしめるに際し、国有林の果たすべき役割り、任務が特に大きいことは申すまでもありません。そこで私どもの基本法案では、第八条から第十三条にわたって国有林野事業のあり方について
規定いたしております。
まず、第八条では、国有林の存在目的について
規定し、そして第九条では、この国有林の存在目的を果たすために国が経営することが必要な森林、あるいは国が経営することが適当な森林を国が買い入れて国有林に組み込むことを
規定いたしております。こうして国の林政の基幹となる国有林野を十分に確保しなければならないと
規定いたしたのであります。その反面、第十条では、国有林野事業の使命の達成に支障を及ぼさない範囲内において、地元の林業者の林業経営の規模拡大に資するよう、林業者の共同組織等に国有林野のうちの適当なところを民主的に使用させることを
規定いたしております。また第二十一条では、農牧林混合経営の発展を助長するため、国有林及び民有林のうちの農用経営地として適地である土地が、農林業者及びその共同組織によって取得あるいは使用収益権が設定できるようにするということを
規定いたしております。
次に、国有林野事業の経営に関することでありますが、私どもは、その経営が最も効率的かつ民主的に行なわれるように、国有林野事業は原則として直轄直営を基本とすることとし、そして国有林野事業に従事する
労働者の雇用の安定をはかるため、その常時雇用を促進することを
規定いたしております。これは第十一条、第十三条に
規定されております。また第十一条では、国有林野事業の民主的運営を促進するため民主的な審議機関を設置すると定めておりますが、これによって国有林の立木
処分等を含めて経営の民主化をはからなければならないという
考え方であります。第十二条では、国有林野特別会計制度の改善について
規定しております。これは企業的
業務と行政的
業務を勘定区分をして、企業的
業務については単年度制を基本としつつも、同時に会計の長期的弾力性を持たせ、この勘定において剰余金の生じた場合は、これを原則として国有林の資源培養のために還元していくという
考え方であります。行政的
業務の勘定については、国有林、民有林にわたる治山事業の勘定、民間林業の振興をはかる民間林業振興勘定、国有林所在市町村の振興事業の勘定等が必要になろうと思いますが、これらは公共負担の思想によって所要経費を
一般会計の資金によるべきだという
考え方であります。現状においては、民間林業への林政協力の経費をつくり出すため、国有林野事業で無理に剰余金をひねり出そうとして、国有林の乱伐や立木
処分がきわめて便宜的に操作されている
傾向が見られますが、これはこの際根本的に改めなければならないというのが私どものこの法案の
規定するところであります。以上が、国有林野事業についての私どもの
考え方の概要であります。
第五に、私どもの基本法案の中での重要な点は、林業生産を増大させ、しこうして林業経営の共同化を推進するということであります。これについては、第十五条で現行の森林
計画制度の強化改善について
規定いたしておりますが、すでに申し述べたので省略いたします。第十六条では林道の整備について
規定しておりますが、ここでは、林道は森林資源の開発はもとよりのこと、山村における交通
通信条件等の改善及び観光開発、産業開発等のためにもきわめて重要な役割りを果たすものであることは明らかなことでありますので、その意味におきまして、林道の開設、改良、管理等についてその費用の国の分担を明確にすべきだという
考え方に立っております。第十七条の造林の推進でありますが、ここでは、国の施策として造林の助成を強化するという
一般的施策だけに限らず、特に、地方公共団体の所有する林野及び私有林の水源涵養林に対し、国みずから官行造林を強力に実施するということを
規定いたしております。この場合は、現在森林開発公団が単なるトンネル機関として行なっている分収造林の
業務は廃止されることになるわけであります。第十九条では入り会い権の権利の近代化、第二十条では林業経営の共同化を
規定いたしております。
なお、本法の第二十一条の
規定に注目していただきたいと思うのであります。
わが国の山村地帯においては、農業、畜産業、林業は切り離せない相互
関係にあります。大部分の山村の農家は、農業をやっていると同時に他に畜産もやり、また少しばかり山林も経営いたしております。この三つを合わせて山村住民の生計が維持されておるのであります。そこで、この三つを有機的に組み合わせて農牧林混合経営を発展させることが、山村
経済の振興のためにどうしても必要であります。第二十一条では、この農牧林混合経営の発展の助長策として、国有林及び民有林の
いかんを問わず、土地利用区分によって農用地として適当ということに判定された林野は、これを地元民に取得させるよう、あるいは使用収益の権利を設定させるよう、国の施策を講ずるということに
規定いたしておるのであります。そうして、この農牧林混合経営もまた、できるだけ共同経営の形態をとれるように国の援助と
指導を強むべきであるということはもちろんであります。
第六に、私どもの基本法案の重点は、木材等の流通を合理化して、需要と価格を安定させることにあります。第二十四条では、国内産木材等の供給の円滑化をうたっていますが、この点では、この法案は特に国有林が一定の木材の蓄積を持って、需給の動向に応じ弾力的に市場に供給できる体制を考慮しているわけであります。また同じ第二十四条では、外国産木材等の輸入の
計画化及び調整をうたっていますが、これは国内需給の状況に応じ、あるいは外材輸入を促進し、あるいは外材輸入を制限する等、その
計画と調整の権限はあくまで国の手に確保し、また、これに伴い、港湾や貯木場の設備を
政府の
責任で整備すべきだという
考えであります。第二十五条では、木材等の流通につきまとう前近代的な商慣習を改善するというねらいから、公営の木材市場を整備するということを
規定いたし、それにあわせて、森林
組合、もしくは製材業者等の協同
組合の行なう購買、加工、販売の事業の発展改善をはかることを
規定いたしております。
第七に、私どもの基本法案は、林業従事者の福祉の向上と山村振興を大きな重点といたしております。これまで私の申し述べました各条項の説明でも明らかなように、いわばこの基本法案の全体を通じて、最終的目標は、林業従事者の地位を向上して山村地域の格差を根本的に解消するというところに置かれておるわけであります。具体的に申し上げますと、国有林野事業の経営、林道の整備、造林の推進と林業経営の共同化、農牧林混合経営の発展助長等についてこの基本法案が
規定いたしておる内容は、すべて林業従事者の福祉の向上と山村の地域住民の所得向上を目ざしているものにほかなりません。さらにこれに加えまして、最終的な確認の形におきまして、第二十六条で、林業
労働者の雇用の安定、労働条件の改善、労働
関係の近代化、
社会保障の拡充等のために国は必要な施策を講じなければならないと
規定いたしております。これは、現状におきまして、林業
労働者が他の産業の
労働者に比べ、労働行政、
社会保障行政の諸権利を受ける水準がきわめて立ちおくれております。これを国の
責任において大きく引き上げるという
趣旨であります。また第二十七条では、山村の
生活理境の整備のため、山村における交通
通信、衛生、文化等の環境整備、
生活改善の
措置を国が講ずべきことを
規定いたしております。こうして、林業従事者あるいは山村住民を人間として尊重し、その福祉を向上させるところに私どもの基本法案の
最大の目的があるのであります。
以上が、私どもの
森林基本法案のおもな内容であります。その他に、林業行政組織の整備、林業
関係団体の整備、あるいは林政審議会の設置等についての
規定もございますが、これは法案を御一読いただきますれば明らかなところでありますので、省略いたします。
以上、私どもの森林荒木法案の提案の
理由、そのおもなる内容について御説明申し上げた次第であります。何とぞ、槙重に御審議の上すみやかに可決決定あらんことをお願い申し上げ、私の
趣旨説明を終わります。(
拍手)
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林業基本法案(
内閣提出)及び森林
基本法案(
川俣清音君外十二名
提出)の
趣旨説明に対する質疑