○足鹿覺君 私は、ただいま趣
旨説明のありました
肥料価格安定等臨時措置法案について、
日本社会党を代表して、
池田総理をはじめ、農林、通産両
大臣及び公正取引委員長に対し、重要な数点にわたって質疑を行ないたいと思うものであります。(
拍手)
まず最初に、基本的な問題について
池田総理にお伺いいたしたいのでありますが、冒頭に特に申し上げておかなければならないことは、
昭和二十九年現行肥料二法が制定されて以来、とにもかくにも農民に対し低廉にして豊富な肥料を供給する面で果たしてきた役割りは、高く評価されなければならないのであります。
ところが、
政府、自民党は、かねてから肥料工業側の要請を取り入れて、一面においては肥料二法の廃止を策謀するともに、他面独禁法、輸出入取引法の改正等によってメーカーの利益を擁護しようとしてきたのでありますが、このような反農民的な立場をとることは、わが党をはじめ全国の農民の了承するところとならず、猛烈な反対運動の前にその野望はあえなくくつがえされて今日に至っておるのであります。(
拍手)
しかるところ、本年七月三十一日をもって肥料二法が失効するにあたり、現行肥料二法に基づく肥料審議会とは全く別に肥料懇談会なる諮問機関を設けて、
政府の意向に沿いやすい
人々を委員として審議させ、その答申を骨子として肥料新法がここに
提出されたわけでありますが、農民の立場に立つと、今回の新法は現行二法に比べて大幅に後退し、率直に言ってないよりはましとの疑問すらあると断ぜざるを得ないのであり、運用いかんによってはいたずらにざる法の数をふやすに終わってしまうおそれすらあると存ずるのであります。(
拍手)このことは、
政府の農業生産資材に対する政策がいかに真剣味を欠いているかを物語るものであり、
政府はもっと農村の
実情を謙虚に見詰め、大胆な政策を打ち出すべき段階でありましょう。
政府の農業基本法第二条は「農業資材の生産及び流通の合理化並びに価格の安定を図ること。」を国の施策として掲げておりますが、今回の新法がこの規定を受けて農業基本法の関連法として
提出されたとするならば、現行肥料二法にはるかに劣るお粗末なものといわざるを得ず、また、
総理が選挙中に公約した農業に対する革命的な施策の一つとして
提出したとするならば、あまりにも空虚な内容のない政策として、無定見のそしりを免れないと思うものでございます。(
拍手)
御承知のとおり、イギリス、西ドイツなどにおいては、肥料工業を輸出産業として育成するためのしわが国内農業に寄せられないようにするため、肥料購入費に対し多額の補助金を支出して、農業を保護することを忘れていないのでありますが、この際、
総理の総合的な農業生産資材政策の一環としての肥料政策及び輸出産業としての基本
方針を承っておきたいのであります。
いま一点、
総理にお伺いいたしますが、肥料新法の最も重要な点は、メーカーに対し価格カルテルを形成するための道を開こうというところにあるのであります。御存じのとおり、独禁法において容認される行為は、自然独占、合理化カルテル、不況カルテル等に限定さるべきであります。今回の肥料新法において価格カルテルそのものを容認しようとすることは、明らかに独禁法を骨抜きするものであり、
総理の言う物価引き下げとはまさに逆行するものといわねばなりません。しかもなおかつ、新法によって公然と開かれた価格カルテルへの道は、他産業に及ぶおそれなしとしないのであります。現在最も
総理の呻吟されている諸物価値上がりのさなかにあって、二法に守られた肥料は、
総理にとって唯一の睡眠剤ではなかったかと私は
考えるのでありますが、新法を見て、
総理が物価値下げの宗旨を変えられたといわざるを得ないのでありますが、この際、御
所信のほどを承っておきたいのであります。
次に、農林
大臣にお伺いいたします。
端的に言って、
政府は最近、政策としての肥料対策をはじめ、生産資材対策を軽視しておるのではないかと疑わざるを得ないのであります。一例を申しますならば、
政府は乳価値下げの中にあって、その基本をなすえさの値上げをもくろみ、
政府手持ちの輸入ふすま三十キロ当たり二十三円、専管ふすま同じく四十八円、大麦トン当たり五百三十円の大幅な値上げ案を策定したりして、全く農業基本法はほしいままに空文化されつつあるのであります。幸いえさの値上げは、農林水産委員会における決議とわれわれの追及にあって、これを断念したようでありますが、あらためてこの際、その
方針を言明していただきたいと思うのであります。
そこで、今回の肥料新法の対象について承りたいのであります。肥料の生産及び消費構造は、最近大きく変化し、農村における硫安の消費は大幅に減少し、尿素や高度化成が飛躍的に増加しておる
実情から見て、新法においては、これら尿素や高度化成についても、価格取りきめの対象とすべきであるにもかかわらず、硫安のみに限定したかかる部分的な構想をもってしては、需給
事情の変化に適応した真の肥料対策の価値はきわめて乏しいと
考えるが、尿素、高度化成等を対象にしなくてもよろしいのであるか、加えるのであるか、農林
大臣の
所信のほどを承っておきたいのであります。
次に、新法は、施行の日から五年以内に廃止することとなっておりますが、
政府は、この妥協の産物たるインスタント肥料法によって、当分の間需給または価格の動向を見守りつつ、五年後には農業基本法の体制に即応したよりよい肥料法を意欲的に考慮しておるのかどうか、この点もあわせてお聞きしておきたいと思います。
次に、この法案の最も重要な価格の取りきめについてお伺いをいたしたい。
新法は、現行二法の規定したパルクライン方式を廃止し、生産者と販売者の団体交渉によって価格をきめることとしております。しこうして、両者間の調整がつかない場合には
政府が調停に乗り出すこととしておりますが、このような方式で、はたして適正な価格がきまるでありましょうか。これと全く同じ
ケースであるさきの乳価の場合を見ましても、その結果はおのずから明らかといわねばなりません。すなわち、昨年十月全国的に四大乳業メーカーが一方的な乳価の値下げを通告し、これに憤激した酪農民は酪農振興法に基づく中央調停を申請したのでありますが、中央調停はおよそ二カ月間にわたって難航の末、酪農危機に対処するきめ手を持たず、きわめて不十分な結論を出し、その権威を失墜したのであります。
政府は、新法において歴史ある肥料審議会を廃止し、また、新法第二条において「
政府が価格取りきめを不適当と認める場合には、その取りきめの変更を命じ、または
締結を禁止する」と
政府の指示命令権を規定しておるが、もし当事者がこれを守らなかった場合の罰則すらもないのでありまして、かかる法神とその運用をもってして、はたして何をきめ手として公正な価格をきめられる所存であるか、承りたいし、とれに関連して、第三者を加えた仲裁裁定機関を設けるべきであるとも
考えられますが、その意思ありやいなや、農林
大臣の確固たる御
所信を承っておきたいのであります。(
拍手)
次に、通産
大臣にお伺いいたしたい。
現行肥料二法が制定されて以来、硫安工業の合理化、輸出産業としての育成という名目のもとに、今日まで硫安製造業者に対しては実に驚くべき
政府の手厚い保護がなされてきたのであります。すなわち、近くは
昭和三十八年、輸出赤字の
処理のために百三億円、体質改善合理化のために百六億円、合計二百九億円の政策融資が気前よく、無条件に決定されたことは、われわれのまだ耳新しいところであります。このほかにも、
昭和二十八年度から三十八年度までに百七十四億円の財政投融資、輸出売り掛け金の損金算入に際して講ぜられた租税特別
措置によるもの二十三億円、輸出売り掛け金に対する輸出所得控除によるもの九億円、尿素製造設備の特別償却による金利メリット約三億円等々、総計をいたしますと三百億円をこす巨額の減税と財政
措置がとられてきておるのであります。これによって、硫安各社は着々と肥料以外の部門を強化し、そのほとんどのメーカーが総合化学工業としてマンモス化し、廃ガス、廃液から生産されるコストの安い回収硫安、副生硫安も大幅に増加の傾向にあり、いまや総合化学産業において肥料部門は副業的存在と変わりつつあるのであります。しかも、これらの
政府保護はほとんど大手メーカーに集中し、このため、肥料工業間における格差は拡大しておるのであります。新法によってカルテル体制が許されるならば、この傾向に拍車をかけ、中小企業メーカーは系列化され、そこに働く労働者の首切りが行なわれるおそれが多分にありますが、
政府は、かかる弱小メーカーもりっぱに成り立ち、しかも肥料価格が下がるよう、零細メーカー及びその労働者の対策を真剣に
考えるべきであると思いますが、その対策ありやいなや、お伺いをいたしたいのであります。
第二点として、
政府は、マル公主義を廃止する前提として、外国の安い肥料を自由に輸入すればよいとして、本年十月から肥料の自由化をもくろんでおることは御承知のとおりでありますが、自由化によって国内価格が下がることはとうてい期待できないし、また期待すべきではないのであります。なぜかならば、ヨーロッパではEECを中心にナイトレックスが結成され、国際独占間の価格地盤協定を行なう機運が強まりつつあるし、またもしかりに自由化の結果、安い外国の肥料がどんどん入ってくることになるとしますならば、
政府は緊急関税を適用するのでありましょう。
政府は、自由化の効果をどう
考え、またそれにいかに対処せんとしておるのか、この際お聞きいたしておきたいと思うものであります。
第三に、さきに申し上げたとおり、肥料工業の合理化については数々の手厚い保護が講ぜられてきたにもかかわらず、その合理化の実態は今日に至るもなお明らかにされず、農民の強い批判を買っているところであります。すなわち、第一次合理化計画ではトン当たり硫安のコストを六十五ドルから五十ドルヘと十五ドル引き下げる目標であったものが五十七ドルにとどまったといい、第二次合理化計画は四十三ドルにまで引き下げる目標であるにもかかわらず、通産当局は依然として五十三ドル台だとメーカーの言い分をそのまま代弁して資料の
提出さえもしていないのであります。一説にはすでに合理化目標は達成されたという声もあり、事実本肥料年度に入ってから、メーカーは当初の九〇%の操業度を輸出好転によって九五%に引き上げておるのであります。一体三百億になんなんとする巨額の財政
措置やその他政策融資を講じたからには、当然合理化の経過なりその成果を通産当局は正しく把握すべきであると
考えるが、この際これを明らかにされることを強く通産
大臣に要求するものであります。
かりに百歩譲って、通産当局が言うが
ごとく、いまだに五十三ドル台であるとするならば、輸出が全生産量の四三%を与える現状からすれば、輸出赤字はさらに累積されるであろうことは言うをまちません。この輸出赤字を国内の消費者たる農民に転嫁しないという明確な保証はこの肥料新法のどこにもないのであって、現行二法の重要な点が骨抜きにされておるのであります。が、輸出赤字を国内に転嫁せずとの確約を、農林、通産両
大臣から統一
見解として明らかにしていただきたいと思うものであります。(
拍手)
次に、公正取引委員長に伺いたい。
肥料工業のみでなく、従来までも地下カルテル、管理価格が存在してきたことは周知の事実でありますが、今回の肥料新法は、従来の輸出カルテルに加えるに国内価格についても公々然と独禁法の適用除外の共同行為が可能となる道が開かれておるのでありまして、これはきわめて重大なことといわねばなりません。現行肥料二法のもとにあっては、需給計画の策定、これに基づく生産指示、調整保管指示等を
政府が行ない、また強力なコストの
調査権もあり、これによってメーカーの極端な操業短縮を防ぐことができたのでありますが、新法においては需給計画は単なる需給見通しということに変わり、この結果内需優先に名をかりた不当な操業短縮や生産、出荷調整が行なわれ、価格のつり上げが自由に行なわれる危険性が非常に濃いのであります。価格と操業度及び輸出を含む需給計画は表裏一体、不可分の関係にあるにもかかわらず、これをこと
ごとく取りはずしたその真意をわれわれは疑わざるを得ません。しかも、売り手と買い手が決定した適正価格よりも安い値段で売るメーカーがたまたまあったような場合には、逆にこれが不当な過当競争として制裁を加えられることも起こりかねないのでありますが、かりそめにもそのようなことありとするならば、公正取引委員会は事実上の管理価格を認め、結果的には弱い農民を取り締まるという独禁法の精神に根本的にそむくことに相なるわけでありまして、これに対する公正取引委員長の
見解と、独禁法の厳正な運用について御決意のほどを承りたいのであります。
そもそも、肥料とは、土地を肥やし農作物を育てるためにあるのでありますが、戦後、農民は、やせる思いで食糧増産のために高い肥やしを使い、精魂を込めて
国民食糧の確保にがんばり抜いてきたことを忘れてはなりません。われわれは、この農民の期待を裏切ることのなきよう、現行二法失効後の無法状態は許されないとの見地に立ち、慎重審議をもって当たることを申し上げ、私の
質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕