○松本七郎君 私は、
日本社会党を代表し、ただいまの
大平外務大臣の
日韓会談に関する
報告に対しまして、総理並びに
関係大臣に、以下数点にわたって
質疑を行ない、その所信をたださんとするものであります。(
拍手)
われわれは
日韓会談妥結へ向かっての最近の急速な動きに特に注目をいたすものであります。
両国農林大臣の
会談は一とんざを来たしたとは申せ、金鍾泌氏の来日を控えまして、
会談はいまやきわめて重要な最終段階を迎えようとしております。しかるに、
政府は、
妥結を目ざす今日の段階に至っても、なお
両国間の重要な
基本的諸問題について、明確な信念と方針を堂々と世間に訴え、そうして
国民の
理解と納得を得ようとの態度すらとることができずに、従来どおりのごまかしとおざなりの
報告に終始したことは、きわめて遺憾でございます。(
拍手)
まず第一に、
基本問題のうちの
基本ともいうべき
韓国政権の
支配の及ぶ範囲についてさえ、これまでわれわれを納得させるような説明や答弁は一度もなされておりません。
政府は、国会を通じまして、
韓国政権が三十八度線以南の限定
政権であるとの解釈をすでに明らかにしております。ただいまの
報告にもそのことは述べられました。これに対して
韓国側がどういう態度をとっておるか、ここに問題があると思うのです。
韓国側は、北
朝鮮も当然
韓国の管轄権内に入ると
主張しております。条約や協定の効力の及ぶ範囲にかかわるこのような重大な
基本点につきまして、
意見が対立しているままで協約が結ばれるならば、いかなる協約もそれは暴挙であり、陰謀と評するほかはないのであります。(
拍手)
この問題に関する去る二月二十五日の本
会議における山本幸一議員の質問に対しまして、池田首相は、
韓国側も了解している、こういうふうな答弁をして、さも限定
政権を
韓国側が認めていると受け取れるようなごまかしの答弁をしております。しかし、事実はそうではないのです。
韓国側は、
日本が限定
政権論をとり、したがって
両国の間に
意見の相違がある事実を了解しているにすぎないのです。現に去る十日、ソウルにおける
日本人記者団との会見におきまして、
韓国の
民主共和党議長である金鍾泌氏は、
国交正常化の方式は、共同宣言ではなく、
基本条約によりたい、管轄権については、北
朝鮮は当然
韓国の管轄権内に入る旨を言明し、そうして重ねて限定
政権論を否定しているのです。したがいまして、
日韓両国の将来に紛争の種を残さないためにも、この問題について、少なくとも
日本政府の
主張、すなわち、一九四八年第三回
国連総会の決議に述べてあるように、三十八年度線以南の部分における
選挙民の
意思に基づく限定
政権にすぎないということを
韓国側にはっきり認めさせることこそ、
日本政府の
基本的態度であるはずでございます。(
拍手)ところが、
韓国は、憲法においても北
朝鮮を管轄権下に含む旨を明記しているのであります。池田総理は、このような
立場に立っておる
韓国側に限定
政権を認めさせる確信があるのか、このことをはっきりさしていただきたい。その方式は、
基本条約に明記するのか、あるいは共同宣言または交換公文でやるつもりなのか、あわせてこの際明らかにされたいのであります。
第二に、
李ラインの撤廃問題でございます。
日韓の
漁業問題は、そもそも
国際法上の不法ラインである
李ラインの一方的設定によって生じたものであることは、
政府もしばしば言明してきたところでございます。ただいまの
報告にもございました。
日本政府は、これまでも
季ラインの撤廃が
漁業協定
締結の
前提であるといたしまして、その撤廃が可能であるかのごとく宣伝してきました。けさの参議院の外務委員会におきましても、
大平外務大臣はやはり再度この点を言明されておるのでございます。しかし、ここにもごまかしがあります。
日本国民の
関心事は、
李ラインという名称がなくなることではなく、これにかわるいかなる不法ラインによっても公海上における
日本人の権益が侵されないという保障を取りつけることにあるのです。(
拍手)
韓国は、言うところの平和ライン、すなわち
李ラインにかえて、国防ラインを存置しようといたしております。かかる
規制ラインの一方的存続は、将来必ずスパイ防止その他国防上の措置に名をかりて
日本漁船が不当な圧迫を受けることは、従来の
李ラインに徴しましても、火を見るより明らかであります。平和ラインを国防ラインと改称し、
李ラインを朴ラインに変えるだけのことです。しかるに
日本政府は、
漁業協定ができれば
李ラインは無害になるというような甘い観測を持って、またもや
韓国が不法にも一方的に設けようとしておる国防ラインを黙認しようとしています。もしも
日本政府が真に
会談の
妥結を望むのならば、従来からの公約どおり、
李ラインに類するいかなる
規制ラインの設定も許さぬという明文上の保障を取りつけるべきであります。池田総理にその
意思と成算ありや伺いたいのです。
また、
漁業交渉におきまして、しばしば専管水域十二海里説が伝えられました。
韓国側が十二海里説に歩み寄るということが、あたかも
韓国の大譲歩であるかのごとき印象を与えております。しかし、これは
日本漁業の利害に大きな影響を及ぼす問題でございます。専管水域十二海里及び直線基線は、やがて
日本の、アフリカ、沿海州、アリューシャン、カナダ、歯舞、色丹、あるいは国後、択捉等の水域における
漁業に影響をするものと思われます。なお、これと関連いたしまして伺っておきたいのは、第二回の国際海洋法
会議では、領海六海里、専管水域六海里案に
日本も賛成しております。これは、
日本政府がこれを
機会に従来の領海三海里説を捨てて、六海里に改めたものと了解してよいのかどうか。海洋国
日本としましては、これらの諸問題は、
世界各国と
日本漁業の利害
関係に響く重要問題でありますから、
政府の明確な確定解釈を伺っておきたいのです。
さらに、この際はっきりさしておきたいのは、済州島をめぐる基線の引き方であります。これは農相
会談でも
両国間の対立点となったように報ぜられておりますが、
日本政府としては、基線の設定にあたり、済州島を
朝鮮半島本土と切り離すという、この
原則をあくまで堅持するのかどうか、明らかにされたい。
第三は、竹島問題です。
この問題についても、
日本政府は以前から、
韓国の不法占領であるという
主張をなしてきました。いまの
報告にもそれがありました。したがって、
会談妥結の前に、
韓国側が不法占領を解くことが先決でございます。しかるに、大平外相の最近の言明では、
解決の方法さえ
両国間で一致すればよいという態度が見えております。これでは私は
解決の保障にはならないと思う。国際司法裁判所へ提訴するについて、
韓国側の応訴受諾が確約されるとでもいうのでしょうか。言うまでもなく、
日本政府がいかに強く提訴を
主張しましても、相手国の応諾がなければ
解決の糸口さえもつかむことはできないわけです。それとも、第三国の調停によって、必ず竹島の不法占領が撤去されるという見通しがついたとでもいうのでしょうか。大平外相の明快な説明を求めたい。
同時に、池田首相にもその所信をただしたい。それは、竹島問題を国際司法裁判所に提訴するとの
主張には
韓国側があくまで
反対するようでございますが、その場合に、第三国による調停案に譲歩する用意があるのかどうか。その場合、第三国とは一体どこをさすのか。かつてはマッカーサー・ラインやクラーク・ラインを設立し、いまでも現に
韓国並びに
日本に軍事基地を持っているアメリカに公平なるべき第三国としての資格があるでしょうか。国務長官が
両国に対し
会談の早期
妥結を慫慂したり、あるいは上
院議員が
日本大使を前に公然と憲法解釈論をぶったり、憲法改定要求まで出して、あたかも属領扱いにして平然としているようなアメリカを、公正なる第三国とは夢にも考えられない。
日本政府としては、アメリカにも第三国として調停依頼することがあり得るのかどうか。万一アメリカだとすれば、ドルの力をかりて竹島の
解決をはかろうとでもいうのでしょうか。第三国とはどこの国を想定しているのかを明らかにされたい。
次に、
会談の相手方である
韓国内の
実情、朴
政権の実体について、
政府ははたして正確な認識を持っているかどうか。ただいまの外務大臣の
報告も、いかにも形式的な上すべりの認識しか持っていないことがここに明らかにされたわけです。民政移管による民主
政府とは名ばかりである。昨年秋の総
選挙は、朴
軍事政権居すわりのまま、あらゆる不法干渉のもとに行なわれたと伝えられております。それにもかかわらず、朴大統領及びその与党たる
民主共和党が、過半数にはるかに及ばぬ三割程度の支持票しか得られなかったことは周知の事実であります。言語に絶する不法干渉や違反行為によって多数の
議席を占めただけの朴
政権が、どうして
韓国大多数の信任の上に立つといえましょうか。(
拍手)その地位の弱さをみずから知ればこそ、朴
政権は、昨年末からあらゆる術策を弄して野党の抱き込みと
国民世論の懐柔につとめてきております。超党派外交あるいは超党派議員団の派遣という放送が、
韓国の
政府・与党から幾たび流されたことでしょうか。しかも、ついに朴
政権の試みは失敗に帰し、
韓国内には
日韓会談に
反対する声がほうはいとして高まっています。池田首相は、朴
政権の甘い情報に踊らされて、何べん自民党総裁の名で
韓国与野党あての招待状を書き直しましたか。しかも結局は、
韓国野党は訪日議員団参加をボイコットし、来日したのは与党議員だけでした。不見識きわまる招待といわねぱなりません。訪日議員団への参加を拒否した
韓国の野党の議員たちは、いま全力をあげて
日韓会談反対の
国民運動を展開し、至るところの演説会場で予想以上の大衆を集め、気勢大いに上がっていると伝えられています。しかも、最近ひんぴんと伝えられる特派員の報道によりますと、
韓国内でも南北
朝鮮の
統一が公然と叫ばれ、従来になく
統一機運が高まっているといわれています。いまや
韓国内でも、
日韓会談の
妥結をあせる朴
政権は、ますます
韓国民大衆から浮き上がっております。このような
韓国の現実を
政府はどう見られるか。
われわれは、もとより、
韓国野党が
主張するような、
請求権二十七億ドルの要求あるいは
李ライン固守などに
同意するものではありません。しかし、
韓国野党の
主張が大多数の
韓国民の共感を呼び、朴
政権反対の世論を高めているという事実は、厳粛にこれを直視しなければなりません。
日本側に過去の対韓侵略に対する反省が欠けているということ、また、アメリカの要求や、財界の対韓進出の意欲と自民党内の親韓ロビーの突き上げのままに、
政府が朴
政権のてこ入れのため
会談妥結を強行しようとしている事実、このような現在の
会談のペースに対する
韓国民の痛烈な批判が反映されているのであります。この最も大切な点の認識が
政府に欠けているために、大野副総裁が親愛の情のつもりで述べた、朴大統領は私のむすこのようだという、この
ことばも意外な反発を招き、また、
請求権を引き当てにした
日本財界の先を競う
経済進出が、きびしい不信の念をもって迎えられていることになるのです。
現在
韓国では、小麦粉、砂糖、セメントの三つの粉の横流しによる不正取引事件、いわゆる三粉事件、及び
在日韓国人の財産持ち帰り、すなわち、いわゆる在日僑胞の財産投入を擬装した
日本商社の進出事件などをめぐる
政治資金の荒かせぎ問題が、
韓国の国会では国政監査要求の対象になるなどして、黒い疑惑として世論の攻撃にさらされています。かつてのセナラ自動車の事件にしろ、あるいはまた、伊藤忠の
朝鮮紡織会社への中古機械の売り込み事件にしろ、
韓国での疑惑事件は常に
日本との結びつきが問題になっています。首相はこれらの憂慮すべき
韓国内の事態をどのように判断されているのか。
さらにわれわれは、朴
政権の陰の実力者といわれる金鍾泌
民主共和党議長の行動に注目せざるを得ません。金氏は、一昨年の大平・金密約による
請求権問題解決の実績を誇り、いままた来日して、
政府と
政治的裏口取引をしようとしているといわれています。しかも、その金氏は、東京に直行せず、まず台湾に飛んで、蒋介石
国民政府総統と
会談し、次いで、戦火の絶えない南ベトナムに飛んで、硝煙を身につけたまま来日する予定といわれております。これは、池田首相が否定してやまない北太平洋軍事同盟——NEATO構想を身をもって体現している姿ではありませんか。この金外遊と時を同じくして、朴
政権の金聖恩国防長官は、公然と、NEATO結成、推進を語っているのであります。池田首相がいかに否定されましても、相手方の朴
政権はNEATO感覚まる出しで今後の外交を進めようとしているのです。まことに、現在のペースの
会談妥結は、危険きわまる軍事的かけごとであると断言せざるを得ません。(
拍手)
大平外相は、外務委員会での答弁では、しきりに、金鍾泌の来日が単なる個人の資格のものであって、
政府の関知せざるところであるやのポーズをとり、金氏との
会談に消極的態度を表明しておられました。しかるに、
韓国側では、農相
会談行き詰まりの打開を金鍾泌氏の訪日に期待しております。この重要段階において、
日本政府の首脳としては、
韓国政府代表でもない金氏と
会談して、再びやみ取引の疑惑を深めるがごときは、断じて避けるべきだと考えます。(
拍手)首相の明確な答弁を求めます。
以上、指摘しましたように、
国際法上の違反行為があいまいのままにごまかされ、
日本経済の進出が
韓国民の不信を深め、軍事的結合だけが強められるのでは、決してこれは
日韓両国民の
友好関係を将来にわたって打ち立てることはできないと
思います。むしろ禍根を深めるだけです。
国民の血税が特定の権力者だけを喜ばせ、一部業者をもうけさせながら、
双方の零細漁民の不満を買い、やがて
両国民間の友好を傷つけ、相互不信を増大させて平和の破壊に通ずるがごときは、断じて許すことはできません。(
拍手)かつて、
日本の保守
政権は、台湾の
国民政府を限定
政権と
規定しながら、大陸反抗に淡い期待を寄せ、
国民政府と深入りし過ぎたばかりに、今日中国とフランスの
関係が改善されたのを契機にして急速に
進展しようとしている
世界情勢についていくこともできず、立ち往生しているのが、あわれな
日本の姿であります。いまこそ、
日本の自主外交を確立する絶好の
機会だと
思います。内外の反動勢力や
韓国ロビーの突き上げに動揺して、性急な
日韓会談の
妥結をはかることは、過去の誤りを再び繰り返すことになります。これは
国民に対する重大な背信行為であることを、
政府はこの際銘記すべきであります。
首相はまた、山本幸一議員の質問に答えまして、山本君以上に南北
朝鮮の
統一を熱望している旨を答えております。それが首相の真意であるならば、
基本問題について完全
解決のめどの立たないような
日韓会談は直ちに打ち切るべきであり、せめて南北両
朝鮮と
日本との三者
会談を提唱して、
朝鮮の
統一に向かって一歩でも前進するよう
努力すべきであります。(
拍手)
もし
政府が、われわれの再三にわたるこの警告を無視して、
会談の
妥結を強行せんとするならば、批准はおろか、調印阻止の闘争が院の内外に巻き起こり、やがて池田
内閣打倒にまで高まるであろうことをここに宣言して、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕