○芳賀貢君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
赤城農林大臣より
説明のありました
昭和三十八
年度の農業年次
報告及び三十九
年度における
農業施策に関して、総理
大臣はじめ
関係大臣に貿問を行なわんとするものであります。
今回の年次
報告は、
農業基本法が制定されてから第三回目の
報告であります。すなわち、農業の動向については、
国民経済の現状、国際環境の変化等、内外の
経済情勢と
日本農業の立場を説き、現状分析についても、統計の資料等を有効に用いて解明につとめられたのでありますが、三十八
年度に講じた施策の
報告については、事務的
説明の域を脱せず、現状分析と政策実行との
関係において、
政府が講じた施策の成果と欠陥について的確な自己批判が行なわれていないこと、さらに、三十九
年度に講ずべき施策についても、これから立ち向かう
日本農業の進路について、基本的な姿勢が明らかにされていないことは、はなはだ遺憾とするところであります。(
拍手)
質問の第一は、農業の生産性と農業従事者の所得
格差の是正についてであります。
年次
報告においても、農業と他
産業との間において、生産性の
格差、所得の
格差、生活水準の
格差が依然として是正されない点が強調されております。すなわち、三十七
年度の
産業別実質
国民所得によれば、農業従事者一人当たりの所得は約十一万円であり、非農業従事者は、三・五倍の三十八万円となっております。したがって、農業の他
産業に対する比較生産性は二九%となり、所得倍増
計画の基準年次の比較生産性が三一%であるのに対して、一段と低下しておるのであります。これでは、
農業基本法に明示した
政府の施策が、倍増
計画を背景に三年を経過した今日、何らの成果をあげていないことになります、今日欧米の先進国において、農業と他
産業の生産性の比較をした場合において、三〇%以下という極端な事例を見ることはできないのであります。一体、
政府としては、と他
産業の
格差の是正について真剣に取り組んでとられたのでありましょうか。高度成長政策の所産として、農業と農民を日の当たらない
経済の谷間に追い落とすことは、
農業基本法の
精神に照らしても断じて許されない事態であります。この際、
政府が講じた施策の欠陥と見通しの誤りについて解明を願いたいのであります。同時に、三十九
年度において、農業と他
産業の生産性及び所得
格差の是正について、いかなる具体的施策を講ずるのであるか、総理及び
関係大臣から納得のいく
説明を願いたいのであります。
質問の第二は、兼業農家の激増と自立農家の育成についてであります。
政府の所程倍増
計画によれば、経営規模の
拡大をはかり、二町五反以上の自立経営農家を百万戸育成する目標であるが、今回の年次
報告は、自立農家百万戸の育成は、兼業化の進行にはばまれて、架空の目標になったと詠嘆しているのであります。農業就業人口は現在千二百六十万台となり、令就業人口の三八%に低下したが、農業人口の他
産業への大量な流出にもかかわらず、農家戸数は減少せず、ほとんどが兼業農家に移行しておる現状であります。すなわち、全国五百八十六万農家のうち、専業農家は二五%の百四十八万戸で、兼業農家は七五%の四百三十八万戸であり、しかも農外収入を主体とする三ちゃん農業が、全農家の四三%の二百四十万戸を数えるに至ったのであります。その結果、農業従事者の年齢別構成は、四十歳から六十五歳までが五五%を占めており、男女別の構成では、男子の四六%に対し、女子は五四%の割合であります。これをアメリカ及びイギリスにおける男女比較をとってみますと、男子九〇%、女子一〇%の就業の割合、さらにまた、イタリア及びフランスの男子七〇%、女子三〇%の就業割合に比較して、いかにわが国農業の就業構造が老齢化、婦女子化しておるか、
近代化に逆行する三ちゃん農業の実態が明らかであります。
池田総理は、かつて
農業基本法審議の際に、所得倍増
計画によって農業人口を他
産業に流出させ、小農階層の脱農を促進し、脱農者の農地の再配分によって二町五反以上の自立農家を百万戸育成すると言明されたのであるが、三ちゃん農業に対する総理の御認識について承りたいのであります。さらに、
池田内閣の高度成長政策が生んだ奇型児である兼業農家の激増に対し、
政府は自立農家育成の立場からどのように対処されるのか、この際、総理はじめ
関係大臣から施策の
方向を明確にされたいのであります。
質問の第三は、
日本農業の
発展をになう後継者の確保についてであります。
すなわち、三十八年三月の中学校卒業者の二百四十八万人から、高校進学者を除いた七十四万人の就業者のうち、農業に就業した者は、九%の六万四千人であります。さらに、高等学校卒業者では、九十七万八千人のうち、農業に就業した者は、二・七%の二万六千人であり、男子の二万人に対し、女子の農業就業者が全国でわずか六千人にすぎないことは、社会的にも注目すべき点であります。いかに兼業農家が激増したとはいえ、五百八十万の経営体に対して、新鋭な後継者が毎年九万人
程度では、まさに
日本農業の危機ともいうべきであります。総理は、昨年十二月十一
日本院において、赤路友藏議員の
質問に答え、私は、所得倍増
計画を立てたときから、農業従事者が四割くらい減ることを予測しておったと言明されたのであるが、農家の後継者が激減し、農業の
発展をになう青年が農村から姿を消すことを期待し、拱手傍観しておられたのか、総理の心境を承りたいのであります。(
拍手)農家にあと取りがない、農家に嫁さんが来ない、このような現象は、近代国家としてのまさに悲劇であります。
さらに、総理は、農業は民族の苗しろであると述べておるが、民族の苗しろは池田農政によってまさに枯死寸前の
状態であります。(
拍手)この際、
政府は完全雇用と最低賃金制度の確立をはかり、
産業分野における就業人口の適正配置を行ない、農業についても、後継者の確保と、
近代化のにない手となる人材の養成について重厚な施策を講ずべきと思うが、総理はじめ
関係大臣から責任ある答弁を願いたいのであります。
質問の第四は、貿易自由化に対処する保護政策の
方向についてであります。
わが国の貿易自由化率はすでに九二%に
引き上げられ、農畜産物についても、昨年八月の粗糖の自由化により、米麦等の国家管理品目を除いて九二%が自由化され、わが国農業は不可避的に自由化のあらしに立ち向かうことになったわけであります。三十七
年度の農業総生産額は、三十一−三十三年の平均を基準に、実質一四%の伸びを示したが、同じ期間に農畜産物の輸入は六六%もふえ、いまやわが国は世界的に農産物輸入国としての比重を高めているのであります。三十八
年度においても、小麦、大豆、砂糖、トウモロコシ等の輸入量は大幅に
増加し、特に家畜飼料については、畜産農業の
拡大に伴い、国内
需要の六〇%の四百六十万トンが動物用食料として輸入される見込みであります。
これに
関連して指摘したいのでありますが、
政府は、三十八
年度にアメリカのCCCから余剰農産物として動物用食料の脱脂粉乳八万五千トンを
日本学校給食会に輸入させ、これを全国の小学校、中学校に配給し、粉ミルクと称して給食させているのであります。アメリカではアニマル・フッドとして、すなわち動物用食料として製造された脱脂粉乳が、そのまま両国
政府の税関を通過して、
日本では人間の子供の学校給食に用いられている事実について、総理の御見解を明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
政府は、貿易の自由化が世界の大勢であると称してこれに没頭しているが、諸外国においては、それぞれ自国の農業
発展のために重厚な保護政策を講じて自由化に備えているのであります。たとえば、EECの共通農業政策にしても、自国の利益のために農業政策の基本理念が貫かれていることを知るべきであります。
池田内閣の高度成長政策を推進する
経済学者の中には、国際的に生産性の低い農業を保護するよりも、農業人口を他廃業に移動させて、米麦をはじめ、畜産物についても自由化で輸入すべきであると極論する向きもあるが、この際、
政府の農商物自由化に対する基本的な態度と、講ずべき保護政策について、総理の
所信を明らかにされたいのであります。
質問の第五は、
昭和三十九
年度に講ずべき
農業施策について、
政府の
所信をただしたいと思います。
第一に、生産対策については、
政府は生産と需給に関する長期の農業基本
計画を立て、
国民経済の要請にこたえて、自給度の向上を目ざし、生産
拡大の施策を講ずるとともに、国内農業を圧迫する要因を排除し、農畜産物の輸入は、
農業基本法第十三条の
趣旨に基づき、自由化を廃して、国の管理のもとに規制すべきであります。特に、畜産の振興に関しては、価格支持制度を
強化し、生産と消費の安定的
拡大と、国産牛乳による学校給食の全面
実施をはかり、飼料対策としては、飼料の価格及び需給の安定と草地造成
事業の
実施のため、すみやかに立法
措置を講ずべきであります。また、甘味資源の生産振興については、無謀な粗糖の自由化を取りやめ、甘味資源の生産振興とあわせて、砂糖類の需給及び価格の管理についても抜本的な制度の
実施が必要であります。
第二の構造対策については、現在
政府の進めている構造改善裏業の
程度では、農業
近代化の実効をあげることは不可能であります。この際、構造改善
事業の
実施に関する立法
措置を講じ、
事業規模を
拡大して、補助率を八〇%以上に
引き上げ、融資については、年利三分以内で長期の
政府資金を充当すべきであります。農地の流動化を進めて経営規模を
拡大し、自立農家を育成する道が後継者の不足と兼業農家の激増によってはばまれている今日、
政府は、この際、農業経営の共同化の促進に積極的な施策を講じ、宿命的な三ちゃん農業からの脱却をはかるべきであります。
第三の価格及び所得対策については、
現行の食管制度を堅持するとともに、米、麦以外の重要農産物や牛乳、畜肉等の価格支持については、生産費・所得補償方式を適用することとし、所得の向上と農業の生産力の
拡大発展をはかるべきであります。
第四の農業金融制度の改善については、
政府においても金融体系を
整備し、金利水準を四段階に是正する意向のようでありますが、たとえば欧米諸国の農業金融制度を見ましても、利率は三分以内で、据え置きは五年
程度、償還年限は三十五年ないし五十年が標準的なものであります。この
機会に、農業金融制度に革命的な
改正を加え、国の
財政措置とあわせて低利長期の資金を確保し、農業の
近代化促進の役割りを果たすべきであります。
最後に、第五は、以上の施策を
実施するために、
農業基本法第四条に規定する
政府の講ずる
財政措置についてであります。
政府が国会に
提出した三十九
年度の
一般会計予算は三兆二千五百五十四億円で、そのうち、農林
関係予算は三千三百六十億円であり、食管会計の繰り入れ千二十六億円を差し引くと二千三百三十五億円となり、総
予算に対してわずか七%の配分であります。
池田総理が唱える革命的農政を進めるためには、社会保障的性格の食管繰り入れ分を除いて、総
予算の一割以上の三千三百億円
程度は当然確保すべきであります。また、
財政投融資
計画につきましても、一兆三千四百億円のうち、農林
関係の配分は、七%の九百三十億円にすぎません。
財政投融資の原資が、郵便貯金、簡易保険、
国民年金等、
国民大衆の蓄積に依存している
実情にかんがみ、総額の一五%の二千億円
程度は当然農業
発展のために確保する
措置が必要であります。
以上、五項目にわたる重要施策の
実施について
政府の
所信を明らかにされたいのであります。
私は、つとめて
重点的に三十八
年度の年次
報告及び三十九
年度の
農業施策について
質問をいたしたのでありますが、総理
大臣からは農政の基本的な問題について、農林、大蔵、文部、労働各
大臣からはそれぞれ具体的な事項について責任ある答弁を求めて、私の
質問を終わるものであります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕