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高橋専門員 命によりまして、
東京地裁で行なわれております
不動産競売の
実情について去る五月一十五日
調査いたしました。その経過並びに結果を御報告申し上げます。
この種
競売をめぐる不祥
事件の
調査の御命令がございましたので、私たち
調査室の係員は、まず、この種事案の
実情がどうなっているかということを書面の土で知りたいと
考えまして、
関係法規を調べることはもちろん、去る
昭和三十二年当時における
東京地裁における
競売をめぐる各種の問題の
実情につきまして当時の
競売係
裁判官であられた鉅鹿義明並びに山本実一の両判事がジュリストその他の
法律雑誌に克明にその
状況を御報告になり、問題点を
指摘しておりますので、それらを調べた上で、
東京地裁に参りまして、その様子を見ると同時に閥係帳簿書類を
調査したのでございます。その
調査はまだ完結したわけではありませんが、今日までに
調査した結果得られた結論を先に申し上げますと、先ほど竹谷先生が御
指摘になりましたような、なれ合いの
競売事件とかあるいは鉅鹿判事なり山本判事が御
指摘になっておるような一部の
競売ブローカーないし
競売屋によりますところの
競売の妨害とか大がかりななれ合い
競売というような
不正事件は、私たちの目では認めることはできませんでした。しかしながら、
関係法規の面に照らしてはなはだどうかと思われるような二、三の実例を認めたのでございます。以下この点について申し上げたいと存じますが、なお、この
調査に関連しまして、
裁判所当局に資料の
作成方をお願いしたり、あるいは警察庁等に
調査をお願いした事項がございます。それらの資料のうちまだ回答が来ておらないものもありますので、それらの点は後日追完させていただきたいと存じます。したがいまして、これから申し上げます事項は、一応の中間報告にすぎません。さような意味でお聞き取りくだされば幸いと存じます。
競売につきまして、御
承知のように、
競売法や民事訴訟法の強行
執行編に種々のことが
規定されており、種々の見地から分類することができますけれ
ども、これを大別いたしまして、動産に対する
競売と不動産に対する
競売の二つに分けて考察を加えるのが相当であると
考えます。すなわち、
競売の目的物件による区別であります。もっとも、もう
一つその
根拠法規によりまして民事訴訟法に基づく
競売すなわち強制
競売と、
競売法に基づく
競売、すなわち任意
競売の二つに大別することもできるのでありますが、任意
競売におきましても、強制
競売におきましても、
競売のやり方はむしろ同じでございまして、それほどの特異性はなく、目的物件が動産であるか不動産であるかによって、
競売の手段方法が大きく違うと
考えられますので、以下この二つについて申し上げることといたしますが、いま便宜その特色の一、二を
指摘しますと、その第一は、動産の
競売におきましては、
競売の主体は
執行吏であり、
裁判所はほとんど関与することはありませんが、不動産の
競売の主体は
執行裁判所すなわち
裁判所であり、ただ、その
手続の一部を
執行吏に命じ
執行吏に行なわせているにすぎず、この点において両者の間には大きな相違があります。それからその第一は、
競落の時期の問題でありますが、動産につきましてはその場において即時
競落の決定されるに反しまして、不動産におきましては後日
裁判所が
競落許可の決定をすることによって
競落が決定することになります。したがいまして、
競売場における競買の申し出は単なる
競落希望価額の申し出、すなわち競買申し出の意思表示にすぎないということになります。その第三は、
競売手続が
執行される場所の点であります。動産の
競売は、原則として
競売の目的たる動産の所在地、すなわち
裁判所外で行なわれるのが原則でございますが、不動産の
競売は、
執行裁判所において行なうことが原則とされております。すなわち
裁判所構内の建物の中で行なわれるわけであります。その第四は、
競売価額の問題であります。
競売の価額につきましては、動産の場合にはいわゆる最低
競売価額、すなわち予定額はなく、競買希望者の任意の
競売の申し出によるわけでありますが、不動産におきましては、まず
競売の
手続としまして
裁判所が鑑定人をして目的物を鑑定させまして、その鑑定価額を最低
競売価額として、その上でせり上げの方法による
競売が行なわれるわけであります。もっとも競買の申し出がございませんと、
手続を中止いたしまして、次回にはその最低
競売価額を引き下げてさらに
競売を行なうことになっております。
なお、
競売における実際のやり方並びにその
根拠法規につきましては、お手元に差し上げました資料に書いておいたとおりでありますが、いまその概要について
説明申し上げますと、最初につづってございます「
有体動産、不動産の
競売手続の概要」という印刷物が強制
競売並びに任意
競売の
根拠法規とその
手続の
説明でございます。この
関係を理解しやすいように図面にしたものがその次の資料になるわけでございます。図面の符号についてはそれぞれ一応の
説明がつけ加えてありますので御参照いただきたいと存じます。
しからば
事件数はどれくらいあるかということが次の問題でありますが、それにつきましては、第三表の「
昭和三十七年度
不動産競売既済
事件の終局区分別件数表」というのがそれでございまして、そこには全国並びに
東京地裁、
大阪地裁に
係属した
事件の数字が示してあり、その
状況が明らかにされております。なお、
昭和三十七年度中に終結いたしました
事件のうちで
競売が何回目の
手続で終わったか、すなわち、第一回目の
競売で
競落までの一連の
手続が終わったかそれとも先ほど申し上げましたように競買の申し出人がないために最低
競売価額の引き下げを行なったかもし行なったとすればその回数如何ということを、回数を一回、二回、三回、四回、五回というふうに区分して示し、その
実情を明らかにしてあります。なお、引き続きまして、
昭和三十八年度における
有体動産に対する
強制執行事件の件数表が掲げてありますが、昨
昭和三十八年度における新受
事件数は、全国で十三万一千件余りになっております。
次は、問題の
競売ブローカー、
競売屋またはこれに結びつく暴力団員その他による
不正事件に関する資料でありますが、ここには二つのものを掲げております。その一は、今年四月九日
東京地方裁判所におきまして、
執行吏代理森山某外十六名の者に対しまして、贈
収賄事件、涜職
事件の
判決が行なわれましたので、その
判決の概要を摘記したものを掲記してございます。これはそのすべてが
有体動産の
競売にからんで便宜な取り扱いを受けたいという趣旨あるいは便宜な取り扱いを受けたという事後の
謝礼の趣旨におきまして、
執行吏あるいは
執行吏代理に贈賄したという贈
収賄事件でございます。
その二は、先ほど竹谷先生が御
指摘になりました「最近における
執行吏の
犯罪について」と題するものが掲げてございます。これは時間の
関係で詳しいことは省略させていただきたいと存じます。
以上によって資料の
説明を終わり、結論に入らせていただきますが、私たちがこれらの資料を見、また先ほど申し上げましたように
東京地裁の構内にございます
執行吏の役場と申しますか不動産の
競売が行なわれております現場に行ってみまして、まず概括的に次のことを発見看取したのであります。すなわち、五月二十五日朝十時ちょっと過ぎに参りますと、すでに相当数の者が室内あるいは屋外に参集しておりましたが、比較的平穏の
状態でございました。そこに集まっていた人の多くは
競売に関する仕事を商売にしていると思われるふうさい、態度の人のようでございますが、それ以外の方も見られます。すなわち、不動産ブローカーとかあるいは
競売ブローカー、不動産屋及びその事務員またはその
関係者のように見受けられました。次に、法規によりますと、
競売はせり上げの方法によることになっておりますので、
競売の
実施に当たっては当然数人の者から
事件の呼び上げにしたがいせりの声がかかるものと期待しておりましたのですが、現実にはそういう姿は
一つも見られませんでした。おそらく当事者間で何らかの話し合いをいたし、話をつけて
競売場に臨んだか、あるいは
競売場に参りまして、その
競売場の内外で
競売開始前に何らかの話をつけてしまったのではないかと思われたのでございます。と申しますのは、当日
競売が行なわれる予定表に書き出された
事件は十八件でありますが、うち三件その日になりまして取り下げられておりました。あとの
事件については、
競売が行なわれたのであります。十一時になりますと、
執行吏とその介助者が入ってまいりまして
競売手続を開始したのですが、
競売が始まりますと、相当多数の者がそれぞれグループをつくってぞろぞろと出ていったのであります。おそらくこれらは、もう
競売延期かまたは中止の話をつけたか何かで現実には
競売に参加する必要がないので帰るのだというように見受けられました。なお、当日
競売が行なわれた残りの十五件中、
競売が行なわれ落札までいったものはわずか四件で、その余の十一件は
競売の申出人がなく、
競売中止となりました。
いま申し上げましたような
事情から、私たちは次のような疑問点に到達したのでございます。と申しますのは、先ほど申し上げましたように、本来せり上げの方法であるべきこの
競売手続におきましては、当然競争者があればそれぞれ声をかけて最低
競売価額、すなわち
執行吏が最初に呼び上げた最低
競売価格をせり上げていくはずでございますが、当日落札になった
事件全部が、すべて参会した人の中の一人が、
執行吏の
事件の呼び上げ、最低
競売価額の告知と同時に、もう落札者の入るべき場所と定められております囲いの中に入りまして、係の者に保証金を積む
手続をし、競買の申出人は自分一人であって自分が落札者であるというような態度をとっているのであります。この競買申し出の保証金は、
法律によりまして、
競落価額、すなわち申し出価額の十分の一とされておりますから、たとえばある不動産につきまして百万円というのが最低
競売価額、ないし競買申し出価額であり、それ以上の申し出がなかったといたしますと、その者は申し出価額の一割を保証金として積まなければなりませんが、その十万円を納める場合には、
執行吏におきまして、他に競買の申出人がないので、その
競売手続が一応終了したことを確認し、その者が
競落人になったという合い図をして後初めて右の囲いの中に入るものと思われますにもかかわらず、すべての
事件において申出人が黙ってその囲いの中に入りまして、すぐに十万円の金を積む
手続をしていたのであります。この人たちは結局、ほかに
競落人すなわち競争相手がいない、自分だけが競買申出人であるということを確信し、これを前提としているような態度に思われたのでございます。そういうことが法規上はたして正しいものであるかどうか相当の疑問なきを得なかったのであります。
次は、そういう
競落人の席に入る人は、すべて非常に場なれがしておりまして、
競売屋または
競売ブローカーあるいは少なくともそういうことを商売にしていると思われる人のように見受けられたのでございます。私たちが
手続終了後係員に対し
競落人の
名前を聞きますと、この人たちはどうも係の人が顔なじみのようであるにもかかわらす、
債務者本人となっていたのでございます。すなわち、競買の申し出をした者は
依頼者本人の
名前を使っており、代理人であることの証拠がございませんでした。したがって、ほんとうにその揚に臨んで競買の申し出をした者は何人であるかということは記録上明らかになっていないように思われるのでございます。後に申し上げますように、私たちがあそこの常連と思われるような者の何人かを
関係帳簿書類から書き出してもらい、その者が、先日警察庁の係の方がこの
委員会において御報告になった例の暴力団員としてのリストに載っているかいないかということを調べていただこうと思いまして、一応昨年度中に二回以上競買人すなわち
競落人になった人を
指摘し書き出してもらったのでございますが、その一覧表によりますと、一番多いので二十一回、以下十八回、十五回、十回となり、それから二回というのが最低になっておりますが、この二回というのがはたしてほんとうの二回であるかそれとももっと多いのであるかということは、いま申し上げましたように、実際上はこの種
競売屋などが競買の申出人になっているにかかわらず、帳簿の面では
債務者本人名義になっている等の
理由によって、帳簿面にはその真の姿があらわれていないのではないかという疑問を持った事例が幾つかございます。
次は疑問の第三点としまして、
競売ブローカーと
執行吏との間における涜職
事件、すなわち
競売手続をめぐる幾つかの
事件によってかねて
承知しています事柄との関連におきまして、当日見た限りにおきましては、そういよううな露骨ななれ合いないしは不当な様子は見られませんでしたけれ
ども、今後さらにこの
調査を続けたい、こういうように
考えております。
なお、御参考までに申し上げておきたいことがございますが、それはこれらの
調査を通じまして、私たちは六十三人ほどの
競売関係者の
名前を知ることができたのでございます。昨年度におきまして二回以上
競落人になった者、あるいは
東京地裁に起きました
執行吏をめぐる
競売関係涜職
事件その他に名を出しておる者、それから
東京地裁管内において
有体動産の
競売に関与しております新霞会という古物商ないし
競売ブローカーの団体のメンバー等がそのおもなるものでございますが、そういうような人々の中に暴力団員がいるかどうか何らかの関連があるかどうかということでありますが、この点についてはまだ回答が来ていませんんが、それが来次第資料を
作成しまして、この報告の一部に加えたいということであります。御了承賜わりたいと存じます。
以上をもって報告を終わることといたします。