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1964-05-19 第46回国会 衆議院 法務委員会 第36号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十九年五月十九日(火曜日)    午前十時四十五分開議  出席委員    委員長 濱野 清吾君    理事 鍛冶 良作君 理事 唐澤 俊樹君    理事 細迫 兼光君 理事 横山 利秋君       上村千一郎君    大竹 太郎君       四宮 久吉君    寺島隆太郎君       中垣 國男君    中川 一郎君       古川 丈吉君    森下 元晴君       神近 市子君    山本 幸一君       竹谷源太郎君  出席政府委員         法務政務次官  天埜 良吉君         検     事         (民事局長)  平賀 健太君  委員外出席者         専  門  員 高橋 勝好君     ————————————— 本日の会議に付した案件  民事訴訟法の一部を改正する法律案内閣提出  第一三四号)(予)      ————◇—————
  2. 濱野清吾

    濱野委員長 これより会議を開きます。  民事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑に入ります。四宮君。
  3. 四宮久吉

    四宮委員 私が伺いたいことは、大臣にも伺いたいような問題もあるのですが、お見えになりませんから、一応局長からでもけっこうでございますから御意見を承っておきたいと思います。  この民事訴訟法手続に対する簡素化のために本法が提出されたということは、言うまでもなく、最近におきまする商取引の上に非常に手形不渡りが増加しておるということであります。もちろん手形不渡り原因についてはその内容はいろいろ千差万別であります。要するに、施策の上に及ばざるものがある結果、手形不渡りしなければならぬというような状況になる場合もあろうと思いますが、最近特に目立って社会の問題化しておることは、いわゆる親請業者下請業者との間において受けた手形不渡りが非常に多くなってきておるという点で、小さい中小企業者は結局黒字倒産をしなければならぬということが各方面に起こっておることは、私たちも非常に心配をしておる一人でございますが、この手続必要性については痛感しておるものであります。  この機会にお聞きしておきたいのですが、かつて大蔵大臣発言でありましたか、手形不渡りに対して刑事処罰方法をとるというような新聞記事が出ておりましたが、刑事処罰によって手形に対する信用を高めていきたい、また小切手に対する信用を高めていきたいというような発表があり、世間でもこの問題に対しては相当論議をいたしておりました。私も決して直ちに刑事処罰をすることを肯定するものではありませんが、いろいろこれに対しては論議もあることでありましょう。しかしながら、政府としては、今回はこの法案にも出ておりませんが、これに対してはどういう考え方を持ち、これを現在出す意思があるのかないのか、また将来においてそれに対する方法を考えているのかいないのかこういう点についてひとつ所見を伺っておきたいと思うのです。
  4. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仰せの、手形不渡りがありました場合に刑事罰を加えるという趣旨大蔵大臣発言があったということは、私ども新聞紙上で知っておるのでございますが、正式には私ども大蔵省からは何にも聞いておりません。法務省といたしましては、この問題も一応検討をいたしたのでございますが、何といいましても手形不渡りというものの本質は、これは債務不履行でございます。債務不履行にいきなり刑事罰を加えるということは、どうも根本的に問題があるのではないかというふうに考えるのでございます。なお、最近ただいま仰せのような手形不渡りが非常に多く発生しておるという原因は、現在の特殊な経済情勢によるところも多いようでございます。ことに一つ手形不渡りが出ますと、連鎖反応的に次々に不渡りが発生していくというような事情もございまして、これに刑事責任を問うということは非常に問題があるように思うのでございます。そういう関係をもちまして、一応そういう意見も出ておることでございますので、私どもといたしましても検討はいたしたのでございますが、直ちに刑事罰を持ってくることは適当でないというふうに考えております。
  5. 四宮久吉

    四宮委員 この手形訴訟簡素化については、かつてこの種の法律が出たのでありますが、これは裁判官が充実したとか、その他の方法で、決してどうも思うとおりの進行をしない。手形訴訟通常訴訟もあまり変わりがないというので、ついにこれが廃止のやむなきに至ったような事情もございますが、今回の場合を取り上げてみると、どういうところが特に提案者としての関係においてこれが敏速にできるという自信があられるのか、その点について一応伺いたい。
  6. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仰せのとおり、旧民事訴訟法におきましては手形訴訟制度はあったわけでございます。それは大正十五年の改正廃止になりましたが、大正十五年に改正されて、昭和四年から施行されました新民事訴訟法運用によって十分この手形関係訴訟促進目的を達し得るのではないかという考えが根本であったように思うのでございます。それから、そのほかに旧民事訴訟法で定められておりました手形訴訟制度がかなり複雑な制度でございまして、そういう関係もありまして、旧民訴手形訴訟制度をやめても新民訴運用によって十分訴訟促進の実をあげることができるということで廃止になったわけでございますが、その後の運用実情を見ますと、必ずしも当初所期しておったとおりにはいかなかったのでございます。ことに最近になりまして、経済界その他から、やはり旧民訴にあったような手形訴訟制度をもう一度つくって、旧法の制度に若干の修正を加えた新しい手形訴訟制度をつくって訴訟促進をやってもらいたいという要望が強くなりまして、私ども検討いたしまして今回の案ということになったわけでございますが、旧民訴手形訴訟一つの欠陥とされておりました手続の複雑さというものを極力今回は簡素化いたしまして、すっきりした制度に改めたのでございます。それから手形訴訟根本は何と申しましても証拠制限にあるわけでございます。証人尋問なんかは認めないわけでございますが、その証拠制限によりまして、手形事件につきましてはほんとうに簡易迅速に判決を得る道がこれで開かれるというふうに考えておりまして、今度の案が実施に移されますれば十分成果をあげることができるというふうに考えております。
  7. 四宮久吉

    四宮委員 そこで伺っておきたいのですが、手形の中にも、もちろん取引代金友払いにでも使えるような一般商業手形、それから金融手形あるいは融通手形、こういう種類のものがあります。商業手形はその大きな目的はここにある。ところが融通手形となってきますと、これは臨時にひとつ運用をつけるのだが、手形をちょっと貸してくれというので、お互いに簡単に商人仲間自分立場をつくるとかいろいろなために、決してそれを金融する目的ではないのだということで、最近ではたくさんそういうものを出される場合が各所に起こっているのです。私たちも現に訴訟をやっているうちに、よそにちょっと貸したのだが、はからずもほかに転々して、それが訴訟になって非常に迷惑がかかっているような問題もある。それから金融手形も、有数な財閥の手形であれば別ですけれども一般中小企業者手形なんというものは、ほとんど高利貸にでも頼むよりほかに方法がないような状況が多いのでして、それが中小企業者のいわゆる金融の一番の素地でありますが、こういう場合において、法律とすればそれを特に別個な扱いをすることができまいか。こういう融通手形であるとか、金融手形であるとかいう問題に対しては、どういう考え方をされておるのですか、その点についての御意見を伺いたい。
  8. 平賀健太

    平賀政府委員 手形につきましては、ただいま仰せのように原因関係から、あるいは商業手形でございますとか、金融手形でございますとか、融通手形でございますとかいうことが言われておるわけでございますが、この法律のたてまえといたしましては、そういう手形につきましても一様にこの新しい制度の適用があるわけでございます。ただ、直接の当事者間でございますと、あるいは利息制限違反の問題がございます。あるいは人的抗弁の問題というようなことで解決がつくわけでございますけれども、この手形訴訟で参りますと、証拠制限がございます関係で書証のみが証拠でございますので、そういう原因関係の立証ということがなかなか困難ではないか。でありますから、そういう手形につきましても、請求を受けますと、一応やはり手形の成立を認めるということになりますと、そういう債務者が敗訴するという可能性が非常に多いわけでございます。ただ、この法律ではそういう場合には異議申し立てをすることができるようになっておりまして、その敗訴者のほうから異議申し立てをいたしますと、今度はもう証拠制限のない通常訴訟手続訴訟は当然移行することになりますので、そこで債務者としては十分立証するということができるようになるわけでございます。仰せのようなそういう特殊なケースがあることは私どもも重々承知いたしておるのでございますが、そういうものだけを別扱いにするということはなかなかできませんので、やはり一様にこの制度に服するけれども、その保護の手段には欠けることはないというふうに考えております。  それから、なお申し上げておきたいと思いますのは、現在の手形関係事件裁判所における実情でございますが、全事件の約九五%が原告勝訴でございます。あるいは融通手形であるとか、金融手形であるとか、いろいろの人的抗弁その他の抗弁がなされておりますが、裁判所で現在の通常訴訟手続で審理いたしました結果、結局そういう抗弁は成り立たないということで原告勝訴になったのが九五%という現在の実情でございます。そういう関係から申しましても、すべての手形につきましてこの制度が一応かぶるといたしましても、債務者の利益を非常に害するということにはならぬであろうというふうに考えておる次第でございます。
  9. 四宮久吉

    四宮委員 そこで、この手形取引に対する関係で、取引のない銀行によく振り出し等をする場合、取引がない、あるいは預金がない、あるいは預金不足というような手形現状があります。こういうものに対して一体普通の手形と同じような取り扱いでなく、もう少し簡便な考え方はないものですか。
  10. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま預金不足取引がないという点、これは小切手法におきまして一応罰則があるわけでございます。この罰則も五千円以下の過料ということで、これは現状で五千円以下というようなことでいいかどうかという問題もあると思うのでございます。それは今後の課題といたしまして小切手法改正に対する問題もあると思うのでございますけれども訴訟手続関係で、そういう手形あるいは小切手につきまして、特別の取り扱いをするということは、いかがなものであろうか。そういうことはやはり証拠調べをして初めてわかることでございまして、手形自体としては、それが融通しております間はわからぬわけでございます。満期になって支払い拒絶になれば別でございますが、それまでは普通の手形として流通しているわけでございます。その手形を取得している人としては、そういうことを全然知らずに手形を取得しておる場合があるわけでございます。訴訟手続関係で特別の取り扱いをするということは、これは適当でないというように思うのでございます。
  11. 四宮久吉

    四宮委員 ところが、この手形流通を確保するためには、いわゆるすみやかなる訴訟を進行させようという制度考え方でいけば、こういう点にまで私は心を注ぐ必要があるのではないかと思うのです。民事訴訟法だけ改正したら、あとはどうでもいいというような考え方でなく、もう少しあらゆる面に検討を加えて、できるだけこれを防止するという対策を考える必要があるのではないかというふうに思うのです。この点についてどういう……。
  12. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仰せのように、銀行取引がない、あるいは資金がない、資金が不足するというような事情不渡りになった場合は、ただいま申し上げましたように、小切手については一応罰則がございますが、そのほかに、これは現在手形交換所におけるところの交換規則の中で、御承知のような不渡り処分がある。不渡り処分による取引停止処分というものがあるわけでございます。この取引停止処分といいますと、もう全部の銀行から取引を断わられる。全くこれはストップでございます。それが非常に手痛い制度なのでございます。この不渡り処分、これも根本的に検討する必要もあろうかと思うのでございますが、これは実質的には非常に痛い制裁になっておるわけでございます。そういう関係をもちまして、民事訴訟手続関係で特別の手続をするという必要はないのではないか、さらに、そういう特別のことをいたしますことは、必ずしも適当ではないというふうに私ども考えておる次第でございます。
  13. 四宮久吉

    四宮委員 しかし、訴訟法改正目的というものは、こういう不渡り手形を多く出さないようにしようということが最終の目的であろうと思う。ただ単にこの訴訟だけ早く進行して処理をすればあとは知らないというような考え方あとはどうでもいいんだというようなねらいでは、これは私はまことに遺憾だと思う。しかし、小切手法制裁がありますが、手形にだって一流銀行をかりに支払い場所としますと、ここはこういうところと取引があるのだという、考え方によれば一つ詐欺という手段になるまじき関係になるけれども、これも紙一重の状況詐欺にもならぬ場合もあると思うのです。自分取引関係がない場合に、一流銀行支払い場所としてやるということ、こういう行為でやることが手形行為自体に対する非常に信用を傷つけることになる。こういう問題もつけ加えて、いわゆる全般的な立場で、いかに防ぐかという方法にまで心を注がなければ、単に訴訟だけ早く進めたら、民事訴訟だけ進めればあとはわれ関せずえんというような考え方に立ってこの法規を制定することは、私はあまり粗雑な考え方ではなかろうか、こう考えるのですが、どんなものですか。
  14. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいまの仰せ非常にごもっともだとも思うのでございますが、民事訴訟としましては、やはり手形債権のすみやかな実現ということを考えればいいのでございます。ただいま仰せのような事由手形不渡りになりました場合の措置としては、先ほど御意見のございました罰則の問題として考えていくべきではないか、これは先ほどの小切手法罰則五千円以下の過料というようなことでいいかどうかということは非常に問題で、なおこれは今後の課題として検討いたしたいと思うのでございますが、やはり罰則の問題として、大蔵大臣が言われたと伝えられております刑事罰の問題とも関連するわけでございますが、これはなお慎重に検討する必要があるのではないか。
  15. 四宮久吉

    四宮委員 そこで私の聞きたいことは、要は全般的にこれを処理するのは、ひとり刑罰規定でなくてもできる方法もあると思う。かりに不渡りになるとすれば、それはもう金銭的には一応手形交換所取引停止はもちろんでありますが、それになるまでの段階というのは相当手形を乱発してあると見なければならぬ。それが最後の一つのひっかかりの問題ではないと思う。そこでその間にいろいろ工作をして、不渡りになって、その結果に対するいろいろな工作がめぐらされると思う。そういう場合に、その手形を保護するとすれば、民事訴訟法手続でもできないことはある程度ないではないかと思う。これをすみやかにするのには、かりに仮処分、仮差し押えの処置について最高の便宜をはかって、そういう不渡り預金不足付せんがついてきたとか、取引がないという付せんがついてきたとか、銀行からそういう特殊なものまでがついてきたものに対しては仮処分に対して、仮差し押えに対して、非常な便宜を与えるような処置をとれば、とにかく仮差し押えには三分の一の金を積まなければならぬ。片方は入る金が入らぬで困っておるのだから、入らない金で困っておるところへ保証金を積まなければ、しかも三分の一の保証金を積まなければ仮差し押えができないというような手続になってくれば、なかなかこれはその間に、訴訟といえば訴訟の間隔が一カ月とか一カ月とかいう時日が経過しなければならない。こうなれば相手方財産処理なんかも非常に有利に処理されてしまって、あと処置がつかぬ場合も多くできるのではないか。こういう点に対してあなた方は考えられたことがあるかないか。これをやることがどうかという点についての御意見を承っておきたいと思います。
  16. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仮差し押えの問題が出たのでございますが、非常にごもっともでございまして、仮差し押えの制度につきましては、特に今回は改正いたしておりませんけれども、これは現行法で十分まかなえるのではないかというふうに考えておるわけでございます。担保の点も裁判所の裁量にまかされておりまして、そういうただいま仰せのような事由でもって手形不渡りになったその手形金、あるいは遡求権の行使による請求権を保全するための仮差し押えということになりますと、裁判所におきましても当然担保を積ませるかどうか、その担保額をどれだけにするかということは考慮されるであろうと思うわけであります。運用で十分まかなえるのではないか。御承知のとおり収差し押えでいきますと、差し押えの対象になっております財産換価まではいけないわけでございますので、すぐこの手形訴訟を起こしまして簡易な手続でもって判決をもらう。これが要件で、原則として無担保の仮執行宣言をつけなければならぬということになっておりますので、すぐ本執行に移れる、換価もできるということになるわけでございまして、ただいま御指摘の点につきましては現行法運用並びに今回の改正されました手続によりましてスムーズに事を運ぶことができるというふうに考えておるわけでございます。
  17. 四宮久吉

    四宮委員 それはあなた方の考え方であって、それではお聞きしたいのですが、一体訴訟を提起して仮差し押えの処分を受けるまでの期間というのはどのくらいかかる計算をもってこれを提案されたのですか。
  18. 平賀健太

    平賀政府委員 手形訴訟につきましては先生も御経験がおありと思うのでございますが、欠席判決が非常に多いのでございますす。現在も欠席判決が非常に多実いのでございまして、手形訴訟制度ができましてもやはりそういうケースが相当出てくるのではないか。現在の実情を申し上げますと、大体手形事件の三、四〇%あるいはもっと多いかもしれぬと思うのでございますが、欠席判決で簡単に処理されておるわけでございます。これは非常に早く済むわけで、手形訴訟になりましても、やはりそういう筋の事件欠席判決で簡単に片づくだろうと思うのでございます。ところが、欠席判決でなくて対席判決でやります場合でも、大体二回くらい口頭弁論を開いたならば片づくのではないか。そうしますと、これは実際運用してみなければ何とも申せませんけれども、大体三カ月くらいあったら判決ということになるのではなかろうかというふうに私ども考えておるのであります。
  19. 四宮久吉

    四宮委員 そこなんですよ。裁判所とすれば、半年以上に解決できる手続が相当あるということも調査で大体わかっていますが、三月、半年という月日がこの商業上における立場に、裁判所においては楽に三月だの半年だので片がついたとすれば、われわれ弁護士で、事件取り扱いとしてはいかにもすみやかな処理ができたというけれども、日本の経済の実態から考えて、十日、二十日を争う現状において、とにかく訴状の提起、送達までが一月、それから期日がきまってきて、判決を受けて十四日間の控訴期間とかいうようなことで、これについては仮執行のなにがありますが、こういう手ぬるい方法では現在の手形ほんとうに守るという趣旨には私は縁遠いと思うのです。それだからおそらくは手形訴訟なんといっても、起こすのはごく一小部分です。手形訴訟でも相当な大金になり、相手方にも相当の財産があり信用があるというものは訴訟を起こしますが、金額の少ないもの、ことに下請なんかの中小企業者は、訴訟を起こすのは、あっちこっち飛び回って金を使っておったのでは、これではとても処理がつかぬというような場合が多くの実例で、私は訴訟をやって相談にいきますが、そんなんなら訴訟を起こさぬで、最低一カ月以上かからなければできないと言ったら、そんなことをやっておったのでは、そんな心配をしておったのでは自分がかえって迷惑するから、訴訟を起こさずに、こんなものはほっといて他のものを少し考えなければしかたがないというような現状、そういうふうな姿がいまの経済状態なんです。だから、一日を争うことがどのくらい商人にとって生命であるかということも、場合によっては相当大きな実例なんです。これは二カ月三カ月かかったらそれはできるぞ、しかしそれも仮差し押えしてみて、それから競売ですよ。仮差し押えの命令が出て、競売だ、競売でそれがあるかないかというような処理で、おそらくはそれまでには、なかなか配当要求競売してもなかなか手に入ることは少ない。それでもう少し手形法のことについて心配し考慮されるなら、そういう特殊な特例のあるものに対して、裁判所においてとにかく無担保またはその保証の限度を五分とかわずかの金額でもってこれが処理できるような道を講じて、すぐ時を移さずやるということによって初めて効果が生ずる。一月三月と簡単に言いますけれども商人立場になってみれば一月二月の長い期間というものはとても想像がつかない。その間の心配、苦労というものは、訴訟を起こせばどのくらい関係者は苦労するかということを考えると、もう少し突き進んだ考え方に立って保護する道を考えなければいかぬ。とにかくもう不渡りになるようになっておるのは、必ず各所不渡り手形が相当出ているのです。自分財産以上出ている場合がある。それはそのうちが確実なうちであっても、まず債権債務がパーくらいで、大体はそれ以上のもので、取るものは何割という程度のものだったりという現状なんです。それに期間をかけて三月も幾月も、差し押えをしてその金が入るまでには、どんなにしたって半年近くの間がなければ金が入ってこないというような現状にあるのだから、一応この仮差し押え方法をもうちょっとすみやかにして、そうしてぱっとやったらその処置がつくようにすることによって反省をさせて、あとのそういう乱発のなにを防ぐ方法もあるし、その処理法再生方法もある。だんだん長ければ長いほど再生機会を失うというのが現状なんです。こういう点はもう少し考えてみたことがおありになるかどうか。
  20. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仰せの点につきましては、先ほどもお答え申し上げましたように一応私どもとしても考えたのでございます。ただ仮差し押えの段階におきましては、先ほど先生仰せのような資金不足、あるいは取引がないとか、そういうことで不渡りになりましても、これは非常にレア・ケースではございますが、やはり手形偽造でございますとか、偽造手形であるというようなケースもやはりあるわけでございまして、仮差し押えの段階でも、あまりに強硬な手っとり早い手段を使いますと、これはもう本執行と同じような結果になってしまうわけでございます。そこはやはりちょっと行き過ぎではないかというふうに私どもとしては考えるわけでございます。そういう関係で、仮差し押えの段階では、特に手形事件だからといって別に安易な道は開かない。ただ判決手続関係では、他の事件に比べましてできる限りすみやかに本判決が得られるように、これでは職権で原則として無担保の仮執行宣言をして本執行に移せるようにするということで十分ではなかろうかと思うのでございます。なお、先生のお話では、現在の強制執行手続も必ずしもてきぱきといかないという仰せでございます。これも非常にごもっともでございます。この点につきましては、また別途強制執行手続改正を行なう必要がございますので、法制審議会におきましても現在検討中なのでございます。私も、新しい制度ができたからといって、これで万事解決というわけではございませんが、強制執行手続改正の場合には、仮差し押え、仮処分検討の対象にしなくちゃならぬところでございますので、ただいま御意見の点もなお十分考慮いたしまして、改正検討してみたいというふうに考えておる次第でございます。
  21. 四宮久吉

    四宮委員 民事局長、どうもその手形偽造等がある場合は云々という御説明ですが、仮差し押えの制度は現在あるのですよ。保証金を積めば仮差し押えはいつだってできるのだから。その保証金の額が大きいためにできないだけなんです。いま言ように、それが偽造であるかどうかというので仮差し押えを認めてやっておるのだから、その点について、私はそういう心配はないと思う。ただ金を積まされるということが、自分に入るべき金が入らぬで、その上三分の一の保証金を積ますとか、二割の保証を積ますとか、とにかくばく大な金を積まなければ差し押えができない。そればかりではなしに、それに伴う執行の弁護士の費用もかかりましょう。訴訟手続の費用もかかりましょう。そんな費用と苦労とをかけてやらなければならぬということになると、中小企業者はとてもそういうことに耐え得られない現状にあるのだ。そうでしょう。わずかの下請をやって、その収入をもって他の支払いに充てるという状況にある場合に、相手方が損害を受けて請求されたような人であれば、無理なことはすまいが、それはどうも出せぬというようなものに対して、私は保証を積まさず仮差し押えをするくらいのことは民事訴訟手続でできる範囲である。決していま民事局長が言うような、それに偽造手形云々という問題はなかろうと思うのです。現在法制上保証さえ積めれば仮差し押えができるのだから、それをあたかも、それがために偽造であるかないかは裁判したらわかるので、仮差し押えは直ちにそれを競売して物を処理するわけではない。保全の手続だけなんです。だから、それに対する保証くらいはできない道はなかろうと思う。ただ保証金の問題がかかってどうかという点なんです。入金すべき金が入らぬで、まだその上どろぼうに追い銭で金を出してやらなければ、保証金を積まなければならぬという、そんな金があるのだったら、もう少しほかの仕事に活用をしたほうがいいというのが現在の商人考え方なんです。それらに対してもう少し深刻な考え方を持っていただきたいと思います。御意見を承りたい。
  22. 平賀健太

    平賀政府委員 仮差し押えの制度につきましては、仰せのような問題があることは確かに私ども承知いたしております。しかしながら仮差し押えは、その仮差し押えの原因を疎明しなければならない。疎明しない場合でも、担保を積めば仮差し押えができる手形がございますので、疎明は簡単だろうと思うのでございます。ですから、裁判所運用によりまして、これは積ませる担保の額について十分裁量権を行使することができるだろうと思うのでございます。ただ、しかしながらこの担保を積むのが困難だという仰せでございます。これはひとり手形事件に関することだけじゃないのでございまして、仮差し押えの段階におきましては、はたしてその者が権利者かどうかということがはっきりしない段階において出されるものでございます。そういう関係でございますので、不渡り手形であるからといって、必ず無担保で仮差し押えを許すということは行き過ぎじゃないかと思うのでございます。今回の制度におきましても、手形訴訟判決の場合には、職権で原則として無担保の仮執行宣言をつけるということにいたしておりますけれども、それでも無担保はやはり原則なのでございまして「口頭弁論その他の事情から見まして、やはり一まつの不安があるという場合には、裁判所の裁量で担保を積ませるという道がつけてあるわけでございます。先生仰せのように、一律に無担保で仮抑えを許すということは行き過ぎではないかというふうに私も考える次第でございます。
  23. 四宮久吉

    四宮委員 そこなんです。それが偽造手形ということもありましょう。そういういろいろな問題がありましょうから、そういう場合は仮差し押えで、裁判所が心証ができなければ本人を」審尋をしてその手形についてなにする、そういう道を講ずる方法もある。だけれども、これだけの簡易な方法で無担保で仮執行をつけようというのです。これはあと済度の問題だけなんです。審尋はその限度ができないんだから、もし何だったら本人、手形の所持人を審尋するという考えに立てば、これができないという方法もなかろうと思う。それだから、もしそれによって相手方も損害を受ければ、損害賠償の方式で損害賠償の訴訟を起こせる。相手方にもしそれだけの、不法に仮差し押えをやった場合に、それによって生じた損害は賠償責任が生じてくるのだから、ただ保証金を積んでおくか積んでおかないかだけの問題にかかる。積んであるといえば簡単に取れるというだけの問題であって、相手方は、不法な仮差し押えがあった場合には、それに基づいて生じた損害に賠償の方法があるんだから、これだけの法律をつくって現在の不渡り手形を守っていこうという精神に徹するなら、そのくらいの方法は私は考えられないことはないと思う。それがために賠償責任を免れるということなら別であるけれども、賠償責任はやはり法律上存在するのだから、その点についてのなにができ得るものだと私は考えておりますが、どうです。
  24. 平賀健太

    平賀政府委員 どうも見解の相違ということになりまして、私どもの考えに御納得いただけないので残念でございますが、ただいま仮差し押えの問題につきましては、審尋とかいうようなお話もございましたが、これは御承知のとおり、仮差し押えというのは、ぱっとやるところに意義があるのでございまして、債務者を審尋なんかしていたら目的を達しない。疎明書類として手形の写しが出てくる。それに基づいてさっとやるところに意味があるのでございます。先ほど高利貸しの金融手形というようなお話もございましたが、仮差し押えの段階までも手形が非常にものをいう、強い力を発揮するということになりますと、やはり私どもとしましては、高利貸しなんかによる乱用ということも考えなくてはならぬわけでございます。現存のたてまえとしましては、先ほども申し上げましたように、手形事件の九五%が原告が勝訴という形で片づいておると申しますのも、これは通常訴訟手続で十分証拠調べをしてやる事件でございますから、まあ大体間違いのない事件だけが裁判所にきておると思われるのでございます。ところがそういうふうに仮差し押えの段階までも非常に強力なものになるということになりますと、これは何でも手形をとっておくに限るということで、いわゆる高利貸しなんかにもそれが盛んに使われるというふうな事態も私どもやはり考えておかなくてはならぬわけでございます。まあ、そういうような考慮もございまして、やはり仮差し押えの段階におきましては、これは仮差し押えの請求原因の疎明があれば、裁判所の裁量でもって無担保の仮差し押えもできるたてまえになっておるわけでございます。そういう関係で、これは裁判所運用にまかされるということで十分ではなかろうか。  それからなお、先ほどもちょっと触れましたように強制執行制度、この仮差し押え、仮処分制度も含めましたこの強制執行の強制執行権の改正につきましては、法制審議会において目下検討中でございまして、まだ結論が実は出ておらぬのでございます。その検討の際には、ただいま先生仰せのような御意見も十分考慮に入れまして改正案の立案をしたいと考えておる次第でございます。
  25. 四宮久吉

    四宮委員 それじゃ承っておきたいが、手形訴訟で仮差し押えに担保を積まずに許した実例というのはどのくらい東京の裁判所にありますか。私は一ぺんも経験がない。何百件やったって、いままでの経験じゃ一ぺんもない。
  26. 平賀健太

    平賀政府委員 それは現在の訴訟手続のたてまえで運用されておるので、私もこれは統計がどういうふうになっておるかということは裁判所になお照会いたしてみますけれども、大多数の事件がやはり担保を積ませておると思います。無担保というのはほとんどないと思います。また、無担保は相当危険であると思うのでございます。
  27. 四宮久吉

    四宮委員 無担保が危険と言うが、とにかくもう仮差し押え、それじゃ仮執行も危険なんだ、同じ理論からいくというと。ただ、訴訟だけを認めるか認めぬか、手形も振り出しをさえ認めれば問題がない。それだから、これはやはり債権ならいわゆる手形所持人にその取得の原因を聞けば、これはもう大体の模様がわかるのだ。高利貸しで金を借りてこの手形をとったんだ、そういうような状況によってそれぞれわかるんだが、とにかく商業取引である場合は、そういうようなのをもう少し簡素にする考え方をしなければ、訴訟手続でどんなにお急ぎになっても、きょう不渡りになって、それから弁護士に頼みに行って、弁護士がそれじゃ仮差し押えをやるというまでに、どんなにしたって一週間や十日かかる。きょう行ったからきょうやるという、なかなかそうは簡単な手続にいかない。それからまた順次進んで、訴訟をそれじゃ起こす。期日がきまってくるまでの間、東京の裁判所なんか期日をきめるのでも半月というのはとても早い方で、うっかりすると一月くらいかかる、手形訴訟でも。前の手形訴訟法のあった時代でもそうなんだ。そのくらいにかかる。一月くらいかかる。それから期日がきまってくる。その間約二月くらい。これはまあお説のとおり一回か二回で片がついています。手形訴訟だから、通常訴訟と異なり早く結審するという形で片づいていることは事実でありますけれども、しかし、現実の商取引現状というものはそういうゆるやかなものでないという見地に立って、もう少しこれを早く処理すれば、その財産処理がうまく運営つくような機会を得られることがあるのです。だんだんずらせばずらすほど、もう再生の道がなくなるし、債権者に対して、いわゆる手形所持人に対する回収の道もだんだん日がたつに従って閉ざされてくる。これを瞬間的に処理するというところに私は妙味があると思う。こういう点をもう少し十分検討を加えていただくことが、私はいまの場合非常に——これだけに訴訟の進行を進めるのなら、仮差し押えの方法法律上許されておる方法なんだ、担保を積めばできるんだから、できない道じゃない。ただ、保証の金が、どろぼうに追い銭の金というものは、商人としてはなかなか出しにくい金である。そんなことをやっているうちには間に合わなくなって、結局、それじゃひとつどこかで金の算段をしてきて仮差し押えをしなければならぬというような、またそれがために上塗りの苦労を中小商工業者にさせなければならぬというのが現状であることについては、もう少し考え方を十分検討を加えていただきたい、こう思います。  それからもう一つ聞きたいことは、この訴訟は、手形所持人の住所地で訴訟する方法はつかないものですか。
  28. 平賀健太

    平賀政府委員 所持人の住所地で訴えを起こせるようにという御意見でございますが、この手形債務者としましては、いかなる所持人が出てくるか、それが転々流通しまして、いかなる所持人の手に渡るかということは全然予測がつかないわけでございますその住所地にいきなりということになりますと、これはやはり手形上の義務者の立場というものも考えなくてはならないと思います。そういう関係で、経済界の一部からはそういう要望もございましたけれども、それはどうもやはり不当であろう、これは旧民訴あるいはドイツ民訴もそうなっておりますが、手形に記載された支払い地を管轄裁判所に加えるということで十分ではないかということで、手形所持人の住所地の管轄ということは認めなことにいたしたわけでございます。
  29. 四宮久吉

    四宮委員 これはまあ現在、手形訴訟の場合、裏書人だけを相手とする訴訟の場合、いわゆる遡求権というのがある。この問題のときに非常に不便な場合があるのですね、現在の訴訟手続では。これはほんとうにわれわれも苦労したことがある。裏書人だけを——どうせなら一緒に起こすというのが通例ですけれども、裏書人だけを相手どってやる場合もできてくるのです。そういう場合の訴訟手続が、現在の法規上にはちょっと不便な点が多いと思います。これについては何か考えられたことがありますか。
  30. 平賀健太

    平賀政府委員 なるほど裏書人が裏書きをし被裏書人が所持人である場合、所持人が遡求権を行使しまして裏書人に請求するという場合には、いわゆる当事者間の関係で、被裏書人の住所はわかっておるので、その場合には、その所持人の住所でその裏書人が訴えられもやむを得ないとも考えられるのでございますけれども、その裏書人の前者なんかは全然予期しないところに引っぱり込まれることになるわけでございます。それから被裏書人がさらに裏書きをしてほかの場所に住所を持った者が所持人になるということもやっぱりあるわけでございます。どうも所持人の住所で訴えを起せるというのは、やはりこのたてまえとしてちょっとおかしいのじゃないかと思うのでございます。まあ民訴の管轄の大原則、被告の普通裁判籍所在地の裁判所という大原則からいいましても、フェアプレーという大原則からいきましても、所狩人の住所ですべての手形の義務者を引っぱり込めるということになりましてはどうも不当だろうと思うのでございます。行き過ぎではないかと思うのでございます。
  31. 四宮久吉

    四宮委員 現実の問題としては、ずいぶん不便があるんです。われわれもそういうような場合にぶつかったことが何度かあるのですが、向こうの手形振り出し人はもうやむを得ないが、その裏書人がけしからぬのだ、これでやってくれという場合があるのです。そういうような場合、ほんとうをいえば詐取に近いような段階におけるなにがある場合にずいぶん私はぶつかったことがあるが、そのときに、どうも現在の法制の手続上のその住所地で起こすということは、非常な不便が起こってくる場合が多いので、これは何とか東京なら東京で訴訟ができぬかというような場合が往々に、手形支払い地が東京になっている場合、そういう場合の起こってくる場合が多いのです。そういう問題も、非常に現在のなにとしては、私らの経験した問題として、ひとつ将来に検討の材料にしていただきたいと思うのです。
  32. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仰せの点、手形の被裏書人が所持人として裏書人に請求するという、そういう場合だけでありましたら、その裏書きの際に、裏書人と被裏書人との間で管轄の合意をしておくということ、これは可能であろうと思うのでございます。管轄の合意をいたしまして、どこの裁判所ということを、その場合に被裏書人の住所地の裁判所を管轄裁判所とするということで合意をするということは可能だろうと思うのでございます。
  33. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いまのは、手形訴訟だったら専属管轄でしょう。専属管轄は訴訟手続だけかな。
  34. 平賀健太

    平賀政府委員 これは専属管轄ではございません。
  35. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 訴訟手続は専属管轄と書いてあるね。それは訴訟手続だけですか。
  36. 平賀健太

    平賀政府委員 訴訟手続だけでございます。
  37. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうも先ほどから聞いておりまして、手形手形といってもいろいろのことがあると思うのです。だから、その場合を特に考えてみる必要があると思います。その一番聞きたいのは、手形の形をしておりながら手形でないものがありはせぬか。その一番大きなのは、先ほどあなたが言われたから思い出したのですが、偽造手形です。偽造すれば、それは書いてある振出人はほんとうの振出人でないのですから、振出人がないのと同様だと思うのです、そうすると、これは形は手形であるけれどもほんとう手形の要件を備えておらぬと解釈すべきではないかと思うのだが、いかがでしょう。
  38. 平賀健太

    平賀政府委員 これは手形法の実体の問題だと思いますけれども手形厳正ともいっておりますとおり、手形法小切手法でそれぞれの厳格な要件を定めておりまして、その有効要件を欠いておりますればこれは無効の手形だ。そういうものでありましても、一応手形訴訟によりまして手形金請求ということができますけれども、要するに原告のほうがその請求権を立証できないということで、訴訟としては敗訴になるということになるのだろうと思うのでございます。
  39. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そういうことよりか、手形について特に考うべきことがある。つまり所持人を保護する意味において考えるべきことがないかという議論が出たから言うと、いまの偽造の場合は、手形の形はしているけれども、正式の手形の要件を欠いておるから手形ではない。その次は支払い場所ですが、でたらめの支払い場所を書いてあったとすれば、これはやはり支払い場所のないものと同じですから、手形としての要件を欠いておる、こう見るべきものではないかと思うが、いかがでしょう。
  40. 平賀健太

    平賀政府委員 たとえば先ほどお話が出ました全然取引も何もない銀行などを支払い場所にしておる。これでも手形はもちろん有効でございますが、ただ支払い拒絶になるというだけのことだろうと思うのでございます。ところが、全然架空の場所を手形の支払い地として、日本にも、世界のどこにもないような場所を書いたという場合に、これは一体どうなるか。これは手形法の実体法の問題でございまして、そういう場合にはあるいはその手形は無効ということになろうかと思うのでございます。
  41. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そこで、さっきあなたのほうで言われたからなにだが、でたらめのところを書けばそれは手形の要件を欠いておるから無効の手形だ、そこで三井銀行と書きましょう。しかし三井銀行と何の関係もないのですよ。でたらめと同じですよ。三井銀行というものはありますよ。三井銀行というものはあるけれども、振出人と何の関係もないものを書いたら、でたらめを書いたと同じことだと思うのです。それでもやはり有効ですか。それは有効ということよりか、実質的にさようなものは有効なる手形の振り出しをしたものとは認められぬと見ていいのじゃないかと思うのですが、いかがですか。
  42. 平賀健太

    平賀政府委員 実質的には、ただいま仰せのようにそういう手形は必ず支払いの拒絶で不渡りになるわけでございます。実質的には無効の手形を振り出した、価値のない手形を振り出した、そういう言い方もできると思うのでございますが、しかし、手形法の問題としてはあくまで有効な手形ということになるわけで、その手形の振出人でございますが、裏書人は、不渡りになりまして遡求権を行使されますと、手形金の支払いの義務を負うわけでございます。実体的にやはり義務が生ずるわけでございますので、法律的にはやはり有効な手形というふうに言わなくちゃならないと思うのでございます。
  43. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それじゃもう一つ聞きましょう。解約された銀行小切手帳を持っておって小切手を出したら、それでも有効でございますか。
  44. 平賀健太

    平賀政府委員 これも、経済的にはほとんど価値がないということで実質的に無効だというような言い方もできましょうが、法律的にはやはり有効な小切手小切手の形式的要件を備えております以上は、それは有効な小切手と言わざるを得ないと思うのでございます。そのために、当然それは不渡りになるわけでございますが、小切手の振出人はやはり責任を負わなくちゃならない法律上の義務が発生するわけでございまして、有効な小切手ということになると思うのでございます。
  45. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いや、振出人が責任を負わねばならぬことは、それはわかっていますが、それは小切手としての責任であるのか、そういうものを出して何らかの対価を得ているからそれで負うのかという問題になってくる。小切手じゃないのですよ、実際に。銀行から行使を停止されておるのですからね。それを悪用するのですからね。私はなぜそういうことを聞くかといいますと、もし手形不渡りの場合に刑事責任を負わせたらどうかというときに、何といっても債務不履行なのだからと言われたが、同じ債務不履行でも、有効なる手形を振り出して不履行になる場合と、いま言う実質上手形でないものを出している場合は、初めからもう不履行になることはきまっておるのですから、これはたいへん違うと思うのです。そこまで考えてくると、そういうものだけは何か特別の法でこれを防止するということを考えてしかるべきものじゃないか、こう思ったから聞いたのですが、それはいかがです。
  46. 平賀健太

    平賀政府委員 仰せの点よくわかりました。現行法でいきますと、私、刑事局ではございませんが、そういう場合には詐欺罪ということが考えられるわけで、現行法の規定といたしましては詐欺ということに相なろうかと思うのでございます。外国の立法——アメリカのある州なんかの立法は、被告のほうに挙証責任を負わせまして、一応犯意があったと推定して、それに刑事責任を課するというような立法もあるようでございます。詐欺の意思はなかったのであるというならば、被告人に立証責任を負わせる、挙証責任を転換したような罰則を設けておるような州があるようでございますが、どうもそれは日本の法制全体のたてまえからいきますと、刑事罰につきまして被告側に無罪の立証責任を負わせるというのは少し行き過ぎではないだろうかというふうに私ども考えるわけでございます。しかし、これはなお今後の問題といたしまして、ただいまの御質問と関連のございますのは小切手法の第三条の規定なんかも関連があるわけでございますが、これはなお今後の課題として検討すべき問題だろうと思うのでございます。
  47. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 偽造手形を出しますね。これは手形を振り出す意思はないんですよ。振り出しておらないのです。だから初めから、それは詐欺になるかならぬかは別にしまして、手形そのものを振り出さないにもかかわらず、振り出したがごとく襲う行為なんです。これは捨てておくわけにはいかぬと思うのです。ところが、偽造は刑法の偽造罪というものがあるからそれでいいのですけれども、かりになかったとしても、これは何かやらなければならぬものだろうと思うのです。それと同時に、支払いの場所に何の取引もないものを、いかにもあるがごとくやって、そして人に信用せしめておる。初めから支払う意思はないのですよ。支払う意思がなくて出せば、われわれから言わせると手形じゃないです。そういうものと、ほんとう手形を出しておって、どうしても金の都合がつかなくなって不渡りになる場合、ことに今日一番いわれるのは、さっき言ったように将棋倒しにいくのです。一つがそれでいくと、それを当てにしていたところが次から次へといくわけですが、こういう場合と、それから支払い場所もないものを出した、解約されておる小切手帳を持ってきてやった、これは全然違うと思うのです。こういう場合は、偽造罪は刑法にあるから、それは偽造罪でやられるけれども、商法そのものの取引上の安全を保持するという意味において特に考うべき必要があろう、こう思います。ことに先ほどあなたのおことばを聞いておりますと、取引のない三井銀行だ、三菱銀行だということを書いたのはよくないとあなたはおっしゃったが、よくないと言ったってやるんだから、それをどうしてとめるか何か特別なことを考えるなりしてそういうものがとまるとお考えになりますか。そういう点も重ねて承りたいと思います。
  48. 平賀健太

    平賀政府委員 小切手につきましては、先ほども申し上げましたように、小切手法の第三条違反に対する罰則の規定に過料五千円以下というのがございまして、これではあるいは現状には適しないということも考えられるわけでございますが、これはその改正の問題だろうと思うのでございます。  それからなお手形法につきましては、手形振り出しの当時、現在取引のない銀行支払い場所にする場合もこれは多々あることでございます。ほんとう手形を振り出すつもりで、善意でもって手形を振り出す場合というのはあり得ることなのでございます。支払いの期日が三カ月あるいは三カ月後になるわけで、それまでには、たとえば中小企業なんかでよくある例でございますが、商品の売却代金が入ってくると、それをその銀行に入れるのだ、それで資金ができるんだということで、ほんとうに善意で振り出す場合が非常に多いわけで、むしろ詐欺的な意図でやるという場合は、これは何といってもレア・ケースだろうと思うのでございます。それでこの詐欺の場合は、現行の刑法の詐欺罪ということでいいのではないか、アメリカのある州なんかにございますように、もし不渡りになったら、一応詐欺的な意図があったものとしてこれに刑罰を科する。そうでなくもし善意によってやったならば、被告おまえ立証せよという立法は、日本の制度としてはいかがであろうかというように考えておるのでございます。しかし、これは手形小切手に関する犯罪が、こういうふうに経済関係が非常に複雑になってまいりますと、だんだん巧妙になっていくということもございます。これはなお今後検討を要する問題であろうとは思いますけれども、今回は極力手形請求原因にしますところの民事訴訟手続を合理化したい——これで全部が解決するわけではないけれども、一歩前進あるいは二歩前進というところで、少しでもよくしたいということで今回の法律改正ができておるわけでございます。
  49. 四宮久吉

    四宮委員 ちょっと一点だけ。手形法関係で話になったか話にならなかったかそれを承りたいのです。  かりに手形不渡りにすると、今度取引に対する停止処分がある。そういう場合に手形振り出し者が、この次の手形不渡りになるということを予想しながら次の手形を発行します。三、三日前に三月も四月も先の手形を発行するという例が多いのです。自分手形がいよいよ不渡りになるということになると、それを他に金融するために、あっちこっちに行って出す。そうすると、それがために不測の損害を手形所持人に対して起こしてくる場合がある。こういうような場合に期限の利益ですね、これに対して何か保護方法を考えられたときがありますか。
  50. 平賀健太

    平賀政府委員 いまの質問の期限の利益の喪失の問題であります。これはすでにあちこちに債務を負っておりますその債務の期限の利益の履行の……。
  51. 四宮久吉

    四宮委員 単に手形に関してです。
  52. 平賀健太

    平賀政府委員 手形に関してもそうだと思うのでございますが、手形取引なんかにおきましては、銀行との基本契約がございまして、その基本契約の中で、一つでも手形不渡りになったときでも、期限の利益の喪失約款の例としまして、一つでも不渡り手形を出したときとか、あるいは銀行から取引停止処分を受けたときというのが期限の利益の喪失の原因にあがっております。これは銀行取引でございますから必ずそういう契約があがっておりますが、その関係で、その銀行に対する関係はそれで期限の利益を喪失するということになるのが実際だろうと思うのでございます。
  53. 四宮久吉

    四宮委員 しかし手形関係では、これをどうするということは話に出たことはないのですね。検討されたことはないのですね。
  54. 平賀健太

    平賀政府委員 手形金請求としては、これはちょっと無理でございますが、原因関係でございますけれども原因関係のほうで、期限の利益が失われるということで、そちらのほうで仮差し押えもできましょうし、必要によっては本案の訴訟も起こすということにもなろうかと思うのでございます。
  55. 濱野清吾

    濱野委員長 本日の議事はこの程度にとどめます。  次会は二十一日開会することとし、これにて散会いたします。    午後十一時五十八分散会