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1964-05-07 第46回国会 衆議院 法務委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十九年五月七日(木曜日)    午前十時三十二分開議  出席委員    委員長 濱野 清吾君    理事 唐澤 俊樹君 理事 小島 徹三君    理事 細迫 兼光君 理事 横山 利秋君       上村千一郎君    大竹 太郎君       岡崎 英城君    四宮 久吉君       田村 良平君    中垣 國男君       井伊 誠一君    田中織之進君       松井  誠君    竹谷源太郎君       志賀 義雄君  出席政府委員         法務政務次官  天埜 良吉君         検     事         (民事局長)  平賀 健太君  委員外出席者         専  門  員 高橋 勝好君     ————————————— 四月三十日  委員奧野誠亮君辞任につき、その補欠として篠  田弘作君が議長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  遺言方式準拠法に関する法律案内閣提出  第一二七号)(参議院送付)      ————◇—————
  2. 小島徹三

    小島委員長代理 これより会議を開きます。  本日は委員長が所用のためおくれますので、その指名により私が委員長の職務を行ないます。  遺言方式準拠法に関する法律案を議題といたします。  質疑に入ります。大竹太郎君。
  3. 大竹太郎

    大竹委員 まず第一にお伺いしたいのでありますが、この法律基本であります遺言方式に関する法律抵触に関する条約、これは一九六〇年のヘーグ国際私法会議において締結されたものであるということでございますが、基本でもありますので、このヘーグ国際私法会議の由来、経過、またわが国との関係ということについて、これはまあ外務省のほうの関係になるかとも思うのでございますけれども、御承知の点について概略御説明願いたいと思います。
  4. 平賀健太

    平賀政府委員 ヘーグ国際私法会議と申しますのは、オランダヘーグにこの本部があるわけでございますが、各国国際私法が非常にまちまちになっておりまして、そのために、ある事件がどこの国の裁判所で問題になるかということによって裁決が区々になりまして、裁判の不統一が生ずるわけでございます。そういうわけで、各国国際私法をできる限り統一したいということで、明治二十六年、一八九三年でございますが、オランダ政府が提唱をいたしまして、第一回の会議が開かれたのでございます。自来回を重ねまして、最終は一九六〇年の第九回の総会まで開かれておるのでございます。この会議加盟国は、当初は十四カ国でございましたが、現在では二十一カ国になっております。なお、わが国は一九四〇年、明治三十七年でございますが、その年に開催されました第四回の総会以来ずっと代表を送りまして、この会議に参加しておるのが現状でございます。  なお、この会議におきまして採択されました条約の数を申し上げますと、第二次大戦前六つ、それから第二次大戦後十一の条約が採択されております。全部で十七にのぼっております。これはいずれも国際私法に関するものばかりでございます。
  5. 大竹太郎

    大竹委員 それで、本条約でありますが、この遺言方式に関する法律抵触に関する条約署名国批准国は二十一カ国のうちのどのくらいになっておりますか。
  6. 平賀健太

    平賀政府委員 この遺言方式に関しまする条約署名をいたしております国は十二カ国でございます。わが国も本年の一月三十日にこの条約署名をいたしております。それから批准をしました国は三カ国でございまして、オーストリアイギリスとユーゴスラビアでございます。そしてこの条約は三カ国がすでに批准をいたしました関係で、本年の一月五日に発効いたしております。
  7. 大竹太郎

    大竹委員 そうすると、わが国は四カ国目になる、そう承知してよろしゅうございますか。
  8. 平賀健太

    平賀政府委員 さようでございます。
  9. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと、この法律をつくった場合におきまして、条約加盟国相互の間、それから日本加盟国になってくるわけでありますが、加盟していない国、それから加盟しても批准をしていない国とのこの法律についての関係はどうなるか。
  10. 平賀健太

    平賀政府委員 もちろんこれは条約でございますので、条約に加盟した国国がこの条約に拘束される、これは当然でございますが、ただいまお尋ねの点、どうかと申しますと、資料に条約がつけてございますが、この条約の第六条の後段でございます。たとえ非加盟国法律でありましても、これは準拠法として適用になります。もちろん、これは加盟国裁判所におきまして問題になった場合に、加盟国裁判所がこの条約に拘束されることになるわけでございますが、この条約によって準拠法として定められております法律がたとえ非加盟国法律であっても、これはいいわけであります。非加盟国法律であるからこれは適用しないということはできない、そういう関係に相なるわけでございます。その点は特に法律案のほうでは触れておりませんけれども、この法律案の第二条でもちまして、遺言方式につきましては次の法律準拠法になるということで法律をあげてございます。たとえば、行為地法は、非加盟国遺言書が作成された、したがって行為地法は非加盟国法律であるという場合でありましても、その法律適用になるということになるわけでございます。加盟国と非加盟国との関係は、かいつまんで申し上げますとそういうことになるわけでございます。
  11. 大竹太郎

    大竹委員 ちょっとわからぬ点があるのでありますが、そうすると、日本はそれでよろしいのですけれども日本人がこの条約に入っていない国で遺言をした場合には、その国はどういうように扱うのですか。
  12. 平賀健太

    平賀政府委員 たとえばこの条約にはアメリカはもちろん入っておりません国ですが、日本人アメリカにおきまして遺言をした場合に、かりにアメリカ方式に従って遺言したとしますと、その遺言効力日本裁判所で問題になる。そこで日本裁判所としましては、これはアメリカ法に従って——アメリカのある州の法律になるわけでございますが、ある州の法律方式に従っておる、であるから方式上はこの遺言は有効であるということになるわけでございます。ところが、アメリカのその州におきましてかりにその遺言効力裁判上問題になったといたしますと、アメリカのその州は、この条約に拘束されませんので、アメリカのその州の裁判所アメリカ国際私法の原則に従って準拠法を定めまして、その準拠法方式にかなっているかどうかということで判断していくことになるわけでございます。何か日本だけが加盟して、アメリカがそれに拘束されないのはどうも不都合なように感ぜられるのでございますけれども、問題は、要するに個人遺言をしやすくするということに目的があるわけでございます。日本人がたまたまアメリカにおり、アメリカにおいて遺言をした以上、現在おる場所法律というのは、弁護士に相談するにしても何かと便宜があるわけで、その方式に従っておけば、たとえ日本裁判所であるいは日本以外の加盟国裁判所でこの遺言が問題になるようなことがあっても、それはアメリカのその州の法律に従っているということで有効になるわけでございます。結局個人遺書をしやすくするということにこの条約それからこれに基づくこの法律が非常に貢献をするということになるわけでございます。
  13. 大竹太郎

    大竹委員 それで、この法律でありますが、これは遺言方式だけをこの法律規定するわけでありますが、遺言方式だけでは、やはりいまおっしゃった目的が十分達せられないと思うのでございまして、この遺言内容を、実質的な要件といいますか方式といいますか、それをどういうわけでこの条約においてはきめなかったのでございますか。
  14. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま仰せのとおり、この条約遺言方式だけを問題にいたしておりまして、この条約に基づくこの法律案方式だけを取り上げておるのでございまして、方式と同時にその遺言内容をなしますところの実質についても実は非常に問題があるわけでございまして、その実質準拠法までもきめないとどうも片手落ちということに相なるわけでございます。さて実質となりますと、これは遺言の一番典型的な例は遺贈、財産を遺言でやるという遺贈でございますが、そのほかにも、たとえば日本民法にも遺言による認知というようなことがございますし、あるいは後見人、後見監督人を指定するという遺言もございます。それから現行法ではございませんが、遺言によって養子縁組みをするというような法制があることもございます。遺書内容となりますと、そういう各種法律行為がやはりあるわけでございます。遺言実質準拠法となりますと、要するに遺贈でございますればこれは相続準拠法になる、それから認知でございますと認知準拠法ということになりまして、ただいま仰せのとおり実質が非常に大事なのでございますが、実質につきましては各種法律関係が出てまいりますので、同時にそれまでも一挙にきめるということはなかなか困難なわけでございます。ヘーグ会議におきましては、別に、たとえば養子縁組みなんかにつきましては、国際養子縁組み準拠法につきまして現在審議をいたしておる。それから相続についてはまだできておりませんけれども、今後の課題として取り上げられることになるだろうと思うのでございます。そういうわけで遺言実質のほうにつきましては今後の課題として、これはその各事項ごと条約ができることになると思うのでございます。そういう関係から申しまして、今回の条約並びに法律におきましてはもっぱら遺言方式だけを取り上げておる次第でございます。
  15. 大竹太郎

    大竹委員 それでこの五条との関係でありますが、五条は、遺言者年齢とか国籍形式的要件と見て二条の適用があるものということがあるのでありますが、結局、方式と言いながらも、やはり年齢というようなもの、能力というようなことからして、私は実質的な要件だと思うのでありますが、そういうような方式と言いながらも、やはり実質的なものまでも含める方向に来ているのじゃないでしょうか。その点はどうでしょうか。
  16. 平賀健太

    平賀政府委員 第五条規定は、年齢あるいは国籍その他の人的資格というのが出ておりますが、これは日本民法ではこういう例はございませんが、外国国内法を見ますと、よく例に引かれますのはオランダ民法でございますが、オランダ人外国遺言をする場合には自筆証書遺言ができない、必ず公正証書遺言をしなくてはいけない。あるいはドイツでありますと、未成年者自筆証書あるいは秘密証書による遺言ができない、したがって公正証書による遺言しかできない。そういう例があるのでございます。これははたして遺言実質の問題なのか、遺言方式の問題なのかという問題が実はあるのでございます。さらに突き詰めて申しますと、遺言方式とは何かという問題があるわけでございます。そういうわけで、オランダでございますとか、ドイツでございますとか、それに似た例はオーストリアあるいはポルトガルとかいろいろございますが、そういうふうに遺言者年齢でございますとか、あるいは国籍なんかによって自筆証書ではいけない、公正証書だけに限るというのは、一体これは方式の問題なのか、実質の問題なのかということでございますが、この第五条は、その点ははっきりこれは方式の問題であるというふうに割り切ったわけでございます。したがいまして、たとえて申しますと、オランダ人日本に参りまして、日本におるオランダ人日本法に従って自筆証書による遺言をしたとかりにいたします。本国法であるオランダ法によりますと、それはオランダ法方式に反しておるわけで、無効の遺言ということになるわけでございますが、この条約では日本法行為地法になるわけです。行為地法方式である日本法に従って自筆証書遺言しておれば、それは方式上は有効だということにするわけでございます。この条約はそういう問題は方式の問題だというふうにはっきり割り切っておるわけでございますが、かりに、そうではなくて、これは遺言実質の問題だということになりますると、たとえばそれが相続に関する遺言でございますと、相続人本国法日本裁判所で問題になりますれば、相続実質相続人本国法だといってオランダ法適用になる。オランダ法適用によってこれは無効だという結果になる。そういう解釈上の疑義を防ぎますために、これをはっきり方式の問題であって、実質の問題ではないということを第五条は明らかに示したというわけでございます。したがいまして、実質の問題が入ってきたわけじゃございませんで、遺言方式とは何かという解釈上の疑義を避けるために、一つの解釈規定と言っていいと思うのでございます。
  17. 大竹太郎

    大竹委員 それじゃ具体的にひとつお聞きしたいのですが、遺言能力方式に入るのですか、実質に入るのですか。
  18. 平賀健太

    平賀政府委員 この条約並びに法律では、その点特に規定は置いていないのでございますけれども遺言能力の問題、これは遺言方式ではございませんで、遺言実質的成立要件の問題ということに相なるわけでございます。したがいまして、これはこの条約法律適用はございません。遺言能力の問題が遺言実質的な成立要件——遺言内容をなしておりますところの法律行為の問題じゃなくて、遺言実質的な成立要件の問題であるということは、各国解釈が大体一致しておるのじゃないかと思うのでございます。
  19. 大竹太郎

    大竹委員 そうすると、年齢によって能力制限したりなんかしている場合は、この年齢との関係はどうなるのでありますか。
  20. 平賀健太

    平賀政府委員 そこでだだいま申し上げましたように、未成年者自筆証書による遺言ができないというのは、先ほどは遺言内容との関連において申し上げましたが、内容という問題なのか、それとも遺言実質的成立要件の問題なのか、あるいは形式的成立要件の問題かという三つの解釈上の問題があるわけでございます。この法律案では五条でございますが、条約におきましては、その点をはっきり方式の問題である、遺言能力の問題ではなくて、遺言方式の問題だというふうに、これははっきり解釈規定を置きまして、その疑義が生ずるのを防いだ。ただいま仰せのように、これは遺言能力の問題ではないかという疑義が十分生ずる余地があるのでございます。そうなりますと、この条約適用がないことになります。それはそうじゃない、遺言方式の問題だというふうにはっきり割り切りまして、解釈上の疑義を防いだということに相なるわけでございます。
  21. 大竹太郎

    大竹委員 そうすると年齢に関しては、年齢遺言能力との関係において、年齢に関する面は、方式としてこの法律適用するのだというふうに解してよろしゅうございますか。
  22. 平賀健太

    平賀政府委員 ただいま私の説明が少し足りなかったかと思うのでございますが、たとえば日本民法でございますと、満十五歳以上の者は遺言ができる、これは純然たる遺言能力の問題、何歳になったら遺言ができるかというのは、これは遺言方式の問題ではなくて、遺言能力の問題であろうと思うのでございます。ところがドイツなんかにございますように、遺言はできるけれども、ただ方式はこれだけにするとか、あるいはこういう方式遺言はだめだという遺言制限があるわけであります。その制限につきましては、これは方式の問題であり、遺言能力はあるのであるけれども、そのできる遺言方式制限があるというふうに理解いたしまして、方式の問題であるというふうに五条は言っているわけであります。  ただいま仰せ遺言能力の問題、これは遺言実質的成立要件の問題で、この条約並びにこの法律では規定をしていない。たとえて申し上げますと、たとえば十三歳になるドイツ人日本に来まして、公正証書によって遺言したとかりにいたします。それが日本裁判所でその遺言は有効かどうかということが問題になった場合、十三歳のドイツ人遺言ができるのかということでございます。これはあくまで遺言能力の問題、日本法例解釈としましては、遺言能力の問題でございますので、この法律適用はない。法例の二十六条の一項でございます遺言成立、これは実質的な成立要件の問題でございますので、「其成立ノ当時ニ於ケル遺言者本国法ニ依ル」、ドイツ法によってはたして遺言能力があるかどうかということを裁判所は判断していくということになるわけでございます。
  23. 大竹太郎

    大竹委員 それでは条文について一、二お聞きしたいのでございます。第二条の四でございますが、この「遺言者遺言成立又は死亡の当時常居所を有した地の法律」こうなっておるのでございますが、この「常居所」ということば日本法律用語にはないと思うのでありますが、この常居所と、日本法律で言っております住所居所、これの区別と言いますか定義、それについてちょっと御説明を願いたい。
  24. 平賀健太

    平賀政府委員 この「常居所」ということばは、仰せのとおり新たにつくりましたことばなのでございます。これは法制審議会におきましてもいろいろ検討いたしまして、どういうことばが一番適当だろうかとさんざん苦心をいたしまして常居所という変わったことばにいたしたわけでございますが、ただいまの仰せのとおり、従来の観念としては住所というものがあるのでございます。日本法例民法にも出ておりますが、ところが、この住所と申しますのは、国際私法関係では非常に住所概念がまちまちだと言われておるわけでございます。ドミサイルあるいはドミシルというようなことば外国では呼んでおるわけでございますが、国によりまして住所観念が非常に違うのでございます。英米方式住所観念ドイツフランスなどの大陸諸国で言っております住所観念は非常に違う。日本はまた日本住所という観念がございます。各国まちまちの概念なのでございます。そういう関係で、国際私法関係上、何か統一的な概念、客観的な生活の根拠をあらわすことばはないか、そうしますと、これは各国共通の問題であります。そういう共通の客観的な場所的な観念を持ってきまして、それを基準にして準拠法を定めるということになれば、国際私法統一ということに非常に効果があるわけでございます。ヘーグ会議におきましても、そういう共通の客観的な場所的な概念を打ち立てたいということで、従来検討は続けられてまいりまして、最近のヘーグ会議におきまして採択された条約におきまして、この常居所ということばが用いられるようになったのでございます。この条約の英文ではハビチュアル・レジデンスと言っております。フランス文ではレジダンス・アビチュエルというようなことばを使っております。これはイギリスフランスなどにおきましても新しい用語で、従来のドミサイルドミシルにかわる概念として新しく用いられ始めたことばでございます。そういう関係で、日本法におきましてこの概念をどういうふうに取り入れるか、従来常住地ということばは、これはほかの法令で出てきたことばございますけれどもハビチュアル・レジデンスということば常住地と訳しますと、やはり地となりますと、場所を含むもっと広い地域という観念になりますので、これを適切にあらわすことばを何とかひとつつくりたい。そういうことで、まだ熟しないことばではございますけれども常居所、一応居住している場所、そういう意味でもって常居所ということばを採用したらどうかということになりまして、法制審議会におきましてもこのことばが採用になったのでございます。  この常居所概念は、英米あるいはヨーロッパにおきましては、御承知のとおり法定住所という名前がございまして、妻の住所は夫の住所になる、あるいは未成年者住所嫡出子であれば父の住所、父の住所が即未成年者住所、非嫡出の子供でございますれば、母の住所未成年者住所である。そういう法定住所観念なんかもございます。それからまた、英法なんかにおけるように、非常に本人の意思を重視したドミサイルという概念もございます。そういうのではなくて、実際平常そこに住んでおる場所、そういう意味常居所という概念がとられたわけで、客観的に個人と土地との関係を見ていこうということに主眼があるのでございます。そういう点から申しますと、日本民法に言っております各人の生活の本拠をもって住所とするという日本民法住所と、ほとんど同じような概念ではないかと私どもは理解いたしておる次第でございます。
  25. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと、三号に、死亡の当時住所を有した地の法律というのがあるのでありますから、常居所というものはほとんど必要ないように思うのでありますが、いまお話を聞いておりますと、われわれがいままで日本法律で考えておった住所と、常居所の中間というようにお話を聞くとなるのでありますが、そこはどうですか。
  26. 平賀健太

    平賀政府委員 第二条の三号に住所ということばがございますが、この住所につきましては、法律案の第七条でございます。第七条におきまして、「遺言者が特定の地に住所を有したかどうかは、その地の法律によって定める。」そういうわけで、たとえば遺言をした人が日本住所があるのだ、日本法住所地法として、それによって遺言したというようなことでございますれば、日本住所があったかどうかということは、日本法によって定める。最初申し上げましたように、日本法による住所というものと、常居所というものが非常に似た概念、同じと言ってもいいのじゃないかと思います。そうなりますと、住所常居所は結果的には全く同じになるわけでございます。たとえばイギリス住所が、ドミサイルがあって、そのイギリス法住所地法として遺言をしたということになってまいりますと、その住所イギリス法のドミサイルになるわけでございまして、これは常居所とは非常に違った概念になるわけでございます。そういう関係で、三号につきましては、第七条という規定がございまして、この住所は国によってまちまちだということになるわけでございます。そういうわけで、住所は国によってまちまちになります関係で、ある統一的な概念を持ってきて、常居所ということにした。どこの国に行っても同じ結果になるような共通概念として条約でもこの常居所を取り上げ、この法律案でも常居所というものを取り上げた次第でございます。
  27. 大竹太郎

    大竹委員 そうすると、この第二条でありますが、住所常居所というのが別々になって規定されて、いずれもそこでした遺言は有効なんでありますが、それなら、いままでの私どもの考えておった居所法律ではだめだということになるのでありますか。
  28. 平賀健太

    平賀政府委員 居所と申しますと、これは単なる一時的な滞在地も入ってくることになりますので、この法律では居所はまともに取り上げてないわけでございまして、条約のほうでも居所を取り上げておりません。常居所となりますと、ある一定の期間そこに滞在しておる場合もありますけれども、たまたまそこにおるというのは、民法なんかの概念から言いますと、やはり居所になるわけであります。場合によりましては、現在地に類するような場合も居所ではないとは言えないのでございます。居所は、そのときには取り上げることはなかろうということなんでございます。
  29. 大竹太郎

    大竹委員 それから三条には、遺言の取り消しというのがございますが、どうもこの規定ははっきりしないように思うのであります。これを説明していただきたい。
  30. 平賀健太

    平賀政府委員 三条は遺言を取り消す遺言遺言を取り消す遺言もやはり遺言でありますが、普通の遺言でこの二条がまともに適用になる。ところが、そのほかになお前の遺言準拠法が、またこの取り消す遺言にも準拠法として適用されるということなのでございまして、一例を申し上げますと、ある国において、日本日本法方式に従って遺言をしたといたします。ところが、その人が今度さらに他の国に行きまして、あの日本でやった遺言は取り消すという遺言をかりにいたしたとします。ところが、他の国でやりましたその遺言が、この二条であげておりますどの準拠法によりましても、これはどうも方式上無効らしい、無効である。ところが、他の国でいたしました取り消しの遺旨が、前にした遺言日本法律であったので、今度もまた日本法でやろうというので、日本法方式に従ってやりますれば、それは有効になるということなのでございます。でありますから、取り消しの遺言につきましては、準拠法をさらに多くしまして、その取り消しの遺言方式上無効となることを避けようという趣旨がここでもあらわれておるのでございます。
  31. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと、遺言を取り消す遺言については、特に無効を少なくするという趣旨になると思うのでありますが、同じ遺言でありながらそういう必要はどうしてあるのか。
  32. 平賀健太

    平賀政府委員 この条約並びに法律それ自体が、遺言ができるだけ方式上無効になることを避けようとするわけでありますが、前にした遺言が、いまの例で申しますと、日本法でやったんだから日本法方式に従って取り消しの遺言をしたい。これは人間の自然の感情と申しますか、そういうふうに普通の人が思うのはそれは当然なのでございます。また、そうすることが合理的なのであります。そこを取り上げまして、取り消しの過言もそれ自体が遺言でございますので、二条にあげておる方式準拠法適用になるわけでありますが、かりにどの準拠法によりましても、それが方式上有効とは見られないという場合でも、取り消された前の遺言と同じ方式でやっておれば、その前の遺言を有効とした法律、たとえば日本法で有効だということであれば、日本法に照らしてそれが有効ならば有効としよう、そういうことでございます。当事者の合理的な意思と申しますか、それに法律的な裏づけを与えたと言ってもいいかと思うのでございます。
  33. 大竹太郎

    大竹委員 それでは四条でありますが、共同遺言方式について規定しておるのでありますけれども、御承知のように日本民法九百七十五条でありますか、共同の遺言は禁止しておるのでありまして、これとの関係についてお伺いしたい。
  34. 平賀健太

    平賀政府委員 民法には、ただいま仰せのとおり共同遺言を禁止する規定があるわけでございますが、その民法規定とこの第四条の関係を申しますと、結論から申し上げますと、ある遺言日本裁判所においてその効力が問題になったといたします。その遺言準拠法日本法であるということで日本法適用がありますと、ただいま仰せのございました共同遺言禁止の規定関係で、その遺言は無効となるということであります。でありますから、この第四条と民法規定とは直接には関連はございません。これは日本裁判所に限りませんが、外国裁判所におきましても、ある遺書が問題になって、その遺言準拠法日本法だということになりますと、民法規定が働くということになるわけでございます。ただ、共同遺言につきましては、各国法制がまちまちでございまして、日本民法では全面的にだめだとしておりますが、たとえばドイツなんかでは夫婦間の共同遺言は認めるがそれ以外の者の共同遺言は認めない。あるいは日本と同じように全然共同遺言を認めない国もございます。それからまたほかの国にまいりますと、たしか北欧緒国であったと思うのですが、夫婦だけではなくて兄弟の共同遺言なんかも認めるという国もあるようでございます。そういうふうに各国法制国内法がまちまちでございますので、共同遺言ができるかできないかという問題は、遺言方式の問題なのか、あるいは遺言内容をなしておりますところの実質の問題なのかということにつきましても、各国でまちまちの解釈なのでございます。日本では、共同遺言が許されるか許されないかという問題は、これは一体遺言方式の問題なのか、それとも遺言内容の問題なのかということについて裁判所の判例はございません。学者の意見によりますと、どちらかと申しますと、これは遺言方式の問題ではなく、遺言内容の問題であるという解釈が有力なのでございます。私どもとしましても、方式の問題ではなくて遺言内容の問題ではないかと考えるのが正しいように思っておるのでございますが、しかし国によりましては、この問題は遺言方式の問題であるとしているところもあるわけでございます。そこで、ヘーグ会議におきましても、一体この共同遺言をどうするかという問題につきましては非常に議論が続出いたしまして、結局、この共同遺言が許されるか許されないかの問題は、これが実質の問題なのかあるいは方式の問題なのかということは、これは各国国際私法にまかせよう。ただ、共同遺言であっても、方式の問題についてはこの条約適用があることにしよう。たとえば自筆証書で共同遺言をする、日本民法自筆証書秘密証書公正証書とございますが、夫婦が自筆証書日本におきまして共同遺言をしたと仮定いたします。民法にこまかい自筆証書遺言方式規定がございます。作成年月日に署名捺印をするというこまかい規定がございますが、あれにぴったり合った共同遺言をしたといたします。方式上は日本民法にかなっておるということになるわけでございます。ところが、それが日本裁判所で問題になりますと、共同遺言でございますが、これは単なる遺言方式の問題ではなくて、実質の問題だということになるわけでございます。たとえばそれがフランス人であると仮定いたしますと、フランスでは共同遺言は禁止しておるのでございます。本国法ということになりまして、フランス本国法の——相続に関する遺言と仮定いたしますと、これは準拠法は、日本の法令によりますと被相続人本国法ということになるわけでありまして、これはフランス法ということになるわけであります。フランス法によりますと共同遺言を禁止しておりますので、これは方式はなるほど日本法律にかなっておるけれども実質的にこれは準拠法上無効だということに相なるわけでございます。そういうわけで、これは五条とは違いまして、四条のほうでは共同遺言を許すかどうかという問題は、問題が方式の問題かどうかということは各国国際私法にまかせる、ただ共同遺言についてもその方式については条約適用がある。非常にわかりにくい条文ではございますけれども、そういう趣旨なのでございます。条約規定をそのままここに取り入れたのでございます。
  35. 大竹太郎

    大竹委員 それから六条でありますが、「その国の規則に従い遺言者が属した地方の法律」となっておるのでありますが、この「その国の規則」というのは一体どういう意味でありますか。日本の同じ条文の中に法律ということばもありますのですが、この規則という意味はどういう意味ですか。
  36. 平賀健太

    平賀政府委員 これは実質的な規則——法律のみならず判例法なんかも含む趣旨でございます。法則と言いますか、そういう抽象的にこれは表現したわけでございます。第六条というのは、そもそもこれは日本法例で申し上げますと第二十七条の三項でございます。「地方ニ依リ法律ヲ異ニスル国ノ人民」についての本国法の定め、いわゆる不統一法といわれておるわけでございます。その例としましては、たとえばアメリカ合衆国なんか典型的な例でありまして、各州によって私法の内容が違うわけであります。遺言方式とか効力の問題につきましても各州法で規定するわけであります。連邦法があるわけではございません。そういう国につきまして、たとえばアメリカ人が日本遺言いたしました場合に、その本国法はどうか、何法かということになりますと、遺言方式に関するアメリカ合衆国の統一法というものがございません関係で、やはりどっかの州の法律でやるわけです。そのアメリカ人が一体アメリカのどの州に属する人間かということをきめなくちゃならぬわけでございます。その場合に、それはアメリカ合衆国自体においてあるアメリカ人がどこの州に属しておるかをきめる。そういう法則がアメリカの連邦の規則——法律あるいは判例法、慣習法、そういうようなものであるならば、まずその規則によるという趣旨なのであります。そういうわけで、これを法律としてもいいのかもしれぬのでありますが、何か成文法だけに限られるように思われるし、この条約の仏文ではシステムということばを使っておるのでございます。適切な訳語がございませんので、むしろこの規則ということばを使ったほうがわかりやすいのではないかということで、規則というふうにいたしたのでございます。
  37. 大竹太郎

    大竹委員 それから同じ条文でありますが、最後のほうに、「規則がないときは遺言者が最も密接な関係を有した」という「最も密接な関係」の御説明を願います。
  38. 平賀健太

    平賀政府委員 この例としてあげられますのは、現実にそこに住所がある、生活の根拠がある、あるいは常居所があるというような場合、あるいは現在は日本にいるのだけれども、最後の常居所アメリカのある州にあった、あるいはそこに近親の者がまだ住んでおって、しょっちゅう行ったり来たりしておる、あるいはそこに財産があって管理人を置いてあるというような例が考えられるわけでございます。アメリカに即して申し上げますと、本人の一番そういう密接な関係にある州に属するものとする、そういうわけでございます。例としてはそういうことが考えられるのでございます。
  39. 大竹太郎

    大竹委員 最後にお聞きしたいのでありますが、この遺言方式に関してのことは、法律としては十条くらいでありますけれども法例のほうからいうとわずかに一条で終わっているのでありますが、こういうように続々と国際私法会議でそういう条約ができる。そしてそれによる国内法ができてくると思うのでありますが、そういたしますと、この法例との関係法例が何と申しますか、だんだん骨抜きになってくるように思うのでありますが、それについてはどういうように考えておいでになりますか。   〔小島委員長代理退席、委員長着   席〕
  40. 平賀健太

    平賀政府委員 この法例という法律が、明治三十一年ですかにできた非常に古い法律でございまして、その後字句の若干の修正がございましたが、ほとんど制定当時そのままなのであります。ただいま仰せのとおり非常に簡単な規定でございます。解釈上も非常に疑義が出ております。裁判所の判例もなかなかございませんので、多くの問題がございまして、この法例もできるだけ早い機会に改正をする必要があるわけでありまして、法務省におきましては数年前から法制審議会において検討中なのであります。しかしながら、属人法は本国法なりや住所地法なりやというような根本問題がございまして、なかなかそれの解決が困難でございます。法務省の現在の考え方といたしましては、法例の改正は今後もなお検討を続けていきますけれども、こういうふうに条約によりまして個々の事項ごとに国際的な解決がされていく場合には、これをいつも日本に取り入れることにしてはどうであろうか。これを国内法に取り入れることによって実質的に法例を改正していくということになるのではないか。たとえば動産の売買につきましては、やはり準拠法を定める条約会議で採択された例もございます。そういうふうに動産売買法あるいは養子縁組法という場合に、個個の事項ごと条約ができておりますので、それを検討いたしまして、それを国内法に取り入れていく。そういうことによって実質的に法例を改正していったらどうであろうかというふうに考えておる次第でございます。もちろん、この法例に含まっておりますところの国際私法の問題全部について、全部この条約成立するということは、これはよほど先のことでございますので、それまで待つわけにいきませんけれども、この法例自体の改正と並行いたしまして、現在すでに成立しておる条約、あるいは今後成立します条約国内法に取り入れていくという努力も並行してやっていく。それによって日本国際私法の改善をはかるというふうに持っていきたいと考えておる次第でございます。
  41. 大竹太郎

    大竹委員 大体これで終わります。
  42. 濱野清吾

    ○濱野委員長 本日の議事はこの程度にいたします。  次会は来たる十二日開会することといたし、これにて敬会いたします。    午前十一時二十五分散会