○坂本
委員 私は、日本
社会党を代表いたしまして、ただいま討論に付されました
暴力行為等処罰に関する
法律等の一部を
改正する
法律案並びに民社党提出の
修正案に対しまして、討論をいたしたいと存じます。
まず、結論を申し上げますと、原案並びに民社党
修正案ともに反対であります。以下、その趣旨を申し述べますが、第一に序論を簡単に申し上げ、第二に本
法案の政治的意図、第三に本
法案の内容、第四に民社党
修正案に対する反論、最後に
社会党の
暴力団対策について一言いたしたいと存じます。
本
改正案は、戦時特に労働運動、
社会運動に乱用され、
国民大衆よりその廃止を叫ばれている現
暴力法に対するきわめて重大な
改正でありますから、
社会党は本
委員会における質問において、単に今回の
改正案に対する
法律解釈論や、その運用の問題点を指摘するにとどまらないのであります。これは、いわゆる治安立法ともいうべきたいへんなものでありまして、独占資本による現保守政権が、
暴力団退治の美名のもとに
国民をあざむき、被支配層の、働く
国民の労働運動、大衆運動を制圧し、資本家奉仕の大衆収奪に利用せんとするものでありまするから、かかる反動立法は今後とも絶対に許すことができない、この不動のかまえを明確に打ち出すために、本
法案に取り組んだのであります。しかるに法務
大臣並びに政府は、絶対に労働運動、大衆運動には適用しないと、陳弁これつとめられ、衣の下によろいをちらつかせながら、われわれ
社会党
委員各位の追撃を避けてまいったのであります。そうして、ここにまだわれわれはその質疑を残しておるのでありまして、遺憾千万な次第でありまするが、ここにその討論に移ったわけであります。
そこで第二に、本
法案の政治的意図でありまするが、
昭和三十二年でしたか、自民党の治安
対策特別
委員会は、民主
社会党をいざない、自民、民社共同
提案としていわゆる政防法を本院に提出したのであります。わが党は、この
法案は
国民の基本的人権に関するものであり、労働連動、大衆運動の弾圧法であるので、断固反対いたしまして、同年六月二日の衆議院法務
委員会は非常な混乱をいたしまして、議事は速記もできない状態のもとに可決されたのであります。そうような経過を経て参議院に送付されたのでありますが、参議院では
審議未了となったのであります。そこで自民党においては、大衆収奪、労働運動、大衆運動の弾圧法としてこれを正面から打ち出せば、強力なる反対にあう、
社会党はもちろん、
国民大衆の抵抗は大きいのでありますから、これを回避するために本
暴力法の
改正を
考えたのであります。そして
国民の前には
暴力団退治という美名のもとに本
改正案を打ち出して、第四十三国会に提出したのであります。御存じのように、この
法案につきましては衆議院法務
委員会において
審議未了となりました。
ところが政府は、なおさらに、次の四十四国会に全く同文の
改正案を提出しまして、これまた
審議未了になったのであります。昨年の臨時国会、解散後の総選挙を経まして、この国会に三度目の提出をいたしたのであります。二回も
審議未了になったものをそのまま提出いたしまして、これは
暴力団撲滅のための
法律であるということで、前二回と同様の
方針でその
説明をいたしまして
審議に入ったのであります。そこでわれわれは、もしも
昭和三十四年以来
暴力団の撲滅に対してほんとうに政府が真剣に立ち向かいましたならば、このような
暴力団の絶滅については相当の成果をあげていなければならないと思うのであります。さらに
昭和三十六年二月二十一日には
暴力犯罪防止対策要綱というのが発表されまして、この内容については
委員会において相当の論議がかわされたのでありまするが、もしもこの
暴力犯罪防止対策要綱に基づいて政府がその先頭に立って
暴力団の絶滅に当たりましたならば、いわゆるチンピラその他の
暴力団に対して非常な迷惑をこうむっております
ところの
国民は、この政府の
対策に
協力し、支援いたしまして、そうして官民一体となってその防止に尽くしましたならば、現在においては、その成果があがっていなければならない。
ところが、その成果があがらずに、政府提出の
資料によりましても、三十四年以来だんだん
暴力団はふえまして、
昭和三十八年におきましては五千百三十団体、十七万余人がおるのだ。そのうちの六万人を
検挙しておる。
検挙者も年々ふえておる。そこで、
検挙をしながらどうして
暴力団の絶滅ができなかったかと申しますと、これは真に現行刑法のもとにおいて、この
法律に対して官民こぞって良心的に全力を尽くして、そして法の適用を正しくいたしましたならば、その成果はあがっておるはずであります。
暴力団取り締まりに熱意のないこと、さらにまた大きい原因は、本
委員会でもわれわれの同僚
委員からたびたび指摘されましたように、
暴力団の根源を絶つことができない。いなむしろ、その根源を絶つどころか、
暴力団の
親分に対してはいろいろな
関係を持っておる、また資金源を供給しておる、そういうような疑いもあったのであります。
先ほど横山
委員の質問に対しまして、三十八年の七月二十八日に大野副総裁が出席した問題は、読売夕刊、各紙並びに地方紙に一斉に出ておりますが、神戸のやくざ団体の本多会の二代目の会長襲名披露祝賀会に大野副総裁が出席されておる。地元代議士中井一夫氏の懇請もだしがたく出席されておる。このように政党の副総裁ともあろう方がやくざ団体の披露祝賀会に出席するということは、総理
大臣もそれが
暴力団かどうかはわからないといろいろ申しておられましたが、一事が万事でありまして、こういうような
関係を持つ
ところに
暴力団の根源を断つことができない。いなむしろ、昨年の総選挙のごときは、この
暴力団を選挙運動に利用し、その支援を求めて当選をする、こういうような状態である。さらに地方議会の議員におきましては、いわゆる
暴力団といわれるような人が議席を持つ。そうして地方議会を掌握する。こういうような状態であっては、いかに法的
組織を完璧にいたしましても、これは法定刑を重くして罰するという威嚇だけではとうていこれを撲滅するようなことはできないのであります。この根源を断たないから、
暴力団を取り締まるという
法律案を三回も出しながら、その間に少しもこの
暴力団の減るどころか、ふえるというようなこの現状であるというのは、これはいかに陳弁いたされても、あるいは百分の一程度のものはチンピラ
暴力団に対する
ところの威嚇的
社会防衛のためにはなりましょう。しかしながら、法を
改正し、法定刑を重くしても、とうていこの
暴力団の絶滅はできないのであります。
そのような
関係にあるこの
暴力法に対して、三回も執拗にここに提出されるのはどこに政治的の意図があるか、これはまさしくわれわれ
社会党がここに絶叫いたしまするように、この
法律は大衆運動、労働運動に対する弾圧の労働刑法としての役割りを果たすために、ここに
法律を通過さして、そうしてできた
法律はひとり歩きをして、現
暴力法と同時に、なおその上にこの
暴力法によって大衆運動、労働運動の弾圧にこれを利用するというよりほかに何ものもないと言わざるを得ないのであります。
そこで本
法案の内容につきましては、これは
委員会においてわが党各
委員の質問に対していろいろと明らかにされ、その欠陥も十分指摘されたのであります。その
一つを申し上げますと、第一条ノ二の「銃砲又ハ刀剣類ヲ用ヒテ人ノ身体ヲ傷害シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役」と、法定刑の最下限が引き上げられたのであります。そうして罰金がなくなっております。ここで一番問題になりますのは「銃砲又ハ刀剣類」で、この類については、いわゆる
銃砲刀剣類等所持取締法の第二条の解釈をそのまま持ってきたのである。こういうふうに言われるけれども、このように刑法の体系に大きく影響するような
法律をつくる場合は、その条文の中にやはりその
定義を記載すべきである。これはわれわれ
法律家が言う条文のていさいからも
定義すべきである。これを
定義しない
ところに、この「銃砲又ハ刀剣類」、その類が拡張解釈されまして、ついには労働運動における
ところのプラカード、旗等もこういうのに拡張解釈して入れられはしないか、入れられる疑惑が十分にここにあるのであります。先ほど横山
委員が指摘されましたように、かつて参議院の木村篤太郎氏は、マッチのあの小さい一本でも
凶器である、こういうことも権力を乱用し、そうしてその解釈を拡張する場合には、
常識をもって判断できないような拡張解釈がそこに出てくるわけであります。このような点からいたしましても、この第一条ノ二の
法律は、われわれが主張する
ところの労働運動、大衆運動の制圧の
法律として乱用されるのではないか、この疑いが十分に存するのであります。
さらに、第一条ノ三の、常習として傷害、暴行、脅迫、器物損壊年等を犯した場合は、これまた特別刑法といたしまして、一年以上十年以下の懲役に処して、その法定刑の最下限を引き上げておるのであります。御存じのように労働運動、いわゆるストライキ等の場合の
犯罪については、いわゆる争議
関係の
犯罪には傷害罪が一番多いのでございます。したがって、これを
暴力法の常習
規定といたしましてこの中に入れることは、それだけ労働運動に関する常習処罰の度を高めることを
意味するのでありまして、これは労働争議、大衆運動に拡大されるおそれが十分あるのであります。参考人も申しましたように、団体交渉の際に、特に大きい声をしただけでも脅迫になる。大きい声をして鼓膜に振動をしたならば暴行である。傷害と申しましても、単なるかすり傷でも傷害である。こういうような
関係からいたしまして、これは
暴力団に対する
ところの適用
法律でなくて、労働運動、大衆運動に拡大適用すると断言しても間違いないと思うのであります。ことに昨日の
松井委員の質問に際しまして、
銃砲刀剣類による犯堤の法定刑の最下限を引き上げる立法の趣旨は、判決でいわゆる宣告が怪いのでこれを引き上げるのである。これが唯一の理由になっていたのです。しかし実際は、
昭和三十八年の東京地方
裁判所の判決によりますと、この
銃砲刀剣類による
ところの
犯罪では一年以上の判決が七割五分で、大部分であって、たった六件だけが一年以下の刑である。二割五分にも該当しないわけでありますから、この
銃砲刀剣類によってなお殺人、殺人未遂という現行刑法を
考えますときに、何も
銃砲刀剣類による
犯罪として法定刑を引き上げる根拠は乏しいのではないか、かように存ずるのであります。
その他いろいろありまするが、本
法律案の内容は、いま一言いたしました点だけからいたしましても、もちろんチンピラの
暴力団の
取り締まりに対しては、その威嚇的あるいは
法律の運用に当たっての幾らかの使命はあるのでありますが、しかしその大部分は、
暴力団撲滅という美名のもとに現在の支配権力を
維持するために、被支配階級の労働運動、大衆運動を制圧するために、現在これを制圧する
ところの
法律が、先ほども申しましたように警職法、政防法ができることが困難であるという、その前提として、そのかえの
法律として、この
暴力法の
改正にかかっておる。こういうものがその陰にひそんでおるということをわれわれは指摘し、確信して、これを主張することができると思うのであります。
なおたくさんありまするが、このように
社会党は、この
法律改正案に対して反対をいたすものであります。
さらにこの民社党の
修正案でございますが、このような修正をいたしましても、われわれ
社会党としては、現
暴力法並びに
改正案に対して、根本的な反動立法、治安立法として反対をいたしておるのであります。この
修正案を見ますると、破防法の第三条に
規定してあるのとほぼ同じであるようでありまするが、破防法に対しては、このような訓示
規定がなくても、破防法自体がその構成要件が厳格であり、大衆運動等に乱用できないようになっているのでありまするから、この
法律ができました現在においても、この
法律の乱用ということが免れておるのであります。かりにこの
改正案に対して
修正案があったといたしましても、これはその基本法が乱用のできるような
法律でありますから、このような修正をいたしまして一カ条を加えた
ところで、それはもあの用には立たないと存ずるのであります。かような
意味におきまして、民社党の
修正案に対しても反対をするものであります。
かようにわれわれは、いわゆる政府が
暴力団撲滅の
法律として出した本
法案に対して反対をする。
暴力団の撲滅に対して
社会党は不誠意ではないか、熱意がないではないか、こういうことを言われるのでありまするが、われわれは、現在の
暴力団は、現行刑法をもって官民一体となり、
行政措置によってその
取り締まりを遂行し、その現行刑法をフルに適用いたしますならば、何もこの
法律をつくって
改正してやる必要はないというたてまえをとっておるのであります。したがいまして、われわれはこの
暴力団の
対策に対しては熱意を持っておるのであります。先日
暴力対策要綱を発表いたしたのでありまするが、すなわち、この
暴力団の撲滅に対しては、
社会党も政府も与党も一体となりまして、ここに
行政措置の円満なる遂行を期して、そうして現行刑法をその撲滅のために運用する。こうやらなければならない。したがいまして、チンピラの
お礼参り等のためにこの
法律の法定刑の最下限を上昇しまして、そうして権利保釈ができないようにする、こういうことを言われるのでありまするが、常習者とか、あるいは保釈になって、その本人が被害者とかあるいは近親者に対して被害を加える場合は、刑事訴訟法において権利保釈の場合にこれを除外してあるのであります。何もこの
法律の最下限を上げまして、そうして権利保釈の点をこの
法律でやる必要はないのであります。いなむしろ、これは労働運動等においてこの
法律を拡張乱用いたしまして、そうしてたとえばストライキの場合においては、その組合の指導者をこの
法律の容疑者として逮捕して、さらに起訴するときに権利保釈をしないということになりますると、ストライキはついに——その組合の活動家、その主力となって働く人がこの
法律の乱用によってぶち込まれるということになれば、自然とそのストライキは労働者側に不利になる。こういう結果になるのでありまして、こういう点からいたしましても、労働組合、大衆連動の弾圧法であると言わざるを得ないのであります。こういうようにわれわれは、この現行刑法のもとにおいて
行政措置を官民一体となって完璧を期して、
暴力団対策に邁進しなければならない、かように
考えておるのであります。さような
意味におきまして、本
暴力法は、政府の言われる
暴力団退治のための
法律ではなくして、それはいわゆる表面のことばであり、その衣の下は大衆運動、労働運動を弾圧する
ところの
法律である。これを指摘いたしまして、この
法律案並びに民社党の
修正案に断固反対の趣旨を明らかにするものであります。(拍手)