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田中(織)
委員 刑法の全面的改正のときに本来なら吸収すべきものだ、それまでのつなぎ立法だということを述べられたのでありますが、先般
坂本委員からでありますけれ
ども、ポツ勅が出た、そのときにこういう民衆
運動への弾圧法規が撤廃されたときに、この
暴力法が生き残ったという
関係から今日これがまかり通っておるわけなんです。そういう
関係から見るならば、あなたの刑法ができるときまでの時限立法だということもにわかに信用できない、こういう問題が
一つあります。
それから、先ほど銃砲刀剣類の点につきましては、定義を入れることは法のていさい上云々と言うけれ
ども、私は法のていさいがどうあろうと、むしろこの点はやはり明確に入れることのほうが立法者としての立場から見れば
国民に親切だと思う。しかもその点について、もし時代の進運に従って銃砲刀剣類の範囲がかりに広くなってくるような場合には、そのとき改めなければならぬ、そういう情勢が出れば私は改めていいと思う。それを一見銃砲刀剣等
取り締まり法の定義と似たようなものだ、しかしふくらんでくるかもしれぬという
答弁が行なわれている現状では、やはり定義を入れて明確にしていくべきだという主張は出てくるので、その点から
竹内局長の
答弁には納得するわけにはいかないのであります。
それより重大な問題は、やはり今度は触れていないと言われるのでありますけれ
ども、一条一項が従来立法の当時の
精神からずいぶん逸脱した形で労働争議だとかその他の民衆
運動の
取り締まりにいわゆる
治安維持法その他と同じような形でこれが使われてきた。このことについては、時代の変化、情勢の変化というようなものも全然
考えないで、いまから
考えれば、これは少なくともそういう立法当時の方向から別な性格のものに実際の運用の結果なっているという事実を全然あなた方が認めないということは私は納得がいかないのです。先ほど私があげた例はいずれも戦後の問題であります。
裁判があるのだから、それで無罪になったらそれでいいじゃないかというような
意味の
法務大臣の
答弁がございましたけれ
ども、それは私はとんでもない
答弁だと思うのです。少なくとも正当なる
労働組合運動のカテゴリーへ入るものを、越軌行動だという形で
警察官なり検事なりがそういう判断の上にこれで逮捕し、あるいは
裁判にかける。その間における被疑者、被告の苦痛というものを
考え、組合
運動、労働争議のような時間的に制約されるものに対して指導者がそういうような形でやられることが、その争議の
労働組合がねらうものに対してどういう
影響を及ぼすかということもあわせて
考えなければならない問題だと私は思うのです。その点の配慮が私は欠けておると思う。
ことに私は現在部落解放同盟の書記長という立場でありますけれ
ども、大正十五年に
暴力法が制定されたときに、江木さんが特に水平
運動にもこれは適用しないのだと言いながら、水平
運動、現在の部落解放
運動でありますけれ
ども、幾たびか適用されておる。私がこの
法律を知ったのは中学四年のときです。私の村で差別事件が起こった。そこでお寺の前にある青年集会所に差別者に来てもらって、どういうことでそういう差別言動を君はするに至ったかということを問いただした。それが
暴力行為等処罰に関する
法律違反だということで
関係者が十人ばかり引っぱられた。そのうちの三人は起訴されて、いずれも三カ月ないし六カ月の懲役で、そのうちの一人は服役をして間もなく、病気でありますけれ
どもなくなったという事例があるのです。あなた方は差別問題というものについての
認識が欠けておると思うのです。今日そういうことはあり得ないことだと言いますけれ
ども、差別される側の人たちにとってみれば、これは死を
意味する重大なる侮辱であり、私は
人権侵害だと思うのです。その差別をされた者があべこべに
暴力行為で処罰されるというようなことがたびたび起こってきておるのです。私は
国会へ出てから十八年になりますけれ
ども、この
法務委員会で取り上げた問題の数だけでも十七、八件にのぼります。埼玉県の深谷の在で起こりました差別事件の問題については、当事者の間で話がつきました。そうしたら、それをあとで
警察が、その示談のときに見舞い金か何かで金を三万円か五万円受け取った。そういう事実をつかまえて、これを
暴力行為等処罰に関する
法律違反だということで
検挙いたしました。
裁判にかけられました。私らは
裁判所にも
検察庁にもその不当を追及いたしました結果、その事件は執行猶予ということでけりがついておる事件がございます。これな
ども、
取り締まりの
警察なり
検察庁というものが部落問題に対する
認識がなければ、これはとんでもない方向に——今度の改正で触れてないというのですけれ
ども、第一条第一項がそういう面に進んでくるという危険性は多分にあります。現に先月最終的な口頭弁論が終わったわけですが、私も特別弁護人の一人でありましたが出ました。いまから三年前になりますけれ
ども、高知県の興津で起こった事件がございます。差別問題から端を発して百二十戸の部落で全部合わせて六十名ばかりの中小学生が同盟休校に入りました。ところが校長が、同盟休校に入ったけれ
ども、学力の低下を防ぐ
意味で、分散教授という名目で、部落の消防器具の置き場の二階で約三十脚ばかりの机といすを子供たちに貸して、そこへ学校の先生が行って分散授業をやった。その解決のために県議会の
諸君までも出ましたけれ
ども、打ち切るか打ち切らないかというようなことになったやさきに、教育
委員会が、その器具を引き揚げたら盟休が打ち切られるだろうということで、形式的にその器具の返還を教育
委員会から部落長に通知をいたした。そしていよいよその器具を撤収にかかりました日にちには、高知県警から二百五十名の武装警官がトラック十二台に分乗いたしまして現地へまいりました。そして朝の六時、八時、午後一時というように、三回にわたってそれに襲撃を加えて起こった事件であります。問題は、百二十戸の部落で年寄り子供合わせても三百人といないところに、二百五十名の武装警官を派遣したのです。しかも問題は、これは
国会の速記録に明らかに出ていますが、正式な分散教授で、校長が貸し与えた机三十脚ばかりのものを返還させるために、それは教育
委員会の立場からいえば
一つの公務執行でしょう。しかもそれは部落の集会を開いて、返しますということを申し出ているにもかかわらず、その消防器具置き場の前へ——私も現地へ行っていますが、そこはトラックが入れないのです。大型のトラックをバックでしなければ入れないようなところへ入れまして、私はここにそのときの窪川の
警察署長が鉄かぶとで住民に対峙している写真を持っていますが、それで女子供に
相当なけが人が出ている。ところが、それが公務執行妨害で現に高知地裁で
裁判に係属しているのです。それだけ狭い道路に武装して入ってきているのでありますから、自分たちの装備の
関係でかすり傷を負ったりなんかした者はないとは言えないと思います。ところが、その
警察官側の二日か三日のかすり傷がいわゆる傷害で、公務執行妨害、最初は
暴力行為等処罰の
法律で逮捕状も出ています。しかも、この点は先々
国会に
坂本委員が取り上げておるのでありますが、急を聞いて私
ども同盟本部から弁護士をつけました。窪川の
警察がその弁護届けを持っていくのに対して、逮捕されている者の兄と一緒に弁護士が行くと、お前が兄だということを証明する戸籍謄本を持ってこなければ弁護届けはなにしない、兄弟だと言うたら、米穀通帳を持ってこい。あまりに耐えかねて、窪川の簡裁でいわゆる面接についての簡裁の命令をもらって行って、この問題は弁護士の弁護活動を妨害するのだということで告訴事件が高知地裁に出ましたけれ
ども、これなどは全く部落民というのは集団的な
暴力団か何かのような形で、昔エタ狩りというのがあったそうでありますけれ
ども、全くそれと同じような状態じゃないかということを私はそのときにも取り上げたのであります。そのときには、前の晩から行っている
警察官の連中が聞いていないのに、村の人たちが、何でもあすは警官が来るから大ぜいの者がかまだとか、そういうような武器を持って集まれという放送をしたというようなことを、当時県警の警備部長が私に言った。君は現場にいなかったのか、前の晩からおりました、
公安検事が出ています、こういう形でやっている。ここに写真がございますが、このまん中でごろつきの親分みたいな顔をしているのが窪川の
警察署長です。そういう問題は、部落民にとっては死に値するいわゆる差別なんです。まとまりかけた縁談がつぶれたという話もございます。あるいはそれによって子供ができてから別れ話が出たために、気に病んで自殺したという事件が毎年二件や三件ございます。この問題に対しても、やはり差別者を
処置するということではなしに、従来の
関係から見たら、
暴力行為取締法で部落全体に加えられた被害でありますから、部落の人が激高するのはあたりまえです。そういうことに対抗する道がいま許されていますか。
私は過日来
予算委員会、当
法務委員会でも問題にしている
一つの問題がございます。それは
賀屋大臣も御存じでありますが、法務省の
人権擁護局の下部末端で、民間から選ばれている
人権擁護
委員について、部落問題についてのアンケートを求めた。それの集約だというのでありますけれ
ども、特に最後にこういうことが書いてある。「その他参考となること」として、「同和地区」これは部落のことです。「同和地区は、それぞれ集団で居住しており、自己防衛の手段としている場合が多く、集団の威力を対外的に表示し、又地区外の人は、それに恐怖をもち、益々差別を深くしている現状であり、」こういう一句があるのです。これは
人権擁護局の
人権擁護
委員のアンケートからあらわれたものだということで、
人権擁護局長が逃げでいるのですけれ
ども、封建時代の身分制のために、住居することも就職することも結婚することもいろいろ制約されて、今日まで長く尾を引いて
一般からさげすまれて、今日でも就職上の差別がありますよ。そういう状態にだれが追い込んだかということを
考えずに、部落というものは集団生活をしている、集団の威力を対外的に表示して地区外の人々にいわゆる恐怖心を与えておるという。私は、
人権擁護
委員の中からアンケートに回答されたものをとにかく全部出してもらいたいと思う。これは
人権擁護
委員の
諸君で、
人権擁護局はそういうことは
考えていないということをたびたび申されておりますけれ
ども、奈良の法務局へまいりますと、それは中央で取り上げているからということで、私
どもの
関係団体の人たちに面会も断わっている。これも私は
一つの重大な問題だと思うのです。そういう因縁があるから、いわめる部落解放
運動とか水平
運動というものには、多数あるいは
団体という立場で交渉が行なわれることがほとんどの場合です。それだからといっても、適用しないということを言明しているけれ
ども、できてみれば、その差別者を保護するためにというか、むしろ差別者を保護するようなかっこうで、差別された被害者を保護するということが、とにかく全然欠けておる。ほかにも、和歌山県の日置に起こった事件もございます。田辺の
検察庁のある検事が、朝鮮人は朝鮮人と言われて何が悪い、おまえら部落民は部落民と言われて何が悪いということを、日置事件のときに検事がなにしましたから、私らは、それは許すことはできないということでその問題を取り上げましたら、撤回しました、謝罪しました。
私は
一つの極端な例としてこの問題を取り上げたのですけれ
ども、従来から小作争議というものは——戦前におきましては、小作民というものはきわめて条件の悪い立場に置かれました。私も、学生時代でありますが、全国農民組合福佐連合会というのに書記として働いたことがあります。福岡県の糸島郡で、小作米を納めるのに組合員を集めて、地主さんに来てもらいたい、共同ばかりということで、組合員が小作米を現物で払う時代でありますけれ
ども、たまたまそのときに不作の年でありましたから、自分たちは払えるだけの米を集めているのですけれ
ども、ここで反当たり何斗というものをまけてもらって米を受け取ってもらえないかということで交渉したのが、
暴力行為で、私は引っかけられなかったけれ
ども、その組合員がやられたという事例を持っているわけです。
労働組合も組合をつくること自体が異様でないまでにいたしましても、何らの法的な保護を受けなかった時代はともかくとして、今日憲法で労働者の団結、団交、罷業権が認められて、それぞれ
法律ができておる。その組合活動のものも、従来の色めがねから見るならば越軌行動だということで一条一項が適用されてきたということは、これはやはり越軌行為の限界という問題にもおのずからわれわれは判断を持っています。何でもそれをやるという形のものが過去においてあったばかりでなくて、最近においてもそれがあるのではないか。だから、たびたび具体的な事例をあげるようでありますけれ
ども、先年の三池の争議のときだってそうじゃありませんか。四山で久保清君が殺されたときには、あなた方の
資料の中にもあるように、久保君に襲いかかったのは百人からの
暴力団だということをあなた方は書いている。しかし、久保君を殺した者は一人だけは殺人罪で起訴されましたけれ
ども、その襲いかかった
暴力団に
暴力行為
取り締まり法を適用したという事例がありますか。しかも
資料の中には三池争議という紛争になって
暴力団が出てきた。だから紛争を起こした組合があたかも悪いような立場で、あなたたち最近における
暴力事犯として出してきている。一番最近にある問題については、久保君の場合にはやはり
暴力団百名——百名だけではありません。三池の争議がああいう形で圧殺されたという点については、これはやはり
取り締まり当局の
警察、会社が雇った
暴力団、それで結局久保君のような犠牲者を出した。現在それでなお
裁判が進行してきている。三池の組合側の被告のほとんど全部というのが
暴力行為処罰法で現在やられているという実情ではありませんか。だから、今度できた一条ノ二なり三が
労働組合運動等に適用がないということをあなたたちが言われても、一条一項というものが従来そういう形で拡張解釈される労働刑法だ、この前の
公安調査庁次長の関さんがはっきり労働刑法だと言ってものの本に書いています。そういう形に運用されてきておるというこの因縁の
法律に、いわば
法制的にいえば刑法のほかの条項に入れるべきが、かりにこれが残っておるといたしましても、それに一条ノ二、三という形で、あなたたちはそれのほうがていさいがいい、あるいは全面的改正ができるまでの時限立法だからこれを入れることを認めてもらいたいということになっている。そこに問題が起こるということを懸念するから、私
どもはこの点を追及いたしておるわけなんです。
そこで
法務大臣に、以上申し述べた点から、あなたたちは過去において、これは戦前戦後を通じて一条一項というものは乱用した、拡張解釈で弾圧法規になったという事例はないと言明するのか、あるいは過去においてはそういう点がなきにしもあらずだから、運用については、これは
改正案に触れなくたって
現行法として残っているのだから、その運用にあたってはあなたたちが今後十分留意するかどうか、私はその点を明らかにする義務があると思うのですが、いかがですか。