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1964-03-05 第46回国会 衆議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十九年三月五日(木曜日)    午前十一時十二分開議  出席委員    委員長 濱野 清吾君    理事 鍛冶 良作君 理事 唐澤 俊樹君    理事 小金 義照君 理事 小島 徹三君    理事 三田村武夫君 理事 神近 市子君    理事 坂本 泰良君 理事 細迫 兼光君       上村千一郎君    臼井 莊一君       大竹 太郎君    亀山 孝一君       四宮 久吉君    田村 良平君       服部 安司君    井伊 誠一君       久保田鶴松君    松井 政吉君       横山 利秋君    竹谷源太郎君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 賀屋 興宣君  出席政府委員         警  視  監         (警察庁警備局         長)      後藤田正晴君         法務政務次官  天埜 良吉君         検     事         (大臣官房司法         法制調査部長) 津田  實君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君  委員外出席者         検     事         (刑事局総務課         長)      辻 辰三郎君         日本国有鉄道参         事         (総裁室法務課         長)      上林  健君         専  門  員 櫻井 芳一君     ————————————— 三月三日  委員田村良平辞任につき、その補欠として福  田赳夫君が議長指名委員に選任された。 同日  委員福田赳夫辞任につき、その補欠として田  村良平君が議長指名委員に選任された。 同月四日  委員横山利秋辞任につき、その補欠として卜  部政巳君が議長指名委員に選任された。 同日  委員卜部政巳辞任につき、その補欠として横  山利秋君が議長指名委員に選任された。 同月五日  委員千葉三郎君及び馬場元治辞任につき、そ  の補欠として上村千一郎君及び臼井莊一君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員上村千一郎君及び臼井莊一君辞任につき、  その補欠として千葉三郎君及び馬場元治君が議  長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出第三八号)  刑事補償法の一部を改正する法律案内閣提出  第四一号)  逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案(内  閣提出第一一四号)  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第一二  八号)  法務行政及び検察行政に関する件      ————◇—————
  2. 濱野清吾

    濱野委員長 これより会議を開きます。  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案議題といたします。  本案に対する質疑は去る二月二十七日終了いたしております。  これより討論に入る順序でありますが、別に討論申し出もございませんので、直ちに採決いたします。  本案賛成諸君起立を求めます。   〔賛成者起立
  3. 濱野清吾

    濱野委員長 起立多数。よって、本案原案のとおり一決すべきものと決しました。     —————————————
  4. 濱野清吾

    濱野委員長 本案に対し自由民主党日本社会党及び民主社会党共同提案にかかる附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  この際、この動議について提出者からその趣旨説明を求めます。鍛冶良作君。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いま委員長からお述べになったように自由民主党日本社会党及び民主社会党共同提案をもって附帯決議案を提出いたしたいと思います。  案文を朗読いたします。    裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に対する附帯決議  裁判所関係定員は、今回の増員をもってしても裁判の適正迅速化並びに交通事件の処理の円滑化をはかることは到底達成されないと思考する。  よって政府は、裁判所定員増についてなお格段努力をすべきである。   右決議する。 右提出いたします。  理由は、申し上げるまでもなく読んで字のごとしと思いまするが、今後裁判所においてはたいへん仕事がふえることはわかっておりますから、これにおくれないように定員を増員してもらいたいことを希望するわけでございます。
  6. 濱野清吾

    濱野委員長 本動議について採決いたします。  本動議賛成諸君起立を求めます。   〔賛成者起立
  7. 濱野清吾

    濱野委員長 起立多数。よって、本動議は可決されました。      ————◇—————
  8. 濱野清吾

    濱野委員長 次に、刑事補償法の一部を改正する法律案議題といたします。  本案に対する質疑は去る二月二十八日終了いたしております。  これより討論に入る順序でありますが、別に討論申し出もございませんので直ちに採決いたします。  本案賛成諸君起立を求めます。   〔賛成者起立
  9. 濱野清吾

    濱野委員長 起立総員。よって、本案原案のとおり全会一致をもって可決するに決しました。     —————————————
  10. 濱野清吾

    濱野委員長 本案に対し自由民主党日本社会党民主社会党及び日本共産党共同提案にかかる附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  この際、本動議について提出者からその趣旨説明を求めます。鍛冶良作君。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 各派共同提案にかかる本法に対する附帯決議を提出いたしたいと存じます。  まず、案文を朗読いたします。    刑事補償法の一部を改正する法律案に対する附帯決議  今回の刑事補償金増額をもつてしても充分刑事補償目的を達し得るや否や疑問である。  よって政府は、今後さらに経済情勢推移に鑑み、冤罪者に対する補償改善をはかるべきである。   右決議する。  本法は、昭和二十五年に制定されましてから今日までそのままの補償額でございます。ずいぶん社会情勢が変わっておりますのに、きょうまでその社会情勢に追っついてこなかったことはまことに遺憾と存じますが、おくればせながら今回改正されたことはまことに喜ぶべきことでございます。しかし、はたして適正であるかどうかはまだ疑問であると考えますので、今後政府十分経済情勢推移にかんがみて、これにマッチするように改善せられんことを望むわけでございます。(拍手)
  12. 濱野清吾

    濱野委員長 本動議について採決いたします。  本動議賛成諸君起立を求めます。   〔賛成者起立
  13. 濱野清吾

    濱野委員長 起立総員。よって、本動議全会一致をもって可決されました。  この際、両案に付されました附帯決議に対し、政府の所信を求めます。法務大臣
  14. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 ただいま両案につきすみやかに御審議をいただき可決していただきまして、感謝いたします。  なお、両案につき附帯決議をつけまして御決定になりましたが、裁判所定員増について、なお格段努力をすべきこと、また刑事補償につきましては、経済情勢推移にかんがみ冤罪者に対する補償改善をはかること、この御趣旨に対しましては、政府としても今後も努力をいたす所存でございます。
  15. 濱野清吾

    濱野委員長 おはかりいたします。ただいま可決せられました両案に対する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  16. 濱野清吾

    濱野委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。   〔報告書は附録に掲載〕      ————◇—————
  17. 濱野清吾

    濱野委員長 次に、逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案及び刑法の一部を改正する法律案一括議題といたしまして、政府より両案に対する逐条説明を求めます。竹内刑事局長
  18. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 まず逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案につきまして、逐条説明を申し上げます。  第一条関係でございます。現行法は、わが国との間に犯罪人引き渡しに関する条約が締結されている外国から、同条約に基づいて犯罪人引き渡し請求が行なわれたことを前提として、その引き渡し手続等規定するたてまえをとっておりますため、第一条におきまして、まず「締約国」の定義を定めるとともに「引渡犯罪」及び「逃亡犯罪人」を引渡条上引き渡し請求をすることができる犯罪及び犯罪人といういわば抽象的な概念として定義をいたしておるのでございますが、改正案におきましては、改正後の本法引渡条約に基づかないで引き渡し請求があった場合にも適用されることを明確にいたします関係から、新たに「請求国」の定義を設けるとともに、「引渡犯罪」及び「逃亡犯罪人」をそれぞれ引き渡し請求においてその対象とされる犯罪人が犯したとする犯罪引き渡し請求にかかる犯罪人で右の犯罪について請求国刑事手続が行なわれた者というように、いわば具体的な概念として定義することといたしました。なお、第一項において「引渡条約」の定義規定することとしたのは、「締約国」の定義が削除されることに伴う技術的整理でございます。  次に第二条関係でございますが、本条関係実質的改正点は、新第三号及び第四号を設けて、引渡条約に別段の定めがない限り、逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合といたしまして、新たに引渡犯罪請求国及び日本国のいずれかの法令により死刑または無期もしくは長期三年以上の自由刑にあたる罪とされていないときを加えることとした点でございます。  引渡条約の存する場合におきましても、引き渡し請求をすることができる犯罪は、条約中において罪名を制限的に列挙され、あるいは、抽象的に法定刑長期または宣告刑基準として比較的重い罪に限定されるのが通例でございますが、引渡条約に基づかずに、被請求国裁量によって行なわれる逃亡犯罪人引き渡しの場合に、引渡犯罪に限定を加えることなく、いかなる犯罪の場合にも引き渡し得るものといたしますことは、引渡条約に基づく場合との間の権衡を失するばかりでなく、軽微な犯罪についてまで引き渡しを行なうものといたしますことは、人権保護見地から好ましくないと考えられるのであります。諸外国逃亡犯罪人引き渡しに関する立法例も、かかる場合には、この見地からおおむね比較的軽微な犯罪引き渡し対象から除外することといたしているのでございます。改正案においては、引渡犯罪が従来わが国において比較的軽微な犯罪としからざるものとを区別する一応の基準と考えられております法定刑死刑または無期もしくは長期三年以上の自由刑にあたる罪であるかどうかをこの場合におきましての基準としてとることとし、引渡条約に基づかないで引き渡し請求がなされた場合には、請求にかかる犯罪請求国法令においても、また日本国法令においても、法定刑として死刑または無期もしくは長期三年以上の自由刑が定められている場合にのみ引き渡しを行なうことができるものといたした次第でございます。  なお、本条関係のその余の改正は、引渡犯罪定義が改められた(改正後の第一条第四項)こと、及び新たに請求国定義が設けられた(改正後の同条第二項)ことに伴って字句修正をするとともに、新しい第三号及び第四号の挿入に伴う号数整理を行なったものでございます。  次に第三条関係本条関係の実質的な改正点は、第三号において、引渡条約に基づかないで、引き渡し請求が行なわれた場合には、請求国からいわゆる相互主義に基づく保証がなされたときにのみこれに応じ得るものとした点でございます。  引き渡し条約の存する場合には、締約国は、当該条約において引き渡し請求ができるものとされている犯罪について、条約の定めるところに従い、相互引き渡しを義務づけられているのでありますが、引渡条約が存在しない場合におきましては、引き渡しの許否はもっぱら被請求国裁量にかかるところでございますから、請求国から相互主義に基づく保証のないままに引き渡しを行なうことといたしますれば、被請求国逃亡犯罪人を一方的に引き渡すのみで、後に逆の同種事例が生じても犯罪人を引き取り得ない結果となるおそれがあるからでございます。同種請求に応ずべき旨の保証ということは、まさに、このいわゆる相互主義を表現したものでございますが、この同種請求とは、犯罪の質及び態様等社会通念及び法律常識から見ておおむね同じ価値と評価されるべき犯罪についての引き渡し請求をいうものと解しておるのでございます。  本条関係のその余の改正は、右の保証に関する第二号の新設等に伴う技術的整理でございます。  次に第四条関係本条関係実質的改正点は、新たに第一項第三号及び第二項を設け、引渡条約に基づかないで引き渡し請求がなされた場合において、法務大臣外務大臣と協議して、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるときは、裁判所による審査請求手続を経るまでもなく、その引き渡し請求を拒み得ることを明らかにした点でございます。  引き渡し条約に基づかない引き渡し請求につき、これに応ずるかどうかは、もっぱら被請求国政府裁量にゆだねられるところであり、諸外国立法例もこの場合において引き渡し請求に応ずるかいなかの判断を行政府にゆだねているのでございます。改正案においては、この場合の認定法務大臣において行なうことといたしますとともに、事柄の性質引き渡しを不相当とする認定をしようとする場合には、あらかじめ外務大臣と協議すべきものといたした次第でございます。  本条関係のその余の改正は、第二条の号数整理に伴う字句修正にとどまっておるのでございます。  次に、第五条及び第八条関係でございます。これは、第四条に第二項が設けられましたこと、及び請求国定義が設けられましたことに伴う字句修正にとどまっております。  次に、第十一条関係でございます。第三条において引渡条約に基づかない引き渡し請求があった場合に関して、いわゆる相互主義に基づく保証を要件として規定したことに伴う改正と、請求国定義が設けられましたこと及び第四条に第二項が新たに設けられましたことに伴う字句修正でございます。  次に、第十四条、第十六条及び第十九条から第二十条までの関係でございます。いずれも第二条の号数整理及び請求国定義が設けられたことに伴う字句修正でございます。  次に、第二十三条から第三十条までの関係でございます。引渡犯罪及び逃亡犯罪人定義が改められましたこと、及び第四条に第三号及び第二項が新設されたことに伴う字句修正にとどまっております。  なお、第二十三条から第三十条までの間に規定しております仮拘禁制度は、もともと逃亡犯罪人引渡条約の規定前提として設けられたものであり、引渡条約に基づかない引き渡し請求に関してまでもこの制度を適用いたしますことは必ずしも適当とは考えられないのでありまして、改正案におきましては、仮拘禁に関する規定には実質的改正を加えず、引渡条約に基づかない引き渡し請求に関しましては、仮拘禁を行なわないということにいたしておるのでございます。  第三十三条関係は、引き渡し犯罪及び逃亡犯罪人定義が改められましたことなどに伴う字句修正にとどまっております。  最後に、附則関係でございますが、第一項は「この法律は、公布の日から施行する。」という点、それから第二項は「この法律による改正後の逃亡犯罪人引渡法規定は、この法律施行前に犯された犯罪に係る犯罪人の引渡しの請求についても、適用する。」第3項は刑事補償法の一部改正でございます。  この第二項は、経過規定として、改正法施行前に犯された犯罪に関して引渡条約に基づかない引き渡し請求があった場合にも、改正後の本法を適用することを明らかにいたしたものでございます。  第三項は、刑事補償法第二十六条を改正し、今回の改正に伴い、わが国外国に対して引渡条約に基づかないで逃亡犯罪人引き渡し請求した場合に、当該外国引き渡しのために行なった抑留または拘禁をも、わが国刑事補償対象となる抑留または拘禁とみなすことといたしまして、この種逃亡犯罪人人権保護をはかったものでございます。  以上が逐条説明でございます。  引き続きまして、刑法の一部を改正する法律案逐条説明をさせていただきます。関係条文をごらんいただきながらお聞き取りをいただきたいと存じます。  まず第二百二十五条の次に次の一条を加えるという点でございますが、本項は、刑法第二百二十五条の二といたしまして、身のしろ金目的誘拐罪及び拐取者の身のしろ金要求罪を新設する趣旨規定でございます。  まず、第一百三十五条の二第一項でございますが、いわゆる身のしろ金目的略取または誘拐に関する規定でございます。従来、この種の誘拐営利誘拐の一種と解されてきたのでありますが、それが被拐取者生命または身体に対してきわめて危険な犯罪であること、被拐取者近親等の極度の心痛を利用して利得を得ようとする犯人心情が卑劣きわまるものであること、犯人は検挙されましても被拐取者の生死、所在がわからない場合も予想されること、さらには模倣性の強いこの種の犯罪の発生を未然に防止する必要があること等にかんがみまして、無期または三年以上の懲役という重い刑をもってこれに対処しようとする趣旨規定でございます。もっとも、後に説明いたします新第二百二十八条の二によりまして、犯人が被拐取者を自発的に解放した場合には、必ず刑の減軽が行なわれることになっているので、無期懲役の、言い渡しができないことはもちろんでございます。なお、刑の下限を懲役三年といたしましたのは、身のしろ金目的誘拐のうちにも、犯人と被拐取者との関係、拐取後の拘束時間、犯人による被拐取者の取り扱い方などからみて、具体的事案によりましては被拐取者生命身体に対する危険が低い場合があり得ることを考慮したからでございます。  身のしろ金目的誘拐罪は、近親その他被拐取者安否憂慮する者の憂慮に乗じてその財物交付させる目的で人を略取または誘拐したときに成立するのでございます。目的をこのように規定することによりまして、いわゆる身のしろ金目的誘拐、すなわち、被拐取者生命、身対に体する危険を感じさせ、しかも、これに関する近親等憂慮心痛につけこもうとする悪質、危険な誘拐を実質的にとらえることができると思うのでございます。従来用いられてきた身のしろ金ということばを避けましたのは、それが釈放の代償、すなわち被取拐者の釈放または返還の対価と解されるおそれがあり、そう解されました場合には、一方では、被拐取者を殺害した後に要求したり、釈放するつもりはなしに要求する場合を含まず、他方ではたとえば離婚した夫婦の一方が他方監護下にある子供を誘拐して財産分与増額等要求する場合のように、被拐取者の安全について憂慮されるような事情の存在しない場合までも含むことになるからでございます。  この目的規定のうち、近親その他被拐取者安否憂慮する者とは、被拐取者との間に密接な人間関係があるためその生命または身体に対する危険を親身になって心配する者をいうのでございます。身のしろ金目的誘拐罪本来の性質から見て、単に被拐取者またはその近親の苦境に同情するにすぎない第三者がここに含まれないことは当然でございますが、本項においては、「近親其他」の語を加えることによりまして、その趣旨を一そう明らかにした次第でございます。憂慮に乗じてその財物交付させるとは、被拐取者安否に関する近親等憂慮につけこんで、その近親等財物交付を強要することをいうのでございますが、犯人がそのような目的をもって略取または誘拐をすれば足りるのであって、現実財物交付を受ける可能性があったかどうかはこの際問題にならないのでございます。なお、財物取得の場合だけを規定いたしまして、その他財産上不法の利益を得る場合を除外いたしましたのは、財物以外の利得目的とする誘拐が、実際問題としてはほとんど考えられないと思うからでございます。  身のしろ金目的誘拐罪における行為も、他の誘拐罪の場合と同じく、暴行、脅迫等による略取と、欺罔、誘惑等による誘拐と両方でございます。  新第二百二十五条の二第二項でございますが、これは略取誘拐犯人による身のしろ金の取得または要求に関する規定でございます。この罪の主体は、人を略取または誘拐した者でございまして、身のしろ金目的誘拐罪を犯した者はもとより入るのでございますが、そのほかに未成年者誘拐営利、わいせつまたは結婚目的誘拐あるいは国外移送目的誘拐等の罪を犯した犯人がこれに含まれるのでございます。身のしろ金目的以外の目的誘拐罪を犯した場合でありましても、犯人がその後になって身のしろ金取得目的を生じ、現実に身のしろ金の要求をする段階にまで達しますれば、被拐取者生命身体に対する危険、その安否に関する近親等憂慮、これを利用しようとする犯人心情の卑劣さにおいて、初めからその目的があった場合と同様に評価することができるのでございまして、身のしろ金目的誘拐罪と同じく、これに無期または三年以上の懲役という重い刑を規定し、新しい第二百二十八条の二による解放減軽の適用を認めようとする趣旨でございます。  本項によって処罰の対象となりますのは、誘拐犯人近親その他被拐取者安否憂慮する者の憂慮に乗じてその財物交付させた場合、及びそういう目的財物交付要求する行為をした場合でございます。犯人の主観からいたしますれば、財物交付させることが終局目的であり、要求行為にとどまった場合は、言うなればその未遂に当たるわけでございますけれども、本項を設けました趣旨から見て、犯人終局目的を達したかどうかはさまで重要でないのでありまして、要求行為交付させる行為とを同様に取り扱うことといたしたのでございます。これを要求する行為というふうに規定していますことは、身のしろ金取得目的でした一切の要求行為を包含する趣旨でございまして、そのような要求行為をした以上、身のしろ金を要求する犯人の意思が何らかの理由相手方に到達しなかった場合、あるいは相手方が実際には被拐取者安否憂慮していなかった場合でありましても、犯罪の成立することに変わりはないと存ずるのでございます。  なお、従来身のしろ金の取得または要求強盗になるのか恐喝になるのかは解釈上必らずしも明らかでなかったのでございますが、本項のように特別の罪を設けましたことにより、これに当たるすべての行為につきましては、強盗罪または恐喝罪の成否を問題とする余地がなくなるのであります。  次に、第二百二十七条第一項中「前三条」を「第二百二十四条、第二百二十五条又ハ前条」に改め、同項の次に次の一項を加えるという「第二百二十五条ノ二第一項ノ罪ヲ犯シタル者奮励スル目的以テ拐取者収受クハ蔵匿シ又ハ隠避セシメタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス」、この点でございますが、本項の前段は、第二百二十五条の二の規定が新設されることに伴いまして、第二百二十七条第一項に字句整理を加えるだけの趣旨であり、後段は、同条第二項として、身のしろ金目的拐取幇助罪の既定を新設する趣旨でございます。  この身のしろ金目的拐取幇助規定、つまり新第二百二十七条第二項は、新第二百二十五条の二に規定する身のしろ金目的誘拐罪が他の誘拐罪より重いものであることにかんがみまして、身のしろ金目的誘拐罪を犯した犯人事後に幇助する目的で、被拐取者収受し、蔵匿し、または隠避させる者に対し、他の誘拐罪事後に掃助する場合より重い刑を規定する趣旨のものでございます。ここにいう収受蔵匿、隠避も、第二百二十七条第一項の場合と同じく、それぞれ被拐取者の身柄を受け取ること、被拐取者発見を妨げるべき場所を提供すること、及び蔵匿以外の方法により被拐取者発見を免れしめる一切の行為をすることをいうのでございます。なお、身のしろ金目的誘拐罪における拐取行為自体を補助いたしました者は、新しい第二百二十七条第一項によって処罰されるのではなく、新しい第二百二十五条の二第一項の共犯の中の幇助犯として処罰されることになることは申すまでもないのでございます。  次に、第二百二十七条に第四項として一項を加えるという点でございます。本項は、第二百二十七条第四項といたしまして、身のしろ金目的の被拐取者収受罪及び収受者の身のしろ金要求罪規定を新設する趣旨規定でございます。  その身のしろ命目的の被拐取者取受の規定でございますが、新しい第二百二十七条第四項の前段は、新しい第二百二十五条の二の第一項に掲げられた目的、すなわち、近親その他被拐取者安否憂慮する者の憂慮に乗じてその財物交付させる目的で被拐取者収受した者に対し、現第二百二十七条第二項に規定する営利またはわいせつ目的の被拐取者収受より重い法定刑規定するものでございまして、その立法趣旨及び目的の意義は、新しい第二百二十五条の二第一項の場合に申し述べましたと全く同じでございます。  収受者の身のしろ金要求、新しい第二百二十七条第四項の後段でございますが、この規定は、新しい第二百二十七条第一項ないし範三項または第四項前段の罪を犯して被拐取者収受した者が、近親その他被拐取者安否憂慮する者の憂慮に乗じてその財物交付させ、またはこれを要求する行為をした場合、すなわち、身のしろ金を要求または取得した場合には、新第二百二十七条第四項前段と同じ刑に処することとする規定でございます。その立法趣旨及び行為の内容は、新第二百二十五条の二第二項の場合と全く同じでございます。  次に、第二百二十八条中「本章」を云々というこの改正の点でございます。  本項の前段は、誘拐罪等の未遂罪を規定する筋二百二十八条の規定整理いたしまして、この法律案によって新設される身のしろ金目的誘拐、新しい第二百二十五条の二第一項、身のしろ金目的拐取幇助、新しい第二二七条第二項及び身のしろ命目的の被拐取者収受、新しい同条第四項前段につきましても、その未遂罪を処罰することとする趣旨規定でございます。これに反しまして拐取者または収受者の身のしろ金要求罪、新しい第二百二十五条の二の第二項、第二百二十七条第四項後段、この身のしろ金要求罪につきましては、いわば未遂に当たる要求行為自体が処罰の対象となっておりますので、さらにその上未遂を処罰する規定を設ける必要はないと考えまして、この点は未遂がはずれているところに御留意を賜わりたいと思うのでございます。  本項後段は、第二百二十八条の二及び同条の三といたしまして、被拐取者の解放による減軽及び身のしろ金目的誘拐予備に関する規定を新設する趣旨規定でございます。  まずこの解放による減軽の点でありますが、新しい第二百二十八条の二は、この法律案によって新設される身のしろ金目的誘拐拐取者の身のしろ金要求、身のしろ金目的拐取幇助、身のしろ金目的の被拐取者収受または収受者の身のしろ金要求の罪を犯した犯人が、被拐取者を安全な場所に解放したことをもって、これらの罪についての必要的減軽事由とする趣旨規定でございます。この法律案は、これらの犯罪が悪質、危険なものであることにかんがみまして、それぞれ先ほど申しましたように重い刑を規定してまいったのでございますが、その発生を未然に防止しようとしておる趣旨はそれによっておわかりいただけると思うのでございますけれども、一たんこれらの犯罪現実に発生をいたしました場合には、被拐取者を安全に生還させるということが第一の緊要なことと相なるのでございまして、自暴自棄あるいは証拠隠滅のために被拐取者の殺害が行なわれるということをできる限り防止しようとするとともに、犯人の責任を評価する上で、みずから被拐取者を生還させるという犯人行為を十分に考慮する必要から、本条のような減軽規定を設けることといたしのでございます。安全な場所に解放するという意味は、被拐取者の拘束を解いて、その生命身体に危険のない状態に置くことであり 解放場所そのものの位置、性質だけでなく、解放の時刻、被拐取者の年齢、心身の状態等を考慮して判断すべきでございますが、被拐取者の所在を近親または警察に通知するとか、通常すみやかな救護が期待される場所まで連れてくるとかの場合には、広く安全な場所に解放したと解することができるのではないかと思うのでございます。公訴の提起前に解放することを要件といたしましたのは、なるべく早く自発的な解放が行なわれることを期待する趣旨でございます。  次にこの予備罪でございますが、新しい第二百二十八条の三は、身のしろ金目的誘拐罪がきわめて危険、悪質な犯罪であることにかんがみ、予備行為をも処罰することにより、その発生をなるべく早い段階で抑制しようとする趣旨規定でございます。とくに、大規模な身のしろ金目的誘拐罪は、多数の共犯者の謀議に基づき、慎重な準備を完了した上で実行される場合が多いと予想されるのでございますが、予備行為の取り締まりがそういう意味において有効な防止策となることが期待される次第でございます。  予備行為とは、犯罪遂行のための準備行為でございまして、まだ実行の着手に至らないものをいうという解釈になっており、そこに身のしろ金目的誘拐予備として実際上問題となり得るのは、犯行場所または被害者に関する情報を収集すること、犯行場所へ向けて出発すること、略取の川に供する凶器・麻酔薬を入手すること、被拐取者を運搬するための自動車を用意すること、被拐取者を隠匿するための場所を準備することなど、その行為自体においてある程度犯意の存在を推測させるような行為に限られますことは申すまでもないところでございます。  本条の刑は、殺人、放火、強盗の予備の場合と同じく、二年以下の懲役でございます。実行の着手前に自首した場合に刑を減軽または免除することといたしましたのは、実行の段階にまで進むのをできる限り防止しようとする政策的な考慮からさような規定を設けることにいたした次第でございます。  次に、第二百二十九条中の改正点でございますが、本項は誘拐罪の中で親告罪とされているものの範囲を定める二百二十九条を整理いたしたのでございます。この法律案によって新設される身のしろ金目的誘拐拐取者の身のしろ金要求、身のしろ金目的拐取幇助、身のしろ金目的の被拐取者収受収受者の身のしろ金要求及び身のしろ金目的誘拐予備という、この六つの種類の罪をすべて非親告罪とする趣旨規定でございます。  最後に附則でございますが、附則の第一項は、この法律施行期日を定める規定でございます。  第二項は、この法律施行前にした行為については、被拐取者の解放による減軽に関する新しい第二百二十八条の二の規定を適用しないことといたしますとともに、それが親告罪であるかどうかを改正前の第二百二十九条によって判断することとする趣旨規定でございます。施行前の行為につきまして、この法律案によって新設される罰則の適用がないことは刑法第六条の規定から当然なことでございます。  以上が逐条説明でございました。
  19. 濱野清吾

    濱野委員長 これにて逐条説明は終わりました。
  20. 濱野清吾

    濱野委員長 これより両案の質疑に入ります。  質疑の通告がありますのでこれを許します。大竹太郎君。
  21. 大竹太郎

    ○大竹委員 それでは逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案について御質問いたしたいと思います。  最初にお聞きしたいことは、これは昭和二十八年に現行法が制定されておるわけでありまして、約十年前に制定されたことになるわけでありますが、この規定によりますと、条約を締結しておる国との間でやっておったわけでありますが、現在この条約を締結しておる国は一体どこの国とどこの国であるか。そうしてこの十年間のその実情について簡単に御説明をいただきたいと思います。
  22. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 現在日本国との間に逃亡犯罪人引渡条約を締結いたしております外国は、アメリカ合衆国ただ一国でございます。過去十年間にアメリカ合衆国との間で犯罪人引渡条約に基づき本法を適用した事例はございませんが、御承知のように先般スイス国との間で、条約には基づかないが、ただいま法案の中に盛られておりますような相互保証ということで、相互主義に基づく国際礼譲と申しますか、条約と同じような趣旨の取り扱いのもとで犯罪人引き渡しを受けてまいった事例が一件ございます。
  23. 大竹太郎

    ○大竹委員 そうすると、この法律そのものを適用した事例はないということでありますが、それに準じてスイスとの間に、これ一件でありますか、事案は。
  24. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 さようでございます。
  25. 大竹太郎

    ○大竹委員 それならその内容、引き渡しに関した手続その他は、この法律そのままと言いますか、全部そのままで準用したことになるのですか。
  26. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 引き渡し請求を受けて、こちらから引き渡した場合はないのでございまして、こちらが引き渡しを受けた事例でございます。こちらが逆に引き渡しをする場合における手続が、この引渡法の手続でございます。
  27. 大竹太郎

    ○大竹委員 それでは、法律がなくてもそういうふうにやれたということになりますならば、現行法改正しなければならない理由はどこにあるのですか。
  28. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 まことにごもっともな御質問でございますが、実はこの法律は、平和条約ができまして独立国になりました場合に、日米間の犯罪人引渡条約が復活してきたのでございます。それに対応するための引渡法として国内手続法を定めるというのが主たる目的でございまして、当時の立法者といたしましては、その点に主眼を置いてこの手続法を定めたもののごとくであります。しかしながら、当時の審議過程を見ますると、条約に基づかないで、実際には相互主義に基づく国際礼譲という観点で犯罪人引き渡しということが各国で行なわれておるのでありまして、そういうことを全然予想しなかったわけでもなかったようで、やはりそういう場合には条約に準じてこの規定を類推適用するというようなことが当時の解釈としてあったやに私は承知しておるのでございます。ところが、先般スイスから身柄を引き取って日本へ連れてまいりました際に、外交交渉の過程におきまして、日本にはどういう手続法があるんだということを説明をしなければならぬ羽目になりました。この手続法を翻訳してスイスに見せますと、外人の目から見ますると、現行法締約国締約国となっておりまして、この締約国が、請求国交でも含むのだという解釈は、なかなか相当な説明を要するわけでございまして、私どものほうといたしましては、これは類推適用されるという観点に立っての交渉をいたしたのでございますが、万一に備えまして、相互主義で責任を果たすために、真にやむを得ない場合には入管令の規定をも活用するということをも考慮いたしまして、取りきめをいたしたのでございますが、そういう観点からいたしまして、やはり類推解釈というようなことでなく、条文の上にはっきりしておくことが必要であるというふうに考えるに至った次第でございます。それに加えまして、御承知のような交通事情で、十数時間でヨーロッパに行けるような事情でございますのと、わが国の出入国管理の状況等から見ましても、犯罪人がわりあいに楽に逃亡することも、これまたある程度予想しなきゃならぬ。こういうふうになってまいりますと、この引渡法を整備いたしまして、そういう点に疑義のない、明確なものにしておくことが、今後に対処する上において必要である。かように考えまして、趣旨を明確にするという意味での改正をいたしたわけでございます。
  29. 大竹太郎

    ○大竹委員 それで、ことしはちょうどオリンピックの年にも当たるのでございますが、これは何か特に、オリンピックに際して相当外国からも人間が来るわけでありますが、そういうことにも何か関係があるのでありますか。
  30. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 直接そのようなことは立案にあたりまして考慮はいたしておりません。もっぱらスイスの前例に照らしまして、国内法を整備しておく必要を痛感いたしたのであります。
  31. 大竹太郎

    ○大竹委員 それで、外国立法例については、きょうこの非常に厚い資料をいただいたわけでありますが、恐縮でありますが、外国における犯罪人引き渡しというものにつきまして、簡単に、外国がとっておる立法について御説明願いたいと思います。
  32. 辻辰三郎

    ○辻説明員 外国におきます逃亡犯罪人引き渡しに関する立法例でございますが、これはお手元に配付いたしましたとおりでございますが、この「立法例仮訳集」という資料の最初の目次をごらんいただきたいと思うのであります。ことにこの立法例で、私ども、できるだけ広く諸外国逃亡犯罪人引き渡しに関する立法例を調査いたしまして、目次に掲げましたように、二十三カ国の国内法を一応調べたわけでございます。この二十三の国の関係法律につきまして、この国内法で、引渡条約に基づかない引き渡しというものを認めるということを規定しておるかどうかという点をまず調べたのが、この目次の中の「条約に基づかない引渡についての原則」という欄にずっと記載してあるわけでございまして、たとえばこの欄を見てまいりますと、ベルギーは、相互主義の原則のもとにおいては、条約がなくても引き渡すことができるという規定を持っております。フランスは、相互主義ということを書かないで、条約がなくても政府において引き渡すことができるというふうに書いておりますし、ドイツは、相互主義に基づく保証のもとに引き渡しができるというように、以下、大多数の国が、条約がなくても相互主義、あるいは相互主義がなくても引き渡しができるというふうに規定いたしておるわけでございます。ただ、この目次の十三のアメリカ合衆国と十一の連合王国でございま十一が、これはこの点が明文がございません。しかし、実際には、条約がなくても引き渡しを行なっているようでございます。
  33. 大竹太郎

    ○大竹委員 それでは続いてお聞きしたいのでありますが、この逃亡犯罪人引き渡し問題について、これは世界中の問題なのでありますが、国連等において統一的にこれを取り扱うというようなことはされていないのでありますか、これはどういうことになるのでありますか。
  34. 辻辰三郎

    ○辻説明員 国連で多数国間の逃亡犯罪人に関する条約というものを検討しているかどうかは、私ども現在存じないわけでございますが、国連一とは別に、一九五七年と思いましたが、ヨーロッパの一部の国の間では、多数国間のこの逃亡犯罪人引き渡し条約を締結いたしております。しかしながら、現存ヨーロッパ諸国におきましては、逃亡犯罪人に関します限りは、二国間でそれぞれ条約を結んでいる、これが支配的な傾向でございます。
  35. 大竹太郎

    ○大竹委員 そういたしますと、日本としては、この法律ができれば、条約をわざわざ結ぶ効果というものは自然になくなると思うのでありますが、日本とアメリカのほかに、この条約を結ぼうとしている国は現在のところないわけでありますか。
  36. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいまのところはございませんし、いまそういう条約を結ぼうということで協議を開始しあるいは開始しようとしているような国も、私どもの知っておる限りではないように存じております。
  37. 大竹太郎

    ○大竹委員 きょうは、質問の準備がこの程度しかできておらないのでありますが、続いて次回に質問させていただきたいと思います。
  38. 濱野清吾

    濱野委員長 小島君。
  39. 小島徹三

    ○小島委員 ちょっとお伺いしたいのですが、政治的に逃亡して来た人間に対する腹がまえというのは、一体政府はどの程度まで考えているのです。たとえば逃亡罪というのは日本にはないようですが、かりに共産圏から逃亡して来た人間が日本に来た。何も国内で刑事上しの犯罪を犯したわけじゃないのだが、日本に来てから政治的亡命をしたいというようなことになってきた場合、帰れば生命の安全が保障されないことがないとは蓄えないと私は思うのでございますが、そういうようなものに対して一体政府はどういうふうな腹がまえをしてこの法律をおつくりになったのかということをお聞きしたいと思います。もう二度と周鴻慶のような醜態はしたくないというのが私の考えなんです。
  40. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 政治的犯罪につきましては引き渡さないということが、犯罪人引渡条約の日米間の間にも書いてありますし、相互主義でやります場合、各国ともそういう制約をおのずから持っておる、これは国際慣行だと思います。ところが、いまお話しの政治的亡命というようなものは、条約の中にあるかどうか、私はよく存じませんが、日本の国内法には、政治的亡命という法律用語はないように思うのでございまして、もっぱらこれは解釈によってきめるほかないと思いますが、従来の私どもの理解しております政治亡命というのは非常に限定された概念でございまして、反逆罪を犯したとか、国家の非常な重大な利益に反する罪を犯したとかいうようなことで逃亡してきて、もし帰されれば当然処罰される。その目的が政治的目的に出たといったような場合の政治的亡命というふうに考えられておるように思うのでございますが、しかしながら、最近の考え方はさらに広くなって、まいりまして、東西間の考え方の違い、それからまた東から西側への逃亡、西側から東への逃亡といったような問題が各地で起こっておるようでございまして、そういうものまでが政治亡命というふうに入ってくるという解釈も行なわれておるやに聞いております。しかし、われわれあまり実例を持っておりませんので、そういう点はわれわれとしまして本研究し、政府の立場をはっきりさしておく必要があろうかと思うのであります。いまの段階では、私の所見にとどまりますが、いまのような考え方をいたしております。
  41. 小島徹三

    ○小島委員 先ほどオリンピックに関する話もあったようですが、新聞なんか見ていますと、そういうような単なる競技とかいろんなことで出てきて、そしてそのまま逃亡して帰国しないというような者に対する取り扱いについて、相当腹がまえをつくっておかないと、その国の政府の裁断にまかせられるのだということになってまいりますと、日本のような自由主義国家の政府の裁断と、あるいはそうでないファッショの——共産圏とは申しませんが、いろいろファッショ的な国の裁断というものは大きな違いが出てくるんじやないかと思うのです。そういうことについて、単に表面的に政府の裁断でお互いに帰すというようなことで、表面的なことでやっていたら、バランスをとるということになるのでしょうけれども、実際問題としてはとれぬ場合が多いと思うのです。私は、そういう点について相当な腹がまえをしてもらわないと、これから先また周鴻慶のようなばかばかしい、二転、三転するようなまずいことをしなければならぬようなことが起こってくると思いますから、そういう点についてひとつはっきりした考え方を、いずれこの次の機会に聞かしていただきたい。
  42. 濱野清吾

    濱野委員長 両案に対する本日の質疑はこの程度にとどめます。      ————◇—————
  43. 濱野清吾

    濱野委員長 次に、法務行政及び検察行政に関する件について調査を進めます。  質疑申し出がありますのでこれを許します。横山利秋君。
  44. 横山利秋

    横山委員 この機会に、私は、世紀の大裁判でありました松川事件並びにそれに匹敵するような情勢にありますもう一つの問題についてただしたいと思うのであります。  松川の大裁判が過ぎましてから数カ月をけみします。当時、全日本のみならず、各国までいろんな反響を生みましたこの裁判の終結についても当時賀屋法務大臣はこういう談話を新聞に発表しています。要約いたしますと、この判決は検察当局の立場からは遺憾なことであるが、すでに裁判所の最終の判断が示された以上、これに従うべきは言うまでもないところであって、特にこの事件の裁判が多数の人命に関することであったことや、被告人が長期にわたって不安定な立場に置かれたことなどを考えるとき、人権に関する問題でもあるので、この際、進んでこの判決から多くの教訓をくみ取り、今後の検察の運営に資したい。なお、この事件の公判審理が長期に及んだことについても、いろんな面からその原因を綿密に検討した上で、この種の事件の処理の迅速化をはかりたい。こう言っておるのであります。この中に一つ足りないことがございます。それは、本年の八月でございますか、もはや真犯人の追及も一つの法的な時限に達しようとしておるのであります。当時のすべての人が異口同音に言いましたことは、この松川事件の最高裁の判断は無罪と確定した、しかしながら、真犯人はおるということであります。何人もこれは首肯する点でありまして、あれだけ世紀の大問題となりました問題が、その後杳として検察当局がこの問題について言及もしない、手も触れていないというような点について、非常な疑惑の目が向けられております。しかし、それはあとでお話をするといたしましても、法務大臣がこの判決について重大な感想を述べ、そしてその後の経過が明らかになっていないのであります。大臣として、ただに感想を述べただけではなくて、それに対する自分の責任なり国としてなすべきことがあると、決意を述べたと私は承知をしております。本日は参議院の予算委員会もありまして、大臣がおられないのはまことに遺憾なことでございますが、大臣に対しましてはいずれ後刻お伺いするにしても、法務大臣が新聞を通じて国民にみずからの所信を訴えられたのでありますから、その後一体これらのことがどういうことになっておるのか、私は政務次官や各局長にただしたいと思います。  まず第一に、昨年の二月十二日、本委員会はこの松川事件につきましての質疑をいたしました、その際に大臣はこういうことを、言うておられるのであります。猪俣委員の質問に対しまして、まず第一に、「被告の無罪の証拠があることを知りながら、これを故意に独断でもって法廷に出さなかった検事、そういう者を全部調べ上げていただきたい。そういう者に対して一体法務省はどういう措置をとられるか、それに対するあなたの覚悟を聞きたい。」中垣国務大臣「猪俣さんにお答えいたします。検事と申しますか、検察側が押収しました証拠物が特に被告に有利なような証拠物であった。これを故意に秘匿した、公判廷に出さなかった、そういうようなことがもってはならないのでありまして、こういう場におきましてそういうことが指摘されるだけでも、これは検察行政のために、検事の勤務、検事の考え方というものが私は非常に遺憾であると思います。そこで、こういうことを不問に付するという考えは、私は実はございません。御指摘もありましたから、そういう事実につきましては、私の責任におきまして虚実を実際に調査してみたい、かように考えております。これは私の一つの所信と申しますか、検事が確かに罪人をつくるためのそういう無理な努力と申しますか、あるいはまた証拠品等が被告人に非常に有利であるにかかわらず、そういうものは活用しないというようなことがもしあるということであっては、またそういうことをほんとうにやる検事がおりましたら、その責任を追及すべきであると私考えております」、こういうことを言っておるのであります。この点について、国務大臣が国会に対して答弁したその責任をどういう結果であらわされるか、これをまずお伺いをいたします。
  45. 天埜良吉

    天埜政府委員 ただいまお話がありましたように、法務大臣がそういうように言われまして、いろいろ論議の対象になっていた——たとえば証拠物の保管あるいは捜査の方法とかいうような問題をめぐって論議がございましたので、この際大所高所に立ってその事実ないし当否の有無、責任問題の所在等の各般の観点から調査を行ない、その結果、みずから反省しあるいは改めるべき点があれば、これは将来の検察の運営に生かしていかなければならないというような考えで、こういうような意味から、この事項についてあらためて直ちに調査を行なうべきものと考えておったのでありますが、そのやさきに、たまたま最高検察庁においても、自発的に特に調査担当者を指名して、これらの調査を進めることになったという報告を受けるに至ったのでございましたので、この際、最高検察庁において調査を行なってこそ、むしろ徹底した調査とその結果が期待し得るというふうに考えまして、その調査とその結果を待って、いわゆる責任の有無の検討もさることながら、あわせて今後における検察の運営の改善ということに資してまいりたいというふうに考えておる次第でございます。
  46. 横山利秋

    横山委員 やろうと思ったが、検察庁がやると思うから自分のほうはもうしないことにした、こういう意味でありますか。
  47. 天埜良吉

    天埜政府委員 検察庁がやっておりますので、その結果を待って、そして責任の有無の検討を法務省もやろう、こういうことでございます。
  48. 横山利秋

    横山委員 それはいつごろできますか。
  49. 天埜良吉

    天埜政府委員 いつごろできるかということについては、いまのところまだ見通しはございません。
  50. 横山利秋

    横山委員 あなたのほうとしては、いつごろまでにでかせと言っておるのですか。
  51. 天埜良吉

    天埜政府委員 なるべく早くやってもらいたいということで希望をしております。
  52. 横山利秋

    横山委員 数々の問題がありますから、私は一つの問題に長いことは使えませんから端的にお伺いいたしますが、いつまででもいい、できるまで待とうというのか、八月にはもう時効が完成するのでありますが、その点については何らの時間的な注文はしていないわけでありますか。
  53. 天埜良吉

    天埜政府委員 できるだけ早くということで促しておるわけであります。
  54. 横山利秋

    横山委員 納得できません。私の言っておることは、私ばかりでなく、世間のすべての人が松川事件についての政府のあり方、政府の責任、そして事態の真相を究明をしたい、事実を知りたいという気持ちは、これはもうすべての国民のみならず、国外からも注目されておるところでありますが、いまのお話を聞きますと、やろうと思ったら、最高検察庁がやるというのでしばらく待っておる。それはいつのことやらわからない。いまのお話だとすれば、二、三年はかかりそうな気がするのでありますが、八月十五日という、八月の時効完成という日をあなたは御存じの上に注文されておるのですか。まさか、それが時間が過ぎて知らぬ顔になるということはありますまいか。
  55. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 私からその点につきましてお答えをさしていただきたいと思います。  この最高検察庁の調査というのは、真犯人がほかにあるという前提に立ってその調査をしておるものとは私は考えておらないのでありまして、先ほどの読み上げになりましたような、この事件全体を通じまして、検察のあり方の中に反省すベきものが多々あるのじゃないかという御指摘があったわけでございます。その点につきまして、私どももそうじゃないかという観点に立って調査をし、先ほど政務次官からもお述べいただきましたように、検察の将来に向かって、あの松川事件が反省すべき点幾多あろうと思いますが、その反省すべきものは虚心たんかいに反省をして、検察の適正な運営に資していかなければならない。また、その調査の過程において、取り扱いました関係者の中にもし責任を問うべき者があるならば、これも問うことによって検察の威信を保持しなければならぬ、こういう趣旨の調査でございまして、それと真犯人があるであろうかどうかということとは別の観点に立っておるのでございます。  ついでながら申し上げますが、無罪判決があった場合に、それじゃほかに真犯人があるだろうという議論をいたしますことは一応御無理のないことでございまして、私どもも世間一般も、あの事件は無罪だ、それじゃ犯人はだれだ、こうなるわけでございます。しかしながら事柄事態、御承知のようにすでに事件発生以来十数年を経ておるのでございまして、検察庁におきましては、起訴されました被告たちがもっぱらその真犯人であるという前提に立ちまして捜査を続け、かつ公判維持につとめてきたのでございまして、それが無罪になった、十数年前のものを八月何日の時効完成を前にして犯人をさがすというようなことは、これはもう事実上不可能なことでございます。そういう点をよくお考えいただきまして、調査の目的が真犯人検挙のための調査でないということと、いまお話しのようなことが、そういう意味も含めての猪俣先生の御質問であった——私、それは真犯人をさがせという御議論もありましたけれども、調査すべきであるという御議論は、真犯人をさがせという御議論ではなくて、いま私、前段に申しましたような趣旨の調査であったように私は理解いたしておるのであります。
  56. 横山利秋

    横山委員 いまの段階は、真犯人の問題を私は質問しているのではなかった。確かにあなたの言うように、責任をどうするんだ、責任はとります、その調査の経過における間違ったことについては責任をとります、そのための調査もいたします、こういうことであった。何をあなたは感違いをしたか知らぬが、そういう答弁をされるが、しかし、いみじくもあなたが偶然おっしゃった、初めから真犯人を調査する意思は私どもにはありませんということは、私はきわめて重大な発言だと思う。これはしかしあとから申します。  私の聞きたかったことは、大臣が昨年の二月、間違った検事があるならば、これはきわめて遺憾千万であるから、実際に調査して、また責任があるならば追及をすべきであると考えます、こういうことを明確に言っているわけです。そこで私は、そういう責任を明確にするならば、時間的な問題がありますよ、こう言っている。これはいつまでたってもいいということじゃありませんよ。もしも大臣がほんとうに責任を持ってここで言明をなさったことであるならば、二年も三年もたってから責任をとったということではいけませんぞ、明らかにこれはどう考えても世間の常識というものがある、それは時効になる前に処理をしなければならぬぞ、こう言ってだめを押しているわけです。政務次官どうですか。
  57. 濱野清吾

    濱野委員長 横山君に申し上げますが、法務大臣が来たときにあらためてその問題をおっしゃったらいかがですか。
  58. 横山利秋

    横山委員 それでは、その点は政務次官にお願いをしたいのです。別な機会に私の趣旨を十分にひとつ体していただいて……。  それではもう少し具体的にお伺いをいたします。最も重要な問題になりましたのは、申すまでもなく諏訪メモであります。この諏訪メモが事件の発生直後に発見をされて、そうして検察陣の中にそれが隠されて、大沼新五郎という副検事さんは数年それを持って、それを自分が転勤をしたときにもポケットへ入れて持っていって、このアリバイ成立に重大な決定的ともいわれるべき証拠を持って歩いたということは、もう何人もいま知っておる有名な事実であります。私は、検事やそのほかの人たちのやった多くの問題をここに責任問題として列挙いたしたいのでありますが、この諏訪メモを大沼新五郎という人が持って歩いたということは、何といってもこれは不可解千万、そうして決定的な間違いである。この点については疑いをいれないところでありますが、調査の結果はどういうことになっておりますか。
  59. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 いまお話しの大沼という副検事でありますが、そういう事実関係につきましては、おっしゃつるような事情を私どもも承知いたしておりますので、そういう事情を明らかにして、それからその責任がどこにあるかということも引き続きまして明確にし、これが私どもの調査の主たる目的でございまするので、最高検察庁におきましても鋭意その調査をしておると思うのでございます。問題は皆さま方の御指摘になっておる点だけではなく、検察自体としてもまた考える点もあろうと思いますので、かなり時間がかかっておりますようでございますが、だからといって二年も三年もかかるという性質のものではないと私は思いますので、そう遠くない時期に結論が出される、また法務大臣に報告があるもの、かように私は期待をいたしておるのであります。
  60. 横山利秋

    横山委員 いろいろな調査をなさることがあるだろう。われわれも調査を徹底的にやってほしいと希望している。ところが、この諏訪メモの問題だけは、もう判決がありまする前、単に裁判所のみならず、全日本で諏訪メモというものが重大なものになっているだけに、いまさら調査すべきことはないじゃないか、問題は、それをどういうふうに責任をとっていただくかということしか残っていないんじゃないか、私はそう思うのです。あれだけ騒がれた諏訪メモがどういう経緯をたどってどういうことになったかということは、あの当時だってはっきりもうわかっていたでしょう。したがって、もしもほんとうに事態の真相を究明し、それに対して責任をとらせるというのであれば、責任問題はどうするかということしか残っていない。何か諏訪メモについて、大沼氏が持って歩いたことについてもっと調べなければならぬことがあるのですか。どんなことがあるのですか、調べなければならぬということは。それはもう当時に調べられてあったはずであります。あのような綿密な調べ方をした以外に、いま調べなければならぬという問題はどんなことがたとえばあるのか、それを聞かしてください。
  61. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 これは調べてみませんとわかりませんが、抽象的に申し上げますと、そういう事態が起こったのについて大沼さんが一人責任を負うべきものであるか、その関係者がどの程度に関与しておるのか、その手続がどうしてそうなったのかというような事情が明らかになりませんと、責任という問題になりますと、いまのおっしゃっただけの事実をもって、それじゃ大沼さんを処罰すれば事が足りるという性質のものじゃないと私は思うのでございますが、そういう意味でやはり調査の必要があろうかと思います。
  62. 横山利秋

    横山委員 それじゃ竹内さん、一つだけお伺いしましよう。少なくとも諏訪メモが重大な証拠品であるということはあなたも御存じなはずですね。それがこういうような結果になって最後まで出なかったことについては、これは非常に裁判に影響した。この点については、証拠品としてすみやかに出されなかったことについては遺憾なことだ、だれかがその責任をとらなければならぬということはお考えでしょうか。
  63. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 私はそれに反対をするのじゃございませんよ。反対をするのじゃございませんが、訴訟手続において証拠をどういう時期にどういう方法で出すかということは訴訟技術の問題とも関連がありますので、私は、それをすぐ一がいにいいとか悪いとかいうふうな言い方をすることは差し控えなければならぬと思うのでございます。私は、国会におきましてそういうことを客観的に議論することはもちろん自由でございますし、また必要もあろうかと思いますが、訴訟手続のテクニックの問題、証拠を必要と考えなくて、諏訪メモにかわるべき供述が得られるということであって、それでいいんだという判断をした検察官の、その判断がいいか悪いかということを論ずることは、これはできますけれども、もう頭から悪いというふうにきめてかかるというふうな議論は、私はそういう議論に一緒に論ずるわけにはいかない、かように考えております。
  64. 横山利秋

    横山委員 訴訟手続のテクニックの問題としてあなたは議論をされるならば、その限りにおいては、これはもうあるいは水かけ論になるかもしれませんが、しかし結果をごらんなさい、人間の命の問題ではありませんか。人間の命の問題に関する問題を訴訟手続の問題だとすりかえられては、一体あれだけの、十数年も監獄におった人たちの立場はどうなるのです。あなたも入間的にもう少しお考えになったらどうですか。あなたが意見があるならば、もう一ぺん結果から考えてごらんなさい。少なくともあれだけの大裁判で、しかも重要な証拠だから、気がついてから出せというのに出さない。調べてみたら、その人がその証拠品を転勤地にまで。ポケットに入れて持ち歩いているというばかげたことが常識で納得できますか。どこかに、裁判所にあるとか、検察庁のしかるべききちんとしたところにあるとかいうなら、まだあなたの議論も納得できないことはない。転勤地まで持ち歩いているというばかげたことがどう説明できますか。上司がそれを命令したかもしれないというのですか。それならその上司ですよ。はっきりしていただきたい。おまえ持って歩け、ここにあるとぐあいが悪い、正規の場所にあるとぐあいが悪い、おまえ持って歩けと言ったとしたならば、その上司の責任を問うべきです。自分かってに持って歩いておったとしたならば本人が責任を問われるべきです。事態明白、きわめてはっきりした問題じゃありませんか、そうでしょう。その点だけはっきりしてもらいたい。
  65. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいまお述べになった論理には私も全く同感でございます。したがいまして、そういうことがあったかなかったかということを調査をさせていただきまして明らかにいたしたいと思います。   〔発言する者あり〕
  66. 濱野清吾

    濱野委員長 静粛に。
  67. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 それから諏訪メモにつきまして……。   〔発言する者あり〕
  68. 濱野清吾

    濱野委員長 お互いに静粛にしてください。
  69. 横山利秋

    横山委員 竹内さん、あなたの答弁は、いまちょっと険悪になったものだから聞き漏らしたけれども、要するにあなたの答弁は、私の趣旨と同感である、だから趣旨をくんですみやかに処理したい、責任を問いたい、こういうことですか。
  70. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 責任があります場合には責任をあくまで追及すべきである、こういうふうに考えております。
  71. 横山利秋

    横山委員 それではその次に、私は、この判決の内容から見て、いろんなことを示唆をされました。私が言うのではない、判決文の中からいろんな責任問題が出てくる。たとえばですね、判決文の中における、「永井川信号所南部踏切を通過したということについて」の項、そこに「検察官は当然赤間自白はオカシイと強い疑いを抱かずにはいられなかった筈である。さらに良心的に、検察官は、直ちに、赤間を取り調べてその点につき再検討し、赤間自白の真実性を確めてほしかった。しかるに、検察官は折角右の重要点を明確にしながら、遂に赤間を再び取り調べようとはしなかった。遺憾の極みである。赤間自白の真実性を強く疑わざるを得ない所以である。」そこに至ります前には、その具体的な問題を判決はあげて、そうして田島検事の責任の所在を明らかにしています。それからまた同じく赤間自白の点について、武田巡査部長の問題について、「ここに、はしなくも取調官自身の口から、赤間自白当時の心境が証言された。赤間が「他意あって、殊更に事実を曲げて供述したことによるものとみるべき節もないとすれば、それは同人があるいは自己の経験しなかったことについて、取調官から尋ねられた際、ただひたすら迎合的な気持から、その都度、取調官の意に副うような供述をしたことによるものではないかとの疑いさえある」ことになるものといわざるを得ない。供述を変更した理由は、まさに、赤間の弁解どおり赤間コースを実地調査して帰った武田部長から、清作方の前を通ったのだろうといわれて、それに合わせて供述したものと強く疑わざるを得ない。」これは武田巡査部長の誘導尋問きわめて明確なところであります。  その次には、やはり赤間自白のところでありますが、「われわれの良識では、赤間をしてそのような強烈な感情を抱くに至らせた、者があるとすれば、それはその間における赤間との唯一の接触者である取調官の玉川警視ら自身以外には考えられようがないのである。玉川証言自体が、まさに、赤間の弁解するとおりの事実を裏書きしているのにほかならない。同時に、玉川証言は、それ自体赤岡がいくら無実だといい張っても共産党員で組合幹部の本田らが赤間がやったのだといっている以上、もう助かりようがない、こうなってはせめて無期になりたい、死刑だけは免れたい、という追いつめられた気持になっていることを如実に証明している。」云々。「そうして、その赤間の心境を操るものが、玉川証人の自ら認める「真犯人ここにあり」と一喝し、自白の合理性など考えぬ、いわば確信過剰型的取り調べぶりなのである。この取調官自身の口によって確証された事実には、そこに見解の相違や水掛論を容れる余地はない。検察官の立場においても、そこに人間性を認める限り、右確証された赤間の心情、心境は到底これを否定するに由ないであろう。」この場合は玉川警視のやり口が明確に言ってあるわけであります。  それから、悦子、これは女の小さい子でありますが、勝美が帰ってきて寝床に行くときに、小さい子の悦子の髪の毛を引っぱったという問題のくだりであります。「捜査常識上、当然、悦子も取調べられている筈の重要参考人なのに、その供述調書等の資料が全然ないのは、悦子も同旨の供述をして赤間アリバイを証明するものであったがためであるとみられても仕方ないであろう。」つまり悦子を調べておきながら、その調書を出さなかったのである、こう論述をいたしておるのであります。  こういうような——これは一例でありますけれども、これらの判決の内容を読みますと、玉川警視の全くの偽証という点が明らかにされています。それから証拠の隠匿について判決の中で明らかにされています。強制、誘導尋問が明白になっています。テントの問題にしても、「田島検事が赤間自白の虚偽を知りながら、その真相を明らかにしなかったことを指摘して、検察の責任を明らかにした。」といっておるのであります。  この判決というものは無罪ということを論述をいたしておるのでありますが、その中にかくも明白にそれぞれの検察陣の責任、その偽証、その誘導尋問というものを明白に言っておるということはきわめて私は重大な問題だと思う。私どもが憶測やあるいはまた一方的な立場で言うのではない。判決の中に明白に論述をされておることについて、一体どういう立場をとって処置をなさるのか、この点をお伺いをいたします。
  72. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいまお読み上げになりました判決文は、いわゆる門田判決でございますが、私は、門田裁判長がそのような判決をされたことにつきまして、これを否定するものじゃございません。しかし、その門田判決だけが判決じゃなくて、その門田判決を批評した最高裁の判決におきましてこれを見ましても、その門田判決が、「本件各連絡謀議の存在を疑わしいとする程度をこえ、さらに進んで諏訪メモ(証一三一号の一)などにより、佐藤一の一五日アリバイの成立は決定的に確証されたとか、また、一六日夜の連絡謀議が行われたとされる東芝松川工場八坂寮組合室における村瀬武士、小尾史子の加わらない約五分間の時間的間隙は存在しなかったとかの相当強い心証をとっていることには、当裁判所は疑問なしとしない。」と言って、全部について一々触れてはおりませんけれども、門田判決につきましては最高裁判所が、結局は上告を棄却しておりますけれども、この上告裁判所が、この門田判決に対して疑いというか、オーバーな表現であるということを示した判示もあるわけでございまして、これは裁判所同士の意見の食い違いでございます。いま門田判決のみをお取り上げになりまして御質問でございますけれども、最高裁の上告審におきまして、すでにいま私が一部述べましたような判示をいたしておるのでございまして、この点は、先ほど申しましたように慎重に検討し調査してみる必要がある事項であろうと思うのでございます。先ほど申したように、なるべくすみやかに調査の結果を聞くようにいたしたいと思っておりますので、その上で私どもの所見を述べさせていただきたいと思います。
  73. 横山利秋

    横山委員 大臣に聞きたいところでありますけれども、おられませんから、もう一度それじゃその点についてお伺いいたしますが、一体、なるべくすみやかにということはどういうことなのですか。とにかく調査が済んだらということなのか、期限を打たずにやることなのか。世間に対する常識なり責任というものを国が考えなければならぬのでありますけれども、なるべくすみやかにという意味のめどはどのくらいに置いているのですか。
  74. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 最高検が調べをしたことについて、何日までに調査を完了すべしというような指令は大臣から出されていないように承知いたしておりますが、これは事柄の性質上、いまおっしゃった、とおり、ものには常識的な限界というものがあるわけでございます。その限界の範囲内で、最高検察庁において、常識的な期限の範囲内において報告をしてくるものと私どもは期待しておるわけでございます。そのめどはどのくらいかというようなことは、私はいま承知しておりませんが、国会でもそういう強い御要望があったということを、最高検にも重ねて伝えまして、調査の促進をはかっていただくようにいたしたいと思います。
  75. 横山利秋

    横山委員 私は、この責任問題があいまいに済まされるということは、検察陣のためにも惜しむものです。もしもこれがあいまいに、一年たち二年たち、そうしてその人はもうおらぬとか、そういうことになったら、私はかえって威信を傷つけられると思う。したがって、ものには常識があるということはどういう時限的な立場でおっしゃったか知りませんが、もうすでに判決があって長い時間がたっている。できるならば私は昨年内にでも電光石火のごとく処理をされることが望ましかった。しかしながら、その調査ということをたてにとられる以上は、政治的な責任のとり方はこれは問題があるだろう。具体的な事実をあげての責任の問題にしなければならぬと思うのです。したがって、私はあえて言いますけれども、次の問題の真犯人の問題がありますけれども、少なくともこの時効になる前に全部あなた方の言う責任問題が解決しなければならぬ、こう考えますが、同感ですか。
  76. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 できるだけ早く、時効の完成前にその調査を完了する、これは望ましいのでございます。私も、そういう意味におきましては望ましいと申し上げるよりほかないのでございますが、ちょっと申し上げておきますけれども、この調査は事件に関係した者が調査をしたのでは公平を失するわけでございます。これは全く事件に関係のない検察官として調査する、こういうことの態勢であるようでございまして、その態勢につきましては私も賛意を表しておるのでございます。そういたしますると、過去十年にわたっての長い裁判記録、この記録を読むだけだってたいへんなことでございますが、そういうものを全部当たれ、かつ関係者にも口頭で聞くとか、あるいは書面で聞くとか、いろいろな調査の方法を尽くしておるようでございまして、ただいま御指摘のように簡単に短期間のうちに結論を出すということはなかなかむずかしかろうと思うのでございまして、そういう点はひとつお含みいただきたいと思うのでございます。
  77. 横山利秋

    横山委員 それでは先ほどあなたがおっしゃった、初めから真犯人を追及する気持ちはなかったという重要な発言についてお伺いいたしますが、ほんとうにそういう気持ちですか。国民のすべてがこの松川事件について無罪、それではほかの犯人がおるということを一瞬に感じた。さればこそ当時の被害者の家族の人たちも、仏さんもこれでは浮ばれぬという談話を発表して、国民にしゅんとした気分を与えたわけであります。少なくともあなたが初めから真犯人を追及する気持ちはなかったということでなくして、とにかくあなた方としては全力を尽くして真犯人を追及する立場に立って、事がどんなに困難であろうとも、その態勢でやるということでなくては、国民に対する責任にならないと確信をいたしておる。それにもかかわらず、余分なことまで私の質問でないことを、いきなり真犯人を追及する気はなかったということを言うのは非常に遺憾です。どうなんですか。
  78. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 余分なことを申したということでまことに申しわけないのでございますが、時効完成までに調査ということでありましたものですから、そういうことを申したわけでございまして、もしその点がお気にさわりましたら取り消さしていただきますが、私の考えは、真犯人の捜査をする必要がないということを申し上げたりもりは私自身ございません。困難だということを申し上げたわけでございます。私の真意は、真犯人を追及し得る自体、情勢でありますならば、真犯人を追及すべきであることは法律の命ずるところでございまして、検察官がそれを拒否する理由はさらにないわけであります。そんなことはここで私がるる申し上げるまでもないことでございますが、何と申しましても十数年前のことでございまして、いまや物理的にも実際問題として真犯人を八月何日ですか、時効までの間に捜査をするということはむずかしいのじゃないかという趣旨のことを申し上げたつもりでございます。
  79. 横山利秋

    横山委員 それではお伺いしますがあの前でも当然やっておったのでしょうから何ですが、少なくともあの判決があってから、あなた方は真犯人追及の検討をしてみたかどうか。またその態勢をとってきたかどうか。あなたのお話だと、困難であるということが先入主になってしまって、国としては一切何にもしない、やろうと思っても、できないんだからやったってしようがないということで何にもしていないのではないか。真犯人追及のための検討をしたのか、その態勢をしいたのか、実践に移しておるのか、その三つの点についてお伺いします。
  80. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 真犯人追及の手を何らか打っておるかどうかというようなことは、私どもの刑事局においてそんなことをするわけではないので、検察庁がそういう態度をとっておるかどうかということでございますが、そういうことを申し上げることがはたしていいかどうかも私は疑問に思うのでございまして、かりにそういう態度をとっておりましても、とっておりますというようなことを言う必要もないことでございます。でございますからお答えする限りではございませんが、検察官に課せられました義務というものは、真犯人追及というところにあるわけでございますから、検察庁が、あの無罪によりまして、真犯人が他にあるという心証を得るだけの何らかの手がかりがありますれば、真犯人追及に乗り出しておるに違いないと私は思いますし、そう思わなければ、あるいはもうすでに物理的にも非常に困難な状態になっておりますので、あるいは残念ながら見送っておるという状態になっておるかもしれません。そこのところは私には確認できませんが、事柄の性質はそういうものだと私は思います。
  81. 横山利秋

    横山委員 政務次官はどうお考えなのですか。
  82. 天埜良吉

    天埜政府委員 ただいま刑事局長が申しましたのと同じ考えでございます。
  83. 横山利秋

    横山委員 そうすると、結局は、やる気がないということですか。とにかくこれだけ世紀の大裁判をやって無罪となった。しかもその当時の新聞によりますと、たとえば第一審の主任検事であった山本さんという人は——あの判決は有罪判決ですが、有罪判決は間違っていないという信念に変わりはないと言い、第二審の立会い検事である吉岡という人は、この十七人が犯人であることをいまでも私は確信しておると言い、そして差し戻し審の主任検事であった高橋という人は、われわれは十七人の被告に有罪の心証を持っておると言い、等々と言うておるわけですね。こういう気持ちが判決それ自身にも疑惑を持ち、おれはまだあの中に真犯人がおると思うよという気持ちが、いまでもあなた方の中にあるのではないか、それがこの問題の真犯人の追及をサボタージュさせておるのではないか。もしそうだとするならばきわめて遺憾である。まさかあなたはそうだとはおっしゃるまい。しかし、そうでないとしたならば、真犯人追及のための努力をなさるべきではないか、そういう態勢にすべきではないか。国の威信のためにも全力をあげて真犯人追及の努力をなさるべきではないか。十数年前だから、わからぬからやったってむだだろう、やめようということをおっしゃると、こういう人たちの、あの判決は間違っていなかったとか、私はあの中に犯人がおると思うとかいう気持ちが、あなた方の脳裡にもあるような気がしてならぬ、国民がそういう疑惑を抱かざるを得ないのです。この点について答えていただきたい。
  84. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 この事件に関与した検察の中には、ただいまおっしゃるような意見を述べておる人もあると思いますが、一国の検察庁という検察機構というものは感情で動くものではございませんで、先ほど申しましたように真相追及のためにあらゆる努力を払うべきものでございます。したがいまして、本件につきましても捜査に突っ込む端緒を得ることにつとめておると思いますが、そういう端緒がつかめるならば、これはやることにいささかもちゅうちょするものではないと私は確信いたします。
  85. 横山利秋

    横山委員 その端緒の問題ですが、それもいろいろ言われておることに幾つも端緒があると私は思う。まず証拠を一切公表をして、そうしてみなで、あなたのほうの内部も、それから松川でいろいろな意味で参画した人にも議論をさせる。その証拠によって新しい証拠が見つからぬか協力を得ることも一つの方法でしょう。それから真犯人らしき者からきた手紙の分析もある。その他当時国鉄の中でこの種事件が四つある。しかもだれかがやったと思われる問題が四つある。その点はあなたも御存じのとおりですね。それらの問題についての端緒はあるはずだ。これらの問題をほんとうにあなた方がおやりになるならば、端緒が見つからぬとは決して断言するわけにいかないのではないか。むしろ、もう初めからそういうことをやってもむだだという心理、曲解すれば、その中にまだまだあの判決はおかしいよという気持ちが一部でも残っていると疑われるような状況にあるのでありますから、真犯人の探究のためにあなた方は全力を注ぐべきです。そうしてその探究のための努力を高揚してそれでどうしてもわからないなら、これはまだ世間も納得するでしょう。初めから何らの努力もしないで、協力を得ようともしないで、もうやったってむだですよという態度は、国民を納得させるわけにいかぬと私は思うのです。
  86. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 初めからやる気がないという態度でございますと、それは仰せのとおり国民も納得いたさないと思います。私はそうじゃないと思います。いままで二、三の情報が提供されておるようでございますが、それらの情報につきましてももちろん検討しておることと思いますが、単に情報だけですぐ、捜査の端緒になるとも思いませんし、真犯人が別にあるというようなことがいろいろこの事件の審判の過程におきましてもずいぶん出ておるのでございまして、それらはみな裏づけ捜査として、その当時それぞれ捜査がなされておるようでございます。ただいま先年の御指摘のように、捜査の端緒がおまえたちの回りに一ぱいあるじゃないか、というふうには私は見ておらないのでございまして、あくまで冷静に着手すべきものは着手する。そんな怠業的な気持ちで私は答弁申し上げておるわけではございません。
  87. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 関連。いま横山委員から質問したことにつきまして。諏訪メモの問題は、御承知のとおりここの法務委員会でも繰り返し提起されました。この問題に関連して検察庁の人々に対して、福島地方裁判所に弁護団のほうから準起訴事件の問題がありました。準起訴を請求しまして、それで検察官が福島地方裁判所においてみな宜誓をして述べたことがあります。そのこともここで触れておりますが、それはまた今後至急別の機会に取り上げたいと思うのですが、とにかくそのとき準起訴請求事件について、福島地方裁判所の法廷の決定はこういうことです。大沼副検事——諏訪メモを四年九カ月隠しておった人ですね。「大沼副検事の右の処置は甚だ理解に苦しむところのものである。又同人の証書全体からみても、明瞭な説明は殆ど得られない。……大沼剛検事が仙台高検事務補助を命ぜられて諏訪メモが福島地検より持ち出され、そして再び返戻するまでの四年九カ月間メモは終始同人の掌握下にあったということになるのであるが、しかも福島地検で何人もかかる事情にあることを知らなかったということであるが、このような証拠品の取扱は一体許されるものなのであろうか。……これでは検察官の常識からはかなり遠い処置であると非難されてもやむを得ないのではなかろうか。」このように決定がなっております。これは大沼副検事が自分でやったものでないことは、この準起訴請求事件における当時の検事正であった安西検事正、この人の証言でも明らかであります。しかもその法廷に出た最高検の検事その他の人々は、法務委員会でがやがや言われてうるさくてしょうがないから出したということも言っている。「問 騒がしいのは弁護人の方ですか。答 それだけでなく、アカハタや商業新聞にも同調者がいますから。問 国会の法務委員会も一つの理由ですか。答 そうです。問 騒いでいる中に入るのですか。答 入ります。問 検察の威信ですか。答 そういう趣旨を入れてですね。問 結局騒がなければ返さない訳か。答 それはそうですよ。」これが神山検事のこの法廷における裁判官との問答です。こうなってきますと、これは刑法上の問題も明らかに関係してきます。涜職の罪、第百九十三条公務員の職権乱用とし、「公務員共職権ヲ濫用シ人ヲシテ義務ナキ事ヲ行ハシメ又ハ行フ可キ権利ヲ妨害シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ禁固ニ処ス」その他第百九十四条もあります。こうなっていますと、この問題が非常に重大なことになってきて、これをもし弁護団、松川事件の被告人扱いされた一群の人たちから、刑法上の涜職の罪をもって、問題にされたら、時効になるからといってこれはほっておけませんよ。時効になるからほおかぶりしておけということではこの問題は済みません。こういうことも関係ありますから。要するに私どもがここで請求しなければ検事庁は証拠を出さない。これはもうあなたの言われる公判を維持するために、検事と平等で争うときに、公益を代表するといわれる検事がいつ証拠書類を出すかというテクニックの問題ではなくて、明らかに被告に有利な文書を、権力を乱用してやったということにもなってくる。ですからそういう疑いのないように、もうこの諏訪メモをしぶしぶ出したのではなくて、いま横山委員から非常に正当な疑問が提出されましたから、これに基づいて証拠書類を一切この際公開してください。それをあなた検察庁に言われるかどうか、そのことをひとつ関連質問として伺いたいと思います。
  88. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 御質問の御趣旨は、一切の証拠書類を公開するということでございますか。
  89. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 そうです。済んだ事件ですからね。
  90. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 検討いたしまして、公開し得るものかどうか、少しまだ、法律的には即座には判断がつきませんので、研究いたしました上でお答えを申し上げたいと思います。
  91. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 政務次官、賀屋法務大臣にお伝え願いたいのです。いまのようなことで、非常に疑惑のある行動を検察官自身がやっているのです。ですから法務大臣のほうからも一切の証拠を提出すべき筋合いのものだ。テクニックの問題じゃないですよ、竹内さ。だから政務次官からそのことを賀屋法務大臣に忠実に伝え、かつ促進するということを言っていただきたいのです。
  92. 横山利秋

    横山委員 次に青梅事件であります。本件は裁判進行中でありますから、本委員会の良識をもってなるべく内容に入らないようにいたしますけれども、しかし特に申し上げたい点、御留意願いたい点は、そういう意味で申しますから、十分ひとつ誠意のある御答弁を願いたいと思うのです。  青梅事件は松川事件と一脈相通ずる点がある。それは自白だけが証拠であるということのように私は考えております。それから目撃者がないということ。御存じのようにこれは五つの事件から成り立っておりまして、小作駅における。ポイントのいたずらあるいはレールの間に小石を詰めた事件、あるいは踏切の警標柱や枕木を線路上に置いたとか、あるいは鉄道通信用電柱が八分通り切断されたとか、ポイントのいたずらによる電車の脱線があったとか、最後は二月十九日に四両の貨車流出事件があったとか、この五つの事件を中心にいたしまして、十人の被告がいま裁判を受けておるわけであります。  私がまず御意見をただしたい点は、要約すれば第一はこの起訴された事件に対するこの被告たちの検察官に対する供述調書は起訴後のものばかりであるということであります。起訴後のものが二十八通も出してありますけれども、起訴前のものが何にも出ていないという点であります。一体起訴後の被告に対する取り調べというものを許されていいものだろうかどうだろうか、公判中心主義や当事者対等主義の大原則が全く踏みにじられておって、基本的人権を不当に侵害されておるような気がいたすのであります。最高裁の判決は、起訴後においてはなるべく避けなければならぬけれども、やっていかぬことではないとは言っています。それは私も承知している。しかしながら、一方において起訴以前の調書を一通も法廷に提出していないということは、私のようなしろうとをもっていたしましても前代未聞だと考える。なぜ一体起訴前の調書を出さないのか、その点がわれわれの知る限りにおいてはおかしなことだと思っているのです。何か起訴前の調書を出すことが検察陣にとって不利益なのかどうか、そういう疑いを持つわけであります。あたかもその意味においては、諏訪メモと同じようなことが言い得るのではないか。上告書が昨年の十二月出まして、ぜひそれを出してもらいたい、それを出すことによって裁判の公正が期せられるんだからぜひそれを出してもらいたいといって主張をいたしておるのでありますが、なぜ一体検察官はこれらの証拠を出さないのか、なぜ隠しておるのか。隠匿されておると思われる証拠は、弁護士の調べによればどうも四十七通あるといわれておる。この青梅は、松川と比較をいたしますならば、松川のような死刑という問題ではないにしても、人権の問題としては自白しかない、そして目撃者がいないという点については共通する点が非常に多い。この際ひとつ起訴以前の証拠を提出して、そして公平な裁判がされるようにするべきではないかと考えるのでありますが、いかがでございますか。
  93. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 御質問の二点につきましてお答えを申し上げます。  第一点の起訴後に取り調べをすることの可否、これは最高裁の判例も、御指摘のようにこれが違法であるというのではないと思いますが、適否、妥当かどうかということになりますと、私どもはやはりただいま横山先生のおっしゃるように、起訴後は調べないほうがいいという考え方に立っておりますが、本件の事件につきましては、何回かにわたっての犯行になっておりますので、あるいは拘束時間等の関係から起訴後に、一部起訴してさらに調書をつくるというようなこともやむを得なかったかとも思うのでございますが、この点はケース・バイ・ケースできめなければならぬ事柄であろうと思います。しかし、原則論としましては、私は横山先生の御意見に賛成でございます。  第二点の、なぜそれでは調書を前のものを出さぬのかという点につきましては、これは新刑事訴訟法の一つの特徴点でございまして、ベスト・エビデンスの原則と言いますか、必要にして最もいい証拠を必要にして最小限度出す。検車のほうで出した証拠が足りなければ事件は無罪になるというような式の、一口に申しますと、そういう新刑訴の立て方になっておりますので、起訴前につくった調書は、検事のほうとしては必要ないという考えで出さなかったものと思うのでございまして、これは訴訟通用上の、訴訟手続上の訴訟技術と申してもいいかもしれませんが、そういう観点から私はこれを理解いたしておるのでございますが、この点につきましては、その証拠を選んで出すことの違法でないということはもちろん、そうすることが現行法にあるということの趣旨の判例は幾つもあると思いますが、現在この事件は最高裁にかかっておりますので、あまり中身に入って論ずることは、横山先生の御指摘のとおり適当でないわけでございます。ただ二審で、その点の訴訟上の争いとして、弁護人側から提出命令をかけておるのに対しまして、裁判所はそれを却下をいたしておるのでございます。それも理由をあげて却下しておるのでございまして、その辺は訴訟を運用します場合の法廷上の争いごとでございまして、これを第三者の立場で批判することとは自由でございますけれども、やはりこれは訴訟上の問題として私は理解してまいりたい、かように考えておるのでございます。
  94. 横山利秋

    横山委員 単にことばじりをとるわけではないのですが、訴訟手続上の争いということにしては本事件も大問題があるわけであります。赤間自白と同じように、この青梅事件につきましても自白が唯一の証拠になっておる。しかしその自白は、あれは拷問によってなされたものだからというわけで、全部これを撤回をして無罪を主張しておる。そうしてしかも起訴後に調べた調書だけで裁判が行なわれておる。なぜ一体起訴以前の四十八通にものぼる調書を出さないのか、出さないということは何か理由があるだろう。それを単に手続上の問題で議論をするにはあまりにも疑惑が深くなるだけである、こういうふうに考える。したがって、もしも手続上の問題だけであるとするならば、これほど疑惑が深まっておる問題について、この調書をすべて提出をして、被告の防護権を侵害しておると思われるようなことについては、公正な裁判のために、この際、いろいろなことはあっても提出すべきではないか、こう私は考えるのであります。この点についてぜひ善処を求めたいと思うのでありますが、いかがですか。
  95. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 私は、訴訟運用上の技術の問題として理解をしておることを申し上げたのでございますが、しばしばこの法務委員会でも言ったように、証拠を選んで出すことが、現行刑事訴訟法のたてまえ上当然なことであるとされておるのでございますが、それでは何か検事が証拠、調書を持っておる、それを出さないと隠したというふう言われるのは、私はまことに耳ざわりなので、隠すなんということを公益の代表である検事がなすべきことでないことは言うまでもないことなので、出す必要ないから出さないのを、それを隠したというふうにとられるような訴訟手続そのものについて、ほんとうは新刑訴に従って運用を重ねて、だれが見ても公正な新刑訴に沿った法廷の運用ということを期待するのでございますけれども、いまのようなことがほんとうに国民の声であるということならば、起訴状一本主義のいまの訴訟手続は国民に疑惑を与えるだけであって、適当でない訴訟手続であるということになるのじゃないかということを私は懸念をいたすのでございますが、この点につきましては、私どもも十分検討いたしまして、訴訟手続の構造、そういう観点からも検討してまいらなければならぬ問題だと思うのでございます。しかも現行法の訴訟構造は、ベスト・エビデンスの原則と申しますか、先ほど申したようなことで取捨選択をして検察官は提起をする、こういうことになっております。
  96. 横山利秋

    横山委員 理論闘争を私はしておるのではないのでございますが、この青梅事件の事案の性質、本質に顧みて、お出しになったほうがいいのではないか。被告のうち一人は自殺未遂をし、一人は気違い病院に入り、一人は肺結核になり、そして長年にわたって無実を訴えておる。こういう状況にあるのであるから、あなたのほうに理論上の問題を吹っかけているのではないのだから、もしも差しつかえなければ、これは出して裁判の公正を期したほうがいいのではないか、こう言っておるのでありますから、決して刑事訴訟法の本質について私が議論を吹っかけておるわけではないのであります。この事案の性質というものが、自白しか何もない、それから起訴後の調書しかない、目撃者が一人もおらぬ。こういう事態の状況であるから、何かあなたのほうが起訴後の調書しか出さないということについて疑惑があるんだから、この際さっぱりと、いろいろな経緯もあったかもしらぬけれども、出してやったほうが公正な裁判——世間の疑惑というものを払拭できるのではないかと言ってすすめておるわけです。まあ、あなたと私と議論をするという意味じゃなくて、こうしたほうがいいんじゃないか、なぜそれができないのだろうか、ふしぎでならないと私は言っておる。
  97. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ここで横山先生とその点を議論しますと、あたかもここが法廷みたいになってしまうわけでございますが、現に弁護人のほうから出すようにという申請を手続としましてはしておるようでございます。でございますから、裁判所がそれに対して適切な判断をすると思いますし、検察庁のほうにおきましては、私が先ほど訴訟上の問題だと申し上げたのは、これは検察官の判断にまかしておるんだという意味で申し上げたのでございまして、国会でもそういう御議論があったということはお伝えをしておきますけれども、そこは訴訟の場において決定を見ていくのが適当ではないか、かように考えます。
  98. 横山利秋

    横山委員 それでは私は強くその点について善処を求めて、次の質問に移りたいと思います。  国鉄側にちょっと事務的に聞きたいのであります。私も国鉄の出身でございますから、内容は簡略に申し上げたいのでありますが、二十七年二月十九日に最終的な事件が起こりましたが、ついこの間、立川駅で貨車の流出事故が起こりました。この際の新聞に、「過去の暴走ケース」として、「また青梅線では二十六年七月六日、小作駅構内で貨車を突き放し作業中、ブレーキが故障した貨車が立川方向に暴走、反対側からきた電車がいち早くこれを見つけ、バックして逃げた。暴走を続けた貨車を羽村駅の側線に導入し、在留貨車二両と衝突させてようやく止めた。翌年二月十九日にも小作駅で貨車のブレーキがゆるんで福生まで暴走したケースがあったが、このときは被害はなかった。」こういう報道がされておるわけであります。  私の聞きたいのは、この二十七年二月十九日の事件について、国鉄側としてどういう事故処理がなされておるのか。その当時の状況を、ひとつその事故の事故報告はどういうことになっておるのかお聞かせを願いたい。
  99. 上林健

    ○上林説明員 いま先生から御指摘の二十七年二月の事故は、小作駅で事故発生の原因があったのでございますが、この貨車は二駅ばかり疾走いたしまして、上り線に沿って福生という駅で車両衝突が起きたわけであります。当時の資料としては、もうすでにだいぶ前のことでございますので、詳細は、現在その責任者がおりませんので、書面に残っておる資料しかございませんが、その資料によりますと、そういうことになっております。
  100. 横山利秋

    横山委員 そうしますと、この新聞の伝えるように、ブレーキがゆるんで暴走したケースとして処理されておるわけですね。
  101. 上林健

    ○上林説明員 いま申し上げましたのは、事故の発生した結果について申し上げたわけでありますが、原因関係について、ブレーキはどうかということにつきましては、国鉄側としては、ブレーキがゆるんでおったとか、あるいはゆるんでいなかったということについては、現に確たる資料は持ち合わせておりません。
  102. 横山利秋

    横山委員 その点についてはあらためて私はただしたいと思います。  時間の関係上、次に進みますが、最近弁護団側から東京の鉄道管理局長及び小作駅駅長あてに照会をしたところが、どういうかげんか、まだ御返事がないという点であります。それは駅務統計簿総括表、駅勢原簿、私も国鉄の人間でありますから、その内容はよく知っておるのであります。それから日報というものは日ごと、月ごとあるいは年ごとに整理がされておるわけでございます。これらはもちろん何らの作為をすることもないし、着実に事務的に報告がなされておるのでありますが、これらの問題について弁護団側からあなたのほうに資料の提供を要望したときに、あなたのほうは応ぜられると思いますが、いかがでございますか。
  103. 上林健

    ○上林説明員 各駅から管理局へいわゆる駅勢調査の資料が出ております。これは先生御承知のとおりであります。ただし当時の小作駅の件あるいは青梅線等に関する資料、何ぶんにもだいぶ前のことでございますので、現存しておるかどうか、現存しておるのではないかと思いますが、はたして現存しているかどうかということ。それからこの駅勢調査の実態は管理局、つまりいまでいえば支社及び管理局でございますが、実施及び運用をしておるわけでございます。したがって、どういう様式等でやっておるかということについては、本社ではその詳細を承知しておりません。駅勢調査なるものが行なわれておることは、ずっと前からやっておるのでございますが、実際の、いま先生が言われるような書類につきましては、調査いたしまして、御指示の線によってしかるべく手続を通して善処いたしたいと思います。
  104. 横山利秋

    横山委員 けっこうです。それでは協力依頼がありましたら、ひとつ公正な裁判のために協力をしてやっていただきたいと思います。  最後に、この青梅事件の特色の一つとして、拷問の問題があります。時間の節約上、その被告人たちの書きましたものについて一部を朗読して、質問に入りたいと思うのであります。  大沢被告は、「私は肉体的の苦しみ精神的の苦しみで本当に困ってしまいました。私の云ふ真実を刑事達は少しも聞いてくれず、大館部長が私のえり首を持って「オキまだ正直にやったと云えないのか」と、他の刑事達は私を殴る蹴る、などうした時、私は、「やりました」と言って、大館部長のひざに、「口惜しい俺れ位口惜しい者はいない」と大声で泣きくるいました。」  同じく同被告、「十月三日は、「私一人で行きました」が友人五、六人と合って居る。それから「青梅署の安田刑事とも合って居る」と言ったら、金杉、桑名、斎藤刑事が「オキお前の云うアリバイは皆な出たら目だ、木下、村山、中村、吉田もオキの云ふ事は知らないと言って居る」と私を殴る、蹴る、のでした。私はひどい目にあって亦やったと言わされて、午后二時頃です。藤検事に合せられ、私は、「こんなひどい目に合うならどうなってもいい」と云うきになって、検事の前で「やった」と言ってしまった。」  それから中垣被告、「全く身に覚えの無いことでありますから「解りません」と申しますと「お前はまだ真人間になれないのか」と云われて正座で取り調べをされました、朝から夜る迄八、九時間は調べられておりますので足がいたくなるので「足をのばさせて下さい」と主任に申しますと「山を出す迄そのまま正座で坐っていろ」と云うので、しびれた足をがまんして坐っておりますと、こんどは他の刑事が横から口を出して「それなら立て」と云って部屋の中を髪の毛を持って引きずりまはすのです、坐っていたために足がしびれ歩けないのを面白がって刑事達は引張りまわしたのです。」  同じく自殺未遂について、「連日に渡る刑事の取調べのおそろしさとやりもしない人達に「中垣も一緒にやりました」と云っている人達に本当の事を云ってもらうって思って自殺を考いました。一番最初にはパンにマッチの軸棒を半分にして約十本くらいのみました。二日目には警察の留置場の中には金網が張ってあります。その網をとめてあるピンを五、六本パンにくるみのみましたが死ぬことは出来ませんでした。三日目には女の人の毛とめピンをひろって同じ事。パンにくるみくの字型にまげてのみましたがそれでも死ぬ事は出来ませんでした。四日目にはどうしても死んで西村、池田、宇津木や今では名前を知る様になった顔を公判廷で一、二度見たことにより始めて知った、岩井達に本当の事を云って頂きたいと思って腹に巻いていたさらしとさらしを止めておいた大型の安全ピンをくの字型にまげて針の方を外にまげてすこし広げて同じ事パンにくるんで無理に口の中に入れてあと水をのんで腹の中に入れました、それでも死ぬ事は出来ませんでした、しかし真実を守るためにはなんでも出来ると思う様になりました。」  宇津木。「和田が「宇津木、よく思い出すように薪の上に座らせてやる」といって刑事から薪をもってこさせて床の上に二本薪をならべその上に座らせられヒザとモモの間えも、二本の薪を入れられました。夢中だったので時間は、わかりませんが、痛いうえにしびれがきれてがまんできなくなりました。和田が「考えたか」というので「考えた」といって拷問をやめてもらいました。わくじめというのは、和田がいったことです。二月、中ばごろ河野刑事が「俺にだけほんとうの事をいってくれ、実際やっているか、やっていないのか」ときいたので「実際はやっていません」というと、河野はすぐ帰り、今度は五人ぐらいの刑事がやってきて、署長室の手前の部屋でひどい目に合いました、そんとき革靴のカカトでももを何回も何回も、ふんずけられ、ビッコを引いてやっと房え帰りました。翌朝は、ももがはれて歩けなくなりました、河野刑事がそれを見て酢とうどんこで、はり薬を作ってはってくれました、一週間ぐらいはれていて、痛くてビッコをひいて調べに出ました。ノコギリを誰がもってきたかについて話が合わずに、拷問されたときは「うで立て、ふせ」をやられた、つかれてヒザをつくと靴でけツをけとばされた。或時は、一升ビンをつるされました。一升ビンに水を二、三合入れ、ぬいとでビンの口をしばり一尺ぐらいの長さにして、手をのばしてヒモをもってつるすのです、疲れて下におろすと殴られました。」  池田信二。「そこへ、河野刑事が私をつれて行き、今夜はここえねろと言いながら、両手錠のまま、立っている私をけとばしてひっくりかえしそのままでていった。」  その次は西村高見。「殴られることなどしょっちゅうのことでした。一番ひどかったのは、なんつっても立川署の看守の寝るところで、大館、保土田、斎藤、桑名、安田、山下、星谷刑事らに、四帖半ぐらいの部屋で、頭の毛をもって引ずり廻され、ももを蹴とばされ、引くり返されしたことです、あがってから、六、七日ぐらいたった日のことでした」。「青梅署の二階で山下とアゴナガ刑事二人に拷問されたときは、一尺五寸ぐらいのタルキを両手をのばし、両手の人差指で横から抑え、その上に一本づつのせてゆき十本ぐらいつみあげられました、そして「よく考えろ、人様に申し訳ないと思わんか」といわれました、次に親指でやられ「親の事を考えろ」といわれました、次に中指でやられ「仲間の事を考えろ」といわれました。次に子指でやられ「子供のできたときの事を考えろ」といわれました。苦しまぎれに「私の家のえんの下にかくした」といいました、刑事が調べにいったのですがでてこないので、帰ってから又、殴られました、最後にはとうとうどうしたかわからない、ということで落ちつきました。」「私は警察でひどい目に合いました、くやしくてしょうがありません、やりもしない事をやったといって大勢の人に迷惑をかけました、どうしても無罪にならなければ、一生まっくらなくらしおするようです、捕まってから、今日まで十年になりますが、一日だってのんびり出来たことはないのです。どうか、最後の裁判で無罪がはっきりするよう、よく調べて下さい、お願いします。」  これはほんの一部の抜粋であります。このような口述といいますか、これは実際に私が読んでみましても、失礼な話、たとえ多少誇張があるにいたしましても、事実無根とは言い切れない点を私は文面から読み取ることができるのであります。こういうような拷問が今日なお続けられておるのだろうかと私は全くびっくりしたのであります。こういうようなことがいまの警察の中であるとすれば、言語道断と言いましょうか、何と言うか、言いようのないものであります。こういう中で起訴前の調書がつくられ、起訴をされたら、今度は起訴前の調書は全部白紙に返してどこかにいってしまっておる。起訴後の調書が今日の犯罪の構成をしておるのであります。私は、この青梅事件を知るについて、まことに今日の検察のあり方、警察のあり方について悲憤やる方ない人間的な反発を覚えざるを得ないのであります。この点について警察庁の御意見を伺いたい。
  105. 後藤田正晴

    ○後藤田政府委員 ただいまお読みになりましたようなことが、今日の警察の中で行なわれておるとするならば、きわめて事柄は重大であります。私どもとしては、私自身終戦後長く警察におりますが、ただいまのようなお話を聞いておりまして、終戦後の警察でそういうことがあり得ようはずがないということを、私は確信をいたしております。しかし、この事件につきましては、青梅事件対策協議会の名前で、所轄の署長なりあるいは警視総監に、取り調べの際に拷問が行なわれておるということで、調査と、関係警察官の即時罷免の手続をとってもらいたい、こういうお申し出がございました。そこで警視庁といたしましても、本件については調べたようでございます。その報告も私は聞きました。同時にまた、私自身がそのときの刑事について事情の調査をいたしました。しかしながら、さような拷問による自白であるといったような事実はございません。また、このことは高裁の判決においても、拷問による供述であるといったようなことは認められないということが判示せられておるのでございます。
  106. 横山利秋

    横山委員 あなた方が部下を調べる、あるいは逮捕し取り調べた人間を上司であるあなた方が調べた結果について、その間の零囲気、その間の事情を想像するにかたくない気が私はいたします。まことに失礼な言い方でありますけれども、全く客観的な立場の人が調べるのならいざ知らず、あなた方が上司であり、かつともに青梅事件の警察の立場にある人が調べて事実無根であるという雰囲気は、失礼な話でありますが想像にかたくないのであります。しかし、あなたもこれは前にお読みになったかどうか知りませんが、この文章を読んでみて、ありもしないことをかくも克明といいますか、事実描写が的確になされておるということは私はあり得ないことだと思う。現実の体験をもってしなければこういうようなことまでは出てこないと思うのであります。この青梅の被告諸君は、少なくとも事件のあります前までに全員の面識があった人間たちではありません。AとB、BとC等々というふうに、面識のあった人間ではない。この点はあなた方も御存じだと思いますが、こういうような拷問の事実というものは、まことに私は反感にたえない。これこそが青梅事件の背景の一環をなすものだという気がしてならないのであります。繰り返し言いますけれども、ここで青梅事件の内容を議論するつもりはございませんけれども、   〔委員長退席、坂本委員長代理着席〕 しかしながら、よくよく考えていただかなければならぬ最大の問題だと私は思います。  政務次官にお伺いいたしたいと思いますが、時間があまりおそくなりまして恐縮でございますが、私の要望をいたします点は、こういう事情であるから、青梅について公正な裁判ができるように、起訴前の調書なりいろいろな証拠を出してやるべきではなかろうか、あるいはこういう拷問の事実はないとおっしゃるけれども、どう考えてもこういう雰囲気というものが今日の警察の中に残っているような気がしてならないのであります。それで起訴事実がつくられていくとするならば、人権上まことにゆゆしき問題だと思う。御感想を承って私の質問を終わりたいと思うのです。
  107. 天埜良吉

    天埜政府委員 いまの証拠云々のことにつきましては、これは刑事局長からお答えしたとおりでございます。また、その人権の侵害の有無ということについては十分よく取り調べの上善処したい、かように考えております。
  108. 横山利秋

    横山委員 いずれ、この松川並びに青梅事件につきましては、さらに質問をいたすこともありましょうが、きょうは時間がおそくなりましたから、この辺で打ち切ります。
  109. 坂本泰良

    ○坂本委員長代理 本日の議事はこの程度にとどめます。  次会は明六日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時四十一分散会