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大澤政府委員 受刑者の懲役刑に基づく
作業に対して
賃金を支払うべきかどうかという問題は、これは行刑上大きな問題でございまして、漸次世界的な行刑思潮は、懲役勤労に対してもそれ相当の
賃金を支払うほうがいいというふうな考え方もあるわけであります。しかしながら、一面刑の本質論からまいりまして刑法に「懲役ハ監獄ニ拘置シ定役ニ服ス」という規定がありまして、いわゆる役務に服する義務がある。したがいましてこれに対する
労働賃金は支給すべきでないという考え方が、いまの刑法上かねてからとられてきた考え方であります。しかしながら、われわれとして
受刑者に
作業を課しながらただ苦役を与えるだけということでは、刑政の
目的が達せられないので、やはりできるだけ勤労心を振起せしめるために、働けばそれだけの報いがあるという形で、
作業賞与金というものを置いておるわけであります。決してわれわれとして
賃金を支払うべしという考え方に立っておるわけではございません。特にまた
賃金説をとるということは実際上不可能なことでございます。
本人が、おれは文筆業をやりたい、それに特技があるとなれば、文筆業をやらせなければならぬ。また、おれは造船の技術があるから造船をやりたい、いろいろその人その人に特技がある。したがいまして
刑務作業ですべての人が自己の特殊技能を発揮するような
施設をするということ、これまた不可能なことでございます。したがいましてたまたま
刑務所内で行なえる
作業に技を持っておる人は、きわめて優秀な
作業ができるが、そうでない者はできないというような不公平のことになるわけでございます。だから、
賃金を与えるという立場をとりますと、やはりその者の得意の技能のある
作業をわれわれとしてあてがわなければならぬ。きわめてそこが
刑務所内で不公正な取り扱いということに相なるわけでございまして、大ぜいの収容者をかかえる
刑務所といたしまして、その点公平をはかるという
意味合いから、すべての
作業を置くわけにいかぬとなれば、やはりそこに
賃金というものを持ち込むことが不可能になるわけで、非常に困難になるわけでございます。さような
意味合いで、われわれとしましては、一生懸命に働けば報いがあるのだという精神を振起するという
意味合いで
作業賞与金を支給しているのでございまして、それにつきまして、それぞれの技能に応じまして一等工、二等工等の技能差を設け、またそれに勤惰とか
刑務所としましての行状その他を加味いたしまして、その所内における行状の点を加味した賞与金の
算定をいたしているわけでございます。しからば、それはどこに目標を置くかということに相なりますと、われわれとしましては、
刑務所から出ていく、一銭の金もないということになれば、再び罪に陥るおそれがある。少なくとも一ヵ月程度の生活費は持って出なければ、またあすから路頭に迷うということになりますので、大体いわゆる生活保護法の定めております生活扶助費の一ヵ月ないし一ヵ月半を、平均大体在所期間が十五ヵ月でございますが、十五ヵ月平均勤めた者には、一ヵ月から一ヵ月半の生活保護法に定める生活扶助費相当額を持たしてやろうという勘定から逆算いたしまして、この
作業の賞与金の
金額というものを定めているわけでございます。
次に御
質問の、
作業の就業についての
本人の自由意志という問題でございますが、これはやはり懲役刑に基づきまして、
本人に
作業を拒否する権利はございません。したがいまして、われわれとしてその者の能力あるいは技術等を勘案いたしまして、またその者の
注意力その他あらゆる点を審査いたしまして、その者の適性に合った
仕事、また将来その者が
社会に復帰しました場合に、どういう職業がいいかということを勘案いたしまして、所内における最もそれに適した
作業につけるということに意を配っているわけでございます。したがいまして、このことが危険な
仕事だからというので
作業をやらしているわけではございません。危険の防止という点は、これはまた別個の問題としてわれわれは考えているわけでございます。この
作業に就業せしめるという点につきましては、個々の個人的能力あるいは
社会的の才能、条件等を考慮して決定するわけでございます。