○
片柳参考人 私は、
漁災制度の
期成中央本部長といたしまして、両
法案に対しまして
意見を申し述べたいと思います。
まず、
お礼を申し上げる次第でございますが、昨年の
国会におきまして、当時におきましては、三派の
共同修正で
沿岸漁業等振興法が
制定を見まして、現在
実施中でございますが、この
法案で掲げておりまするところの各般の
沿岸漁業の
振興の
施策のうち、最も急を安し、かつ基本的な
施策といたしまして、われわれ
沿岸漁業者がかねてから待望しておりました
漁業災害補償制度のすみやかな
制定をしていただきたい、このことで、
全国漁民大会の
開催等を通じまして強く御要望いたしてまいったのでございまするが、幸いにも、
政府当局あるいは
国会、
自民党、
社会党、民社党、各党におきましても、深い御理解と御関心を持たれまして、現在この
国会に
政府並びに
社会党の両方から
漁業災害補償法案が
提案されまして、現在
審議の
運びになっておりますることは、まことにありがたいことでございまして、厚く
お礼を申し上げる次第であります。
非常に重要な
施策でございまして、また法律の
ていさいを見てまいりましても、二百数十条の大法典でございまするし、また
保険技術の専門的なこまかい問題も内部に包蔵しておるのでございまして、この
制度をつくりますにつきましては、私も若干役人の
経験もありまするが、少なくとも一年くらいの
準備期間を要したと思うのでありまするが、われわれの
要請を特にお入れいただきまして、
政府当局、これを推進していただきました
自民党の
水産部会の
皆さん方、並びに並行して
提案をいただきました
社会党の
各位に対しまして、非常な御努力の点は、重ねて深く
お礼を申し上げる次第であります。
そこで、
法案並びにその
運用等につきまして、若干の
意見を申し上げまするが、まず、各論に入ります前に、
法案全体の体系といいまするか、あるいは
構想と申しましょうか、この
法案の基調的な
性格につきまして、今後の御改正をいただく
前提にもなりますので、一言触れてみたいと存ずるのであります。
漁業共済事業、これはただいま
園先生からもお話があったような次第でありまして、
漁業は、ちょうど
農業あるいはそれ以上に非常な
災害の危険にさらされておるものでございまして、したがいまして、営業的に
保険として
収支ペイするものでないことは、これはもう説明するまでもないと思うのであります。若干の
漁具保険等を除きまして、これまで
保険会社がいろいろの
保険をいろいろやっておりまするが、
漁業についてはさような民営の
実績はないということからも御判定がつくと思うのでございまして、したがいまして、やはりこれは政策的に国の
制度的かつ財政的の相応の援助がなければ成り立たないことは、申すまでもないと思うのであります。したがって、
漁業共済事業が、究極的には、国とわれわれ
民間とが一体となって行なうところの
漁業災害補償制度として
運営されなければならないという、この
基本的考え方は、私は、今日までの
国会における
審議、
政府当局の御
答弁等を通じまして、
政府案におきましても、また
社会党案においても、その
考え方は同じではないかと思うのでありまして、
片一方が右を向き、
片一方が左を向くという
性格ではない、同じ
方向を指向しておるものと存ずるのであります。ただ、率直に申し上げまして、
政府案におきましては、過去六カ年にわたります
漁業共済事業の
試験実施に対する
評価、あるいはこれに基づく
実施への踏み切りにおいて、これは
当局がきわめて慎重な態度をとられたことは理解できるわけでございまするが、全体のムードとしては若干消極的ではないかという
感じを、
本部長といたしまして、従来
お願いをいたしました筋からも、さような
感じを遺憾ながら持つのであります。もちろん、すでに
明年度の予算も決定しておりまして、それとの関係もございまするが、
漁業共済研究会の
答申にありまするように、
試験実施の経緯に照らして、本
事業は十分に成り立つ
可能性があり、
答申の指摘する基本的な
方向に従って本
事業を
本格実施に移し、
漁業経営のための
基本的制度の
一つとして、その発達を期することが必要であるという
答申の
評価については、いま少しく積極的なお考えをとって
制度化をお考えくださったならば、
漁業災害補償法という名にふさわしい
内容と
実体が盛られたのではないかという
感じを持つわけでございます。それは、
政府案の第一条の
目的、第二条の
漁業災害補償制度の
条項を見ますれば、一目瞭然でありまして、少なくとも、この一条、二条の
目的なりあるいは
制度の
条項の字句からは、
災害補償制度に不可欠の
制度でありまするところの国の再
保険措置、すなわち、
民間の
共済団体においてやれる
共済責任限度をこえる分については、国が
責任を持って措置するという、本
事業に対する積極的な
姿勢が、どうも本
法案では見られないという観があるのであります。また、この
制度に対するかまえといたしましても、
相互救済の精神を基調として、すなわち、われわれ
漁業者並びにその
団体がまずみずから
漁業共済事業をやることを骨子といたしまして、国はそれに対して、自分の
事業ということではなくして、これに対して援護、
あと押しをするというようなかまえでございまして、一部に言われておるように、
内容と
実体とがどうもまだそぐわないという
感じがいたすわけであります。しかし、このことは、
漁業共済責任について、いわゆる
通常、異常の区分を明確にすることが、現時点においてはいまだ困難である。将来
漁業共済の
加入を増大させて、普遍的な
加入をはかり、かつ
実績資料を整備して、逐次改善して将来を期そうということで、この点はただいま
園先生も指摘のように、必ずしも明確ではないと思いまするが、
附則第二条の
検討条項によって、その
方向を
政府も示唆しておるということに私
どもはとっておるのであります。私
どもも、この
制度ができました上は、従来のようなことでなくして、
加入の
普遍化をはかり、逆選択の
防止等につきましては、
運営上最善を期してまいるつもりでございます。どうぞ今後
政府におかれましても、前向きの
姿勢で
検討を加えられまして、
漁業災害補償法の名にふさわしい
内容づけをしていただくように強く要望いたしたいのであります。
この点に関しましては、
社会党の案におきましては、
農災法に準じて、当初から
災害補償制度の
内容を備えまして、特に
法案第五章におきましては、
政府の
保険事業という条章を設けまして、国の再
保険制度を明確に規定しておるわけで、これは私
どもが
本部におきましてかねてから研究して要望しておりまする線に近いものでございまして、したがいまして、まずまず、
理想像という
ことばが適当かどうかわかりませんが、われわれの
要請に近いものと見てよろしいと思うのであります。ただ、実際問題といたしまして、かような
制度があすから直ちに具体的にこれが現実的な
制度として運用されるかどうかの
可能性につきましては、私
ども多少のやはりいろいろな
感じを持っておるのであります。すなわち、
保険制度運営に必要な
資料の整備が現在ではまだ足りるか足りないかという、そういう
信憑度の問題が
一つございましょうし、また過去六年間ではございましたが、過去の
実績に対する見方もあろうかと思うのでありまして、これをにわかに一〇〇%習熟して、すぐさま全面的な
災害補償制度としてスタートできるかどうかについても、やはりいろいろな御議論があると思うのであります。またわれわれ
漁業者並びにその
団体に対する過去並びに現在に対する
評価等もございますので、理想的な形ではございますが、これを全面的に
実施できるかどうかにつきましては、私
どもといたしましては、にわかに結論を出しがたいような心境でございます。しかし、いずれにいたしましても、
社会党案に盛られておる
基本的構想は、われわれがかねてから要望しております
構想に近いものでございますので、近い将来に
政府案が到達しなければならない
目標といたしまして、
社会党案に深い敬意を表する次第でございます。
したがいまして、私は、率直にこの
機会に申し上げておきたいと思いますが、
政府案に対しましては、少なくとも
最少限度の
修正条項といたしまして、
法案附則第二条の
検討事項をいま少しく、
災害補償制度が近き将来に到達する
目標として、もっと具体的にこれを規定いたしまして、すみやかにその
制度が実現されるように特に
お願いをいたしたいと思うのであります。したがいまして、もしも
法案の第二条が
修正の上通りました場合におきましては、
政府はその
修正の趣旨を十分尊重せられまして、国の
超過損害再
保険制度並びに
共済掛け金及び
事務費の
国家補助にあらざる
国庫負担を
内容とする、
名実ともに
災害補償の
制度として確立するように、早急に御
準備に入っていただきたいと
念願をいたす次第であります。
以下、
内容について、さらに若干の
意見を申し上げて、お聞き取りをいただきたいと思います。
第一は、
基金の問題でございますが、ただいま申し上げましたように、なるべく早い
機会に国の再
保険制度の確立を要望いたすものでございますが、しかし、この
制度がスタートいたしますと、その間におきましては、やはり
相当予期以上の
保険事故、
共済事故の
発生ということは、これは当然想定されるわけであります。再
保険制度がない
期間においてさようなことが当然起こり得るわけでございまして、
漁獲共済はあるいは別といたしましても、特に
養殖共済のごときにつきましては、
事故が地域的に集中して起こる、
被害率の振れも非常に大きいものがありますことは、殷鑑遠からず、本
年度の千葉、宮城県等の
ノリの大不作に徴しても明らかなことでございまして、しかも
府県の
共済組合も一割の
共済責任を持つということにも本案はなっておりますので、はたして五億円の
基金で
不足金が出た場合に、十分その
不足金の
融資等の機能を果たすことができますかどうか、実は少なくとも
養殖共済につきましては懸念を持っておるわけであります。おそらく
当局におかれては、過去の
試験実施の結果に基づいて、予想される最大の
事故が
発生した場合にも、十分対処し得るという一応の設計にはなっておると存じますが、ただいま申し上げました
ノリ等の昨今の状態から見ましても、五億円でいつの場合にも限るということについては心配があるのであります。かかる事態に対しましては、法律案第九十五条の規定による削減という措置もあるわけでございますけれ
ども、これはできるだけ避けたいことは申すまでもないのでございますし、また、少なくとも
制度出発早々から削減等の措置を講じますれば、今後の
加入に非常な影響がありますことは申すまでもないのであります。したがって、かような予期以上の
事故が起きた場合におきましては、これは
基金の正常なる支払い機能をこえる問題として、国が
責任を持って必要な支払い措置を確保するということが−現在再
保険制度がない、異常、
通常込みにしているものを対象にしている
基金というたてまえからも、かような五億円で足らない場合においては、国の
責任におきまして必要な支払い措置を講じていただきますことが当然だと考えるのでございまして、この点につきましては、御
審議を通じまして十分明確にしていただきたいと存ずるのであります。
なお、将来、この
基金は、
事業量の増大に応じまして増額の必要がある時期が必ずくると存じておりますが、当初出発の際の五億円の
基金についての
政府と
民間出資の割合をそのまま踏襲することは、将来われわれ
民間の負担力を考えますと、なかなかたいへんでもございまして、いつも
政府と
民間で半々ということは、ちょっと苦しいような状況でございますので、今後増額の場合におきましては、
政府において御負担をいただくということにつきましても、漁村の実情から、できるだけ御勘案をいただきたいと存ずるのであります。
社会党案におきましては、十億円の
基金のうち、七割を国が出すということでございますが、さような点も十分お考えをいただきたいと存ずるのであります。
次は、
漁業共済限度額の問題でございまして、これもこの
制度のきわめて重点事項であります。
政府の
法案の百十一条によりますと、過去一定年間の
漁獲金額を基準とし、その基準
漁獲金額の九〇%以内で農林省令で定めた限度額率を乗じて得た金額としておりますが、具体的には省令できめることになっておりまして、現在私
どもが承知しているところでは、いわゆる安定型が八〇%、普通型が七二%、変動型が六五%と定め、特に安定型の中で、最近
漁獲金額が上昇傾向にあり、あるいは漁労設備の改善をなして非常に経費のかかったもの等については、特約によって九割まで引き上げることができるということになっておりますが、これは過去の農林統計によって、償却費分を除いた
漁業経費は、安定型においては
通常漁獲高の八割であるという統計的根拠に基づくものと聞いておりますけれ
ども、御承知のとおり、最近は
漁業経営の進歩もございますが、資材費、人件費その他の経費は、物価高の影響を受けまして、相当ウエートが上がっておるのでございまして、過去の統計の比率を機械的に運用することに問題があろうかと思うのであります。特に安定の強いものは、むしろ
保険としては歓迎すべきお客さんでございますので、限度を上げても、安定度の強い
漁業は強くこの
制度に導入するということのほうが、むしろ
保険経済からも適当ではないかと思うのであります。この限度がいままでは九五%ということで、全水共もやってきたようなことでございまして、これを低くきめることは、いま言った経費高の大勢とも逆行いたしまするし、またこれが低いことは、その後いろいろ聞いてみますると、
共済に入るという魅力を非常に減殺をするようであります。したがいまして、この
共済制度に対する
加入意欲を低下させない
意味からも、この限度額につきましては、ひとつ十分御
検討をいただきたいと思うのであります。もちろん、限度額を上げますれば、
共済掛け金の絶対額はある程度ふえてくることでございまするけれ
ども、いま言った安定度の高いものは、むしろ本
事業としては
事業の安定化のためにも歓迎すべき筋合いでございまするので、予算の実行との関係がございまするが、事情が許しますれば、この限度を引き上げていただきたいと思いまするが、もしもどうしてもそれができませんような場合におきましては、同じく
附則の
検討事項として、なるべく早い
機会に、実態に合ったような限度の引き上げを、法制的にも、予算的にも、ひとつ早急に講じていただきたいと
お願いいたす次第でございます。
なお、
漁獲金額を決定する勘案事項といたしまして、魚価の動向ということが
社会党案には入っておるのでございますが、これも私
どもは理念としてはまことに同感であります。特に限度額をしげることもありまするけれ
ども、八割とか九割とか、九五%を乗じたところの基本的な
漁獲金額が過小に
評価されますると、実態的には限度の実質的な引き下げにも通ずるわけでございますので、最近の物価高等の事情もございまするが、魚価の動向を入れることにつきましても十分御
検討をしていただきたいと思うのであります。ただ、具体的に魚価の動向をつかむということになりますと、実際上の問題がいろいろあると思いまするが、理論といたしましては、そのようなことをお考えをいただきたいと存ずるのであります。
それから
事務費の国庫補助の規定でございまして、
政府案には
事務費国庫補助に関することは、法律事項としては規定をされておらぬのでございますが、この辺もいろいろ理屈はあるようでございますけれ
ども、
掛け金補助を法律化しておりますれば、これもあわせて法制化をしていただくことはたいした支障はないと思うのであります。
以上、大体の事項を申し上げましたが、さらに、
社会党案では規定されており、
政府案にはございませんところのいろいろな問題、たとえば
共済掛け金の無事戻し
制度、
共済掛け金の分割払い
制度の拡充、
共済加入者が
損害防止等を行なった場合の
費用の組合の負担の問題、あるいは
損害評価制度の採用の問題、あるいは不漁
準備積み立て金
制度等の問題がございまして、いろいろ御
審議中と聞いておりまするが、時間の関係上省略をさせていただきます。
ただ、これを通覧いたしますると、いずれも重要な事項でありまするが、
内容的にはなお若干の
検討の余地のある問題もあるようでありまするし、あるいはいま直ちにこれを
実施しなくては絶対にそれは困るという筋合いでないものもあるようでございまするし、あるいは実際上の
制度の運用面で片づけ得るものもあるかと存ずるのでありまするが、かような問題は後ほど御質問等がございますれば、それに応じましてお答えをいたしたいと存ずるのであります。
最後に、任意
共済事業の兼営の問題について申し上げたいと存じますが、現在まで全水共が行なってまいりました任意
共済事業、いわゆる建物
共済、厚生
共済等でございますが、私個人の考えといたしましては、やはり新しい
制度をつくる際に、
共済団体に行為能力としてはかような任意
共済を同時に与えることが、法律的には私はむしろ正しいのではないかというような
感じも持っておりましたが、いろいろな事情で、これは今回の
政府案には盛られておらないのであります。
保険事業の
性格から見て、国がバックアップしておるところの
漁業共済と任意
共済とを一緒にやることは、理論的には適当でないというような
意見も、一部にはあるようでございますが、しかし、漁協系統が中核となっている新しい
共済団体が、同じ漁村を対象にして行なう任意
共済事業でありますので、これは一緒にやったほうが、むしろ、
共済団体の
事業の
運営に弾力性、安定性を与えるのではないかと思っておるのであります。もちろん、勘定は別にいたしますが、任意
共済事業と申しましても、御承知のように、当然これはコマーシャルベースに乗り得る
事業でございますので、これをやることのほうが、むしろ弾力性を与えるという、私も
農業共済の仕事をやりました卑近な
経験からも、さような
感じを持っておるのであります。この問題をおくらせておりますのは、さような理論的な問題よりも、むしろ、従来全水共が国の委託を受けて過去六カ年間行なってまいりました
漁業共済事業の
試験実施過程において生じました赤字の処理をどうするかという、現実上の問題が解決されておらないところにあるようであります。もちろん、この赤字を新しく発足する
団体が初めから継承するわけにはまいりませんし、そうかといって、全水共のやっておる仕事のうちから任意
共済だけをピックアップしてやらせるということも適当でないというところからきたようでありますが、ただいま申し上げました事情から、ひとつ全水共の赤字の処理を清算が終わりました暁には、なるべく早い
機会に、新
団体におきましてあわせて任意
共済事業が行ない得るように、早急に御改正を
お願いをいたしたいと思うのであります。あわせまして、全水共が国の
試験実施の結果生じました赤字でございますので、この善後措置につきましても、国において十分なる御配慮を
お願いをして当然ではないかと存ずるものであります。
以上、時間が非常に長くなりまして、また口早にしゃべりまして、お聞きとりにくかったと思いますが、以上で私
どもの思っております見解を申し上げた次第であります。
われわれ
沿岸漁業者は、実際いま当院におきましてこの
制度が
審議され、近くこれが成立をするということにつきまして、異常な関心を示し、率直に言って、一日千秋の思いでこの
制度の実現を待望しておるようなわけであります。
冒頭にも申し上げましたように、
政府案、
社会党案、いずれも最終の
目標なり
構想には違いはないと思うのでありまして、まず最小限度必要なる
修正のもとに、他日本
制度の完ぺきを期していただきたいというふうに
お願いを申し上げまして、私の
意見の
開陳を終わる次第でございます。
どうぞよろしく
お願いいたします。(拍手)