○
安部参考人 私、
安部でございます。今回御
提案になっております
土地改良法の
改正案につきましては、
農業者の久しい希望でございまして、私
どもは去る三十六年に
農業基本法が制定されるということで、
地方の
土地改良連合会の御援助をいただいて、
土地改良法の
改正の
要望をまとめまして、これを
国会あるいは
政府に
要望したのであります。幸いに自民党の
政調会の中には、
土地改良制度の小
委員会が置かれまして、一昨三十七年の二月に第一回の会合が開かれましてから、回を重ねますこと十五回、昨年の二月に約一カ年を費やしまして、その間にまとまりましたものが、
農林御当局からそれぞれの
機関に折衝されまして、今回御
提案になったわけであります。先般の
政府の
提案理由の説明にもございましたように、昨年の
通常国会、さらに
臨時国会に
提案をされましたが、
審議未了になりましたことは、私
ども非常に遺憾といたしておるのであります。
御
承知のように昨年の
通常国会には、本
改正案と相前後いたしまして、
河川法の
提案がなされました。私
どもといたしましては、予期していなかったのでございますが、この際に私は
河川法の
改正案に対しまして、
通常国会の
建設委員会に
農業団体の
責任者として、
意見を申し述べたのであります。その
内容は、ごく簡単に申し上げますと、
河川の川床を
中心とした
管理の問題、さらに
水利権の許認可の問題、第三に
慣行水利権の問題、それから
河川改修と
土地改良区との
いろいろ関連の問題、
最後に
河川審議会の
問題等に触れたのであります。さらに昨秋、これは
臨時国会におきまして
池田総理が開会の劈頭に、
農業に対します
革命的施策を推進すると言われまして、
農業者は非常に大きな
期待を持っておったのであります。しかし三十九年度の予算を拝見いたしましても、それから
基盤整備事業に対します
補助あるいは
融資等の
内容は、私は遺憾の一言に尽きるのではないかと考えておるのであります。
以上の
理由のもとに、今回の
改正案がほとんどそのまま
提案されましたことは、
農業者の
期待にいささかそむくものがございます。この
改正案が相当
複雑多岐にわたっている
改正案であるということも
承知いたしております。そこで私は以下、
土地改良事業の
全般にわたる
問題点なり、
農業者の
要望事項というものを取り上げまして、皆様に十分な御
意見をいただき、その上できるだけすみやかにこの
改正案の御
審議を念願してやまないものであります。
まず第一点に
長期計画の問題でございます。
長期計画につきましては今回
法律の中に一章設けられまして、
政府がその
樹立の義務を負いましたことは、本法がいままでの
手続法的性格から躍進したということにつきましては、敬意を表する次第であります。もちろん
計画の
樹立にあたりましては、
関係行政機関なり
都道府県知事の
意見を聞いて、かつ
農業基本法に示される諸
施策遂行の
趣旨に沿って、
計画的に施行されるものと思いますが、私はいままで
土地改良に
関係のあります各
特殊立法地域の
審議会にも
関係しておりまして、これらの
審議会が発足後二回にわたっていずれも会期の延長をいたし、すでに十二、三年を経過しておりながら、
事業の進度と申しますものは
審議会の要請とは全く相反した
事情にかんがみまして、今回の
長期計画の
実施に対する
基本方針というものを明らかにしておく必要があるのではないかと思うのであります。
次の問題でございますが、
事業に対する
補助の再検討、これは御
承知のように
土地改良事業は、ただいまも
お話がございましたように、その
公共性というものが非常に
論議されております。今回の
改正案にはその御苦心のあとがよくわかるのでございますが、しかしあくまで三分の二以上の
同意をとって、
申請主義で
土地改良事業が成立するという考え方が先行して成案されておるものと私は考えております。そこで私は現在
わが国の非常に枢要な
土地改良区の
施設、すなわちいままでの
普通水利組合の仕事が主でございますが、これは戦前の
地主中心時代の
組合から変わりましたそのもので、その
内容はいずれも
公共性が強く、その
施設が
地域全般の
住民の生活とは切り離すことのできないものと言っても、私は過言ではないと思っております。しかし農地改革によりまして、耕作農民を主体にした
土地改良区が生まれましたが、この耕作者がどこまでこれら公共的
施設に対する
負担が可能かどうかということが
一つの問題になると思うのであります。それは
一つ、排水問題を取り上げましても、また用水問題を取り上げましても、各
土地改良区にはそれぞれ問題がございます。また最近の
農業道路一つを取り上げましても、非常に大きな問題があるのであります。この
農業道路の改修が、私はいまの
農業近代化には一番近道ではないかと思っております。しかし皆様御
承知のとおり、その
補助率は本年度から五%上がった三五%で、その残りが耕作者に
負担ができるでしょうか。こういう点は非常に私は疑問を持っております。
さらにいろいろの仕事の採択基準でございますが、これは基準を引き下げるということは、
基本法の精神から申しましても、また山間地帯の
農業者からも、この採択基準の引き上げということの
要望はきわめて多いのであります。さらに今日盛んに
実施されております構造改善
事業の中の
基盤整備事業と、農地局所管の
基盤整備事業の
補助率の食い違いの問題、あるいは
団体営だけで基盤
整備が完了する
地域の
農業者の
負担、あるいは
国営、県営、
団体営等をやらなければ、基盤
整備ができないところの
農業者の
負担の大きな食い違い等、これらの
補助制度はきわめて
複雑多岐にわたっておりまして、これらの
補助制度を再検討を行なわなければ、
農業者は非常に困っているのではないかということが考えられるのであります。
次に第三点といたしまして、公庫融資の改善でございますが、公庫融資の改善は、毎年各方面からいろいろの
要望が出てきております。本年の一月には一部が
改正を見たのでありますが、基盤
整備につきましては
都道府県営事業に対する据え置きと償還期間の延長がわずか延びました問題で、
農業者の
要望しております金利の引き下げはほとんど見られなかったのであります。公庫というものは昭和二十六年に開設されております。その間に
政府はいろいろと民間に対しまして低金利政策を叫んでおりますが、
土地改良事業に対しましては依然としてそのままの現状ははなはだ遺憾であります。私はここにいろいろの地区の
事情を拝見いたしますと、反当たりの償還金が非常に大きい地区もございます。したがいましてこれはある一定限度を越すものに対しましては、
農業経営の安定上、金利の引き下げか、あるいは償還期間の大幅延長をするように、
農業者の
事情も十分に考えてもらいたいということを希望いたすものであります。
次に四番目といたしまして、
土地改良工事の特別会計の再検討でございます。これはちょうど三十八年度が特別会計が始まりましてから第七年度に当たったのでありますが、特別会計は当初七カ年完了で着工いたしましたが、いずれも完了いたしておりません。これは特別会計の
制度ができましてから
基本法も制定しておるたてまえから、
受益者たる農民は非常に納得しかねている問題でございます。さらに
国営かん排
事業におきましては、
事業費は一般は六割
補助でございますが、この特別会計は五割八分の
補助とそれに預金部の出資でまかなわれておりますが、預金部の金利が二回にわたって引き上げられている点は、当初の
趣旨とも非常に異なっておるものでありまして、今日
農業者は預金部の金利の引き下げか、あるいは国庫
補助率の引き上げというものを強く
要望しておるような次第であります。
次に五番目といたしまして、
土地改良事業における起債の問題であります。これはとかく各方面で問題が起きておりますが、防災ダムあるいは湛水
防除のような、各種の防災的仕事の府県営あるいは
市町村営に対します起債というものが非常にうまくいきませんで、
受益者なりあるいは
事業の施行の当局は困っております。これらの仕事に対します起債というものは、何かスムーズにいくような特別の処置をお願いいたしたいのであります。
第六の問題は、
土地改良事業の先行投資の問題であります。今日のように
土地改良事業がいろいろとその他の仕事と
関連が起きてまいりまして、たとえば水資源の問題は非常に急を要するというような場合に、あくまで一緒にやらなければならぬというような
土地改良事業につきましては、農民はなかなかそれまでの
負担ができませんので、先行投資の道を講ずるような
措置をお願いいたしたいのであります。
第七番目の問題といたしまして、
受益農民並びに系統
団体の資金の
土地改良事業への投入でございます。先ほど申し上げました
長期計画の
実施にも
関連があるのでありますが、
土地改良事業は
農業の中で最も
長期で低利で、しかも大量の資金を必要といたすのであります。去る三月六日当
委員会におきまして服部
参考人の口述に、昨年の暮れの農家の貯蓄は一兆五千六百億円に達したが、全国民貯蓄のわずか五%くらいにしか相当していない、しかも農家は自分の
農業にはほとんど投資していないということを言われておりました。これは私も農家が自分の
農業にとかく投資していないという
事情はよく知っております。これはいわゆる投資をするシステムがないのではないかということであります。そこで私は元利を保証し、あるいは利子を補給することによって、
受益地内の
事業に投資して
事業の促進をはかるようなシステムができれば、これがほんとうの
農業基本法の
趣旨ではないかと存じますので、十分にひとつ御考慮を願いたいと思うのであります。
第八点といたしまして、
事業費の
受益者賦課につきまして、今回の
改正案中では、これは一番重要な問題ではないかと思っております。まず賦課の相手方に対しまして、第三条に規定するもの、その他省令の定めるものとございますが、その省令の
内容は私はよくわかりませんが、まず最近の農地の
転用というものは、いろいろのいただきました資料から拝見いたしましても、非常に激増をきわめております。したがいまして
土地改良区の
組合員の脱退というものは次第に多くなって、残された
組合員の
負担はおのずから限度があり、したがいまして、一方においては各種の
基盤整備事業の完成に相当の年月がかかり、
事業効果は遅延するということで、
土地改良区内の
事情というものはますます複雑に相なっておるのであります。特に
農用地と
農用地以外の
土地につきましては、用排水なり、
地下水、これに
関連いたします
施設、その他農道、堤防、防風林等に対しまして、その
利害の相
関連する場合におきまして、その
利害を調整する
機関というものもございませんし、それが
市町村議会にまかされたような形、さらに
土地改良区が数カ村にまたがっておるような場合に、一カ村でも不調に終わったような場合の調整等、いろいろな問題がございますので、これが
行政処置には万全を期するようにお願いいたしたいのであります。その上、公共用地に対しましては
負担の不可能な問題、あるいは
団体営の仕事でも、
市町村営以外には非農家からのこれらの
負担の
徴収が不可能な
問題等、数々の問題が残っておりますので、十分にこの点のお取り扱いには御指導をお願いする要があると思います。なお公共用地なり、
利害不特定の地帯に対しましては、先ほ
どもお話がございましたように、この地帯の
負担は特別交付金の考慮が当然なされなければならぬと思うのであります。
九番目といたしまして、
土地改良施設に対する維持
管理と水の問題でございまして、
施設なりこれらの維持
管理費につきましては、前項の
事業費の
受益者賦課について申し述べたと同じことが言えるのでありますが、特に
土地改良事業をやって、
最後の問題は
管理費が非常に安くなるということが目的でございます。したがってさきに申しましたように、
補助の問題、融資の問題、あるいは採択条件の
問題等いろいろございますが、あくまで維持
管理費を
中心として、これらの問題が検討されるべきものではないかと思うのであります。別冊としてお手元に差し上げました
土地改良施設維持
管理基準策定調査に関する報告は、
農林省の委託を受けまして、全国
土地改良事業団体連合会がいたしたものでございます。その中に維持
管理費の調査をいたしたものがございますが、調査の時点は相当古いものでございますが、地区ごとに
管理の
費用というものが相当開いているということが十分おわかりになると思いますので、御検討いただきたいと思います。また水の問題につきましては、最近の水資源の不足問題、あるいは将来の売水
制度の
問題等の検討の必要があるのではないかと思いますので、十分にお考え願いたいと思うのであります。
十といたしまして、
農業用水と新
河川法の問題でございます。
農業用水の約七〇%は
河川に依存されております。
農業には長い間
慣行水利権がありますことも皆さま方御存じと思いますが、
河川の
管理権がいままで国なり府県にございましたものが、今後は小
河川に対しましては
市町村にも
管理権が移されるという場合に、この
水利権の許認可の
問題等に対して、当然
土地改良区と問題が起こってくるのではないかと思いますので、これらの点につきましては十分対策を講ずる必要があると思いますし、また一般に
河川全体の川床の低下から用水障害を来たしておって、
農業者はこの対策には非常に憂慮しておるのであります。
十一に
団体の運営でございますが、
委員会からいただきました別冊にも詳しく書いてございますが、現在の
土地改良区の地区数は約一万三千余ございますが、そのうち約百町未満の地区は六〇%を占めており、さらに
土地改良区が非常に数多く、地区が重複しているという点は、先ほどお手元に差し上げました基準策定の調査書に書いてございますが、これらの状態が非常に複雑になっております。一方、
農林年金は、これは職員が強制加入されておりますので、
農林年金に登録されている地区数は三十八年十月現在では約一二%に当たる千六百三十九地区、職員数が七千七百八十八人になっています。これが
関係面積は、私の計算では大体
土地改良区面積の中の約半分、百六十万町歩を見込んでおるのであります。したがいましてこの面積から申しますれば、曲がりなりにも半分の地区には専属の職員が置かれておるということが言えるのであります。しかし以上のような数字から見まして、
団体の運営というものはもうそれぞれまちまちになっておりますので、これが指導は非常にむずかしいものと思いますが、さらに
土地改良区には財産というものもほとんどございません。積み立て金も大
部分が持っておりません。したがって、災害等の非常時には、常に国なり県にたよらなければならないような、こういう嘆かわしい現状になっております。そこで私は、この際企業合理化促進法の中に中小企業の診断という章がありますが、このような点をひとつお考えいただきまして、
土地改良区の経営診断というものをいたしまして、これによって自力で更生できるもの、あるいは
行政指導を要するようなものも十分に御調査なさる必要があるのではないかと思います。これは非常に
土地改良区の数が多い
関係もございますので、国なり県の
行政事務の及ばないような数多い弱小
土地改良区等に対しましては、幸い
地方土地改良連合会の
機関を動員いたしまして、この経営診断を行ないまして、一部においては
土地改良区の整理統合をする、一部においては
土地改良区の徹底的指導を行なって、できるだけ
土地改良区というものは数少なく、善導していく必要があるのではないかということを私は考えるのであります。
最後に、
土地改良制度調査会の設置、これは私がいままで申し上げましたように、今度の
改正案というものは非常に御苦心されてつくっておることも十分
承知しております。農民もこれには非常に
期待をかけておるのでありますが、
土地改良事業にはまだまだ未解決の問題が山積しております。したがいましてこれらの問題を十分御理解いただきまして、さらに今後の事態に対処するために、
土地改良制度調査会というような
機関をつくりまして、次の
改正に直ちに御準備願いたいということをお願い申し上げまして、私の
意見を終わりたいと思います。