○尾本
参考人 私は
全日本水道労働組合の書記長の尾本でございます。
ただいまここにおられます公述人と違いまして、私は専門的に
水道の問題をここで論じ上げることは、知識も持っておりませんので、なかなかむずかしいと思います。しかし私たち労働組合といたしましても、過去四年間
水道事業政策
委員会あるいは
水道事業研究集会という運動を通じまして、いろいろと
水道の問題につきましては取り組んでまいっております。そういった面から、私はこの国会審議の場において、これの運動を通じていろいろ問題点を指摘してまいりました幾つかの問題点を申し上げ、皆さん方各
委員方の善処ある御検討をよろしくお願いを申し上げたい、かように
考える次第であります。
水道事業の現状は、すでに協会の
理事長さんも申し上げましたとおり、近年特に高度成長政策の産業基盤強化によるところの産業
都市建設の影響は
全国的に
工業用水を激増しておりますし、さらには
都市の
人口の集中化によるところの水の
需要量あるいは
需要区域の拡大という現象が
全国にあらわれております。脱在
日本の
水道の
普及率は、先ほども
理事長も報告しておられましたとおり六〇%をこえるといわれております。戦後の
普及率は戦前の六十数年の伸び率に匹敵するともいわれております。こうした背景の中で
政府は
水道業整備十ヶ年
計画を緊急五ヶ年
計画に改めて、四十二年度を
目標に
普及率を七五%以上に置きたい。そういうところから四千七百九十六億円の資金を投じて、これを実現させるために
昭和三十八年度より着手をいたしておるところであります。このように目ざましい
進展を遂げております
水道事業の現状でございますけれども、
水道事業の現状につきましては先ほどからそれぞれの公述人の方が申し上げておられますように、水の
不足と財源難、こういった問題がいずれの
都市におきましても一連の苦しい悩みとして各理事者、各管理者はかかえておるというのが現状ではなかろうかと思います。
さきにも申し上げましたように、水の
需要量の拡大、
需要区域の拡大に伴う
水不足が起こることによって、当然
水不足を解消するための
水源確保とそれに伴う
施設の
拡張、
改良工事が必要とされるところであります。そうしたところから必然的にそのために必要とするばく大な設備投資資金が投ぜられなければならないということは理の当然であります。こういったことから、設備投資に必要とする
水道事業の現在の資金の実態は、すべて
起債あるいは一時
借り入れ金によってまかなわれておるということはすでに御
承知のとおりであります。ところがこの
起債及び
借り入れ金の
元利償還金が
水道事業の財政上に占めるウエートの高いことは、現在の
水道事業の財政を苦しくしておる、悪化させておる大きな原因とも言えるわけであります。自治省は地方財政自得で発表しておりますけれども、上
水道事業の
経営状況を
昭和三十七年度の純損失額二十一億円、操り越し欠損金前年度残高合わせて四十一億円と報告しております。また六月八日の新聞紙上に発表をしております三十八年度の
決算見込みでは、累積赤字は的年度より六七・五%
増加し、六十八億円と、一挙に
増加したことを報告しております。自治省はこの赤字増大の原因を
施設拡張、
企業債の
元利償還が
企業経営にとって非常な負担となってきていることを率直に指摘しているところであります。
昨年
政府は
物価の値上がりを抑制するという方針のもとに、
公共料金値上げの一年間ストップをさせるということを明らかにしました。このため
水道料金についても、
値上げ抑制が行なわれました。このことは
公共料金値上げ抑制の
政府の政策が明らかにされたところから、
地方公営企業特に
都市公営交通
事業の財政問題、これにあわせて
水道事業の財政問題が国会の場で大きく取り上げられ、論議を呼ぶところとなったことは周知のところであります。率直に申し上げます。
水道事業の場合は、
都市公営交通
事業の場合と異なり、
料金値上げが地方議会の議決を得て、
関係各省に了承を求めるだけで容易に実現されてきたことから、いずれの
都市においても財政困難を理由に
料金値上げを実現してまいっております。そういったことから
水道事業の
経営と財政の問題については、案外世論は無関心であったということも言えるわけでございます。したがって一昨年名古屋、横浜、神戸を初め約七十の地方団体において
料金値上げが
実施されました。ことしは
東京、
大阪、京都を初め多くの
都市が
料金値上げを
計画していた
状態であります。このような情勢の中で、今回
政府は
公共料金値上げ抑制の方針を明らかにしたのでありますが、確かに私たちとしては、
物価値上がりムードの社会情勢の中で、
物価の
値上げを抑制する、その処置として
公共料金を抑制する
政府の方針については、一応賛意を表したいと思うところでありますけれども、今回の処置は
政府の政治的手段として
地方公営企業が犠牲に供されたといっても過言でないと
考えております。なぜならば、さきに述べたとおり、
水道事業の財政現状に当面して、
料金値上げを
政府の方針として抑制しておきながら、その裏づけとなるべき財政的損失補償が何ら講じられておらない、自治体
企業にその責任を転嫁するかのごとき
政府のやり力に対しては、大きな矛盾を感ずるからであります。国の政策として打ち出す以上、当然そのことにより被害をこうむる各自治体
事業に対して、何らかの
政府の補償が講じられるべきであろうというふうに
考えるからであります。しかしながら私は以上申し上げましたが、決して
料金値上げについて賛意を表するということではありません。
水道事業が御
承知のように低廉にして豊富な水を供給するということは、法によっても明らかにされております。そのことが
水道事業が地域
住民に果たす役割りであるとも
考えられます。また水は人間血清に欠くことのできない必要な生活物資でもあります。したがって低廉にして豊富な水を供給するためにも、健全な
水道財政の確立とともに適正な
料金化が必要であると
考えます。そのためには
水道事業の財政悪化の現状と将来の問題について、これから申し上げます諸点について
政府の適切な
施設を講じられるよう、
要望する次第であります。
水道事業が社会的生活を営む上での役割りの
重要性からも、公益非業として上
水道事業に対しても国及び自治体からの補助制度を認められたいということであります。このことは、
一つには
工業用水には国及び自治体からの補助制度が認められております。
工業用水の場合は、産業の振興と地下水くみ上げによる地盤沈下
対策という国の方針に基き、国及び自治体からの補助が認められております。さらに
料金においては、トン当たり五円五十銭以下の規制を加えているというのが実情であります。そうした
政府のてこ入れを行ないながら
工業用水の整備を行なっておるのが、
工業用水
事業の現状であると思います。一方上
水道におきましては、ばく大な設備資金はすべて
住民負担による
料金でまかなわれ、
工業用水
料金の四倍も、あるいは五倍以上の
料金が地方議会の議決があれば当然のごとく取りほうだいの形で認められ、課せられております。このことは、
全国的に見てみますと、十トン当たり最低百円から最高が八百円を上回る高
料金をかけ、著しい
料金格差を招いておる現状もここに要因があるということも言えるのではないかと思います。特に人間生活に欠くことのできない飲用水供給の上
水道事業に対して、
工業用水と比較してなぜこのような格差が必要であるのか。同じ水を使用する
住民の
立場から
考えた場合、公平負担の
原則からいっても当然上
水道に対しても何らかの補助制度は講ぜられてしかるべきであろうというふうに
考えます。
次に、さきに申し述べましたが、
起債の問題であります。
起債の内容は御
承知のとおり
政府資金、金融公庫、地方債、縁故債、その他というふうになっておると思います。
政府資金による
起債の場合は、年利六分五厘で二十五カ年
償還でありますが、金融公庫の場合は年利七分六厘、十六年
償還となっていると思います。上
水道事業におきましては、さきに申し上げましたように、補助制度もないという現状から
考え合わせましても、きわめて苛酷な条件で資金調達をやっているということが言えるのではないかと思います。そのことは利率が高いということであります。さらに金利の負担だけでも容易でない現状に加えて、
償還義務が早すぎるということであります。
水道事業では二十五年という
償還期限は有形
固定資産の耐用年数の全体的な面から
考えましても、著しく短いということができます。ましてや
償還期限十六年で
償還をせよという公庫資金においては、無理難題であるといわねばなりません。問題は、私たちとして
利子率の低下と
償還期限の延長についての善処を
要望したいのでありますが、重ねて
要望を申し上げるならば、いま
政府では
償還期限延長の問題が検討を加えられておるというふうに聞いております。しかし、率直に申し上げますと、
償還期限を延長するということだけでは、もろ手をあげて喜べぬというのが率直な私の
意見でございます。それは
償還期限を延長するだけでは、単年度の
償還額は確かに減りますけれども、
利子の
支払い額においては多くなるということがいえます。元利合計額においてはあまりありがたくない結果を招くからであります。したがって、これでは抜本的な解決策とはいわれませんので、
償還期限の延長を
利子率の
引き下げと並行して実行されなければ効果的な解決ははかれないと
考えております。さらに付言するならば、
利子率、
償還期限の条件の有利な
政府資金の
予算の拡大を善処されるようさらに
要望をする次第であります。
次に、電気税の問題でございます。電気税の撤廃の問題につきましては、
水道では、
配水池から家庭に
給水するために加圧ポンプで水を送っております。この動力費が
事業費の中に占めるウエートは、ばかにならないかなり高い
数字を示しております。特に起伏の激しい地方団体におきましては、
事業費の一〇%以上を占めるというところもあります。この電力料は、
都市公営の交通
事業と比較をしてまいりました場合に、
東京では、
水道の年間使用料が七千五百万円に対して交通は三千八百万円、横浜では、
水道の八百万円に対して交通では六百万円というふうになっております。この
数字から見ましても、電力を必要とする交通
事業よりも
水道事業のほうがはるかに電力料を高く支払っておるということがいえます。
都市交通の場合は電気税は免税となっています。しかし、
水道の場合は課税の対象になっております。また大
企業においては、
政府は電気税の免税を認めております。その額は百数十億円にのぼっておると聞いております。これらのことを
考え合わせてみますと、単に地方税収が減収になるということの理由のみで
水道に対する電気税の賦課はあたらないと
考えるところであります。特に公共
事業としての
水道聖業に対しても当然免税の措置が講ぜらるべきだというふうに私は
考えております。
以上、財政的な問題につきまして所見を申し上げましたけれども、若干次に
経営の
合理化の問題について触れてみたいと思います。
先ほど公述人の数人の方からも申されましたけれども、
水道事業の財政悪化の原因に
人件費の増大ということがうたわれております。自治省は、六月の八日の新聞紙上において、
起債償還額の増大とあわせて給与
改定による職員給与費の
増加、動力費、材料費の値上がりなど大きい反面、これに伴う
経営の
合理化が十分でないことを指摘されております。
政府は、
水道財政の悪化を
経営の
合理化により適正化をはかろうという
考え方のみではないと思いますけれども、昨年十二月に自治省
財政局長の内翰によるところの
企業職員の給与
改定に対する干渉に至っては、明らかに私たち
水道労働者のみならず
地方公営企業職員に対する賃金切り下げの攻撃である、あるいは
人件費切り下げによる
経営合理化の攻撃であるというふうに私たちは受けとめております。確かに数次にわたる給与
改定によりまして、
人件費の
増加は認めるところであります。しかし、
人件費の
増加が
事業費に占めるウエートは問題にならないのではないかというふうに
考えております。そのことは年間営業費における増収分を勘案して、そのウエートを見てい
ただきたいことであります。さらに私たち労働者として、年々増嵩する
物価高、民間賃金と公務員給与との格差に基づいた最低評価の人事院勧告に従い、自治体職員給与条例に基づいて給与
改定がなされたものであります。このことから
考えましても、
企業財政の
状態より職員の給与に干渉さるべきでないということを言いたいと思います。
私は、
最後にこの問題を
数字的に明らかにしてみたいと思います。
奈良市の
水道事業の
事業費に占める
人件費の
推移を報告いたしたいと思います。奈良市においては、三十二年度か
事業費の二二・六%、三十三年度は二五・五%であります。私たちが第一次の賃金闘争で賃上げを得ました三十六年度の大幅のベースアップがあった年で、二九・一%であります。さらに引き続いてベ・アが行なわれております三十七年度で三〇・三%となっております。こういう
数字の現状から見ましても、大体二%から四%
程度の
増加にすぎない
状態であるということがいえると思います。そういった
状態から
考えまして、私たちとして、
水道事業の将来の発展のために鋭意各職場においては努力をいたしておるものであります。将来の公営
企業、
水道事業の発展を願うためにも、私たちとしては、率直に
水道を守るために健全な当局の労務
対策を強く
要望いたしまして、私の所見を終わりたいと思います。