○鈴木
説明員 本年の二月に御
承知のように
加州米が入りました。数年前に
加州米については多少全国の酒屋が使ったことがございますけれ
ども、今度のものについてはよくわかっておりませんので、間違いがあってはいけないと思いまして、私のほうでもさっそく実験室的な研究と同時に、ごくわずかでありますが実際製造をいたしまして、その
試験を持っているわけであります。
まずつくりのときから
お話を申し上げますと、玄米ということではございましたけれ
ども、実は非常にヌカをかぶった半白米というような
程度でありました。たいへん粉米が多うございましたので、私
どもとしても精米をする前に粉米を除く必要があるであろうということで、よく農家で使っております縦線という米選機があります。それにかけましたところが、ほとんどがヌカでございましたけれ
ども、粉米とヌカと合わせて約二・八%こぼれてまいりました。あと残りのものを見ましても、かなりと言いますか、ある
程度青米が多いようでございましたが、そのまま精米機にかけました。現在
日本の酒屋さんの
一般の精米
程度というのは、収量で言いまして七五%、昔の表現で言いますと二割五分精米というようなところが
一般に行なわれておりますので、その
程度まで精米をしたわけであります。ところが二割五分までいかないうちに、かなり米が砕けてまいります。よく米を調べてみますというと、胴割れと言いますか、かなりひびが入っておるわけでありまして、
日本の現在の酒屋さんで使っております精米機にかけますと、非常に砕けやすいという欠点がございます。それで私のほうでももう少し白くして研究をしようと思ったのでございますが、それ以上白くするとただむだに粉米をつくっておるということなので、二割三分から二割五分
程度だったら、普通酒屋でつくっておるから差しつかえないだろうということで酒をつくったわけであります。
つくっておる最中で一番
感じましたことは、まず第一に蒸した米が多少
内地米よりも色が黒いようなものがございますが、そういうことは別といたしまして、こうじをつくりましても、あるいはもろみをつくりましても、非常に急進的である。非常に温度が上がってくるというところに特徴を見出すわけであります。私
どもで、米の中の発酵に非常に
影響のある成分は何かということについて前々から研究しておりましたところが、カリ成分が非常に大きな
影響を持っておるということでございましたので、さっそく私のほうでもカリ成分について分析してみたのであります。先ほど
武藤先生がおっしゃっていたあの
数字は、私
どものほうから出た
数字だろうと思います。
内地米では大体二割五分くらいの米ですと、一キロ当たり
——一石とおっしゃっておりましたが、一キログラム当たりであります。一キログラム当たり
内地米ですとカリが三百ミリグラム
程度であります。ところがいまの
加州米の場合には八百ミリグラムぐらいございまして、約二倍半と言いますか三倍近くあるわけでございます。おそらくこれが発酵急進の一番の問題点であろうというふうに私
どもは想像しております。御
承知のように、酒をつくりますときに最後のもろみ管理になりまして一等大事なことは温度管理でございますけれ
ども、その温度管理がうまくいかなかったということがひとつ見出されたわけでございます。その温度管理がうまくいかなかったという結果といたしまして、いままでの
内地米を使っていた場合から見ますと、非常に早く酒になってしまう。しかしわりあいに収量はよかったようでございますが、わりあいに早く酒になってしまうという欠点がある。欠点といいますか、むしろそれでいい酒ができますならば、合理化に役立って非常にいいと思うのでございますけれ
ども、いままでのやり方でいきますと、少しといいますか、だいぶ様子が違っておったということがございます。しかしできました酒につきましては、私
どもの
醸造試験所でつくりました酒に関する限りは、そうひどい酒であるとは思わなかったわけでございます。ところが最近になりまして、各地方から、
加州米でつくった酒に特異な
かおりがあるというような声が聞えてまいりましたので、御
承知の全国各局に鑑定官室がございます。その鑑定官室長に手紙を出しまして、どんな
かおりがするのか、それからまたどの
程度にわかるものであるかというようなことにつきましていろいろ
質問をしてみたわけでございます。中にはわからぬものもあるとかいうような返事もございますが、多数のものは多少変わったにおいがあるというような返事が参っております。その変わったにおいというものに対してどういう表現を使うかということについて聞きましたところが、これは種々千差万別でございまして、青くさいとか青竹のにおいがするとかあるいは食糧貯蔵の倉庫へ行ったときのようなにおいがするとか、あるいは糖蜜くさいとか、非常にまちまちな回答が参ってきております。私
どもも二、三の酒屋へ寄りまして、
加州米でつくった酒を見せてもらいまして、これが
加州米の独特のにおいであるというものをたくさんの酒の中から抽出して覚えようと思ったのでございますけれ
ども、私の
感じでは、しいていうならば、糖蜜のにおいがするというくらいの表現が当たっているのじゃないかと思ったわけでございます。それでせんだって私
どものほうでもってきき酒をしてみようじゃないかということできき酒をしたのですが、実は先ほど申し上げましたように、
加州米はふかしたとき自体に多少色がございます。それでやはり酒をつくりましてからも色が濃うございます。酒屋さんが
内地米でつくった酒と
加州米でつくった酒を比べますと、色の濃いというところで、まず第一に気がつくわけでございます。異常に色が濃いということで、きき酒をする人が、これは
加州米だろう、ああそうです、やはりくさい、こういうような、多少、これは、何といいますか、人間のきき酒などをしますときの心理
状態で、かなりそういうことがあるようでございます。私
どものほうではそれをもう少し科学的にやってみようということで、ちょうどきき酒研究会というのがございますので、その連中を動員いたしましてきき酒をしてみたのでございますが、極端なのもございまして、それは、みんなといいますか、十五、六人でききまして十二、三人の連中が、
加州米かどうかはわからないけれ
ども、いままでとは違ったにおいがあるというようなことを言っているのもございました。しかしまた中には半分半分というのもございます。それからまた中には、それにまぜましたきき酒をするとき、黙って出しました
内地米に対して、これは
加州米のにおいがするとつけたのもございます。というようなわけで、実はやはり
加州米のにおいというものは確かにあるように思いますけれ
ども、そしてまたああいうきき酒の場合には、あるにおいに対して非常に敏感な人がございます。それからまたわりあいに鈍感なのもございます。そういうのをあわせて
考えてみますと、できた酒が飲用に供し得ないというほどのひどい酒ではないように私は
考えております。しかしただ
一般の酒屋さんといたしましては、非常に品質をよくしようと思っておるところでございますので、多少でも自分のうちのいままでの酒と違った酒ができてくるということについては、神経質になっているということは私十分同情できると思いますが、いま現在の私
どもの立場といたしましては、今後どういうふうになるかわかりませんけれ
ども、万一に備えてあらゆる面から
加州米の検討をしていく必要があるだろう。たとえば酒を貯蔵していく間非常にひねるといいますか、老熟すると申しますが、老熟の原因がいろいろ検討されておりますが、鉄分がそれを非常にアクセレレートするのではないかというようなこともございましたので、鉄分についても分析してみたわけでございますが、これは
内地米とほとんど同じ
程度でありまして、特別
加州米が多いということはございませんでした。それでできた品質そのものにつきましては、先ほど申し上げましたように、酒屋さんとしては非常に神経質に
考えておるようでございますが、私
どもとしてはできた品質をもっとよくするためにということで研究しておりますが、何といってもいま一番困っておることは、思うとおりの精米ができない、非常に砕けやすいという点が非常に困った点だと私
どもは
考えております。これが何とかカリフォルニアのほうで特別な精米機を使って、傷がつかないというようなことになってくれれば、その点だけでも大いに助かるのではないかというふうに
考えております。