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田中国務
大臣 このたびの内閣改造に伴いまして、私が引き続き
大蔵大臣の職務を行なうこととなりました。当
委員会におきましても今後なおお世話になる次第でございますが、職責の重大さにかんがみ、決意を新たにして一そうの努力を傾注してまいりたいと存じておりますので、何とぞ変わらざる御支援を賜わりますようお願い申し上げます。
なお、この機会に、わが国
経済の現状並びに当面の財政
金融政策について、所信の一端を申し述べたいと存じます。
〔
委員長退席、吉田(重)
委員長代理着席〕
わが国は、去る四月一日からIMF八条国に移行し、続いてOECDへの加盟を終え、国際
経済社会の有力な一員として本格的に仲間入りしたのでありますが、まさにその年にあたり、来たる九月七日から十一日までの間、わが東京においてIMF、世銀等の総会が開催される運びとなりましたことは、まことに意義深いものがあります。この総会には、百をこえる世界の国々から
大蔵大臣、中央銀行総裁をはじめとする代表団が来日することとなっており、その総数は二千人をこえるものと予想されております。このように、財政
金融に関する各国の指導者が多数わが国に参集して、国際
金融政策上の重要問題を討議することとなりましたことは、私
ども深く喜びとするところであります。私はこの機会に、世界各国の指導者にわが国
経済発展の姿を紹介するとともに、国際
経済社会におけるわが国の
立場についても十分に説明し、各国の理解を深めたいと考えるのであります。世界各国が互いに正しく
認識し、理解し合うことこそ国際協力の
基礎であることは申すまでもありません。
さて、本格的な開放体制に移行したわが国
経済の最近の動向を見ますと、昨年末以来の調整
措置の
効果が次第に浸透し、
物価の動向は落ちつきを示しており、貿易収支の改善には見るべきものがあります。しかしながら、貿易外収支は依然赤字を続けております。貿易収支の黒字幅を着実に拡大し、経常収支均衡の
目標に向かって
国際収支の改善を進めていくには、なお一そうの努力が必要であります。しかも当面、生産はなお増勢を続け、設備投資意欲には依然として根強いものがありますので、現在の調整
措置による慎重な気分を維持しない限り、ようやく盛り上がりつつある輸出意欲を再び後退させ、輸入需要の
増加を来たして、
国際収支を悪化させる等好ましからぬ結果をもたらすおそれが強いと考えられます。最近一部で主張されているいわゆる景気調整の手直し論につきましては、時期尚早の感がありますので、なお
経済の推移を注視しつつ安定化につとめてまいりたいと存じます。
今後、わが国
経済が開放体制下にあって、国際的な波動に対処しながら、さらに着実に前進を続けるためには、国際的、長期的な観点に立って、財政
金融政策を適切かつ慎重に運営しなければなりません。すなわち、今後の
経済運営にあたっては、安定的な成長を持続せしめつつ、その間においていわゆるひずみを是正し、
国民経済全体としての効率を高め、もって世界
経済の発展に伍していける実力をつちかうことを
基本となすべきであります。
次に、以上申し述べましたわが国
経済の現状並びに
経済運営の
基本的
態度にかんがみ、当面の財政及び租税政策について一言いたしたいと存じます。
昭和四十
年度予算の
編成につきましては、財政需要はますます
増加するものと思われるのでございますが、
他方、財源があまり伸びないことも予想せられるのでございます。来
年度におきましても引き続き健全均衡財政の
方針を堅持することはもとよりであります。しかし、限られた財源の中でも、農業、中小
企業の近代化、
社会保障の充実、社会資本の整備等の重要施策を推進し、
経済、社会の各部面における体質強化、ひずみの是正に真に
効果的な施策はこれを積極的に拡充してまいる考えでありますが、そのためには不合理な財政
負担はこれを極力排除し、既定経費についてもその必要性をこの際再
検討し、思い切った節減につとめる決意であります。
なお、財源の不足を補うため公債を発行することにつきましては、開放
経済下にあって
国際収支の均衡及び
物価の安定をはかりつつ、適度な成長を長期にわたって保持していくことが強く要請されておりますので、公債発行により
経済を刺激するようなことは厳に戒める必要があると考えるのであります。
次に、今後のわが国
税制の
あり方につきましては、一昨年来
税制調査会において、
基本的、かつ体系的な観点から慎重に
検討を行なっており、本年末には長期的視野に立った
税制の
あり方についての
基本的な
方向づけが行なわれることとなっております。したがって、来
年度の
税制改正につきましても、この
調査会の
答申の線に沿って改正にあたりたいと考えておりますが、
税負担の公平を期し、また今後における
経済の安定的成長をはかる
見地に立って、
国民の
税負担の軽減、
合理化に一そう努力したい考えであります。
次に、
金融政策につきましては、さきに申し述べたような
経済の動向に顧み、当面は
金融調整
措置の結果生じている慎重な気分を持続せしめることに意を用い、その間にあって真に必要な近代化、
合理化投資が
効果的に行なわれることを期待したいのであります。なお開放体制下にあって、
金融界の秩序と
金融機関の経営
態度をより一そう適切なものとするよう配意する所存であります。また、
企業に対して長期の安定した資金を供給し、資本構成の改善をはかり、もって国際競争力ないし抵抗力をつちかうため、資本市場の育成強化をはかることも今後ますます肝要であります。先般の通常
国会において各位の御理解と御協力により新たに証券局の設置が認められましたことは、まことに喜びにたえないところでありますが、資本市場育成の重要性にかんがみ、証券行政の一そうの充実につとめ、特に業界の体質強化の市場環境の整備に意を用いたいと考えております。
なお、国際
金融並びに対外
経済政策の問題でありますが、さきに申し述べましたとおり、国際
経済社会におけるわが国の比重は次第に増大してきております。しかし、このことは同時にその責任も重くなっていることを
意味するのでありまして、わが国の役割りが重大になるに伴って、今後は国際協調の線に沿って政策を進めていくことがますます必要になってくるわけであります。国内体制の面におきましても、八条国移行を契機として、従来の為替管理を
中心とした体制から、財政
金融政策の健全かつ慎重な運用によって
国際収支の均衡を保ちながら、国際間の商品サービス取引並びに資本移動を拡大する
方向へと移行しつつあります。このときにあたり、さきの
国会において国際
金融局の発足が認められましたことは、まことに時宜にかなったものと考えるのであります。
次に、近年後進国の
経済開発とこれに対する先進工業国の援助が重要な課題となっており、さきの国連貿易開発
会議を契機に、この問題は一そう広い場で討議される
方向に進んでおります。わが国といたしましても、特にアジア諸国の開発に大きな関心を払いながら、欧米諸国と協調して、この問題に国力の許す範囲で貢献してまいりたいと考えております。
さらにわが国輸出の振興のためには、諸外国における関税障壁を低め、またわが国商品に対する差別的取扱いを撤廃させることがぜひとも必要であります。この
見地から、ガットにおける関税一括引き下げ交渉につきましても、主要貿易国の一つとしてこれに積極的に参加する所存であります。
以上わが国
経済の現状と当面の財政
金融政策について、若干の
考え方を申し述べました。
戦後十九年、わが国
経済は目ざましい成長を遂げてまいりましたが、われわれの歩むべき道はまだ険しく、解決すべき困難な課題も多く残されております。われわれはこの際、わが国
経済の前途に自信と希望を持ちつつ、じみちな努力を通じて当面の課題を一歩一歩解決していくべきであります。私も
大蔵大臣として最善を尽くしてまいる所存でありますので、皆様方の御協力と御鞭撻を重ねてお願い申し上げます。