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前田参考人 本日、この権威ある
衆議院大蔵委員会におきまして、このたび提案されました
税理士法の一部を
改正する
法律案につきまして、
業界の
意見を開陳する機会を与えられましたことは、
業界にとりましてまことに光栄に存ずる次第であります。全国一万数千名の
会員とその
従業員を代表いたしまして、当
委員会に深く敬意を表しますとともに、衷心より感謝の意を表する次第であります。
先ほど
松隈参考人からお話がありましたように、今回の
税理士法の
改正にあたりましては、昨年の四月二十五日から十二月二日までの間に行なわれた
税制調査会の
税理士制度特別部会の
審議に際しまして、わが
税理士業界の
改正要望意見書を提出いたしまして、この間
業界の
要望意見を強く
主張いたしてまいったのであります。去る四月二十二日付をもちまして、
日本税理士会連合会から
衆議院大蔵委員会の
先生の
方々に、本
法案の
修正方をお願いいたしました。この
要望書に
記載されております
要望事項等につきましては、ついに
特別部会の
段階におきまして少数
意見として
答申に盛られなかったというのが
実情でございます。
今回の
税理士法の
改正に対する
政府原案につきましては、部分的には先ほど
説明がありましたように、幾つかの改善された点が見られるのであります。しかしながら、率直に申しまして、全体として、いわゆる法体系を貫く基本的な考え方といたしまして、われわれ
業界の考え方との間にはなはだしい懸隔が見られるのであります。すなわちわれわれが、現在の租税
制度のもとにおいては、真に民主的かつ理想的な
税理士制度の本質は、あくまでも
納税者の
権利を保護する、いわゆる
納税者の代理
制度でなければならないと強く
主張しておるのに対しまして、
政府原案は、その本質を
税務行政の円滑化にウエートを置くべきであるとして、いわゆる
税務行政の補助
制度として把握しようとしておるのであります。したがいまして、
税理士業務につきましても、現在の
税理士業務は、高度の簿記会計の基盤の上に立って税務調整を行ない正確な所得を把握することによって初めて
納税者の信頼にこたえ、同時に適正納税実現に寄与するという
税理士本来の使命を果たすことができるのであります。いわゆる高度の簿記会計の知識なくしては、とうてい
納税者の
要請にこたえることは不可能であると言ってもあえて過言ではないと信ずるのであります。現在の
申告納税制度は、いわゆる正規の簿記の原則に従いまして、正確な所得を申告し、納期に完納して、自後のいわゆる税務折衝等を通じ、修正等は行なわれないということが最も理想的な姿であるのであります。しかるに
政府原案による要綱は、
税理士業務がもっぱら税務折衝を
中心として行なわれるとしておるのであります。これは
政府が
税理士制度を
税務行政の補助
制度として把握しようとしており、この
制度によって
現行申告納税制度の理想実現を促進しようとしておるものとすれば、
税理士業務の実態を知らないばかりでなくて、矛盾もはなはだしいといわざるを得ないのであります。
以上の見地からいたしまして、シャウプ勧告に基づいて制定されました
現行試験制度におきましては、簿記、
財務諸表を必須科目の筆頭に掲げております。そうして所得税、法人税は、そのいずれかを必須選択とし、そのほかの税法で三科目を選択としておるのであります。
現行税理士法制定当時におきましても、いかに簿記会計が
税理士業務遂行の上に重要なものであったかということの認識がされておることがうかがわれるのであります。しかるに、
政府の
改正原案は、本
試験の論文式におきまして、簿記、
財務諸表をともに選択科目といたしておるのであります。したがって簿記会計をあまり知らなくても合格できるような仕組みになっておって、全く簿記会計軽視の
立場をとっておるのであります。このことは、最近の企業が特に税務会計を重視いたしまして、この面の指導について
税理士に大きな期待を寄せておるという事実がございますときに、
政府の意図に対してはわれわれといたしましては全くその理解に苦しむところでございます。
以上申し上げました点は、
税理士制度に対する
税理士業界のいわゆる基本的な考え方であり、また全国数百万の
納税者の賛同を得ているところのものであります。このような
税理士制度に対する
政府の基本的な考え方が、本
税理士法改正の
法律案の中におきまして、
納税者に対する
代理権限を幅狭いものとし、
税理士業務の範囲を狭め、
税理士及び
税理士会の
自主性の確立につきましては、時期尚早として、依然として大蔵省の
監督下に置き、
税理士の資質の向上のため高度の国家
試験制度を採用しながら、他方これに逆行する税務官吏の無
試験的
資格認定
制度を併用するという結果になってあらわれているものと考えざるを得ないのであります。
われわれは今回の
税理士法の
改正にあたりましては、あくまでも国民経済、
税務行政の実態に即応するとともに、特に
税務代理士法制定の当時から今日まで、実に二十有余年の歴史を持つ
税理士業界の
実情と
要請に対しまして、十分な御理解を願うことによって初めて民主的な
税理士法の
改正が望めるものと信ずるのであります。
税理士法の改善のあり方は、
税理士業務の明確化と
業務範囲の拡大強化、
代理権の確立、
税理士業務の公共性の明確化、資質の向上、自主権の確立を基調とするものでなければならないと信ずるものでありまして、この理念は単に
税理士業界ひとりの
意見だけではなくして、広く一般
納税者の切望するところであります。
そこで、われわれは今度の国会の
審議の過程におきまして、先ほど申し上げましたように、去る四月二十二日付をもちまして、大蔵
委員の諸
先生にお願い申し上げました
要望書の線に沿った
修正方を切に強く
要望いたしたいと存ずる次第であります。
最後に、時間の
関係上、簡単に四月二十二日付の修正
要望項目について御
説明を申し上げたいと存じます。
第一、「(
税理士の使命)」のうちから「中正な
立場」を削っていただきたい。と申しますのは、先ほど申し上げました
税理士制度というものの
意義を、ここで
納税者の利益を擁護する
立場におる
税理士、いわゆる
納税者の代理人であるという性格を明らかにしていただきたい、こういう目的で、「中正な
立場」を第一条から削除していただきたい、こういうふうにお願いしておるのであります。
第二番目は、いわゆる
資格認定
制度でございますが、従来一般
試験のほかに特別の経験者による特別
税理士試験というものがございます。この
制度は当時五年間の時限
立法であったのであります。これを五年後の期限に廃止しないので、当分の間ということで、これは後ほどこの
税理士制度一般を検討する際まで延ばすという条件のもとに継続されていたのであります。この特別
試験にかわって
資格認定
制度というものが新設されようとしておるのであります。これはいわゆる国家
試験の公平の原則に従いまして、一般本
試験の中に繰り入れて、この
制度そのものは新設しないというふうな修正をお願いいたしたい、第三条第一項第四号の
規定を新設しないというふうにお願いする次第であります。
なおこの
試験制度で、本
試験の中に、いわゆる論文式の
試験で、簿記、
財務諸表、簿記論と
財務諸表論が先ほど申し上げましたように選択科目になっております。これはいわゆるわれわれ
税理士業務の実態を把握しないあらわれであるというふうにわれわれは解するのでありまして、ぜひ従来どおり簿記、
財務諸表を必須科目とするということに修正を願いたい、かようにお願いする次第であります。
したがいまして、この結果受けて立つ
試験審査会の
委員は、この
法律では租税に関する
学識経験者ということになっております。これを租税または会計に関する
学識経験者のうちから任命するというふうに御修正を願いたい、かように考える次第であります。
次に第五番目に、
税理士の
代理権を明確にする、そのためにこの
改正法律の中に次のような修正を加えることを
要望するわけであります。第三十三条に
税理士の自署押印の
規定がありますが、この効果を強化していただきたい。また三十四条に調査の事前
通知の
規定がありますが、これをこの法文の中におきまして、従来の一片の通達行政でなくして、厳格性を持たしていただく、この法文の中で十分
通知の
義務が励行されるように御
規定願いたい、かよう
要望するものであります。
次に、
意見聴取の問題がその更正決定の効力に影響はないということになっております。これは現在の
税理士の
業務の上から言いまして、いわゆる
代理権を尊重する、
納税者の信頼にこたえるというたてまえから、この更正決定等の場合に
関与税理士に
意見の聴取を求めなかった場合は、その決定の効果は無効となるというふうにお改めを願いたい、かよう
要望する次第であります。
なお従来是認処分の決定がわれわれ
関与税理士の何ら知らないうちに行なわれている、そのために
納税者と
税理士の間の
業務というものがスムーズに行なわれていないという
弊害があったわけであります。これらをぜひ是認、更正等の場合は
関与しておる
税理士に対して
通知をしていただくというように御修正を願いたい、かよう考えております。以上がいわゆる
代理権の明確化についての修正
意見であります。
第六番目に、
税理士の使用人等に対する
監督義務が
規定されておるわけであります。四十一条の二であります。これは私どもは責任を持って
従業員を従来とも
監督してまいっております。したがいまして、ここにいわゆる
法律規定となるような新しい
監督義務というものは
監督権限の強化になりますので、この際これを削除していただきたい、かよう考える次第であります。
七番目の、公務員であった者の
税理士業務の
制限について、先ほど
松隈参考人からお話のありましたように、
制限を設けて
例外規定を残したということであります。これは当初一年間で
例外規定を削除してあったはずでありますが、これが二年となって
例外規定が入ったのであります。これもわれわれは二年が当然妥当だと思います。したがってこの
例外規定というものは会といたしましてぜひ削除していただきたい、かようお願いする次第であります。
次に、先ほど問題になっております。
特別部会でも相当問題になったのでありますが、いわゆる懲戒権の問題であります、これは
納税者のいわゆる権益を擁護する
税理士の
立場からいたしましても、その
税理士が
税務官庁の
監督の下に置かれておる。特に中正の
立場という
表現で
税理士の使命が規制されておるということにかんがみまして、これはその中正な
立場というものを削除していただきたいという一貫した
税理士会の考え方からまいりましても、いわゆる
税理士の
自主性を確立するという
意味で、これは
税理士会の
会員の懲戒権に関する限り、
税理士会におまかせ願いたい。したがって、今回の
改正によって新設される予定になっております懲戒
審査会は
国税庁に置かれるようになっておりますが、これを
税理士会に置いていただき、その
委員の半数以上を
税理士会員のうちから任命する――このことは現在の原案では六名の
委員が、たしか
学識経験者から二名、官庁から二名、
業界から二名というふうに予定されていると聞いております。しかしこの
会員の懲戒という問題につきましては、
税理士会が会活動を行なう上におきまして、大きな影響を及ぼすのであります。少なくとも
会員の身分を規制する条項であります。したがって、少なくとも半数は
税理士の中から任命していただくというふうに強く
要望いたしたいと考えるのであります。また懲戒に関する最終の権限が
国税庁長官になっております。これを懲戒
審査会の
会長に帰属するということにより客観的な
立場を私どもは希望いたすのであります。
次に、やはり
自主性の問題で、いわゆる自律的な規範である
税理士会の
会則等の変更は大蔵大臣の
認可をすべて必要としない、この
程度は少なくともこの問題については
税理士会にすべて御一任願いたい。
税理士会の自主
監督、統制によりまして、この
会則等は少なくとも全国連合会において統一できる、かように考えておる次第であります。
その他、
税理士及び
税理士会に対する大蔵大臣及び
国税庁長官の
監督権は、この際全面的に御排除願いたい。それによってわれわれ
税理士業務というものが真に
納税者の信頼にこたえる
制度として理想的な改善が期待できると考える次第であります。
次に、先ほどの臨時の
税務書類の
作成につきましては、昨年以来
国税庁、
青色申告会、連合会等の三者協定のありますいわゆる五十条問題として大きく
議論された点でございます。この点につきましても、
税理士制度特別部会におきまして相当の
議論があったわけであります。次いでわれわれは、この五十条の
職責といいますか、仕事といいますか、これをわれわれの
税理士会の組織を通じて全国的に小企業者、災害時期並びに申告時期等にすべて主体性を確立するということのもとに削除を
要請したのであります。諸般の事情によっていろいろ討議の結果、やはり
現状のとおり残すということになっておるのであります。私どもは、特にこの五十条を少なくとも
現状以上に拡大しないということは、先ほど
松隈参考人からもそういう約束のもとに
答申がつくられているということではございますけれども、不当に拡大しないということは 不当という約束は非常に解釈が困難な場合が生じてくることが予想されるのであります。したがってこの政令で、いつでも拡大できる政令の委任
規定を少なくとも削除していただきたい、かようにお願いする次第であります。
最後に、
税理士制度の、現在
登録しておる
税理士で開業しておる者と未開業の
税理士とがあります。このためにいわゆる名義貸しとか、それから、
入会しなければ
税理士の
業務を行なうことができないということになっておりますが、
入会してない
税理士に対する
監督がわれわれ
税理士会では行なわれないのであります。したがって、
税理士会がその会を
監督する――全国的に
税理士制度の統一
運営をはかるというためにも、
登録即
入会といいますか
登録をした場合は
入会する、先ほど
税理士試験に合絡即
入会という御
説明がありましたが、これはそうではなくて合格した者は合格証書さえ持っておれば開業するときいつでも
登録できるということでありますので、合格者と
登録者をここで分けて、少なくとも
登録した場合は
入会する、
登録税理士で未開業
税理士をなくするというところに
税理会の統一的
運営がはかられる、にせ
税理士の温床がなくなるというふうに考える次第であります。
以上概要を申し上げました。私どもがこの国会におきまして、従来より一貫して
要望しておりますこの
税理士制度が真に民主的な理想的な
制度として確立されることを心から念願いたしまして、またこの大蔵
委員の
方々が本
税理士会の
要望を体しまして、ぜひ御協力をいただき、強力な御支援をお願いいたしまして、私の
意見を終わらせていただきます。