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滝田参考人 全繊同盟を代表して
意見を述べたいと思います。四点にしぼりたいと思います。
第一点は、この
法律の
目的に関してであります。時限
立法でありますから、この
法律の条項についてもおのずから制限があることは承知の上でありますが、この
目的が
合理化と正常な
輸出発展というところだけに問題をしぼり過ぎているわけですが、これではたして
繊維産業の安定的な発展が期せられるかどうか、この点については、これははなはだ片手落ちの立案のしかたではないかというふうに思います。というのは、天然繊維のほうを
規制し、人造繊維のほうは
規制の
対象外に置く、こういうことが法のたてまえになっておりますが、この
法律のねらいは、こういう点で生産と需要との関係において
輸出だけを
対象にしていて、内需というものの動向をどういうふうに考えるかという、その点の
配慮が欠けているのではないかと思われます。もう少し具体的に言いますと、現在の
輸出の伸張の度合いというものは、本年度の場合は努力
目標としてせいぜい三%前後ではないだろうか。そして国民の一人当たりの衣料の消費量は、天然繊維と
化学繊維に分けて、天然繊維のほうは一人当たりの年間消費量は四・五八四キログラム、人造繊維のほうは四・〇九七キログラム、合計して、約九千八百万の国民の一人当たりの年間の消費量が八・六八一キログラムというのが大体現実の数字であります。この国民の消費あるいは消費の傾向というものが、いま申し上げたような数字から、奇跡は起こらないのではなかろうか。そういたしますと、
輸出の傾向というものは本年せいぜい三%増加が努力
目標であり、国民の全消費量というのはほぼ見当がつくとするならば、その需要に見合ったような生産
体制をいかにつくり上げていくか。その生産
体制の中には、天然繊維よりも人造繊維の漸増傾向というものを進めていかなければならない、こういう点で繊維の安定的な成長を初めて期せられるのではないかという点を見ますと、この
目的が単に
合理化と
輸出の発展というそのねらいだけではきわめて不十分な点があるのではないかと思います。したがって、この
目的を
繊維産業の安定的発展という
目的に置きかえなければ総合対策にならないのではないだろうか。天然繊維の場合でも、単に設備を
規制すればいいということでは問題は決解しません。現場に行ってみると、一錘量当たりの生産高はどんどんふえている。そして無人操業的なことが現にやられている。ですから、労働者がいなくても生産はできるような
体制に置かれておりますから、天然繊維の設備だけを押えておればそれでいいという状況ではない。やはり生産と需要との関係がどういうふうに調節されるかというところに、この
繊維産業の安定策の焦点があるのではないだろうか。そういう点で私は、設備と生産量と両面から見て、内需と
輸出と両方見きわめた上での設備の
規制あるいはまた調整ということがたてまえであるべきではないだろうか。そういう点を考えますと、この
目的についての
配慮が片手落ちだという点をまず第一に指摘したいと思います。
第二は、この
法律には、労働者の雇用構造の変化とか流動化の問題とかあるいは賃金という問題が一向触れられていないわけです。むろん私の認識によりましても、労働条件を
法律の案文に入れるということは不可能であることは承知しておりますが、しかし
繊維産業の発展の中でこれから労働力を確保していくことがいかにむずかしいかということは、先ほどの公述の方も触れられたとおりです。時間がありませんから端的に申しますと、最低賃金制をすみやかにしくべきであるという
考え方であります。
設備審議会においても、すでに最低賃金制は早急にやらなければならないという
結論を出しております。労働省においては、中央最低賃金
審議会において、どの産業に最低賃金が適当であるかという
審議最中であります。そういう点を見ますと、労働行政の面から見ても、通産経済政策の面から見ても、日本の場合は、
輸出で問題を起こし、国内で低賃金層が非常に多いという代表的な産業は、私は
繊維産業だと思います。
繊維産業が外国において
規制をされる根本原因は安売りだということであります。そして同時にまた、一品種の生産をどっと一時期にふやし過ぎる。特定地域に特定品種を一挙にふやし過ぎている。相手方の国を非常に刺激する問題が現実に起こっているわけですから、そういう点を考えますと、
輸出の
振興という面から見ても、国内のいろいろな労働力の確保の面から見ても、最低賃金制は焦眉の問題ではないだろうか。むろん全繊同盟に加盟している組合員だけでも四十六万人おります、事業場にして千五百をこえる事業場の賃金は労働組合の力によってある程度高めてきました。しかし、問題は、未組織の弱小労働者の労働条件がどうなっているかということが、
繊維産業の労働力確保の面から見ても非常に問題を残している。そうしてまた過当競争のいわゆる低賃金、低
価格という原因もそこにあるわけでありまして、最低賃金については、早急にこの商工
委員会でも、
法律の案文にすることができないとするならば附帯決議をされて、そして労働関係の上で石炭産業にやられたような熱意あるいは積極性をこの
繊維産業にぜひ示していただきたいというふうに思います。
私は日本の労働代表としていろいろな国際
会議に出ましたけれども、いつの場合でも日本の繊維製品の安売りの攻撃の矢面に立ってきました。どの人よりも私は矢面に立ってきました。そういう点で、国内の過当競争、低賃金というものがいかに国際信用を落としてきたかということについての
配慮というものが、繊維の政策の中に入ってくるべきじゃないかと思います。ただし、私は、労働組合の代表といえども、国家の不利益になるようなことはできるだけやめるように努力してきました。それだからこそ、また国内の
体制がもっと真剣に考えられるべきじゃないだろうか、そういう意味で最低賃金制の早期実現を私は強調したいと思います。その点で、国内の
体制がもう少しできれば、いわゆる国際公正競争、公正労働基準という問題で相手国と十分やり合えるような日本の
体制ができるのではないだろうか。安売りをして信用を落とすというふうな日本の商法の
やり方については、根本的に考え直す必要があるのではないか。特に国際的な取引の仕方については、外務省関係で経済担当官が在外大使館、公使館、領事館におりますけれども、忙しくてそういった取引の条件を十分国内に知らせてないというのが実情ではないかと私は思います。相手方のバイヤーがどんどんたたいて、もうけているのは向こうさんであるのにかかわらず、安売りの責任を日本だけがかぶっているという
状態をどういうふうに理解するか、そういう点については今後
審議会等が持たれますから、その
審議会で、これほど多くの外貨獲得をしている産業でありますから、もう少し真剣になって、対外的な取引状況がどういう現実にあるかということをつかんだ上で対策を立てていただきたいというふうに思います。
それから第三点は、紡糸機の制限ということをこの
規制対象からはずされております。これは
設備審議会においても、私も参加してきめたことでありますから、このことについては異議はございません。しかし、
設備審議会の
答申案の中に「
新法の
規制対象外とするが、今後の新増設は
法律に基づく官民の協調方式によって調整するものとする。」というふうに書いておるのであります。ですから、天然繊維のほうはある
ワクをきめて計画的にやられる、しかし紡糸機のほうは、人造繊維が世界の趨勢であるからということで、無制限の形で設備投資をしていいかどうかということは、私ははなはだ別な疑問があると思います。発展の
方向は是認しますけれども、無計画な設備投資をいま各社が競ってやる
状態では、遠からず人造繊維あるいは
繊維産業全体に戦国時代、群雄割拠時代の来ることは明らかであります。もう目に見えておる。それを単なる自主調整という美名のもとにおいてやることは、結局は設備投資の過熱の問題、そして資本費用の増大、ひいては繊維市況の不安というものを引き起こしてくるし、ひいては対外的にはダンピングの対策をとらざるを得ないところに追い込まれてくる、こういう点を考えますと、紡糸機の漸増主義あるいは計画的な増設は、
方向としては認めますけれども、その自主調整のあり方については、
答申案にうたわれたとおりの官民協調方式を、
法律の効果が発揮できるような形にぜひやっていただきたい。特に、この商工
委員会は
繊維産業だけを論じているのでありますけれども、隣の化学部門においてのいわゆる設備投資の行き過ぎの問題は、直ちに
繊維産業に連鎖反応を起こすという性格を持っているだけに、これは日本の経済全体のために特に
配慮すべき問題があるのではないかというふうに私は考えます。
もう一つつけ加えておかねばなりませんことは、この
法律では
審議会を設けるというふうになっております。今度
審議会が設けられたら、労働者を代表する者の人数をぜひふやしていただきたい。各
業界から、
業界を代表する人がたくさん参加している割りには、一番弱い
立場にある労働者を代表する
委員の数が少な過ぎると思うのであります。対外的にもよくごらんになっていただきたいのでありますが、労働組合を参加させないという産業政策、あるいは
輸出政策というものは成功しない
状態に現実の世界は動いている。
アメリカの場合でもAFL、CIOでは、大統領の就任と同時に、直ちに経済協力
体制をとるために話し合いを始めております。そういう点を見ますと、日本の
輸出振興あるいは産業政策についての労働組合の参加というのをもっと重要視しなければならぬ。
政府や経営者だけの力では相手国を説得することができないという現実にきております。そういう点について特に議員の
方々の認識を深めていただきたいと思います。
最後に、
中小企業の対策です。先般の商工
委員会の
委員方の質疑に対して、
中小企業については十億円は
開銀から用意してある、あとは協調
融資によって百億ないし二百億円ぐらい動くからしてまあまあいいのじゃないかという意味の、
繊維局長から答弁もあったようでございます。しかし
繊維産業のようにこれだけ多くの
企業をかかえ、そして外貨の獲得という面から見れば最も貢献している産業のこういう構造の大変革を起こすときには、私はもっと力を入れてこの
技術の改革あるいは
企業の統合の問題、経済単位、生産単位をどこに置くべきかということについてのそういう
合理化を推進するためには、いま
国会の中で
審議されているような
ワクでは、私は
中小企業の体質の改善というものはできないと思います。いいものも悪いものも一緒くたにして
中小企業対策というものは論じられませんから、私の
考え方では、やはりある生産単位、その規模に達するようなもの、あるいはまた、ある労働条件を確保できるような
企業に対して
融資の優先権を与えるという態度によって、初めて建設的な産業政策ができるのではないだろうか、こういうふうに考えております。
なお、労働基準法の一部除外例が現在置かれております。終戦後日本の
繊維産業の設備が少なくて、マッカーサー
命令によって増産の
命令を出された当時においては、婦人の労働者といえども深夜の十時以後三十分
延長してもよろしいという例外
規定がありますけれども、あの例外
規定は、
法律はいま存続の意味は全然ございません。いま三割も
操短をしている
状態のもとで、
設備規制をやらなければならぬと言っておるときに、何のために十時以後の深夜の操業を認めるか。これは明らかに事態におくれた
法律が残っておることでありますから、十時以後の例外増産
体制というのは早くやめていただきたいというふうに思います。
結論的にいえば、
村区分の
廃止あるいは
過剰設備の
規制、そして
合理化を進めようという
原則については私は賛成をいたしますが、
自由競争という名のもとにおいて、節度のないそういう設備投資の過熱あるいは生産の増大というものは、巖に慎んでいかなければならない問題ではないでしょうか。端的にいえば、日本の国ほど、日本の
繊維産業ほど、どっと増設したかと思えばすぐ
操短をやっている国は、遺憾ながらほかの国に、先進国、後進国ともにないということであります。その繰り返しをまたやってはいけないという意味において、私は、天然繊維と人造繊維を含めて、
需給関係の長期的な見通しを立てながら、そして産業の安定的な発展をしていただきたい。そういう意味合いにおいては、これから設立される五十人によるこの
審議会は、権限を強化して、そして
運用面においてももっと積極的なものになるようにやっていただきたいと思います。そしてその
審議会の
答申というものを、通産
当局は直ちに行政指導に強力に持っていく、そういうふうにしていただきたいと思います。
以上であります。