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長谷川(保)
委員 そこで「
配偶者のない
女子」という
概念でありますけれども、これを読みまして、実は
貸し付け法もこの第五条と同じものを書いておりますけれども、私は早くから非常に疑問に思っております。また、これはいかぬと思っております。何をそう思っておるかというと、この
法律の第五条第一項の五号「
配偶者が
精神又は
身体の
障害により
長期にわたって
労働能力を失っている
女子」これを
配偶者のない
女子という
概念にしてしまうといけないと思うのです。私は
芝居のことは十分知りませんけれども、たとえば
壷坂霊験記を見ますと、お里が沢市をあれだけ一生懸命に大事にしている。それから
箱根権現ですかの例のいざり
勝五郎のあの段でも、私の見た
芝居では、
箱車に乗った
勝五郎を
女房が引っぱって、ここら
あたりは
山家ゆえ、という有名な
文句が出てくるわけであります。モミジのあるのに雪が降る、さぞ寒かったでござんしょう、というせりふが出てくる。やはりあの
労働能力を全く失ってしまった
勝五郎に対する
女房の、あの
さわりあたりが、私は
夫婦生活のほんとうの妙味だと思うのです。この第五条の第一項の五号「
配偶者が
精神又は
身体の
障害により
長期にわたって
労働能力を失っている
女子」これは
配偶者のない
女子であるということ、これは前の
貸し付け法からそういうふうになっていますよ。あの
貸し付け法も、これはいかぬなと私は思ったのです。これはむざんだ。今度は
病気のかよわい
亭主のほうからその代表として
文句を言われる。もし、こういうことになりまして、「
配偶者が
精神又は
身体の
障害により
長期にわたって
労働能力を失っている」という
奥さん、これは
配偶者のない者であるという
法律をつくっていくとしますと、たとえば不幸にいたしましてカリエスで長い間寝ている
亭主があるとしますと、
労働能力はないのである。
奥さんが奮闘をしてその
亭主と
子供を養っているというような場合に、
ただでさえ
病気になっております
亭主にいたしますと、これは非常に心細くなっている。そうして
女房に養ってもらっておりますことに当然
卑屈感を持っておると思います。それを
法律の
概念では「
配偶者のない
女子」ということできめつけていくことは、
病気をしておりまするかよわい
亭主にとりましては致命的であります。この前の
貸し付け法のときから私はこれはいかぬと思ったのでありますけれども、これはやはり
考えなければいかぬと思うのです。今度の
法律でも、これはわざわざそう書かぬでも、たとえば第五条「この
法律において「
配偶者のない
女子」とは」というところを、扶養する
配偶者のいない
女子またはこれに準ずる
女子というように書いてくれれば、こういういわば刺激的な
概念というものはなくなってくると思います。これは、今度この
母子福祉法をつくりますについてはぜひ改めてもらいたい。これは長い
間病気をしておる、このごろのことでありますから、たとえば
交通事故による
脊髄損傷も出てまいりましょうし、あるいは鉱山、
炭鉱等におきまするそういう人も出てきましょう。一家をささえるために奮闘してまいりましたそのあげくに、不幸な、そういう
労働災害あるいは
交通災害等によって再び立つことのできないような
亭主も出てくるわけであります。それを
女房が養って、いざり
勝五郎の
女房のように、せっかくそういう美しい
気持ちで、
利己心を越えてその主人を大事にしていくというときに、「
配偶者のない
女子」という
ことばできめつけていくことは、私は人道上もちょっと許されないと思うのです。これはやはり
病気をしておりまする気の毒な
亭主に対しましては致命的な
ことばであります。でありますから、これは与党の
皆さんにもひとつお
考えい
ただきたいのでありますけれども、法文を変えてい
ただいて、
配偶者のいない
女子またはこれに準ずる
女子というような
ことばを入れてい
ただいて、その準ずる
女子の中にこういう者が入るのだということになれば、そこにりっぱに筋が立つわけであります。
ただでさえそういう不幸な中にありまする
亭主の
方々、これも
全国では相当数あるわけでありまして、結核で長いこと寝ているという人もそうでありましょうし、あるいは
精神病の人の中にもそういう人もありましょうし、あるいは
労働災害、
交通災害等で頭をやられました人の中にもそういう人が
多分にありましょうし、あるいは中風で寝ている、脳血栓、
脳軟化等で寝ているという人にもそういう人が
多分にありましょう。でありますから、やはり
法律を新しくつくるとすれば、ぜひともこの際、旧貸
付け法の条文をそのまま持ってくるのではなくて、このところはもっとあたたかい配慮をしてもらいたいと思うのであります。この点いかがでありましょう。