○
八木(一)
委員 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題と相なりましたわが
党提出の
生活保護法の一部を
改正する
法律案、すなわち
生活保障法案につき、その
提出の
理由趣旨並びにその内容の
大綱につき御
説明を申し上げます。
生活保護制度は、
憲法第二十五条の
精神を実現すべき
制度の中で非常に大切なものであり、
社会保障制度の基盤をなすものでありますが、この重要な
制度を規定する
生活保護法が、
制度発足後十数年間、その間に
社会状態、
家族関係、
経済状態、
生活水準等の急激な変遷に際会しているにかかわらず、変化に応じた根本的な
改正がなされず、その
運用も、また
枝葉末節にとらわれて
根本的精神にもとる方向がとられ、そのため、
憲法に明記された健康で文化的な
生活を営む
国民の
基本的権利が実際には保障されず、多くの不運な
人たちが人間らしい
生活をなし得ないでいる
現状は、まことに憤激にたえない
状態であり、その間の
政府の責任は、まさに重大といわなければならないと存じます。
わが党は、この
現状にかんがみ
生活保護法を抜本的に改め、その重大な
欠陥を是正して、
憲法の条章の
ほんとうの
意味の実現をはかろうとするものでありまして、
法律名も、その
趣旨に即応するよう、
生活保障法と改めようとするものであります。
以下、順次、おもなる
改正点とその
理由について御
説明申し上げます。
まず
改正の第一の柱は、
本法の
施行をより
実情に即した適切なものにし、特に
保護の
基準を適切なものにして、その
改正を
社会経済情勢に対応して迅速に行なわせるようにするため、
生活保障審議会をつくることであります。
生活保護制度には
生活、住宅、教育、出産、
生業、葬祭、」時の各
扶助制度があり、また六
種類の
加算制度、四
種類の
控除制度があり、かつその
基準は
年齢別、性別、
世帯構成別、
所在地域別におのおの計算されるわけで、非常に複雑な
構成になっておりますことは各位の御承知のとおりでありますが、そのあらゆるものがあまりにも低過ぎていることは周知の事実でございます。まず、その中心である
生活扶助制度で調べてみますと、東京都標準四人
世帯で、一月、一万六千百四十七円、四級地一万一千七百八十七円、一人
当たり月四千三十七円、四級地の場合は二千九百四十七円しか
支給しないのでありまして、そのうち
飲食物費については
一級地一万四百十七円、一人
当たり二千六百四円、一人一食
平均二十八円ということに相なります。もっと具体的に、
年齢別、
地域男女別に
飲食費一食
当たりを出しますと、六歳から八歳までが
一級地で一食
平均約二十七円、四級地約二十円、十八歳から十九歳までが
一級地約
男子三十六円、四級地約
女子二十二円、六十歳以上
一級地約
男子二十九円、四級地約
女子十七円ということに相なるわけであります。多いところで三十円台、少ないところでは十数円台の食費という、まことに驚くべき僅少な金額に相なるわけでございまして、これでは全く健康な
生活ということはできず、ただ現在生きているというだけで、自分の体力を消耗し、当然長らえるべき生命を縮めていると言っても断じて過言ではないのであります。
嗜好品費を分析しますると、たばこ、
甘味等は考慮されておらず、パンツなど
消耗度の多い下着が一年に約二着余、四十ワットの電灯しかつけられない
状態では、文化的な
生活などとは絶対に言えないのであります。
右のような
実情から見て、即時大幅な
基準の
引き上げが断じて必要であり、その後も物価の上昇に見合うことはもちろん、さらに
一般の
生活水準の
向上等に従って、時を移さず
改正をさるべきものであります。
しかるにかかわらず、
基準の
引き上げについてはその場限りのごまかしの
方法しかとられていなかったため、
生活扶助を受ける
世帯の
生活水準は
一般勤労世帯の
生活水準に比して、立法当時よりぐんぐんと低下してきたのであります。
すなわち、その比率は、
昭和二十六年及び二十七年が五四・八%でありましたのが二十八年より四〇%台に下がり、三十二年度よりは三九%台に下がり、三十七年度の
改定によってようやく四二%に達しました。
昭和三十九年度の
改定で四七%に達するであろうかと推定されるだけであります。本来健康で文化的な
最低生活の
水準ということは絶えず進展すべきものであり、単純にきめがたいものでありますが、
特定の
地域における
特定の時点においては、客観的に
決定し得るもので、かつ
決定すべきものであります。
しかも、
最低限度というからには、その
実施を
予算の
ワクというもので縛り、不可能にすることは絶対に許されないものであり、逆にそのことを
国民に保障するために、
予算が組まれなければならない性質のものであります。
しかるにかかわらず、この当然の原則が完全に無視され、
主管官庁の
予算要求までが当てずっぽうのきわめて無責任無気力不十分のものであり、さらに、それすらも
予算の
ワクということで大なたをふるわれるというやり方では、いつまでたっても不運な
人たちが人間らしい
生活を保障されることは実現できないことになり、その間における人権の侵害は
あとからではいかにしても補うことができなくなるわけであります。
このような
欠陥をなくし、かつ、この
法律の
運用の
大綱をより
実情に即したものとし、この
法律に筋金を入れるために、
生活保障審議会の
制度を設けようとするわけであります。すなわち、同法の第二章の
あとに
生活保障審議会の章を起こし、
基準決定に関する
厚生大臣の
権限との
関係に関して第八条に第三項から第五項までを新しく規定するほか、所要の
改正をすることによって同
審議会の活用をはかろうとするものでありまして、まず
審議会は、両院の同意を得て、
内閣総理大臣が任命する
委員八名及び
厚生、
労働、大蔵、自治、文部各事務次官計十三名をもって
構成され、十分重大な任務を補佐するに足る
事務局を置き、毎年一回以上
保護の
基準の適否に関する報告をし、変更の必要を認める場合の
勧告権を持ち、
厚生大臣はこれについて必要な
措置を講ずべきこととし、また
厚生大臣に
保護基準の
制定改正の際の
諮問義務を課し、
厚生大臣が
審議会の
意見によりがたいと認める場合の再
諮問義務を規定するとともに、従来
社会福祉事業に規定されておりました
社会福祉審議会の
生活保護専門分科会の機能をも本
審議会に吸収し、
実施要領その他の
本法の
施行に関する
重要事項及び
本法の
改正についても
諮問を受け、またはみずから進んで
関係行政庁に
意見を述べ、
関係行政庁はこれらの答申、
勧告、
意見を尊重すべき
義務を規定するものでありまして、
審議会として、最も大きな
権限を付与してその熱心な調査、民主的な
審議による適切迅速なる
決定によって、従来の
政府の怠慢、無責任のため
憲法第二十五条の
精神が実際に十分に確立されていない弊を除こうとするものであります。
改正の第二の柱は、
自立助長に関してであります。
本法の
目的として、第一条に
自立助長が明記されておりますが、自後の
具体的条文はわずか
生業扶助の項を除いて、それ以外はこの
目的を実現しようという
意味を持つものは全然なく、それのみか、この
目的を抹殺する作用を有する第四条のごとき規定すらあるのであります。
自立助長は、
対象者が機械ではなく、生きた感情を持つ人間であることを念頭に入れたものでなければ実効があがりません。現在の
収入認定の
制度は、不運な人が何とか苦しい努力の中から人間らしい
生活を再建しようとする
意欲を喪失させる仕組みになっております。夫が死亡し、足腰の不自由な老母と幼い三人、四人の
子供をかかえている母が、懸命に働いた
収入が
扶助の金から差し引かれるのでは、疲れだけが残る仕事をやめて、せめて
家族たちのそばにいて
子供たちをかわいがり、親に孝養を尽くしたほうがよいという気持ちになることはあたりまえの話であろうと思います。苦しい中、条件の悪い中で、母を慕う
子供、看護してあげたい親を目をつぶって家に残し
働きに出ることは、その
子供に、親に、少しでもおいしいもの、栄養になるものを食べさせたいという考え方で気力をふるって働いているのに、その
収入が実際の
生活を潤すものにならないのでは、働く
意欲など喪失し、
自立の道は閉ざされてしまうことは明らかであります。
現在の
制度の
運用においてもこの実態が直視され、
行政上はこの
法律をできるだけ広く解釈して、冷酷無比な
収入認定の
制度を緩和しようという
方法がとられておりますが、いかにせん、第四条第一項の鬼畜のごとき
条文に縛られて、十分なものになっておりません。
いわゆる
勤労控除という
制度は、大衆の切なる希望に従って
厚生省が知恵をしぼり切ってつくった
制度でありますが、
条文に縛られて、
必要経費の
控除という理論の上にしか立てないため、実際の
働きによる実
生活の
向上という問題はほとんど解決しておらず、
勤労控除等でもし実際的に幾ぶんの効果ありとしても、この
制度は働く者一名につき
幾ら控除の
制度であって、前例のことき、
家族を多くかかえた未亡人には何分の一の効果しか及ばないわけであります。したがって、この
勤労控除の
制度は、
必要経費補てんという
目的のため有効な
制度であり、存続拡充すべきものでありますが、
ほんとうに
自立を促進するためには、これとは別に、
対象家族に応じた、しかも、
必要経費という
ワクに縛られない
収入認定控除の
制度をつくり、要
保護者家庭中のある程度
働き得る者が
家族のために一生懸命働いた
収入が実際に相当程度
家族を潤し、その結果さらに働く
意欲を燃やし、仕事の習熟顧客の増加等によってさらに
収入がふえ、
自立の道が急速にかつ大きく開けるようすべきであります。本案は、そのため第八条の二の規定を新しく設け、右の
目的を達成しようとするものであります。
以上は、
自立助長をはばむ
収入認定を緩和しようとする
条文でありますが、他の点においても、
自立助長に配慮いたしておりますことはもちろんであります。
改正の第三の柱は、適用の過酷な要件を緩和しようとするものであります。
現行法でこれを規定いたしておりますのは、
保護の補足性の条項、すなわち、第四条第一項及び第二項であります。まず第一項は、「
保護は、
生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その
最低限度の
生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定されているのでありまして、あらゆるものまで極端に縛ったこの過酷きわまる
条文のために、数年前までは、病床の老人かただ一つの楽しみであったラジオ、それも売り払った場合幾ばくの金にもならないものでも処分しなければ
扶助が受けられない、なき夫の形見の記念品を泣く泣く手放さなければ
扶助が受けられない、田畑のまん中の家を処分しなければ医療
扶助が受けられない、といった
状態があったわけであります。
このように
実情に合わない
条文に対して、
行政に当たるものは、厳密に言えばこの悪
条文を幾ぶん犯したとも言うべき苦しい解釈をしながら、できるだけあたたかい
運用がなされ、現在では、ラジオとか自転車とかを保有し、また家屋等の全般的な処分をしなくても
保護が受けられるようになっており、また、逐年幾ぶんずつ緩和される傾向にありますけれども、やはりこの
条文に縛られて
実情にそぐわず、
対象者の人間らしい感情を踏みにじり、あるいは再起の希望を断つことが非常に多」いわけであります。
この点を改めるため、右
条文中、「その他あらゆるもの」を「その他のもの」に改めて冷酷な鉄条網を取り払い、さらに、積極的に第四条第一項に後段を加えて、たとえば親の形見、夫婦の記念品、老人、病人、
子供等の娯楽品など、社会通念上保有させることが適当なもの及び将来再起のため必要な、たとえば家屋、田畑、店舗、オートバイ、三輪車等々
自立助長に必要なものの保有をしたままで
保護が受けられるようにしようとするものであります。
次に、第二項では民法の扶養
義務者の扶養が
本法保護に優先して行なわれるものとすることになっており、この
条文のため、
家族とともに余裕のないきりきりの
生活をしている人が、要
保護者に対する扶養
義務のため、その
生活を破壊されたり、また、それをめぐって親戚間の感情が対立したり、また、遠方に親戚がいるため
保護を必要とするものが急速に
保護が受けられなかったり、いろいろの不都合が生じ、担当者も扱いに苦悩する
現状にかんがみ、
実情に合わない民法の扶養
義務優先条項を削除して、あたたかい運営を行なおうとするものであります。
改正の第四の柱は、現在
保護は
世帯を単位として行なうことを原則としているのを、個人単位を原則とすることに改めようとするものであります。
現在、
世帯単位を原則とされているため、民法にいわゆる
生活保持
義務者ではない扶養
義務者が同一
世帯にいることによって、要
保護者と完全に同一
水準の
生活をしいられることになっていることは、全く不合理といわなければならないことでありまして、実例をもって考えてみますと、障害者の父、病人の母、幼い弟妹二名と同一
世帯でいる十八歳の少年がどのくらい懸命に働いても、
収入がこの五人の
生活保護費以上の金額にならない限り実
生活費を
引き上げることにならないわけであって、若い青年の人権がじゅうりんされ、両親に対する孝心も実際には実を結ばないことになるわけでありますので、このような重大な
欠陥をなくすため、第十条を改め、原則に個人単位とし、ただ例外として、同一
世帯の夫婦と未成年の
子供のみを単位として扱うことにしようとするものであります。
このことによって、要
保護世帯の中で懸命な努力をする青少年はその
働きに見合う
生活を建設し、かつ、実際的には
収入のある部分は、両親や弟妹の
生活のため消費せられて、青少年の勤労による自己の
生活建設の努力と、
家族に少しでもよい
生活をと願う愛情が実際上実を結ぶことになると考えるものであります。
改正の第五の柱は、
本法施行上の苦情の処理を民主的なものにするため、
中央、地方に、苦情処理機関を置こうとするものであります。
従来、
本法の取り扱いにいろいろ苦情が生じ、かつ、その処理が必ずしも適切に行なわれないことは、いわゆる朝日裁判の例をもっても明らかでありますが、裁判に訴えることはもちろん、実際は官僚の手によって冷ややかに処理されることが多い。知事
決定に期待が持てず、苦情申し立てすらもあきらめている
対象者が多い今日、民主的な機関を設けて
本法のよき
運用を期することが緊要なことであり、そのため、第六十五条の二の規定を新設し、第六十六条に
改正を加えまして、
保護の
決定及び
実施についての審査請求や再審査請求については、
厚生大臣が裁決する場合は
中央生活保障審査会の、都道府県知事が裁決する場合は地方
生活保障審査会の議決を経て行なわなければならないものとし、第九章の二を新設して、
中央審査会及び地方審査会の組織及び
権限を規定したのであります。
中央審査会は、
厚生省に置かれるものであり、
厚生大臣の任命する学識経験者六名、
関係行政機関の職員五名、計十一名をもって
構成するものであります。特に、その機関の特質にかんがみ、心身故障など特別の場合のほかは、その意に反して罷免することができないことにしようとするものであります。地方審査会は、各都道府県に置かれるものであり、
関係地方公共団体の職員六名、学識経験者七名、計十三名をもって
構成し、
委員の身分が保障されることは
中央審査会と同様であります。
以上が具体的な
改正点でありますが、その他
本法の理念を明らかにするための
改正を行なおうとするものであります。
まず、現行法の
目的が、
生活に困窮する
国民に対してつくられたものであるとしているのを発展させ、
憲法第二十五条の理念を明確に確立させるため、
生活に困窮するというあいまいかつ消極的な規定を改め、健康で文化的な
生活を維持することができないものに対して適用させるものであることを規定するため、第一条及び第四条を
改正し、さらにこの
改正と前述五項の抜本的な
本法骨組み改造に対応し、かつ、題名より恩恵的なものであるという誤解を一掃し、
国民の生存権を明確にするため、題名を
生活保障法と
改正しようとするものであります。
本
改正法は、
昭和四十年一月一日から
施行しようとするものであり、ただし、
生活保障審議会に関する規定は、その任務上、公布の日から直ちに
施行するものであります。
本法施行に要する直接の費用は、
生活保障審議会及び審査会の費用で年間約五千万円であります。
以上が
本法案の内容の概要でありますが、要するに、
本法案は、社会保障の基盤の
法律である
生活保護法があらゆる面でその
目的を十分に果たしておらず、
国民の生存権がはなはだしく侵害されている点を根本的に改め、
憲法第二十五条の
精神を実際に確立しようとするものであります。健康な
生活を保障する
目的を持った
法律が不完全であり、
対象者が自分の体力を食べて健康をすり減らしながら毎日を送らなければならない
状態、文化的などとはどんな観点よりも言えない
状態、寿命や人間性をすり減らす
状態を幾ぶんでも少なくするためには、この
法律をごまかすことすらしなくてはならない
状態、
関係官庁が違反すれすれの
行政解釈をしなければならない
状態を考えるとき、
生活保護法の
改正は一日もゆるがせにすることはできないと存じます。
このような欠点を根本的に改め、
ほんとうに健康で文化的な
生活を保障し、さらに
ほんとうに
自立の助長をはかるため、あらゆる観点から検討をいたしました
本法案でありまして、
憲法を尊重し、擁護する
義務を持たれ、そのことに最も忠実な各位の慎重な御
審議の上、急速なる満場一致の御可決を心からお願いを申し上げる次第であります。(拍手)