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河角参考人 私は、このたびの
地震に際し、
山形県、
新潟県その他の各県の大きな
災害に対して、心から御同情の念を禁じ得ません。翌日、科学技術庁の御好意によりまして、きょう
説明員として呼ばれましたお二方と私と三人で
現地までヘリコプターで行きまして、
新潟市内の視察をいたしました。そして帰ってきたのでございますが、私自身はその後東京におりまして、今度の
地震に対する学術的な
調査を、文部省の
補助金によりまして、
地震、土木、建築の三部門にわたって
調査隊をつくりまして、その責任者として
調査の組織のほうのことに追われておりまして、その後
現地に視察に行ってみるひまがございません。したがって、私のここで申し上げますことは、
現地の実情に沿ったことというのは、新聞、ラジオ、テレビその他によって知ったことと、あと一
部分の
調査隊員から聞いております報告によるだけでございまして、詳しいことは、
調査隊員の全員からの報告が集まったところでありませんと、結論的なことは申し上げられませんが、まず第一に、この
地震はマグニチュード七・七という、関東
地震にかなり近いような大きな
規模だと報じられておりますが、幸い、この
地震が海の中に起こりましたために、
被害は比較的軽く、倒壊家屋の数は、その
規模から予想されるものの数十分の一、死者の数に至りましては千分の一にも近いような、非常にわずかな
被害でとどまったということは、非常に不幸中の幸いであったと思います。あるいはこの七・七というマグニチュードが、私自身の感じから言いますと、少し大き過ぎたとは思いますが、とにかく海の中で起こったということで
被害がこのように軽く済んだというのは確かなことと思います。
それで、私の見ました
新潟市内の様子でございますが、私は案内されて古町通りを通りましたときに、古い
木造家屋でもほとんど
被害がない、そう構造的に見て強い
建物でもないと思われるものが、ほとんど何の
被害もないように見受けられたということから、この
地震の
新潟市内の強さがそれほど強いものでないと思っておったのでございますが、それが川岸町付近の県営アパートの倒壊あるいは鉄道線路の波状の沈下とか、あるいはまた、昭和大橋の破壊、信濃川の護岸の沈下あるいは決壊等を見まして、このたびの
被害が非常に地盤による
災害であるということをまたつくづく感じたわけでございます。私は、アラスカ
地震にも日米合同
調査の責任者として向こうへ参りまして
現地の様子を見てまいりましたが、アンカレッジ市内の
被害も、地盤の悪いところが非常に大きくて、いいところではほとんどたいしたことがなかったというようなこと等から思い比べまして、非常にこのたびの
地震で地盤というものの重要さを、かねがね思っていたことではございますけれども、あらためて痛感いたしました。
それから、そのように
地震そのものは海に起こりましたために、遠いところに起こりましたために、
新潟市内では、われわれの
関係しております
委員会で設置しました強震計によりました結果から見ましても、強震程度で——それは川岸町の倒れたアパートのすぐわきに一番まっすぐ建っている
建物についていたものでございますけれども、それでやってもほとんど強震程度の
範囲の強さしがなかったということがわかったわけでありまして、私の感じが確かめられたのでございます。
そういうふうに、
地震動による
被害は、地盤の悪いところでもあの程度に、倒壊家屋が
新潟県内で千戸ぐらいといったようなわずかな数にとどまったというのは非常にしあわせだったのですが、それにもかかわらず、あの昭和石油の火災というものが、このたびの
災害を、その製油所の
被害だけでなく、付近の住家を焼き払って三百戸以上の焼失家屋を出したというような非常な影響があったということは、非常に残念でありました。私はアラスカの
地震で各地を見てまいりましたときに、強震
地域の町々でやはりこういうふうな石油タンク、ガソリンタンクその他がほとんど至るところで火事を起こしておりまして、アメリカのこういう
施設と日本の
施設がほとんど同じであるということから、日本の大
地震に対してこれからはタンクの火災というものが非常に大きくなりはしないかということを心配して、帰ってきてからラジオやテレビでその話もいたしましたけれども、そのことがほんとうに実を結ばないうちにこのたびのような
災害になったことは、非常に残念だと思います。これを機会にいたしましてぜひこの方面の
施設の改善をしていただきたいと思います。
それから、私の見ましたのは
新潟県の、しかも
新潟市だけでございましたけれども、その後の
調査隊の話を総合いたしますと、
山形県のほうにも相当な
被害があります。これは
被害統計から皆さんすでに御存じのとおりでございまして、
新潟市というような大都市のある
新潟県の
被害と、そういう都市のあまりない
山形県の
被害が、ほとんど二対一よりもっと
山形県のほうが多かったのではないかと思いますが、そういう点で、
山形県のほうに、
激甚災害法ですか、そういうものが行なわれておりませんけれども、
山形県の
被害が大きいということも見のがしてはならないことだと考えます。震源が
山形県に非常に近かったということからも、当然なことだと思います。
あと、私どもの率直なことを申し上げさせていただきますと、日本では明治初年から
地震の研究というのは始まりまして、ことに震災予防ということに対しては、長い年月にわたりましてわれわれ研究してまいったことでございまして、その成果が取り入れられた構造物は、今度の
地震に対してもほとんど無
被害にとどまっておりまして、学問をほんとうに取り入れてなかったものだけが大きな
被害を受けていたように見受けられます。そういう点で、学問の尊重ということは、われわれの研究結果をほんとうに実地に取り入れていただいておったら、あのような
被害は大
部分が食いとめられたのではないかという感を深くいたしました。また私は、アンカレッジで見てまいりましたことから考えましても、高い構造物であっても、ほんとうの耐震的な
用意をしておきさえすれば、大正十二年の関東
地震の東京程度のものがあっても、ほとんど無
被害か、あるいは少なくとも中の人に
災害を及ぼすというようなこともなく、またあとで修理して使えるというふうになることを、確信を持って言うことができると思いますので、そういう点で、東京都に将来関東
地震が繰り返された場合においても、
建物の
被害という点では安心できると思いますが、しかし火事の点では、私ども消防庁と一緒に検討してまいりましたが、結果から見まして決して安心ができない。東京都で火事が起こったら、江東地区あるいは三河島、尾久といったような辺はほとんど救うことができないだろうという結論になっておりますので、その点ぜひ消防力の増強あるいはその他の対策で安心できるようにいまから準備してほしいということ、それから
新潟市で今度の
地震において得られた教訓では、水道管の破裂によりまして水に非常に困っておりますが、先ほど言いましたように、もし火事の対策が十分できて江東地区が火災からは免れたといたしましても、今度は水道管の破壊ということは
新潟と同じように予期しなければなりませんから、水の供給という点で、あの江東地区の全部の住民が居残った場合のことを考えますと、非常に問題があることだろうと思います。どうしてあれだけ多数の人たちに水を供給するかということをいまから十分考えておかなければならないと思います。あの大
地震について、火を消すという大事なことを消防力だけにたよるということではいけないのでありまして、都民の各自が火を消すということを
地震の直後にいたしますれば、小
学校の子供でも、倒れた家の下の火を一人で雪を運んで消したという話もございますので、必ず東京都が火事で焼けてしまうというわけではないと思いますから、その辺のところも十分に
一般の市民に徹底させて、
災害を未然に防止するような
方法を講じなくてはいけないということを常々痛感しております。
もう
一つ、この場を借りて私どもふだん考えておりますことを、お許しを願えればお願いしたいと思います。それは、私ども
地震研究をやっておる者たちが常々感じておりまして、
地震待ちというようなことを言っておりまして、最近十数年間大きな
地震が全くございませんで——全くと言っては語弊があるかもしれませんが、ほとんどございませんで、われわれのやりたいと思う
地震の研究に対して、予算がなかなか得られないということで、そういうひがんだような、
地震待ちというようなことばがわれわれの仲間で言われていたことがございますが、こういう
地震の研究がほんとうに生かせれば、日本の国のこの
災害のかなりの
部分が救えるということから考えますと、そういう方面の研究費も十分増していただきたいと思うわけでございます。私どもは、われわれの研究費とほとんど二けたも違うアメリカの学者といままで競争しまして、歯ぎしりをし続けてまいりました。実際われわれの研究費では、一人で、二、三千万円というような計算機の使用料を払えば研究ができるようなことを、日本人が考えてやっているわけでございますけれども、それだけの金が得られないために、わざわざアメリカまで出かけて行きまして、私の同僚なども昨年行って、そういう向こうの機械を借りて研究して帰りましたし、今年もまた、そういう金が得られないために、その助教授をまた向こうへやりたいという要求が出ているといったような状況でございまして、百分の一の研究費でアメリカの
地震学者と太刀打ちしているわれわれから考えますと、今度の
地震のこれを契機に、やはりそういう方面についても皆さまの厚い御支援がいただけたらと願うわけでございます。
何か御質問がありましたらまた伺います。私、一言申し上げて、これで終わります。(拍手)