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吉田(賢)
委員 私は、民主社会党を代表いたしまして、本案には賛成するものであります。
しかしながら、この
土地収用法自体は、同氏の権利義務に関するきわめて重大な
法律であり、またその構造は、各省庁にわたりまして、幾多の規定を含んでおる重大な
法律でありますので、問題の数点を
指摘いたしまして、何ゆえ賛成するかの理由を明らかにしたいと思います。
まず第一点は、この
法律は、二つの大きな矛盾した根本的要素を包含いたしております。それは憲法で明らかな私有財産権の保護であります。私有財産権の保硬を絶対的に主張いたしますると、公共の用途は狭められ、多くの
公共事業がなし得なくなることは、理の当然であります。そこで公共の利益と相調和する、この点におきまして、私有財産権の保護は与えられておるものと
考えます。そこで、この公共の利益を増進し私有財産を保護するということは、元来は矛盾する要素であろうと
考えます。なぜならば、もし
公共事業の理由のもとに私有財産、
土地所有権を収用するとなれば、まさにこれは私有財産権の侵害であります。侵害であるが、公共の事業の立場から見ますると、それが必要である。必要と侵害とをいかにして解決するかというところに、非常にむずかしい点がございます。絶対的に公共性優位を主張いたしますると、いつぞやの参考人のごとくに、
土地国有論というところまで到着することになるかもしれません。このようにして私有財産権の絶対性を否定し、また公共の事業を推進するに必要な規制を加えて、この両者を調整するということが根本的に重要でございますので、ここにおきまして幾多の問題が生じてまいります。公共性からまいりますると、
土地収用手続の簡素化を要請しましょうし、私有財産権保護の見地から見ると、正当な
補償を強く要請いたしましょう。こういう点がありますので、これをいかにして調整するかということが大きな課題でありますから、
収用法の手続の簡素化も必要であるし、また、
補償の適正執行も必要である。両者両全を期するところに妙があると思いますので、私は、問題は問題といたしまして、この
法律の持っておる使命とその性格がこのような問題があることを
指摘いたしまして、
運用の適切を期すべきではないかと
考えておるのであります。
第二の点は、政令に重要な特別
公共事業が認定し得る権限を付与した点であります。これは、私が河川法の
改正にあたっても
指摘いたしましたごとくに、委任命令というものが無
制限に行なわれましたならば、ついに国会の世論に発展いたします。最後にやはり官僚独裁の傾向すら生じます。最も端的な
行政をやり得るのは、議会が無用な場合であります。こういうわけでありますので、この委任命令
——政令に重要な国民の権利義務に関する事項を委任することは、厳に戒めねばなりません。したがいまして、私は、この点につきましても違憲論を一応主張いたしまして、参考人の所見を聞いた次第でございます。これらの点につきましては、やはり政令の制定にあたりまして、この
委員会での発言を尊重せられて、配慮あらんことを希望したいのであります。
第三の問題点は、
地価問題であります。
地価問題はいまなおくるくる回りいたしまして、
政府も適切な案が立たず、さりとて、本
委員会におきましても、ずばりと解決の対案が出てまいりません。それほどこれはむずかしいのでございます。むずかしいけれども、この
地価問題と取り組んで解決することなくしては、
土地を対象とする
公共事業は、いつまでも重要な問題の解決が遷延し、トラブルが繰り返されていくということを憂慮するものであります。これもいわゆる追随
時価というようなもので決定するのではなしに、これに対しまして、すみやかに法的措置あるいは税法的措置その他
行政的措置など、あらゆる角度から
地価対策と取り組んで、速急にこれが相当筋道の通った対案が出されなければなるまいと
考えております。
第四の問題は、
補償問題であります。
補償は過小であることは許されず、また過大であることも許されません。もちろんごね得は許されるべきでありません。さりとて、切り捨てごめん的な権力の圧力によって正当な
補償をしないということは、とんでもないことであります。かかる
意味におきまして、特に最近は社会、経済が、二重構造の結果、非常にいびつになっておりますので、
生活の環境も人によってまちまちであります。したがいまして、
生活権の保護というようなことも、より一そう慎重な態度をもって
補償問題と取り組んでいかねばなりません。
補償に関する基準の閣議決定等も拝見しましたし、御説明も聞きましたけれども、抽象文句でありまして、なかなか処方せんをもって投薬するというような適切なものではございません。また、機械的に処方せんをもってすることが適当かどうかも問題です。事さほどに重要でありますので、
補償問題につきましては、特に国民
生活の重要な角度に立って、取る者の側ではなしに、取られる立場に立って、一そう深甚なる配慮をしながら、また他面、国民の税金を使うべき
公共事業が大部分でございますので、これらの角度から、
補償の適正なる執行を期待してやみません。
第五の問題は、
公共事業を執行する上におきまして、とかく大部会に偏重するきらいがまざまざと見えます。これは大都会に富が集中するのみならず、財政の配分につきましても、東京都、大阪市などにかなり偏重しておることが
現実に見えておりますが、これが勢い
補償が過大になるという傾向をさらに誘発いたしますので、大都会偏重の
公共事業、また
補償問題の扱い方につきましても、一段のくふうがなければなるまい、こう
考えるのであります。
それから、第六番目には、いまの代行裁決権の問題でございまして、建設
大臣が代行裁決することは収用
委員会の独自性の侵害という疑いが生じます。やはりこの場合、収用
委員会は独立の機関といたしまして、事業者の立場にも立たず、さりとて被収用者の立場にも立たず、公正適切に収用
委員会の決定をなし、裁決をなすのがその使命である。でありますので、これを建設
大臣が代行するということは、何としてもふに落ちないのでございます。この点につきましては、事態のいろいろの複雑なのにかんがみまして、事情はある
程度了といたしますけれども、その行使は厳に慎重を期すべきであることを強く要請せざるを得ないのでございます。
第七番目には、新たに海底もしくは水面の埋め立て等に伴いまして、漁業権が
補償の対象になって浮かび出ました。これは当然なことでございますが、この点も、漁業権とはいわないが、いわゆる知事並びに
大臣の許可漁業がございます。この点、当
委員会でも明らかになりましたけれども、
全国の沿岸漁業者といたしましては、むしろこの許可漁業の権利義務の
関係こそ重要でございますので、この施行にあたりまして、これらの点について一段と慎重を期し、万遺憾なく
補償をなすことを強く期待せざるを得ないのであります。
以上数点にわたりまして、私は、本案の持っております欠陥、またこの運営いかんによっての違憲性、本質的な問題点等を
指摘したのでございますが、いずれにいたしましても、現状の各種
公共事業の遂行の途上、いまの
土地収用制度を、相当妥当な客観性のある手続の簡素化ないしは適正化というものが必要であるという概論的なことは、万人大体一致するところでございますので、完全な
改正ではありませんけれども、私は、将来に
法律と制度のより完ぺきを期し、最善の姿にすることを期待いたしまして、本案に賛成するものであります。