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金澤参考人 このたびの
河川法につきまして、その
改正の
特色のあらましを申し上げ、それに関連して、
問題点を若干指摘さしていただきたいと思います。
第一の
特色は、ただいま
田上先生からも
お話がございましたように、
現行河川法の
三条の「
河川並其ノ
敷地若
ハ流水ハ私権ノ
目的トナルコトヲ得ス」という
規定を削りまして、
法案の二条で「
河川は、
公共用物であって、」という
表現になっているわけであります。この点は従来も
解釈上の問題があった点でございますが、
現行法によりますと、たとえば
河川敷あるいは
河川管理施設の
敷地というようなものが、たとい
私的所有権が認められておるものであっても、そのままで
管理できるという実際上に即した便宜が出てくるわけで、
現行法に対して、
改正法案はすぐれているということが言えると思います。
第二の
特色は、
水系主義の
考え方を取り入れようとしている点であります。
一級河川、二級
河川の
指定は
水系ごとについて行なうということになっておりまして、これは
現行法が
区間主義であるのに対して
水系主義である。
つまり河口から水源までできるだけ一貫的な
管理をするというたてまえに変わってきたということが言えるのではないかと思います。もちろん
改正法案におきましても、
一級河川について
指定区間というのがございまして、この
指定区間の間のものについては、
都道府県知事に
管理の一部を行なわせることができるということがございますし、また
一級河川の
指定におきましても、これはその
区間を明らかにするというわけで、
河口から最
上流部まで一貫して
一級河川であるということではないかもしれないのでありますが、しかし少なくとも
水系主義的な
考え方が
現行法に比べてはっきりと出てきておる。これはまさに水の
実態に即した有効な
河川管理の
やり方として適当な方法であろうと思います。ただそこで問題になりますのは、
水系主義ということがすぐれてよいといわれているゆえんのものは、一体として
計画性を持たせて
管理していくということではないかと思うのであります。
つまり水資源の
保全、
開発、
利用についての全般的な有機的な
計画性ということが必要であるということが今日
一般にいわれているわけでございますが、そのためであるということが考えられます。
ところで、この点について考えてみますと、
改正法案は、必ずしもそういった水の
利用、
保全についての総合的な
計画性をうたってはおらないように思われます。もっとも
工事実施の
段階につきましては、
工事実施基本計画というのが定められることになっておるのでありまして、十六条でございますが、この点は、この前の国会でこれが修正されまして、その前は
工事実施基本事項ということであったのですが、これが修正されまして
基本計画ということになりまして、同時に
水害発生の
状況並びに
水資源の
利用の現況及び
開発を考慮し、かつ
国土総合開発計画との
調整をはかって、その
基本計画を定めるといったような
表現がつけ加わりましたことは、確かに
計画性を持たせるという
意味で、一歩前進したものといえると思います。しかしこれも
河川工事ということに限定されているのでありまして、またそれは
実施の
段階に関連する
計画性であります。そこでさらにそのもう
一つ上の
工事、総合的な
治水と
利水との
調整の問題、あるいは
利水相互間の
調整の問題というような
意味での総合的な
計画性というのは、
法律上は一体どこで確保されるのか、これが私の
一つの疑問であります。もちろん
水資源開発促進法というのが御
承知のようにできておりまして、これが
指定水系について
基本計画を定めてやっていく。淀川、琵琶湖、利根川について、すでに
基本計画もできております。だからこれにまかせておけばいいではないかということも考えられるのでございますが、ただそこでちょっと疑問になりますのは、
水資源開発促進法のほうは、いわば
利水面からのアプローチに
重点を置いているのでありまして、御
承知のように、「産業の
開発又は発展及び
都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保するため、」云々ということになっているわけです。そこで
治水、
利水の両面をにらみ合わせ、そしてまた
利水相互間の
関係をにらみ合わせて、全般的な
水系についての
計画を一体どこが立てるのかということになりますと、今度の
改正法案もあるいは
水資源開発促進法も、
法律制度的にはこたえてくれないということになって、この点が
一つの
問題点、大きな
意味での
水法上の
問題点であろうかと思います。ただ、この点は、
行政機構との
関係でいろいろむずかしいことがあろうかとも思うのでございますが、その点を
一つ指摘しておきたいと思います。
次に、第三の点は、
一級河川の
管理権を
建設大臣に与えるということ、この点は、先ほど
田上先生からもこまかく
お話がございました。この点につきましては、私も
田上先生と同
意見でございまして、なるほど、
一級河川は、
法律上は、
国土保全あるいは
国民経済上特に重要な
水系について
指定するということになっておりまするが、まずその数
都府県にまたがる、あるいは数
都府県に
利害関係のある
河川——このごろは
水系の変更というようなこともございますし、必ずしも数
府県にまたがらなくてもよい。あるいは数
府県に
利害関係のある
河川、
水系については、
一級河川として
建設大臣に
管理権を持たせるということが今日の実情から見まして有効である、その
必要性が多いということは確かに言えると思います。しかし、ただその
都道府県に限っている川ということになりますと、これはあるいはむしろ
知事が
管理するほうが望ましい。
河川は
地元住民の水の
行政に非常に密接な
関係があるわけでありまして、そういう水の
行政は、他の
行政との関連もございますし、そういうものを総合的に勘案してやっていく立場ということになりますと、これはやはり
知事ということが好ましい地位にあるものということが言えるのではないかと思います。ただ、
改正法案では、
関係都道府県に対する考慮がかなり払われているのでありまして、たとえば
一級河川の
指定であるとか、
指定区間の
指定であるとか、
河川管理施設の
操作規則であるとか、そういうようなものについて、
知事の
意見を聞くというたてまえをとっておりますので、この運営のよろしきを得れば、その
地元関係都道府県の意向を十分に反映した
中央官庁の
行政が行なわれるということも期待されようかと思います。
第四の
特色は、
河川管理に関する
規定を整理したことであります。たとえば
河川工事につきまして、
工事実施基本計画、先ほど申しましたそういうものを定めるということにいたしますとか、あるいは
河川の
使用につきまして、
水利調整規定を新たに設けた、あるいはダムに関する
規定を設けたというような点であります。これらは、
現行河川法が
相当の
部分を
省令以下に譲っておりますものを、かなり
法律事項として、現在の新
憲法下の
立法としてふさわしいような形で打ち出してきたということにおいては、はるかにすぐれた点かと思います。ただ
問題点は、
利水面での
規制を見ますと、これは非常に大まかである、
考え方によれば、
現行河川法の
横すべりといった
感じを受けるのであります。もちろんその
水利調整につきましては
規定が設けられまして、これは確かに一歩前進であると思われるのでありますけれども、その他の点につきましては、たとえば二十
三条以下なんかを見ますと、
現行河川法の
横すべりという
感じを受けます。この点については、現在の
水利用の
高度化というような
実態に即応して考えてみましたときに、もう少し
利水面での
規定をきめこまかくやる必要があろうかという
感じがいたします。
水利権についての
規定も、何もございませんし、もちろんこれは
解釈上、
法案の二十
三条によって
流水を
占用した者が
水利権を持つということになろうかと思いますけれども、しかし、
水利権ということが
一般にいわれながら、他の
法律ではちょくちょく
水利権という
ことばが出ますけれども、肝心の
河川法そのものではそういう
ことばも何もないということなのであります。この辺は
立法技術として非常にむずかしい問題かと思いますけれども、理想的な
水法というものを考えた場合には、そういった面のきめこまかな
規定が必要かと思います。また水の
利用と申しましても、いろいろの形態の
利用があるのでありまして、
一級河川の
管理権を
建設大臣が持つといたしましても、そのすべての
管理権を
建設大臣が持つということがはたして望ましいかどうかということにも、若干の疑問があるわけでありまして、水の
利用のしかたが、水の
使用、
水そのものの消費ということに
関係のない非常に軽微なものについては、たとえ
一級河川であったとしても、いわば
一級河川の
指定区間ということにおいて、地理的に
一定の
区間の権限を
知事に委任するという
やり方は、この
法案でも出ているのですけれども、
水利用に関して、事項的に、
一定のものは
知事にまかすというようなことも考えられるのではないかと思います。それから
水利調整に関する
規定でありますが、これも、
許可を与えるに際しましての
調整なのでありますが、実際問題といたしましては、
許可を与えるときということもそれはありますけれども、渇水時が生じた場合に、その
水利権相互間の
調整をどうするかということが重要なのであります。この点につきましては、緊急時の措置といたしまして、
法案の五十
三条に、「渇水時における
水利使用の
調整」の
規定がございますが、これによりますと、
河川管理者が最終的にはあっせん調停することになっております。これははたしてあっせん調停というような
段階でとどまっていいかどうかというのが
一つの
問題点かと思います。もっともこのような場合には、先ほど
田上先生からも
お話がございました監督処分権、七十五条二項五号の発動によりまして
調整するということが考えられます。しかし特に緊急措置として、何らかの処分権は明確にしておく必要があるのではないかということを思います。
それから第五に、
河川費用の
負担でございますが、この点につきましては、私はこういうふうに考えております。最初、
河川法案の立案過程においてわれわれ耳にいたしました限りでは、
一級河川は国のまるがかえである、
つまり先ほど
田上先生がおっしゃいましたように、国が
管理するものはすべて国の費用でやるのだという
考え方、しかし
現行法においては、
一級河川であっても二分の一、改良
工事の場合には三分の一、昭和四十四年度まででございましたか、は、四分の三というものが
都道府県の
負担になるということであります。ただこの問題は、
管理権をどっちが持つからその
負担がどっちにいくというような、必ずしも論理必然的な結びつきはないものと考えてよいのではないか。
負担をどのように分配するかということについては、またおのずから財政面から考えていかなければならない問題があり、政策的な考慮がそこに働く
余地が十分にあると思います。したがって、現在のように
地方公共団体の財政が非常に逼迫しているというような事態におきましては、できるだけ国がめんどうを見てやることが望ましいのではないかと思うのであります。この点については、何も
一級河川、二級
河川だけでなしに、むしろ今日中小
河川が非常に問題になっているのでありまして、中小
河川については、
地方公共団体では何ともやれないというような事情であるとすれば、これは
地方財政の再建の問題を根本的に考えていくか、あるいはそれが十分できない場合には、国の補助ということも考えてよいのではないかと思います。
以上、大体
法案の
特色に応じて、それぞれ
問題点を申し述べたのでありますが、なお若干こまかい問題について申し上げておきたいと思うのであります。
その
一つは、六条の
河川の
区域ということでありますが、この
区域は、六条に示されているようなものが
区域になるわけです。ところで、この中で特に明確なのは、
河川管理施設の
敷地、堤外の土地であって
河川管理者が
指定した
区域ということでありますが、一号は非常に自然の状態にまかせられた判断になるわけであります。そういうことでいいという
考え方もあろうかと思うのでありますが、ただ最近のわが国の
河川は、自然
河川というよりも、非常に人工
河川になってきておる。そういう場合に、この一号の判断ということが、実際問題として問題が生ずるおそれがあろうということを懸念するわけであります。特に
流水の中にもし伏
流水を含むということになりますと、伏
流水を含むという
考え方は——外国の
立法では、伏
流水はほとんど地表水と同じ取り扱いをしているわけであります。そういうことになりますと、第一号に当たる
河川区域というものがどの状態であるかということがなかなかわかりにくいということも生じてくるのではないか。そこで、それが二十六条、二十七条あたりの工作物の新築の
許可であるとか土地の掘さくということをやる場合に、そこがはたして
河川区域なのかどうかということの判定がむずかしいという問題も生ずる懸念があるのではないかと思うのであります。こういう場合には、あるいは
河川区域というものは、何らかの形で明らかにして
指定しておくことが必要ではないかということが
一つの問題であります。
それから十五条でありますが、他の
河川管理者との協議について定められております。この場合に、「
河川に著しい影響を及ぼすおそれがあると認められるときは、
河川管理者は、あらかじめ、当該他の
河川管理者に協議しなければならない。」ということになるわけなんですが、一体この著しい影響の判断はだれがするのか、その当該
河川管理者にまかせておいてよいかどうかということが
一つの問題であります。
それから二十一条、「
工事の施行に伴う損失の補償」でございますが、この
規定が新たに設けられたことにつきましては、私たいへん賛成なのであります。ただ、その二項で「損失の補償は、
河川工事の完了の日から一年を経過した後においては、請求することができない。」という
規定がございます。この損失補償の
規定は、御
承知のように、
現行道路法の
規定をそのまま持ってきておる。
道路法七十条でありますが、それをそのまま持ってきたものであるといってよい。ところが
道路法の場合には、
道路工事が完了した日から一年を経過した後には損失の補償を請求することができないというふうに
規定いたしましても、これは差しつかえないのでありますが、
河川の場合には
道路と違うのでありまして、
一つの
工事が行なわれますと水は動くのでありますから、その
工事に伴ういろいろの
状況がその後生じてくる。はなはだしきに至っては、二年、三年後にそういう事態を発生してくることがあるのであります。ですからただ形式的に、
道路法の
規定があるからそれを
河川法にもそのまま持ってくるということでは、
実態に合わないと思うのであります。ですから、できればこの一年とするという期間は何とか考えていただきたい。取り除くか何か考えていただければいいのではないかと思います。
それから三十八条、三十九条でございます。これは
水利調整の場合に、
関係河川使用者の
意見の申し立てができるということになっておるのでありますが、こちらのほうにはむしろ申し立ての期間を定める必要があるのではないか。そうしませんと、なかなか申し立ててこないで、あとからおれは
意見があるとかなんとかいうことになりますと、なかなか
水利使用の
許可というものができない、支障を来たすおそれがあるのではないかという
感じでございます。
以上、たいへんお粗末でございましたけれども、私の
意見を終わります。(拍手)