○帆足
委員 きわめて短い時間でありますけれども、貴重な時間ですし、また
外務大臣が御在席の時間でありますから、この機会を活用いたしまして、
国民のだれしもが聞きたいと思っております二、三のことについてお尋ねしたいと
思います。なお、台湾問題及び日韓会談の今後の動向等についても伺いたいことが山積いたしておるのでございますが、これらの問題は与野党ともにきわめて重要な問題と
考えておりますから、いずれ系統的に質疑を続けることにいたしまして、本日はとりあえず、昨今新聞で伝えられております
アメリカ上院
外交委員長フルブライト氏の談話につきまして、
大臣の所見を伺いたいと
思います。
世界の情勢は一刻の休みもなく変化しつつあるわけでございまして、その変化の方向は、眼光紙背に徹して、その背後の諸問題を十分資料によって把握すれば、およその見当は私はつくと思うのでございます。およその見当をつけるその最高のものは何でありましょうか。
人類の歴史を動かします最高の力は、人間の生きようとする力、生産力である。生産力の中で私どもが最も最近注目すべきものは、何としても技術の発展であると
思います。
ジェームズ・ワットの蒸気機関車の発明が自由・平等・博愛というスローガンを現実の日程にのぼせ、ペルリの四隻の黒船がアジアの孤立した島に明治維新という
一つの民主革命をもたらしたと同じように、今日の時代は、やはり、原子力すなわち原爆、ロケット、人工衛星、電子工学等を中心として大きく動いているのでございまして、この大きな歴史の流れから見るならば、昨今行なわれておる
日本の政界の閥族の争いのごときは、もって取るに足らぬ蝸牛角上の争いと私は見ておる次第でございます。原子力とロケットの発達は、世界の戦略を変えるのみか、戦争そのものの概念を変えようとしておることは、御承知のとおりであります。また、地球も小さくなってしまいました。また、かつては、社会主義といえば鬼か蛇のように
考えられ、共産主義者といえば銀座街頭を五分間散歩しただけで直ちに逮捕されたものです。それがわずか二十五年前のことだと思うと、感概無量でございます。
また、世界
各国に絶対王制が長い間支配しておりまして、朕は国家なりとまで言われたその残渣は至るところにあったのでございますけれども、いまではカンボジアからエチオピアの王さままで民主化され、
日本の天皇政治もいまでは人間的・
国民的象徴というふうに実質的にその歴史的意義が変わってきました。思えば夢見るような世界の変化でございます。
したがいまして、共産主義の世界を不倶戴天の敵と
考えていたダレスは、中共兵に殺されたのでもなく、ソ連から攻撃を受けたのでもなく、ガンによって死んでしまいました。むしろガンや高血圧のほうが人類の共通の敵でありまして、
外務大臣といたしましても、われわれといたしましても、五十の年代になれば、われわれの敵は共産主義でもなく、また中共兵でもなく、むしろガンと高血圧、これが諸君の直接の敵である。ダレスは断じて中共兵に殺されたのではなくて、ガンに殺されたのです。したがって、これら人類の敵に対する防衛が最も必要なのであって、共産主義の国はもはや人口十億をこえております。極度に貧しい国に暴力革命がときとして起こる。これは別に共産主義に限ったことではなくて、ジョージ・ワシントンの暴力革命、マッカーサー元帥も
日本において暴力革命を起こして地主から土地を奪い、そして彼は東条さんを縛り首にし、近衛さんを青酸カリ自殺にまで追い込め、そして彼自身もまた、ソ連兵に殺されたのではなくして、何で死にましたか、診断書に書いてある病名をもってなくなりました。
私は、外務
委員会の権威において、われわれがそういう時代に住んでいるということを深く
外務大臣の大脳に印象づけたい、こう思って申し上げているわけです。われわれはそういう時代に住んでおるから、したがって、ものごとに対する価値判断はどんどん変わっていく。単に変わるだけでなく、より理性的になり、より聡明になり、より現実を見る目が深くなっていく。
思えば、十二年前に、私は戦後
最初の
日本人としてモスクワ、北京を訪問し、
最初にスターリンに会いました。いまスターリンに会った同僚政治家諸君は一人もいないでしょう。その点において私はもはや一種の天然記念物でありますから、その天然記念物を落選さしてはならぬといつも申しておる次第でありますけれども、わずか十二年です。あの十二年前のことを思ってみても、あのときは
外務省は腰を抜かさんばかりに驚いた。いまではモスクワを訪問し中国を訪問するがごときは何でもない平凡なことです。
かつて回教徒とキリスト教徒とが数十年にわたって血の争いをした時代がありました。信条の
相違のゆえをもって血で血を洗うということは、ロミオ家とジュリエット家との仲たがい以上に不合理なことであります。今日社会主義の社会がとにかく人口十億をこしておる。もうこれが倒れることはないでしょう。それはそれなりの道を通じて生産力を発展せしめ、生産が発展すれば生活が豊かになる。生活が豊かになれば心が豊かになる。心が豊かになれば人は寛容になる。したがって、すでにソビエトが示しておりますように、社会主義社会にも雪解けが起こっておるることは皆さんの御承知のとおりです。資本主義社会におきましても、民衆が自覚してくるにつれまして、福祉国家ということばがだんだん常識化されつつある。私は、
日本の保守政党がわが社会党とほとんどもう同じ程度の政策になるように望んでおります。選挙のときに聞いてみると同じようなことを言っておるのですが、実行なさることはまだそこに至ってない。(「ストの問題はどうか」と叫ぶ者あり)ストの問題はどうかといえば、これは外務
委員会の所管外のことですが、これはやはりインフレ
一般に問題があると私は思うのです。
そこで、私は、ダレスの時代を
思い出していま感慨無量です。私個人といたしましても、いまから十四年前は経団連の事務
局長をし、そして植村甲午郎氏と一緒に仕事をしていた時代がありました。その時代には、当時帝国銀行、いま三井銀行の頭取の
佐藤喜一郎さんが新年の年頭の辞をラジオで述べ、一万田ローマ法皇と言われた方が同じく新年の年頭の辞をNHKで述べますときに、
日本の進むべき
外交の道は、戦争の長い体験と悲劇から学ぶことである、中立と平和の道を進もう、アジアのスイッツルたれと言ったあのことばを忘れまい、そういうような演説を当時はしておりました。朝鮮戦争が起こって突如として情勢が変わりまして、そして、
最初優位であった、
アメリカは、やがてミグ戦闘機、ジェット機があらわれまして、B29は博物館行きになり、驚くなかれ、 マッカーサー元帥は、危険な将軍として、鴨緑江を越えようとしたときにトルーマン大統領にやめさせられました。そのマッカーサー元帥もいまはなく、毎日の新聞紙上で回顧録を読んで、私はうたた感慨無量であります。ダレスの政策の全盛期に、私は経団連にとどまれなくなって辞表を出して、そしてソ連に旅行したことが縁となって、本来ならば当時の改進党にでも入るべき立場でありました私が、歴史の宿命の糸に導かれて、いまは忠実な社会党員になっておりす。この
一つのことを
思い出してみても、私はやはり感慨無量であります。
いまやそのダレスその人もなく、そしてフルブライト・
アメリカ上院
外交委員長が最近どういう演説をしたかというと、この
内容を見て私は驚いております。彼は、
米国はこれまでの神話を捨てて現実的な態度をとるべきである——これまでの神話と言っているのです。二十世紀の神話というローゼンベルクの愚かな本がありますが、
アメリカはこれまでの神話を捨てて現実的な態度をとるべきである、もし
米国が中共との
関係でもっと合理的かつ柔軟な態度をとる能力を導入することができたならば、それは
アメリカにとっても有益なことであろう、中でも最も重要なことは、二つの中国というものは実際には存在せず、あるのは
一つの中国、すなわち大陸中国であり、これは今日現実として共産主義の
制度によって支配されており、今後無期限の将来にわたってこの支配が続くものだと
考えられる、一たびわれわれが、この厳粛な現実を受け入れるならば、大陸中国と比較的正常な
関係に入るための諸条件について考慮することも可能となってくるであろう、こう述べております。さらにまた、こういうことも言っております。人は驚くほど短時日のうちに敵意を忘れ親密な友情に道を譲ることがある、
アメリカとかつてのドイツ、
日本との
関係を
考えてみても余はそのように思う、競争的共存という程度になることはあり得ないことでないし、そうなれば世界の平和のために有益なことであろう、これは社会党員たる私の議論ではないのです。
アメリカの上院
外交委員長のことばがすでにこの程度になっておるということを私は皆さんに申し上げたい。また、もし極東で緊張が緩和されるならば、大陸中国を軍備の縮小、貿易・文化・教育交流などの分野において東西間の既定の平和協定の中に引き込むことによって、世界平和を強化することもやがて可能となるかもしれない、そのほか、なおパナマの事件についてこう言っておるのです。御承知のように沖繩とパナマとは非常によく似ている条件に置かれております。沖繩には自治権がなく、人口九十六万。パナマは人口八十六万です。パナマの運河ゾーンに対しては、キャラウェーと同じような高等弁務官の機能に似た総督が専制支配しております。そのパナマが、いまや自治権の回復を要望いたしましたのに対して、御承知のように、国際連合の植民地解放宣言では、住民が自治権を回復しようとする運動に対してはいかなる弾圧も下してはならぬということをすでに決定いたしております。この国際連合の精神をも考慮したのか、フルブライト上院
外交委員長は、パナマ問題に言及して、
米国はたとえ
国内的に多少の批判が広範囲に起ころうとも、パナマ運河
条約改定でパナマ
政府と
交渉に入るべきである、こう言及し、さらに、キューバに対してこのような発言をしております。われわれはキューバに対する政策を率直に再検討する必要がある、たとえ気に食わない結論に達しようとも、現実を直視すべきである、フィデル・カストロの政権は
アメリカ政府にとって不愉快ながら、なおかつ許容できぬほど危険な存在でないということをいまや認めるべきであろう、こう言っております。人口四百万のキューバにバチスタという軍曹上がりの暴君が支配していたのを、若いフィデル・カストロが打倒した。若きがゆえに彼は急進民主主義者から社会主義者に急激に傾斜した。そのときに
アメリカが弾圧を加えたので、彼はソ連に助けを求めた。しかし、人口四百万のキューバが、どうして人口一億数千万の
アメリカに対してそれほど大きな脅威になり得るでしょうか。なり得るとしたら、それは
アメリカがすでにフィーブル・マインドになっておる証拠で、キューバのごときは何ぞおそるるに足るものでしょうか。私はこのフルブライトの議論を読みまして感慨無量でありました。そこで
大平外務大臣の所見を伺いたいという衝動を感ずることは、私は自然の情だと思う。
そこで、お尋ねいたしますが、きょうは時間が中途はんぱですから、その問題だけに限りまして
外務大臣にお尋ねいたしたいのですが、平和共存ということについて
外務大臣はどういう信念をお持ちであるか、これが私の最も伺いたいところです。
アメリカの上院議員でもかほどの転換が徐々にまた急激に起こりつつあるときに、
大平外務大臣は、ただ
アメリカの目の色をうかがうだけでなくて、その背後にある世界の大勢を御認識くだすって、そして
日本の進むべき自主的な平和の道を保守党としてもさがしていただきたい。平和共存についてどのようなお
考えか。
なお一括してお尋ねいたしておきます。台湾の国際的法的地位については、まだ申し上げたいことがたくさんありますが、一応省きまして、とにかく台湾共和国というものは存在いたしておりません。これは蒋介石もそう言っておりますし、それから毛沢東政権もそう言っておりますし、また、一九四五年でしたか、すでに
日本は台湾を放棄し、放棄された台湾の焼きイモ
一つだれも拾い手がなくて、これは蒋介石政権が接収手続をいたしました。台湾省として省長を置きまして、それを
アメリカも
イギリスも認識し、
承認いたしておるのでございます。これはもう過去において済んだ事実でございます。したがいまして、フルブライト氏の言うように、現実を直視するならば、やはり中国は
一つしかない、こういうことになると
思います。
それから、時間がありませんから、もう
一つだけお尋ねします。沖繩は
日本の領土です。そして九十六万の人口のおる領土です。この沖繩に
日本国民が互いに往来することは、私は当然の権利だと思うのです。特殊の破壊工作や何かで行く人ならば、若干の問題があるということを言う人もおるでしょうが、少なくとも通常の
国民が往来するのに、何のはばかることがあろうかと私は
思います。いわんや、国
会議員、外務
委員等が、ときとしては沖繩の風光をめで、ときとしては沖繩の住民の自治権の問題を視察しようと
考え、ときとしては沖繩美人にあこがれを持ってまいったところで、妻の許可さえあればいいことである、別に旅券課の干渉を受ける必要はなかろうと
思いますが、
外務大臣は、国
会議員がときとして沖繩を訪れる、あるいは風光をめでに参ったり、その他、昨日は沖繩という映画を超党派的に議運のお許しを得て五階でみんなして鑑賞したわけです。だれしもあの映画を見ると沖繩に行きたくなる。それを国
会議員でありかつ外務
委員である者が遠慮せねばならぬという手はないし、そういうようなことについて、万一
アメリカのほうで、外務
委員のような有力者は来てもらっては困るなどと言われたならば、それはおまえのほうが民主主義の精神を知らないものである、ファッショと誤解されるぞとさとすくらいの確固たるお
考えがあるかどうかお伺いいたしたい。
この三点についてお尋ねして、そして
あとは採決に移る。こういうことにいたしたいと
思います。