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菊池参考人 ただいまの
委員長の提起されました
種々の
問題点を頭に入れてということでございますが、非常に広範な、大きな問題でございますので、私の短い
発言ではとうていすべてを尽くせないと思いますが、さらにこまかい点は、副
理事長、
菅田理事もおられますから、また御
質問に応じ、あるいはその他の点で申し述べたいと思います。
最初におっしゃいました
原子力の
日本における
位置と
原研という非常に大きな問題でございますが、私のただいま
原研の
理事長をやっておりますそのままといいますか、率直な私の感想を申し上げるのが、
一つのこの問題の要点とは申しませんけれども、何か大事な点をついていることがあるかもしれませんと思いますので、率直に私のいま
原研の
理事長をやっております点の
感じを申し上げたいと思います。
まず第一に、
日本の
原子力の
出発の当時のこと、ちょうど七、八年前のことを
考えてみますと、まあ非常な意欲と
勇猛心をもって、短期間に諸
外国とのおくれを取り戻すというような非常な勢いをもってこれに飛び込んだわけです。まあ極端にいえば、これは猪突というと申し過ぎかもしれませんけれども、ずいぶん思い切った
決心で飛び込まれたというふうに私は
感じます。
当時、私は
学界の側におりまして、
学界の側は、これはかなり批判的であり、消極的であった。私も
学界の側にありましたのですが、
原子力のような事業が当時の
学界のような消極的な
——消極的と申すと語弊があるかもしれませんが、非常に用心深い態度だけでは、
原子力というものはとても
日本には芽ばえまいというふうには
考えておりました。したがって、私も当時
原子力委員会の
参与等をいたしておりましたが、
出発後にも、私は
学界としてできるだけこれに
協力してやっていく
考え方をとってやってまいりましたのですが、とにかく非常な
決心と
勇猛心をもって
開発に飛び込んだという
状態でございました。
それから約八年ばかりたって、現在の
原研というものが置かれている
状態といいますのは、私は決して
弱音を吐こうとは思いませんけれども、これを
戦争にたとえるならば、非常な
決心でもってある
部隊を送り出した。それで、非常な
苦戦をしている。それに対してあとから
兵たん部も
補給部隊もどんどん来ればいいのでありますが、これがなかなかおくれていて、来ない、前線に取り残されて非常に
苦戦をしておる、そういう
感じを私は率直に申して持っております。これは決して私の
弱音ではありませんが、事実そういうことになっていると思います。それで、いろんな労務問題、その他の
関連も、こういった非常な
苦戦の
状態になりますと、いろいろな
意味で
士気も乱れます。こういう場合に、
士気をまとめ、秩序を保って整然とやるということは非常な努力が要る
仕事でございます。そういうふうな場合になれば、いろいろな
士気も乱れるでありましょうし、
戦争の場合ならばスパイが入り込むという余地もできましょうし、いろんな問題がそこに起きるわけでございます。
ですから、私はこの
原研の問題を他に押しつけようとは決して思いませんけれども、そういった
日本全体としての
原子力の
開発という観点からこの
原研の立場を十分に見ていただいて、そして、
原子力政策というものをはっきり立てていただいて、この際
戦線を縮小するとか、あるいは
補給部隊をどんどん送るとか、そういったような
措置をここで十分とらなければ、せっかく飛び出していった
先発隊が見殺しになるという事態も起こりかねないということを私はここに申し上げたいのであります。
それで、それはただ私の非常に一般的な
感じを申し上げたのでありますが、もう少しそれを秩序立てて申し上げるならば、確かに
日本には
原子力委員会というものがございまして、これが
原子力の
政策をきめてまいります。現在
原子力の
開発に関する
長期計画という毛のもできております。私は何もそれ
自体についていまここでとやこう言う筋のものでもございませんし、それ
自体は整然とした
一つの
政策として出ております。しかし、かなりそれが抽象的なものでありまして、必ずしもあまり具体的にはなっておりません。それから、そういう
原子力政策を遂行するためには、必ずそれに伴ういろんな
予算的、あるいは人員的な
裏づけが必要になります。それで、私の一番
感じますのは、
原子力政策を立てるということと、それに伴うそれの
実行計画の具体的な樹立、これが必要だと思います。
実行計画と申しますのは、金と人の問題でございます。これを現在のごとく
——これはまた国のいろんな
予算組織の
基本に触れますことでありますから、私がいまここで申し上げてもどうなるものとも思いませんけれども、
原子力研究のような息の長い
仕事をするためには、どう見ましても、一年ごとの
概算要求の提出、それの切った張ったといった
やり方、これでは大きな
計画の立てようがございません。諸
外国のいろんな例を見ましても、いまの
日本のような
予算の
やり方で
原子力の
開発をやっている国はないといっていいと私は思います。少なくとも向こう三年くらいにわたってのはっきりした
予算と人の
裏づけというものがないことには、こういった
仕事はできないといわざるを得ないと思います。これは必ずしも
原子力だけの問題ではないと思います。
日本全体としてのいろいろなこういった
技術的な
開発という問題は、みなすべてこういった問題がからんでいるのでありまして、私は何も
原子力だけに
時別な
措置をしなければいかぬというところまでは言っているわけではございませんが、
日本の将来のエネルギー問題として
原子力のことを非常に重要視されるならば、少なくとも
原子力について何かそういった考慮がしていただけないと非常にむずかしいということを感ずるのであります。これは決して
弱音とか泣き言を申すつもりはないのでございますけれども、四年間ばかり
原研の
仕事をやってまいりまして、つくづく感ずるところであります。もちろん
原子力委員会ともたびたびそういう話はいたしますし、
原子力委員会としても十分その点は
考えて、いろいろやっていてくださいます。しかし、これは単に
原子力委員会とか
原子力局とかだけの問題ではございませんで、
日本全体のいろいろな面の
あり方に
関連することだと思います。そういったことが私はこの
原子力をやっていく上の
基本に大きな問題としてあるということを申し上げたいのであります。しかし、そういうことばかり申し上げていたのでは、決して実際にはものは進みませんので、私は私なりにいまのできる範囲内での
仕事を進めつつあるということでございます。したがって、その面でこまかい面についてはいろいろなこまかい問題が出てまいります。いま申しましたような
基本的な問題と
原研が持っておるいろいろな問題とは、あらゆる面で非常に密接な
関連を持っている問題だと私は思っております。
大局的な話はそのくらいにしまして、いま少し
原研の
現状を申しますと、主として
原研について、炉ばかりつくっているとか、
仕事を、
間口を広げているとか、いろいろな
非難がございます。御承知のように、
原研には現在JRR1、2、3、4と
四つ研究炉がございまして、そのほかに
動力試験炉JPDRがございます。それから、それに伴っていろいろ大きな
研究設備としてはホット・ラボであるとか、あるいは再
処理試験場であるとか、それからまた最近は
RI製造工場もどんどんできつつあります。こういうように非常に大きな
施設ができつつある。こういったものが、一部の
——一部とは申しませんが、非常に
間口を広げているという
非難もございますけれども、少なくとも
原子力を今後
日本がやっていく上には相当しっかりした
ファウンデーションが必要なんでありまして、これらのものが今後の
日本の
原子力の
発展のための
ファウンデーションにとっては必要欠くべからざるものであろうと私は信じております。おのおのの炉について、これはこういう
目的である、ああいう
目的であるということを申し上げるのは非常にこまかくなりますから、省かしていただきます。
それから、それでは今後こういう
ファウンデーションの上にどういった
仕事をやるのか、今後の問題、
原研の
開発の
目標をどういうところへ置いていったらいいかということであります。これがいまの
原子力の
政策とも密接に
関係してくることでございまして、いま
原研としてこれだけはやっていこうと思っていることで、はっきりしておりますことは、第一番目は、まずいわゆる
プルーブン・タイプといいますか、現在欧米でもう十分
開発された炉で、近い将来
日本にどんどん導入されてくるであろうという、これは
産業界を通じて、
電力業界を通じて入ってくるであろうという炉型で、主としてこれはイギリスのコルダーホール、これはもう
建設もなかば以上進んでおります。それから、二
号炉としては、おそらく
アメリカ式の
軽水炉が入るであろう、将来ともこの
軽水炉型は相当な数が入ってくるであろう。そういうようなことを
目標といたしまして、こういったものに対する、たとえば今後はこれがだんだん
国産化されていくことが当然
考えられる。そのための
国産化、それから
国産に伴って、これはただ前のものをまねしてつくるだけではなく、いずれその
部分、
部分でありましょうが、改良しつつ
国産していくでありましょう。そういったことに対する寄与、これを
一つの
原研の重要な
目標に
考えております。
それから、さらに非常に遠い将来を見ましたときに、
原子力の将来が
高速増殖炉に置かれているということ、これはいま
各国とも共通な
目標であります。この
高速増殖炉というものが完成いたしませんと、
原子力というものの
開発をやる意義というものが非常に減殺されます。しかも
プルトニウムの
利用であるとかトリウムの
利用であるとかいう面を
考えていきますと、
増殖炉の
開発ということは
原子力の
開発上不可欠のものであるといってもいいと思います。もっとも、
カナダの例の
——カナダは
天然ウラン重水型のあれに熱中しているのですが、
カナダのある学者は
高速増殖炉は要らぬということを書っておりますけれども、それは
一つの説でありまして、一般に
各国ともこの
高速増殖炉の
必要性はだれもが認めております。
開発の
段階もまだそう非常に進んだ
段階ではございません。これにはいろいろむずかしい
技術がございますので、われわれとしても、
高速増殖炉の問題はいつまでもこれを追究していき、でき得るならばやはりここにある程度の
実験炉の
建設を
目標に、これを追究していきたいということを
考えております。しかし、これはまだ
実験炉の
計画は
原子力委員会においてオーソライズされているのではございません。われわれとしては、それに必要な
設計研究であるとか、あるいは
部分的な
技術の
開発を進めていくということは
考えています。
それからもう
一つは、いわゆる二年ばかり前から出始めました
国産動力炉の
開発をひとつやる。これは遠い将来を
考えますと、
高速増殖炉一本ではこれに必要な
プルトニウムの
資源をどこからか持ってこなければならぬ。その
資源を持ってくるために別の
タイプの、いわゆる
コンバーター・
タイプの炉が必要になってまいります。そういう
タイプの炉型とパラに進めていくということが、今後三十年、五十年、あるいは百年にわたっての
原子力発電所の
あり方であるという
考え方から、この
高速増殖炉のほかに、もう
一ついわゆる
コンバーター・
タイプの炉というものの
開発をやるべきであろう。こういう炉ももちろん諸
外国でいろいろな
タイプの炉がすでに
開発されつつあります。したがって、
日本としては非常に特殊な
考え方から、ほかの国にないようなそういうものをやろうといたしましても、これはもうちょっと不可能であります。したがって、
各国ですでに
開発には手をかけておるけれども、その中でも特に
日本にとってこういう
種類のものが非常に重要であろうと思われるものを取り上げて、今後の
国産動力炉の炉として取り上げていこうということが
原子力委員会の
考え方でありまして、その部会で
決定されたのがいわゆる
重水炉、
天然ウランを
基調とした
重水炉ということになっております。これはたいへん当を得た
選択であると私は思っております。というのは、
重水炉が選ばれた
意味は、
天然ウランを
基調とするというところにございまして、それにこういう大きな
エネルギー資源の問題でありますから、
日本として
アメリカの
濃縮ウランにたよるということはもちろん悪いわけではありません、これは十分それでいいのでありますけれども、しかし、単にその
濃縮ウランだけにたよっていくということは、いわゆる
資源確保の
安定性という面から申しまして、やはり欠けるところがあろう。したがって、
日本の
電力の大きなパーセンテージをやはり
濃縮ウラン型と
天然ウラン型と分けて受け持つべきであろうというのが、これは私個人の持論になりますが、そういう
考え方から、この
重水炉の
選択というものは非常に当を得ていると思うのです。
現在、それでは
重水炉でどういう型をやるかということについていろいろ
検討中でありまして、その型の
決定が本年中になされる予定で、いろいろ
調査団の派遣その他をやってまいりまして、これは
外国の情勢をすっかり
調査いたしまして、いまそれを
検討中でございます。しかし、この型をきめるということは将来の
原研の
仕事として非常に重大なものであり、どうしてそういう型をきめるのかというフィロソフィーがはっきりしないとまた中途でいろいろ問題が起こりますので、その
決定はできるだけ慎重にしたいと思って、いま
検討中でございます。これが
決定されれば、そういった
意味の
国産動力炉と
増殖炉の
開発、それから
最初に申しました
プルーブン・タイプの炉の
国産化、改良、そういったことを
原研の
開発の
主要目的としてやっていきたい、かように
考えているわけでございます。
それらの
仕事を進める上に、われわれとして現在持っておりますような
施設というものは決してむだにはならない。それから、三十九年度から
材料試験炉の
建設が、
予算がきまれば始めることになっておりますが、こういうことがすべてこういうことの
研究に生きていくということは十分信じております。
ただ、しかし、いま申しましたようなことを進めるにつきましても、これは決して簡単なことではございません。相当の金と人がそこにつぎ込まれなければできないということになりまして、それが前にも申しましたような、主として国の
予算制度の
あり方とかいう面に非常に強く影響されてまいります。われわれとしては、よく
カナダの例が出されますが、
カナダの
チョークリバー、オンタリオその他の
研究所でやられておる人の数などを見ますと、
日本の
原子力に従事している人の数、つまり
原研だけでなしに、その他メーカー・グループを含めて
考えましたならば、
原子力に従事している人間の数はそう違うわけではありません。金の面にいたしましても、それほど違っているわけではありません。しかし、
カナダでなぜあれだけ
重水炉だけに集中してすべてのことができるかということを
考えますと、第一に、国が
重水炉以外は使う方針をとっておりません。
外国から
濃縮ウラン型のものを入れようという
考えは持っておりません。
重水炉一本です。もちろん
カナダには
天然ウランが豊富にあるという面もございますが、しかし、それでいわゆる
天然ウランを
重水型で燃していけば、その中でできた
プルトニウム自体を燃していけば、これは
高速増殖炉さえも要らないのだという徹底した
考え方、それ一本に、
政府の
考え方から
電力界の
考え方から、何から何までそれ
一つに限られているわけであります。したがって、
研究所としてもそれ以外のものを取り上げるという必要もないわけで、そこに集中してそれが行なわれるわけであります。
日本におきましても
原研の人の数はあれだけいるから、これをどこかに集中したらいいじゃないかということをどなたも申されますが、どこへ集中するのかということになりますと、
原研だけの
考え方で集中してみても、それが
産業界あるいは他から見て、これがいれられなければ
意味がないことであります。したがって、
政府、
産業界その他がほんとうに
一つになってできる
目標がそこに樹立されるならば、それに従って
原研がそれに集中するということは、いともやすいことだと思っております。そのほかの
部分はあまり見られないで、ただ
原研だけを見て、
原研がバラバラになっている、
戦線が広過ぎるというような御批判だけを受けましても、われわれとしてはちょっと納得できないわけであります。もちろん、われわれ自身として
考えなければならぬ点が多々あることは
考えております。ですから、われわれとしましては、いま申しました
高速増殖炉の問題と、それから
国産動力炉の問題、それから
プルーブン・タイプ、とのことだけに将来できるだけ限って進めたいということで、所内の整備、いろいろな
基礎研究等、こういった
開発研究の配分の
あり方その他については、いろいろと
検討もし、それをやっていきたいと思っております。しかし、それにしましても、これだけの
業務量にいたしましても、
予算の面はとにかくとしても、いまのところ人員の面でわれわれとしてはまだ不足があるというふうに
考えております。
以上が、
委員長が提起されました一番
最初の、
原子力の
日本における
位置と
原研という問題のうちにすべて含まれていることと思いますが、同時にまた、そのあとにおっしゃいました
種々の問題にもそれぞれ
関連のあることになっておると思いますので、一応私の話はこの辺で打ち切りまして、また御
質問によりまして
考えを申し上げたいと思います。
どうも長いこと失礼いたしました。