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大和与一君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、昨日、本院において行なわれました
池田総理の
所信表明に対し、若干の質問をいたします。
二人のK、すなわち、故
ケネディとフルシチョフは、世界じゅうの人民の協力を得て、平和への努力を続けてまいりました。一人のKがこつ然と一青年の凶弾に倒れて、一瞬、世界を恐怖と不安のどん底に投げ込みました。
民主主義の
先輩アメリカに夢中になっていた人も、どこの国でも、よいこともあり、悪いことあり、同じだと達観していた人も、マッカーサーから十四才の小僧と言われて、なにをこのやろうと怒った人も、故
ケネディ大統領の不慮の死に際しては、ひとしく哀悼の誠をささげました。その後、世界の国の
指導者の良識と人民の協力によって、再び平和への歯車は静かに回り出したと信ずるものであります。
アメリカ的民主主義と豊かな生活の限りない物量に目をみはっていた
人たちは、この繁栄の中に、
物質文明の不均衡と矛盾と毒素が、なお幾らでも含まれていることに幻滅の悲哀を感じました。うっかり裸で飛びつくと、やけどをすることも教えられました。信じられないほどけしからぬ
人間差別が、白昼公然と法律によって実施されていたり、貧乏人なんていないのかと思うと、繁栄の陰に、多くの貧民が不平等に泣き、悪の温床が生まれ、
凶器携行の暗黒街が現存する事実、病根の深さに触れて、
アメリカ国民必ずしも幸福にあらずと感ずるのであります。
フロンティア精神に焼きを入れてたたき直すのだと叫んだ故
ケネディのニュー・
フロンティア・スピリットの旗じるしの意味と真意がわかりました。われわれは、無条件に
アメリカ民主主義と繁栄の道に追随する必要は毫厘もないのであります。日米間の一切の交渉、折衝は、
友好関係を限度として、自主的に、き然として、今後も続けられるものと信じます。
この際、
池田総理にお伺いしますが、
日米外交路線の基調、特に、日本の
自主的立場に立って御答弁をいただきたいのであります。
わが国においても、一部の国民は豊かな生活をいたしておりますが、政府の責任ある発表によっても、なおボーダーラインの収入で生活をしている国民が一千万人近くいるのであります。貧富の格差が大きく、政治的の貧困が目立ち、
民主主義の大黒柱である憲法は、不都合にも
政府自身によって完全に実施されていないのであります。この国民の生活苦と真実の声を取り上げて、政府に強く要望し、すみやかに善処きせるために、本日は特に、
物価値上げをめぐる問題と、
ILO条約の問題と、
人づくり政策の問題にしぼって、質問をいたすものであります。
第一に、総理は、
大衆生活の中で、
物価値上がりによる
生活困窮の真相は御存じないと思いますので、若干触れてみます。
国民生活の実態は、中小の市町村だけでなく、大都市でも、案外、食事は目刺しにみそ汁でも、
ステレオ、ピアノを月賦で買っております。
ステレオは買ったが、レコードまで手が回らないので、王将と軍艦マーチの二枚を、
毎日片々、何が何でも勝たねばならぬと、近所迷惑も忘れてかけています。冷蔵庫も月賦で買ったが、中を一ぱい詰めるほどお金がない。冬は品物の保管の代用品に使っています。隣の家は月賦でテレビを買ったのに、支払いがまだ済まぬはずだが、また月賦で別の店から一台買ったらしい。つまらぬやつだという、うわさが飛んで、完全にコマーシャルにかき回されて、月賦々々と、債鬼に身も細る思いの
サラリーマン階級が多いのであります。決してつくり話でも笑い話でもありません。これだけ
物価値上がりが
日常生活にしわ寄せになっているのであります。
十月に、東京で
全国台所会議が開かれました。
主催者は
栄養改善普及会の
東京家計薄研究班でしたが、食事の質を落さぬようにしているだけなのに、一人当たり一ヵ月の食費は、三十六年の三千六百円、三十七年の四千百円に比べて、ことしは五千百円と、二年間で四二%も上がりました。昭和三十七年度の東京都の
標準世帯家計調査報告によれば、今年五月の実収が三万円から三万五千円の家庭では、一ヵ月に四千九百六十四円の赤字であり、三万五千円から四万円の家庭は、一ヵ月に二千三百九十円の赤字であります。夏冬のボーナスはその穴埋めに全部使われてしまっています。このように
庶民大衆の生活は、
物価値上がりによって
ほんとうに困っております。この実態を総理は、まことに政治力が足らず申しわけないとお認めになりますかどうか、御答弁をいただきたいのであります。
第二に、
政府部内の
物価抑制に対する意見の不統一についてお伺いします。新聞の報ずるところによれば、副
総理格の
佐藤科学技術庁長官は、
物価値上がりを押えるのに二年も国民を待たせるのはよくないと言明して、
自民党内に波乱を起こしました。
宮澤企画庁長官は、常
日ごろ総理の放言を苦々しく思いながら、いつも
ブレーキをかけて談話を発表していました。先日も、
中小企業、農業への
アフターケア対策を早急に打ち立てると進言したことは、まさに語るに落ちて、
所得倍増は、いまや
名実ともに失敗であった何よりの証拠と、国民は身につまされて感じております。賀屋元大蔵・現法務大臣は、閣議で、
物価値上がりは日陰の国民の
人たちに深い影響を与えるから、慎重に対策を立てるべきだと発言しました。
企画庁長官の
諮問機関である
物価問題懇談会は、去る二十五日、率直に言って、政府の
物価対策は十分有効でない。あわせて、
公共料金は一年間据え置くべきだとの決定を答申しました。総理、あなただけです、
手ばなし楽観論を言うのは。去る九日、組閣の
記者会見で、まだ総理は、
公共料金の一部
値上げはいいじゃないかと、全く
国民生活の実情を無視した発言をしておられましたが、いまもなお、これくらいの
物価値上がりは心配ないとの信念を堅持して、国民にこたえられるのでありますか、御答弁をいただきたいのであります。
第三に、
労働者が物価が上がるから賃金を上げてもらいたいと要求をするのは当然であると思うのであります。選挙が済むと、すぐ二十六日の閣議で、
タクシー代の
値上げの方針をきめました。国民の血の叫びをじゅうりんしていますよ。バス、
水道料金の
値上げ申請は、
全国各地から殺到しております。それでは、政府は
公共料金の
引き上げを認めながら、同時に手品師のように物価の引き下げもできるとお考えなんですか。具体的に明確に総理から御答弁いただきたいのであります。
第四に、政府は、社会党からの
公開質問状の論戦の中で、
物価値上がりは大策の生活を圧迫していないと言われました。またへ
臨時国会の
所信表明で、総理は、一両年のうちに
物価値上がりは安定させると、国民に対する公約を言明されました。その舌の根もかわかぬ下から、選挙のまつ最中に、自慢をしていた十月の
卸売り物価指数は前年同月比七%の増加でありました。たった一つの頼みの綱も切れたのです。
政府自民党は
ほんとうに物価を下げる政策をお持ちにならないのですか。それとも、がんこに下げようとなさらないのですか。これまた総理から明快率直な御答弁をいただきたいのであります。
第五に、この現実に立って、選挙後のころから
所得倍増計画の失敗の波が全国からほうはいと起こって参りました。俊敏な
宮澤長官が、
中小企業と農業の
アフターケアを第二ラウンドとして進言しました。きのうの新聞によりますと、リングの
王者力道山でも刺される世の中です。国民の意見にたてをついてはいけません。
政府自民党がいままで大企業のみに偏向奉仕したために起こった、いわばシシを食った報いです。当然の結果であります。それならば、そのひずみを明三十九年度の予算の中で国民に対して、具体的にどの項に、金額にして幾ら織り込んであるのか、明確に、得意の数字をもって総理から
お答えをいただきたいのであります。
第六として、
明年度予算の重要な公約の一つである二千億減税についてであります。
株式配当分離課税について、
池田総理と
田中大蔵大臣と意見が対立しております。また、
企業減税でいくか
所得減税でいくか、
田中大蔵大臣と
税制調査会とも意見が違っております。この二つの内容の相違は何なのか、国民によくわかるように解明していただきたいのであります。政府の言う程度の減税では、
物価値上がりによる
名目所得の
引き上げと、その結果起こる実質的な増税分を減らしているにとどまるのであります。ましてや、二千億の大部分を大資本の利益を代表して
企業減税に充てるというならば、
勤労所得者にとっては実質上は増税であると言わなければならないのですが、前
大蔵大臣であった総理の御親切なる答弁をいただきたいのであります。(拍手)
第七として、総理は、物価が上がったのは、賃上げが
生産性を上回って、それが物価をつり上げていると申されますが、最近の労働省の発表は、上昇の速度がにぶっております。
実質賃金は三十七年が四%近く上がり、三十八年は一・二%しか上がっていません。しかも生産費の中に占める人件費の割合は、三十二、三年ごろが六〇%だったのですが、いまは五八%に落ちております。総理も
経済企画庁長官も、コスト・
インフレであると言いながら、統計的な数字を一度も公表しておりません。正確な数字をお示しいただいて
お答えをいただきたいのであります。
第八として、総理は、
物価指数は上がっているが、
卸売り物価指数は安定しているから、少々ゆれてもだいじょうぶだと申しましたが、
卸売り物価も、原糖、船賃などの
値上がりで、九月から四%も上がってきました。これは当然
消費者物価にはね返ります。これは総理や
企画庁長官の言うコスト・
インフレだけでは説明できないし・当然一般の物価に影響するのでありますが、総理並びに
企画庁長官の御所見を承りたいのであります。
第九として、全国の
勤労者の
預金総額は五兆円ですが、
物価がかりに九%上がると、四千五百億円だけ損をしたことになります。日本の全
勤労者の受け取る給料の総額は七兆円ですが、これも六千三百億円損をする勘定になります。言いかえると、今までよりも値打ちの低いお金をもらうことになります。しかし、得をする人もあります。借金する側の人であります。企業はお金を借りていますが、返済するときには安いお金で返すから、それだけ得になります。だから政府は、
高度成長のひずみを表面化しないように、
勤労者を犠牲にすることでごまかしていると、私は思うのであります。総理はこの事実をお認めになりますか。
お答えをいただきたいのであります。(拍手)
第十として、総理は、
物価値上がりは「
産業近代化のためにやむを得ないもので、一時的現象だ」と申しておられますが、
近代化とは大企業と
中小企業の格差を解消することだと思うのであります。大企業と
中小企業との
賃金格差は、初任給を中心として部分的に縮まっていますが、貧富の差は縮小するどころか拡大しております。大企業と
中小企業の
生産性にしても、開きが大きくなって、
中小企業は経営が苦しくなっております。総理並びに
企画庁長官は、この事実の急速な進展に周章ろうばいして、特に
中小企業に力点を置いて、
池田内閣の
退勢挽回にやっきとなっているのは間違いないと思いますが、総理及び
宮澤長官の率直にしで謙虚な御答弁をいただきたいのであります。
次に
ILO条約についてお尋ねいたします。
結社の
自由委員会で、いわゆる百七十九号に関する件として取り扱われて参りました。ことしの六月には、それこそ寛容と忍耐の権化のような
ILO理事会も、さすがに
かんにん袋の緒を切って、
日本政府の怠慢に挑戦してまいりました。幾ら強い勧告を、日本の自主性を信頼するのあまり繰り返しても、全く馬の耳に念仏では、しびれを切らすのがあたりまえであります。
具体的処置、行動として、
理事会は
調停委員会を設け、これに付託し、事実を調査するために、
日本政府の同意を得て派遣することを決定いたしました。政府が
ILO当局と確約してからすでに五年たっています。しかもこの確約は、十二回も鉄面皮に成果なく行なわれてまいりました。
条約批准の提案も、政府の責任において五回もされているのに、満足な結果が一つも得られていない事実を顧みると、
日本政府のだらしなさ、無責任さに、心からの憤りを感じます。(拍手)まじめに批准する気でやっているのかどうか。演説はうまいことを言うが、全くやる気がないのではないか。
国際信義にもとり、
ILO理事会を悔辱し、それよりも、適用を受けるために鶴首して待っている日本の勤勉な
労働者を、政府が公然とだまし続けている暴挙は、わが党だけでなく、何人といえども承服いたしかねるのであります。
そこでお尋ねいたします。
第一に、六月十四日の衆議院本会議において、すでに両
党幹事長、
書記長間で到達した
了解事項、いわゆる
倉石修正案に従って、
特別委員会が持たれましたが、この内容は責任を持って必ず実行されるのかどうか、これ以上修正はしないと断言いたされますか。総理の明快な御答弁を承りたいのであります。
第二に、
調停委員会に付託してほしいという要請があったとき、政府はきん然と同意をされると思いますが、ノーとは言えないはずですが、間違いありませんか。総理の
お答えをいただきたいのであります。
第三に、
ジュネーブに駐在している
青木大使は、
日本派遣前に
実質的予備審査をしたい、
提訴人と説明側も含めて実情を聞くことにしたいと、
ILO当局の
ゼックス責任者と
打ち合わせ済みでありますが、御存じでありますか。
労働大臣から
お答えを願います。
第四に、
国会開会の
冒頭演説において、総理が何とかしますと答えると、
国際慣例として、
総理大臣が言明すれば間違いないと思って
勧告追及を手控えるのであります。今度こそは、うそを申しませんか。
お答えを願います。
第五に、
自民党の中には、うわさによれば、
池田いじめの武器になるから残しておけという師団長もおられるそうですが、事実かどうか、総裁である総理から
お答えを願います。
第六に、
ILOの
ヨーロッパ地域組織委員会の
スケベーネル書記長は、
OECDアダイ事務局長にいわく、「われわれの理解では、
OECDの
評議会か
事務総長から強く勧告してほしい。八十七
号条約を批准していないのは一人前ではないと思う。加入すれば、労使が
諮問機関になり得るし、
労働組合も参加して発言することができるから、
資格要件に欠くるという疑義がある。
日本政府に、すみやかに批准するよう勧告せよ」との声明が出されているが、その事実を知っておられるか。また、内容についてどう考えるか。
労働大臣から詳細に
お答えを願います。
第七に、来年の二月十二日から十九日まで、
ジュネーブで
ILO理事会が開かれて、
違約追及のための
調査委員会の設置と派遣が決定されますが、それまでにはどんなことがあっても必ず批准すると言明してくださいますか。総理の明快な御答弁をいただきたいのであります。
これを要するに、結社の自由の保障がない、
最低賃金制の確立していない
労働力は、
国際貿易の水準ではないのであります。そこに、低賃金、長時間労働の温床があり一
先進諸国からソシアル・ダンピングをやるのではないかと常に疑われ、指摘されて、
貿易伸張の激流にさおさすの愚かさをいたしておるのであります。「世にもふしぎな物語」ではありませんが、この条約の批准は、だれ一人として反対をいたしてはいないのであります。なぜ促進されないか。
自民党と財界の一部に根強くかたまっている一団、「
労働組合はないほうがよい。あっても弱いほうがよい。
抵抗運動をできるだけさせないほうがよい」という力があるのであります。それがもし誤解だというなら、政府、
自民党は、正々堂々と
——憲法第二十八条に明記してある団結権、
団体交渉権、
団体行動権は、
労働基本権として、
イギリスにおけるごとく、公務員を含めてその国の全
労働者が公正均等に持たさるべきものであって、
憲法完全実施こそ、政府、
自民党のなさねばならぬ責任であり義務であると思うのであります。八十七
号条約批准がすべてではありません。まだこれは序の口です。しからば反問いたしますが、百五
号条約D項による
ストライキ権完全獲得のための批准は、いつ提案されるのか、
具体的日程を総理から御答弁いただきたいのであります。
次に、
池田総理の
人づくり政策についてお尋ねいたします。
人づくりは、総理の得意な数字では解決できません。また、経済が成長して所得が倍増しても、自然に解消する問題でもありません。総理の今までの御意見を承っておりますと、衣食足って礼節を知るはずだと申しますが、何でもかんでも、まず、おなかをいっぱいにしてやれば、国民は政府に感謝し、政府の言う道徳は高揚し、よいことずくめになるに違いないという印象を受けるのであります。ところが、冷静にして賢明であり、愚かならざる
国民大衆の目は、
らんらんと輝いて、総理の身辺にも、光の届かぬ谷間の一軒家にも、透徹した批判力を持っているのであります。総理が福島県の郡山市で暴漢に襲われました。翌朝の新聞は、一斉に、「もし、やつが来たら、け飛ばしてやろうと思っていた」との
総理談話が出ました。一国の
総理大臣ともあろう人が、言うにこと欠いて、子供みたいに、何をおっしゃるのかと、国民はがっかりいたしたのであります。故
ケネディ大統領事故死のときには、決断が鈍くて、外相だけをやろうとしたり、ワシントンからの
官房長官への第一声では、兜町はどうだと聞いたり、
満面笑みをたたえた
電送写真に、国民は、怒ったり戸惑ったりいたしたのであります。東南アジア、
ヨーロッパを回られて、欧米に加えて、アジアの柱は日本の私だと自負しておられるのですが、どうも先方には通じておらぬようであります。たとえば、口の悪いフランスの
ドゴール大統領は、日本がEECにおせっかいをしないようにという意味を含めての発言だとしても、一国の宰相と相語るつもりでいたが、会ってみたら、聞くと見るとは大違い、トランジスター・マーチャントであったと、失礼千万な放言をしておるのであります。
人づくりのためにこそ、荒木前
文部大臣を最重要視されて、再三閣僚のいすを与えたのでありましたが、当の荒木君は、
労使中立三
者構成の
ILOの組織も知らずに、
ILOは赤の手先だと軽率にやらかして、
世界有識者の嘲笑とひんしゅくを買ったのであります。国内では、善良な国民である
教育労働者に対して、非人間的な
ばり雑言を大衆の前で惜しげもなく発言をいたしておったのであって、総理の言う寛容と忍耐の精神は、つめのあかほどもなかったのであります。
人づくり本山にその人を得なかった、魂はなかったのでありますから、国民から見ると、ろくな教育や
人づくり政策があろうはずはないのであります。
民主主義に立つ日本のあり方の中で一番大切なのは、
主権在民による人間平等の
社会通念であります。
そこで、お尋ねしますが、
青少年の問題ですが、
人づくりに欠くことのできない、未来を背負う
青少年の
指導対策はいかがでありますか。
わが国の二十歳から二十四歳までの
青少年男女の死因のうち、自殺がずば抜けて第一の地位を占め、結核で死ぬ四倍の人間が自殺をいたしているのであります。さらに、
青少年の犯罪が非常に多くなっております。窃盗犯の年齢別、
性別検挙人員数は、警察庁の調査によりますと、十四歳以上二十歳未満の者は、昭和三十五年六万八千七百七十九名で、全体の三八%であり、三十七年には八万三千百五人で、全体の四五・二%であります。最近「天国と地獄」という映画が上映されましたが、なぜ自分だけが苦しい生活をしなければならないのか、垣根越しに隣人の家を見、
一家団らんのむつまじさが、むしょうにねたましくなり、誘拐を考えたり、人の物がほしくなったり、動機はきわめて単刀直入、
単純直情であります。総理は、口を開けば、
青少年に対し祖国愛を説かれますが、具体的に、どうすればよいとお考えになっていられるのか。施策を明示して御答弁をいただきたいのであります。
さらに、最近の事故死の
驚異的増加であります。本人の不注意もありますが、根本的には、政治の貧困に帰すべきものと思います。他人の死んだことまで責任が負えるかと、おっしゃりたいのでしょうが、政府の
最高責任者である総理は、逃げることはできません。十二月六日の朝日新聞によりますと、第二次大戦中、
原子爆弾や空襲で死亡したのは、
一般国民の中では六十七万人でした。それが、戦後十八年間の
平和時代に入って、これを上回って、七十万人が事故で死亡しているのであります。
東京工大の崎川教授によりますと、日本の
技術進歩の特色は、
ブレーキを確かめずにスピードを上げてきたためだと申しております。
世界爆発史ベストテンの過半数を占める日本の
爆発事故、
化学工場事故も、これまた世界一であります。
安全対策、
技能者養成、技術の
基礎的知識をおいてけぼりにして、かけ足で追いついた
世界水準は、また大事故の
世界的水準にもなったのであります。お粗末と言わなければなりません。日本の
社会構造全体が、あらゆる面での
過密ダイヤにささえられている状態であります。生産、流通、消費、
都市集中などが、合理的、科学的、系統的、組織的にあんばいされていないのであります。その上に、政治は貧困であり、施策は火事どろ式であり、官僚のなわ
張り争いに終始するならば、国民の要求の
内容実現の日は、まさに百年河清を待つにひとしいのであります。当面焦眉の急としての打開策は、
所得倍増政策と実情に合わない急激なる
合理化政策の欠陥がおくめんもなく暴露されてきたのであります。この際、適切な総理の御答弁をいただきたいのであります。
日本の
社会状態を示す指標は、
経済成長率、国民総生産がすべてではありません。犯罪、事故、自殺などの数字も、また重要な指標であります。
わが国の
人口当たりの
殺人件数は、世界第二であり、
イギリスの十三倍に当たるので、
所得倍増が
犯罪倍増と並行しているのであります。
拝金思想による
金銭万能の
所得倍増政策は、
人づくりどころか、人こわしになっているのであります。それでありますから、第三次
池田内閣が国民から課せられた任務は、わが党の
河上委員長が今回の総選挙でいみじくも指摘したごとく、三悪、すなわち、
物価値上がり、格差の広がり、犯罪の激増を追放することであると思うのであります。
以上をもって私の質問を終わるわけでありますが、最後に、禅宗の言葉に、「勢いは使い尽くすべからず、使い尽くせば禍必ず至る」という言葉がありますが、あまり
万事調子に乗らないで、謙虚に国民の声を聞いてください。総理の不退転の決意を御答弁にいただくこととして、私の質問を終わる次第であります。(拍手)
〔
国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕