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1963-12-16 第45回国会 参議院 大蔵委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年十二月十六日(月曜日)    午後一時九分開会   —————————————    委員異動  十二月十六日   辞任      補欠選任    鈴木 市藏君  須藤 五郎君   —————————————  出席者は左のとおり。    委員長     新谷寅三郎君    理事            柴田  栄君            柴谷  要君            渋谷 邦彦君    委員            青木 一男君            岡崎 真一君            川野 三暁君            栗原 祐幸君            佐野  廣君            津島 壽一君            鳥畠徳次郎君            堀  末治君            木村禧八郎君            原島 宏治君            大竹平八郎君            須藤 五郎君   事務局側    常任委員会専門    員       坂入長太郎君   参考人    日本銀行総裁  山際 正道君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○租税及び金融等に関する調査金融  問題に関する件) ○参考人出席要求に関する件   —————————————
  2. 新谷寅三郎

    委員長新谷寅三郎君) ただいまから大蔵委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  本日、鈴木市藏君が辞任され、その補欠として須藤五郎君が選任せられました。   —————————————
  3. 新谷寅三郎

    委員長新谷寅三郎君) 租税及び金融等に関する調査のうち金融問題に関する件を議題といたします。  この際、参考人出席要求についておはかりいたします。  本件につきましては、日本銀行総裁山際正道君に参考人として出席を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 新谷寅三郎

    委員長新谷寅三郎君) 御異議ないと認めます。よって、さよう決定いたしました。   —————————————
  5. 新谷寅三郎

    委員長新谷寅三郎君) 本件につきまして質疑の要求がございます。これを許します。木村君。
  6. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 お忙しいところ日銀総裁おいで願いまして恐縮でございますが、私は主として通貨価値の安定と金融政策の問題、それとこの金融政策財政との関係について御質問したいわけです。まず、なぜ私がこの際当委員会総裁に対して通貨金融政策財政との関係等について御質問いたすのか、その趣旨を簡単に述べまして、御答弁願いたいと思います。私の趣旨を最初述べたほうが総裁の御答弁もしやすいでしょうし、また焦点に合った御答弁が願えるのではないかと思われますので、まず私は質問趣旨を申し述べまして、質問に入りたいと思うのです。  私は、池田内閣昭和三十六年から所得倍増十カ年計画、それに基づいて高度経済成長政策実行に移しましたが、その実行に移すにあたって、この物価国際収支の二つの点を、全然無視はしませんけれども、軽く考えていたのではないか、民間の設備拡張を主として考えて、物価とか貨幣価値の安定とか国際収支の問題を第二義的に考えていたのではないかと思われる。これは私の考えです。むしろ、まあいわゆる下村理論といわれるものですが、これは私は正しく理解しているかどうか、私の考えですが、下村君は、大体この高度成長のためには設備をどんどん拡大していけば、その設備拡大の過程において物価の問題も国際収支の問題もおのずから解決されていくのだ、あるいは格差の問題も解決されていく、そういう考え方ではなかったかと思うのです。しかし、これは長期的なものの考え方である。それはもうごく長期的に、五年も十年も長期的に見ればそういうことは可能かもしれませんが、しかしその間に短期変動もあるわけですね。ですから、長期計画を立てる場合にはその短期的な経済変動についての調整ですね、そういうものについてやはり長期的な計画に劣らない、むしろ私はそれより重要でないかと思うのですが、その短期的な調整をやはり真剣に考えなければならぬのじゃないかと思うのですが、どうもそういう短期的な調整についての考え方が非常に十分でなかったと思われるわけです。無視したとはいえないかもしれませんが、それを軽視した、そのために非常に行き過ぎた成長が起こり、その結果として消費者物価の非常な著しい上昇が生じてきた、あるいはまた国際収支に非常に不安が生じてきている、こういうふうに私は思うわけです。そのために当面の緊急な課題として物価の安定と国際収支均衡ということが重要になってきておりますが、これは当面だけではなくて、やはり将来の長期的な計画にとってもこの物価の安定と国際収支均衡というものはやはり非常に重要視されなければならない。特に現在は三十九年度の予算編成関連しまして、物価の安定と国際収支均衡の問題は重要な課題になっているわけですね。また、物価安定、国際収支均衡をはかる場合に、財政の面ばかりでなく、やはり金融政策ももう不可避的に、不可分的に重要な関連をもってくるわけです。  そこで、総裁をお呼びして、まず私が申し述べました点ですね、高度成長というものと物価国際収支関係、特にこの政府のこれまでの高度経済成長政策についての考え方、あるいは政策やり方長期的な観点と短期的な観点についてこれが十分でない。したがって、物価とか国際収支についていろいろな困難な問題が生ずる。高度成長政策の矛盾が激しくなる。これについて総理質問をすると、総理は常に長い目で見てくれ。これは長期的な観点のみでお答えになるのです。これでは私は正しくないと思う。やはり短期的な変動というものも、これは非常に重要視せられなければならぬことだと思うのです。それを重要視されませんと、長期的な計画もやはりうまくいかなくなると思います。こういう基本的な経済成長物価国際収支関係、それから長期的な計画と短期的な措置の問題、そういう点について、まず総裁の御所見を伺いたいと思うのです。
  7. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいまお尋ねのございました、成長政策実行するについて長期的にこれを策定する結果、ややもすれば安定ないし物価国際収支等均衡問題についての観察がおろそかになりがちであるというような御指摘に対しましては、私はやはり、長期考えられた成長政策でも、常時国際収支物価の問題の安定をはかりつつ進むべきが当然であると思うのであります。それはわが国経済上のいろいろな条件からいたしまして、国際収支に制約されるところが非常に大きいし、また物価の問題が経済運営基本的な命題である以上は、常に短期的にもその点に留意しながら長期政策も進めらるべきは当然であると思うのであります。  御承知のように、今回の成長政策自体は、企画庁の経済審議会にかけられまして、いろいろと審議の上出発されたものと了解しておりますけれども、はたしてその審議の点において短期的に見たいろいろな変動までも十分な考慮に入れておるかということは、やはり一つの研究問題であろうと思います。現に、御承知のように、成長政策所得倍増計画のアフターケアの問題としていま審議会でやっております。やはり御指摘の点は反省を要する一つの点として真剣に委員方は検討しておられるように思います。まだ結論は出ておりませんので、その結果については何ら申し上げることはできませんけれども、いろいろと施策を進めて参りました上において、どうしてもやはり長期にわたる経済計画といえども国際収支物価の問題というものは、常に重要視しながら進められるべきものであるということについては、全く同様に考えております。  また、いかに長期計画であっても、やはりそういった短期的な調整と申しまするか、これを忘れてはならぬという御指摘の点は、私も全く同様に考えます。いかに長い航海でありましても、おそらく船長は常にその船が進路をはずさぬように常時羅針盤を見ながら調節して進んでおるだろうと思います。これはやはり海外のいろいろな情勢というものは非常に複雑であって変わりやすいのでありますので、常時その気配は見ながら、短期的にも調整しつつ、結局長期的に計画の達成をはかるというのは自然の成り行きであろうと考えております。
  8. 柴谷要

    柴谷要君 時間が長期にわたりますので、二時間になんなんとしますので、総裁にはすわったままで御答弁願うように委員長からひとつ……。
  9. 新谷寅三郎

    委員長新谷寅三郎君) 山際総裁、すわったままで御答弁願ってけっこうです。
  10. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 私もすわったままでやりますから、すわったままで御答弁願いたいと思います。  ところで、政府物価に対する考え方、あるいは物価に対する政策、あるいは国際収支に対する考え方施策が、ただいま私が総裁に御質問して総裁が御答弁になりましたが、そういう立場とかなり隔たっていると思うんですね。そこで具体的に御質問したいんですが、特に池田首相物価の問題についての認識が非常に私は不十分ではないかと思われますので、この物価問題について、通貨価値の安定を使命とする日本銀行総裁に特にお伺いしたいわけです。池田さんは物価問題に対する第一の考え方として、卸売り物価が安定していさえすれば、消費者物価が上がっても日本経済の発展には心配がないということを繰り返し述べています。この点について、私、新聞で拝見したんですが、総裁は異なった御所見を持っておられるように聞いておりますが、この点についての御所見いかがでございますか。
  11. 山際正道

    参考人山際正道君) 通貨価値の安定を維持することを主たる任務といたします私どもといたしましては、通貨価値対外対内両方面にわたって、すなわち国際収支の面と国内物価の面について非常な関心を持っておることは当然であると思います。  で、従来のわが国経済の経過を考えますと、物価の問題は比較的卸売り物価において問題が起こりがちであって、比較的消費者物価のほうはこれと、何と申しますか、並行するような動き方をしておったのでございます。その結果として、対外価値の点やら輸出貿易等観点からいたしまして、比較的に卸売り物価のほうが重視されてまいったということは、これは確かにいえると思いまするし、私たちといたしましても、御承知のように、最近十年近くというものは、わりあいに消費者物価安定、卸売り物価も安定いたしておりましたために、主として卸売り物価のほうにややもすれば重きを置きがちであったことは反省さるべきだと思います。しかし、輸出から申しまして、対外対内両面についての価値安定をこの目的とする以上は、卸売り物価のみが関心せらるべき物価ではないのでありまして、同時にまた、消費者物価というものも当然にその関心事であるべきだと思うのであります。  でありまするから、しからばいかなる物価を標準に考えていけばいいかというむずかしい問題が起こりますのでございますが、理論的に、理想的に考えますると、消費者物価卸売り物価両者合わせましたような一種総合物価指数で判断していくのが正当だろうと思いまするが、これは最近の事態においては、御承知のように、非常に卸売り物価消費者物価の乖離がひどうございまするから、ちょっと技術的にむずかしい点がございます。ほんとうはGNPを基礎にしたそういう総合物価指数でいくべきでありまするけれども、なかなか統一された数字とすることは技術的にまだむずかしい状態にございます。でありまするから、卸売り物価の安定を期することは当然でありまするが、同時に、別途消費者物価のこれも安定をはかることは同じく留意をはかるべきだと私は思いますので、両者をにらみ合わせて、両々重きを置きながら進むのがこの際とるべき態度であるというふうに考えております。
  12. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 私は前に参議院の本会議池田総理通貨価値の安定ということについて質問したのですが、池田総理は、その対外価値が安定していれば、為替相場が安定していればそれでいいのだ、こういうお話でした。ところが、為替相場は御承知のようにあれは人為的にね、人為的に安定させられている。IMFに参加しまして、そうして変動幅は上下〇・七五の幅しか一応認められていないのです。それは国際収支のバランスを通じて人為的に維持されているわけですよ。それと関連する卸売り物価も、やはりそういう意味で人為的に安定させられているのだと思うのですね。ですから、それは自由変動によって安定しているならば、それはそれさえ安定していればいいということになりますけれどもほんとう意味で安定しているのではないと思うのですよ。  そういう点と、もう一つは、何といっても国民生活にとっての通貨価値はやはり消費者物価指数にあらわれているのじゃないかと思うのですね。まあ小売り物価より消費者物価指数のほうが広範に通貨価値を表現すると思うのですね。料金とかあるいはサービス料金とか、その他の小売り物価も含まれておりますからね。ですから、いわゆるスライド制とか安定価値計算とかいうことが問題になり、ある二、三の組合では総理府統計局消費者物価指数もとにして、あるいは前の東洋経済生計指数もとにしてスライドする、こういうふうな会社との協定ができておったのです。これは昭和電工ですね。あるいは岩波書店あたりでもこれを採用していたように聞いております。国民にとってはやはりこの対内価値ですか、消費者物価指数にあらわれたそれこそまあ重要なのでありますから、それこそその安定が重要で、その変動はやはり通貨価値考えるのが常識であって、総裁はもう卸売り物価総合——あるいは貿易物価もありますね、そういうものとの総合において考えるというのですが、私はそれよりも、むしろ国民にとりましてはやはり対内価値重点を置いて考えていかなければならないのではないか。たとえば一万円札なり千円札なり、その価値というものは、国民にとっては——それは外国には通用しないのですからね。外国に通用しないのです。外国に通用させるにはこれはドルにかえなければならないのですが、国内における日本銀行券価値というものは購買力にあるのでありますから、それはやはり対内的な価値消費者物価指数にあらわれた価値前提にすべきだ。もちろん、それでドルにかえて外国のものを買う場合、それが対外価値を反映していくのですけれども、それは結局さっきお話ししたように人為的に維持されているものですから、それは自然的な安定ではないのでありますから、やはり私は対内価値重点を置いて通貨価値というものは考えるべきではないか、こういうふうに、特に最近の消費者物価統計国民生活に広範に影響しておりますから、その点について……。
  13. 山際正道

    参考人山際正道君) 一部には卸売り物価が安定しておれば消費者物価に多少の変動があっても関連は伴わないという見解がありますことは私も承知いたしておりますけれども、私ども考え並びに実務上の経験から申しますると、両者はそれほど無関係ではないと思います。消費者物価変動が大きくなりますと、自然それは卸売り物価にも私は影響を持つと思います。したがいまして、御指摘のように、通貨価値の安定を企図するという以上は、対内対外合わせて安定を保持すべきものだと実は思います。為替管理の行なわれておりますもとにおいては、人為的には定められましょうけれども、これは実際的にはやはり国内価値が反映するものでありまするから、両者関係なしというわけにはまいらぬと思います。ことに自由化を控えましての今日といたしましては、両々相まって相照し合わせての通貨価値の安定という点に主眼を置くべきだということは私も同様に考えております。
  14. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 この最近三カ年間における消費者物価騰貴ですね、これは平時においては異常な騰貴ではないかと思うのですが、この点に対する御所見と、それから、さしあたり、もう問題になっているのですが、昭和三十九年度の予算編成前提として政府経済見通し作業をやっているわけです。また、その経済運営基本方針をきめようとしているわけです。そういう際に、金融政策も密接な関係があるわけですので、大体、物価関連いたしまして、総裁は来年度の消費者物価をどの程度に押えるのが適当であるというお考えでしょうか。これは非常に無理な質問かもしれませんが、大体まあいろんな四大銀行とか経団連等見通しを発表しておりますが、かなり、五・五%とか、三菱銀行は七%くらい一応値上りを予想しておるのですが、大体のところでけっこうですが。
  15. 山際正道

    参考人山際正道君) ここ一両年における消費者物価の高騰の情勢は、おっしゃるとおり、平常な状態とは私はいえないと思います。さればこそ、先ほど申しましたとおり、従前はその点にやや安心をいたしまして大体卸完り中心にやっておったのでございまするけれども、今日の状態になってまいりますると、両者どうしても合わせ考えなければならぬという段階に来ておることは、私もそのとおりだと思っております。  そこで、どの程度をしからば平常であり、異常でないと思うかという点でありまするけれども、これは非常にむずかしいことでございまするけれども、要するに、私ども考えでは、消費者通貨価値の将来に対して不安を持つような上がり方をしたら、これはいわゆる通貨価値安定の本旨に反するものでありまして、どうしても通貨価値の安定を害せざる範囲内において多少の物価変動はあり得ても、そのワクを越えてはならないということを抽象的にはいえると思うのでございます。しからば一%ならだいじょうぶか、二%ならどうだろうということはございましょうけれども、これはむしろ全体の雰囲気が何となく将来消費者物価が上がりそうだという雰囲気に置くことが非常に問題だと思うのでありまして、卸売り物価のほうについても同様の配慮をしながら、消費者物価についても決して国民通貨価値変動に対して不安を持たないという限度に守るということを大前提として諸般の企画を進めるべきだというふうに考えております。
  16. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 ただいま総裁が御答弁なさったように、通貨価値に対する信頼感、それからまた雰囲気と仰せられましたが、この点について、政府高度経済成長政策物価との考え方は、そういう信頼感を失わしめるような考え方なんです。と申しますのは、高度成長もとでは物価が上がるのは当然であるという考え方なんです。私はこれは当然ではないと思うのです。施策やり方によっては貨幣価値が安定できると思うのです、やり方によって。諸外国でもやはり高度成長もとでは物価は上がっているのだから、日本でも当然であるとか、これは私はおかしいと思うのです。経済成長物価との関係についての基本的な認識を持たないと、物価対策についても非常にルーズなんです。これは私は誤りではないか。その証拠には、たとえば昭和三十年から三十五年ごろまでもかなり高い成長率を示したのです。これは諸外国よりもはるかに高い成長率を示したにもかかわらず、三十年から三十五年まではあまり物価が上がっておらないのです。だから、高度成長もとでも物価が上がらない状態があり得るわけですね。ところが、三十五年下期、三十六年ごろから断層的にきゅうっと上がっているでしょう。ですから、それは高度成長やり方に問題があるのです。あるいは高度成長が超をつけて、超高度成長という、そういう成長の規模ですか、国の蓄積をこえた非常に大幅な急スピードな成長政策をやったところに問題がある。経済成長そのもの消費者物価が上がるのが当然であって、不可避なんですと、こういう考え方自体にもこれは改める必要があるのじゃないかと思うのですが、いかがですか。
  17. 山際正道

    参考人山際正道君) その点、私は、成長政策を遂行する上において、その成長政策が全体として効率を上げているかどうか、全体として無理なく行なわれているかどうかということに対する一つのひずみないし摩擦物価現象等にあらわれてくることだろうと思うのであります。いやしくもそういうひずみやそういう摩擦がすでにあらわれている以上は、それをいかにして沈静するか、それを激成しないことはむろんのことでございますけれども、それを避けながら進むのは一体どの限度でとどまるべきであるかというような反省があってしかるべきだと思うのであります。おそらくいまやっております経済審議会の意向も大体そういう考え方で、現在はいろいろな諸条件もとにおいてそういうひずみや摩擦なしにいける限度はどの程度かというようなことをいろいろ研究の題目にしていると思いますが、そういう配慮は当然伴うべきだと考えております。
  18. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 それから、物価騰貴、ことに消費者物価騰貴影響について伺いたいのですが、これは私は非常に広範な影響があり、そこには通貨価値の安定を主たる使命とする日本銀行当局としては深刻に考える必要があるのではないかと思うのですが、消費者物価が上がることによって通貨購買力が減る、この影響は、単に低額所得層実質賃金がそれだけ下がるということも非常に重要な影響だと思うのですが、そればかりでなく、過去の貯蓄ですね、蓄積がそれだけ切り下げられていくことを意味するわけです。これは私は非常に重大な問題じゃないかと思うのです。生命保険もそうです。あるいは社会保険的なもの、年金国民年金、あるいは厚生年金保険、あるいは労働者会社退職積立て金をしていますね。公務員についても共済金があります。あるいは公債、社債、そういう蓄積ですね。貨幣的蓄積、これが通貨購買力が下がることによって失われる。これは非常に重大な問題じゃないか。多くはそこまで深刻に考えていないのじゃないかというふうに私は考えられるのです。ですから、高度成長もと物価が上がるのは当然だと考える。それは通貨価値がそれだけ減価するのだということを考えたら、その影響たる低額所得が切り下げられるだけの問題じゃないと思う。あらゆる債権債務についてそういうことが行なわれるでしょう。そうして借金をしていたほうが得だということになりかねない。債務者が得で債権者が損だ、こういう非常に基本的な問題を含んでいると思うのです。そういう影響をも考えて、通貨価値の安定の問題、消費者物価の安定という問題を考えなければいけないと思うのですが、この点についてはいかがですか。
  19. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいま物価についてお述べになりました御所見は、私も大体同様に考えております。この物価変動は非常に重大な問題でありまして、国民のこれに対する信頼なり信任なりを動揺させるということは、現在の経済基本をゆすぶる問題でありますので、絶対にわれわれはこれを死守せねばならぬ問題だと考えております。したがって、ある程度成長を遂げるためにはそれはやむを得ない結果であるとか、ある程度騰貴は避けがたいという考え方自身が私はいけないと思います。どこまでもやはり成長政策通貨が確固たる安定のもとにおいて実行さるべきものであって、もしそれが害されるようであるならば、成長政策そのものにどこかに無理があるということの一種危険信号と申しましょうか、ひずみと申しましょうかと解釈すべきであって、そこにやはり一つ反省が行なわれる機会があってしかるべきだと考えております。
  20. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 私は、この三年間、昭和三十六年から最近まで二〇%以上も消費者物価が上がったということは、二〇%以上も国内対内価値が下がったということでしょう。指数にあらわれた——指数は大体個々の価格を表現したものではないのでして、あらゆる価格について、あるいは細部の料金についてウエートを加えてつくったものですから、あるいは通貨対内価値を正しく反映しているかどうか、それは指数のつくり方いろいろございますが、大体において反映している。そうすると、三年間に二〇%以上も対内価値が下がるということ、これは私は、非常なある面では不正義じゃないか、不道徳じゃないかと思うんですよ。これまで日本では、かなり貯蓄がよその国より高いといわれているんです、なぜ高いかといえば、生活にゆとりがあって高いんではないと思うんです。大体において。それは貯蓄推進本部からも発表されましたが、日本では非常に貯蓄率が高い。しかし、その一つの理由として、日本では社会保障が不十分であるから、やはり少ない所得の中から非常に苦心して、生活水準を切り下げて貯蓄している。その貯蓄も、生命保険へ入ったり、あるいは郵便貯金とか、その他の貯蓄の形があると思うんですが、そういう貯蓄が切り下げられるということでしょう。これは非常な——何らその人に責任がないんです。何ら責任なくして、政府政策によって通貨対内価値がそういうふうに切り下がるということは、非常な不道徳であり、不正義であると。こういう点について、もっときびしい批判が出てこなきゃならないと思うんですけれども、そういう点については、どうも貨幣錯覚というんですか、アーヴィング・フィッシャーが「マネー・イリュージョン」の中でそういう点を指摘していますが、足りないんじゃないかと思うんですが、通貨の安定を主たる使命とされる日本銀行の当局においては、そういう点もやはりきびしく認識されて、金融政策通貨価値の安定施策を行なうべきじゃないかと思いますが、いかがでしょう。
  21. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいま御指摘のございましたとおり、私どもの任務は、通貨価値の安定を中心として考えていくべき使命を持っておることは、御指摘のとおりでございます。しかして、むろん対内対外価値ございまするが、ただいま御指摘ございましたような消費者物価の問題も、当然われわれが十分な責任をもって処置をすべき事項の一つであると心得ております。  で、貯蓄に重大な影響を持ちますことは、おっしゃるまでもなく、私どもも非常に実は心配をいたしております。で、所得政策の結果、所得が増大いたしましても、いま御指摘のような意味で、貯蓄性向が低くなりますれば何にもならぬということになります。この点はぜひひとつ、この際国民一般にその信念がもう一ぺんよみがえりまして、貯蓄性向を落とすことなく、したがってまた、経済政策全体の運営の上においてそういう無理をすることなく進みますことを、私どもは念願いたしております。私どもの仕事の許します範囲においては、御指摘のとおりの信念で仕事をいたしてまいりたいと考えております。
  22. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 貯蓄につきまして、これは池田総理が何年間にこれだけ貯蓄がふえたということをよく数字で申されますが、あの中には、両建て、歩積み等による預け合いによるやはり貯蓄も入っていると思うんですね。そういうものはやはり引いて考えなけりゃいけないんじゃないかと思うんですが、いかがです。
  23. 山際正道

    参考人山際正道君) 貯蓄の性向なりあるいは金額等を算出いたします場合に、純正の貯蓄をはじくためには、御指摘の点はごもっともだと私も考えております。そればかりでなく、最近はいわゆる消費者金融と称しまして、商品は生産され、売れたかのごとき形をしながら、実際は借りになっている、売れていない。でありますから、それを差し引きますと、ネットの貯蓄というものはもっと減るというような現象もぼつぼつ目につき始めておる際でございますから、御指摘の点と合わせて、これらの点は十分割り引きをいたしまして計算をいたさねばならぬと思うのであります。ただ、技術上、これは非常に広範な調査を必要としますために、発表はどうしてもおくれがちでございます。そのために、往々にして気がつく場合、おそいのでございますけれども、われわれといたしましては、十分これは前もって注意してまいらねばならなぬと考えております。
  24. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 次に物価の問題について、政府が安易に考えている一つ政府考え方として、消費者物価が上がっても、それ以上に所得がふえているんだから、国民生活を圧迫していないということを総理は常に言われるんです。この点について、総裁、どうお考えですか。
  25. 山際正道

    参考人山際正道君) 私は、総理大臣がどう説明されたかよく存じませんけれども、抽象的な考え方としては、御指摘のような問題はとょっとうなずけないと思います。やはりそれは安定した価値もとにおいてその人が計算されて、初めて純正の所得がふえたか減ったかということになるのでありまして、その基本が動揺しておりましては、はたして所得がふえたのか減ったのかよくわからぬし、また非常な不公平があると思います。確定所得の収入しかない人もありましょうし、あるいはわずかに年金その他によって生活している人もありましょうし、あるいは所得が俸給その他でスライドする場合もあるかもしれませんけれども、一般的にはないと思いますから、そういう考え方については、相当理論上の欠ける点がありはせぬかと私は思います。
  26. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 それから、やはり物価の値上がりを安易に考え考え方としまして、これは総裁もよく御存じと思うのですが、下村君などは、たとえば物価が上がらない場合、ある一定の貯蓄をして、これを何年間で元利合計してふえる場合と、物価が上がっても所得がふえるのだ、だからむしろ物価が上がったほうが所得がふえるので、計算してみると、結局物価が上がって所得がふえたほうが、物価が上がらないでそれが利息計算してふえた場合、どっちが得かというと、物価が上がっても所得がふえたほうがいいのじゃないかというふうな計算のしかたをしておりますね。しかし、過去の貯蓄については何ら触れないんですよね。過去の貯蓄がみんな切り下げられてることについは触れていないのですから、そういう考え方は私はおかしいと思うのですが、総裁はいかがですか。
  27. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいま御説明ございましたうちで、つまり物価変動があっても、所得がそれ以上に増大すればいいじゃないかという説は、私は賛成いたしません。先ほど申し上げましたとおり、物価の安定あって、そのもとにおいて所得が増大して初めて純正の所得が増大したことになります。変動いたしておりますと、その所得がはたしてふえたのかどうかということはよくわかりませんのみならず、一方においては確定所得者もあるわけなんで、こういった人たちは明らかに減価しておるわけでございます。つまり、配分が非常に不公平になるわけでございますし、かたがた、私は今日の経済組織は、やはり貨幣価値の安定の上に諸般の施策が行なわれて初めてその効果をあげ得る組織だと考えております。
  28. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 総裁のお考え方は、もう健全なる常識として当然ではないかと思うのですが、ところが、そういう考え方政府施策に反映していないで、むしろ物価が上がっても所得がふえればいいじゃないかという考え方が支配的ですね。物価の値上がりというものに対して非常に安易な、つまり物価というとぴんとこないと思うんですが、通貨価値というふうに考えましたら、通貨価値が減価しても、対内価値が減価しても、所得がふえればいいじゃないかという考え方は、これは批判されねばならないと思うのですけれども……。  しかも、もう一つ消費者物価の値上がりについて、これはあたりまえじゃないかという考え方以上に、むしろそれは望ましいという考え方があるのですね、政府には。というのは、所得の再分配効果があるということを言うのですね。たとえばサービス業とか零細企業のほうを賃金を上げる、その場合に、料金とか物価が上がるから低所得層の賃金が上がるのじゃないか。料金とか物価が上がらなければ低所得層の賃金は上がらないじゃないか。だから、物価が上がるということ、たとえば農産物でも、あるいは零細企業の商品価格でも料金でも、上げることが、低所得層の賃金給与を上げることを可能ならしめるのじゃないか。だから、むしろ所得再分配上望ましいことなんだという答弁があったことがあるのです。これについてはどういうふうにお考えですか。
  29. 山際正道

    参考人山際正道君) お尋ねの点につきましては、先ほどもちょっと触れましたつもりでございますけれども、私は値上がりによる所得再分配という考え方は非常に、何と申しますか、内部に不合理を伴うと思います。つまり、所得を再分配することは、むろん情勢によって必要なものはあろうと思いますが、それはそれとして考えるべきものであって、物価騰貴によって、それを行なうということは、弊害のみあって公平を欠く、その効果のほうがより多く出てまいると思いますので、物価はどこまでも安定した上で所得の増大をはかっていくべきであるやに考えます。
  30. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 大体、総裁物価問題に対する考え方、御所見を承ってわかりましたが、非常に遺憾でございますが、政府考え方なり、それから政府政策やり方はそういう方向ではなかったんです。  ところで、総裁貨幣価値の安定なり物価の安定について、まあいま伺った限りにおいては非常に私は健全なる考え方を持っておられると思う。それにもかかわらず、総裁——昭和三十六年から池田内閣高度経済成長政策を打ち出したんですが、それが行き過ぎたと。ところで、行き過ぎをもたらした一つの大きな要因としては日本銀行の貸し出しがあったと思うんです。いわゆる成長金融というものですね。これは私は日本銀行に大きな責任があったんじゃないかと思います。昭和三十五年の貸し出し残高が大体四千二百億ぐらいですが、三十六年になりますと一兆円をこえております。一番多いときは一兆五千億ぐらいに行ったと思います。前に私は総理質問したことがあるんですが、それは、民間の大会社がシェアの拡大競争をして、成長意欲が非常に強い、そこで、それをとめることがなかなか困難だと言っておられましたが、いまになってみますれば、シェアの拡大競争の結果、過剰設備が出ておる、操短をしなきゃならぬという状況がある。そういう場合に、いわゆる金がなければ拡張できないのでございますから、通貨当局としましてはその点について、金利の引き上げの問題もありましょうし、あるいは窓口指導の方法もありましょうし、あるいはまた前は高率適用もあったかと思いますが、いろいろそういう措置によりまして調整をするのが当然ではなかったかと。機構上できると思うんですよ。それがいまから見まして、結局、民間会社の過度のシェアの拡大競争を金融面からこれを促進したという結果になっていると思うのです。この点については日本銀行当局も責任があると思うのです。いままで総裁がお述べになった通貨価値の問題、物価の問題等に対するお考え方とその点は相反している、矛盾している。そういう健全な通貨価値なり物価なりに対するお考えを持っておられるならば、なぜあの当時、日本銀行政府の出先機関ではなく、やはり中立性を持ってそこにき然たる立場で調整措置を講じなきゃならなかったんじゃないか、こういうふうに思うのでございますが、いかがでしょうか。
  31. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいま御指摘の点につきましては、御承知のように、日本銀行では三十六年以来引き締め政策をとってまいりました。その結果といたしまして、行き過ぎの部分が相当修正されたというところで、一年余を経ましてその引き締めを解除する——それが昨年の秋でありますが、という段取りにいたしたわけなのでございます。私どもといたしましては、お話のように、しょっちゅう通貨価値の安定、物価の安定ということを念慮に置きながら、金融面での調整をやっているつもりであります。一面において、取引の円滑を保つということも必要でございます。御指摘のございました窓口指導とかあるいはその他の方法によりまして、できる限りのことは尽くしてまいりましたつもりでございますけれども、十分な成果をあげたとは必ずしも言い得ないために、最近に至りまして、どうしても銀行の貸し出しをチェックしなければいかぬというところで、準備率の引き上げということ等をいたしましたことは、御承知のとおりでございます。私は密接な関係がありましたことは反省をいたしておりますが、ひとつ御指摘のような、また御希望のような気持ちで、今後一そう注意してまいりたいと考えております。
  32. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 最近成長率が、まあ三十六年以後ずっと下がってきております。それにもかかわらず、通貨の増加率は、成長率は下がっているのに、あるいは鉱工業生産が前より下がっているのにかかわらず、通貨の供給高は非常にふえてきておりますね。それから、それは現金通貨だけでなく、預金通貨につきましてもでありますね。これはどういうような現象なんでしょうか。
  33. 山際正道

    参考人山際正道君) 一つの面におきまして、私は、一般消費者の消費態度というものが相当膨脹いたしておりまして、そのために現金需要というものが相当ふえてきているというように考えております。他の一面におきましては、お話のように、拡大され過ぎた設備を、企業者として何とかこれを運転いたしませんと、企業全体の経営にも支障を生じたりあるいはコストが十分下がらぬということで、無理をして資金をつなぎながらやっているという面もあろうと思います。そういうことで、いわゆる企業間信用等もふえてまいっております。また一面においては、企業と金融機関との間の連繋関係から、金融機関の競争というようなことがそれに巻き込まれまして、いたずらに膨脹さしている面もあろうと実は思っております。それはやはりこの際としては十分に矯正さるべき諸点であろうと思いますので、十分今後は留意して進みたいと私は考えている点でございます。
  34. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 それから、もう一つ、最近のわれわれしろうとに判断のつかない現象があるのですが、最近は当面として鉱工業生産は上向いているといわれておりますね。それから、企業の決算も割合によそよりはいいといわれている。ところが、株はすごく下がってきておりますね。それで、昨年十二月ごろですか、株がうんと下がったときには、財界等は大騒ぎしましたね、証券界なんかも。最近は非常に、千二百円台に落ちて、さらに千二百円を割るのか割らないのかといわれるくらいに落ちているのに、案外財界とか証券界とかはあまり騒いでいないように見受けられるわけです。これはどうも実勢と株との間に非常な何かギャップがあるように思われる。われわれしろうとが判断して、その点の理解がようつかないのですが、これはどういうふうに総裁としては御理解になっているのですか。
  35. 山際正道

    参考人山際正道君) 御指摘の点が現在起こっている現象として最も理解がむずかしく、かつ非常にまた重要な問題をはらんでいる点であろうと私は考えております。生産は、御承知のように、少し高過ぎると思うくらいに伸びているのであります。また、会社の決算も、税収等からいいますと、わりあいに伸びている結果になっております。それにもかかわらず、いま御指摘のような財界一般の空気、証券界の模様というものは、一向はずみがついてこないということは、一見矛盾のように思われるのでございます。これはよく考えてみますと、私はやはり個々の企業の側にも、それから経済界全体としても、一種の、国民から見ますと、将来への不安定の要素を暗々裡に感得さしているのじゃないかという気がするのでございます。個々の企業から申しますと、外見見えているほどの実は収益があがっていないのじゃないかという懸念だろうと思います。たとえば、先ほどもちょっと例にあげましたけれども、物は増産しているけれども、一面滞貨がふえている、製品在庫はふえているじゃないか、あるいは掛け売りがどんどんふえておって、売れたといいながら現金の回収はどんどんおくれるし、利益はあまりないじゃないかということは、個々の企業としては不安定要素を感じさしている。また、財界全体の問題としては、先般御指摘物価の問題がある。これは一体将来どうなるか。それから、国際収支の問題、これがまた非常に困難なことになりはしないか。そうなると、強い金融引き締めが将来予想されるということがございまして、将来に対して何となしの不安ということがあらわれている。それに加えて証券界自体のいろいろな内部事情がございまして、鋭意いま改善に努力されておりますけれども、全体として改善されたとも見ていないというような点が相集まりまして、どうも証券界の活況というものがそこに出てこないという情勢ではないかと、実は判断しておりますわけです。
  36. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 私も、株価というものは先見性がありますから、やはり将来の経済の動向を反映しているのじゃないかと思う。そうだとすると、今後の経済の先行きでございますね、かなり困難なる情勢にあるものと見なければならぬと思うのですね。対内的には設備過剰の問題が起こってまいりますが、対外的には、来年は四月からIMFの八条国となり、自由化を本格的にやらなければならぬ。あるいはOECD参加とか、アメリカのドル防衛政策がもっと強化されるのじゃないかと、いろいろありますが、そこで、来年の経済見通し金融政策についてお伺いしたいのです。  さしあたり預金準備率が引き上げられましたが、公定歩合は引き上げられない。この点については、新聞の論説等を見ますと、両論ありますね。公定歩合の引き上げをすぐやることはあまりにドラスチックだ、まず預金準備率等の引き上げからという考えと、もう一つは、やはり筋を通してこの際公定歩合を上げる。預金準備率を上げても、それはそのまま中小企業等にもうすぐ響いてくる。それも実際には公定歩合を上げたのと同じような効果も出てくるのであって、将来公定歩合を上げるのじゃないか、いつ上げるかという不安定な情勢に置くよりは、やはりはっきりと公定歩合の引き上げに踏み切るべきじゃないかと、そういう両論あるわけですが、そういう来年度の経済見通しですね、かなりきびしいように株価にも反映すると思うのですが、それで金融政策としてはどういうふうにお考えになっているのか。やはりかなりきびしく金融政策考えておられるかどうかですね、その点を伺いたい。
  37. 山際正道

    参考人山際正道君) 経済の来年度の見通しという点になりますと、もうこれは御承知のとおり、非常に変化の多い条件がたくさんございまして、判定がなかなかむずかしいと思います。のみならず、私どもが担当しております部面は、最初に申し上げましたように、長期計画に対しまして短期的にまともな航路をはずさぬようにしょっちゅう訂正していくという任務を持っております。そういう点から申しまして、なかなか、いかなる変化があるかを予想いたしまして、あらかじめこれでこういう対策をとるということは非常にむずかしいと実は私は思います。思いますが、御指摘のように、これから将来はなかなかむずかしい問題が私は出てくることは予想できると思います。  基本的に申しますると、その間にあっても、先般来御指摘通貨価値を安定する、その安定を保つために必要な方策は講じていきたいと思うことはもちろんでございます。いまの段階において、公定歩合も上げるべきか、あるいは預金準備率引き上げだけで足りるのかという判定になりますと、これは時々刻々変化する経済界を対象に最も適切な処置を講じていくことでありますから、なお予断を許さぬと私は存じますので、要するに、先ほど御指摘がございました通貨価値の安定を中心としながら、いろいろとっております措置がどういう効果をあらわすか、たとえば今度の準備率引き上げということがどういう影響をもたらすかということを見ながら、何と申しますか、悪い言葉を使えば、症状に応じて必要な措置を強くも弱くもとっていかなければならぬということは実は考えておりますけれども、ちょっとその症状を予断するということはなかなかむずかしい。したがって、対策を、この際公定歩合を引き上げなきゃおさまらぬだろうとか、あるいはどの程度でいつごろだろうかということを宣言することはむずかしいと申し上げるよりほかないかと思います。
  38. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 従来の低金利政策については、これは続けることができなくなってきているということは、もういえると思いますが、従来世界の低金利にさや寄せするために国内金利を引き下げていく、国際競争力を強めるためにも。そういう考え方があって、国内の資金の需給関係をやや無視してまでも低金利政策をとってきた感があったと思うのですよね。この点はずいぶん議論が前にもありましたが、金利政策については、そういう点、従来の世界的な金利水準までさや寄せしていかなければならぬという考えと、それとこれは機械的にはいえないかもしれませんが、物価あるいは国際収支の面から金利を引き上げねばならぬということになれば、矛盾してくるのじゃないかと思うのです。そういう点はどうなんでしょう。国際競争力をつけるためには、世界的な金利水準まで下げねばならない。ところが、国内物価の問題や国際収支の問題を調整するためには金利を上げねばならぬとなると、このことは矛盾してこなければならぬと思うのです。その点はどういうふうにお考えですか。
  39. 山際正道

    参考人山際正道君) 過去において、日本銀行の公定歩合も幾たびか下げてまいりましたのでございますが、これは国際金利水準に近づけなければならぬから下げたのでは実はございませんで、むろん日本の金利水準が高いことはわかっておりますから、国際競争力をつけるためには、その意味からいえば、国際金利水準程度までもっていきたいということは、希望としてはむろんございますけれども日本銀行が行ないます措置は、一つのそういう目標を持ってやったということではございませんで、下げ得るときには下げる、上げる必要があるときは上げる、つまりこの態度でなければならぬと思います。前回下げましたのは、引き下げましても他に影響をたいして起こさぬという判断をいたして下げたわけでございますが、しかしながら、何も一定の政策なり、何と申しまするか、スケジュールに従って下げておるわけではございません。上げる必要があって、そのことによって経済の調節がうまくいくというときは、むろん日本銀行は上げるにちゅうちょすべきではないと思います。したがって、長期的にいろいろなことをいわれておりますけれども、私ども短期の調節を任務といたしておりますものといたしましては、その点は全く自由に、とらわれずに考えていきたい、かように考えております。
  40. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 きょう午前中、政府の三十九年度予算編成前提としての経済見通しとか、経済基本方針について質問したのですが、その際、来年度の物価は三、四%くらいに押えていくというような話であった。しかし、その押え方につきましても、従来は予算編成のときに経済企画庁で作業しましたですね、経済見通しの数字を発表したわけです。今度もするでしょう。三十八年度は二・八%の消費者物価の値上がりを予想した。実際は七%から八%近く上がっておるわけです。来年度三、四%にかりに押えたい。それは目標なのですね。目標で、突っ込んでいくと、自由主義の経済であるから計画経済と違うのだ。だから、それは目標だ。過去の例からいって、三、四%の消費者物価の水準を予想して、そうしていろいろな予算を編成する経済の上の基本方針をきめるとしても、またそれ以上に上がってしまう場合にはどうするか。ところが、それについてははっきりした答弁がないのです。そうすると、実際問題として、いろいろ民間で来年の経済見通しをやっておりますが、消費者物価を五%なりあるいは六%なり予想していますね。そういうふうに考えると、また将来やはりその程度物価騰貴が予想される。特にまた、成長政策もと物価が上がるのはこれはやむを得ないというような考えが支配的でありますと、絶えず通貨価値は減価していく。そういう場合に、国民の側として、物価騰貴通貨対外価値の低下によって損害をこうむる。こういう点を防ごうとしてもなかなか防げない。それで、主婦の人たちがおしゃもじかついで物価値上げ反対の運動をやっても、結局上がっていってしまう。そうしますと、どうしても私は安定価値計算考え方を導入しなければ物価値上がりによる生活の圧迫を食いとめることができないのではないか。  さっき総裁が、一カ年六%以上、三カ年二〇%以上の物価騰貴は異常であると。異常状態が続いているのですね。普通常識としては一%から二%ですね。多くて三%ですか、高くて二、三%が常識ですが、五%も六%もこの上何カ年も継続的に上がっていくことは、さっきお話ししたように非常な、低額所得者が実質的に減価するだけじゃなくて、貯蓄にも影響があるのですから、安定価値計算の制度を導入する必要があるというようにわれわれは考えるのです。そうしないと、政府は来年三%ぐらいに押えるといっても、実際に押えられないですよ、今までの経過からいって。ですから、たとえば賃金については、労働基準法にいう賃金は通貨で直接労働者に支払わなければならない、その通貨について、それが減価する場合には総理府統計局消費者物価指数を基準にしてスライドするということも入れる、あるいは公債、社債そのほか生命保険貯蓄銀行預金等についてもこれがありませんと、それは非常に不道徳、不正義であるばかりでなく、国民として安心できない。これは邪道だと思うのですけれども、そうやるよりほかに国民生活物価騰貴から防衛する方法がないわけですよ。ですから、ある会社によってはそういうスライドを採用したところがあるわけです。しかし、最近それをやめてしまったように聞くのですけれども、そうすれば物価が上がっても心配ない。しかし、そのかわり、物価がどんどん上がればますます賃金は上がる、あるいは安定価値計算によって所得はふえていくのですよ、名目的に。そういう弊害がありますが、しかし実際問題としてそうでもするよりほかに通貨価値の低減、物価騰貴によって生活が圧迫されるのを防衛する方法がないというふうにどうも考えざるを得なくなってきているのですけれども、この点について総裁はどうお考えですか。
  41. 山際正道

    参考人山際正道君) 私は安定価値計算は理論上まことに巧妙な施策のように思いますけれども、しかしながら、実際問題としては私はそれをとることはやっぱり一種経済社会に混乱を呼ぶもとのように思うわけでございます。むしろわれわれはここで非常な決意をもって、安定価値計算を必要としない、また必要としないことについての信頼を得るということに一〇〇%の努力を傾注することがまあ一番望ましいことであって、それに向かってもっともっと努力しなければならぬと思いますので、にわかにここで安定価値計算がわれわれとして望ましいということは実は申し上げかねているわけでございます。
  42. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 外債なんかについてはゴールド・クローズというのがありますね。ですから、私は、それは安定価値計算を採用しないで済むならば、そのほうが望ましいわけです。しかし、今まで政府昭和三十五年以来、いろいろな物価対策を何回も発表してきているのですが、一つもそれが効果をおさめていないのですね。物価対策を打ち出しながら、政府がまたすぐに料金を何か上げてしまって、そしてそれで連鎖反応が起こって物価が上がってきている。信頼が置けないわけですよ。そんなに安定価値計算が望ましくないなら、それを必要としないような環境を全力をあげてつくらなければならぬ。それは口ではそういうふうにわれわれも言うのでありますけれども、実際問題はそうじゃないんですよ。しかし、今後もはたして物価騰貴を防ぐことができるかどうか、総裁はどうお考えですか。そういう正直な見通しとして、政府が三%に押えるためにはかなりきびしい政策をとらなければなりませんね。そうなると、今度は成長率も落とさなければならぬ。そうすると、財政収入は自然増収も見込めない。そうすると、かなりきびしい緊縮財政をとらなければならぬ。そうすると、デフレ的な状態になり、失業の問題も生じてくる。そういうことも予想すると、そう簡単にはいかないのじゃないか。そうなると、どうしてもやはり安定価値計算、そういう制度の導入ですね。ですから、ほんとうに安定すればそれはやめてもいいわけですが、そうなるまではそうやる必要があるのじゃないかと思うわけです。  また、物価がどんどん上がってきますと、租税上税負担の不公平が出てきますし、物価が値上がりしても基礎控除を上げないということになると、最低生活に食い込むというようなことも出てくる。これは非常に無理な質問かもしれませんけれども、まあざっくばらんに、今後の物価見通し政府は三%に押えるというがはたしてそこまで押えられるかどうか。大体五、六%くらいいっちゃうのじゃないかという気がするのですよ。  それから、日銀当局としては、たとえば政府が来年の三十九年度予算編成前提として経済見通しの数字を出しますね。三%、四%と出した場合、それは目標でありますけれども金融政策としてはそれよりこえそうになればやはり三、四%にいくように政策をやるのかどうか。いままでは二・八%という目標を立てて、しかしどんどん上がっても二・八%と出した目標を守るという努力をしていないのですよ。今後はそれでいいのかどうか。それで、金融政策としてもこれまでと違った物価安定に対する態度を進めるのかどうかですよ。三、四%という従来の目標だけを——これは目標だからしょうがないけれども、そういうふうに今までと同じように考えられるのかどうか。ところが、物価の安定が重要になってきておるから、来年の物価対策というのは従来と違って単なる目標ではなく、三、四%こえようとする場合には、あらゆる政策を尽くして三、四%にとどめるという努力をするのかどうか。それは金融政策の面からどういう措置を考えられるか、お聞きしておきたいのです。
  43. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいま御指摘のございました点でありますが、私は、実は安定価値計算というのは、実際問題としては弊害がむしろ大きくなる可能性がある制度であって、実際政策として取り入れることではないというように考えておりますが、まして中央銀行当局といたしましては、それを是認することはいわば自殺行為でありますので、これはちょっと私どもは是認し得ない点であります。  しからば、政府が一定の目標を掲げて、もし事実がそれをこえるような場合にはどうするかというお尋ねでありますけれども、私ども考えといたしましては、通貨価値の安定ということを目標にいたしておりますので、それが何%がいいか悪いかというような問題は、政府の目標がありましても、とらわれないという考え方でおります。事実、従来も政府が何%の値上がりは許容するということを目標として掲げましたといたしましても、それをもと考えたことはございません。むしろ現状をいかにして安定的に維持するかという点で考慮をいたしておりますので、さような懸念のある場合には、その目標のいかんにかかわらず、とるべき措置は断固とりまして、事を事前に押えていこうという決意を固めておりますので、したがって、安定価値計算の点はその必要がないような事態をつくっていきたいというふうに考えております。
  44. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 最後に一つ日本銀行法の改正の問題について伺っておきたいのですが、前に舟山試案等も出まして非常に問題になっておりました。現在日本銀行法改正の問題はどういうような処理になっておるのでしょうか。
  45. 山際正道

    参考人山際正道君) あれは昭和三十五年であったと思いますが、金融制度調査会におきましていろいろと慎重な論議が重ねられました。で、あのとき主として、幾つかの問題がございましたが、主として日本銀行の中立性という問題を中心にいたしまして激しい論議がございましたが、その結果どうしても単一の意見にまとまりませんで、まとまらないままに答申が出されまして、自来、形の上から申しますると、そのままになってきておるのでございます。まあ運営の衝に当たっておりますわれわれといたしましては、現在与えられております中立性をどこまでも維持いたしまして、そうしてむろん政府施策に対してある限度においては協力しなければならぬ点もあると思います。それは先ほど来御指摘通貨価値の安定を守るというのが基本任務でございまするから、その任務に反しない限度においては協力することは当然だろうと思いまするけれども、そういう運用の実際において十分協力関係や協調関係を保つことに留意いたしまして、この法律の問題はいまのところ別に促進もしなければ、またやめてくれとも実は言っておりませんが、金融制度調査会の意向にまかしておるような状態でございます。
  46. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 日本銀行法を見ますと、あれは戦時に改正されたですね。それから、そういう点では私はやはり改正する必要があるように思うんですね。で、あの目的のところを見ましても、どうも戦時動員計画に日銀が協力させられるような経過、あの当時を思い出すからそういうふうに読めるのかもしれませんけれどもね、日銀の立場が非常に国力の発展に寄与するように通貨金融の助成をやるというように書いてある。それで、政府政策に従属するような規定の仕方ですよ。私どもこう見ますと、自主性とかあるいは中立性とかいうものはどうも希薄なように思いますが、あすこをもう少し何か中立性を強めるように改正する必要があるんじゃないかと思います。  もう一つは、政策委員会ですね。あの政策委員会をもう少し、あすこの委員をもっと広範に利害関係のあるメンバーを補充する必要があるように思うんですが、この点についてはいかがでしょうか。
  47. 山際正道

    参考人山際正道君) いま申し上げましたような経過で、日本銀行法の改正案の審議はとまっておりますけれども、しかし、これはだれもそのままにしておこうというのではなくて、その間に各界においてそれぞれ必要な研究は進めるという了解になっておると思うのでございます。で、実は現行法はおっしゃるとおり戦時法でありまして、私が当時実は立案の衝に当たりましたのです。したがって、今日として改正を要する点という点は私もよく存じております。が、きわめてその重要なる点において三十五年には意見の一致を見ませんままに、基本的なことは解決されずに今日に及んできておるわけでございます。どっちかといいますと、あの当時のことを思いますと、やっぱり国家の施策を統一する見地から日本銀行の中立性はある程度にとどめたほうがいいんじゃないかという、政府が指示権を持ちたいというのが論議の中心であったわけです。私は、指示権は必要ない、実際上通貨価値の安定という点を除けば政府施策に協力するのが当然だと思うから、それは運用の実際において解決できるということで譲らなかったわけであります。その問題がかくかくのまま今日に及んでおります。各界の研究はまだ発表されておりませんけれども、私はやはりこれはだんだん研究を重ねまして、機会を得て再検討をさるべき法律であろうとは考えております。
  48. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 最後にひとつ、国際収支の問題について伺いたいのですが、どうも来年の経済問題の中で国際収支の問題はかなり大きく出てくるのではないかと思いますし、特に利子平衡税の影響等もあると思うんです。そういう点から、来年の国際収支をどういうふうにお見通しになって金融政策を行なわれるのかですね。大体の見通し、これは政府のほうではかなり政策的な努力をしても二億ドルぐらいの総合収支の赤字は避けられないんじゃないかと言っておりますが、このままの調子で安易にいけば四億ドルの赤字になるかもしれない、こういうような政府のほうの立場らしいのですね。特にこの国際収支については、貿易外収支が非常に悪い。それで、これは短期間にすぐに直りそうもない、非常な重大な問題だと思うのです。そういう点について、やはり金融当局として、この国際収支の問題は非常に今後重要でございますので、その見通し、それからアメリカの利子平衡税、あるいはそれ以後においてジョンソン大統領になってから、ドル防衛策がケネディ大統領のときよりはどうも強められるような印象を持たれるわけですね、そういうような点について、日銀はいろいろ資料もお持ちでありますし、よく調査もせられていると思いますので、できたらなるべく詳細に承りたいと思うのです。
  49. 山際正道

    参考人山際正道君) 来年度の国際収支見通しにつきましては、ただいまお話のございましたとおり、鋭意いま政府でいろいろな資料で固めておるように聞き及んでおりますが、的確な数字は別といたしまして、なかなかむずかしい条件が累積してくるだろうということは私どもよく感じております。はたして宮澤長官の言われるような数字でとどまり得るか、あるいはもう少し改善できるか、今後の政策のとり方、それに対する経済界の受け取り方にもよりましょうと思いますけれども、いずれにしても容易ならざる状態を予想しなければならぬということは私も考えております。  私どものほうで特に重視しておりますのは、生産の水準が依然として高いのでございまして、このため原材料としての輸入が相当ふえております。輸出は最近、アメリカの経済界の好調を反映いたしまして、わりあい伸びておりますけれども、それ以上に輸入がふえているのであります。でありまするから、どうしても今後は、いろいろな金融施策もございますけれども、大きな経済政策としまして、一そう徹底的に伸ばすという政策がむろん基本になろうと思います。けれども、一方においてはあるいは国産品を愛用するとか、あまり行き過ぎた消費態度は慎しめとかということで、健全化をはかる必要もあろうと思いまするし、それから御指摘国際収支の点で日本経済が持つ一種の痼疾は、貿易外収支の赤字でございます。しかし、これは特に海運収入のほうが非常に都合が悪くなっておりますのが、一番大きな点でございますが、その他にもあるいは特許料その他の支払い等も累積いたしておりますので、これはなかなか構造的問題も持っておりまして、お話のように一朝一夕には容易に回復はできませんけれども、鋭意これを回復しなければならぬ。  そこで、御承知のとおりに、従来はいわば外資導入政策でどうやらその赤字をカバーしてまいったわけでありますけれども、それがいまお話しの利子平衡税の発動によりまして、基本になっておったアメリカの資料というものが利用できないということになってまいったわけでございます。このことは基本的には私はやはり借り入れ金政策におのずから限度があっても、やはり国際収支を健全に保つゆえんでないので、ある限度においていわゆる反省が必要だと思いますけれども、経過的にやむを得ない点も私はあったろうと思いますが、それを本筋に持っていく政策は間違いだ。どこまでも、外資導入はしばらく別にしても、なおかつ国際収支は健全にいける、私ども別にいわゆる何と申しますか、経常的な収支において権衡を保つということを目標に進むべきであり、それが一挙にはできないとなれば、その間をつなぐことも考えていかなければなりませんけれども、そういう観点から見てみますと、なかなか来年度は困難な状況が多いと思います。  なかなか生産の落ちないというような点、これが国内金融政策によってチェックすることができますならば、それら必要な措置をとらなければならぬと実は考えておりますが、何ぶんにも近ごろは、一般国民の消費ブームと申しますか、これが国際収支の変化に直結いたします部分が相当ございます。これなどはいま直ちに、中央銀行ばかりでなくて、一般的国民運動として改善をはかるということも実は必要だろうと思います。  容易ならざる前途とは思いまするけれども、まあ各方面が力を合わせましてこれを改善することに努力してまいりたいという決意を持っておるような次第でございます。決して楽観はいたしておりません。
  50. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 そのいまの総裁のお話もございましたが、国際収支については、貿易外の収支、これが非常にガンになっておる。特にその中で海運収入ですね、が問題だと思うのですが、それにもかかわらずOECD参加の条件としまして海運の自由化についてあれだけ譲歩をしてしまったんですね。そういう点でどうも私は理解がつかない。五年か待ってくれといったんでしょう。それをだんだん譲歩して、あれは二年ですか、三年ですか、早めなければならぬということになりましたね。そういうようなことはどうも、貿易外収支が非常に重大だ、特に海運収入が重大だといいながら、そういうところを譲歩してしまう、そういう点がどうも重大性を認識されていない。  それから、もう一つは、いままでのボローイング・ポリシー、借金政策でやってきたことについても、どうも私は、まだ安易な考えで、国際収支が悪くなり外貨準備が少し減れば、IMFあたりからスタンドバイ・クレジットを与えられ得るから、そういうやはり安易な考え方があるのではないか。どうも来年は、あまり引き締め政策をとると国内にフリクションが生ずるから、生産水準はあまり落とさない、成長もあまり落とさない、結局国際収支にしわ寄せしていって、赤字が多少出ても、それはその赤字を急速に縮める努力はあまりしないで、次の年度くらいにこれを延ばしていく。その間にスタンドバイ・クレジットを借りて、そして糊塗していく。そうなると、日本国際収支基本的にやはり不健全だということがわかれば、いま日本対外的な債権債務状況、短期債務がかなりありますから、ユーロダラーなんかどんどん引き出されていくということになったら、これは非常に危険ではないかと思うのですね。そういう点で、どうも真剣に国際収支の問題について取り組んでいない、何か安易に考えているように思われるのですが、そういう感じがするのですよ。この点について最後に総裁にお伺いしまして、私の質問はやめます。
  51. 山際正道

    参考人山際正道君) ただいま御指摘のとおり、国際収支問題というものは、もっともっと国民一般が真剣に考えてこれを改善するための努力に最善を尽くすべきだと思います。政府もむろんその音頭をとるべきだと私は考えております。年限を延ばすことによって多少経過期間をかせごうという考え方では、十分に解決できない。むしろできるだけの改善をはかって、これしかできぬから、やむを得ずこの程度は経過期間を認めてくれということでないと、その意味は生きてこないと私は思います。IMFや、それから過般日本銀行とニューヨークの連邦準備銀行との間に取りきめました預け合いの協定にいたしましても、こういう政策をとるから必ず日本国際収支は改善される、立ち直ってくるから、それじゃしばらく経過的にささえをしようということにはなると思いますけれども、何らのもっともらしい措置もとらないでおいて、ただ足らぬから貸せでは私は貸してくれぬと思います。だから、どうしても、経過的な措置はありますが、その間において、こうすれば真剣に立ち直るということを向こうも認め、われわれもそのつもりになるならば、施策も十分進められるんじゃないか。こうすれば世界の信任を得まして、いまおっしゃったユーロダラーの問題もおのずからとまってくると思います。いまのところユーロダラーはなるほど年末に際して引き揚げられている分が多いのでありますけれども、幸いに日本の信用を疑って引き揚げられておるというのはまだありません、向こうの金融事情によって出ていくということはありますけれども、ですから、いまのうちに将来の信用を十分国際的につなぎとめ得るだけの施策を施すことが絶対に私は必要だと考えております。
  52. 津島壽一

    ○津島壽一君 それじゃ、総裁に簡単にお尋ねしたいのですが、この間総裁はヨーロッパのほうをお回りになりまして、BIS、国際決済銀行、これに参加するというか、また昔の地位に返るかという問題、大きい問題だろうと思うのです。その点について、この機会に簡単に総裁の見たところなり情勢をお話し願いたいと思うのです。
  53. 山際正道

    参考人山際正道君) 私は過般欧米へ出張いたしました機会に、いま御指摘のBIS、これは国際決済銀行と訳しておりますが、の総裁であるホルトップというオランダの中央銀行総裁でございますが、その人と懇談をいたしまして、その結果、今日の状態においても、バーゼルにあります国際決済銀行が各国の金融政策に関する話し合いの場として非常な実際上有力な働きをしておることをお互いに認めまして、今日の力を得た日本としては、やはりこれに参加したいし、向こうも来てもらってけっこうだという了解に達したのであります。ただ、あれは御承知のとおり、第一次欧州戦争直後のドイツの賠償問題を解決するための金融機関でありまして、したがって、当時は日本も株主として重役にも列しておったのでございますけれども、第二次欧州戦争の際に日本の持ち分は没収されまして、今日では何ら関係を持っていないということになっておるのでございますけれども、最近のわが国の地位にかんがみまして、話し合いの場に列席をさして、諸般の情報を交換し、お互いに助け合うということには異存のないという段階にまで参りました。そこで、私のほうといたしましては、私自身が、毎月定期の会合がございますので、行ければいいのでございますけれども、それもできませんので、私のほうの重役を毎月バーゼルに派遣いたすことに話し合いをきめまして、非常に御苦労でありますけれども、現実にそれを実行いたしております。  これは建前こそは昔のままの国際決済銀行でありますけれども、この実際やっております仕事から申しますと、全世界にわたる金融政策の国際的な協力舞台として非常に重要でございますので、日本も株主としてその地位を認められたわけではございませんけれども、実際上オブザーバーとして委員同様の取り扱いを受けて、発言の機会、またいろいろ相談にあずかる機会を持ち得るということは、将来における日本の国際金融の協力上非常に私は有効な場面と考えております。で、この地位は極力私どもといたしましては長く保ちまして、利用をいたしていきたいと考えております。
  54. 津島壽一

    ○津島壽一君 よくわかりました。それで、これは希望ですから、どうなるかわからぬことだと思いますが、そのBISができた時分から日本は非常に協力し、この機構をつくるにあたっても、またその後の運営でも、非常な重要な役割りを占めていた。いま開放経済というか、為替・貿易自由化とか、あるいはいろいろな国際経済機構に入っていくという段階で、金融面においては、IMFはもちろんもうすでに入っておるのですが、こういった機構になるべくひとつ正式の参加というか、ほんとうに株主権というか、そういったようなものを持って参加するというところに御努力願いたいのです。それはアメリカの機関じゃないのですけれども、ヨーロッパの中央銀行がおもでしょう。そういう点においては、米国の金融機関との関係のみならず、ヨーロッパ方面に重大なウエートがかかる時期もあろうと思うのですね。そういった意味において、単に陪席して傍聴するという、いまはその段階けっこうですが、それをひとつ推進するように、政府総裁中心となって御努力願いたいということを希望いたします。  それに関連して、はなはだこれはとっぴかもわからぬのですが、そういったように、現にパリでもIMFの十国の委員会が開かれておるということであり、いろいろな国際機構に入った場合において、私が特に感ずることは、こういった場合は世間並みのことをやっていかないといかぬのですね、中央銀行は。日本では特殊な運営、特殊ないろいろな取り扱いをやっていくということでは、どうも何というか、幅がきかないわけですね。これは自分たち長い間の体験ですが、それで一つ例をいえば、先ほどもお話が出ましたからそれに触れるのですが、中央銀行の中立とか独立性、自主性という問題、これはヨーロッパ諸国でもアメリカでも非常に尊重され、政府もそれをよく理解して仕事をやらしているんですね。これは中央銀行等の寄り集まりの会議では必ず問題になる。  そこで、たとえば日本で最近の状態を見ますと、日銀の公定金利の上げ下げ、権衡という問題になってきますと、よく新聞等で政府当局が先に、年内は金利は上げない、来年はどうかわからぬ、こういうことを公に言うことは、私は総裁の立場に対して非常に同情を持つんですね、これは重大な職務ですから。だから、この点に関する限りにおいても、政府政策委員会委員を出し、日常監督する地位にあり、銀行局というものもあり、いつも連絡する機構が整っているんですから、内部において十分密接な連絡をしておはかりになるのが当然です。ところが、ああいうふうにどんどん金利の歩合の上げ下げを先にやらないんだということを言うのは、私はこれは適当な機会に、大蔵大臣がこの委員会に見えたときに、もっと具体的に言いたいと思うのですが、これはわれわれも日銀におったのですが、その期間においても、一回もそういうことが大蔵省側から——これは山際君がその当時大蔵省におったからでしょうけれども、これはやはりこういうことは内部で十分連絡して、どっちが言うかということもきめ、そうして適当な機関で正式に決定を発表するという一つのルールですね、これは、スポーツでいえば。そういう点を実行するということが、今後の開放経済というか、世界の仲間入りをしてやっていくという場合には必要だろうと思う。そういう意味において、私は、これはいま質問——まあここで総裁答弁いただくというと、ちょっと困るということはないでしょうが、この機会は適当な機会でないと思いますので、したがいまして、来年から自由貿易——いわゆる貿易自由化、為替の自由化、いわゆる開放経済、講和後十二年間たってやっと日本は一人前に国際経済金融の舞台に乗り出すという機会ですから、これは非常にいい機会だと思うのですね。いままではいろいろな変態的な工作を講じられたのですけれども、もうここでほんとうにりっぱな日本経済、国際経済対外経済、まあ中央銀行の運営という面でもこれはひとつお考えになっていただきたいと思う。こういうことは、まあ総裁がこういうところに見えたから顔を見て、これは自分でおった経験からいっても、過去においてもそういうことは、信頼するというか、十分内面的において話し合いをしてきめる。前もって金利は来春に上げるのだというようなことは、言いもしない。これは英蘭銀行では絶対にないことです。同行で上げるかどうかを決定する、変わらない場合はノー・チェンジという発表をすればそれで済むということになっておるのです。これは一例であるけれども、あらゆる——いまの物価対策の問題に対しても、いろいろなことにも関連があるのですね。これはお答えを要求するわけではないけれども、ひとつこれだけのことを、何というか、老婆心というかで申し上げておるわけですけれども、おそらく総裁としても腹の中じゃそのとおりだと思っていらっしゃると思うのです。また、そのとおりだというふうに言う必要もないのですけれども、これだけのことを所感として申し上げる次第でございます。ひとつよろしくお願いしたいと思います。
  55. 新谷寅三郎

    委員長新谷寅三郎君) 他に御質疑もないようでありますから、日銀総裁に対する質疑は、本日のところ以上をもって終わりたいと思います。  山際総裁には、お忙しいところを長時間御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  明日は午前十時から委員会を開くことにいたします。  本日はこれをもって散会いたします。    午後二時四十五分散会    ————————