○吉川兼光君 私は、民主
社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました鶴見、三池の二大事故について、
政府に対し幾つかの重要な問題点に関して
質問したいと思うのであります。御
答弁は、
総理大臣、運輸
大臣、
通産大臣及び
大蔵大臣にお願いをいたしたいと思うのであります。
質問に入ります前に、まず、私は、鶴見、三池の二つの事故の犠牲になられました六百十九名の方々並びにその遺族に対しまして深く弔意を表するとともに、現在負傷加療中の方々に心からお見舞いを申し上げ、一日も早い御回復をお祈りいたすものであります。(
拍手)
十一月の九日、突如として発生いたしました鶴見、三池の両事故は、その
規模の大きいこと、さらに凄惨、深刻な点におきましては、かつて前例を見ないものでありまして、このニュースを聞きました
国民は、まさにがく然としたのであります。私どもは、この二つの大事故に直面した当時、これは単なる偶発事ではなく、その背後には事件の発生を必至ならしめた安全管理に対する日ごろの怠慢と
基本的な欠陥があると直観したのでございます。(
拍手)この私どもの直観は、その後の
原因調査によってその正しさが日に日に事実として証明されるに至っておるのであります。私は、まず、このたびの二大事故の発生の根本
原因は決して偶発的なものではなく、人命を軽視し、金と物本位の
政策にきゅうきゅうとする
政府及び自民党の
高度成長政策そのものの結果であるということを、この際はっきりと指摘しておきたいと思うのであります。(
拍手)
そこで、まず
鶴見事故から入ることにいたします。
この事故は、犠牲となった死者が百六十二名、負傷者百十六名を出しており、いまなお入院中の者が五十三名もありまして、昨年五月の三河島事故を上回る、まさに世紀の大事故であります。
この
鶴見事故の
原因は、レールのせり上がりによる貨車三両の脱線にあるとされております。しかし、どうしてレールがせり上がったかという
原因については、実験をしてみたり、いろいろやっておるようでありまするが、まだ真相が把握されておらないようであります。そのときに使用しておりました貨車は新造車両でありまするし、また、スピードは正常の六十キロから出ておりません。レールは最も整備されている東海道の本線であります。その他、乗務員の応急の処置に至りましては少しも落ち度はなく、きわめて妥当であって、むしろ模範的なものであったといわれるのに、しかもこのような大事故が起こったということは、全く処置なしと私は
考えておるのであります。私は、毎日百万からの通勤者を
東京に送り出しておりまする千葉県に居住しておるものでございまするが、この千葉と
東京をつなぐ二筋の鉄道のうち、
一つは昨年の三河島事故を起こした常磐線であります。残りの
一つは総武線というのでございますが、これがまたまた昨日の朝、鉄道事故を起こしたのであります。すわちす、小岩駅と新小岩駅の間で貨物列車に電車が側面衝突をいたしまして、六両が脱線転覆して負傷者を出しておるのであります。この衝突のケースは、
鶴見事故によく似ておるのでありまして、危うく
鶴見事故の二の舞いを演ずるところであったのであります。この線は、つい四日前にも、送電線と架線の故障で、御茶ノ水駅と小岩駅との間が長時間不通になったという事故が起きたばかりのところでございます。
とのように
東京周辺の鉄道は、いつどこで大事故が発生するかわからず、それこそ一触即発の状態にあるのでありまして、乗客はまさに戦々恐々、薄氷を踏む思いをして鉄道を利用いたしておるのであります。皆さん、いまや
東京通勤者を持っております御家庭では、いつ何どき主人や娘が国鉄のギロチンにかけられるかしれないというので、毎朝食事のときに
家族の間で水杯をかわし、主人は遺言状を書き、奥さまは殺人電車で往復する
家族の一路の平安を祈り、玄関でおまじないの切り火を切って通勤者の無事を神に祈っておるといわれております。これは笑いごとではない、まことに深刻な情景であると申さねばなりません。(
拍手)池田
首相はこの話を聞いて笑って済ますのでありまするかどうか承りたい。
国鉄の監査
報告によりますると、鉄道事故の件数は戦後増大の一途をたどっています。戦前には年間五千五百仲
程度でありましたものが、
高度成長政策がとられるに至りました
昭和三十六年ごろから急増いたしまして、翌三十七年には二万二千百七件にふくれ上がりまして、前年に比較いたしますと一〇・七%の増という、異常な増加を示しでおるのであります。踏切の事故だけについて見れば、その発生率は、イタリアの七倍、フランスの九倍、西ドイツの十一倍という、まさに近代国家の名に恥じる発生率を示しておるのでございます。何ゆえとのような事故が起こるのでありましょうか。この点について、事件発生後、石田国鉄総裁は、こういうことを語っております。事件の根本
原因が国鉄の輸送力増強を第一義とする過密ダイヤそのものにあるというのであります。すなわち、総裁は、この
ことばの中で、人命の安全、人命の尊重を度外視した現在の国鉄の経営
方針、国鉄の体質そのものが、事故の発生を必然ならしめた根本
原因であると告白しているのであります。いまの国鉄の過密ダイヤは、まさにアクロバットとでもいうべきでありまして、現在の国鉄の状態から見ますれば、事故が起こらないほうがむしろふしぎと言えましょう。池田
首相は、昨日この壇上から大声を張り上げて人命尊重論を述べておられましたが、あの声を聞いた事故
関係者はもちろん、
国民の耳に何とそらぞらしい響きを伝えたことでありましょうか。
そこで、私は、
政府に
お尋ねいたしたいのでありまするが、今回の
鶴見事故発生の根本
原因を
政府はどのように
考えているのであるか。単なる偶発事故と思うのであるか、それとも、安全確保について国鉄当局に重大なるミスがあったと
考えられるのであるか、あるいは現在の国鉄そのものが事故を発生させる必然性を内包しておるとお
考えになるのであるか、さらにまた、
高度成長政策の進展に伴い、交通、輸送事情はますます悪化し、前に述べましたように、事故発生率が異常に高まっている事実について、
政府はどのような
見解を持つものであるか、これらの点について明快な
お答えを
伺いたいのであります。
私の判断によりまするならば、今回の事故発生の根本
原因は、国鉄が
企業体として、損益あるいは営業成績を重視するあまり、人命の安全確保が第二義的に
考えられているところに
基本的な問題があると思うのであります。たとえば、何らの保安設備もない無人踏切がいまなお八五%も占めておるという
現状、
東京の国電が、年々急激な人口増加にかかわらず、人口増加に見合うような新線の建設がここ三十年もの間全く行なわれておりません。まさに大正時代の国電網に依然として依存しております
現状、通勤輸送における乗客率が、いわゆる危険率の三倍、四倍に達しておるという
現状、国鉄職員の労働強化が極限に達しまして、運転士は三十秒ごとに一本の割合で信号を見なければならないという
現状、しかも、国鉄ではこれからの保安
対策に対する計画の樹立、変更、
実施について全くその
責任の分野が
確立されていないという無
責任な状態、そのほか、車両の安全度に対する科学的分析の欠除、老朽施設取りかえに対する標準の未決定、さらに、運転要員の養成は、規定では六カ月ときまっておりますのに、今日ではその半分の三カ月の教育で——これはただし書きで三カ月でも使えるように書いてある。そのただし書きによって現場にどんどん押し出しておるという事実、国鉄の安全確保
対策はことごとく行き詰まっており、今回の事故は、まさにこのような国鉄の
現状そのものから必然に発生したものと私は断ぜざるを得ないのであります。すなわち、国鉄当局の安全確保に対する怠慢と、これを監督する運輸省の指導、助成策の欠除が今回の事故の根本
原因をなしておると思うのであります。その意味で、今回の大事故の最大の
責任は国鉄当局並びに
池田内閣そのものにあると断言するものでございます池田
首相は、今回の
鶴見事故の
責任について、どのような形でその
責任をとろうとするのか。たとえば国鉄総裁の
責任はどうなるというのか。さらに、犠牲者、その遺族、負傷者の
対策はどうなさるのか。それらの点について池田
首相及び運輸
大臣の具体的な
方針を繰り返しお
伺いいたしたいのであります。
同時に、そうした国鉄の
現状は、今日なお依然として解消されておりません。したがって、
国民は、今後も従前同様の危険にさらされているわけでございまするが、この危険を除去するために、国鉄の体質
改善について、
ことばをかえて言いまするならば、国鉄の再建について、池田
首相はいかなる
対策をお持ちでございまするか、それをここで明らかにしていただきたいのであります。実は、このあたりで思い切った
予算を国鉄に回して、根本的な再建を
考えていい時期でないかと私は
考えるのである。当然
政府にも
対策がなくてはならないのでありますから、その具体的な
施策の全貌を、この際運輸
大臣から明らかにしていただきたいのであります。しかして、具体的な
施策には、当然相当額の
予算の裏づけが必要でありまするが、ただいま
大蔵大臣の説明を伺っておりますると、顧みて他を言うというきらいがなくもない。私は、そういうものでなく、前向きの姿勢で、今後の国鉄の再建に大蔵省はどうするか、
総理大臣はどうするかということを、はっきりこの場所で
答弁していただきたいと思うのでございます。(
拍手)
次は、三池三川鉱の炭じん爆発についてであります。これは多賀谷君からかなり詳しく御
質問がありましたから、できるだけ重複しないようにしたいと思います。
私は、先日実地
調査のため実は三池まで行ってまいりましたが、その
被害の凄惨苛烈なことは、とうてい筆舌に尽くされるものではありません。この大惨事も、ただいまの
鶴見事故とその
原因において相共通する
要素を内包していると思うのであります。くしくも、日を同じくして起こりました三池、鶴見の二つの大事故が、いずれも
政府の保安
対策に対する慢性的な
対策欠除と人命尊重を無視した能率本位の
政策の累積に根本的な
原因があったということは、この際きわめて重大視しなければならないと思うのであります。すなわち、
政府がこれまで
実施してきました高能率、高
生産の石炭合理化
政策には、保安
対策と
労働者保護
対策の面で大きな欠陥があったことを今回暴露したわけでございます。
三池炭鉱の場合でありまするが、法律上の保安
責任者でありまする保安管理者が一技術部長でございまして、保安に対する投資や、あるいは人員配置に対する権限は持っておらない。鉱業所長、鉱長等は保安
対策とは全く無
関係で、ひたすら
生産増強のことだけに重点を置いているということであります。さらにまた、石炭保安規則によれば、炭鉱を甲乙の二つに類別いたしまして、爆発の危険の大きい炭鉱を甲とし、危険度の小さい炭鉱を乙としておるのであります。三池炭鉱は、従来危険度の大きい甲にランクされていたのでありまするが、それが去る二十八年に通産省本省の保安局のはからいによりまして、乙種に指定がえをされておるのであります。しかも、当時、この指定がえについては、現地の保安監督機関は全然あずかり知らなかったという奇怪な事実があるのであります。
事故の殉職者四百五十八名のうちで、一酸化炭素による窒息死はその約九割を占めておるのでありまするが、この点については多賀谷君が触れましたので、私は重複を避けるために飛ばしていきまするが、爆発いたしました三川鉱と坑内では続いておりますところの宮浦鉱——ほかにも四山鉱というのがございまするが、この宮浦鉱におきましては、二番方の入坑時の午後の三時半ごろに起こりました三川鉱の爆発を、二番方が坑内で八時間も働いて昇坑する時間でありまする十一時半まで、全然知らされずに坑内で働かされておるという事実があるのであります。これは十一月二十九日の連合審査
会議録の四ページから六ページに記載されておるが、はたしてこれはほんとうのことかどうか。今日は、これは鉱業所幹部の事故に対する認識の甘さに驚くほかはないのでございますが、ガス爆発の際の退避と救援につきましては、ふだんからの教育とか
対策というものが全然できていないことを暴露しておるものであると私は思うのであります。当局によります保安検査は、会社側への事前通告によりまして完全になれ合い化しまして、会社側は、その場限りの保安
措置を行なうことによってこと足れりとしてきたのが、いままでの三池炭鉱の保安検査の
実情でございます。したがって、今回の事件誘発の大きな
原因がそこにあったと思われるのでございまするが、保安
措置に対する会社側並びに当局に手落ちはなかったかどうかということを、
通産大臣から答えてもらいたい。
さらに、事故発生以来今日まで、三池鉱業所の三つの山は出炭を停止しておるのでございまするが、この停止の手続について問題があります。鉱山保安法第二十四条に基づくところの停止命令ではなく、
通産大臣が高度の
政治的判断に基づきまして
行政指導を行ない、それによって会社が自発的に出炭を停止しておるというのが
現状でございます。大正三年の方城炭鉱の大爆発以来五十年目の大事故でありますにもかかわりませず、法律による強力な停止命令を出さなかった
通産大臣の真意を、ここではっきりと
お答え願いたいのであります。何か特別な事情があるのであるか、そういう事情があるとは思いませんけれども、これほどの大事にあたって、わざわざ
行政指導などという弱い
方法をとって、法律を軽視されておりまするこの点について、
大臣の
所信を
伺いたいのであります。
終わりに
お答え願いたいのは、爆発の真相究明の現段階についてであります。
ただいま
通産大臣の御
報告を伺っておりましたが炭じんに引火した発火点については、
大臣は、何らかの火がなどと言われて、きわめて簡単に扱っておりまするけれども、私は、それについては相当の
調査が行なわれておるのでありまするから、このケースについてはこうである、このケースについてはこうであるというふうに、
国民の前に明らかにしていただきたいと思うのであります。もちろん、犠牲者の補償、遺族の救護、罹災者の援護等につきましては、重ねて
総理大臣なり
通産大臣からお話を
伺いたい。
さらにまた、今後の緊急処置といたしまして、次の諸点が直ちに
実施に移されるべきと思いまするけれども、
通産大臣よりはっきりした御
答弁を願いたいのであります。
それは、甲種、乙種の別なく、すべての炭鉱について保安
実態検査を直ちに
実施すること。これまで行なわれてきましたずさんな、なれ合い的な保安検査を根本的に是正いたしまして、鉱山保安法並びにその規則に基づく厳格な保安検査を行ないたいということであります。さらにまた、鉱山保安法及びその規則の改正についても着手をしてもらわなければなりません。さらにまた、
賃金、福利厚生施設、労働時間の短縮等につきましても、
労働者保護を徹底させるために必要な
改善措置を行なうようにしてもらいたい。最後に、もう
一つ申し上げたいことは、現行
賃金の六%が、実はカットされておるのであります。さらに、本
年度から一方当たりの増
賃金の五十五円がたな上げにされておるのでございます。これは来年の四月以降には善処するという労使の協定ができていると聞いているのでございますが、今回の事故を
理由といたしまして、経営者のほうでこの協定違反をするおそれがなくもないのであります。この点こそ、ぜひ
通産大臣の
企業指導または
行政指導を要望いたしまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕