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国務大臣(田中角榮君) 私は、今般、日加閣僚委員会並びに国際通貨基金、
世界銀行等の年次総会に出席するため、カナダ及び
米国を訪問してまいりました。
国際
会議に列席しまして痛感いたしますことは、国際
金融経済上における
わが国の立場が近年とみに
重要性を加え、いまや、
わが国は
国際経済の
発展にとって不可欠の
役割りを果たすに至っておるということであります。
わが国の国際的地位の
向上は、戦後の復興及びその後の
発展を通じて、
産業構造の高度化、
所得水準の
向上等、
経済の
基盤が着々と
強化されてきたという事実に対する国際的評価によることはもちろんでありますが、さらに、
わが国の
貿易規模が大きく、
世界各国との
貿易関係が緊密であること、
貿易・為替の自由化を強力に
推進しつつあること、並びに低
開発国に対する
経済協力につき積極的に
努力していることなど、
国際経済に対する貢献と
協調の実績がその裏づけとなっておるのであります。このような
わが国の地位の
向上を可能ならしめた
基礎的な
要因は、勤勉にして、
教育水準の高いわれわれ
日本国民の力量にほかならないと
考えまして、私は、心からこれを誇りと感じたのであります。(
拍手)今後、
世界の
諸国が
わが国に寄せる
信頼と
期待は増大するものと思われますが、われわれが確固たる自信を持ち、より広い国際的な
視野に立って、自らの前途を切り開いていくならば、
国際経済社会における有力なる一員としての
わが国の地位がいよいよ強固なものとなることは必然と信ずるものであります。(
拍手)
さて、最近における
わが国経済の動向を見ますと、昨年秋の引き締め解除以来、
経済活動は着実な回復
過程をたどっておるものと見られるのであります。
鉱工業生産は、本年に入って力強い
上昇を示し、
雇用、消費は着実な
拡大を続け、
国際収支もおおむね
均衡を維持しております。このように、引き締め解除後における
経済活動の回復は順調でありましたが、幸いにして、最近の
わが国の
経済界には、慎重、かつ、冷静な
経営態度が支配的であり、
経済活動の
拡大が直ちに過熱に至るような勢いは、目下のところ、うかがわれないのであります。私は、
わが国経済界が、今後ますます慎重、かつ、合理的な
経営態度に徹していくことによって、着実な
上昇傾向が持続することを念願いたしております。
今後、
わが国経済が、
国際経済との交流をますます緊密にし、かつ、
国際経済の大勢に即しながら、さらに大きな
発展を
実現していくためには、
わが国経済の有する
成長力を安定的な歩度をもって伸長せしめつつ、その
基調の中で、
経済の各部面において、所要の
体質改善を着々となし遂げていくことが肝要であります。
所要の
体質改善とは、申すまでもなく、
国民経済全体としての
生産性を
向上せしめ、もって、将来の健全にして調和のとれた
経済成長をはかるための
基礎的条件を、この際、一段と
整備することであります。すなわち、
わが国産業の
国際競争力の
強化、
農業、
中小企業等低
生産性部門の
近代化、道路、港湾や
住宅等
社会資本の
充実のほか、
産業立地の再編成、
労働力移動の円滑化等をはかることであり、さらには、
経済発展の根底にある
国民の能力の
開発と
福祉の
向上という
課題にこたえるため、文教並びに
社会保障の
強化を期することであります。(
拍手)
このような
経済の各部面における質的
強化施策を
推進し、
国民経済全体としての
生産性の
向上をはかることは、同時に、
わが国の
輸出力の培養
強化、
消費者物価問題の
根本的解決につながるものでありますから、これらの
施策こそ、
国際収支及び
物価の
長期的な
均衡ないし安定に至る正道であると信ずるものであります。(
拍手)
政府といたしましては、このような
わが国経済の質的
改善を、健全にして調和のとれた
成長基調の中で進めていくことをもって、
財政金融政策の主眼としてまいる
所存であります。
したがいまして、来
年度の予算編成にあたりましても、引き続き健全
均衡財政の
方針を堅持し、
経済に過度の刺激を与えないよう配意することを
基本としつつ、税制面におきましては、
国民生活の安定
向上をはかり、あわせて、
経済の各部面における
体質改善を促進するため、大幅な減税をいたしますとともに、支出面におきましても、経費の思い切った重点化、効率化を通じて、さきに述べました
国際競争力の
強化、
農業、
中小企業の
近代化、
社会資本の
充実等の質的
強化策を効果的に展開してまいる
考えであります。(
拍手)
なお、このような
財政政策の実施にあたりましては、
金融も
財政と相補い、相助け、両者一体となって、さきに述べた質的
強化策を
推進するよう運営されるべきものと
考えます。
以上、
わが国経済の現状と
経済運営の
基本的態度について申し述べましたが、次に、今回提出いたしました
昭和三十八
年度補正予算の大綱について御説明申し上げます。
一般会計予算の補正におきましては、
国家公務員等の給与
改善、食糧管理特別会計への繰り入れ等、当初予算作成後に生じた事由に基づき緊要となった経費を追加することとなし、これに応じまして、
法人税等
経済の
拡大に伴う租税及び印紙収入の自然増収を見込むことといたしております。その総額は、千二百四十二億円でありまして、これにより、
昭和三十八
年度一般会計予算総額は、歳入、歳出とも二兆九千七百四十二億円と相なるわけであります。
歳出追加の第一は、
国家公務員等の給与
改善に関する経費でございます。
国家公務員等の給与
水準につきましては、民間給与との
格差を
是正するため、前
年度におきましても、その
引き上げをいたしましたにもかかわらず、その後の民間給与の
上昇に伴い、再びこれとの間に相当の
格差を生じております。このため、先般の人事院勧告の
内容を尊重いたしまして、本年十月一日より所要の改定を行なうこととなし、これに要する経費として、総額二百六十二億円を計上いたしております。
第二は、食糧管理特別会計への繰り入れでありますが、
昭和三十八年産米の買い入れ
価格が当初予算における見込みを上回って決定されたこと等によりまして、食糧管理勘定における損失が大幅に
増加する見込みとなりましたので、同会計の経理運営の
改善をはかるため、同会計の調整勘定へ二百五十億円を追加繰り入れすることといたしております。
第三は、
農業共済再保険特別会計への繰り入れでございますが、本年春以来の長雨により、三十八年産麦が著しい減収となったことに伴い、
農業共済再保険特別会計の支出する再保険金が当初の予定をはるかに上回り、再保険金の支払い財源に不足を来たすことが見込まれますので、この不足額を補てんいたしますとともに、将来における異常災害の発生に備え、同会計の支払い財源を
充実する等のため、百六億円を計上いたしております。
第四は、災害復旧等
事業に要する経費でありますが、
昭和三十七年以前の発生にかかる災害の復旧等
事業費につきましては、
昭和三十八
年度当初予算編成後、予定の進捗率を
確保するためには、相当の
増加を必要とすることが明らかとなりましたために、百三十五億円を追加計上するとともに、これに伴う地方公共団体の
資金需要の
増加に充てるため、
財政投融資
計画においても所要の追加を行ない、その復旧に遺憾なきを期しております。なお、三十八年発生にかかる災害に対しましては、すでに、既定の予備費をもって応急の
措置を講じてまいったのでありますが、今回追加されます予備費百八十億円も主として
災害対策に充てられることとなる見込みでございます。
最後に、地方交付税交付金でありますが、
所得税、
法人税及び酒税を歳入に追加計上することに伴い、三百九億円を計上いたしておるのであります。
また、特別会計予算におきましては、一般会計予算の補正及び公務員の給与
改善に関連して、食糧管理特別会計等につき、所要の補正を行なうことといたしておりますとともに、
政府関係機関の予算におきましても、
日本国有鉄道につき、東海道幹線増設費に不足を生ずる見込みとなりましたので、四百四十三億円を追加し、予定どおり、明年十月の開業を期することといたしておりますほか、
日本電信電話公社に九十億円の予算を追加計上して、工事の円滑な進捗に資することといたしておるのであります。
なお、予算補正に伴い、
財政投融資
計画におきましても、すでに述べました地方公共団体に対する追加のほか、
政府関係機関予算の補正に関連して、
日本国有鉄道、
日本電信電話公社についても、所要の
資金措置を講ずることといたしておるのであります。
以上、
昭和三十八
年度補正予算の大綱を御説明いたしました。何とぞ
政府の
方針を了とせられ、本
補正予算に対し、すみやかに御賛同あらんことをお願いいたします。(
拍手)
次に、この
機会に、当面の
財政金融政策につきまして
所信の一端を申し述べたいと存じます。
まず、租税政策について申し上げます。
政府は、
昭和二十五
年度以来、国税及び
地方税にわたり、総額一兆一千五百億円にのぼる減税を実施してまいりました。その結果、
国民の税負担は軽減
合理化され、各税間のバランスも
改善されてきておるのであります。
さらに、明
年度におきましては、まず、
国民生活の安定
向上をはかるため、
所得税の減税と
住民税負担の不
均衡是正、
住宅建設を促進するための不動産取得税、固定資産税の減免のほか、電気ガス税の減税を実施いたしたいと存じます。
また、
開放経済への
移行に対処して、資本の蓄積を促進し、
企業基盤の
強化をはかるため、
企業課税の軽減等の
措置を講ずる
所存であります。
特に、
貿易依存度の高い
わが国経済におきましては、
輸出の伸長がきわめて重要でありますので、この際、
輸出産業の
基盤強化のための税制の
確立を期したいと
考えておるのであります。(
拍手)
以上の見地から、明
年度の税制改正におきましては、国税及び
地方税を通じ、平
年度二千億円に近い
規模の減税を実施する
所存であります。(
拍手)
次に、今後の
金融政策について申し述べます。
最近における
わが国の
金融情勢は、おおむね平静に推移しているものと認められますが、
資金需要につきましては幅なお一部に
かなり根強いものがあるように見受けられます。このような動向に加え、今後、年末に至る間は、
財政の大幅な散超期となりますので、弾力的、機動的に
金融調節を実施すること等により、
金融基調に過度のゆるみの生じないよう配意し、
資金需給の適正化をはかってまいる
所存であります。
なお、
中小企業に対する年末
金融の円滑化につきましては、
財政資金を追加する等、必要な
資金の供給に遺憾なきを期しております。
貿易・為替の自由化に伴い、
わが国経済は、各
部門にわたって
国際競争力の
強化が要請されているのでありまして、
産業界においては
体質改善の
努力がいまや喫緊の要務となっておるのでありますが、この点につきましては、
金融界もまた例外たり得ないのであります。
金融界は、この際、その公共的、
社会的責任をあらためて深く自覚し、まず、みずからの
体質改善をはかり、
相互の過当な
競争を自制し、進んで、新しい見地に立って
協調の体制を
確立し、
開放経済の
もとにおける
金融機関の責務を十二分に果たしていかれるよう、切に
期待するものであります。
また、
経済の新しい局面に対応して、
中小企業等立ちおくれた
部門の
合理化、
近代化を促進し、
わが国経済全般の能率
向上をはかることが今後の
課題となるのでありますが、この面におきましても、
民間金融機関の
協力にまつところがますます大となるのであります。
政府といたしましても、この見地から、
中小企業金融公庫等
政府関係金融機関の
資金の
確保につき、今後とも、
格段の配慮をいたしてまいる
所存であります。(
拍手)
さらに、この際、貯蓄の一そうの増強をはかることが
基本的に重要であります。また、
企業の
自己資本を
充実し、
長期安定
資金を
確保することも、重要な
課題の一つであります。
政府におきましては、今後とも貯蓄の増強のため、積極的な配意を行なうとともに、株式市場及び公社債市場の健全化と
育成強化を一段と促進する
施策を講ずる
考えであります。
企業の側におきましても、健全にして堅実な
経営を旨とし、自力による資本構成の
改善につとめるとともに、
資金の借り入れについても、節度ある態度を保持することが望ましいことは、言うまでもないのであります。
次に、
国際収支の
状況並びにこれに関連する当面の国際
金融政策について申し述べます。
国際収支は、年初来、おおむね順調に推移しており、外貨準備高は、昨年末の十八億四千万ドルから本年九月末には十九億六百万ドルに
増加いたしました。この間、一昨年の
国際収支対策として
米国市中銀行から借り入れました特別借款も、全部返済し終わったのであります。
元来、
国際収支は、内外
経済の動向等によって変動しやすいものでありますが、先般のケネディ教書に見られるドル防衛策の
強化、
各国の
輸出競争の激化、さらに、OECD加盟、IMF八条国
移行等に伴う
貿易・為替の自由化の
推進など、よりきびしい環境の中で
国際収支の
均衡を
確保していくためには、
財政金融が一体となって、
わが国の
経済活動を安定的ならしめることも、
もとより必要でありますが、直接には、
輸出をはじめとして対外受け取りの一そうの
拡大をはかることがきわめて肝要であります。
このような
情勢に対応し、従来にも増して、
輸出力の
強化、
貿易外収入の増大の
施策を強力に
推進するなど、民間と
政府が一体となって、
国際収支の
長期的安定を達成するため、
格段の
努力、くふうを傾注してまいりたいと
考えます。
なお、関税を
引き下げることによって国際
貿易を一そう
拡大しようとする動きが、
世界の大勢となっており、
わが国も、ガットにおける関税一括
引き下げ等の
交渉に積極的に参加しております。関税政策を遂行するにあたりましては、各
産業の実情を十分考慮して、周到な配慮をいたすべきことは
もとよりでありますが、今後、関税一括
引き下げを進めてまいりますためには、
わが国産業の
国際競争力を
充実することが不可欠の前提条件でありますので、このための
合理化、
近代化の
努力が一段と
強化されることを切望するものであります。
また、
長期安定外資の秩序ある
導入をはかることは、
社会資本の
充実、
産業基盤の
強化のための
資金源を
確保する上にも、きわめて重要であります。先般、私の渡米に際しまして、道路建設
資金に充当するための世銀借款が調印せられ、また、今後の世銀借款の見通しも得られましたことは、まことに喜ばしいことであります。(
拍手)
近時、
国際経済は、いよいよ
相互依存の
関係を深めており、
諸国間の
協調と
協力の
重要性も増大しております。
わが国のOECD加盟につきましては、今
国会において御承認を求めますなど、所要の手続が進められておりますが、この加盟によりまして、
わが国は、加盟
諸国との
協力関係の緊密化を通じ、
国際経済の
発展に一段と寄与し得ることとなるのであります。
他方、最近
世界の関心が集まっております低
開発国問題につきましても、
わが国といたしましては、低
開発国の立場に深い
理解をもって
協力してまいっておりますが、さらに、今後とも、できる限りの
協力を
推進してまいりたいと
考えるのであります。
このようにして、
世界各国との
貿易並びに資本交流を
拡大して、国際分業の利益を一そう享受し得ることは、
わが国経済の安定的
成長に資するものであると存じますので、
わが国の
輸出振興及び
経済協力に関しましては、
金融の面におきましても、この際、
格段の
改善充実をはかる
所存であります。
以上、
わが国経済の
課題と当面の
財政金融政策に関する
所信を申し述べました。
わが国経済が、なお豊かな
活力に恵まれており、あすへの
発展の
可能性を蔵していることは明らかであります。私は、われわれ
国民がすでに蓄積した力を自覚するとともに、いたずらに功を急ぐことなく、足
もとを固め、着実な
前進をはかることによって、さらに洋々たる将来が開けることを確信するものであります。(
拍手)
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オリンピック東京大会の
準備等に必要な
資金に充てるための
寄附金付き製造たばこの
販売に関する
法律の一部を改正する
法律案(
内閣提出)