○加瀬完君 私はただいま
議題となりました両案について、前者に続きまして反対の討論をいたすものでございます。
政府の説明によりますと、
わが国の
雇用失業情勢は、経済の高度成長のもとにおいて、全般的には著しい
改善を遂げ、
雇用の大幅な増加、
失業の減少のほか、労働市場の需給
関係にも
改善が見られた。このような情勢にもかかわらず、
就労者の
固定化、老齢化の
傾向が著しいので、
民間雇用への復帰を著しく困難にする
条件を
改善をするために、
失業対策制度の改変を今回提案した、こう申されているのでございます。
私の反対の第一点は、この情勢のつかみ方に問題があることでございます。
雇用の大幅な増加と申しますが、一九六二年、同じ本計画をいたしました
労働省の労働白書によりますと、大
企業の
雇用の増加は大きいが、小
企業の
雇用は鈍化している。小
企業から大
企業への労働移動が激しいので、任意退職者は上昇しつつある、こう述べております。そういたしますと、
政府の説明はこの労働白書と矛盾をするわけでございます。具体的にあげますと、
政府は
雇用の情勢は著しく高度成長のため
改善された、そして労働市場の
改善あるいは
失業の減少を見た、こう言っておりますけれども、藤田議員も指摘いたしましたように、
賃金対策はどうなっているかということには一向触れておらないのでございます。
賃金の上昇を上回る、あるいは実質
賃金の引き下げをもたらしております消費者物価の上昇と、その影響には、目をおおうているのでございます。例をあげてみます。一応、
昭和三十一年を押えてみますと、
昭和三十一年、実質
賃金上昇率は七.一に対し、消費水準上昇率は五・一でございます。それが
昭和三十二年、三年となりますと、実質
賃金の一・五、三・五に対しまして、消費水準は五.一、六・七と、はるかに差が大きくなっております。
昭和三十五年におきましても、三・一に対して五・六と、その差は開いております。長期間のこの実質
賃金の不足分、赤字分の累積を解消する方策を立てませんで、
賃金の安定をはかりませんで
雇用の安定をはかろうとしても、無理でございます。
その二に、
地域別
賃金格差をどう計算をしているかを申し上げてみたいと思います。小規模(三十人から九十九人)の
地域別
賃金格差の労働白書による表を見ますと、最高に対する
最低の格差は、製造業、繊維業、木材業、化学、鉄鋼、
機械、電気、この七
事業のうち、製造業、繊維業、化学、鉄鋼、
機械、五つの
事業は格差が拡大をいたしております。繊維におきましては一五・四、化学においては八・九、このように格差が大きくなっているのであります。これをこのままにいたしまして労働移動を
考えましても、労働移動は不可能でございます。
その三は、
政府は
雇用は拡大したと言いますけれども、最近の
雇用における
産業別動向はそうなってはおりません。確かに建設業では二三・一、続いて卸売小売商一〇・八、製造業八・九、このような種目は増加をしておりますけれども、鉱業では一〇・三%の大幅な減退を示しております。しかも、この
傾向は引き続いて拡大をされております。無計画な生産設備の拡張あるいは生産変更、こういうものに伴う
労働者の移動というものには
対策を持っておりません。とのような政策の中で需給
関係がバランスをとっているといっても、私どもはそのまま受け取るわけには参らないのであります。もう
一つの例をあげますならば、臨時工の伸びが本工の伸びを上回る
状態はそのまま放置してあります。こういう
状態では需給のバランスとはいえないのでございます。
その
一つといたしましては、
政府は「失対に対する
世論の動向」という説明の中で、次のようにみずからの立場を述べております。
政府の
考え方は、現在の
失業対策事業を本来の
雇用政策に切りかえるのが目的なんだ。しかし、そのためには失対周辺の
対策というものを立てなければならない。たとえば、
政府として
最低賃金法を確立しなければならない、あるいは不当に低い
職場への
就職というものをどうして食いとめるか、あるいは
就職させないようにするのかという
対策を立てなければならない、こう述べておりますけれども、前提としてのこの
条件は何ら
対策として立っておらないのであります。
結論として申し上げるならば、失対者が受け入れられるような
雇用の拡大も需給のバランスも全然考慮されてはおらないのであります。また、
賃金の安定策を
考えませんで無理に転職
就業をさせようとしても、これは
生活を破壊する以外の何ものでもございません。
失業対策の変更を
考えるならば、物価
対策、経済
対策というものをまず
考えなければなりませんが、この
対策は前提としての
条件を満たしておりません。
政府のいう周辺
対策の欠除している中に失対問題だけを取り上げることに、無理を私どもは感ずるのでございます。これが反対の第一点でございます。
反対の第二点は、失対
就労者の
固定化、老齢化のための
対策として適当かいなかの問題であります。まず、なぜ
固定化し老齢化しているかの分析が、もっとなされなければならないと思います。
日雇い労働者の
雇用増減率を見ますと、三十五年、三十六年では、鉱業では八・九から二一・二の減、
雇用増減率が減っているのであります。製造業では一四・二の減、金融保険業では三六・四の減、電気、ガス、水道
事業では一六・五の減、このように
日雇い労働者の
雇用増減率が、はなはだしく減退を来たしております中に
雇用対策を進めましても、無理がございます。しかも、
日雇い労働者の需給
状況は、三十六年は前年に比して、求人延べ数も
就職延べ数もはるかに減退し、あぶれ率だけがふえております。さらに、三十六年の臨時工
就職が減退をしている現実も見落とすわけに参りません。これは
雇用身分も不安定でございます、
労働条件も苛酷でございますので、
生活の安定が得られないところに、減退の原因がございます。さらに、県外
就職状況を調べてみますと、三十四年は五十三万人、三十五年は八十八万人、三十六年は百三十万人、増加率にいたしまして四八・六%をあげることができます。
就職状況が県外
希望者がふえたということは、
就職しなければならない
地域の
生活が困窮しているということであります。しかしながら、県外
就職状況をこのような大人数に増大させておりましても、県外に直ちに
就職するという
条件は満たされておりません。この
対策というものがございませんでただ
雇用の拡大だけを叫びましても、拡大された
雇用に行ける
条件のないところは、藤田議員御指摘のとおりであります。こう見て参りますと、
民間雇用への復帰を著しく困難にしている
責任は、
政府の経済政策の貧困にあるわけでございまして、失対にやむなく従事している
人たちの側にあるわけではございません。しかるにかかわらず、失対だけを取り上げましていろいろと
施策を講じますことは、池田成長政策のために、失対者の
社会保障の面を純然たる
雇用政策に切りかえて、経済効果のみをねらう失対者の首切り、こういう結論にならざるを得ないのであります。このままでは弁解の余地のないところでございます。
反対の第三点は、失対
事業の再編であります。
政府の説明を承りましても、
失業者の技能、体力等を考慮いたしまして、ふさわしい
事業種目を選ぶ、
事業の種目、規模の決定は、地方公共団体の長の意見を聞いて、地方の自主性を尊重する、こう言っております。これは裏を返せば、地方の自主性尊重という、みのに隠れて、
政府が
責任を将来回避できるということになるのであります。地方公共団体の長の意見が重視をされるといたしますならば、
市町村長は、
事業の規模、種目等の決定におきまして、在住業者との競合や圧力というものに屈しないわけには参りません。さらに、
地域別に作業内容を定め、その作業に従事する
労働者の
賃金を考慮するということでございますが、
賃金を上昇させるためには、作業を苛酷にする以外にありません。そうなりますと、技能、体力の伴わない新
就職者は、また
失業者の群に転落をせざるを得ないのであります。
さらに問題にすべきは、
地方自治体の負担能力の問題であります。先ほど
自治大臣は、産炭地の田川、大牟田等の失対費が国の交付金等で完全にまかないがついた、こう言われておりますが、私は、はなはだ無
責任な
答弁だと
伺いました。現行法のワクの中では、失対
事業に対し、
市町村の要求するように特別交付税あるいは地方債がつくものではありません。大牟田、田川の両市にいたしましても、国の算定ではどうにもならないで、多額の地方持ち出し分を出しているのであります。具体的に申し上げます。大牟田の三十五年の
失業登録者は五千五十五名、国庫負担の
失業対策費は二億四百十八万五千円、一般財源の持ち出し分は一億八千四百十五万円、一般持ち出し分は実に予算の一〇%に近いのであります。田川におきましては、三十七年一月の支出計は三千四百六万円、このうち、
生活保護費が千六百万円、職員の俸給が千四百万円、こういう
状態の中で、社会
事業を、あるいは失対の特別
事業を進めようとしても、これはできる相談ではございません。また、これに対しまして、
政府の先ほど述べたような
対策が講じられておらないのでございます。地方交付税には、御存じのように、普通交付税の計算基礎があります。きまった単位費用を積み上げて総額を出すのでありますから、普通交付税の計算で不足をするからといって、直ちに地方団体に特別交付税が交付されるものではございません。この点は、同僚の阿
具根議員が、第四十回
国会の予算委員会でこの問題をついております。産炭地
対策のときでさえ、大牟田の累年度赤字は、予算二十五億余に対して一億二千六百六十一万円、田川は一億の赤字を出している。市役所は紙くずまでも売って歳入の補てんをしている
状況であるが、
自治大臣はどうするのか、こういう
質問に対しまして、特別交付税や起債でカバーしていきたいと答えております。しかし、その後、特別交付税や起債でカバーができておりません。本日も
大臣は同様の答えをいたしておりますが、はなはだ私は無
責任をとがめざるを得ないのであります。地方債に至りましては、産炭地または失対
事業をはなはだしく必要とする
市町村では、現在相当の地方債をかかえております。大蔵省は、今まで、このような地方団体に対しまして、償還率、すなわち、国庫への起債返還額の歳入に対する割合が一四%をこえる場合は、起債を押えているのであります。したがいまして、産炭地を初め、失対
事業の必要経費をよけい要するような団体に対しましては、今もって相当の償還率を示しているわけでありますから、地方
財政は、このままの
対策では
失業対策に
事業費を盛ることは不可能でございます。たとえば最近の地方
財政計画の
傾向も、
政府の失対
対策にはブレーキをかけております。新
産業都市の計画が新聞で伝えられております。広域行政のための地方連絡
会議が、今、
国会で
議題となっております。
産業都市計画ということになりますと、
政府が大
企業に対する擁護
施策をやりきれないので、地方に押しかぶせる、負担をさせる以外の何ものでもございません。地方連絡
会議に至りましては、一県では問題になりません。水や道路、交通という問題を、
一つの紐帯を作って解決をしようとする、大資本援護の政策以外の何ものでもないのでございます。しかも、
財政投資を見ましても、
民間の設備投資を追っかけて、公共投資も一九%の多きを示しております。先進国の三、四倍であります。したがいまして、福祉行政に対する投資は、先進国の三分の一、四分の一に減っているのであります。こうなって参りますと、公共投資にかけるだけで地方
財政は手一ぱいで、新しい福祉行政のための
対策費というものを出すことは不可能でございます。したがいまして、この
事業をこのまま進めて参りまするならば、現失対のワクを押えていくのか、あるいはまた、
市町村の
失業者、あるいは準
失業者の競合によりまして、相互に自決の道を歩まざるを得ないという結果になります。非情な処置と言わざるを得ないのであります。
第四に、本案の取り扱いであります。本案の取り扱いが、内容以上に、院の権威を失墜させている点であります。特に、このような中間報告の手続が、
国会法五十六条の三の記載のとおり、委員会の「審査中の案件」であること、「審査中」とは、参議院規則三十九条の示すように、「委員会は、議案が付託されたときは、先ず議案の趣旨について説明を聴いた後、審査に入る。」という明文のとおり、質疑に入らなければ審査に入ったということにはならないのでございます。この
国会法、参議院規則無視のもとに審議が進められますことは、立法府みずからが率先して違法行為を行なっていることであります。断じてわれわれは許すわけには参りません。反対の最大の
理由も、ここにあります。
以上、反対の意思を表示いたします。(
拍手)
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