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参考人(
山階芳麿君)
日本鳥類保護連盟理事長山階芳麿でございます。このたびの
鳥獣保護及び
狩猟に関する
法律につきまして、私の考えております点につきまして申し上げたいと思います。時間も短いことでありますから、最初に私の考えております結論を先に申し上げまして、次いで、
あとから
個々の問題について申し上げたいと思います。
山階は、今回の
法律案につきまして、全体としましてたいへんよくできておると思います。これに
賛成と申しますか、よい
法案であると考えております。ただし、私は
鳥獣審議会の一員としまして、このことに関する
審議にあずかりまして、
答申が
審議会から出されたわけであります。その中の
個々の問題につきましては、今回の
法律に盛られておる
部分と盛られていない
部分とございます。ただ、その場合におきましても、急を要するもの、あるいはしからざるもの、いろいろあるわけでありまして、今回の提出されました案につきまして逐次申し上げてみたいと思います。
まず、過去のこの種の
法律、すなわち
狩猟法におきましては、もっぱら
鳥類は捕獲の対象として見られておったわけであります。ところが、
文明の進みますに従いまして、
鳥類というものは次第に減少して参る。そして、ことに農業、林業、そういったようなものが進んで参りますに従って、あらゆる力をそういう方面に傾倒する必要があり、その際、有益な
鳥獣を、その力をかりていくということも非常に重要になって参りますし、また一面、
文明によって、次第に精神的に荒廃しがちな人間の気分をやわらげ、そして生活の
環境をよくしていく、そういう
意味におきましても、
野生鳥獣というものの価値というものが非常に高まってきておるわけであります。そういう
意味におきまして、諸
外国におきましても、
野生の
鳥獣というものを
国民の共有のものとして、そしてこれを大切に保存していくということが
文明国の
一般の趨勢であります。こういうところにおきまして、
わが国におきましても、この
法律をそういう
保護というものを
建前とした
法律に改められるということは、まことに
時宜に適したことであると思います。そして、このことを
法律の第一条において明らかに述べられておるということは、まことに
時宜に適したものであると考える次第であります。
さらにまた、この
保護をしていくにつきまして、
保護の
計画を作って、そして、その
計画を実行していくという、こういう
考え方も非常に大切なことでありまして、これが取り入れられておるということは、まことに
時宜を得たことであると思うわけであります。この
計画の中に、いろいろな項目がありますが、
わが国におきまして現在最も欠けております点はどういう点かと申しますというと、
一般国民の
鳥獣の
重要性ということについての認識がまだきわめて低いという点であります。それで、これを啓蒙して、
国民すべてがこういうものを大切にしていくという気風を作ることが必要なのであります。ただ単に、
法律の
条文を整備するということだけでなしに、それが実際に運営されていくのには
国民の協力が大切でありますが、その
意味におきまして、
鳥獣の
保護事業に関する啓蒙を
計画の中に加える、こういうことはまことに有意義なことであると思います。また、この
鳥獣の生息の状況がはっきりしておりまして、そして初めて正しい施策がそこに打ち出されるわけであります。この点、過去においては、
わが国ではきわめて不完全な
状態でありました。こういうことがこの
法律の
条文に盛られるということは、まことに
時宜に適したことであると考える次第であります。後に
組織の問題に関連してもう一度この点について申し上げたいと思いますが、諸
外国におきましては、この点はきわめて進歩した
方法をとっておるわけであります。
それから、その
野生鳥獣というものは、本来非常に
文明国においては大切なものであって、そうしてこれを保存していかなければならぬという、そういう基礎的な観念に立ちますならば、この
狩猟というものを、過去、現在におきまして、どこでもすることができる、ただ特定な個所でのみは禁止せられるというような行き方は、どちらかといいますと、古い
考え方ではないかと思います。将来はやはり、鳥の
種類が
一般には禁止されておりまして、そうして現在許されるものが表として掲げられておる。それと同じように、
狩猟もまた許される
部分を許して、それ以外のところでは
狩猟しないというような
建前に将来はなるべきであると思います。ただ、しかし、現在は過渡的な時期でありますから、それと調和するために
保護区とかいうようなものをできるだけたくさん置く、さらにまた
禁猟区というものが新たに定められ、そういうことによってなるべく捕獲する
場所を少なくして、そうしてそれを
保護していくということをはかっていくということは、現在の
段階においては適当であろうと思います。
それから、
猟具の問題であります。
審議会の
答申におきましては、
空気銃を
猟具から除くことが望ましいというふうに
答申されておるわけであります。これは
審議会においてもるる論議されたところでありまして、
空気銃というものは
猟具としてはきわめて不適当なものであります。非常に
違反をしやすいものであります。それで、実際の正当なる
狩猟というものに使われる余地は非常に少ない。諸
外国におきましても、たとえば
英米のごときはこれを
狩猟に使っておらない、主として射的のために使っておるというふうに聞いております。将来、
日本におきましても、そういう線に指導していくべきものであると考えております。
それから、これは近年新聞その他においても御承知のように、いろいろな
違反事故あるいは危険な災害というものが
銃猟において発生いたしております。これは現在の
狩猟家の相当な
部分に、そういうものに対する知識の欠けておる人々が含まれておるということに基づくのでありまして、これをなくなすことは、
狩猟を適正化する重要な道であると思うのであります。そこで、
答申の際には、やはり
試験を課して、
試験に合格した者が
狩猟の
許可を得るということの形になってほしいというふうにやっております。これもまた、将来はそういう
方向に進まるべきであると存じます。今回の
法律におきましては、
講習会を開催して、そうしてその課程を終了した者に
証明書が与えられる、そうして
許可が出るということになっております。これは決して完全な
方法だとは思われませんけれども、この行政的な
段階におきまして、この適正であるかどうかということについて、十分に御配慮あって、この
条文が有効な
働きをするように
希望をいたす次第であります。
それから、今回の
法律におきましては、今までいわれておりました
禁猟区というようなものを全部
保護区に入れられ、その一
部分を
特別保護区とするということになっております。これは法の面におきましてはまことにけっこうなことでありますが、ただしかし、これが真に
効果あるためには、そこに
組織と費用というものが付随しなければならないわけであります。この点につきましても、終わりに
組織の問題について
希望を述べておきます。そのときにそれに触れたいと思っております。
それから、
狩猟に関して今回
休猟区というものが設けられておりますが、これは新しい
試みでありますが、過去におきましてもこういう
制度を設けることは
狩猟鳥類を保存する上に非常に重要であるということをわれわれは主張しておったところでありまして、今回それが採用されたということはまことに喜ばしいことであります。
やはり
組織の問題に付随しますけれども、
都道府県に
専任の職員を置くべきであるという
答申になっておりますのに対して、今回の
法律では、非常勤の
鳥獣保護員を置くということになっております。これもやはり
一つの進歩ではありますけれども、将来は
専任のそういう吏員が
都道府県に置かれるということが絶対に必要なことであると考えております。
それから、
罰則であります、
違反に対する。これは戦後一応改めたわけではありますけれども、決してこの
罰則は重いわけではなく、むしろ軽きに失するものではないかと考える次第であります。たとえば
保護区などの
施設というようなものをこわしたりなんかしたりするような場合、ここでは第二十三条で一万円以下の
罰金ということになっておりますけれども、たとえば
アメリカのごときは、そういう場合、ごく軽微なものでも五百ドル、ちょうど十八万円ぐらいの
罰金が課されておるわけです。何も
罰金の額が多いのがよいというわけではありませんけれども、やはりその犯した罪が重いものであるということを印象づけるためには、適当なる
罰金の額が課されるということは必要なことであると思われます。
今回の
法案に対する
一般の
意見としましてはそのようなものでありますが、そのほかに、
先ほども触れておきましたような、
答申案にありまして、今回の
法案に取り入れられていないものが一、二あるわけであります。たとえば、
土地の
買い取り制度。ある
種類の
鳥獣を
保護するためには、
保護区を設ける。そこに
施設をし、いろいろな
制限を加えることは当然必要になってくるわけでありまして、そこに補償の
制度もあるわけではありますけれども、きわめて重要な場合におきましては、その
制限が
所有者の権利に対して非常な圧力となる場合もあり得るわけであります。
アメリカのほうでは、こういうような
保護区におきましては、原則として
土地を買い上げるということになっておるわけであります。そうすればそこにそういう問題がからみませんから、徹底した
保護ができるというわけであります。
日本で今直ちにそういう
制度が困難であるとしましても、将来はやはりそういう
制度があるということは、
保護を徹底させるについて非常に重要であると考える次第であります。
それから、
先ほどもたびたび触れておきましたが、
組織の問題があります。今回の
法律案におきまして、
保護の面についていろいろな進歩した
条文が加えられておりますが、それを実際に有効ならしめるためには、一面においては
国民そのものの理解ということが重要でありますと同時に、その実現をはかるところの
組織というものが非常に重要なんであります。ところが、現在の
段階におきましては、遺憾ながらその
組織が非常に薄弱なのであります。たとえば、
保護に関する
事務を管理するところの課というようなものが現在
日本にはないのであります。
アメリカ等におきましては、こういう行政を主管する局がありますし、その中に幾つかの課がありまして、そして
保護区を管理する課、あるいはまた調査のための課と、いろいろな課がありまして、実際の
働きを非常に活発に行なっているわけであります。真の
目的を達成するためには、やはりそういうことについて実行のできる
最小限度の
組織が必要であると思うわけであります。将来そういうものが実際に
組織として作られるということが非常に望ましいわけであります。
ただいま申し述べましたごとく、今回の
改正が、過去にずっと行なわれておりました
狩猟法に比較しまして、一段と進歩したものであり、これが適当に運営されますならば、
文化国において必要なる
鳥獣保護というものも過去に見ない
効果を上げることができると思うわけであります。ただ、しかし、それには今申し述べましたように、いろいろ
組織その他付随した問題がありますので、今後そのような問題を逐次解決していただきまして、そしてこの法の
目的が達成されることを望んでやまない次第であります。
これをもって終わります。