○須藤五郎君 私がこんな質問をするのは、要するに、
NHKは強い者には得というような例を作って、一回分百万円もかけるというような先例もあるわけです。それは前出さんがおっしゃっておられる。そのかわり、弱い者には基準の最低を割るような料金を押しつけて、そうして大きな顔をしているということがあるのですよ。だから、私は腹が立って、こういうことを言うのです。だから、これは基準があって、その最低の基準を割るような料金を払っているのはけしからぬから、基準の最低を割るような料金を払っているという事実が明らかになったら、
放送局は最低の線まで金を払えということを私は言いたいのですよ。弱い者いじめをやめなさいと私は言うのです。ここにこういう資料が私のところに回ってきましたよ。音楽・舞踊文化会議という音楽家、舞踊家で作っている会議がある。そこの機関紙にこういう記事が出ているのです。皆さん
参考に読むから聞いていただきたい。
NHKの作曲料、出演料が不当にやすいということは、音楽家、舞踊家の間で、たえず
指摘されてきた。しかしその実態についてはほとんど明らかにされなかったしそのことについて云々したり、批判することは勿論、少しでもせんさくすることさえ許されなかった。
NHKの作曲料について、ある作曲家が、仕事を頼まれたとき、どのくらいの作曲料がもらえるかとたずねた、という。これに対して某プロデューサーは、 〃そんなことをきくのは、貴方がはじめてですよ〃と一蹴されたという。
ことほど左様に、
NHKは、自分たちの一方的な基準だけで、それが作曲料、出演料として適当であるかどうかは別として上から有無をいわさず押しつけるという方式をとっている。そしてこのことが、常識であり、そのことについて質問することは、非常識きわまりないこととされていたのである。しかも、このような質問を発する音楽家、舞踊家は異端者としてマークされ、
NHKへの出演は、まず敬遠されるというのがいまでも〃常識〃のようである。
これも実際あった話であるがある作曲家が、
NHKで劇判を頼まれ、たまたま出逢ったプロデューサーから
〃やあ、また、失業救済
事業かね〃といわれたという。その作曲家は事実その通りであったかもしれない。
〃薄謝協会〃の劇判という仕事が糊口をしのぐ手段だったとしても、こういう侮辱的なコトバを受けなければならないというのは芸術家としてやり切れないことであろう。
作曲家の団伊玖磨氏は、昨年一月四日号の「電波新聞」に次のようなことを書いている。団伊玖磨君といえば、日本でも一流の作曲家ですよ。その一流の作曲家が
NHKをどういう感じを持って去ったかというと、団伊玖磨君はこういうことを書いている。
僕をこんなにまで
放送ぎらいにさ
せてしまった原因の
一つは
NHKで
ある。戦後、六年の間、僕は
NHK
の契約作曲家として働いていた。芸
術家の仕事の価値というものを金銭
的には認めない
NHKのことである
から、今も無論そうだが、特にその頃は、信じられぬほど演奏料と作曲料が低く、生活をなり立たせてゆくためには毎週二、三本の
ラジオ・ドラマの付帯音楽や歌謡を作曲し、録音せねばならず、僕や友人の芥川也寸志など、
これも一流の作曲家です。
その当時契約作曲家だった皆は、それこそ夜も眠る暇のないほど疲れ果てながら、それらの
放送用の音楽の作曲を続けていた。(中略)
六年、それは決して短い間ではなかった。文字通り歯車のように働きながら、そのあい間に、芥川と僕は、交響曲や歌劇を書くことだけが生きている希望だった。ほとんどすべての時間を占領してしまう
放送用の音楽の作曲に苦しみながら、一日
のうちわずか十分でも三十分でも、
自分の信ずる美のための仕事を続け
る喜びがなかったら、僕等はただ働
かされるだけですり減ってしまった
に違いない。死んでしまったかもし
れない。それ程、
NHKは僕等を廉
価な代償を天下り式に与えながらこ
き使った。
ある時、僕は人気のあった
番組〃話
の泉〃と〃二十の扉〃にゲストとし
て出演した。そして、本当に心から憤
慨したのである。何故かというと、苦
心して作曲し、指揮し、
放送する専門
の仕事に対する謝礼より遥かに多
かったのである。僕はいうにいわれ
ぬ悲しさと寂しさを、作曲家として
心に感じたし、また専門の仕事に対
して全く同情もない冷たさを
NHK
に感じて心から怒った。問題は金銭
のことではなかった。専門家として、
これ以上ない屈辱を、感じたのであ
る。そして長い間、やめようやめよ
うと
考えていたこの職場を悔なくや
める決心がこの時ついたのである。
NHKをやめた町、僕は六年間に
書いた
放送の音楽の総譜を整理して
みた。総譜は五百六十冊、重ねると僕
の背の高さの二倍あった。僕はそれ
をみながら慄然とした。何という無
駄な能力の消費をしたことだろう。こういうふうに団君が書いているのです。団君すらもこういうふうな扱いをしている。
NHKは何晦ですか。芸術家に対する大きな侮辱じゃないですか。私は怒らずにおれないのです、芸術家の一員として。こういう扱いをしながら
NHKはなぜ大きな顔をしているのか。そうして、物価はだんだん上がっているのに、
もっともっと低い給料で、失業救済だというふうな侮辱の言葉を吐いて、そうして弱い者いじめをしているのが
NHKじゃないですか。どうですか、春日さん、一言でもありますか、こういうことをしておきながら。もっと
考えなければいかぬですよ。
NHKは、わが国の文化を発展させていく、育てていかなければならない団体です。芸術家をこういう立場に置いて、どうして芸術が育ちますか。もっと
考え直してもらわなければならぬ。だから私はこういうことを言っているのです。どうですか、団君のこういう文章に対して、あなた方何か
意見がありますか。私は怒らずにはおれないのです。こういう扱いを
NHKがしているのは、団君に限らないのです。多くの人がこういう気持を持っているのです。だから、私のこころにいろいろな訴えが来ているのです。何事ですか。あなたたちは高給をはんでいる、日本の芸術家をこんなにいじめている、だから反省しなさいというのです。
NHKは
考え直しなさい。冗談じゃないですよ。怒るのはそれだけにしておきましよう。
その次に行きます。今度著作権の問題に移りたいと思うのです。著作権については、現在日本に著作権協会というものがあって、著作権の問題を扱っているわけですが、あなたは、この今日払われている著作権料というものは妥当であるかどうか、どういうふうに
考えていますか。