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参考人(
木村元一君) ただいま御指名いただきました
木村元一でございます。
所得税法並びに
法人税法、
あと租税特別措置法につきまして
政府のほうで御
提出になりました案、それについてどういう
考えでいるかということを述べるわけでございますが、
一つ非常に問題になっております点で、
所得税の
減税が今年行なわれる場合に、
一般的に
減税をするのか、あるいは
政策的な
減税をするのかということが、大きな関心をもって論議せられてきております。もとより、
税法の
改正と申しますのは、単
年度だけを見ましてとやかく言うわけには参りませんので、
日本の場合で申しますと、シャウプの
税制改革から今日まで十数年の間にたどってきた経過の中で問題を取り上げなければならないと思うのであります。しかし、本日は時間もございませんので、そういう大きな背景は私の頭の中にだけあるということにしまして、ここではさしずめの問題について少し申し上げたいと思います。
率直に申しまして、このたびの
減税が、
租税特別措置法等との関連におきまして、
利子の
源泉分離を従来まで一〇%でやっておりました。
税制調査会のほうでは、いろいろな
事情を
考えまして、
期限が到来はするけれ
ども、この一〇%の
特別措置というものは今後二年延ばそうではないか、延ばしても差しつかえなかろうということで
答申が出たはずでございますが、
政府の
原案の
段階に参りまして、さらに一段と
預金の
優遇措置を強化するという形で、一〇%でありますものを五%まで引き下げをすると、こういうことになっております。また、それと関連いたしまして、
配当の
源泉課税分でありますが、これは本来ならば二〇%
源泉で差し引いておる、それを
特別措置でもって一〇%にしておったのであります。この分を
税制調査会のほうでは、従来
どおり特別措置としての一〇%
減税といいますか、
徴収額を減らすということは、まあ二年ぐらい
期限を延長しましょうと、こういう
答申であったのでありますが、
利子の
優遇措置と関連いたしまして、
配当のほうも五%に
源泉徴収率を下げたのでございます。
そのほうの
財源との振り合いがあったものかどうかは私つまびらかにいたしませんけれ
ども、そちらに
減税財源が回りました
関係もありましょう、
所得税の
一般減税の分につきましては、
税制調査会の
答申に比べて
減税の幅が縮まっております。これは御
案内のことと存じますが、
基礎控除、
配偶者控除、
扶養控除、
専従者控除、そのおのおのについて
税制調査会のほうでは
控除額を
引き上げるように
提案しておったのでありますが、
改正案では、
提案の幅が、
基礎控除は別といたしまして、
扶養控除にいたしましても、
配偶者控除にいたしましても、一万円ほど
控除額を上げたらどうかという
調査会の
提案に対しまして、それぞれ五千円にまあ値切って
引き上げをすると、こういう
事情が出て参りました。
まず、この
預金に対する
優遇措置につきまして、
意見を少し述べさせていただきたいのでありますが、私
どもの見るところないしはいろんな
調査資料からいたしまして、
預金の
増加というものは大体
国民所得の函数で
考えることが適当ではなかろうか。もちろん、いろんな
事情が入って参りますから、
国民所得が一割伸びたから
預金もすぐ一割伸びるというふうに見えることはできませんけれ
ども、従来の
統計で
預貯金の伸びを見て参りまするというと、
税制上の
措置が変わったために特に
預金がふえたとか減ったとかいう
事情は、どうも見分けることができにくいのでございます。そういう
関係で、そもそも
預金を特に
優遇しなければ
日本の
資本蓄積が十分できないという
考え方、これに対しては根本的に私は疑問を持っておりまして、でき得べくんば、従来の
特別措置でありますところの一〇%
源泉分離ということ自体もいかがなものであろうか、本来ならば
源泉分離ということをやらないで、総合的に課税するのが本筋ではないであろうか、このように私は
考えていたのであります。
ところが、御
案内のとおり、
昭和十六年に
国民貯蓄組合の
制度ができまして、その
取り扱い方がややもするとルーズになって参りました。大きな
預金額を小さく小分けにして
税金を免れるというような風潮がだんだん出てきておりました。ことに
他方において
郵便貯金のほうの
利子というものが、これは沿革がたいへん古いのでありますけれ
ども、
免税の
扱いになっておる。で、
郵便貯金のほうも
増加させたいという
趣旨から、だんだん
預け入れ限度というものの
引き上げが行なわれて参りました。その
引き上げが行なわれますと、すぐ均衡の問題が出て参りまして、銀行のほうでも
郵便貯金に
相当するぐらいの
金額は同じ
扱いにしてはどうかというふうに、そういう理屈からして、だんだん
郵便貯金の
預け入れ限度がふえるに従って
国民貯蓄組合で
免税扱いになります
金額もふえてくる。現在はそれが五十万円になっております。もちろん、その五十万円という
金額が、今の
段階においては
相当な
金額であるけれ
ども、将来いつまでもこれで
相当大きな
金額であるというようなことは私申しませんけれ
ども、現在の
段階ではかなり大きな
金額になっております。それで、まあ五十万円の
預貯金を持っておる
階層はどのくらいのところにあるかということを調べてみますと、かなり高うございます。こちらの
調査室のほうでの
数字で申しまして、まず
所得階層で八十万から九十万円の人が
貯蓄保有額として約六十万円を持っておる。しかし、この場合の
貯蓄というのはいろんな形のものが入っておりますので、
課税対象になります分としましては、そういう
意味の
預貯金というのは、もっと
階層の高いところでそれだけの
貯金が行なわれているように思うのであります。
そういうわけでございますので、
免税措置——今の五十万円の
免税措置だけでも
十分少額の
貯蓄者に対する
優遇ということは行なわれておるのであります。それ以上の
所得階層の持っております
預貯金に対しましては、
担税力の
観点から申しまして、特別に
減税をして差し上げる必要はないのではないか。当
議会におきます
大蔵大臣の答弁などを拝見いたしますというと、特に
自由化の問題に関連して
資本の
蓄積の
重要性ということが強調せられ、その一環として
貯蓄の増強の必要が強く叫ばれておりますけれ
ども、戦後今日までの
政策の目標になっておりましたものは、多くの場合に
資本の
蓄積ということであります。絶えずその点が強調されながら今日まできて、さらにまた
自由化というような
事態が出て参りますと、輪をかけた
資本蓄積の要求というものが出てくる。これは
考えようによりましては、税のあり力を、臨時に変えると言いながら、実は実際問題としてはほとんどまあ絶えず変えてきておる。いつかはそういう
特別措置というものはなくすのだとおっしゃりながら、根が生えてしまって、なかなか動かない姿になっておる。これを少なくとも
税制調査会のほうでは、まあこの際だから従来の一〇%
源泉分離を取り払うというところまではちょっと工合が悪いようだけれ
ども、それをさらに推し進めるというような形にすることには反対であったわけでありまして、今度の
措置は少し行き過ぎているのではないかと思うのであります。
それから次に、それと関連しまして、
配当について、
特別措置の
改正で、やはり
預金に右へならえいたしまして、一〇%の
源泉分を五%に下げる。このほうは
預金の場合と違いまして、
源泉で
分離課税をするという
趣旨ではございませんので、したがって、前取りの一〇%を五%に下げるだけである、こういうまあ
仕組みにはなっておるのでございます。けれ
ども、
数字に当たってみますというと、一〇%を五%に下げて
源泉で
減収になる分、それから後になってその
所得者が申告して参りましたときに
総合課税をしましてその分で
増加してくる分、これを差し引きいたしますというと、初
年度においても百
——失礼いたしました。幾らでございましたかね、時間の
関係がありますので、
数字は
資料について見ていただくとしまして、とにかく
相当の
減収になります。それが
翌翌年度また
納税期の
関係で入って参ります面もありますので、かなりまあカバーされるかもしれないのであります。
減収分は
あとで取り返すことができるかもしれないのでありますが、しかし、やはり大きな
減税になっている。
この
減税につきましては、二通りの
考え方がございまして、現在、株のほうの
源泉分並びに
法人と個人との二重
課税廃止に伴う
配当控除という
制度がございますのでありますが、この
実情は
証券業界の方がよく申されますように、ごくわずかしか株を持っていない人は、
源泉で幾ら取られようが、自分の
所得税を申告いたしますときに申告いたしません。したがって、取られっぱなしになっておる。また、
配当控除の申告をしないと戻してもらえませんものですから、申告しない人の二割の
配当控除分と
源泉分の従来の一〇%、合計三〇%だけ余分に取られたような形になっております。その
意味から申しますと、
源泉で徴収するものを一〇%から五%に下げるということは、先取りで返さないで取り過ぎになる分が減るということになりますので、この点はさして弊害がないように見えるのであります。けれ
ども、これは税の
仕組みの問題として
考えましたときには、必ずしも一〇%を五%に下げるのがいいとばかりは私は言えないと思うのです。ことに今、御
承知のように、
日本ではキヤピタル・ゲイン、つまり株を売りましてもうけた
お金というものは、ごく
少額の
有価証券移転税によって幾分まあ
税金が取られておりますけれ
ども、この分については
所得税のほうでは全く
課税所得に入れておらない。これはシヤウプの
税制改革のときの
一つの大きな
眼目でありましたところの
所得税の
総合累進制という
考え方、これに対する一番大きな穴になっているわけでございます。そんなわけで、すでに
相当お金のある人、
担税能力のある人には有利な
税制になっておりまするのに、さらに加えてこのような方向で
税制のゆがみを強めるということは、私としてあまり賛成できないのであります。
次に、今度の
所得税の
一般的な
減税の問題について、若干私の
考えを申し上げますと、御
案内のとおり、ここで
議論されますものは国の
予算であり国の
租税でございます。したがって、これから私もおもにその点について申し上げますが、
国民の
立場に立ってみますというと、単に
国税、
地方税だけが直接税ではない、ほかにもたくさんありますし、ことに今、
住民税との
関係が私は重要だと思うのであります。
一般の
納税者の
立場に立ってみますというと、
国税で若干の
減税が行なわれましても、
地方税のほうで伸びて大きくなってくれば、ほんとうの
減税にあずかったという気持は持てない。これは当然のことだと思うのであります。
で、今までは
地方税においては
課税方式が種々ありました。こまかく分けると五通りの
方式があったのでありますが、そのうちの
一つは、
国税の
所得税の何%という取り方をする取り方があったわけであります。この
方式で参りますというと、
国税のほうで何らか
税制の
改正が行なわれますというと、そのまま
地方税のほうにも
影響を及ぼして参りまして、
基礎控除が上がれば上がったなりに、
住民税のほうも減少すると、そういう
仕組みになっておった。ところが、実施は
昭和三十七年からでありますが、この
関係を遮断いたしまして、
基礎控除で申しますと、
国税のほうがたとえ十万円になりましても、十一万円になりましても、
地方税の
住民税の場合は九万円に据え置いてしまうと、こういう
方式が確立して、従来の
国税の
所得税の何%というかけ方を廃止してしまったのであります。
つまり第二
課税方式というほうに大体統一をいたしまして、
国税との
関係を遮断したと。その結果、
国税で
減税が行なわれましても、
地方税のほうでまた特別に考慮しなければ、つまり
地方のほうでも
減税をするのだということで
税法の
改正を行なえばいいのでありますが、それに見合った
改正が行なわれませんというと、
国税のほうだけは減ってくるけれ
ども、
地方税のほうは一向減らない。ことに最近問題になっておりますように、
名目所得の
増加に対応した
実質の
負担増加分を何とか減らそうというのが今度の
税制調査会の
答申の
眼目であったわけでありますが、そういう考慮が
地方税の場合にはほとんど全部及んでいないという
実情がございます。
さらに、その第二
課税方式のかけ方にいたしましても、
本文方式と
ただし書き方式という
二つの
方式がございまして、この間の
格差、つまり貧乏な市町村ほど重い
税金のかかるような
課税方式をとっておりまして、これは
所得階層によっても違いますけれ
ども、この
本文方式でいけば一納めて済むところを、
ただし書き方式でいきますと二・五ぐらい納めないといけないというような
格差が出てきておるのであります。
で、そういう点を考慮いたしますというと、当
議会でいろいろ
議論になっておりました、
名目所得の
増加に伴って生ずる
実質負担の
増加分を今度の
改正で消すことができるかできないかというふうな問題は、実際には無視されておる、そういう問題はないかのごとく扱われておる、こういう感じを持つのでありまして、願わくは、
税金の問題は
国税だけで
きれいごと——きれいごとかきたないことか知りませんが、そこだけでお
考えにならないで、全体で
考えていただくということが私は大事ではないかと思うのであります。これはしかし、前置きでございますが。
今度の
政府原案で、
基礎控除は別として、
扶養控除、それから
配偶者控除、
専従者控除等の
控除の
引き上げが幾らか低目に押えられてしまったということで、こまかな
数字を出していろいろ
議論をしております。つまり、
見込みの
物価騰貴率というものと
実質とは違うではないかと。また、
昭和三十七
年度において、初めに予想しておった
物価騰貴よりも、もう少し高い
消費物価の
値上がりが起こっておるのではないか、それをカバーできるほどに
減税措置か行なわれておるかどうか、いろいろ問題になっておるのであります。これはしかし予測の問題に入りますので、私も正確なことを申し上げる力も、また
データもないのであります。けれ
ども、ただ注意をしておきたいと思いますことは、
日本の現在の
統計では、
階層別の
消費物価の
統計というものが実はできておりません。したがって、私
どもも、
卸売物価でどのくらいの
——まあ三十八
年度は幾らか減るというような
計算が出ておりますが、
卸売物価で見るとか、あるいは
小売物価で見るとかしておるだけでございます。おしなべて申しますというと、
大量生産のききます最近の
電気製品であるとか、自動車とか、カメラとかいうようなものは、
技術革新その他の
影響もありまして、昔よりもいいものがだんだん安くなってくると、こういう傾向は私
どもも実感としてあるのでございます。けれ
ども、
他方において
生活必需品、
食料品であるとか、あるいは
日常生活上の必需的な
支出、
サービス関係の代金、こういうものの
値上がりは、御存じのとおり、非常に高いのでございまして、それが各
所得階層ごとにどのような
消費支出金額の
増加を来たしておるかと、その点の
調査資料が現在のところ整っておりませんので、私もはっきりしたことは申し上げかねるのでありますけれ
ども、単に全般的な
消費物価の
値上がりによる
名目所得の
増加分、それに見合って累進税がかかるために生じてくるところの
実質的な
租税増加分、これを
計算いたしますときに、一本のパーセンテージで出しておるというところに何か問題があるのではないか。つまり、
扶養控除の幅、あるいは
配偶者控除の幅を、
税制調査会で
答申したよりもあるいはさらにもっと大きくしなければ、
実質増税分を帳消しにすることがあるいはできないという
事情ができておるのではないか。私自身も
データのないのに申しまして、はなはだ恐縮でありますが、
一般減税の幅の減ったということに対しては疑問を持たざるを符ない。その
理由として
一つ申し上げた次第でございます。
なお、時間がだいぶ予定よりも過ぎましたので一点だけつけ加えさしていただきたいのでありますが、
日本のように経済の
成長がとにかく
相当高い国で
資本蓄積の必要が説かれるということはよくわかるのでありますが、しかし、高い
成長率というものはいろいろな
事情からできておるのでありまして、
税制上の問題からそれにどれだけの
影響力を与え得るかということは、私としては疑問を持っておるのであります。
種々先ほ
ども申しましたように、
資本蓄積のための
税制上の
優遇策ということが強調されておりますが、ただ
一つここで申し上げたいと思いますのは、ほかにどのような
優遇環を講じないといたしましても、
資本蓄積に対して
税制は有利に作用しておる面が、あるということを申し上げたいのであります。
回りくどくなりましたが、かりにここに
船会社があるといたします。
他方には
船会社ではないけれ
ども船を持っておる
会社があるといたします。御
承知のように、
船会社のほうは今欠損でございます。ところが、船を持っておるほかの
会社、
石油なら
石油の
会社が船を持っておるというときに、その
石油のほうはもうかっておるといたします。そのときに
減価償却を
税法上は当然のこととして認めておりますのですが、
減価償却にもいろいろありまして、最初にたくさん
償却ができるような
方式、
定率法の
方式と申しますが、これが
一般に採用されておるといたします。そうしますと、
船会社のほうでは
償却をしようにもなかなか
償却がで言いというところから不利になって参りますが、
石油会社がタンカーを造りました。それに対して
相当額の
償却をしましたということになりますというと、その
償却分は
社内留保になって、その
会社の
成長を非常に助けることになるのでありまして、ある
計算によりますというと、初め十
ぱいの船を買って
償却をやる。その
償却した資金でもってまた船を買って
償却をやっていくという形にいたしますというと、初め十
ぱいの船が後には二十五はい、三十ぱいまで
増加していくことができるのであります。これが
今船会社と
石油会社を比較しましたが、
日本の全体の
企業をとってみますと、どの
企業もちぐはぐはありますけれ
ども、とにかく高い
成長にささえられてここまて伸びてきておる。これは
税法では、本来ならば
所得になるべきものが
所得とみられないままに
資本が強化されているという面が
相当あるのでございます。
この点を強調いたしますと、
預金の
優遇だとか、その他の
優遇策を特に講じなくても、財産を持ち、
資本を持っておるところでは、
租税上
優遇策がおのずから行なわれておる、こういう
事情があるのでございます。そういう点を
考えますというと、いまさらあまり、何といいますか、大きく
優遇策、
優遇策ということに対しましては、大きな疑問を持っておるのであります。
たいへん時間を超過いたしましたので、一応ここで私の公述を終わらせていただきたいと思います。