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政府委員(中山
賀博君)
イギリスがなぜ今まで対日三十五条を
援用しておったかという問題につきましては、私はこういうふうに
考えるわけでございます。
イギリスという国は、たとえば今問題になっておりますフランス、それからフランスの
植民地との
関係に比べますと、英連邦の中には比較的綿業とかあるいはその他のプライマリー・プロダクトのほかに若干の産業が興って、そして本国と
植民地の調節ということは、常に行なわれてきたと思うのであります。そしてまた世界的な
イギリスの役割から見ても、やはりある程度の後進国に対して
イギリスの
市場に穴をあけてやるというか、これを自由化してやるという調節は、ずっと、かなり久しい前からやってきた。そのことはフランスとフランスの旧
植民地の
関係を
考えてみれば明らかだと思います。つまりフランスの旧
植民地というものは、いわばネグロだけの
植民地で、そこには何ら、第一次産品をようやく作って生活の資を得るというだけで、産業の発達の何ら見るべきものがなかった。ただ、
イギリスは
イギリス本国の産業ということもありますし、あるいはコモンウエルス全体の経済
関係のバランスということもあって、戦後急速に復活してきた
日本の製品をそのまま受け入れることは、私はできなかったろうと思います。したがって、過去における
交渉の経緯あるいはその他のバイラテラルなクォータ
交渉をしてみましてもわかりますように、
イギリスはあくまで漸増の方式、漸次事態を改善していくという方式をとったわけでございまして、その点に見ましても、フランスあたりはかなり最後の最後まで自由化を渋って
EECの発展とともに、最近になって急に自由化方向に転換したというのとは、
イギリスの態度はかなり違っておったと思います。しかし、その
イギリスも、やはり急激に伸長していく
日本の産品をそのまま受けるということはできなかった、そのために三十五条を
援用しておったのだと、こういうふうに
考えておるのでございます。
第二点の、じゃなぜそういう
日本の商品に対して危惧の念があるか、またそういう
措置を実際にとらざるを得ないかという点でございまして、この点は昔は、たとえば戦前におきましては、
日本の商品は安かろう悪かろう、これはソーシャル・ダンピングだとか、あるいはきわめて低廉なる賃金のもとに働いているからだというようなことで、ごく簡単に片づけられた傾向があるわけでございます。しかし、最近
日本のめざましい発展、それから賃金の上昇、その他経済状況の改善等を見て、今までのように欧米の人が一がいに
日本は低賃金だとか、あるいはソーシャル・ダンピングだという議論はもうなくなっているのじゃないか。現に、それでございますから、
EECなんかのかなりの有力な指導者の
日本産業に対する見方なんかも、そういう低賃金というような言葉を現わさないように、むしろ
日本が戦後発展したのは、
一つには敗戦を機に、機械その他の施設を完全に一新したということ、それから第二は、むしろ
日本というものがつまらないちゃちな原料資源しかもっていなくて、むしろそういうものは思い切って諸外国から買っているということ、それと第三には、かなりスキルフルな、熟練した労働力が豊富にあるというようなことを、むしろ
日本の
競争力の主たる原因にあげているわけでございます。
そこで、この
日英交渉のみならず、ガットにおけるいわゆる
市場撹乱の解釈等にあたりましても、今までのようにソーシャル・ダンピングとかなんとかいうことじゃない、むしろ結果として現われた、つまりそれをあるいは輸入の急増であるとか、あるいはとにかく比べてみたらプライスが違っている。価格の差が開いていた。そういうふうなことが、もとにさかのぼって、
日本のソーシャル・ダンピングとか労働賃金の低いということじゃなくて、どういう原因か知らぬけれ
ども、出ている結果が
市場を撹乱するという結果になるという議論の進め方をする人が多いようなわけでございます。そういう点から見まして、やはり
日本はいろいろな原因が競合しておりますが、そういうような、
日本の
競争力が、とにかく
向こうが太刀打ちできないくらいあるというものがもちろん全部ではございませんが、物によってはあると、こういうことに対する具体的な一種の障壁を、防波堤を、三十五条
援用の撤回に伴って一種の
セーフガードを設けようということが、これは同時に、
向こうが不当なる危惧の念を
日本に持っておるということでありますが、
日本としても、かなりこれは正常なオーダリー・マーケッティングについて努力して、そういう誤解のような面を避けなければならぬ部分も、
日本側にも若干責任がある、こういうふうに
考えております。