○
武田公述人 ただいま御紹介をいただきました
東京大学の
武田でございます。私に与えられました課題は、
昭和三十八年度の
予算につきまして、
経済一般との関連におきまして所見を述べろということでございます。
御
承知のように、
昭和三十二年の
引き締め政策の後、三十三年の下期から
上昇に転じました
日本経済は、三十四年、三十五年と高
成長を続けて参りましたが、三十六年に入りますと
国際収支が悪化の様相を示し始め、同年秋に
総合引き締め政策がとられざるを得ないようになりました。その浸透の
過程は、過去二回の場合とかなり違っておりましたが、ともかくも、三十七年の七月以降
国際経常収支は黒字に転ずるようになりました。そこで、同年の秋には
引き締め政策が次第に解除されましたが、その後の
回復過程は、これまた、過去二回の場合と違いまして、そうはかばかしいとは言えないように思うのであります。この
引き締め政策の浸透の
過程とその解除後の
経済回復の
過程とが従来のそれと違うという点に着目いたしまして、
日本の
経済の発展がこれまでと変わってきたのではないか、将来変わっていかざるを得ないのではないかという問題、言いかえますならば、
日本経済がいわゆる
転型期にあるのではないかということが論議をされて参りましたのは、御
承知の
通りであります。この点をここで詳しく申し上げるわけには参りませんが、ともかくも、
引き締め解除後かれこれ四半期を経ました今日、
日本経済は、先ほどの
公述人のお話では、株価が上がったというような、いろいろ好転の兆が見えるというお話もございましたが、そういうことはございましょうが、やはり相当の不況の
状態にある、こう言っていいかと思うのであります。
今、
一つの指標といたしまして、
産業の
操業度について見ますと、通産省が三十八年度の
鉱工業生産と
主要物資生産の
見通しというのを出しておりますが、これによりますと、全
産業の
操業度は、三十七年九月に、これはいろいろの
産業をひっくるめての話でございますが、七九・五%であったのが、今日ではさらに低下しているというふうに私は
考えざるを得ないと思うのであります。何となりますれば、この
見通しによりますと、三十八年四、五月が底で、
年度間平均で七五%を下回る公算が大きい、こういうふうにここには述べられているからでございます。このことは、膨大な
設備投資によって
生産能力がせっかく高められましたが、
過剰供給による価格の崩落と、それによる
経済の
混乱等を防ぐためには、
生産能力の四分の三しか稼働させることができない、四分の一は遊休させておかざるを得ないということを意味するものである。こうした操短が国民
経済的に見てむだであるということは申すまでもございませんが、それはまた
設備投資に伴う金利とか
償却費とか
人件費とかいうようなものの負担を相対的に高めまして、
市況の低下と相待ちまして、
産業の収益を減少させることになるわけでございます。
この点を、多少くどいようでございますが、国税庁の
資料によりまして、九月期の決算の大法人、
資本金一億円以上の法人千三百四十六社について見てみますと、前期に比しまして、
売り上げの金額は、全部
平均して一〇〇・四というふうに少し伸びておりますが、
公表利益は九八・七、
申告所得は九一・一というふうになっております。なかんずく、
石油精製業とか鉱業とか
鉄鋼業というようなものにおきましては、今申しました数字、すなわち、
売上金額、
公表利益、
申告所得の
関係が、
石油精製業では、九七・一、三六・一、二八・八、それから鉱業におきましては、九一・一、五九・九、三五・三、
鉄鋼業におきましては、
売り上げが八六・四と伸びておりますのに対して、
公表利益は五九・七、
申告所得は三九・一というように、惨たんたるありさまを示しておるのでありますが、この傾向は、三月期の決算におきまして、むろん
石油精製業というようなものは伸びてきているように思います、従って、業種によっていろいろ違うと思いますが、あまり変わらない、全体としてはもう少し加重されるというように思われるわけでございます。
他方、
国民生活の面を見ますと、
経済の高
成長に伴いまして、
所得水準、それから
消費水準ともに向上しているということは事実でございます。しかし、
総理府統計局の
家計調査によりますと、七、八月の
平均実
収入、これが一番新しい数字でありますが、七、八月の
平均実
収入の対前年同月
増加率、つまり去年の七、八月に比べてどのくらいふえているかという点を見ますと、一二・九%増であります。しかし、一−三月には、これが一四%去年に比べてふえている。四−六月には一七・六%ふえているというのに比べますと、その伸びは鈍っております。また、七、八月の
消費支出を見ますと、この対前年同期
増加率を見ますと、これも、七、八月には名目で一三%、実質で五・二%増ということになっておりますが、これまた、一−三月、四−六月がともに一六・七%、実質で七・八%ふえておるのに比べますと、やはり
伸び率が鈍っておるということに注目すべきであろうかと思うのであります。その後の
資料がまだ公表されておりませんのでよくわかりませんが、こういう傾向は依然として続いておるというふうに思われるわけであります。
それから、なおまた、この
家計調査に触れまして、ごく最近発表されました
厚生白書に、三十七年上半期の
家計収支を、いわゆる五分
位階級別に見たものがあります。つまり、
所得の低い方から五段階に分けて
家計収支を出しておるのを見ますと、一番
所得の低い月の
平均実
収入が一万七千円くらいのクラスにおきましては、前年の同期に比べまして赤字が一八%くらいふえておるということ、それから、もう
一つ、この
厚生白書の中で、「
生活保護階層や
ボーダーライン階層以外の
所得の低い階層の間にも、
一般生活水準の向上、
生活様式の変革、
人口移動の激化、
生活環境の変化、
消費者物価の高騰などにより、
生活上の不安や相対的な
貧困感が強まりつつある」というふうに述べておりますこと、こういうことも見のがすことのできない点ではなかろうか、こういうふうに思うわけであります。
以上の指摘は、大へん断片的でございましたが、三十八年の
予算は、こうした
情勢のもとで編成されたものであります。しかし、この
予算が
関係しますのは、申すまでもなく、三十八年度の
経済ないしは
国民生活でございますから、
現状がどうかということよりも、将来どうなるかということが問題でございます。しかし、これにつきましては、私は、正直なところは、実はよくわからない。膨大な
資料と人手を持っておる
政府の
見通しでもしばしば違う。いわんや、私ごとき者にそういうことがよくわかるわけはございませんが、三十八年の一月の十八日に閣議決定を見ました「
昭和三十八年度の
経済見通しと
経済運営の基本的態度」という御
承知のものがございます。それを基礎にいたしまして私なりのコメントをこれにつけ加える、それに関連しまして
予算についての私の所見を述べるということでごかんべん願うほかはないと思うわけであります。
さて、この「
経済見通し」によりますと、個人消費が、御
承知のように、一兆二百億円、一〇%の増である。これが総
支出を五・四%伸ばす。それから、民間投資は、
設備投資が千億円の減、
在庫投資が横ばい、それから個人住宅投資が八百億円の増、差引二百億円、〇・四%の減でありまして、これが総
支出に対しまして〇・一%だけマイナスの要因になる。また、
国際収支につきましては、これはあとでも申し述べたいと思いますが、経常収支じりが二百億円の減でありまして、これも総
支出に対しまして〇・一%のマイナスの要因となります。そこで、
財政支出を五千五百億円ふやして、——これは国と地方合わせたものであります。ただし、国のあれと、つい最近発表されました地方
財政計画をつき合わせてみると、少し数字が違いますが、ともかく、
財政支出を五千五百億円ふやしまして、これによって総
支出を二・九%伸ばすと、全体としての
成長率は、御
承知のように、八・一%になる。ただし、物価が上がるということを
考えて、実質の
伸び率は六・一%となるであろう。こういうのが
政府の
経済見通しでございます。
しかし、
企業活動とか、それから
国民生活の
現状につきまして先ほど申し述べましたが、そういうことだといたしますと、個人消費が一〇%伸びる、それから民間投資が〇・四%の減であるという
見通し、ことに後者については、私は、多少楽観的あるいは希望的に過ぎるのではないか、こういう
感じを持っております。もしそうであるといたしますならば、総
支出の
伸び率はそれだけ落ちる、それに応じて租税の自然増収も減る、従って、いわゆる健全均衡の建前を貫こうとする限り、
財政支出もまた五千五百億よりも減らざるを得ないということになりまして、総
支出の
伸び率はさらに低下することになる。そして、この低下を食いとめようといたしますならば、いわゆる健全均衡の建前をそれだけくずしていかざるを得ない、こういうことになって参ります。すなわち、
経済見通しの
いかん、どう見るかということは、そのように見通されます
経済にどう対処していくかという問題とからみまして、
予算編成の仕方、態度というようなものに大きな影響を持ってくるものであります。
私は、前にもお断わりいたしましたように、この「
経済見通し」が間違っていると言い切る自信はございません。あるいはこれが妥当なものかもしれません。しかし、他方、昨年の十二月の二十三口でございましたかの新聞各紙の伝えるところによりますと、「
経済見通し」がこうした線に落ちついたのにつきましては、
経済企画庁と大蔵省との間に若干
意見の食い違いがあった、そこで、
経済企画庁では、
経済の実勢から言って、名目は七%台、実質で五%台がせいぜいであると見ていたのが、大蔵省のやや強気の見方に押されて、名目が八・一%、実質が六・一%と、この線に落ちついたのだというふうに言っております。そうして、そういうことになりましたにつきましては、いわゆる健全均衡の建前を貫きながら、しかも、各種の
予算要求に応じ得るようにしますためには、租税の自然増収見積もりが大きくなければならないという点を
考慮してのことだという解釈が行なわれております。もちろん、その点がはたしてどうであるかということを私自身確かめたわけでございませんし、ここでその点を詮議しようというわけでもございません。私がここで申し上げたいことは、
経済の
見通しの
いかんということが、今申し述べましたように、
予算の編成の仕方、態度に大きく影響するものであるとすれば、その
見通しはできるだけ正確なものでなければならない。ことに、
財政の方の都合によって
経済見通しが変えられることがあるのだというような印象を与えることは少なくともよろしくない。幸い、この「
経済見通し」がつくられましたときには、まだおそらく利用できなかったと思われます
引き締め緩和の影響の出てきた第三・四半期のデータが、ぼつぼつ利用できるようになってきているのではないかと思われます。そこで、もう一度この「
経済見通し」と
予算との
関係を再検討されることが
予算委員会としては必要なのではなかろうか、これが私が申し上げたい第一の点でございます。
政府の
経済見通しに対しまして私がしたいと思いますもう
一つのコメントは、
国際収支、ことに、輸出についてでございます。
すなわち、この「
経済見通し」によりますと、輸出は七・二%増の五十二億ドルというふうに見積もられておりますこと、御
承知の
通りでございますが、これもまた、やや楽観的ないし希望的な見積もりではないかというふうに思われるわけであります。もちろん「
見通し」におきましても、三ページでございますが、「
わが国をめぐる国際環境はきわめて厳しく、輸出の増大にはかなりの困難が予想される」というふうにいたしまして、
輸出振興に努力すべきことがうたわれておるわけであります。
しかし、この「
経済見通し」が作成されました以後におきまして、少なくとも二つの新しい、しかも相当重要な事態の変化があったということに注意しなければならないのではないかというふうに思われます。
一つは、米国におきまして、御
承知のような大
規模な赤字
財政政策がとられるようになったこと、もう
一つは、これは御
承知でございますが、英国のEEC加盟が失敗に帰したということでございます。
御
承知のように、米国では、一月十七日に大統領が議会に送りました
予算のメッセージにおきまして、必要な
支出はそのままにしておいて、相当大
規模な
減税をする、それによって、一九六四年度、来年の六月に終わります
予算年度には、百十九億ドルの赤字を出すが、それによって景気の回復をはかっていこう、こういうことを
考えておるわけであります。これはいわゆる国際均衡よりも国内均衡に重きを置く方策でございまして、これによって多かれ少なかれ国内景気は刺激されるでありましょうが、同時にまた、
国際収支を不安にする要因を多分に含んでおるものでございます。そこで、対米輸出は、米国の景気がよくなるという点から申しますと、伸びるようにも思われますが、それよりも、
国際収支につきまして米国側が一そう神経質になるだろうと思うのです。神経を使うようになる。その点では、
日本の対米輸出というのはチェックされる可能性が多いということも
考えておかなければならないことだと思うのであります。
それから、イギリスがEEC加盟に失敗いたしましたことは、これを前提にいたしまして、さらにそのイギリスが入って
拡大されたEECと米国との相互関税引き下げを前提としておりました
わが国の通商
政策に、相当のそごと申しますか、困難をもたらすのではないかということが
考えられるわけであります。言いかえますならば、
政府の「
経済見通し」に、これは六ページだったと思いますが、「
わが国をめぐる輸出環境には決して楽観を許さないものがあるが、最近米国、西欧諸国を中心として
経済交流
拡大の気運が高まりつつあり、
わが国としてもこの気運に乗りうるよう輸出秩序の確立に努め、積極的な
経済外交を推進しつつ、」云々と、こう書いてありますが、その点が、前に申しました米国の
政策が変わったということと、それからイギリスのEEC加盟が失敗に帰したということによって変わってきて、この点からも輸出はチエェクされるものである、こういうふうに言っていいかと思うのであります。
こういう
情勢のもとにおきまして、御
承知のように、三十八年度の
予算は、前年度当初
予算に比べまして、
一般会計では四千二百三十二億円、一七・四%増、
投融資計画におきまして二千四十五億円、二二・六%の増というように、相当大型の
財政が実施されようとしておるわけでございます。しかも、
一般会計予算には、前年度剰余金受け入れ二千六百二十七億円が含まれておりますほかに、前に第一のコメントで申しましたように、やや過大と思われます自然増収見込みというものの大部分が
支出に振り向けられておる。それからまた、
投融資計画には、三十七年度の自然増収を産投会計に繰り入れまして、三十八年度に
支出する額が三百十三億円、それに、先ほどのお話にもありましたが、日銀買いオペ方式が改定されたという状況のもとで、
政府保証債の発行額が三百十億円ふえておる。これと少し角度は違いますが、そうしていろいろな仮定を加えた一応の見込みでありますが、
予算に関する参考
資料によりますと、三十八年度の
財政資金の対民間収支の見込みは三千百二億円、外為会計を加えますと三千七百五十億円の散超ということになっておるようでございます。こういうすべてのことは、三十八年度の
財政がいわゆるインフレ的であるということを意味すると言っていいかと思います。もちろん、供給能力過剰という状況のもとでありますから、インフレだというふうに言い切ることは、これは問題があるわけでございますが、しかし、
財政支出は、その性質上
消費者物価を高める傾向を持っておる。それから、それに加えまして、雇用状況が、「
経済見通し」にいうような事情のもとで、本年度と同率の伸びを示すというふうに
考えられておることをを与えますと、
消費者物価の
上昇による賃金
上昇、それからそれによるコスト高、輸出への影響というようなことが
考えられ得るわけでございます。そうなって参りますと、輸入額につきましては、
経済見通し通りに五十億円にとどまるといたしましても、それからまた、今申しましたような事情のもとで、この五十億円というものがふえればなおさらでございますが、いずれにいたしましても、経常収支の赤字は増大いたしまして、
国際収支は悪化すると申しますか、懸念が出てくるということになるかと思うのであります。そうなりますと、この
国際収支を大きな柱としております「
経済見通し」そのものも、それだけ違ってくるということにならざるを得ないのではないか、こう思うわけであります。
このようにいたしまして、
国際収支について、御
承知のような二つの新しい条件ができている。米国の
政策のことはやや予想ができたにいたしましても、EECの加盟にイギリスが失敗したということは、これは新しい条件ではないかと思うのでありますが、そういう状況下におきまして、今日、そのことと大型
積極予算との関連というものを、もう一度
予算委員会あたりで御検討になってみることが必要なのではないか、こう思うわけであります。これが私の申し上げたい第二の点でございます。
最後に、時間も大してございませんが、もう
一つだけ簡単に申し上げたいと思います。
これは、前に申しました二つの問題とはやや性質を異にすることでございますが、こういうことでございます。
経済の
見通しを立て、それとの関連で
予算なり
投融資計画なり、一定の
財政方策を打ち出していくにつきましては、単に機械的に数字を積み上げて、それに見合うような
財政をきめていくというのではなくて、それ以上に来年、再来年、さらにその次の年にわたって
日本の
経済、
日本の
財政をどう持っていくか、どうなることを期待しているかといったような、いわばビジョンがその背景になければならないかと思うのであります。そのためには、現在の事態について一定の認識がなければならぬ。つまり、今の状況が二十八、九年あるいは三十二、三年と同じような不況なのか、それともいわゆる
転型期なのかというような点について、その認識がなければならないかと思うのであります。そして事実明示的に必ずしもはっきりと示されているかどうかは別といたしまして、
予算をつくられた
政府の方にも、そういうあれがあると思うのであります。
この点を
予算あるいは
投融資計画について見ますと、私は、基調をなすものは、現在の不況は性質においては従来と同じものである、ただ
程度が違うだけだという認識であるように思うのであります。従って、従来と同じように、来年の
成長率について一定の、それもことしよりはやや高目の予想を立てて、それに基づいて一定の税の自然増収を見込む、そうしてその大部分を
支出に振り向けて、一部を
減税に充てる。そうすることによって大型化した上に、形式上健全均衡という線は守られておりますが、実質的には
経済刺激的な
予算を組むという方式をとる。ただ、現在の不況の
程度は従来のものよりも大きいから、自然増収は目一ぱいに見込む。その自然増収のうち、従来以上に大きい部分を歳出に振り向ける。残りの分を
減税に充てる。それも、利子・配当課税の
減税というような、資本蓄積を刺激するような
減税に充てて、
一般減税はちょっと待ってくれというような方式をとる。また、
財政投融資におきましても、直接間接資本蓄積を刺激するような線をとる、そうしていれば、やがて景気は回復し、再び従来と同じような
設備投資の主導する高
成長が始まっていく、こういうようないわばビジョンを持っているかのように思うわけであります。
ところが、そういうものを持っているようにも思うのでありますが、他方では、
支出のいわゆる硬直性を増すような傾向をいよいよ強めるというような形で、
予算が編成されているようにも思われるのであります。御
承知のように、
日本の
財政支出の中には、一たんふえるとその後なかなか減らすことができないような、いわゆる硬直的な経費と申しますか、
支出が多いのでありますが、三十八年度
予算では、そういうような経費を一挙にふやすというようなことになっているのではないかと思うのであります。公共事業
関係費とか、文教
関係費とか、社会保障
関係費とか、防衛
関係費等、いずれもそういう性格のものであると言っていいと思いますが、これらが御
承知のように二〇・八%、 二〇・五%、 二二・四%、一五・七%というようにふえているのであります。防衛
関係費につきましてはともかくといたしまして、そういうような経費がふえますことは、それはそれとしてけっこうなことであるとも言えるわけですが、前のような、一方では今までの景気不況と同じである、そして前に申しましたようなビジョンを持っておる、それとこれとの
関係はどういうことになるのか。つまり、一方では、現在の不況は従来のものとあまり違わない、やがて
設備投資を主導とした高
成長が始まるし、それを期待するというような
予算編成の方式をとっておる。他方では、そういうふうに
設備投資を主導とした高
成長が始まった場合に、あるいはまた
国際収支との
関係で
引き締めが必要だというような事態が出てくるかもしれない。それなのに、今申しましたような硬直性を増すような経費、何カ年計画とかいって簡単に減らせないような経費をふやすというような態度をとっておる。そういうことの間に矛盾はないのかどうかということが気になるわけであります。
それからまた、一方では、今申しましたような認識とビジョンを持って
予算を編成しておりながら、他方では、これは
財政ではございませんが、同じ
政府が、新
産業秩序をつくるというような名のもとに、カルテル的な、投資とか生産の制限を助長していこうというようなことをやっておる。こういう点も、私は首尾一貫性を欠くのではないかというふうに思われるわけであります。いずれにいたしましても、景気の
現状をどう見るか、その上に立って
日本の
経済及び
財政政策をどういうように持っていこうとするのか、その近い将来に対してどういうビジョンを描くのか、そういう点をもう少し明示的に表に出して議論をしていただいて、それとの関連で、三十八年度
予算について御検討いただくことが必要ではないか、こういうふうに思うわけであります。これが第三点でございます。
以上、三十八年度
予算につきまして、それ自体として、そしてまた、比較的小さいと言うと語弊がありますが、その
内容に立ち入って言えば、いろいろ申すべきことがございますが、私に与えられました課題が、
経済一般との
関係から見た三十八年度
予算についてのあれであるということでございましたし、時間の
関係もございますので、これをもって私の公述を終わりたいと思います。どうも大ざっぱなことで、また学校の講義のようなことを申しまして、大へん恐縮でございましたが、これで終わります。(拍手)