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1963-02-14 第43回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年二月十四日(木曜日)    午前十時十三分開業  出席委員    委員長 塚原 俊郎君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 赤澤 正道君 理事 安藤  覺君    理事 野田 卯一君 理事 川俣 清音君    理事 楯 兼次郎君 理事 辻原 弘市君       井出一太郎君    稻葉  修君       今松 治郎君    仮谷 忠男君       菅野和太郎君    倉成  正君       櫻内 義雄君    正示啓次郎君       田澤 吉郎君    田中伊三次君       西村 直己君    羽田武嗣郎君       松野 頼三君    松本 俊一君       加藤 清二君    川村 継義君       木原津與志君    高田 富之君       堂森 芳夫君    野原  覺君       山花 秀雄君    山口丈太郎君       田中幾三郎君  出席政府委員         行政管理政務次         官       宇田 國榮君         経済企画政務次         官       舘林三喜男君         外務政務次官  飯塚 定輔君         大蔵政務次官  池田 清志君         厚生政務次官  渡海元三郎君  出席公述人         三菱銀行頭取  宇佐美 洵君         東京大学教授  武田 隆夫君         東京大学教授  川野 重任君  委員外出席者         専  門  員 大沢  実君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和三十八年度一般会計予算  昭和三十八年度特別会計予算  昭和三十八年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 塚原俊郎

    塚原委員長 これより会議を開きます。  昭和三十八年度一般会計予算昭和三十八年度特別会計予算昭和三十八年度政府関係機関予算、右三案についての公聴会に入ります。  本日午前中に御出席を願いました公述人は、三菱銀行頭取宇佐美洵君、東京大学教授武田隆夫君のお二人であります。  開会にあたりまして、御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は御多用中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十八年度予算につきまして、各界学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位のそれぞれの専門的な立場から忌憚のない御意見を承ることができますならば、本委員会の今後の審査に多大の参考になるものと存ずる次第でございます。  御意見を承る順序といたしましては、まず宇佐美公述人、次いで武田公述人の順で、おおむね三十分程度において一通り意見をお述べ願いまして、そのあと公述人各位に対し一括して委員から御質疑を願うことにいたしたいと思いますので、あらかじめ御了承を願います。  なお、念のために申し上げておきますが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際には委員長の許可を得ること、また、公述人委員に対しまして質疑をすることができないことになっておりますので、この点あらかじめ御了承をお願い申し上げます。  それでは、まず宇佐美公述人からの御意見を承ることにいたします。宇佐美公述人
  3. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 ただいま御紹介にあずかりました宇佐美でございます。  本日、委員会から昭和三十八年度予算案に対しまして意見を述べよとの御指名がございましたので、金融立場から若干申し上げてみたいと存じます。  本論に入ります前に、簡単に最近の経済情勢について一言述べさしていただきたいと思います。  御承知のように、昨年十月、十一月と二回にわたりまして日銀公定歩合の引き下げが行なわれました。いわゆる金融引き締めのおもしがとられたわけでございます。その後約三、四カ月たちまして、この間、経済界にも、金融緩和基調や、今年度補正予算あるいは来年度財政の姿がだんだん出て参りまして、やや明るさを取り戻したということは事実だろうと思うのであります。  景気見通しに明るさを漂わせて参りました第一の原因と申しますか、現象は、株価動きでございます。金融各界で昨年の十月の末に株価安定対策を打ち出しましたが、当時千二百円のダウ平均が、先週は千五百円に戻しておるという状態でございます。また、商品市況も、ここへ来てかなり好転をして参ったように見受けられるのであります。商品別には、繊維石油製品等の反騰が目立っておりますが、鉄鋼紙パルプ化学製品等にもようやく底入れ近いというような感じが出てきております。  一方、これら市況回復動きとともに、しばらく静まっておりました企業活動にも、一部ではありますが、ようやく拡大を目ざす微妙な動きが出てきておることも事実のようでございます。  まず輸入信用状でありますが、これは、昨年九月の二億ドルを底といたしまして、十二月までに毎月三、四千万ドルのペースでふえ続けて参っております。もっとも、一月は季節的の影響がございましてそれほどでもございませんでしたが、これは、結局引き締め過程で切り詰められておりました在庫の蓄積が、まず輸入原材料の面からやや補いを始めたのではないかと思うのであります。今後、自由化動きと相待ちまして、この点はかなり注意を要する点だろうと思います。  また、設備投資動きでございますが、今までは縮小一本やりで、ほとんど新しい話は私ども聞いておりませんでしたが、企画庁の調査によりますと、この一月−三月の機械受注見通しでは、久しぶりに前期より増したというようなことも出ておるように思いますので、この点にもやや微妙な動きが出始めておるという感じでございます。たとえば、乗用車、合成繊維あるいは石油化学などのように、一時全くたな上げされておりました投資計画が具体的に練り直しを始めているようなことも聞き及んでおりまして、これも昨年秋までほとんど考えられなかった状態でございます。  こう考えて参りますると、現在の経済情勢は、わが国経済が、昨年秋まで約一年半にわたりまして続けられた引き締め政策の圧力と申しますか、引き締め政策の力から脱して参りまして、ようやく、在庫投資設備投資企業活動の面でも、まあ積極的と申してもいいような面がぼつぼつ出始めてきているように感ずるわけであります。もちろん、これには業種間におけるいろいろの格差と申しますか、差異がございます。今までのような一斉に飛び出すというような勢いはないのでありますけれども、しかし、現実に経済の一部にこうした動きが現われてきたということは、一方から言いますと、経済政策として一番むずかしい段階に来ているのではないかという感じがするのでございます。従って、予算案の背景となっております政府経済見通しによりますと、上期停滞、下期穏やかに上昇するという想定もございますが、政策いかんによっては、ややその上昇の時期が早まるのではないかというような議論も出てきておるような次第でございます。そして、特に現在の市況の立ち直りにつきまして、この輸入上昇気配、あるいは企業のただいま申し上げましたような態度に見られる微妙な動きというものが、金融緩和基調積極予算の登場によってどういうふうにこれが強められているかというところが、今後の問題だろうと思いますし、また、それだけに財政金融政策進め方が今後の日本経済発展に決定的な重要なものと思われるのであります。  そこで、まずその財政でございますが、一般会計、それから財政投融資とも、率直に申しまして、まずその規模は、われわれとしては諸般の状況から考えまして、おおむね妥当なものだと考えます。また、その内容につきましても、若干、後ほど申し上げたいと思いますが、個々の面につきましてはむろん問題がございますが、これも大きく見まして、まず異存がないと思います。特に、私どう銀行といたしまして、従来融資関係その他の関係から深い関心を持って、しかもどうにもならないような状態でございました問題が、今度の予算において取り上げられたという点は、非常にけっこうなことに思うのであります。すなわち、石炭であるとか、あるいは海運であるとか、あるいは硫安等、これは、私ども今までいろいろ申し上げ、そのつどまた御考慮を願っておったのでありますが、今度これを具体的な施策として取り上げられたことは喜んでおる次第でございます。  しかし、この機会に二、三率直に私なりの考えを申し上げたいと思うのでございますが、まず支出面でございます。一般予算支出面でございますが、今後自由化を控えて輸出振興が特に強く要請されておりますことは申し上げるまでもないのでありますが、この予算におきまして、やはり私どもとして、貿易振興の面からもっと考えていただきたかったと思うのであります。手薄と言っては言い過ぎかもしれませんが、そういう感じがいたしております。たとえば、輸出入銀行に対する投融資の面は、前年度と横ばいということになっておりますが、これにつきましては、やはり輸出業者あるいは輸出メーカー感じといたしましては、たっぷり資金があるということが何となく輸出について安心感を与えるのでございます。昨年十分であったからことしもこの程度でいいであろうということではなくて、昨年よりもさらによけい見ておるということが安心感を与え、さらにその資金面からの輸出振興気配を強化するという点を感ずるのでございます。  それからまた、科学技術振興費等におきましても、国産の新技術開発等がむろん予算の上でも御考慮されておりますけれども、これなども、やはり今の情勢から見ますと、もう少し考えていただく必要があるのではないか。元来、こういうものは、それぞれの企業メーカーがもっとやらなくちゃならぬ問題であることは明らかでございますが、日本現状といたしましては、やはり政府の力によりましてそういうものをさらに強化していくという点が非常に感ぜられるのであります。また、御承知のように、これは文教の問題かもしれませんが、科学関係の工学部とか医学部とかというのは、非常に授業料法文科の方と比較して高くなっております。これは、むろん実際必要な金でありますけれども、そういう点を、むしろ今の現状といたしましては、科学振興、将来のさらに人づくりというような点から見まして、もっと御考慮を願う必要があるのではないか。また、設備等についても同様でございます。  次に、財投の面に関連いたしましてちょっと申し上げておきたいのでありますが、相変わらず公団、事業団等の新機関の設立が多い点でございます。近来毎年幾つかの新機関ができておるようでございますが、ここ数年のこのふえ方を見ておりますと、御承知のように、政府出資法人というものは非常に数がふえて参ります。間違っておりましたらお許しを願いたいのでありますが、現在六、七十に達しておるのであります。さらに、間接投資、たとえば開発銀行とかその他中小金融機関とかというような政府機関を通じての間接出資の分を含めますと、おそらくその数は百以上になっておるようでございます。こういう形は、行政組織簡素化あるいは資金の重点的・効率的運用としては、かなり私ども考えさせられるわけでございまして、今後は、むろんそれぞれの必要があっておつくりになるとは思うのでありますが、しかし、できるだけこういうものは最小限度にとどめて、あるものは十分効率的に、また国家的に見まして有効なものに限るということを、一そうお考えを願いたいと思うのであります。  もともと、財投については、今年度もその規模が相当大きくなっているのでありますが、財源その他の制約から、一般会計に盛り切れないものが財投へ持ち越されておるのでありますが、私どもは、しろうと考えかも存じませんが、やはり一般会計一般会計として、また財投財投として、一定のプリンシプルを立てていただく必要があるのではないか。ただ、均衡財政を保つために、一般会計はこういう形にしておいて、盛り切れないものは財投に持っていくというようなことは、いかがかと思うのであります。決してそういう趣旨ではないと思いますが、そういう感じがするわけであります。むろん、こういう経済の非常に激しい変還の中でございますので、変えることができない一般予算だけではいけないので、補完的にそういう財投のようなものが必要であることは私どもよくわかるのでありますけれども、やはりそこに何かプリンシプルが必要ではないかと思うのでございます。  それから、財投規模拡大に伴いまして、金融債発行がやはり気になる問題でございます。しかし、今般の予算に盛られた程度であれば、預金の伸びその他から考えまして、各種金融機関の協力によりましては、おそらく消化が可能ではないか、こういうふうに考えております。また、そういうふうに努めたいと考えておるのであります。ただ、政保債発行時期あるいは方法、その他発行条件につきましては、やはり経済情勢の推移に即して十分弾力的に配慮していただきたいと思います。  特に、今後は、日銀の新方式によります買いオペ制度が発足いたしました際でございますので、私は、この際に、公社債市場の整備、今まあないと言ってもいいのでありますが、これが必要だと思うのであります。従来のような、公社債あるいは政保債を込めての問題でございますが、割当制度でなくて、公募の形を何とか今後出していくように御配慮を願いたいと思います。私どもも、日本銀行も同様と思いますが、そういう点で今後も努めて参りたいと思うのであります。  なお、ただいまは主として支出面で申し上げましたが、収入面につきまして一言さしていただきますと、まず、今回の予算編成過程で、減税に関しまして、一般減税政策減税かということが大きな問題になったようでございますが、私は、こういう一般減税かあるいは政策減税かというような二者択一的な考え方はおかしいのではないかと思うのでございまして、減税はむろん大きな政策一つでございますから、税の公平理論だけでなく、政策的の見地から公平理論とどう調整していくか、頭から政策減税はいけないのだとか、あるいは公平理論はいけないのだというような考えでなく、これをどういうふうに調整していくかということで、両方をあわせて考えていくようにやる必要があるのだろうと確信いたします。  われわれといたしましては、こうした見地から、昨年来利子課税の優遇を強くお願いしておったわけでございます。これからいろいろ御審議があると思いますが、どうぞこの点はよろしく御了承を願いたいと思います。  さらに申し上げたいことは、わが国の徴税時期の問題でございますが、金融季節的波動というものがいかに大きいか、皆様御承知と思います。月によって、数千億引き揚げられたり、あるいは支払い超過になったりということが起こっておるということは、私どもとして非常に困るわけで、これの徴収方法になりますが、平準化と申しますか、税制をお考えになるときに、ぜひこれを考えていただきたいと思うのでございます。  それから、道路、港湾等長期事業につきまして、その年度の歳入だけでまかなうことは無理ではないかと思っております。むろん、私個人といたしましては、今後の日本経済成長を長く続けていくためには、やはり長期資金というものが財政の上において現われるということは考えていいのではないかと思います。ただ、問題は、そういうことを考えましても、やはり、公社債市場があるとか、あるいはそれらのものが弾力的に運営される環境、すなわち消化力拡大ということが非常に大事でございますので、さしあたり、この消化力拡大という面に一つ格別の御配慮を願いたいと思います。  なお、予算運営上ぜひ注意していただきたいのは、来年度の場合、一般会計財政投融資ともに、前年度より相当ふくらんでおります。また、その支出内容を見ましても、公共投資社会政策文教政策等の三本の柱を立てられておりますが、財政日本経済の上におきましてかなり大きな力をだんだん持ってくることは御承知通りでございます。来年度は民間の設備投資が多く期待できませんので、勢い財政によって景気回復の助勢をもはかるということは正しいと考えられると思います。しかし、それだけに、この財政あり方いかんでは、また景気過度行き過ぎという問題も起こりますので、この実施にあたりましては、十分、支出進め方、時期等について慎重に御考慮を願いたいと思います。  以上、来年度予算案に関連いたしまして申し上げましたが、要するに、規模内容等につきましては、おおむね妥当であると思っております。内容につきまして、前に申し上げたような問題がございますが、それよりも大事なことは、ただいま申し上げました通り経済がことしはどういうふうに動いていくか、非常に重大な時期でございますので、その運営につきまして格別の御考慮を願う、政府におかれましても、そういう運営について十分考慮していただきたいと思うのであります。これが私の最後の希望でございます。  ありがとうございます。(拍手)
  4. 塚原俊郎

    塚原委員長 次に、武田公述人の御意見を承ることにいたします。
  5. 武田隆夫

    武田公述人 ただいま御紹介をいただきました東京大学武田でございます。私に与えられました課題は、昭和三十八年度の予算につきまして、経済一般との関連におきまして所見を述べろということでございます。  御承知のように、昭和三十二年の引き締め政策の後、三十三年の下期から上昇に転じました日本経済は、三十四年、三十五年と高成長を続けて参りましたが、三十六年に入りますと国際収支が悪化の様相を示し始め、同年秋に総合引き締め政策がとられざるを得ないようになりました。その浸透の過程は、過去二回の場合とかなり違っておりましたが、ともかくも、三十七年の七月以降国際経常収支は黒字に転ずるようになりました。そこで、同年の秋には引き締め政策が次第に解除されましたが、その後の回復過程は、これまた、過去二回の場合と違いまして、そうはかばかしいとは言えないように思うのであります。この引き締め政策の浸透の過程とその解除後の経済回復過程とが従来のそれと違うという点に着目いたしまして、日本経済の発展がこれまでと変わってきたのではないか、将来変わっていかざるを得ないのではないかという問題、言いかえますならば、日本経済がいわゆる転型期にあるのではないかということが論議をされて参りましたのは、御承知通りであります。この点をここで詳しく申し上げるわけには参りませんが、ともかくも、引き締め解除後かれこれ四半期を経ました今日、日本経済は、先ほどの公述人のお話では、株価が上がったというような、いろいろ好転の兆が見えるというお話もございましたが、そういうことはございましょうが、やはり相当の不況の状態にある、こう言っていいかと思うのであります。  今、一つの指標といたしまして、産業操業度について見ますと、通産省が三十八年度の鉱工業生産主要物資生産見通しというのを出しておりますが、これによりますと、全産業操業度は、三十七年九月に、これはいろいろの産業をひっくるめての話でございますが、七九・五%であったのが、今日ではさらに低下しているというふうに私は考えざるを得ないと思うのであります。何となりますれば、この見通しによりますと、三十八年四、五月が底で、年度間平均で七五%を下回る公算が大きい、こういうふうにここには述べられているからでございます。このことは、膨大な設備投資によって生産能力がせっかく高められましたが、過剰供給による価格の崩落と、それによる経済混乱等を防ぐためには、生産能力の四分の三しか稼働させることができない、四分の一は遊休させておかざるを得ないということを意味するものである。こうした操短が国民経済的に見てむだであるということは申すまでもございませんが、それはまた設備投資に伴う金利とか償却費とか人件費とかいうようなものの負担を相対的に高めまして、市況の低下と相待ちまして、産業の収益を減少させることになるわけでございます。  この点を、多少くどいようでございますが、国税庁の資料によりまして、九月期の決算の大法人、資本金一億円以上の法人千三百四十六社について見てみますと、前期に比しまして、売り上げの金額は、全部平均して一〇〇・四というふうに少し伸びておりますが、公表利益は九八・七、申告所得は九一・一というふうになっております。なかんずく、石油精製業とか鉱業とか鉄鋼業というようなものにおきましては、今申しました数字、すなわち、売上金額公表利益申告所得関係が、石油精製業では、九七・一、三六・一、二八・八、それから鉱業におきましては、九一・一、五九・九、三五・三、鉄鋼業におきましては、売り上げが八六・四と伸びておりますのに対して、公表利益は五九・七、申告所得は三九・一というように、惨たんたるありさまを示しておるのでありますが、この傾向は、三月期の決算におきまして、むろん石油精製業というようなものは伸びてきているように思います、従って、業種によっていろいろ違うと思いますが、あまり変わらない、全体としてはもう少し加重されるというように思われるわけでございます。  他方、国民生活の面を見ますと、経済の高成長に伴いまして、所得水準、それから消費水準ともに向上しているということは事実でございます。しかし、総理府統計局家計調査によりますと、七、八月の平均収入、これが一番新しい数字でありますが、七、八月の平均収入の対前年同月増加率、つまり去年の七、八月に比べてどのくらいふえているかという点を見ますと、一二・九%増であります。しかし、一−三月には、これが一四%去年に比べてふえている。四−六月には一七・六%ふえているというのに比べますと、その伸びは鈍っております。また、七、八月の消費支出を見ますと、この対前年同期増加率を見ますと、これも、七、八月には名目で一三%、実質で五・二%増ということになっておりますが、これまた、一−三月、四−六月がともに一六・七%、実質で七・八%ふえておるのに比べますと、やはり伸び率が鈍っておるということに注目すべきであろうかと思うのであります。その後の資料がまだ公表されておりませんのでよくわかりませんが、こういう傾向は依然として続いておるというふうに思われるわけであります。  それから、なおまた、この家計調査に触れまして、ごく最近発表されました厚生白書に、三十七年上半期の家計収支を、いわゆる五分位階級別に見たものがあります。つまり、所得の低い方から五段階に分けて家計収支を出しておるのを見ますと、一番所得の低い月の平均収入が一万七千円くらいのクラスにおきましては、前年の同期に比べまして赤字が一八%くらいふえておるということ、それから、もう一つ、この厚生白書の中で、「生活保護階層ボーダーライン階層以外の所得の低い階層の間にも、一般生活水準の向上、生活様式の変革、人口移動の激化、生活環境の変化、消費者物価の高騰などにより、生活上の不安や相対的な貧困感が強まりつつある」というふうに述べておりますこと、こういうことも見のがすことのできない点ではなかろうか、こういうふうに思うわけであります。  以上の指摘は、大へん断片的でございましたが、三十八年の予算は、こうした情勢のもとで編成されたものであります。しかし、この予算関係しますのは、申すまでもなく、三十八年度の経済ないしは国民生活でございますから、現状がどうかということよりも、将来どうなるかということが問題でございます。しかし、これにつきましては、私は、正直なところは、実はよくわからない。膨大な資料と人手を持っておる政府見通しでもしばしば違う。いわんや、私ごとき者にそういうことがよくわかるわけはございませんが、三十八年の一月の十八日に閣議決定を見ました「昭和三十八年度の経済見通し経済運営の基本的態度」という御承知のものがございます。それを基礎にいたしまして私なりのコメントをこれにつけ加える、それに関連しまして予算についての私の所見を述べるということでごかんべん願うほかはないと思うわけであります。  さて、この「経済見通し」によりますと、個人消費が、御承知のように、一兆二百億円、一〇%の増である。これが総支出を五・四%伸ばす。それから、民間投資は、設備投資が千億円の減、在庫投資が横ばい、それから個人住宅投資が八百億円の増、差引二百億円、〇・四%の減でありまして、これが総支出に対しまして〇・一%だけマイナスの要因になる。また、国際収支につきましては、これはあとでも申し述べたいと思いますが、経常収支じりが二百億円の減でありまして、これも総支出に対しまして〇・一%のマイナスの要因となります。そこで、財政支出を五千五百億円ふやして、——これは国と地方合わせたものであります。ただし、国のあれと、つい最近発表されました地方財政計画をつき合わせてみると、少し数字が違いますが、ともかく、財政支出を五千五百億円ふやしまして、これによって総支出を二・九%伸ばすと、全体としての成長率は、御承知のように、八・一%になる。ただし、物価が上がるということを考えて、実質の伸び率は六・一%となるであろう。こういうのが政府経済見通しでございます。  しかし、企業活動とか、それから国民生活現状につきまして先ほど申し述べましたが、そういうことだといたしますと、個人消費が一〇%伸びる、それから民間投資が〇・四%の減であるという見通し、ことに後者については、私は、多少楽観的あるいは希望的に過ぎるのではないか、こういう感じを持っております。もしそうであるといたしますならば、総支出伸び率はそれだけ落ちる、それに応じて租税の自然増収も減る、従って、いわゆる健全均衡の建前を貫こうとする限り、財政支出もまた五千五百億よりも減らざるを得ないということになりまして、総支出伸び率はさらに低下することになる。そして、この低下を食いとめようといたしますならば、いわゆる健全均衡の建前をそれだけくずしていかざるを得ない、こういうことになって参ります。すなわち、経済見通しいかん、どう見るかということは、そのように見通されます経済にどう対処していくかという問題とからみまして、予算編成の仕方、態度というようなものに大きな影響を持ってくるものであります。  私は、前にもお断わりいたしましたように、この「経済見通し」が間違っていると言い切る自信はございません。あるいはこれが妥当なものかもしれません。しかし、他方、昨年の十二月の二十三口でございましたかの新聞各紙の伝えるところによりますと、「経済見通し」がこうした線に落ちついたのにつきましては、経済企画庁と大蔵省との間に若干意見の食い違いがあった、そこで、経済企画庁では、経済の実勢から言って、名目は七%台、実質で五%台がせいぜいであると見ていたのが、大蔵省のやや強気の見方に押されて、名目が八・一%、実質が六・一%と、この線に落ちついたのだというふうに言っております。そうして、そういうことになりましたにつきましては、いわゆる健全均衡の建前を貫きながら、しかも、各種の予算要求に応じ得るようにしますためには、租税の自然増収見積もりが大きくなければならないという点を考慮してのことだという解釈が行なわれております。もちろん、その点がはたしてどうであるかということを私自身確かめたわけでございませんし、ここでその点を詮議しようというわけでもございません。私がここで申し上げたいことは、経済見通しいかんということが、今申し述べましたように、予算の編成の仕方、態度に大きく影響するものであるとすれば、その見通しはできるだけ正確なものでなければならない。ことに、財政の方の都合によって経済見通しが変えられることがあるのだというような印象を与えることは少なくともよろしくない。幸い、この「経済見通し」がつくられましたときには、まだおそらく利用できなかったと思われます引き締め緩和の影響の出てきた第三・四半期のデータが、ぼつぼつ利用できるようになってきているのではないかと思われます。そこで、もう一度この「経済見通し」と予算との関係を再検討されることが予算委員会としては必要なのではなかろうか、これが私が申し上げたい第一の点でございます。  政府経済見通しに対しまして私がしたいと思いますもう一つのコメントは、国際収支、ことに、輸出についてでございます。  すなわち、この「経済見通し」によりますと、輸出は七・二%増の五十二億ドルというふうに見積もられておりますこと、御承知通りでございますが、これもまた、やや楽観的ないし希望的な見積もりではないかというふうに思われるわけであります。もちろん「見通し」におきましても、三ページでございますが、「わが国をめぐる国際環境はきわめて厳しく、輸出の増大にはかなりの困難が予想される」というふうにいたしまして、輸出振興に努力すべきことがうたわれておるわけであります。  しかし、この「経済見通し」が作成されました以後におきまして、少なくとも二つの新しい、しかも相当重要な事態の変化があったということに注意しなければならないのではないかというふうに思われます。一つは、米国におきまして、御承知のような大規模な赤字財政政策がとられるようになったこと、もう一つは、これは御承知でございますが、英国のEEC加盟が失敗に帰したということでございます。  御承知のように、米国では、一月十七日に大統領が議会に送りました予算のメッセージにおきまして、必要な支出はそのままにしておいて、相当大規模減税をする、それによって、一九六四年度、来年の六月に終わります予算年度には、百十九億ドルの赤字を出すが、それによって景気の回復をはかっていこう、こういうことを考えておるわけであります。これはいわゆる国際均衡よりも国内均衡に重きを置く方策でございまして、これによって多かれ少なかれ国内景気は刺激されるでありましょうが、同時にまた、国際収支を不安にする要因を多分に含んでおるものでございます。そこで、対米輸出は、米国の景気がよくなるという点から申しますと、伸びるようにも思われますが、それよりも、国際収支につきまして米国側が一そう神経質になるだろうと思うのです。神経を使うようになる。その点では、日本の対米輸出というのはチェックされる可能性が多いということも考えておかなければならないことだと思うのであります。  それから、イギリスがEEC加盟に失敗いたしましたことは、これを前提にいたしまして、さらにそのイギリスが入って拡大されたEECと米国との相互関税引き下げを前提としておりましたわが国の通商政策に、相当のそごと申しますか、困難をもたらすのではないかということが考えられるわけであります。言いかえますならば、政府の「経済見通し」に、これは六ページだったと思いますが、「わが国をめぐる輸出環境には決して楽観を許さないものがあるが、最近米国、西欧諸国を中心として経済交流拡大の気運が高まりつつあり、わが国としてもこの気運に乗りうるよう輸出秩序の確立に努め、積極的な経済外交を推進しつつ、」云々と、こう書いてありますが、その点が、前に申しました米国の政策が変わったということと、それからイギリスのEEC加盟が失敗に帰したということによって変わってきて、この点からも輸出はチエェクされるものである、こういうふうに言っていいかと思うのであります。  こういう情勢のもとにおきまして、御承知のように、三十八年度の予算は、前年度当初予算に比べまして、一般会計では四千二百三十二億円、一七・四%増、投融資計画におきまして二千四十五億円、二二・六%の増というように、相当大型の財政が実施されようとしておるわけでございます。しかも、一般会計予算には、前年度剰余金受け入れ二千六百二十七億円が含まれておりますほかに、前に第一のコメントで申しましたように、やや過大と思われます自然増収見込みというものの大部分が支出に振り向けられておる。それからまた、投融資計画には、三十七年度の自然増収を産投会計に繰り入れまして、三十八年度に支出する額が三百十三億円、それに、先ほどのお話にもありましたが、日銀買いオペ方式が改定されたという状況のもとで、政府保証債の発行額が三百十億円ふえておる。これと少し角度は違いますが、そうしていろいろな仮定を加えた一応の見込みでありますが、予算に関する参考資料によりますと、三十八年度の財政資金の対民間収支の見込みは三千百二億円、外為会計を加えますと三千七百五十億円の散超ということになっておるようでございます。こういうすべてのことは、三十八年度の財政がいわゆるインフレ的であるということを意味すると言っていいかと思います。もちろん、供給能力過剰という状況のもとでありますから、インフレだというふうに言い切ることは、これは問題があるわけでございますが、しかし、財政支出は、その性質上消費者物価を高める傾向を持っておる。それから、それに加えまして、雇用状況が、「経済見通し」にいうような事情のもとで、本年度と同率の伸びを示すというふうに考えられておることをを与えますと、消費者物価上昇による賃金上昇、それからそれによるコスト高、輸出への影響というようなことが考えられ得るわけでございます。そうなって参りますと、輸入額につきましては、経済見通し通りに五十億円にとどまるといたしましても、それからまた、今申しましたような事情のもとで、この五十億円というものがふえればなおさらでございますが、いずれにいたしましても、経常収支の赤字は増大いたしまして、国際収支は悪化すると申しますか、懸念が出てくるということになるかと思うのであります。そうなりますと、この国際収支を大きな柱としております「経済見通し」そのものも、それだけ違ってくるということにならざるを得ないのではないか、こう思うわけであります。  このようにいたしまして、国際収支について、御承知のような二つの新しい条件ができている。米国の政策のことはやや予想ができたにいたしましても、EECの加盟にイギリスが失敗したということは、これは新しい条件ではないかと思うのでありますが、そういう状況下におきまして、今日、そのことと大型積極予算との関連というものを、もう一度予算委員会あたりで御検討になってみることが必要なのではないか、こう思うわけであります。これが私の申し上げたい第二の点でございます。  最後に、時間も大してございませんが、もう一つだけ簡単に申し上げたいと思います。  これは、前に申しました二つの問題とはやや性質を異にすることでございますが、こういうことでございます。経済見通しを立て、それとの関連で予算なり投融資計画なり、一定の財政方策を打ち出していくにつきましては、単に機械的に数字を積み上げて、それに見合うような財政をきめていくというのではなくて、それ以上に来年、再来年、さらにその次の年にわたって日本経済日本財政をどう持っていくか、どうなることを期待しているかといったような、いわばビジョンがその背景になければならないかと思うのであります。そのためには、現在の事態について一定の認識がなければならぬ。つまり、今の状況が二十八、九年あるいは三十二、三年と同じような不況なのか、それともいわゆる転型期なのかというような点について、その認識がなければならないかと思うのであります。そして事実明示的に必ずしもはっきりと示されているかどうかは別といたしまして、予算をつくられた政府の方にも、そういうあれがあると思うのであります。  この点を予算あるいは投融資計画について見ますと、私は、基調をなすものは、現在の不況は性質においては従来と同じものである、ただ程度が違うだけだという認識であるように思うのであります。従って、従来と同じように、来年の成長率について一定の、それもことしよりはやや高目の予想を立てて、それに基づいて一定の税の自然増収を見込む、そうしてその大部分を支出に振り向けて、一部を減税に充てる。そうすることによって大型化した上に、形式上健全均衡という線は守られておりますが、実質的には経済刺激的な予算を組むという方式をとる。ただ、現在の不況の程度は従来のものよりも大きいから、自然増収は目一ぱいに見込む。その自然増収のうち、従来以上に大きい部分を歳出に振り向ける。残りの分を減税に充てる。それも、利子・配当課税の減税というような、資本蓄積を刺激するような減税に充てて、一般減税はちょっと待ってくれというような方式をとる。また、財政投融資におきましても、直接間接資本蓄積を刺激するような線をとる、そうしていれば、やがて景気は回復し、再び従来と同じような設備投資の主導する高成長が始まっていく、こういうようないわばビジョンを持っているかのように思うわけであります。  ところが、そういうものを持っているようにも思うのでありますが、他方では、支出のいわゆる硬直性を増すような傾向をいよいよ強めるというような形で、予算が編成されているようにも思われるのであります。御承知のように、日本財政支出の中には、一たんふえるとその後なかなか減らすことができないような、いわゆる硬直的な経費と申しますか、支出が多いのでありますが、三十八年度予算では、そういうような経費を一挙にふやすというようなことになっているのではないかと思うのであります。公共事業関係費とか、文教関係費とか、社会保障関係費とか、防衛関係費等、いずれもそういう性格のものであると言っていいと思いますが、これらが御承知のように二〇・八%、 二〇・五%、 二二・四%、一五・七%というようにふえているのであります。防衛関係費につきましてはともかくといたしまして、そういうような経費がふえますことは、それはそれとしてけっこうなことであるとも言えるわけですが、前のような、一方では今までの景気不況と同じである、そして前に申しましたようなビジョンを持っておる、それとこれとの関係はどういうことになるのか。つまり、一方では、現在の不況は従来のものとあまり違わない、やがて設備投資を主導とした高成長が始まるし、それを期待するというような予算編成の方式をとっておる。他方では、そういうふうに設備投資を主導とした高成長が始まった場合に、あるいはまた国際収支との関係引き締めが必要だというような事態が出てくるかもしれない。それなのに、今申しましたような硬直性を増すような経費、何カ年計画とかいって簡単に減らせないような経費をふやすというような態度をとっておる。そういうことの間に矛盾はないのかどうかということが気になるわけであります。  それからまた、一方では、今申しましたような認識とビジョンを持って予算を編成しておりながら、他方では、これは財政ではございませんが、同じ政府が、新産業秩序をつくるというような名のもとに、カルテル的な、投資とか生産の制限を助長していこうというようなことをやっておる。こういう点も、私は首尾一貫性を欠くのではないかというふうに思われるわけであります。いずれにいたしましても、景気の現状をどう見るか、その上に立って日本経済及び財政政策をどういうように持っていこうとするのか、その近い将来に対してどういうビジョンを描くのか、そういう点をもう少し明示的に表に出して議論をしていただいて、それとの関連で、三十八年度予算について御検討いただくことが必要ではないか、こういうふうに思うわけであります。これが第三点でございます。  以上、三十八年度予算につきまして、それ自体として、そしてまた、比較的小さいと言うと語弊がありますが、その内容に立ち入って言えば、いろいろ申すべきことがございますが、私に与えられました課題が、経済一般との関係から見た三十八年度予算についてのあれであるということでございましたし、時間の関係もございますので、これをもって私の公述を終わりたいと思います。どうも大ざっぱなことで、また学校の講義のようなことを申しまして、大へん恐縮でございましたが、これで終わります。(拍手)
  6. 塚原俊郎

    塚原委員長 ありがとうございました。     —————————————
  7. 塚原俊郎

    塚原委員長 それでは、これよりただいまのお二方の御意見に対する質疑を行ないます。正示啓次郎君。
  8. 正示啓次郎

    ○正示委員 お二人の公述人の方から大へんけっこうな御意見をいただきましたので、この機会に一、二御質問を申し上げたいと思います。  宇佐美先生、武田先生の御両人に伺いたいのでありますが、ただいま最後に、武田先生が経済の将来の見通し、あるいはいわゆるビジョン論を少し示唆されましたので、これらの点について、両先生からまず御意見を伺いたいと思います。  御案内のように、今回の予算の中の歳入面に、利子、配当の課税に対する特別の軽減措置、これが盛られておりまして、この予算委員会でも、この施策について、野党の方々からいろいろ御批判があったわけであります。実はただいま武田先生から、景気循環論的なこと、一つのビジョンであろうかというようなお話もありましたが、そういうことではなくて、われわれは、政治の民主化ということと同時に経済の民主化、これが今後の大きな道であろう、こう思っております。そこで、連日予算委員会の御議論を拝聴いたしておりますと、利子と配当に対する源泉税率を引き下げたのは一部の大資本家を擁護するものだという、われわれが昔大学で聞いたような、古い蔵書、文庫の本に書いてあるような議論が、依然として横行しておるのでございます。政治が今日のように民主化されておるのに、経済の民主化がこれに伴わないわけはないのでありまして、私どもはこれをピープルズ・キャピタリズムと呼んでおるのであります。これが実は新しい経済のビジョンである。そこで、ピープルズ・キャピタリズム、すなわち、資本をわれらの手に、大衆の手に、こういうことが、今日の経済に対する進歩的な、ほんとうに経済に通じた者のビジョンである、こう思っておる。そこで、利子・配当課税を軽減することを、まさに大衆はそういう方面に——たとえば今まで貯金をすることについてリラクタントであった、こういう方々に対して、小さな貯金は免税だ、相当大きくなっても税を安くして、それを大いに奨励しておるのだ、あるいは直接投資もそういう方面において優遇し、一方証券界の健全な発達をはかっていく、これが新しいピーブルズ・キャピタリズムであり、資本を大衆の手にという考えであろう、こう私は思うのであります。実は今回の予算の中に、非常にささやかでございますけれども、宅地債券という構想を打ち出しておるのでありますが、宅地というものをほんとうに大衆のアプローチアブル、大衆の近づきやすいものにするには、何年かの間零細な貯金をして債券を引き受けた者に、宅地が優先的に渡るようにしようとするものでありまして、まさにこれもピープルズ・キャピタリズムの一つのささやかな道なのでございます。こういうことをわれわれは打ち出しておるのでございますが、不幸にして国会の予算委員会の議論がいまだその段階にいかぬことは、ほんとうに残念なことだと思って、連日ここで静かに聞いておるのでございますが、まず、こういう構想につきまして、宇佐美先生は金融の専門家の立場においてどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか、御意見を伺い、次いで武田先生の御意見を伺いたいと思います。
  9. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 ただいまの御質問に、私の私見を述べさしていただきたいと思います。  日本経済をこれから進めていく上において、ことにこのごろは日本が世界の三本の柱の中に入っていると言われますけれども、よく考えてみますと、まだまだ日本経済というものは、先進国から考えましておくれておるわけでございます。これをやって、日本経済がもうこれ以上進まなくてもいいというならともかくでございますが、われわれが経済をもっともっと進めていくためには、やはり何といいましても資金が要るわけでございます。ところが、現在の日本におきましては、資金の需要の方が供給よりも非常に多いのであります。私ども銀行の状況を率直に申し上げますと、大体資金需要の三分の一くらいしか今やっていけません。しかし、必ずしもその資金需要の三分の一しかやってないからだめだとは私は考えておりません。いろいろの資金需要かございますので、そのうち、国家的見地あるいはそのほか全体をながめまして、これこそ必要だというものについてやっておるわけでございますので、ただいま三分の一と申しましたが、それほどは考えなくてよろしいと思います。しかし、いずれにいたしましても、日本経済を進める上において、資金の需要が多いことをまず御認識願いたいと思うのであります。むろん、国家の資金もございますが、やはり日本経済を進める上におきましては、何といっても民間の資金を集めることが必要だと思うのでございます。預金というものは、申すまでもなく、税金のように強制してとるものではございません。そこで、われわれとしては、何としても国民が喜んでと言ってはなんでございますが、とにかくしんぼうして資金を出す、貯蓄をしてくれるという環境をつくることが必要だと思います。それには一番大事なことは、やはり物価の問題でございます。物価がどんどん上がっていくのに、貯金しろと言いましても、これはできません。そこで、政府におかれましても、物価の安定ということ、あるいはこれも徐々に上がっていくという程度に押えていただきたいということを申しておるのでありますが、さらに国民に魅力を——預金をしても物価上昇をカバーして将来の備えにするというような状態にしなければいけないのではないか、こういうことでございます。しかし、一方において、これからの日本経済は、やはり金利を上げて魅力をつけるということは、われわれとして慎しむべきだと思うのであります。  そこで、政府にお願いしまして、何とか税金の面で——しかし、これも国民の大事な税金を国として集めておられるわけでございます。そういうものについて、一方においては税金を軽減していただくことによって国民に呼びかけ、そうしてこの不足している資金を何とかカバーしたい、こういう点でお願いした次第でございます。この税金をこういう形でまけますと、確かに高額の方の方が有利であるということも言われるのでございます。しかし、今の現状としましては、しばらくの間でもこういうことを忍んでいただいて、そうして経済をよくすることによって、国民全体のレベルを上げ、生活水準を上げる、今基礎的のやはりいろいろの施策をやっていかなくちゃならぬわけでございますので、これは少しく長い目で見ていただければ十分御理解願えるのじゃないか、こう思ってお願いした次第でございます。この今の資金需要の関係から言いまして、どうしても貯蓄増強というものを私どもはやらなくてはならないし、またこれが国に対する必要なことと思います。そうかといって、利子をやたらに上げることもできません。結局追い詰められたといいますか、そういうことで、利子の方でしばらく御考慮を願いたい、こういうことでお願いしたような次第でございます。
  10. 武田隆夫

    武田公述人 どういうふうにお答えしていいか、私はよくわかりませんが、私最初にお断りしておきたいことは、私は、自民党とか社会党とか、あるいは前公述人のような、ある特定の立場を持っておりません。なるべく立場を離れて客観的な議論をしたい、こう思ってはおります。  そういう点から言いまして、事実としてピープルズ・キャピタリズムということと、それから利子・配当課税の減免ということの関連で御質問になりましたけれども、私は、ピープルズ・キャピタリズムという内容が、大株式会社ができて、その株式会社の株式が多数の国民に分散されて持たれておるという状態を、もしかりにピープルズ・キャピタリズムというふうにお考えになっているのであるとすれば、そういう状態は今の日本にはないということと、事実は、大部分は法人間の持ち合い、法人株主というのが一番多いのです。それからもう一つは、かりにそういうことがありましても、そういう株主がその株式会社の株主総会に出ていったり、あるいは取締役会に出ていったりして、その会社の方針にタッチをするというようなことは、まずあり得ない。そういう点で言いまして、今の企業は、資本家とは申しませんが、企業独自の意思で動いておるのだ。そういう意味で、もし株式の大衆化ということをピープルズ・キャピタリズムというふうにお考えになっているのだとすれば、私は、それは事実としてはそうではないのじゃないかというふうに考えております。ただ、利子・配当課税を、日本を資本主義的に成長さして、そして経済民主化をはかる、その意味で資本の蓄積をはかっていくのがいいんだというビジョンをかりにお持ちになって、その立場から便法として利子・配当課税を御主張になるなら、私は、それは一つの主張である、しかし反対の主張もなし得る、こういうふうに考えます。  それからもう一つ、宅地債券のことに関連して、そのピープルズ・キャピタリズムということをお述べになりましたが、これは、私は先ほど実はこまかい点の一つとして申し上げようかと思っておりましたが、私は今日一般会計財政投融資化という現象があると思うのです。これは、一般会計でやるようなことを財政投融資に回す。そこで、それはどうしても料金をとって、ある意味の、完全かどうか知りませんが、コマーシャル・ベースでやらなくちゃならぬ。そうすると、たとえば公団住宅あるいは宅地債券をとりましても、これはおっしゃるように、あの制度で、私がかりに宅地を得ようとしたら、私は得られない、とても買う能力はないです。いわんや、私よりも下の階層はとても買えない。私は昨年イギリスにおりまして、イギリス人と話をしていたのですが、イギリス人が不思議なことは、イギリスでは、一定の所得階層以下の者がパブリックの資金を使った住宅とか何かに入る権利を持っておる、ところがお前の国では、一定の所得以上の者でないと入れないというような制限があるそうじゃないか——公団住宅あたりは確かにそういうのがありますね。そういうことはおかしいじゃないか、こう言うのです。私は、外国に行きますと多少愛国心が出まして、いや、日本にも第二種公営住宅のようなものがたくさんあるのだ、数字は幾らだと言うと、やっぱり納得しないのです。ですから、そういう点をやっぱりお考えいただきたいというのが私のお答えでございます。
  11. 塚原俊郎

    塚原委員長 この際、委員各位に申し上げますが、宇佐美公述人は十二時五分くらいまで、それから武田公述人は十二時十分くらいまでしか時間がないそうであります。現在のところ正示君、山口君、堂森君、加藤君、四人の質問者がおりますので、そのことを念頭に置いて御質問をお願いいたしたいと思います。
  12. 正示啓次郎

    ○正示委員 時間がありませんので、あまり詳しくディテールにわたってディスカッスしないのは、非常に残念ですが、どうか国内でも一つ愛国心をやはりお出し願いたい。たとえば公営住宅、公団住宅、この宅地債券もそんな大きなものではございません。六年、七年の間に六十万円くらいのものを買おう、こういうのですから……。しかし、これは時間がありませんから、それだけ申し上げて、宇佐美先生に一つだけお伺いしたいのですが、輸銀の資金が非常に足りないという御意見がありました。これは一つ繰り越しが大きいということをお考えいただきたいのと、今回開発銀行の中に体制金融、これをつけた趣旨をお触れにならなかったのですが、これはいわば与党・政府の苦心したところでありまして、たとえば石油産業が、ああいうものはもうかるんだからとほうっておいたら、外国の資本と結びついてしまって、もう今何ともならない。ちょうど娘たちが外国のパトロンをつくったようなものだ。自動車もほうっておいたらそうなるから、そうならぬうちに国内で体制金融をつけよう、それから外国から資金が必要でも、国のスクリーンを通して、いわば娘たちが直接パトロンに結びつかないように、おやじが、国を一回通してそれをやろうという趣旨のものが入っておる。こういう点についてお触れにならなかったのですが、この点はどういうふうにお考えか、これを一つ民間の金融機関としてのお立場一つお述べ願いたい。  それから時間がありませんから、一緒に武田先生にもう一つだけ伺います。武田先生は、この経済見通しの問題にお触れになって、歳入が相当水増しをしておるじゃないかというような点を、あとで国際収支の問題とも関連しつつ、経済の状況について、いわば相当ペシミスティックな見方をされたのでございますが、実は先ほど宇佐美先生がお話しになったように、またこれはだれでも知っておりますように、経済の回復は、歳入を見積もったときよりもだいぶ早いということになりますと、再検討せよとおっしゃったことは、もっと歳入を強気に見ても、景気の回復は政府見通しより早いじゃないかということも、現実に出ておるのです。この点についてお触れにならなかったので、この二つだけを宇佐美先生から先にお答えをいただきまして、あと武田先生からお願いしまして、私の質問を終わります。
  13. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 お答えいたします。  先ほど初めに申し述べましたときに、時間がございませんので、触れなかったわけです。これからいよいよ日本がほんとうに自由化をしていくというためには、今までの国内だけでやっておる経済が世界的になるわけでございますので、ここでいろいろの問題を考えなければならぬことは事実でございます。また必要があれば、いろいろの今先生がおっしゃったような措置もぜひとっていく必要があると私は思う。今度の予算でいろいろお考えになっている点もまことにけっこうだと思います。  ただ、私が心配いたしますことは、やはり企業をやっていく上において、根本的に言いまして、競争ということが自由経済においては非常に大事なことだと思うのであります。それからもう一つは、これも長らく言われておることでございますが、企業の責任制ということも、これは非常に大事なことでございます。日本人は、とかく困ると政府にたよろうという気が非常に強うございまして、これを直していかないと、世界競争に負けるのじゃないかというふうに感ずるわけでございます。そこで根本的に言いまして、これからいろいろ、ただいま御指摘になりました通り、世界の大きな資本に巻き込まれていくというようなことを防止する、しかし金は足りないという場合に、政府のクッションあるいはそのほかのクッションを使ってやっていくということも、むろん考えていかなくちゃならぬのですが、そういういろいろの問題を片づける上において、安易な気持でなくて、やはり自由経済という立場をとっておる以上、その面を原則として考えていただきたい、その上で、補完的の意味でいろいろ考えていくということをやっていただきたい、こういうふうに考えておる次第であります。
  14. 武田隆夫

    武田公述人 お答えいたします。  私が先ほど経済見通しに関して申し上げましたことは、少しペシミスティックに過ぎる、現実の状況はもうすでに相当明るいきざしが見えておるのだというお話でございますが、私は、感じとしてはそういう感じを利用できる統計が、御承知のように昨年上半期までしかございません。第三・四半期の統計はほとんどないと思うのです。それからの推論でございます、と私はいろいろ留保をつけて申し上げたつもりでございます。もう一つ好転につきましては、やはり大型積極予算の心理的な影響というようなことが相当あるのではないかと思います。そうだとすれば、私が申しました第三の点、つまり、予算編成の態度と、予算の中に硬直的な経費が多くなってきて、今度そういう形でよくなっていくような状況が出てきて、また昔のような形の景気回復を示してきたときにどうするかというようなことも、あわせてお考えいただいて、御審議願いたいと思います。私は、見通しに全然固執するつもりはございません。
  15. 正示啓次郎

    ○正示委員 最後に、公共事業が非常に硬直的だとおっしゃいますが、これほど弾力的なものはないのでございますよ。たとえば引き締めるときは、あれは一番先にカットしますから、その点も、私はちょっと意見がありましたので、申し添えておきます。どうもありがとうございました。
  16. 塚原俊郎

  17. 山口丈太郎

    ○山口(丈)委員 私は経済はしろうとですから、わからないのですが、一、二点お伺いをいたしたいと思います。  今、日本経済非常にやかましく論議をしておるわけですけれども一つ宇佐美さんにお伺をいたしたいのですが、景気上昇見通しが非常に早まるのではないかという見通しをおっしゃったわけでございますが、私は今日の日本の設備面から見まして、ここ一、二年の間の設備投資は非常に急激に増加をしておると思います。そのために、貿易の収支は非常に悪化をした。これの原因は、やはり政府所得倍増政策というものが非常に経済界を刺激したものである。これは失敗あるいは成功であったとか、いろいろ言われますけれども、私は、経済政策的にそうあまり刺激を与えてはならぬのだ、静かに順序だって成長していたものが、政府所得倍増計画などというような政策によって、急激にわれがちに設備投資を争う結果になる、そのために過剰投資になり、今言われておりますように、その設備の操業率は低下をしておる。言いかえますと、投資をしたが、遊休施設が非常に多い、従って、資本に対する金利その他の負担が重くなっている、これが日本経済発展にあるいは大きなマイナスに今後なっていくのではないか。その場合に、さらに経済上昇ということが見られることはけっこうでありましょうが、しかし、私は、その内容ということが非常に重要になってくると思うのです。そこで、金融面から見まして、こういったいわゆる過剰投資の結果生まれておる資本に対するいわゆる重荷といいますか、これを取り除くためには、今後経済が立ち直るといたしましても、その内容引き締め前のような、投資を伴った内容であってはならぬのではないか、むしろ、今まで投資して設備をしたものをフルに動かし得るような処置にすべきではないかと思いますが、これは金融面から見まして、どういうふうにお考えになっておるか、一つお聞かせを願いたいと思います。
  18. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 ただいまの御質問でございますが、確かに設備が過熱状態になりまして、進み過ぎた点は確かでございます。ただ問題は、この進み方というよりも、進める内容でございます。先ほども内容というお話がございましたが、内容が、今私どもが、過去の進んで参りました過度といわれておる設備の拡張の経過を振り返ってみますと、非常にばらばらでございまして、行き過ぎたものもございますし、それほどでもないというものもあるわけでございます。さらに、御承知のように、世界の技術革新等の進歩は非常に著しいものでございますので、ここで、むろん行き過ぎて操業度が下がっておることは事実でございますが、これはやはり総体的に見るよりも、個々の問題として研究しなければならぬと思うのであります。今まで行き過ぎておるから、もう金を貸さなくてもいいのじゃないか、そういうふうな大ざっぱの意見でなく、やはり個々の産業につきまして、日本経済を進めていく、ことに輸出も振興していかなければならぬとしますと、世界の競争に打ち勝てるように技術を現在のレベルから引き上げていくことは、私は絶えずやっていかなくてはならぬと思うのでございます。ただ、行き過ぎはいけないのでありますが、今後はそれぞれの産業につきましてやっていかなければならぬと思います。  それから、今遊休施設が非常に多いのじゃないか。ある分野におきましては確かにそうでございますが、しかし、これも一年、二年たちますと稼働していくように、われわれは経済を引っぱっていかなくてはならない、遊休施設だといってあきらめてはならないのじゃないか、こういうふうに考えておるのでございます。この間の過熱状態のときのようなことは厳に慎まなければなりませんが、あれがいけないからもうあきらめてしまって、ほうっておいては、かえっていけないのじゃないか、こういうふうに考えて、これからは慎重にそのものを研究して進めていきたいと思っております。経済は絶えず前進しておるということで私ども考えております。
  19. 山口丈太郎

    ○山口(丈)委員 時間がありませんから、いろいろ、アメリカのシップ・アメリカン、あるいはバイ・アメリカン等に対する対策についてお聞きしたいのでありますけれども、やめまして……。  宇佐美さんから、続出しておる公社について御批判がありました。私も思うのですけれども、あまりにも国家機関に肩がわりするような公社を続出させて、しかも、それがすべてあまりにも利潤の追求の対象になるということでありましては、国民全体の福祉という点から見ますと、それが等閑視されるおそれがある。従って、むやみにこういうものをつくるべきではないと思っておるのですけれども、これについては御批判がありました。私も同意見ですが、経済界から見まして、これをどういう工合に考えられるか。  それからもう一つ重要な点は、この国会で池田首相は国債の発行を是認しておられるのであります。しかし、国債の発行ということも、ある程度必要でありましょうけれども、国債を発行することによって国家予算を膨大化するということになりますと、これは限度のあることでありますから、従って、現在でも経済の過熱によって弊害が生じておることはお認めになっておるのですから、さらにこういう政策がとられるということは、政府金融の操作、運用の操作については便利でありましょうけれども、しかし、日本経済発展の上においては、必ずしもそれは私は現在のところでは適切ではないと思うのですが、金融界から見て、どういうようにお考えになりますか。
  20. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 第一問の、政府関係の公社、公団が非常に多いという問題でございますが、これはおつくりになるときは、むろん国会で御審議もありますし、それぞれ理由があるのだろうと思います。国のために必要な施策としてお取り上げになったと思います。しかし、私は、先ほども申し上げました通り、そういう機関が非常に多い、ではそれをお前はどれとどれをやめたらいいとか、そういうことを今申し上げるつもりはないのでありますが、毎年今のような数をつくっていくということが、一体どういうことなのかということなんでございまして、やはり大事な国家の資金を使う上でございますから、少しその点で御検討下さいまして、あるいは今まであるものについて、もう目的を達したものもあるのじゃないかというような気もいたしますので、実はまだ十分には検討しておりませんけれども、そういうような感想を一つ述べたわけでございます。要するに、私の申し上げたいことは、こういう問題は一つ慎重に考えて、その一年々々の必要というよりも、一度つくるとこれはなかなかむずかしいのであります。その点を一つお願いいたしたいと思います。  それから国債の問題でございますが、これは世界多くの国で国債を出しておりますし、先ほどもちょっと申し上げました通り、一年々々の税の収入で長いいろいろの施策をやっていくということも確かに問題ではないかと、こういうふうに思うのであります。ですから、国債を出すことがいいか悪いかということでなくて、国債を出すということが、今の日本の国情として正しいかどうかという問題だろうと思うのであります。頭から理論的に、国債を出すことが罪悪だとかなんとかというような議論よりも、もっと実際的に、今弊害なく出せるかどうかというところが問題だろうと思います。それで、国家予算を膨張さすために国債を出すということでなくて、そのうち、片方においては当然歳入を減らすものもある、しかし、一方においてそういう長期的の考えで国債によってやっていくということがある。私は、国債というものは、決して予算を膨張さす目的で出すべきじゃない、予算内容からくるべきものじゃないかと、こういうふうに思うのであります。それで、現在において日本はどうかといいますと、どうしても一番考えなければならぬのは、インフレにならないように注意しなければいかぬということと、さらにこれを消化する力があるかどうかということであります。日本銀行に全部持っていって消化さすというのは、ほんとうの消化ではございません。申し上げるまでもないのであります。それならば、現在消化する力があるかということでございます。それからその消化する力をつけるためには、やはり国債を込めて、公社債市場というものを早くつくらないといけないと思うのであります。今のように固定して、割当のような形でやっていますと、これは非常に危険だと思います。そこで、公債を出すことがいい悪いというよりも、環境をつくったならばいいのじゃないか、私はこういうふうに考えております。それも、ただいま申し上げました通り予算をいたずらに膨張するということでなく、予算内容をよくし、たとえば具体的に申しますと、減税なら減税というものを片一方にやっていくという考えで、総体的に国の歳入歳出を考えて、その上でやっていくというならば、私は国債はいいと思います。しかし、まだ環境づくりの方がまず第一だと思います。
  21. 塚原俊郎

    塚原委員長 堂森芳夫君。
  22. 堂森芳夫

    堂森委員 時間がございませんから、簡単に、私の意見を省略しまして、御質問だけを申し上げたいと思います。  お二人の公述人に対しまして、先般の施政演説でも、総理大臣は、景気はことしの秋を待たずして好況に転ずる、こういう演説をしておられるわけであります。しかし、いろいろな方面の意見を聞いておりますと、必ずしも、景気見通しというものは、いろいろな意見がございまして、一致いたしておらぬと思うのであります。国民はすべて、日本景気がどうなっていくかということについては、当然重大な関心を持っておるわけであります。今お二人の公述を聞いておりまして、簡単でようございますが、どうなるであろうと、こういう御意見一つ承りたい、こう思うわけであります。
  23. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 お答え申し上げますが、実は、この景気見通しは非常にむずかしいのでありまして、しかし、毎年、年の暮れあるいは年始にあたりまして、財界各方面の意見を新聞社等がやるのでございます。珍しくことしは、大多数の人が意見が一致しておったのであります。それは、上期は横ばいだろうが、下期になってよくなるだろう、こういうことでございました。これはきわめてアンケート式のものですから、内容がよくわからないのでありますが、結論はそういうことであったようでございます。そういうことが一つございましたので、私どももその後のなにを見ております。むろん、一番大事なのは国際収支、それから物価の動向、それから生産の状態等をいろいろながめておりまして、まだ年初からはっきりした計数で御説明申し上げられませんけれども、先ほどちょっと申し上げました通り、何となく明るい空気が出てきております。秋を待たずしてよくなるか、あるいは五月がいいか、七月がいいかということになりますと、これはなかなかむずかしい問題で、経済見通しは、そういうような時期がいつからよくなるという予測的な考え方がすでにおかしいのじゃないか。傾向としてどういう傾向か。そうすると、私は、明るくなってないということよりも、やはり明るくなりつつあるというきざしの方が、まだきざしの段階でございますが、どうもそっちの方に賛成せざるを得ない、こういうことでございます。総理がおっしゃったことを私は反駁する気も賛成するあれもございません。ただ、そういうきざしがあるということだけを申し上げておきたいと思います。
  24. 武田隆夫

    武田公述人 景気見通しというのは、データと、それから実感ということがあると思うのです。そういう点で、私は実感なるものを持っておりませんので、そういう点はお答えする資格に欠けるかと思います。ただ、先ほど私は、政府経済見通しについて、ことしの設備投資は三兆六千億であったのが、来年は三兆五千億になる、しかし、そのふえ方が、やはりもう少し四半期ごとに刻んで、たとえば三十七年度の第四・四半期にどうであるか、それから三十八年度の第一・四半期はどうか、第二・四半期はどうかということになりますと、やっぱり減っていったのが、だんだん下期になるとふえていく。上期からふえて下期は減るというようなことはまずないと思う。そういう意味では、だんだん景気がよくなっていく、そういう感じを与えるということ、これは僕は事実だろうと思います。在庫投資についても、横ばいと申しましたけれども、これはやはり在庫が減っているのが、第一・四半期、第二・四半期ということで、第一・四半期あるいは三十七年度の最後は減っていたとして、次はふえる、その次はふえるということになると、だんだんふえていくというような感じを与えると思うのです。ただ、私は、先ほども議論がありましたけれども、供給力と申しますか、つまり過剰設備と申しますか、これは相当のものに考えておりますので、その点で、そのよくなり方の程度はそれほどではないというふうに考えております。お答えになるかどうかわかりませんけれども……。
  25. 塚原俊郎

    塚原委員長 加藤清二君。
  26. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 大急ぎで一点だけ質問させていただきます。  日本経済は、過去の様子から見ますと、どうしても指導方針が酔っぱらい運転であったと思うのでございます。ところが、事金融に関する限りは、私の認識では金利が高い、投資がびっこである、かような認識を持っているわけでございます。そのよき実例が、先ほどお話しのございました過剰投資になっている。大企業の方は特に過剰投資が激しい。しかるに、中小企業の方は設備が老朽化して、なかなか大企業に追っついていけない。その結果は、産業設備面もまたびっこの格好になっている、かように存ずるのですが、これについては、政府の指導方針もさることながら、むしろ金融機関がこれに大きな役割を演じている、かように思うのでございます。なぜそうなるであろうか。これは銀行その、ものが、自分の系列下には、これを育てなきゃならぬという立場から含み貸し出しまでする。その資金源を得るために、中小企業に対して、あるいは一方に対しては、系列以外のものに対しては歩積み、両建という誅求的なことをなさる。それが設備にこのようなびっこを生じている一つの大きな原因ではないかと思うのです。なぜまた銀行がそのような権力と力を持つに至っているかと申しますと、日本金融は、直接統制ではなしに、間接統制になっている。すなわち、窓口である銀行に貸し出しの自由を与えると同時に、それはやがて借りる側にとってみると、生殺与奪の権を握られているということなんです。この権能を十二分に発揮なさる結果が、やがてはこのような状況をもたらしているではないか、こう思うのでございます。  そこで、お尋ねしたい点は、歩積み、両建の問題、特に中小企業に対する歩積み、再建の問題は、悪いにきまっておりますが、これを将来に向かってどのような態度に指導をされようとしておりますか。指導態度でもよろしゅうございますし、あなたたちの考え方でもけっこうでございます。それから、そのもとと思われます金融の統制は直接統制がよろしいか、今のままの間接統制の方がよろしいか。もし間接統制がよろしい、今のままでよろしいとおっしゃるならば、金融関係において長期的な総合的な産業投資の計画を持ってもらうべきではないか、かように思うわけでございます。そこで宇佐美さんに、私の認識が誤りであれば幸いでございますが、お尋ねしたいわけでございます。
  27. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 お答えいたしますが、金融は直接統制がいいのか間接統制がいいのかということは、統制という問題がいいか悪いかということになるだろうと思うのであります。金融だけを統制したら、もう国じゅうが統制ということになると思うのであります。従って、私は自由経済立場をとっておりますので、直接統制ということは不賛成でございます。  それから、先生にそういう理論を申し上げるのははなはだ失礼というか、無用なことでございますが、そうかといって、私は自由放任がいいとは決して思っておりません。これからの経済というものは、決して勝手気ままにやってもいいということではないと思っております。これをどういう限度でそれじゃやっていくかということについては、今までも研究いたしておりますが、やはり今後も大きな問題としてわれわれは考えていかなければならぬと思うのであります。それぞれの役所でも、金融全体の審議会などでいろいろ審議されておりますが、やはりわれわれも、勝手にやっていいということではいけないと思っております。そうかといって、一々窓口まで統制をされては、日本経済は現在の形においては成り立たぬと思っております。  それから一番大事な歩積み、両建の問題でございますが、この問題につきましてまず最初に申し上げておきたいことは、先生方を初め、多くの方から実例をもって示されることがあるのであります。その点は、私は決して理由に申し上げるのではなくて、おわびを申し上げなくちゃいけないと思うのでありますが、何しろ数が非常に多い、何百万、何千万という中に極端な例が出ておるということは、非常に遺憾なことでございますので、これは直さなければいけないと思っております。ただ、こういう御理解だけは一つ先生方にも御協力を願って、私どもはやっていきたいと思っておることがございます。それは、アメリカの例を申しましても、アメリカ人は金を借りるなら、まずそこの銀行に金を預けるという考えがございます。法律では何もきめておりませんが、大体二割から二割五分全部預金いたしております。お金を借りられる方は、大小いろいろございますが、しかし大部分は、何か事業をやっていらっしゃる方です。個人でいろいろな場合もございますけれども金額から言いますと、そういう事業をやっていらっしゃる方が非常に多いのであります。従ってアメリカ人の考えなんかでは、そういう事業をやるような方は、常にそれくらいの資金はいつでも置いておくべきだというような常識があるのであります。イギリスでも大体同様に考えております。ただ日本の場合は、そういう慣習がないので、どうも銀行の方から歩積みをやれとか、それから歩積みの場合は、手形を割るときに幾らか必ず積めとか、あるいはまた両建、金を貸すからそれだけ幾ら置け、これは銀行が強要するからいけないので、お借りになる方にそういう一つの常識ができてくるといいのじゃないか。  それからもう一つ、アメリカでは金を貸してくれというときは必ず調査いたします。調査料というものを取っております。もう必ず取るのです。日本では、そういうのがサービスということで、何も取らないことになっております。そこで、われわれ銀行仲間でこのごろ申しておりますことは、手数料なんかも取るべきものは取る、いただくものはいただく、しかし、いただかないものはいただかないということです。それから、今のように、非常なたくさんの歩積みをしなければいかぬなんということは一切もう言わない、しかし、常識的にいって、事業をなさるのにお金は貸す、借りた金は全部使ってしまう、私は、すっからかんではやはり事業の安定ということからいってもいけないと思う。それではおよそこれくらいがいいのじゃないかというようなことで、強要しない状態で——強要されても苦痛のない、常識から見ていいというような一つモラルをここで立てたい、こういうふうに考えておるのであります。その点では、これは私だけの力ではなく、それは当然だということを国会においてもお認め願いますと、大へんけっこうだと思っておるわけであります。どうぞ御賛同を願いたいと思います。
  28. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 それから金利高……。
  29. 宇佐美洵

    宇佐美公述人 金利高の問題、これも金利理論というよりも、公定歩合というのが一つの標準になっております。これは、先進国に比べますと日本は確かに高いのであります。それから後進国に比べますと、日本は必ずしも高くないということでございます。われわれが先進国を目ざしておる以上、池田さんがおっしゃるような低金利政策をやっていくためにやるということは、私は賛成でございます。ただ公定歩合というのは、ことに日本の場合は銀行間の金利なんでございます。それで、そのほかに実際の金利というものが——むろんそれが一つの基準にはなっておりますけれども、別に実際の市中金利というものがある。これはなかなか比較がむずかしいのであります。各国とも、ただいまいろいろ申し上げました通り、金を借りる場合でも、向こうでは手数料というようなものが実際は負担になっておるわけであります。それから預金というものも、そういうふうにある程度負担になっておる。いろいろな錯雑した理由がありまして、私ども今研究をいたしておりますが、実際の金利はどうか、それからアメリカなんかでも、ニューヨークの金利、シカゴの金利、サンフランシスコの金利とか、あるいはそのほかいろいろな金利があるわけであります。日本でもむろん大銀行の大口の金利と小さい銀行の金利、相互銀行の金利なんかいろいろ違いますが、いろいろございます。そこで、一番低いもの同士を比較しますと、これは日本が高いということになる、しかし、また一番高いものを比較しますと、向こうの方が高いものもある、こういう状態でございまして、答弁としてはなはだ要領を得ない結果になったのでございますが、しかし、傾向としては、やはり低くしていく。  それからもう一つ、ついでと言っちゃ失礼でございますが、御理解願いたいことは、各会社が今金利負担に悩んでおります。それは金利が高いということもむろんありましょうが、借金が多いということでございます。ですから、借金に金利をかけた金額が非常に多くなって負担がたまらない。一方からいいますと、確かにそれだからこそ金利を下げろという議論も成り立ちます。しかし、実際の問題としますと、借金を何かの形で金利のない金にするように考えなければいけないのじゃないか。そのためには、増資もやはり金利がかかりますので、私は、今後の日本の税制としまして、この機会に申し上げておきたいのですが、法人税あるいは事業税等のいわゆる内部保留に向けるものをぜひ考える必要があるのじゃないか。外国の例を見ますと、やはり内部保留あるいは償却というものが非常に進んでおります。こういう国際競争力をつける上におきまして、金利を下げることも一つ方法でございますが、これは限度がございます。下げるといっても、やはり金利がつくわけでございます。ところが内部保留の方は、これは金利がつかないものであります。内部保留の非常に多い会社と内部保留の少ない会社が今後競争をしていくということになりますと、これはなかなか大へんだろうと思うのです。いろいろのほかの保護政策的のものを——保護政策は直接できないにしても、それらしいものをいろいろなことを考えましても、根本的には、やはり内部保留を何とかしてふやしていくということでないといけないのではないか。少し御質問にはずれましたけれども、ちょっと申し上げました。
  30. 塚原俊郎

    塚原委員長 以上で質疑は終わりました。  宇佐美武田公述人には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。  午後は一時から再開することにいたします。暫時休憩いたします。    午後零時二十二分休憩      ————◇—————    午後一時十七分開議
  31. 塚原俊郎

    塚原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  御出席をいただきました公述人は、東京大学教授川野重任君でございます。  この際、公述人にごあいさつ申し上げます。本日は御多用中のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十八年度予算につきまして、各界学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位のそれぞれの専門的立場より忌憚のない御意見を承ることができまするならば、本委員会の今後の審査に多大の参考になるものと存ずる次第でございます。何とぞ率直な御意見をお述べ願いたいと存ずる次第であります。  議事の順序といたしましては、まず公述人から三十分程度において御意見をお述べ願いまして、そのあと委員から質疑を行なうことにいたします。  なお、念のために申し上げておきますが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際には委員長の許可を得ること、また、公述人委員に対しまして質疑をすることができないことになっておりますので、この点あらかじめ御了承をお願い申し上げます。  それでは、川野公述人の御意見を承ることにいたします。川野公述人
  32. 川野重任

    ○川野公述人 農業関係予算を中心に予算案についての所見を申し上げさせていただきます。  予算全体といたしましては、本年度予算は、経済成長にささえられて収入がかなり豊富にある一面におきまして、災害復旧等の支出が比較的少ないという点で、編成上かなり楽な形になったのではないか、こんな感じがいたします。  さて、農林予算につきましては、前年比較で三%の増加ということで、食管特別会計への繰り入れ等を差し引きますと、実質的にはかれこれ二〇%に近い増額というふうにされております。さて、この中身についてどのような考え方をするかということでありますが、これを考えるについては、私は次のような観点から考えてみたいと思うのであります。  それは、御存じの通り、農業基本法という非常にりっぱな法律が先年設けられましたが、その農業基本法に即しまして、年次報告が毎年の農政の反省として出されるということになっております。基本法が制定されましてからすでに二回の年次報告の発表を見ておりますが、この年次報告に現われた農業並びに農政の反省を背景として本年度予算を見る、こういうことにいたしたいと思います。  まず、基本法におきましては、農業の他産業との生産性の均衡の維持、並びに所得の均衡の維持、さらに、農業の中におきましては、地域格差の是正、あるいは地域間における不均衡の排除、こういう目的をうたっております。さて、こういう観点から、本年度の年次報告に盛られたところを見ますと、残念ながらこの目的にはかなり現状は遠いものがあるという報告が見られるわけであります。まず第一に、農業生産の物的生産性の伸びは製造工業よりも低いけれども、価値生産性におきましてはそれほど低くない、しかしながら、これについては、農業人口の減少と、農産物、特に野菜とかあるいは繭あるいは澱粉、こういうものの農産物の交易条件の好転というものがその原因である、こういうふうにしております。けれども、地域間の格差は依然として大きい、のみならず必ずしもその縮小の傾向を見ない、こういう事実が報告されております。その内容を見ますと、たとえば、全国を一〇〇といたしますと、農業生産におきましては、近畿が一〇〇で、北海道が一五〇というふうに非常に高いのでありますが、南海は、これに対しまして七二、北海道の半分というふうな状態であります。一方、生計費の方は、全国を一〇〇といたしますと、近畿が一三〇で全国平均よりもかなり高い、北海道はちょうど一〇一で全国平均くらい、他方南海は七八というふうに、このような格差がありますが、要するに、これに見られますることは、農業生産におきましては地域的な格差がかなり大きいということと、それから、農家の生計費を維持するものといたしましては、農業外の所得というものがかなり大きな比重を占めている、しかも、その農業外の所得のウエートの大小によりまして農家の所得の大小が規制される、従って、外部経済と申しますか、農業外の雇用の場の少ないところの僻遠の地におきましては、農家の所得が農業の条件を離れて低くならざるを得ない関係にあるということが報告されております。また、階層間の格差といたしましては、全国平均といたしましては、三反歩未満の非常に零細なところは、農家所得としては必ずしも低くない、けれども、五反ないし一町に至る中間層が農業外の雇用の機会が少ないという関係によって低い、こういうことと、同時に、農民の離村がこの一町以下というものを中心にして行なわれてきたけれども、最近におきましてはその層がさらに上がっておる、一町五反程度のところにまで農民の離村の動きが見られる、こういう事態を指摘いたしております。以上の結果といたしましては、農業からの離脱が若年層を中心にいたしまして盛んに行なわれておりまする結果、婦人あるいは老年による労働力の補充・維持というものが顕著であるという報告であります。  なお、加えまして、土地につきましては、農地の開拓は行なわれておるにもかかわらず、北海道における増加を除きましては、府県におきましては減少しておる、こういう事実が報告されております。  さて、これらの事態が、農業生産力の拡充あるいは農業と非農業との生産性の維持、所得の格差の是正という点からいたしますると、いずれも法の規定するところにはかなり遠いものがあるという報告であります。従って、本年度予算は、このような法律とこのような年次報告を前にいたしました場合にどのような批判を受けるかということになるわけでありますが、第一にと申しますか、予算のワクといたしましては、先ほど申し上げましたように、金額といたしましては実質的には二〇%近い増ということになっておりまするが、中身をとってみますると、ほぼ前年と同じようなワクでもって、その内容がそれぞれに拡充されておるということになっております。たとえば、農業基盤整備でありますが、これは、予算のワクといたしましては最も大きく、さらに大幅に増額を見て、約百億近い増額になっておるようであります。これは、特に圃場の整備ということを中心にいたしまして、従来の土地改良を一歩進めるということのようであります。このこと自体については何も言うことはないのでありますが、ただ、これはあとで申しまする構造改善の場合と相共通する問題といたしましては、土地条件の整備ということでありまして、その整備された土地条件がいかに生産的に使われるか、あるいはいかにそれが維持されるかということについてなお問題が残るのではないか、こんな感じがするわけであります。北海道の場合に、土地の造成が積極的に行なわれ、府県においては絶対的には壊廃の増ということでもって減少を示しつつあるということは、先ほど申し上げた通りであります。そうしますと、このように基盤整備でもって改良をされる、あるいは拡充をされる土地というものが、さらにこのような趨勢の中で壊廃の対象になるということがないかどうか。戦後十七、八年間の趨勢を見ますると、せっかくの国費を投じた土地が農業外の目的に転用される、その投資の目的が十分に達成されがたいという事態がしばしば見られるのでありますが、この点についてどのような措置を講じてやるのかということが問題になろうかと思うのであります。いずれにいたしましても、この対象地域といたしましては、農業外への転用ということでもって土地改良の目的が無にならないような十分な措置を講ずるということが必要かと思うのであります。  第二には、構造改善であります。構造改善の予算も、昨年度に発足いたしました計画に従いまして、第二年度予算としてかなりの増額を見ております。これについては、方向としては何も私が申し上げることはないと思うのでありますが、ただ、この構造改善が、先ほど申し上げましたような問題点の解決についてどのような役割を果たすかということについては、この際あらためて考える必要があるのではないかと思うのであります。  まず、この事業といたしましては、十カ年間の計画をもちまして、毎年その十分の一くらいずつ町村を指定し、いわゆる構造改善をやるということになっております。しかしながら、十年間というのは、今日の経済の趨勢からいたしますと非常に長いのであります。しかも、この補助率がかなり高い。そうしますと、十年の第一年目にスタートいたしました町村と、十年目にスタートする町村とでは、その計画もおのずから違わざるを得ないし、また、補助の持つ意味もおのずから非常に違ってくると思うのであります。そういう意味では、このように十年間という期間を置いて十分の一ずつ抽出的にこの事業を行なっていくやり方というものは、はたして全体として何をねらっているかということについて、あらためて反省を必要とするものがあるような気がするのであります。さらに、この補助率の高さというものは、補助があることによって事業は進みますけれども、逆に、補助金待ちということでもって、その順番が来るまでは何もしないというような事態をかえって招くことがありはしないか、そんな感じもいたします。そうしますと、最初にスタートするところの構造改善の事業というものがかりにパイロット的な役割を果たすものといたしまして、その成績を見て付近の町村がそれにならっていきたいというふうな計画を起こした場合におきましては、よしんば補助率は低くても、それをさらに積極的に取り上げていくというふうな、弾力的な運営というものが必要になりはしないであろうかという感じを持つわけであります。その点において、機械的に毎年三百町村、四百町村という指定をし、事業を始めていくということについては、その実施について検討を要すべき点があると思うのであります。  それから、第二の点は、これは現在のところいずれも土地改良ということに重点を置いておるようであります。この土地改良というのは、一定の地域的な土地の配置というものを前提にする結果、たまたまそのところに土地を持っていた人が優先的にその恩恵に浴するということになり、その仕事自体についてはむろん危険性もありますけれども、成功した後におきましては差別的な利点を受けるという結果になるわけであります。その点からいたしますと、同じ農村の構造改善にいたしましても、新農村建設の有線放送の場合におきましては、いろいろ批評もあったのでありますけれども、これのごときはむしろ広範にその恩恵が村民全体に及ぶという点におきましては、土地改良の場合のような問題はなかったのではないか。そうしますと、このたびの土地改良を中心にいたしました構造改善ということについては、そのように差別的に特定の地域の土地を持つ者に利点が帰する、ほかのところに土地を持つ者にはその恩恵が行かないということについては、一体どういうふうに考えるのか。繰り返し申しますように、これを一つの見本的あるいはモデル的なものといたしまして政策的に推進するというのはけっこうでありますけれども、それだけで終わってしまうということになりますと、農民一般にその恩恵を及ぼすという効果というものは必ずしも期待されがたいのではなかろうか、こんな感じがするわけであります。  さらに、第三といたしましては、この構造改善の実施につきましては、比較的に財力のある村というものが優先的に採用されるという結果になっておるように私は認めます。しかしながら、これは、先ほど申し上げたような農村の現状からいたしますと、逆に地域間の、あるいは村と村との、あるいは農民と農民との間の格差をさらに拡大するという効果こそ持てるとしても、それが一番水準の高いところを引き上げるということによってその効果が他にも及ぶという政策効果というものは、はたしてどれほど期待されるであろうかということについて疑問を持つわけであります。これは、裏から言いますならば、一体この補助をすることについての意味というものを、この際やはり考えることが必要ではなかろうか。補助というのは、私の考え方によりますと二つの意味があると思うのであります。一つは、所得の低いところの農民が、新しい資本の要る仕事を始めるについて、そもそも最初の起業資金というものを手に入れにくい。その場合に、その起業資金の一部を所得補給という意味において提供するという意味、つまり所得補給という意味が一つあるかと思います。それから、もう一つの意味といたしましては、所得的には最初の起業資金を出すだけの余裕がありましても、仕事そのものが必ずしも自信が持てないという危険負担のためにその起業資金の一部を補助してやる、こういう二つの意味があるかと思うのであります。現在の農業構造改善の場合におきましては、この危険負担の意味で補助をするのか、あるいは所得の補給あるいは資本の補給という意味で補助をするのかということについて、趣旨がどうもはっきりしないのではなかろうか。現在積極的に構造改善を始めておりますところは、私の見るところでは、かなり財力のあるところであります。財力があるがゆえに、さらにその補助金が加わりますと、多少の危険を見込むにいたしましても、その危険をこえて仕事に入るということが可能であります。ところが、所得の低いところにおきましては、危険そのものを考える前に、そもそも自己資金の調達という点において困難を感ずるということから、この仕事に入れない。そこでもって、いよいよ補助事業の対象になるものとそうでないものとの間に差が分かれてくるということになりはしないか。そうなりますと、しかも、先ほど申し上げましたように、地域格差というものが厳然としてあるというふような事態からいたしますと、その所得の格差に応じまして、むしろ補助率を変えていくというようなことは、所得格差の是正という目的からすると当然考えられてしかるべき方法ではだかろうか。一律に補助率を考えることは、基本法に照らしましても反省を要するのではなかろうか、こんな感じがするわけであります。つまり、危険負担のための補助というものと、一種の所得補給というような意味での補助ということとは区別しがたいということでありますが、それには、やはり補助率の面で調整するということである程度の措置はできるのではなかろうか、こんな感じがするわけであります。  それから、第四には、十年間にぽつりぽつりとあちこちでこの仕事が始められるということでありますと、構造改善の内容といたしましては、畜産の振興あるいは果樹園芸の振興ということをうたっております。ところが、これについては集団的に大規模化することが必要であるということを言っておるのでありますけれども、せいぜいこの仕事の範囲では、一カ村のある部落あるいは数部落という程度に私はすぎないと思うのであります。よしんば一町村全体にわたるにいたしましても、なおかつ、大規模経済の利益を発揮するには、そのような地区の設定というものはなお遠いものがありはしないか。そう考えますと、やはり、これも、計画といたしましては、地区全体として三年、五年間の計画を立てる、数カ村あるいは数郡というふうな範囲にわたりましての計画を立てる、その一環といたしまして、またその一段階といたしましてこのような措置を講じていくというふうなことでないと、花火線香に終わる心配がありはせぬか、こう思うわけであります。  それから、最後に、この構造改善につきましては、農業の個別の政策が中心に取り上げられておりますが、これも、先ほど申し上げましたように、農家の所得という点からいたしますと、農業と農業外の産業産業とが一体となりまして、その所得を形成するという形になってきている。そうなりますと、いわゆる低所得地帯、山陰あるいは南海というような地域におきましては、農民をその土地にとどめながらその所得の増大をはかるのか、あるいはそれを他に移しながら、移すことによってその所得の増大をはかるのかということについて一つのめどを立てなければいけないと思うのであります。この点について、この予算が一体どういうような効果を持つであろうかということについて、にわかに判断が立ちがたいのであります。もし農業外の条件の改善を考えるというのならば、当然外部経済の創造と、そのためにはたとえば道路をつけるとか、あるいは工場誘致の方法考えるとか等の施策が必要と思うのであります。また積極的に農業人口を都市に移すということを考えるのであるならば、アメリカのCEDでもそのような建策をしておりますが、たとえば農業地帯、低所得地帯におきまして、優先的に工業教育のための学校をつくる、つまり教育に対する国の投資というものは重点的にこういう地帯について考える。あるいは都市との距離というものを短くするというために、輸送費の低減をはかる。こういうこと等がないと、必ずしも農業に個別的な政策を施しただけでは、農家の問題は解決されないのではないか、こんな感じがするわけであります。そういう点からいたしますると、私は先ほど、農業一人当たりの生産性が北海道において比較的高いという事実を申し上げたわけでありますが、北海道の開発がかなり力強く進められつつあるということにつきましては、予算もやはり総合的にあの地帯を取り上げる北海道開発庁というふうなものがあるということによって、初めて農業と非農業を含めた総合的な政策というものが強く推進される、こういうことになるのじゃないかと思うのであります。そうなりますと、ここにやはり低所得地帯というものについての施策を総合的にやるような一つの組織が考えられるということによりまして、先ほど申しました外部経済の創造とあわせて農業の改善をはかるという措置が具体化するのではなかろうか、こういうふうに思うわけであります。  それから、その次にはいわゆる流通改善であります。この流通改善につきましては、特にこれからの成長農産物についての国の施策というものが、農産物価格安定法あるいは食管法というものの対象外になっておるということで、必ずしも十分でないという問題があり、さらにいわゆる構造改善の対象といたしまして取り上げている農産物がこのような種類のものであるということからいたしまして、この価格の安定ということと流通コストの低減ということが必要になってくるわけであります。この価格の安定につきましては、昨年度の農家所得の増大について、交易条件の好転ということが先ほど指摘されたのでありますが、これのごときは、むしろ価格の安定がないことによって逆に一時的に農家に有利に響いたという格好になっております。ですから、このような一時的な価格の好転だけをもってここに問題がないとすることはできないと思うのであります。必ずやその反動が起こってくると思うのであります。その点で、出荷の調整だの生産の計画化だのということも私はもちろん必要であると思うのであります。けれども、基本的にはいわゆる生鮮食料品といえども、加工の度合いを高めることによりまして、時期的な、あるいは年間の需給の調整をするということがなければいけないのじゃなかろうかという意味で、今後やはり加工ということについて、さらにこれを進めるような助成策と申しますか、施策が必要なのではなかろうかというような感じがいたします。  さらにまた、流通費の低減ということにつきましては、中央卸売市場の拡充整備ということが問題になっております。確かにこれも一つの行き方だと思います。けれども、世界的の傾向からいたしますると、農産物の加工段階が高まる、加工の程度が加わる、加工資本というものが独立してくる、さらに農産物の検査規格というものが整備されてくるということになりますと、むしろ中央卸売市場を通さずに、生産者と加工業者とが直結するという形がふえるのでありますが、日本におきましても、現実にそういう形になりつつあると思います。ところが、これにつきましては、現在の乳価等について見られますように、やはりそこで非常に大きな価格の闘争の問題がある。そうしますると、この問題はどう考えたらよろしいか。長期的には、やはり私はこの加工農産物のコストの低減ということがこれから強力に進められるべき方向だと思うのでありますが、そのためには、やはり原料の提供者と加工業者とが価格の交渉において対立をするという形をそのままに残したのでは、どうもうまくないのではなかろうか。そうしますると、やはりここで加工の利益に原料提供者みずからも加わるという形をとることによりまして、全体としてのコストの低減をさらに促進するというような措置が考えられなければいけないのじゃなかろうか。その点からいたしますると、いわゆる加工会社と申しますか、原料生産者の諸君もそれに直接に加わり得るような加工業というものの推進ということが考えられる必要がありはしないか。こういったことを考えまして、初めて年次報告で指摘されましたような問題の解決に一歩でも進むということができるのではなかろうか。  総括いたしまして、個別の施策については年々と拡充されておりまするし、私が別に異論を差しはさむ筋はないと思いますけれども、最終的にはやはり農家でありますから、農家の所得の維持、安定、格差の是正という点からいたしますると、今言ったような諸点にその施策上さらに留意することが必要ではなかろうか。また、そのような機構の整備ということも、予算編成の問題といたしまして考えられることが必要ではないか、こんな感じがするわけであります。  以上をもって私の意見を終わります。
  33. 塚原俊郎

    塚原委員長 これより質疑を行ないます。倉成正君。
  34. 倉成正

    ○倉成委員 川野先生にお尋ね申し上げます。  ただいまいろいろ適切な御指摘でございまして、われわれ非常に参考になったわけでございますが、高度成長のもとで農業がいろいろな面で困難な問題に直面する、また格差の是正という点では必ずしもなかなか所期の成果をあげていないという点は、御指摘の通りだと思います。同時に、いろいろ構造改善について、低所得のところにはもう少し補助金をふやせとか、交通費の低減のための対策であるとか、そういう点について御指摘があったわけでありますが、私は、もう少し角度を変えて一つ先生にお尋ね申し上げてみたいと思いますのは、農業政策というのは、御承知のように最もむずかしい問題であり、最近はソ連、中共でも、政策の焦点が農業問題にだんだん移ってきておる。そこで、農業の予算を論ずる場合に、やはり一番大事なことは、今日の予算が昨年より三%、実質二〇%ふえたかどうかということよりも、一体この予算が将来どういうビジョンとどういう目標を持っていくかということにもっと意義があるんじゃないだろうか。最近社会資本の充実ということが言われておるけれども、その社会資本の充実そのものが一体これから先の日本経済にどういう役割を果たすかというのが一番焦点ではないか。そこで、端的にお尋ね申し上げますが、先生、一つ日本農業を二十年後——まあ二十年と限らなくてもけっこうですが、こういった日本経済は非常に活力がありまして、かなり高度成長を続けていくと思いますが、そういった場合に、日本の農業の姿というものをどういうふうにお描きになりますか。このままにしておったらどうなるか、あるいは意欲的に大体こういう形の農業であれば望ましいというのを、できれば先進国その他例をお引きになってけっこうでございますが、もしお持ちでありましたら、一つお示しいただけば幸いと思います。
  35. 川野重任

    ○川野公述人 大へんむずかしい問題で、どういうふうにお答えしてよろしいかと迷うわけですが、現在の成長、これは農業外の産業成長ということと、それに応ずる農業の成長というものとをそのまま前提にしなければなりませんが、そうなりますと、おそらく農業人口が急激に減るでありましょう。ただし、その場合には、日本の国際貿易というものが依然としてそれぞれ問題なく伸びるということも仮定しなければいけませんが、そうなりますると、当然日本の国内における農産物の供給の国内の消費における割合というのは低下する。特に穀物なりえさという面では大いに自給率は低下する。けれども、ミルク、肉あるいは生鮮食料品、青果物というものの比重は依然としてかなり高い、こういうことになる。その結果といたしましては、国内の農業の構成としまして、おそらく畜産物が非常に大きなウエートを占める。さらにそれに次いでは青果物、こういうことになろうかと思います。けれども、肝心の農業と非農業との格差はどうなるかということにつきましては、私もこの格差は残るのではないかというような感じがいたします。つまり、今の政策を続ける限り残るのではなかろうか。むしろ、成長率が激しければ激しいほど、この格差は大きく開くということすら考えられるのではなかろうか、こんな感じがいたします。ただ、現在の場合と多少違いますのは、現在の農業問題というのは、敗戦の結果、御存じの通り、引き揚げ人口その他によりまして日本の農業人口は急激にふえたわけであります。そのために、一ころは農業の比重というものをかなり固定的に高く考えるという傾向が強かったというために、農村の、あるいは国民の考え方からいたしまして、将来長く農業をやらなければならぬ、またやるであろう、やれるであろうという考え方を持った人々がかなり多かったのでありますが、今後の二十年の将来を見渡しまして、これが急激に減るという見通しのもとに教育もし、あるいは青少年の離村もそういうことで行なわれるということになりますならば、あるいは逆に、その格差の拡大ということはその程度においてチェックされるということになるかと思うのでありますが、ともかく経済伸びれば自然と格差が是正されるというふうの考え方には賛成しがたい、こんな感じを持っております。
  36. 倉成正

    ○倉成委員 望ましい農業の姿というか、たとえばイギリスみたいなものになっていくのが望ましいか、あるいはその他現在のドイツあるいはフランス程度のものか、そういうお考えが頭の中にございましたら、もう少し一つ御教示いただきたいと思います。  それと同時に、ただいまの御答弁の中で、私は一つ経済的に問題として御指摘申し上げたいのは、たとえば経済成長が異常な急激な速度で参りますと、確かに格差は広がっていく。しかし、逆説的になりますが、経済成長があるからやはり農業人口がある程度減る可能性が出てくる。この間のバランスをどうとるかというのが、やはり政策の課題の中心じゃないかと思うのであります。経済成長がない、日本経済に活力がなければ、これはもう全体として伸びていかないのみならず、農業もまた伸びる可能性がない。経済成長の中にこそ農業の成長の可能性をはらんでおるということが言えると思うのですが、その辺のところ、これは数字とかいうことになりますと、非常にむずかしい問題になると思いますが、感触を一つあわせてお聞かせいただきたいと思います。
  37. 川野重任

    ○川野公述人 まず第一点でありますが、望ましいということについては、一つのポイントは特に対外競争の面ですね。農業というものを経済合理主義で割り切って、安いのもはとにかく遠慮なく外国から買ってくるというふうなことでいけるのかどうかということが問題になろうかと思います。私は、もしそのような国際貿易というものが安定的に行なわれるのであるならば、とにかくそういう安いものは、国の内外を問わず安いのでいいのだという観点に立つことが可能かと思うのでありますが、実際上は、国際貿易というのは、言うまでもなくかなり不安定でありますし、そこでおのずからある程度の安定性の重視ということによって、価格の面の競争の緩和と申しますか、あるいはそれをある程度値引きして考えるということもやむを得ないかと思います。加えまして、農業というのは、御存じの通り、かなり国土の、何と申しますか、地域的な広がりを持つものといたしまして、個人の考え方で言いますと、一種の庭というふうな点、公園であるという面も持っておるかと思います。そういう点からいたしますと、単なる産業というよりは、やはり国民の生活環境として考えるという考え方もできまするし、あながち農業を完全なる合理主義でもって割り切ることはできないのではないか。早い話が、イギリスのごときは、人口の五%が農業人口であるというふうにされたのはかなり古い時期でありますが、しかし、今日でも依然としてその率は割らない。アメリカにいたしましても、この数年来毎年一%ずつの割合で減りまして、現在八%というふうに言っておりますが、さて八年たったならば農業人口は全然なくなるか、私はそうならないと思うのです。必ず五%か六%というところでとどまりまして、そこでやはり最低限の農業人口の安定的の保持ということが、経済的にも、また社会的にも要請されるようになるのではなかろうか、こんな感じがいたしております。そういう意味で、農業問題が一番やかましくなるのは、そこにいくまでの過程ではなかろうかという感じがいたします。  それから第二の点、経済成長がなければむろん農業成長もございません。ただ、これは先ほどもちょっと申し上げましたように、経済成長が、やはり地域的にも産業的にも一律にいけばいいのでありますが、どうしてもこれは特定の部門が急激に伸び、特定の部門がむしろ落ちていくという産業の盛衰があるということによりまして、農業の中の転換、それから農業と非農業との間における人口の転換ということも考えなければならない。そういう意味で、もし五年、十年の先を考えるならば、教育制度のごときはまさに私はそうだと思うのでありますが、五年、十年の先において、現在の十五才の青年はこう、現在十才の少年のときにはこうなってくる。こういうようなことでもって、その職業の転換、地域的の転換ということについて摩擦の少なくなるような教育投資もする、地域的な投資もする、こういうことではなかろうか。要するに、経済成長に伴う産業なり職業なりの転換の促進円滑化の問題だ、こんな感じがいたします。
  38. 倉成正

    ○倉成委員 非常にむずかしい問題でありますが、非常に有益な示唆をいただいてありがとうございましたが、現在の段階で、そういうビジョンなり方向なりは別といたしまして、何をやることが一番大事か。たとえば現在の農林予算を、かりにワクを与えられたものとして考えた場合に、何に一番重点を置くべきか。もちろん農業政策でありますから、いろいろ総合的に、いずれを重しとし、いずれを軽しとするということはむずかしいと思います。しかし、特にやらなければならない点——特にこういうことを申し上げますのは、私の認識によって申しますならば、今日の日本の農業問題というのは、やはり明治以来初めてというくらいの大きな転換期というか、農業の質を変えていかなければならない時期にきておるのではないか。ほとんど産業革命が行なわれないで、農業というものがずっと明治以来やってきておる。農地改革は行なわれましたけれども、そのままの形できたということで、しかも食糧増産という至上命題がなくなって参りますと、これから先の農業というものについては、やはり相当考えなければならない問題がある。そうすると、何をやることが一番大事か、これも感じでよろしゅうございますから、一つお示しをいただければ幸いだと思います。
  39. 川野重任

    ○川野公述人 これもなかなかむずかしい問題ですが、私は経済的に考えまして非常に不合理だと思いますのは、農業経営の分析をいたしまして、かりに自家労働に農業労賃で評価した労働報酬を払うというふうにした場合、経営規模別に収支がどうなるかということを計算いたしますると、五反歩以下の農家におきましては、土地をただにして、マイナスにしてもなおかつ及ばないというくらいの生産性の低い農業経営が行なわれている。こういうことであります。これは結局、零細経営がなかなか排除されないという事態にほかならないわけでありますが、なぜこういうふうになっているかということについては、前に私も申し上げたことがあるかと思いますが、やはり現在の農地制度が、農地改革の結果をそのまま維持するということに重点を置き過ぎていやしないだろうかという感じがいたします。小作料統制が、畑の場合においては生産物の一五%、水田の場合におきましては二五%という最高限が画されておりますが、その場合において、今の小作料統制と、その他の農地の移動統制があるという結果に加えまして、社会保障の不徹底ということがありまして、これがそのような不合理な農業経営をたくさん残しているという形になっているのであると思います。これを排除する問題——問題だけ申し上げまして、解決の方法は簡単には見つかりませんが、そういうことが一つの大きなポイントになっているのではなかろうかということと。第二には、地域対策というものを立てないと、どうにもならないのじゃなかろうか。この二点を申し上げておきたいと思います。
  40. 倉成正

    ○倉成委員 非常にむずかしい問題だと思いますので、その問題はその程度にいたしますが、しかし、ただいま地域対策というお話が出て、地域格差の問題だろうと思うのですが、農業自体の問題が、非常に他産業との所得の格差また地域格差という角度から取り上げられておりまして、これはまあもっともなことだと思うのでありますけれども、私は地域格差ということに解決を急ぐ余り、もっと率直に申し上げますならば、これは究極の目標ではなければならないと思います。これはもう当然のことであります。しかし、あまり近視眼的にこればかりを見詰めておると、問題の解決にならないのじゃないか。もっと思い切って先行投資をやりまして、そういう基盤の整備のもとにおいて地域格差の是正なり所得格差の是正というのがはかられていくというのが筋道ではないかという感じを持っておるわけであります。たとえば先般の委員会で申し上げたのですが、八郎潟がもうすぐ、来年くらいにでき上がります。すぐ入植をしなければいかぬということになるわけでありますが、私は、国土の造成をして、将来新しい国土に新しい設計図を描くという場合に、すぐ経済効果がどうだということではなくして、もう少し長い目でこういった投資はやっていき、見なければいけない。オランダのあの土を輸入してものすごく高くかかる干拓地でさえ、草をはやしておるというのは極端でありますが、非常に長期的に国土の造成というものをはかっておる。そういう角度から見る面が農地について投資についてないと、なかなか農業問題の基本的な解決の方向にいかないのではないかという感じを持っておるわけでありますが、この点はどうお考えになりますか、お伺いしたいと思います。
  41. 川野重任

    ○川野公述人 地域格差の問題について私が申し上げたいと思いましたことは、たとえば農家経済調査を見ますると、農業の外で働いて得た賃金の単価というものが出ております。それから農業賃金の単価というものが出ております。さらに一労働日当たりどのくらいの収入になるかという計算も、これもできます。そこで三つを比較いたしますと、農業外の賃金、つまり役所に働くとか、工場に働くという賃金でありましょうが、その賃金の地域格差というのは比較的小さいわけです。ところが農業賃金はそれより大きいのです。それから経営を通じて得られるところの農業所得の一日当たりの所得というのは、それと並行か、もっと大きかったかと思います。私の申し上げたいと思いますのは、農業外におきましては、とにかく地域格差というのはそのようにいたしましてかなり小さくなりつつあるわけです。そうしますと、農業の面でもそれをその程度に近づけるということを考えるべきじゃなかろうか。その場合、最低賃金法を農業について設けるということも考えられるかもしれませんが、それよりは、農業経営がそれだけの所得を上げ得るような環境をつくることが必要じゃなかろうかということであります。そうなりますと、地域というものの不利なところは一体何かと申しますと、たとえばその土地の土壌条件がいいか悪いかということもありましょうが、決定的には、やはりいわゆる都市への距離の大小ということだと思います。そうしますと、それは国道をつくる、コストの要らないところの交通ができるということになれば一番いいわけであります。さらに交通費を必要とする場合でも、それをうんと低減しまして、いわば国全体が文字通り一つ経済圏になることを考えるということは考えていいことではなかろうか。国道でそれをやっているわけでありますから、鉄道でやることができないということは、私は必ずしもないと思うのです。政策の問題だと思うのでありますが、そういうような関係に立つ。従いまして、今八郎潟云々の話がございましたが、土地干拓について、そのようないわばおおらかな気持を持つということになるならば、今私が申し上げましたような国全体を一つ経済圏にするということについては、もっと関係者の了解が得られるのじゃなかろうかということを思いまして、その点に私は賛成であります。
  42. 倉成正

    ○倉成委員 他の委員の御発言がありますから一、二点にとどめたいと思いますが、価格政策について。今度の予算の中でも価格政策というのが相当大きなウエートを占めておるわけでありますが、現在の農産物価格制度については、食管の問題その他いろいろ問題があると思います。先ほどちょっと先生もお触れになったと思いますが、所得補償的な意味で、イギリスあたりのような不足払いの制度というのを思い切って採用したらどうかという感じもするわけでありますが、現在の価格制度の中での問題点というか、改めたらよいと思われる点がありましたら一つ御指摘をいただきたいと思います。
  43. 川野重任

    ○川野公述人 不足支払い制度の問題は、いわゆる貿易の自由化によりまして数量の規制ができにくくなってくる、あとは関税でもって調節をするということになりますと、輸入価格はおのずから海外の価格に関税を加えたものということで、かなり弾力的に動くのみならず、その価格が現在の国内の支持価格よりも安いということになりますと、現在の法律をそのままにいたしますならば、輸入したものも全部買わなければいかぬということになって参ります。そういたしますと、それを避けるためには、国内のものはそれとして一般に消費をしてもらう、それから国内のものについて目的とする価格の差額を払うという形での不足支払い制度、これはやむを得ず採用せざるを得なくなってくるのじゃなかろうか。御存じの通り菜種、大豆についてすでにそれがあるわけでありますが、私はそういう形になってくるのではなかろうかと思うわけであります。  それから価格政策については、米についてさらに検討が進められるやに聞いておりますが、実のところ案外に、過剰だ過剰だということを言っておりました農産物も、しばらくたってみるとストックがどっとはけたり、あるいは消費者価格を上げてみましても、存外に配給辞退がなかったりということで、なかなかこれはつかみにくいと思いますので、これこそ三年、五年あれやこれやとやってみまして、真の需給の安定するところを見きわめると申しますか、長い目でもって長期平均的に考えるということでいくほかないんじゃないか、こんな感じがいたします。
  44. 倉成正

    ○倉成委員 大へんいろいろ有益な御指摘をいただいてありがとうございました。一言御要望申し上げておきたいのは、実は農業政策についての批判は、非常に学者の方々やいろいろな方々からあるわけでありますが、それならばこうしたらいい、あるいはこういう農業の姿であるべきだというビジョンがあまりないわけであります。そういった意味で一つ今後われわれにいろいろ御教示いただきますことを御要望申し上げたいと思います。川俣先生その他にお譲りいたして終わりたいと思います。
  45. 塚原俊郎

    塚原委員長 川俣清音君。
  46. 川俣清音

    ○川俣委員 まず、お忙しいところをおいで願いましたことを感謝をいたします。実は川野さんとはときどき激論をしておりますので、何か、今さらお尋ねをすることは、こういう場所ではしづらい点もあるのです。ですけれども、きょうのお話を聞いて、私は川野さんのお考え方に大体近いのです。近い点については今さら質問をする必要もないのですけれども、せっかくおいで願ったから、やはり参考にお聞きしたい、こう思うのですが、今農業構造改善なる事業が非常に脚光を浴びて宣伝され、また農民からも非常に大きな期待を持たれておるわけですね。ところが一体何のために構造改善をやるのかということについては、やる方も受ける方もあまりはっきりした見通しを持っていないじゃないか、こう思うのです。従って、現実にやられておる点は、従来もやって参りました土地改良、ただ土地改良という言葉を使わないで、基盤整備というような言葉を使いますけれども、そういうものが主として実行されておる。ところが宣伝はそういう意味じゃない。宣伝は成長農業へ切りかえていくだの、あるいは企業農業を達成させるだのというような宣伝が行なわれておる。農業問題は非常にむずかしいものですから、いろいろなあらゆる問題を含んでおるものを一挙に構造改善で解決するのだ、こう説明されておるように思うのですよ。そこで、どれが一体ほんとうの構造改善の目標かということを、目標を失わせておるのじゃないか。先ほどの説明にありましたように、一体構造改善によって所得の保障が確保されるのか、それとも農業の持っておりまする本質であります危険が保障されるというものなのか、これはどっちなのか、いや両方だともいうでしょうし、ときによりますると、所得保障だといってみたり、ときによりますると危険保障だ。そのときどきによって逃げるといいますか、ぼけていくということになると思うのです。そこで一般の農民の期待は、もうかる農業などと言われるものですから飛びつくような形がありまするけれども、一体農業をやって、企業利潤が生まれるような農業というものが、社会的に経済的に国民経済の上から認容されないではないかと私は思うのです。企業利潤を上げていく。これはもちろん地代の問題もございますよ。ですけれども、俗にいう企業利潤が生まれるような、資金を借りてきて企業利潤が生まれるような農業に質的に発展させるのだ、こう言いまするけれども、それができないではないかと思うのですが、この点はどうですか、これが一問です。二問もありますけれども、まず、一問だけお答え願いたい。
  47. 川野重任

    ○川野公述人 お尋ねの趣旨が十分にのみ込めないのでありますが、現在の制度のもとでの農業としては、企業利潤というものが一般に発生しにくいという事実があるが、将来もそういうふうに考えるのか、こういうふうに理解するならば、私は現在の企業利潤の乏しさというものは、平均的にものを言い、さらにその平均の中には、かなり能率の低い零細系統が入っているということで、これが是正されるならば、利潤になりますか地代になりますかわかりませんが、少なくとも都市の労働者よりは、土地を持っているだけに何がしの所得のプラスがあるといったふうの農業経営というものは、十分に成り立つのではないか、私はこう思っております。従って零細系の見通しなんということに問題がかかってくるのではないか、こんな感じがいたします。
  48. 川俣清音

    ○川俣委員 続いてお尋ねしたいのですが、時間がなくなりますから……。しかし今一例をあげますと、たとえば秋田の八郎潟で今度五町歩規模をやろう、この負担は、五町歩になると約一千万円です。一千万円に、さらに住宅、農機具などを入れますと千五、六百万円の資金を要するということになる。これは年賦償還で借り入れしても、五町歩やってその採算がとれるかどうかということになると、非常に困難だ。またそれだけの保証を得られて、資金の融通ができるかというと、これも非常に見通しが暗いと思う。結局、自己資金千五、六百万円用意しないと、五町歩規模の農業はやれないということになるのではないか。それで、一体利潤といいますか、地代でしょうが、地代という方が適当なのでしょうが、普通は利潤という。千五百万円の資本を投じて、ある程度の金利を返して、さらに生活できる程度の利潤が一体生まれるかどうか、それは耕作で、米作だからといわれましても、その五町歩の中には住宅地も入るわけですね。実際経営面積はもっと減るわけです。あの設計の中には、五町歩を割り当てて、その中におそらく約一反歩近いのが不耕地になるでしょう。そうして参りますと、一体、それだけの資本を投じていわゆる採算のとれるような農業ができるか。地代を無にすればこれはできるでしょうけれども、地代と利潤と合わせてみて、一体できるかどうかということになると、それだけの地代を生むだけのものが生産されるかどうかということにもなると思うのです。  これは非常に問題だと思うのですが、しかし、これをやっていると長くなるから、次に一つお尋ねしたいのですけれども企業農業というのは、これからのものというと畜産とか果樹をあげられておるのですが、こういうものについては、先生のお説の通り、生産物の高度利用の加工度が高まって参らなければだめだというお説、全くその通りだと思います。ただここで問題になって参りますのは、一体消費者のためにも、こういう加工施設というものは、公共施設と同じように、たとえば道路とか港湾と同じように、国民経済の全体の上からいって農業の部面に入れないで、こういうのは公共施設的な構造に変えていかなければ、今後の畜産にいたしましても、成長農業だといわれている果樹にいたしましても、成立しにくいのではないかと思うのですが、この点についてはどうでしょうか。農業内部の資金で加工度を高めていくということは、必ずしも生産者のためにも消費者のためにも利益にならないのじゃないのか。利益といいますか、その成果を消費者も消化し、生産者も消化できることになかなかなりにくいのではないか、今後の労働事情から見ていきましてそう思うのですが、これはどうか。  それと同時に、確かに日本の農業のような小規模農業というものは、生産性が低い、こういわれておりますけれども、私はこれが日本の工業を大きく発展させた大きな原因だと思っております。低賃金労働を提供して工業の発展になったので、農業の面からいけば確かにマイナスであったけれども、工業にこれだけは役に立った。もしもこれがみんな専業労働者でありますならば、今の低賃金ベースというものは破壊されていくのだと思います。そのことは望ましいとは思いますけれども、おくれた日本の工業としては、これによって発展ができたと私は思うのですよ。だから、そのままでおけという意味ではないのですね。ただ農業の面の生産性は低かったけれども、反面において大いに工業の面を刺激しておった、これは否定できないのではないかということをあわせてお教え願いたい、こう思うのです。
  49. 川野重任

    ○川野公述人 問題は二点ありますが、まず第一の農産物の加工業については、生産者、消費者の両面の関係からして、公共の資本が入ることが必要じゃないか、こういうようなお説のように承ったのです。おっしゃる趣旨が、各国を通じまして農産物の価格安定、特に食糧の価格安定について、消費者の生活安定ということを基準にかなり強く考えているわけですが、それをさらにそのような加工農産物にまで押し広げていくという趨勢からすると、だんだんそういう方向に向かっていくのじゃなかろうか、私はこんな感じがいたします。早い話が、中央卸売市場というものを設けまして、そこで価格の一義的な早急の決定をはかるというようなことも、そういう現象の一つ考えられるわけですが、それをさらに押し広めていきますと、どうしてもそういうことの方向にいくだろう、こう思います。ただし、それならばそういう加工業というものを、全部国営なら国営というものでやるかということになりますと、これもなかなか一挙にいきがたいことではないだろうか。資本の調達の可能性という点からしますと、私は必ずしも農業の方に全然余裕がないとは思いませんけれども、しかしながらその基本的な食糧の一つであるという点からいたしますと、これについてかなりさらにコストを下げ、さらに流通費を下げるような公共の政策の介入が必要であるという趣旨からは、お説のような方向にいくかと思います。  それから第二の点は、これは実は私としましてはちょっと意外な御質問のようにも受け取るのでありますが、おっしゃるところは、おそらくは農業の面では生産性が低かったが、しかしそれが国全体としまして利潤率を高くささえる一つの条件になっているのじゃないか、こういうお説かと思いますが……。
  50. 川俣清音

    ○川俣委員 あったのじゃないか。
  51. 川野重任

    ○川野公述人 私はその通りだと思います。従いまして均衡成長、バランスのとれた経済成長ということをいいますが、そうなりますと、私はおそらく成長の度合いというものはかなり低くなるのではないか、こんな感じもいたしております。その点は御説に賛成です。
  52. 川俣清音

    ○川俣委員 それで第三点に移りたいと思います。その前にちょっとつけ加えたいと思いますが、御承知でしょうが、日本の今の市場は、生産物の委託販売ということで、利潤を生まして市場経営が行なわれているわけですね。生産物委託販売という形で卸売業者がこれを取り扱っておる。そこで利潤を生まして市場経営をやっておるので、大体御承知でしょうけれども、生産者価格から卸価格になるのに約倍ですね。さらに卸価格から小売価格も倍ということになって、生産者価格と消費者価格とは約四倍くらいの開きが出ておる。もちろんこれは生鮮食料ですが、そのうちでも、根菜類のイモ類とか穀類は別ですけれども、食肉を初めとして、生鮮食料などは大体四倍くらいになっておる。それはやはり市場というものについて放任されておるところから、消費者生活の上にも大きな打撃を与え、生産者にも不安で生産できないという情勢をつくっておると思うのです。それで御質問申し上げたのですが、そのことはそれでけっこうです。  第三点は、これは御説明になかったのをお聞きするので、はなはだ悪いのですけれども、今、国会で非常に大きな問題になっておりますのは、地主補償の問題なんです。一体かつて農地解放を受けて、今から考えれば一反歩七百円というようなものは、追加がありましたけれども、安かった、こういうことになるでしょうけれども、安いということは、経済発展に伴って土地価格が上がったから安いという感じが出てくるのであろうし、当時の金としては、必ずしも安かったのじゃないと思うのです。これは私も例を引いたのですけれども、秋田の例でいっても、当時なかなか先の見える地主は、また見えない地主であったかもしらぬけれども、親からもらった財産を無にすることはいけない、忍びないということで、これを山林にかえておる人があります。そうすると、山林価格は非常に上がってますので、当時かえてよかったという結果も出てきておるわけです。そういう意味で、貨幣価値の変動による犠牲であることには間違いないと思いますけれども、農地解放による犠牲だという感じがどうしても私には出てこないのです。また、たとえば出てくるといたしましても、同種類のものに対する公平の点からいっても問題があるのではないかと思いますが、概略的でけっこうですが、川野さんの御意見を二つ伺っておきたい、こう思うのです。
  53. 川野重任

    ○川野公述人 最後の点だけについて所見を申し上げますが、農地補償については、最高裁での判決もあったわけでありますが、通常の意味の公正なる補償ということで、法律上処理されておるわけであります。実態については、今お話しの通り、インフレによってその価値が急激に低下していった、インフレの過程でそのように固定されたる価格を払われたということに原因があるのではないかという御意見、私もその通りだと思います。ただし、もしその補償に問題があるとするならば、それは急激なインフレのさなかにおいて、そのような価格算定の行なわれました時期と、それが支払われた時期との間における条件の変化というものがどの程度織り込まれたかということが一点。さらに、その場合支払われましたこの対価の転用と申しますか、そのような財産の活用について全然自由にそれができたか。つまり農地証券のごとき、一定の期間制度的に据え置かれざるを得ないという形になっていた面がもしあるとするならば、そのようなことは、その公正なる補償についての判断について考慮すべき必要な点じゃないか、こんな気がいたします。
  54. 川俣清音

    ○川俣委員 この程度にしておきますが、もう一つちょっとつけ加えたいのです。それは、川野さんも一つ責任を感じておられるだろうと思うのでお尋ねしますが、かつての米審の時代にも、もち米などはもう余って困っておるのだからして、そういう加算金などやめたらどうだろうかという意見がありました。確かにあの当時は、もち米が余り過ぎておったことは事実です。もち米は余っておる、要らないのだということになった結果、昨年などは作付面積が非常に減りまして、やみ値が非常に高騰したわけです。一方需要が減っておるにかかわらず、あれだけのやみ値が出たということは、やはり大きな問題だと思うのです。ですから、農業という問題の価格形成というものについては、うかつに机上で批判的な価格をきめるというと、農民に裏切られて非常な失敗を演ずることがあるのだということをお考えにならなかったかどうか。この暮れのもち米の値上がりについて奥さんなど、おそらく非常な口説きをなされたろうと思いますが、これについてどういうお考えを持っておられますか、感想だけでけっこうです。
  55. 川野重任

    ○川野公述人 先ほどの農地補償で一つ落としましたので、つけ加えさしていただきますが、私は戦争による被害と申しますか、たとえば引揚者のごときも相当に大きな被害を受けた人があるかと思うのでありますが、そういうこととバランスを失しないような、全体としてまとめたそのような処理をこの際考えられることが、国民の一人としては望ましいという感じを持っております。  それからお尋ねの最後の点でありますが、これは先ほど申しましたように、なかなか農産物の需給というものはつかみにくいということから、かなり長期にわたりまして事態を見た上で善処すべきではないかということに尽きるわけでありまして、もち米の不足というようなことが、そのような措置に基因しておるとするならば、大いに反省すべきだという御批判を受けてもいたし方ないかと思います。
  56. 塚原俊郎

  57. 正示啓次郎

    ○正示委員 川野先生に大へん御迷惑でございますが、一問だけ。  実は午前中にここでピープルズ・キャピタリズム公論をやったんです。私は農業もまさにその過程をたどっておると思うんです。川俣先生は農民運動の大家でございますが、農民や農家を対象とした農業政策が、今や企業あるいは事業である農業を対象とした農業政策に漸次移りつつある、こういうふうに認識をいたすのであります。そこでいろいろお話がございましたが、たとえば総合的な開発政策をやって、農業は農業だけで解決するということは無理だというふうな御意見、まことにごもっともだ。私の国は紀州、ミカンの国でございます。ミカンが、これは国民の方から非常に見落とされたことなんですが、年の全国の生産が、赤ん坊から年寄りに至るまで、一年間にたった一貫目しかない。一貫目のミカンで国民が一年間しんぼうしろ。これは驚くべきことだと思うんですね。ここに国内のマーケットでも日本の農業が非常な将来性を持っておる。それから牛乳がまたしかり、そういうことはあまり議論されていない。ところがこれはなまのミカンのことなんだ。これを今度は加工してジュースにして飲ますということになって、年じゅうミカンのジュースを飲ますことになったら、一体どれだけのミカンが要るか。これを考えても私は大へんな将来性を持っておる、こういうふうに非常にブライトに見ておる。ピープルズ・キャピタリズム論もそこから出てくるわけです。  そこで、先ほどのお話の中に関連をいたしましてお伺いいたしたいのは、御承知のようにグリーン・レポートからは兼業農家がふえておるということを盛んに言っております。そこでこの場でも兼業農家がふえておるということを非常に非難されるんですが、私はこれは事業としての農業、企業としての農業にいく当然の過程だと実は見ておるわけです。そこでたとえばミカンを例にとりましたから、ミカンを栽培しておる農家が、今度は農協の組織を通じて共同の力で資金を獲得して、ミカンの加工工場をつくる。そうするとこの農家の収入は、ミカンを売る収入だけじゃなくて、加工収入、加工業に資本的に参加し、技術的に参加した収入というものが、当然農家の収入になってくるわけでございます。それが先ほどのお話の中に私は示唆されておると思うのであります。  それから今のお話の中の、農業は国土の庭である、まことにそうだと思います。日本全体が観光の場だと思うんです。それで耕して天にまで至っておりますが、そういうものを外人が見に来る。観光と農業、ビニール・ハウスなんかをつくって、観光地に農協が新鮮な野菜、くだもの、それからお魚、そういうものを観光と結びつけてやっていく、ここに私は農家の収入というものが新しい企業的な面を開拓していく余地が大いにあると思うのであります。  それから公共投資をつくって、日本全体を一つ経済圏に持っていく、これも私はまさにそうだと思うのでありまして、今までのように日本の道路が悪い、鉄道がのろのろであると、どうしても地域的に封鎖経済になる。そうして地方々々の農業が非常にハンディキャップをつけられておったと思うのでありますが、これが公共投資の非常な充実によって交通機関が整備されていくと、格段に農業の生産性が高まっていく、こういうふうに思うわけであります。要するに私としましては、兼業農家が多いというふうなことや、あるいは農家の人口の減少というようなことに、農民運動的に見てきた人は非常に悲観的に暗く見るのでございますが、そうでなくて企業としての農業に農民が資本的、技術的に参画していくんだという新しい農業観からいえば、これは非常にいい傾向をたどりつつある、そういう方向にこそ大きく角度をつけて農業政策を進めていかなければならぬと考えておるのですが、これについて先生の御意見をお伺いしたい。
  58. 川野重任

    ○川野公述人 問題が非常に多角的でございますので、私の判断で整理させていただきますが、第一に日本の国内の農産物市場が非常に明るいものであるということについて、私も全く同感であります。所得の水準が大いに高まる、しかしたらふく食べてないということからいたしますと、おそらく世界で一番急速な伸びを示す農産物市場としまして、国際的に注目を引いているということ、当然だと思うのでありますが、全く賛成であります。  それからピープルズ・キャピタリズムということの意味は必ずしも十分に承知しなかったのでありますが、兼業農家ということにつきまして、私は職業人口の配分・転換が行なわれる過程におきまして、兼業農家がふえることは当然だと思うのであります。なぜかならば、同じ人が農業をやり兼業をやるのではなしに、同じ家族の中でおやじさんが農業をやり子供は非農業というのが一つの型、それから亭主が非農業で細君が農業というのがもう一つの型でありますが、前の形につきましては、子供が分家いたしますと、その残った家庭はこれは専業農家になるわけでありますから、兼業農家ということをもって特に問題があるというのではない、むしろ同じ農家の中にいながら、兼業でかせぐところの収入の単価と農業でかせぐ収入の単価というものがあまりにも違い過ぎるということを、その絶対的な水準並びに地域的な格差として私は先ほど申し上げたわけでありますが、これはやはり市場の統一化ということによりまして、少なくとも農業の中の地域格差というのはある程度是正できるだろう。それから農業と非農業との格差というものは、これはやはりもっと全体的な生産条件についての是正がなければ解決できないかと思うのでありますが、少なくともそういうふうに考えますと、格差是正の一つ方法としましては、同一市場圏の形成ということについて、特に道路、交通面の単一条件化ということが必要じゃないか、こんな感じがするわけであります。  要するにその適用の推進、転換の推進ということさえうまくやれば、決して絶対に悲観する必要はないんじゃないかということについて、私も同じ意見でございます。
  59. 倉成正

    ○倉成委員 もう一間だけ、大事なことを落としておりましたので、御質問申し上げたいと思います。  実はこれから先の農業についての協業化、共同化、これが各地でいろいろ行なわれておりますし、これに大きな夢を託されているわけでありますが、農業の将来のための共同化、協業化というのを、どういう評価を川野先生なさっておりますか。それからその際に特に注意すべき問題点があれば、一つ今後の農業政策の遂行上参考になると思いますから、お聞かせいただければ幸いと思います。
  60. 川野重任

    ○川野公述人 私は、農業の協業化というのは、やはり政策的な支援があって、それからまたそのムードが高まってきたということでかなり前進している面があると思います。従って、それだけに必ずしも経済的な基礎を持たずしてやって、途中で挫折するということもあるんじゃないかというような感じがいたしまして、この指導については、よほど大規模経営の有利性というものについて、その適正規模の大きさというものを十分検討し、そのような点から指導なり助言というものが必要じゃないか、こんな感じがいたします。もし土地制度が完全に自由であるとするならば、協業ができる社会というものは、私は株式会社による農業経営のできる社会じゃないか、こう思っております。それが土地制度の制約もあり、株式会社ができにくい。そこでもってお互いに条件の合う者が集まって協業をやる、こういう形になっております。それだけに、株式会社の場合と違いまして、資本の調達あるいは人材の調達あるいは市場の選択という点において、かなり制約があると私は思っております。そういう点で、協業というのはやはり制約されたる一つの会社経営、こういうように考えることが必要じゃなかろうか。それだけにその適正規模なり運営についての経済的な分析と、その面からするアドバイスが必要じゃないか、こう思っております。
  61. 塚原俊郎

    塚原委員長 これにて質疑は終わりました。  川野公述人には、御多忙中にもかかわらず長時間にわたる御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。(拍手)  明日は午前十時から引き続き公聴会を開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後二時四十一分散会