○宮澤国務
大臣 このような御議論を
国会でもしていただきたいと
考えましたので、実はあえてああいうことを申したわけでございます。私の申しましたことは概して正確に報道されておりますけれ
ども、多少誤解もございますので、簡単にお聞き取りをいただきたいと思います。
昭和二十八年ごろからただいままでほぼ十年の間を
考えてみますと、御指摘のように、昭和三十四年ころまでは、生産性の向上のほうが名目賃金の上がりより高かったわけでございます。それが三十五、六年を契機といたしまして、賃金の上がりのほうが生産性の向上をこえまして、線がクロスをいたしました。先ほど辻原
委員から、三十七年はそうではなかろうという仰せがございましたが、三十年を一〇〇といたしました場合に、三十七年は名目賃金が一二三ぐらいであり、生産性は一一一でございますから、明らかにこの傾向はその後今日まで続いておるということが推定をされるわけでございます。それから欧米諸国との消費者物価の比較についてもお話がございましたが、三十年を一〇〇といたしました場合、ただいまわが国の消費者物価はイギリス、西ドイツ、イタリア、それらの国とほとんど同じ水準にございます。フランスはこれをかなり上回っておるというのが現状でございます。
そこで、このような
状況にあって、私
ども昨年以来ここ数年消費者物価
対策に、微力ではありますがいろいろやってきたつもりでございます。しかし、御存じのように、なかなかそれらがきちっとした効を奏してまいりません。六%以上の消費者物価の上がりというものは、明らかに金利等の関係から申しましても、
国民生活に脅威を与える種類のものだと私
どもは
考えます。しかし、確かに賃金の上がりが物価の上がりをこえておるわけでありますから実質生活が平均的に見て貧困になったということは言えませんので、より豊かにはなっておりますが、それは平均的のことでありまして、いろいろな関係から申して六%以上消費者物価が上がってくるということは、これはきわめて遺憾なことであると申すよりほかはないと思います。一方において、したがって、あらゆる方法を講じてこれを防いでいかなければならないと思いますが、他方において、企業の生産性というものは累年上がってきた。その生産性の向上を
国民経済全体においてどういうふうに適正に配分するかということが問題であると思うわけでございます。その一部は、むろん企業自身、内部留保なり配当なり、あるいは償却なりいろいろな形で企業がとるでありましょうが、一部はまた生産性向上に伴う価格の引き下げという形で消費者が均てんいたすべきであると思いますし、また一部は、賃金の向上という形で当然勤労者が取得すべきものであると
考えるわけであります。
そういう観点に立ちますならば、企業の側にも
反省を求めるべき点が多いと思います。生産性あるいは利潤というものを
考えずに、いわゆるシェア競争というようなことで過大の設備投資をやるということは、当然当面の生産性を下げる結果になりますから、企業の側にも
反省をしていただきたい点が多々あると思います。各方面に、消費者については、物価の問題として政府の施策、あるいは消費者選択というものを
考えていかなければならないと思いますが、同時に給与だけ、賃金だけはこれらの例外であって、これについては検討を加える必要がないということもまたなかろう。私
どもは、決して問題をすりかえてそれだけを問題にするというつもりは毛頭ございませんので、ここまで参りますと、やはりその問題も問題の一つの要素として
考えなければならないであろう。ことに西欧諸国の場合を
考えますと、このような
状況にあって、各国はわが国よりもはるかに雇用の流動性が大でございます。それは申し上げるまでもないことでございますが、いろいろな意味で雇用の流動性というものがあって、そうして、足りない雇用が
最大限の効率をもって発揮されておる。わが国の場合には必ずしもそうではございません。これは職業訓練等の必要もございましょうが、現実にはそうではございません。また西欧各国の中には、移民によってとの状態に対処してまいっておる国もございますが、この点も、わが国においては必ずしも同じことができるとは申せないわけであります。しかも、ここ数年後には労働の需給関係に相当な変化がくるということは明白でございますから、そのようなことをも
考えて、やはり過去において給与の格差が縮まってきたということ、及びわが国の賃金水準が国際水準に近づきつつあるということは、とりもなおさず成長
政策の結果であって、好ましいことであると思いますけれ
ども、ここ数年先を
考えますと、やはり名目賃金よりは実質賃金をお互いに問題にしていかなければならないのではなかろうか、そういう意味で、問題をそういう角度をも含めて検討すべきではなかろうか、こう申したのが私の真意でございます。