○
春日委員 この前にも触れましたように、(a)項、(b)項はいずれも有権的なものである。
日本の
権利は
平和条約(a)項によって保障されておる。(b)項によってそれが制限を受けておる。しか・し、
日本国政府は
日本国の利益と国民の利益のためにいずれの道をとるかというのであるならば、当然(a)項の道からスタートをするのであって、その(a)項というものはやはり
平和条約によって保障されておるところの
日本国の
権利なんですね。だから、(b)項だけに従って(a)項の
権利というものを全然行使しないということは、これは明らかに間違いでございます。よろしいか。私はこういう理論が出てくると思うのです。私は、ここにその
解釈に対する
アメリカ政府の
口上書がありまするから、これによって御
理解を願えると思うのでありますが、全的に消滅してはおりません。
ただ、その前に私は明らかにいたしておきたいことは、藤山
外務大臣がどういう考えであったかということです。今
大平外務大臣が述べられたがごとくに、この(b)項によってすでに
権利というものが喪失されておるがゆえに、(b)項に基づいてこれを
請求しないのだ、また、
請求しようにも、その
根源、要するにその
権利がないんだといたしまするならば、(a)項というものは一体何のために存在するのか、こういうことになって参るのでありますね。だから、この際、私は、(a)項と(b)項との関連においてその
解釈が成り立ちませんときには、
総理大臣、やはりその
条約の起草者の意思というものを確かめてみる必要があると思うのです。勝手に
日本国だけで有利に
判断をしても独善的であるし、不利に
解釈するということは、これまた屈辱的である。だから、
平和条約の起草者の真意、第
四条は何であるか、これを確かめることは、問題の本質を明らかにする上において必要なことである。利益とか不利益とかいうものではない。公正に問題を
処理するためにも必要である。これはただ単に
韓国ばかりじゃございません。
北鮮オーソリティとの将来問題が起きて参りましたときに、やはりわれわれは正当なる
立場に立って主張せなければならぬものは主張せなければならぬのであります。従って、その
法律上の根拠というものは厳粛に
理解されておかなければならぬと思います。
そこで私は、この
アメリカ大使の
口上書、これは長いものでありまするから、特別に要点だけ言いますると、こういうことが書いてございます。「
アメリカ合衆国国務省は、一九五二年四月二十九日付の
韓国大使あての書簡において、
日本国との
平和条約第
四条をつぎのとおり
解釈した。」
韓国に対して
アメリカの
解釈が通告されております。それは、「合衆国は、
日本国との
平和条約第
四条bならびに在
韓国合衆国軍
政府の関連指令および
措置により、大韓民国の管轄権内の
財産についての
日本国および
日本国民のすべての
権利、権原および利益が取り去られたという
見解である。」、こういうふうに
日本の不利益なことを述べてはおります。「したがって、合衆国の
見解によれば、
日本国はこれらの資産またはこれらの資産に関する利益に対する有効な
請求権を主張することができない。」としておる。ところが、「もっとも、
日本国が
平和条約第
四条bにおいて
効力を承認したこれらの資産の
処理は、合衆国の
見解によれば、
平和条約第
四条aに定められている取り決めを考慮するに当たって関連があるものである。」、しかし、この関連がこんなに小さく述べられておりますけれども、その次にはこれが大きく膨張しております。こういうのが
韓国へ通告されたところの、
平和条約起草者たる合衆国
政府の
見解であると
韓国に述べて、以降が
日本国への通告でありまするが、合衆国
政府は前に
韓国に言った
通りそういう考え方を持っておるが、「この
見解および
平和条約の該当
条項の背後にある理由を説明することは有益であろう。」として、その理由を説明しておる。それで、「朝鮮における
独立国家の設立のためには
日本国とのきずなをきれいに、かつ、完全に断ち切ることが必要と思われたので、」こういうことをやった、こう言っておるのです。そうして、その次にこういうことを言っておる。「権原の所属の変更と補償の問題とを区別することは法的見地から可能であると認められるが、」これは、権限の所属の変更ということは変更である、けれども、この変更については、補償を必要とするのだから補償はせなければならぬが、この補償の問題と同様に区別して
処理することは「法的見地から可能であると認められるが、合衆国
政府は、
日本国の補償に対する
請求権は、当該事情の下において、」なかなかむずかしいと思われたので、これをやめた、こう書いておりますね。そういうふうにいたしまして、ここにこういうことが書いてありますよ。「この
請求権が
韓国内の
日本財産の所属変更によりすでにある程度満たされたことが明らかであったにもかかわらず、」と書いてあります。起草者の意見というものがこういうふうに書いてあります。この
請求権、すなわち、
韓国の
請求権が問題となりましたときに、
韓国の対
日請求権なるものが、
韓国内の
日本財産の所属が変更されたことによって「すでにある程度満たされたこと」、——いいですね。
請求権に見合うものはすでにこの三十三号で支払われてしまっておるのだぞ、言うならば、双方おおむねとんとんになっておることが明らかである、明確であったにもかかわらず、
平和条約の中に解決を定める明文を置かなかったその理由は何であるかというと、これは十分な事実
関係と法理論が明確でなかったと言っておる。十分な事実とは何ぞや。それは、
日本に合邦されていた間に向こうで損傷したものがあるであろう、同時に、
日本国の努力によってそこに付加増大されたものがあるであろうが、そのプラス・マイナスという事実
関係を明確に立証することができない。
アメリカでもできない。
日本でもできない。
韓国でもできない。そういう事実
関係、十分な事実も、また適用される法理論の十分な分析も有していない。ということは、適用される法理論とは、分離国家に対して母体国家、これが一体どういう
権利を持ち、どういう義務を持つものであるか、国際慣例というものが明確にない。だから、ここで問題となりますのは、この
平和条約の(a)項、(b)項の
関係において、前に関連があるもの、
韓国が
日本に
請求するときには、あの三十三号によって
没収の事実、また(b)項によって承認の事実、これが有権的に完全的に
効力を発生するためには、(a)項というものが大いなる関連を持つものである。その(a)項というものは、ここに書いてありますように、この
請求権が、
韓国内の
日本財産の所属変更によりすでにある程度満たされたものである。このことは明らかであった。明らかであったから、論証し明文化すべきであったけれども、しかし、
日本国が、合併されておった間に向こうでいろいろ損耗したものがあるであろうが、
日本国の努力によって、貢献によってそこに付加されたもの、増大されたもの、プラス・マイナスの明記がない。事実
関係が粗雑だから、立証しようがない。それからまた、
国際法規の上においても、分離国家と母体国家との間の
権利義務に対する
法律論の展開が十分にまだ行ない得ない、こういう
関係だから、こういう
工合に一まず書いているのだ。書いているけれども、その
請求権というものは、(a)項、(b)項の
関係においておおむねとんとんだぞ、これは起草者の意思として、ここにきちっと
両国にこれが通達されているのですよ。いかがでありますか。そういう
工合に、たとえば今
大平大臣の言われるように、(b)項によって放棄しちゃったもんだから、藤山さんが
請求権を撤回するということは、(b)項に基づいて行なった有権的
行為だ、こう言うことは間違っている。これは
わが国の利益を放棄するの言動である。私は、
韓国との問題ばかりでなしに、将来これは
北鮮との間においてこういう問題と取り組まなければならないので、
平和条約の起草者の意思というものは、正当に、公正にわが方がこれを受けて
判断し、その厳粛なる
理解の上に立ってやはり応対していかなければならぬ。だから、藤山さんの放棄、
請求権を撤回したということは、これは何ら
日本を拘束するものではないと思う。また、実際放棄しているというならば、それは
わが国の憲法
違反である。憲法二十九条は
私有財産不可侵の原則ですね。それから財政法においては、国の
財産が変更するとき、減るとき、ふえるときこれは国会の承認事項である。財政法の、これは八条でありますか、国の債権の全部もしくは一部を免除し、またはその
効力を変更するには、
法律に基づいて行なわなければならぬといっている。内閣法によれば、内閣は
法律に基づいてのみその行政を執行することができるのであって、このような国会の承認を求めることなくして
日本の
財産権に大いなる変更を与えるがごとき意思表示をなすことはできないはずである。やったとすれば
違法行為である。
法律の手続を踏んでいないから、これは全然
効力を持たないものである。
日本は今もなおフリー・ハンドの
立場にあると思うが、いかがでありますか。