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角屋堅次郎君 私は、
日本社会党を代表し、今月六日よりワシントンにおいて行なわれる日米
加漁業交渉に関連し、池田総理はじめ
関係大臣に対し、率直に
政府の御所信を承りたいと存じます。(
拍手)
まず第一は、国際漁業に対する
政府の基本
方針についてであります。
わが国は四面海に囲まれ、古くより水産
日本として発展してまいりました。単に漁業生産量だけについて見れば、戦前最盛期において年間四百三十万トンを示し、第二次世界大戦直後は百八十二万四千トンまで激減いたしましたが、その後
昭和二十七年、戦前の最高水準を突破し、一九六一年のFAOの年報によれば、鯨を除いた世界の総漁獲量四千百十六万トンのうち、
日本の生産量は六百七十一万トンで世界第一位、次いで中国、ソ連、アメリカがこれに続いているのであります。しかしながら、世界第一位の漁獲高を誇る水産
日本も、
日本漁業の
内部構造を分析すれば、沿岸、沖合い、遠洋漁業とも、幾多改革すべき問題を持っており、また、国際漁業をめぐる
日本の経済外交面でも必ずしも十分の成果を見ていないのはまことに遺憾であります。日米加漁業条約では自発的抑止の原則の重荷を背負い、日ソ漁業条約では例年の漁業交渉に神経を使い、日韓問題では李ライン海域における公海操業の不当な制約を受けるなど、
日本漁業をめぐる国際的な環境は、従来からもイバラの道であったし、今後とも多くの難関が横たわっていると存ずるのであります。私は、わが国が名実ともに水産
日本として正しく発展するためには、国際漁業法の動向を洞察し、不平等条約の是正に努力する反面、わが国漁業の国際的信頼を高め、海洋資源の総合的な調査と研究の分野で国際漁業の発展に積極的な貢献をする等、新しい感覚と姿勢で国際漁業に対処すべき
段階がきておると確信するのでありますが、この際池田総理より、幾多難問題をかかえている国際漁業にいかなる基本
方針で臨まれる御所信であるか、確信のある御答弁をいただきたいと思うのであります。
なお、本問題に関連して、
関係大臣より国際漁業
関係当面の問題として、次の諸点について簡潔にお答え願います。
一、大陸だな宣誓に対するわが国の態度、二、調印間近い貝殻島におけるコンブの安全操業についての
政府の見解と今後の
方針、三、日韓漁業交渉の見通し、四、本年二月の平塚団長の訪中により進展を
期待される日中漁業協定についての
政府の
方針。
第二は、本論に入りまして、日米
加漁業交渉に臨む
政府の基本
方針と具体策について率直にお伺いいたします。
現行条約たる北太平洋の公海漁業に関する国際条約は、サンフランシスコ平和条約第九条に基づき、いまだ連合国の占領時代に、東京で
昭和二十六年十一月五日から十二月十四日まで三国漁業
会議が開催され、翌年五月九日調印、
昭和二十八年六月十二日より発効した世界でもまれな不平等条約であります。この条約についていかにアメリカがその正当性を主張しようとも、そのねらいが北太平洋の公海漁業、特にサケ・マス漁業に対する
日本漁業の締め出しにあったことは、おおうべくもない事実であります。しかも、それはいわばアメリカの伝統的政策ともいうべきであって、古くは明治三十七年に
日本の漁船がアラスカ沖でサケ・マスをとったことに端を発し、その後も紛争が絶えず、特に
昭和十一、十二年にわたるブリストル湾におけるサケ・マスの試験操業がいたくアメリカを刺激し、
日本の敗戦を契機に、トルーマン大統領は、
昭和二十年九月いわゆるトルーマン宣言といわれる沖合い漁業の保護に関する宣言を発したのであります。そして講和条約取りきめの過程で、
日本政府は、
昭和二十六年二月吉田・ダレス書簡の形で、「
日本政府は
昭和十五年に操業していなかった漁場では、自発的
措置としてかつ
日本の有する国際的権利の放棄を意味することなしに、漁業の操業を禁止する」旨約束させられたのであります。私は、そこに何ら日米対等、相互協力の精神を見出すことができず、歴史的に勝者の前に屈した敗者の姿を想起するのであります。(
拍手)
かくて現行条約が不平等で屈辱的な
内容となったことは、けだし当然の推移でありました。さればこそ、この条約が
昭和二十七年の第十三回
国会で
審議されるや、
賛成は
政府与党たる自由党のみで、当時の改進、社会、労農、共産の各党はこぞってこれに
反対し、十一年前の六月十七
日本議場において野党の
反対討論が次々に行なわれたのであります。私は当時の先輩
諸君の烱眼と信念に深く敬意を表するとともに、来たる十一日期間満了を控える現行条約の取り扱いに誤りなきを期さなければならないと信ずるものであります。
現行条約も、十年前と今日では、条約
内容の基本的な考え方についての国際的及び国内的評価、条約に基づく漁業資源に関する科学的調査研究の進展、及びその後における日ソ漁業条約の締結等、本条約をめぐる内外の情勢及び環境は著しく変貌しております。したがって、今回の日米
加漁業交渉に臨む
政府の態度は、歴史的にも国際的にも十分国民の
期待と信頼にこたえるため、不退転の決意をもって当たられる御所信であろうと存じますが、この際池田総理より日米
加漁業交渉に対する基本
方針について明快な答弁を、
国会を通じて国民の前に明らかにされたいのであります。特に次の諸点について、池田総理並びに
関係大臣の御所信を率直にお聞かせ願いたいと存じます。
まず第一は、条約締結の方式についてであります。
われわれはっとに、現行条約は期間満了を契機にこれを廃棄して、新条約を締結すべきであると主張しておるのでありますが、
政府はこの点についていかなる条約締結の方式を考えておられるか、その御見解を承りたいのであります。伝えられるところによりますと、先月三十日午前、院内で
政府の基本
方針を
協議の結果、わが国の廃棄通告をとり得る権限を留保しつつ、自発的抑止の原則を撤廃したいとの強硬態度を決定されたと承っておりますが、この際端的にこれらの点についてお答え願いたいのであります。
第二点は、自発的抑止原則の撤廃についてであります。
現行条約の最大難点は、資源保存のためとうたいながら、本質的に資源保存に何の関連性もない
日本漁業を締め出すだけの効果をねらっている自発的抑止の原則の上に組み立てられていることであります。しかも、この原則は、さきの国際海洋法
会議において、アメリカの必死の努力にもかかわらず、
日本、イギリス、フランス、ノルウェー、スウェーデン、ソ連等各国の批判の前に否決のうき目を見たのであって、海洋国際法の一般原則から除外されていることをこの際銘記しなければなりません。実際上これがあるばかりに、
日本は韓国との交渉はもちろんのこと、ソ連等との交渉でも著しく苦しい
立場に立たされてきたことを思うのであります。
昭和二十六、七年当時ならば、まだ連合国の占領下という条件で、若干国際的にも同情があったといたしましても、今回の場合は独立国として十分自主性を持った交渉が可能であり、最終的には条約廃棄の方法も正式に認められているのであります。
政府は、自発的抑止の原則の撤廃に関する限り、断じて妥協はあり得ないと明言ができるか、率直な御答弁を承りたいのであります。(
拍手)
第三点は、自発的抑止の原則にかわる新しい資源保護の規制
措置の考え方についてであります。
われわれは、アメリカのケネディ大統領がすでに自発的抑止の原則の存続を言明していることから見て、交渉は相当難航し、長期にわたることも予想しております。その際、問題打開の重要なかぎは、自発的抑止の原則にかわる新しい
提案が
日本側からなされ、米加両国が国際的良識に基づいて
承認するかどうかにかかってくるのではないかと判断しているのでありますが、新
提案の用意ありとすれば、その構想をこの際明らかにされたいのであります。
第四点は、日米加漁業条約にソ連を含めるのかどうかという点についてであります。
今回の日米
加漁業交渉にあたり、一部に、アメリカ側の
提案で、ソ連を含めた四カ国条約締結の問題が論議の対象になるのではないかと観測されております。このことは、ここ数年ベーリング海東部海域へ相当ソ連漁業船団が進出し、タラバガニ、オヒョウなどの漁獲を行なっていること、また、北太平洋のサケ・マス研究のため、米ソ両国間の生物学者の交換が三十五年から開始されていることを契機として、米国内にも、北太平洋漁業資源保存のため四カ国条約を締結すべしという
意見が出されていると聞いているのであります。これについて
日本側は
反対の意向と伝えられておりますが、この際明確にお答え願いたいのであります。
最後に第五点として、今回の日米
加漁業交渉に臨む
日本側代表団の構成と権限についてお伺いいたします。
今回の日米
加漁業交渉は、
日本側にとっては、事実上新条約の締結を目ざして、自発的抑止の原則を撤廃するというきわめて困難にして難航を予想される重大な
会議であります。したがって、今回の代表団は、重政農林大臣もしくは大平外務大臣を首席代表として構成されるであろうと私自身予想していたのでありますが、何ゆえに国務大臣を充当されなかったのであるか。米加両国の伝えられる代表団構成から見て、伊東農林次官以下の
政府代表では、ある意味であまりにも重任ではないかとの危惧を持つのであります。
政府は、今回の
日本側代表団に交渉妥結までの一切の権限と裁量を与えておられるのであるか、それとも交渉の
経過いかんによって国務大臣の派遣による政治折衝を行なう等、
日本の主張を最大限貫くために最善を尽くされる御決意であるか、特にこの点、池田総理より明快に御答弁願いたいのであります。
以上、私は、
日本漁業の発展を願う真摯な気持ちから、特に国際漁業の新しいあり方をただし、日米加漁業条約についても歴史的な批判を加えつつ、建設的な
立場から国民の問わんとする要点をお尋ねいたしたつもりであります。
条約は常に歴史的にも国際的にも批判の矢面に立たされるものであります。時まさに貝殻島におけるコンブの安全操業は、難航の末、十八年ぶりに零細漁民の悲願が達成されんとしております。こいねがわくは、日米
加漁業交渉においても十年ぶりに不平等条約是正の宿願が達成されるよう、
政府の粘り強い努力を強く
要請いたしまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔国務大臣池田勇人君
登壇〕