○板川正吾君 私は、
日本社会党を代表しまして、ただいま
趣旨説明のありました
特定産業振興臨時措置法案、並びに
市場支配的事業者の
経済力濫用の
防止に関する
法律案について、
政府及び
提案者に対し、若干の
質疑をいたしたいと存じます。
まず、私は、
内閣提出の
特定産業振興臨時措置法案について
質疑に入る前に、その成案の過程を振り返ってみたいと存じます。
昨年、通産省が、
貿易自由化後における
わが国産業体制のあり方として官民協調方式を提唱して以来、新
産業秩序論として内外の関心を集め、最近これほど世論をにぎわしてまいった
法案はなかったと思うのであります。当初、通産省の構想には、
独占強化の危険を含みつつも、他面、
生産計画、投資
調整等による計画
経済への接近が企図されており、多少は見るべきものがあったのであります。しかるに、その後、
産業界や
金融界の要求に屈し、妥協に妥協を重ね、
法案の名称を変えること三たび、ようやくにして独禁法の改悪を
目的とする
特定産業振興臨時
措置法として成案を得たのであります。
本
法案の
内容は、指定
産業の中で、大
企業を
中心とする
合理化基準を定め、カルテルを拡大し、
企業の
合併を促進して
中小企業を吸収し、その上、大
企業には
資金の
確保、課税の
軽減等をはかるというもので、いわば大
企業育成法であり、反面、
中小企業やその
労働者にとっては、きびしい
合理化法、首切り法ともいうべきものであります。
以下、私は、本
法案に関し、幾つかの疑問点について、その基本的な
考え方を
質疑いたしたいと存じます。
まず、池田
総理に伺います。
第一は、独禁法は改正せずという
総理の言明についてであります。
総理は、本院において、しばしば、独禁法は改正せずと言明してまいりました。しかるに、この
法案は、名称こそ
特定産業振興臨時
措置法となっておりますが、その
内容は、政令指定を拡大すれば、すべての
業種にカルテルと
独占を奨励できるものであって、まさに独禁法改正そのものであります。本法の成案過程で、立案者は、独禁法にバイパス道路をつくり、独禁法を有名無実にするための
法案だと強調しており、また、財界では、
独占禁止法改正への足がかりとして、不満であるが賛成だと言い、
通産大臣は、本
法案は独禁法に穴をあけるだけでも意義があると言明しておったのであります。したがって、本法の提案は、
総理の、独禁法は改正せずという言明と
矛盾すると思うのでありますが、
総理はいかなる見解を持っておらるるのか、
所信を伺いたいのであります。(
拍手)
第二は、目下
わが国の
産業界では、
企業の
合併集中が行なわれ、急速に
資本の
独占体制が強化されつつありますが、
総理は、
独占の
弊害をいかに
防止しようとするのか、伺いたいのであります。
御
承知のように、EEC諸国では、従来各国ばらばらな
独占禁止行政を統一し、その強化をはかりつつあるのであります。また、イギリスでは、最近、保守党が、
企業集中の
弊害を調査し、資産百万ポンドをこえる
会社、すなわち、円貨にしまして十億円をこえる
会社の
合併は、
独占の
弊害を助長し、
消費者の
利益を阻害するおそれがあるのに、現行の独禁法では、
企業の
集中によって実際に
弊害が生じたときのみ取り締まるというので、法制上不十分である、したがって、
政府は法改正を行なう必要があると結論を出し、世論もまた、これに賛同しておると伝えられておるのであります。また、フランス
政府は、年間四・三%にのぼる
消費者物価の値上がりを
防止するため真剣な
対策を講じ、最近は、小売マージンの
規制等、非常
措置をとりつつあると報道されているのであります。
このように、外国では、
政府みずから物価
対策に懸命な
努力を払いつつあるというのに、
わが国では、毎年六%をこえる大幅な物価値上がりが続いていても、何ら政治的責任を感じようとせず、逆に、
国際競争力に名をかりて
独占体制の強化をはかろうとしているのであります。まさに
独占資本の代弁者たる
池田内閣の本質を暴露したものというべきでありましょう。(
拍手)
この際
総理に伺いたいことは、
企業の
集中の
弊害から
消費者の
利益をどのようにして守るかということであります。
池田内閣最大の悪政は、
消費者政策が全くないということであります。
総理は、この際、
消費者物価を安定させるために一体いかなる
対策をとらるるのか、
総理の責任ある
答弁を承りたいのであります。(
拍手)
次に、
通産大臣に
中小企業基本法と本
法案との
関係について伺います。
通産大臣は、さきに本院において
中小企業基本法を提案し、その際、提案の
理由として、
中小企業基本法は
中小企業の
経済的、社会的諸制約を補正し、大
企業との格差を是正するのが
目的であると
説明しております。しかるに、本
法案は、いわば大
企業中心の
合併促進法であります。もし本
法案が
成立をし、
政府の希望どおり
運用されるならば、おそらく、
特定産業の中では二、三の大手
企業を
中心に
中小企業が吸収
合併されていくでありましょう。したがって、本
法案は、
中小企業の
立場からいえば、まさに
中小企業の切り捨て法であり、また、
合併がいやだとして自立経営を続けようとする
中小企業には、格差拡大となる
法案であります。一体
通産大臣は、同一の国会で、さきに
中小企業の育成を強調し、本日は
中小企業の切り捨て法を提案するというのは、
提案者としてその間の
矛盾を感じないのかどうか、
通産大臣の
所見を承りたいのであります。(
拍手)
次に、
通産大臣及び科学技術庁長官に、
産業の質的
国際競争力の点から
質問いたします。
本
法案に一貫して流れている思想は、
規模の
利益を強調し、
企業規模さえ拡大すれば、
国際競争力はおのずからつくとの前提に立っているものであります。しかし、国際
市場における日本
産業の弱点は、単に
企業の
規模が過小だということではありません。無計画なる
設備投資による
資本費の高騰、高金利政策、道路、港湾等の社会
資本の立ちおくれ、国産技術の未開発による品質の低さ等に原因があるのであります。
申すまでもなく、国際
市場においては、質の
競争力が重要であります。戦後
わが国産業界は、戦時中の立ちおくれを挽回するために、外国の技術導入にたより過ぎ、国産技術の開発を怠ってまいりました。これでは質の面で
国際競争力が生まれるはずはないのであります。
この際指摘したいことは、
池田内閣の特許行政に対する怠慢であります。さきに、
政府は、特許料を大幅に値上げをして、特許会計では毎年ばく大な黒字を計上しておきながら、特許を申請してから三年もたたないと審結が出ないという
現状を長年放置してまいっておるのでありまして、まことに言語道断というべきであります。
政府は、この際、国産新技術開発のため、特許行政の抜本的な改善をはかり、発明奨励の国家制度を拡充し、さらに、技術研究の国家補助等を強化して、もって
産業の質的
国際競争力を強化すべきだと思うが、
通産大臣及び科学技術庁長官の
考えはどうか、お伺いいたします。
次に、外務、大蔵両大臣に、本法の
運用と外資
規制の問題について伺います。
私は、本
法案の
運用には多大の疑問を持つものであります。本
法案は斜陽
産業の救済法となっても、前向きの
産業振興法にはならないと思うからであります。おそらく、これから躍進しようとする
中小企業は、
国内大
企業に吸収
合併されるよりも、
資本の
自由化を見込み、外国
資本と提携し、
企業の生存と拡大をはかろうとするに違いありません。また、八条国移行後の
自由化政策によって外資
規制が緩和されれば、金利の高い国、賃金の安い国として定評ある
わが国に、外国
資本が殺到することは火を見るよりも明らかであります。したがって、このような
情勢下では、本
法案は真に日本
産業の
振興法とはなるまいと思うのであります。
政府は八条国移行後の外資
規制をどう改正しようとするのか、また、逆に、本
法案は日米通商航海条約に違反するものとして、米国側より問題とされるおそれはないか、大蔵、外務両大臣の見解をお伺いをいたします。
次に、
経済企画庁長官に伺いたいのでありますが、長官が不在でありますから、
国務大臣の事務代理者に伺います。
わが国製鉄
産業の
生産単位当たり
設備投
資金額を見ますと、西ドイツ、イタリアの実に三・六倍であり、英仏の約二倍となっておるのであります。これは一例でありますが、このような過剰投資が金利高と相まって
資本費を高騰させ、
コスト高をもたらし、
わが国産業の
国際競争力を弱化させているのであります。
政府はこうした自由放任の
経済のあり方を反省し、国家
経済にもっと大担に計画性を加えるべきだと思うのであります。そのために、
政府は、
金融機関や基幹
産業、公益
事業に国家の指導権を強化し、それを軸として財政、
経済の総合的な計画化をはかり、
他方、一般
産業には公正なる
競争秩序を基調とする
産業体制を確立すべきではないか、また、それが
国際競争力を強化する新しい
産業体制ではないかと思うが、
経済企画庁長官としての見解を伺いたいのであります。
次に、労働大臣に伺います。
本
法案の重大な欠陥は、
企業合併によって生ずる
特定産業の
合理化が、
労働者の意思を実質的には全く無視して行なわれる点であります。本法の
振興基準の中には「
事業の転換に関する
事項」という一項目がありまして、すでに
合併される非能率的な
中小企業の
事業場の転業、廃業を予想しておるのであります。しかるに、本
法案は、大
企業には手厚い保護を加えながらも、
合理化の犠牲となる
労働者には何らの考慮が払われていないのであります。まことに不当なる
措置といわざるを得ません。
政府は、
特定産業の
労働者が
合併や
合理化によってこうむる雇用上、賃金上その他の待遇上の不
利益を、一体いかなる方法で
防止しようとするのか、労働大臣の見解を伺いたいのであります。
次に、公正
取引委員長に
質問いたします。
私は、
自由化政策の進展と相まって、
公正取引委員会の任務はいよいよ重大だと思うのであります。すなわち、
企業の
集中合併が
産業界を支配する結果、
独占の
弊害が
国民生活を脅かし、他面、
自由化により外国
資本や大
企業が不公正な
取引方法によって
中小企業を圧迫するおそれが予想されるからであります。
貿易自由化となり、開放
経済となってきたのだから、独禁法は緩和すべきだという議論がありますが、それは逆であって、開放
経済下では、なおさら公正な
競争を
確保して
国民生活や
中小企業を守る必要があるのであります。公正
取引委員長は、独禁法の適正な
運用を期するため、この際機構の整備充実をはかるべきだと思うが、いかなる見解を持っているか伺いたいのであります。
最後に、社会党
提出の
市場支配的事業者の
経済力濫用の
防止に関する
法律案について
提案者にお伺いをいたします。時間の都合もありますから、簡単に二、三お尋ねいたします。
第一点は、本
法案のねらいは、
独占物価に
規制を加えようとするにあると思うのでありますが、なぜ現行独禁法でそれを取り締まることができないのか、その
理由を明らかにしていただきたいのであります。
第二点は、本
法案の
対象となる「不当な
対価をもつて
取引すること。」とはいかなることか、事例をあげて御
説明を願いたい。
第三点として、この程度の
法律では、
独占の
弊害にメスを加え、物価の安定をもたらそうとするのには、なお不十分ではないかと思うがどうか。以上三点についてお伺いをいたします。
以上をもって、二
法案に対する私の
質疑を終了いたします。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕