○田邊誠君 私は、ただいま
政府より提案
説明のありました
失業保険法の一部を
改正する
法律案について、日本社会党を代表し、
政府関係大臣に対して質問をいたしたいと存じます。
改正案の具体的
内容の質問に入る前にまずもってお伺いしたいことは、失業保険制度を一つの柱としている
わが国の失業対策、さらにはその基本となるべき雇用政策に対する
政府の態度についてであります。なぜならば、現在
わが国の政治的社会的重大課題たる失業問題の解決は、雇用政策の推進以外には真に有効なる方法はあり得ないからでありまして、失業保険制度は、いわばこれを側面からとらえ、短期的失業者に対して生活保障を与えるという補完的意味を持つものであります。従って、長期的要素を帯びる失業を含めて、すべての失業問題の根本的解決の道は、あくまでも完全雇用政策の推進以外にはあり得ないと確信するからであります。(
拍手)
質問の第一は、
わが国の雇用の現状に対する
政府の認識の不足と、これから来る今後の雇用問題に対処する
政府の総合的
施策の欠除を根本から改むべきであるという点についてであります。最近の雇用失業情勢について、ただいまの提案
説明によれば、経済の高度成長に伴い、全般的に著しい改善を示しているというきわめて楽観的な見方でありますが、現実の雇用状態は決してかかる楽観を許さないものがあることを知らなければなりません。すなわち、近年
わが国の人口の
増加は逓減の方向にありますが、十五才以上の生産年令人口はここ当分年平均百三十万人に達する純
増加を示しており、総理府の最も最近の統計によれば、三十六年十一月現在における生産人口に対する雇用労働力の割合は六九%であったのに比べ、三十七年同期は六七%と雇用率は減少しているのであり、その結果、失業保険の受給者人員は三十六年十月に三十万人であったものが、一年後の三十七年同期には四十二万人にも達しており、また、失業率も同期に一・八%から二・六%にまで増大しているのを見るとき、量的な面における雇用問題の現状は、
政府の見るごとく改善の方向をたどっているとは断じて言い得ないのであります。(
拍手)
さらに、高度経済成長の過熱からくる景気調整下においては、企業合理化、
貿易自由化のあらしの中で石炭鉱業、金属鉱業の大量の離職者発生は言うに及ばず、全産業にわたって、首切り、新規採用停止、高度成長過程で無理に引きとめておいた中高年令層、女子労働者への離職勧告が続出してくることは論を待たないところであり、経済企画庁の行なった景気調整下の労働実態調査
報告によれば、三十七年七月現在で常用工の解雇を実施または予定している企業は全体の一二・一%に達し、臨時工については実に三八・三%の企業に及ぶと発表しているのであります。従って、雇用の前途は一そう容易でないといわなければなりません。
政府は、この事態を直視し、雇用政策に対する国民の不安と
政府に対する不信感を除くため、雇用基盤拡大と雇用問題解決を第一義に置いた現実的経済発展政策を樹立するとともに、完全雇用への長期的構想を固め、国民の前にこれを示すべきではないかと思うのでありまして、これに対する
政府の所信を承りたいのであります。(
拍手)
第二にお伺いしたいことは、雇用失業情勢における質的変革についてであります。
政府発表によれば、昨年十一月における労働力人口四千六百四十八万人のうち完全失業者はわずかに三十四万人であり、他はすべて就業していることになっているのでありますけれども、就業者と見られるものの中には、所得、働く時間、仕事の継続性、就業の安定度等から見て、不完全就業者、すなわち働く意欲を持ちながらも正常な就業機会を与えられず、やむなく平均水準をはるかに下回る条件に甘んじて仕事についているものが、完全失業者の十倍前後存在するといわれているのであります。
政府の厚生白書に示す通り、標準四人世帯で二万円以下の所得のものが四分の一以上を占めており、また、世帯主が家計収入に占める割合は、欧米に比べてはるかに低いという、一家総ぐるみ、一家総労働の中でようやく生計を維持している現状において、低所得者が多数就業している形が労働市場における供給過剰の状態を高め、この状態がまた不完全就業を拡大するという悪循環を生んでいるのでありまして、これが社会的緊張と不安を促進する有力な要因とならざるを得ないのであります。(
拍手)この就業構造の二重性が、経済変動に伴い、転落的な労働移動と結びつくことによって、近代的な雇用失業対策の効果は無に帰せられつつあるのであります。この就業構造における著しいひずみを是正するために、経済二重構造の底辺にあって劣悪な労働条件下に苦しむ低所得労働者に対し、全国一律最低賃金制の確立、同一労働同一賃金への賃金体系の改善、労働時間の短縮、特に中高年令層の失業と再雇用対策の樹立等の諸
施策を講ずる中で、近代的な雇用政策を緊急に確立することが要請せられるのでありまするけれども、
政府にはたしてこれが基本的対策がありやいなや、
政府の明確な態度をお示し願いたいのであります。(
拍手)
以上のような基本的観点に立って、次に
改正案の主要な
内容について所管大臣に対しそれぞれお尋ねいたします。
その第一は、本
改正案の重要な柱の一つである失業保険金の最高、最低日額の引き上げ及び扶養加算制度の新設についてであります。現在の資本主義体制下に発生する失業という現象は、労働者自身の能力、勤勉、技術の差等によるものはきわめて少なく、その大部分が大資本中心の経済発展過程における景気変動等の社会的、経済的要因と政治上の政策の転換、失敗によるものでありますだけに、失業保険金は従来の保険主義から次第に脱却して、失業期間の生活保障を行なう建前が貫けるよう現実に即応したものに改定されるべきであります。しかるに、労働省が昨年十一月中央職業安定
審議会に諮問した
改正原案は、保険金を最高千円に引き上げる
内容であったものが、
国会提出のまぎわに八百六十円の値下げ案となったことは、きわめて判断に苦しむものがあり、物価値上がりは放置するけれども、物価高騰で生活苦にあえぐ失業者に対するわずかな保険金引き上げは途中で政治的に抑制するという冷酷な態度を改め、現在の賃金水準の向上、消費物価の引き続く高騰と見合って、失業保険金日額の基準は、
現行賃金の六〇%を八〇%に改め、少なくとも最高日額は職安
審議会の答申通り千円に引き上げるとともに、扶養加算の単価についても、同様答申通り一律二十円を両親まで含めて支給するよう
改正すべきであると思いまするけれども、これに対する
政府の考え方を明らかにしてもらいたいのであります。(
拍手)
第二点は、国庫負担率の引き上げについてであります。今回の
改正案によれば、日雇失業保険については、国庫負担率を
現行四分の一から三分の一に改めることになっておりまするけれども、今日の失業は
政府の
施策の貧困と誤りに起因するものがほとんどであることから見ても、失業期間中の生活の安定と労働力の保全をはかることは、まさに為政者の責任に帰せらるべきであるとの考え方に立って、一般失業保険についても、
昭和三十五年、
現行法に負担率引き下げの改悪を行なうまで実施しておった国庫負担率原則三分の一に復元すべきであると思いますけれども、その考え方があるかないか、お聞かせいただきたいいのであります。(
拍手)
第三の質問は、保険料率の弾力的
変更に関するものであります。失業保険特別会計の
内容が改善されつつあるといたしまするならば、このことは保険当事者の負担の結果でありますから、その一部を保険料率引き下げ等に充てることは、理論上当然のように見えますけれども、反面、積立金が
改正案に定める適正規模を下回った場合、保険料率を引き上げることも含まれ、これは保険数理に形式的にこだわっている結果であり、現在、国家政策的度合いの強くなっている本制度上から見て、決して好ましい姿ではないのでありまして、財政的余剰金は、なるべく保険金引き上げに充当することを主たる目標とすべきであり、不況の時期に現われる積立金不足の事態に対しては、あくまで国庫負担の増額をもって切り抜けべきであると判断しますけれども、これに対する所管大臣の基本方針をお示し願いたいと存じます。(
拍手)
さらに、第四にお聞きしたいことは、本
改正案には、被保険者期間の通算
措置、傷病期間中における保険給付、失業多発地域や激甚災害時における特例等、不完全ながら一応改善と思考される部分がある反面、明らかに危険と思われる
内容が含まれている点であります。たとえば、転職または職業訓練に対し、公共職業安定所の指示に従わなかった場合、失業保険金を一カ月支給しない
現行法の規制を拡大し、窓口
職員の認定によっても、随時停止ができるような工合に
改正しようとすることは、事実上、憲法に保障された職業選択の自由を奪うことになり、職安
審議会も、職権拡大解釈による耐用を戒めているのであります。このような制限
規定を撤廃する意思をお持ちであるかどうか、明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
第五として、今次
改正案に盛られていない改善を要する問題点が数多く存在する中で、
失業保険法の根本的改革方針として、特に
政府の再考を求めたい二点について申し述べます。
その一つは、失業保険の受給資格者は、再就職までの待期労働者であることから、失業保険の給付期間は、失業の全期間とすることが本来の失業保険制度の趣旨であり、特に中高年令層に最も特徴的なように、再就職がますます困難度を増大しつつある現在、給付期間は、
現行一年から少なくとも二年まで延長すべきではないかということであります。
その
二つ目は、失業者の発生の割合が、零細企業に一そう片寄ってきていることからして、被保険者たり得る適用事業所五人以上の限界線をはずして、この際五人未満の事業所についても、原則として適用することとし、当然これと関連して、労働者災害補償保険法の
改正も行ない、また、健康保険法の強制適用事業所も五人未満に及ぶよう、抜本的
改正をはかるべき時期にきていると思いますけれども、労働、厚生各大臣の所見を承りたいのであります。(
拍手)
最後にお伺いしたい点は、
わが国失業保険制度の国際的立場についてであります。ILOは、すでに一九三四年六月、総会において、失業者に対する救済制度に関し、「非任意的失業者に対し給付又は手当を確保する条約」を採択すると同時に、「失業保険及失業者の為の各種の扶助に関する勧告」を決定して、加盟各国が失業者扶助制度の確立を急ぐよう要請しておるのであります。イギリス、フランス、イタリア等主要諸国が批准しているこの四十四号条約を、
わが国も早期に批准すべきであると考えるが、
政府にその決意あれば、との際表明願いたいのであります。
以上質問して参りました諸点によって明らかな通り、雇用失業問題のより高い解決を迫られている今日、
政府は、当面を糊塗する部分的
改正案から、さらに竿頭一歩を進めて、抜本的
改正をはかるべきことを強く要求して、私の質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔国務大臣大橋武夫君
登壇〕