○吉村吉雄君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
内閣から提案されました
国民年金法及び
児童扶養手当法の一部を改正する
法律案につきまして、総理大臣並びに厚生大臣に本法案に対する基本的な考え方を明らかにしていただきますと同時に、その
内容の若干について質問を行なうものであります。(
拍手)
近代国家の目的が福祉社会の建設にあることは言うまでもありません。社会保障は、その福祉社会実現のいわば底辺的な役割を果たすものであり、
所得保障と医療保障はともにその両翼に位置するきわめて重要な
施策であります。
国民年金法はその
所得保障
政策の中核的な役割を持つものであることは、その適用対象者数が約二千二百万人に及び、他の同種制度適用者数全体より約三百万以上も上回るという一事からもうかがい知れるのであります。また、そのことは、本制度発足当時の
政府の鳴りもの入りの宣伝に徴するまでもなく、制定当時から今日に至るまでの
国民の大きな関心と批判によっても明らかでございます。問題は、この
国民年金法が、その本来の使命である
所得保障
政策の中核としての役割を名実ともに果たしているかどうかという点にあります。遺憾ながら、それは形だけにすぎず、むしろかえって真の
所得保障制度
発展にブレーキをかけかねない存在とすらなっているのであります。
そのことは、発足後四年後の今日に至っても、都市部における加入率は六八%、保険料納入実績七〇%という
国民の無言の批判と抗議の実情がこれを証明しているのであります。と同時に、このことは、現行
国民年金法発足以来四年、保険料徴収を開始して実質的に歩み出してから二年、このわずかの期間に、
政府がすでに三たびもこれを改正しなければ、この
国民の批判と不満をそらすことができないという焦慮の姿に浮き彫りにされているのであります。(
拍手)
今回の改正にあたって、
政府はその
説明の中で、最近の
国民生活の動向などに照らしてなお一そうの
改善を必要とするから云々と述べているのでありますが、実はそれこそ苦しまぎれの言いわけでありまして、たび重なる改正を必要とする最大の原因は、この法律の持つ根本的な欠陥それ自身にあることを指摘しなければなりません。従いまして、本
国民年金法の改正にあたっては、その根本的欠陥の是正をはからない限り、国会のつど一部改正、一部改正で
関係者の労をわずらわし、事務を複雑化し、
経費を乱費するの愚を繰り返すであろうことをあらかじめ忠告いたしますと同時に、その根本的な改正への心がまえなくしては、社会保障
充実を口にすることは許されないと断言しても過言ではないと思います。(
拍手)今回の
政府提案のごとき改正案をもって、社会保障に重点を置きましたというに至っては、うそを言わないといううそを言う池田式うそ論法であって、経済成長とは
所得格差を拡大するものなりの結果を招来した池田式経済哲学と軌を一にするものといわなければなりません。(
拍手)
以上のような現行
国民年金法に対する一般的な批判を前提といたしまして、私は、まず社会保障、なかんずく
所得保障
政策に対する基本的な考え方について、池田総理にお尋ねをいたしたいと考えます。
その第一点は、今日の時点に立っての社会保障
政策推進の姿勢についてであります。申し上げるまでもなく、
わが国憲法第二十五条には「すべて
国民は、健康で文化的な最低限度の
生活を営む権利を有する。」とあり、国はその保障のために努力することが義務づけられておるのであります。総理は国の最高
責任者であります。
国民の最低限度の
生活を保障する義務があるあなたは、この憲法で明示する最低限度の
生活を保障する
金額を、一体どのくらいでいいと考えられておるのでありますか。よもや七十才で一人月額千百円で、
物価高の今日、最低限度の
生活ができるとは言い符ないはずだと考えます。(
拍手)さらに、総理は、
わが国の経済成長は世界にまれに見るものであるということを手柄顔に口にし、そのことを海外に行ってまで豪語をいたしておるのであります。その経済成長をしたという
わが国の
国民年金法では、四十年かけて六十五才から月額三千五百円の年金、無拠出におきましては七十才で月額千百円の年金、これではたして憲法の定めに沿ったものであり、
わが国の経済成長に見合ったものだとお考えになられますかどうか。
国民すべてが納得できるような御
説明をお願い申し上げたいと思います。(
拍手)
第二点は、社会保障制度
審議会の答申並びに勧告に対する見解についてであります。総理の諮問機関である社会保障制度
審議会では、昨年八月、社会保障制度の推進に関する勧告を行なっており、その中で
所得保障の額の問題に触れ、年
金額について
国民の
生活保障の役割を果たさせるためには、
物価変動などの際にもその価値を維持せしめる原則は確立しなければならない、すなわち年
金額のスライド制を採用すべきことを勧告しておるのでありますが、この点は
わが国の
所得保障諸制度にとって、きわめて重要にしてかつ緊急必要な事項であると考えます。総理は、この勧告にどう答えようとしているのか、さらには、なぜ今度の改正案にこの勧告の
趣旨を取り入れようとしなかったのか、この点は総理の
所得保障に対するところの根本的な考えを示すものと思われまするので、あえてお伺いをいたします。(
拍手)
第三点は、国会における決議との
関係についてでありますが、第四十回国会におきまして、
国民年金法一部改正の際に、与野党一致いたしまして、年
金額の大幅な引き上げ、老齢年金支給開始年令の引き下げ、年
金額スライド制の採用など、十一項目にわたる附帯決議を付しているのでありますが、今回の改正では、このうち手をつけたものわずかに三項目、しかも、ほんとうに申しわけ的な微々たる改正にとどまり、老齢年金に至っては月額百円の
増額という、まさにスズメの涙にも及ばない状態にございます。国の最高議決機関としての国会の意思をこのように軽視、あるいはじゅうりんをする
政府の
態度こそが国会不正常の最も大きな原因と考えられますけれ
ども、総理のこれらに対する見解をお尋ねいたしたいと思います。(
拍手)
第四点は、
児童扶養手当法についてでありますが、本来でありまするならば、本法の中身は
国民年金法のワク内に位濁すべきはずのものであります。ところが、
政府は、これを単独立法化しておるのであります。私が総理にお尋ねいたしたい点は、この法律があることによって、すでに西欧先進諸国で普遍化しておりますところの児童手当法制定をおくらせる役割を果たす結果になりはしないかという危惧についてでございます。御承知のように、形態だけはやや整ったといわれる
わが国社会保障体系の中で、ただ
一つその形すらもできていないのが、この児童に対する権利と
生活保障の部面であります。従いまして、社会保障制度
審議会におきましても、その早急制定を勧告をし、去る通常国会でも、同
趣旨の決議を付して
政府の決断を促しているのであります。
また、今日、労働雇用問題の中で、中高年令者の問題はきわめて深刻な状態にあります。これら中高年令者の雇用促進と安定の見地から見ましても、本来の意味での児童手当あるいは家族手当の制定は緊急の
施策であるといわなければなりません。総理は、ILO第百二号条約が、社会保障の最低基準として示しているこの児童手当を制定する意思がおありなのかどうか。このようなことを実施すること、それ自体こそが、総理の常々言っておりますところの人づくりの基本ではないかというふうに考えられますけれ
ども、これらの事情について明確なお答えをお願いをしたいと思います。
次に、厚生大臣にお伺いをいたします。
その第一点は、今回の改正案では、老齢福祉年金月額百円、障害福祉年金、母子並びに準母子年金は、それぞれ月額三百円の引き上げとなっているのでありますが、この引き上げ額は、どうもつかみ勘定的のように見受けられます。この引き上げ額の根拠は、一体何に基づいているのでありますか。
また、昨年七月、
国民年金
審議会の答申によりますと、各年
金額は思い切った引き上げが必要である旨を強調されております。今回の改正案の諮問に対しては、あまりにもその額が少額なのにびっくりしてか、
国民生活の向上、
物価の
上昇などを考えた場合、きわめて不十分であり、急速に拡充すべき年金制度のあり方に悪影響を与えるおそれがあるとすら極言をいたしておるのであります。社会保障制度推進の直接の
責任者として、厚生大臣はこの間の事情をどう
説明されようとするのでありますか。お伺いをいたしたいと思います。(
拍手)
第二点は、保険料免除基準並びに免除者に対する
措置についてでありますが、現行免除規定は非常に厳重に過ぎますと同時に、その手続が煩瑣でありまして、そのために厚生省の統計によりましても、当初の
予定数に達しない現状と聞いているのであります。従って、この際、申請免除につきましては、
所得税の免税点までこれを認めることが、本法の
精神から見て妥当ではないかと考えられます。
さらに、保険料免除者につきましては、現行では積立金の三分の一しか国が補てんしない
建前となっておるのでありますが、このような気の毒な人々にこそ、本人
負担分全額を国が見てやるという、そういう改正こそが、社会保障としての
国民年金制度のあり方ではないかと考えます。これらに対する厚生大臣の見解を承りたいと思います。
次に、夫婦受給に伴う受給制限についてでありますが、この点は、社会保障はあくまでも個人を対象とするものであるはずでありまするし、現にこの受給制限は、対象者家庭内のいざこざの原因にもなっており、素朴な感情といたしましても、とうてい納得できないものでもございます。このような点の改正になぜ目を向けなかったのか。この点は、該当者がほんとうに納得できるような
答弁をお願いいたしたいと考えます。(
拍手)
以上、私は、本改正案が真に
国民が望んでいる
国民年金法改正への声にこたえたものではなく、一時のがれの糊塗策、弥縫策にすぎないことを指摘し、池田総理並びに西村厚生大臣がもし真剣に社会保障
充実に取り組もうとするのであるならば、その根本的欠陥を除去するに足る改正案をこそ提案すべきであるということを付書いたしまして、質問を終わります。(
拍手)
〔国務大臣池田勇人君
登壇〕