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1963-06-20 第43回国会 衆議院 法務委員会 第25号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年六月二十日(木曜日)    午前十一時三分開議  出席委員    委員長 高橋 英吉君    理事 上村千一郎君 理事 唐澤 俊樹君    理事 小島 徹三君 理事 田中伊三次君    理事 林   博君       一萬田尚登君    稻葉  修君       小川 半次君    小金 義照君       千葉 三郎君    馬場 元治君       早川  崇君    藤井 勝志君       松本 一郎君    玉置 一徳君  委員外出席者         参  考  人         (友愛青年同志         会幹事長)   奥田 吉郎君         参  考  人         (静岡大学教         授)      熊倉  武君         参  考  人         (日本労働組合         総評議会権利擁         護部長)    坂根  茂君         参  考  人         (弁護士)   島田 武夫君         専  門  員 櫻井 芳一君     ————————————— 六月二十日  委員片山哲辞任につき、その補欠として玉置  一徳君が議長指名委員に選任された。 同日  委員玉置一徳辞任につき、その補欠として片  山哲君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 六月十七日  松山地方家庭裁判所西条支部庁舎新築等に  関する請願八木徹雄紹介)(第四三六二  号)  同(井原岸高紹介)(第四三八〇号)  裁判官裁判所職員の増員並びに裁判所庁舎の  改築に関する請願安平鹿一君紹介)(第四四  一七号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正す  る法律案内閣提出第五九号)      ————◇—————
  2. 高橋英吉

    高橋委員長 これより会議を開きます。  暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、本案について参考人から意見を聴取することといたします。ただいま御出席参考人は、奥田吉郎君、熊倉武君、坂根茂君、島田武夫君の四君であります。  この際、議事に入ります前に参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ御出席をいただき、まことにありがとうございます。また、長時間にわたり国会内部の事情のためにお待たせいたしまして、ほんとうに恐縮いたしております。お許しを願いたいと思います。つきましては、忌憚のない御意見の御開陳をお願い申し上げる次第でございます。  なお、議事の進め方につきましては、お一人十五分以内程度において、参考人奥田吉郎君が第一に御発言願いまして、第二に熊倉武参考人、第三に島田武夫参考人、第四番目に坂根茂参考人の順序で意見の御開陳をお願いいたします。四人の意見開陳が終わりました後、委員から質疑が行なわれることとなっておりますので、お答えをお願い申し上げます。  それでは、まず奥田吉郎君からお願いいたします。
  3. 奥田吉郎

    奥田参考人 最近、暴力犯罪がさっぱり減少しないばかりか、増加の方向をたどっているということを伺いまして、非常に遺憾に思っておるわけであります。われわれ善良なる市民は、暴力に対する憎しみ、同時に暴力犯罪の常に中心的な役割を果たしております暴力団あるいはぐれん隊等に対する憤りを持つものであります。特に私は、法律専門家ではなくて、青少年運動に携わっておる者としまして、暴力犯罪につきましては青少年運動をする者にとりましても非常におそるべき存在であると考えております。  青少年運動には幾多の障害があるわけでありますけれども、なぜ暴力犯罪障害になるかと申しますと、その第一点は、御承知のように近代工業も発達し、農村から都会に集まってくる青年が非常に多くなっておるわけでありますけれども暴力犯罪、特に銃砲であるとか刀剣類であるとかを使います犯罪等が、これらの青少年に対して、ある意味での英雄扱いをされておったり、あるいは自分のふしだらな行為の安住の地を与えておるということが非常に大きな障害になっております。第二の障害といたしましては、われわれが社会正義を信じ、社会秩序を守ろうといたしましても、これらの不法行為が放置されておりますと、最初は抵抗を試みましても、次第に、反対をする者が損である、なまじ反対をしたために身体あるいは生命の危険をおかしたことが間違いであるという気持で、社会正義に対する非常に無気力な青年を非常に多く形づくるわけであります。  したがって、どうしても私ども暴力を憎み、暴力の根源でありますところの暴力団やあるいはぐれん隊等、特に最もその中でも身体の危険、生命の危険にさらされます銃砲刀剣類等危害から守らなければならないわけであります。もちろん、われわれが結束して社会正義を貫いていくことは当然でありますけれども、同時に、警察関係取り締まり強化がその次に必要でありますし、さらにさかのぼって追及しますると、罰則強化が必要でございます。従来そうした犯罪を犯しましても、罰則が軽いために、犯罪を行なった人々がすぐ出てくる。そうしてまた繰り返す。あるいは英雄視されるという状態が続くために非常な失敗が続いておるわけでございます。暴力を憎む国民世論は高まっておりますし、また暴力団やぐれん隊を憎む国民世論も高まっておりますし、同時に銃砲刀剣類をふるう犯罪に対する罰則強化世論も高まっておるのでございます。  また、御承知のように最近はマスコミ等協力もありまして、小暴力追放運動が行なわれました。これは社会のすみずみに非常に大きな反響を巻き起こしまして、民衆協力民衆の団結によりまして、従来許されておりました小暴力が一時改められていくという非常にうれしい現象が起こってまいりました。私ども青年としましてもその運動専心協力をしまして、社会正義がそのまま通じ、社会秩序が守られるような社会を望みまして協力してまいったのでありますけれども、しかし、それはなかなか長く続かなかったわけであります。と申しますのは、その小暴力追放に対しまして、凶器やあるいは銃砲等の危険なものを持って反抗する暴力犯が出てきたということであります。たいした深い理由もなく、それほどの問題も起きてないのに、常に凶器等を持っておりまして、そうした社会正義あるいは小暴力追放等の問題に対してもそれをふるうという、人の身体傷害するというようなことが続いております。やはりこうした小暴力追放運動社会正義を進めていく運動の際にも、どうしても処罰強化することによって反省の機会を与える必要があるということをつくづく痛感したわけであります。  犯罪の一々の例については申し上げるまでもありませんけれども、現在の暴力犯罪は、犯罪が起こっているのがあたりまえであるというぐらいに多数行なわれております。しかもその大多数が、暴力団であるとかぐれん隊等によって引き起こされる常習的な犯罪であります。一時的な、突発的な犯罪でなく、繰り返して行なわれる常習的な犯罪でありますので、こうした常習的な犯罪に対しても、取り締まり強化し、罰則強化する必要があると思うわけであります。  さらに、こうした法案罰則強化されるということは必ずしも望ましい状態とは思いませんけれども、こうした状態の中で民主的な運動が阻害されるのではないかという心配があるわけでありますが、私ども民主的運動を進めております民主団体青年団体から考えますと、少なくとも私どもの民主的な運動である限り、銃砲であるとか刀剣類であるとかは、運動の中では持つことが全くありませんので、少なくとも持たない限りにおきましては、民主的な連動の弾圧には全く関係がないものと私は考えるわけであります。  最後に、最近刑法改正が行なわれるそうでありまして、その際にという意見もあるようでございますけれども、本日私どもがこの委員会参考人として意見を申し上げておる際にも、日本の至るところで暴力犯罪が行なわれておるでありましょうし、その危害を受ける人たちも非常に多いと思いますので、私としましては、緊急にその対策を講ずる必要があるのではなかろうか、かように考える次第でございます。
  4. 高橋英吉

    高橋委員長 次に、熊倉武参考人にお願いします。
  5. 熊倉武

    熊倉参考人 時間が限られておりますので、私は実は刑法をやっております関係上、刑法学をやっております観点から、改正条項についての要点だけを簡単に申し述べてみたいと思います。一つは刑罰法体系観点から、もう一つは解釈適用上の観点から申し上げてみたいと思います。  まず最初刑罰法体系の問題から入りまして、新しく改正条項になりました一条ノ二の罪及びその未遂罪並びに一条ノ三の常習犯罪、これはそれぞれ御存じのように銃砲刀剣類を用いるということ並びに常習としてこれを行なうということによりまして、刑法所定の各犯罪刑罰加重類型になるわけであります。すなわち、単純傷害罪に対しまして、銃砲刀剣類を用いることによって刑罰を加重しているという類型だと思うわけであります。そうしますと、本来新しい犯罪類型をつくりあるいは法定刑を変更する場合は、刑法という法典が基本的な法典になるわけですから、ともかくも刑法典の中でこれを規定するということが非常に望ましいことなのであって、刑法典でない特別刑罰法規の中で、新しい犯罪類型をつくりあるいは刑罰を変更するということは、刑法を頂点とする刑罰法体系を乱すものではないかと考えるわけであります。これが第一点。  第二点は、御存じのように刑法を頂点とします現行刑罰法基本的体系は、保護法益を中心にいたしまして、これを侵害するかあるいは侵害するおそれのある行為というものを可罰的違法性のある行為というふうに規定しているわけであります。ところが暴力行為法というのは、特に侵害行為というものを直接対象にしているのではなくて、集団性そのものあるいは常習性そのものを直接的な可罰対象としているというふうな性質を持っている法律だと思われるわけであります。したがって、暴力脅迫あるいは器物損壊という行為は、そのような集団性あるいは常習性のための手がかりというふうな位置づけに置かれているわけです。したがって暴力行為法は、団体とか、多衆あるいは数人共同、あるいは常習というような、集団性常習性概念暴行脅迫器物損壊等行為結びつきさえすれば、直ちに構成要件を充足して既遂に達することになるという内容になっておるわけであります。これは大正十五年あるいは昭和八年の大審院判決も同様な見解に立っております。そういう意味からいたしまして、刑罰法体系という観点から、新しい犯罪類型をつくるということ並びに刑罰の上限、下限を変更するというふうな場合には、私は、基本的な刑法典をもってこれを変更すべきものであるという意見を持っておるわけであります。これが刑罰法にからむ問題であります。  次に解釈適用上の問題といたしまして、一条ノ二の罪について申し上げてみたいと思います。  一条ノ二の罪につきましてやはり問題になりますのは「銃砲ハ刀剣類」という意義だと思うわけです。御存じのように銃砲刀剣類という意義につきましては、銃砲刀剣類等所持取締法の第二条に定義が掲げてあります。同時に、三十一年四月、三十六年三月の最高裁判決もあるわけであります。しかし、このような定義は、所持を禁止するという、本法の場合とは違った立法目的が前提になっておるわけでありますから、本改正案一条ノ二の罪の場合も、必ずしも銃砲刀剣類等所持取締法第二条あるいは三十一年、三十六年の最高裁判例に限られるというふうに限定すべきであろうか、はなはだ疑問だと思うわけであります。なぜかといいますと、この罪の場合には人の身体傷害という結果の発生と直接関連するものであって、使用されている銃砲刀剣類が直ちに犯罪を構成するわけではないわけであります。したがって人の身体傷害の結果発生ということに十分な性能を持つ器物であるかどうかということになりますと、必ずしもいま申し上げたような意味銃砲刀剣類意義が限定されないのではないか。すなわち銃砲刀剣類意義の重点が主として人の身体傷害の結果発生に十分な性能を持った器物であるという点にかかってくると思われるからであります。しかもこの改正条項の中には「銃砲ハ刀剣類」というふうになっておりまして、この「類」が拡大解釈される危険も免れないのではないかということをおそれているわけであります。これが第一点であります。  第二点は「銃砲ハ刀剣類ヲ用ヒテ」ということの意義なんですが、通常銃砲刀剣類を用いるという場合といいますと、弾丸を発射する、あるいは刀の切っ先で切りつけるというようなことが正確な意義だと思うわけであります。しかし可罰的違法性のある行為とされておりますのは、ただ銃砲刀剣類を用いた行為そのものではなくて、その銃砲刀剣類を用いることによって、人の身体傷害という結果を発生させたというところに重点があるわけであります。そういたしますと、銃砲刀剣類を用いるという意味は、当然傷害という意味と関連してのみ決定されることになるわけであります。と言いますのは、判例では、御存じのように、傷害というのは人の身体完全性を棄損する一切の行為、これが傷害なんだというふうになっております。これは学説も通説が承認しているところであります。判例では、単なる発赤の程度あるいは皮下溢血程度あるいは疲労倦怠胸部疼痛程度でも、それぞれ傷害罪が成立すると認定されております。としますと、銃砲を発射せずに台じりでなぐって傷つける、あるいは刀の峰打ちで傷害の結果を発生させたという場合にはどうなるかという問題があるわけであります。要するに、傷害の結果発生という点がこの改正条項では可罰的な違法性のある行為というふうになっておりますので、その場合でも銃砲刀剣類を用いてというふうに解釈される危険がないとは言えない。必ずしも正当な意味で弾丸を発射する、あるいは切っ先で傷つけるというときにのみ限られるというふうには言えないのではないかと感じております。  次に、第一条ノ二の罪の第三の問題点は、未遂罪の問題であります。この罪の未遂罪が可罰的になっておるわけでありますが、特に問題になります点は着手未遂、すなわち銃砲刀剣類を用いて人の身体傷害したことの着手未遂の場合と、現行法一条一項の凶器を示して暴行脅迫した場合、これを現実にどのように認定できるのかという点が非常に疑問じゃないかと思います。と申しますのは、類型的区別は現実には全く不可能に近いのではなかろうかというのが私の意見なのであります。したがって悪くすると、一条一項の凶器を示して暴行脅迫したような行為がすべていま言う一条ノ二の銃砲刀剣類を用いての未遂罪の中に入ってしまうというふうな危険があるのじゃないかというふうに考えておるわけであります。この点は刑罰が違いますので、もしそのように解釈されますと、これは被告人にとってはなはだ不利益なことになりますので、私はその点をおそれておるわけです。  次は、一条ノ三の罪について申し上げてみたいと思いますが、これは問題にたりますのは「常習トシテ」ということの意味だと思うわけであります。常習性という概念は、御存じのように犯罪行為概念ではなくて犯罪行為者概念なのであって、すなわち、犯罪行為が数回にわたって反復累行される習癖常習あるいは常習性というふうに言われております。したがって、通常の犯罪の場合のように、犯された行為違法性評価判断ではなくて、もっぱら犯した行為者の性格の評価判断なのであります。そういたしますと、どうしても評価判断する主体のいかんによって大きく左右されるということを免れないのであります。大正十五年の判例によりますと、いわゆる賭博常習性につきまして、常習性認定裁判所の自由なる心証によって判断することができると言っておりますが、そういたしました場合に、どのような判例が出ておるかと言いますと、前科と現に裁判中の賭博との間に十年の年月の経過がある場合は、時間的連続性がないのだから常習性認定することは実験法則に反するという昭和二年六月の大審院判決があります。ところがそうじゃなしに、十一年前の賭博前科常習性認定することも何ら差しつかえないのだという最高裁判決昭和二十四年の四月に出ております。さらにまた、最高裁昭和二十四年十二月の判決ですが、ただの二回の前科だけであっても、常習性認定しても実験則には反しないという判決も出ております。さらに大正四年九月の判決によると、習癖さえ認められれば、ただの一回の行為でも常習性認定することは差しつかえない。このように常習性認定評価判断する主体によって大きく左右にゆれるということは、常習性概念というものを非常に不明確にしておるという点があるわけです。  次に、常習性認定の資料となる前科範囲というものもはなはだ不明確であるという点について述べます。非常に数少ない判例ですが、昭和二年七月の大審院判例で、暴力行為法一条二項の判例が断るわけですが、この判例によりますと、前科範囲というのは、一条二項に列記されております各個別的な犯罪行為である暴行脅迫器物損壊行為常習性をさすものではなく、それらを包括した暴力行為という習癖をいうものであるとされております。先ほど申し述べましたように、前科二犯でも常習性認定ができるということになりますと、暴行一回、器物損壊一回でも、直ちに暴力行為常習性認定できるという結果になります。ことに最近の最高裁昭和二十四年四月の判例によりますと、常習性認定前科範囲は、必ずしも有罪確定の場合のみに限らず、起訴猶予処分になった場合でも常習性認定前科範囲にすることができると言われております。したがって、そのような考え方から申しますと、当然公訴時効の場合あるいは免訴の場合であっても、もちろん常習性認定前科範囲にされることは免れないということになると思います。私は、そのような見解が許されますと、暴力行為法に成文の規定のない暴力行為罪という新たな犯罪類型判決によって認める結果になると思われますので、これは罪刑法定主義の原則に反して、許されないのではないかと考えております。これが一条ノ三の罪についての私の意見であります。  最後に、裁判方式の変更が今度行なわれているわけですが、現行の裁判所法には、御存じのように二十六条二項二号におきまして、短期一年以上の懲役に当たる罪は、本来法廷合議事件というふうになっているわけです。今度これを改正されまして、単独審理方式になっておるわけなんですが、単独審理方式事件審理を促進するという効果があることは確かに私も同感なんですが、そういう一面を持っておりますと同時に、反面被告人防衛権を抑制するのみならず、はなはだしい場合には誤判のおそれがあるということは見のがしてはならない大事な点だと思います。  すなわち、単独審理方式の場合に、やはり問題だと思われますのは、裁判官の個人的な主観が大きく作用して、裁判官個人差がはなはだしくなることがどうしてもまぬがれない結果になってくる点が一つあります。第二点は、裁判官の心証の形成がとかく被告人不利益に形成される度合いが強くなるのではなかろうかということであります。第三点は、被告人に有利な証拠の抑制、これが容易になされるような危険性があるのではなかろうか。第四点といたしまして、審理促進という名によって、実は有罪の認定への傾斜が強められるおそれがある点が考えられなければならないと思います。同時にあわせまして、先ほど申し上げましたような法定刑の下限が引き上げられましたり、あるいは未遂凶器を示してという場合の認定が非常にむずかしいというような問題、あるいは常習性認定が非常に不明確であるという複雑な問題があるような事件を、ことさらに法廷合議事件からはずしまして、単独審理事件にゆだねなければならぬという合理的な根拠または理由を私は見出せないのであります。  さらに一言したいことは、裁判所法という法律は、憲法三十一条以下四十条に規定されております刑事基本人権の保障、確立の観点から立法された裁判所の構成と権限を規定した基本法であると思うのです。このような裁判所法特別刑罰法規である本法の一部改正のためにたやすく改正しようとすることは、私は近代法治主義の原則に反するものだと考えます。  以上、私は意見を申し述べまして、最後に結論として、刑法の体刑が混乱するというような観点並びに解釈適用上いろいろ不明確な構成要件規定ということから考えまして、私は一部改正という現在の法案には反対意見を持っております。さらに加えまして、私が先ほど申し述べましたように、本法行為そのものが可罰対象にされているのではなくて、もっぱら集団性そのもの、あるいは常習性そのものが直接的な可罰対象にされているという特殊な立法であって、行為主義刑法基本的体系としている近代市民刑法の範疇には属さない立法であると考えられるのであります。したがって本法は、刑罰法体系よりも、むしろ刑罰法体系とは別個な、特殊な立法体系に入る法律であるように考えられるのであります。  御存じのように、暴力行為法が制定されました大正十五年の第五十一帝国議会における答弁もいろいろありましたが、昭和八年六月の大審院判決は、「本法は総て団体の正当なる行為対象としたるものにして違法なる行為を正当祝するものに非ず……単に暴力団不良青年団等を目標として出頭したるものに非ずし労働争議又は小作争議の場合に於てもその適用あるものなること洵に明らかなり」という判決がなされております。これは明治憲法下判決でありますから、私はここで一応問題ないと思うわけでありますが、これらの判決の結論、これは新憲法下におきましては、このような判例は支持し得ない判決の内容ではないかと私は思うわけであります。したがって、私も暴力の絶滅ないしは予防ということにつきましては、全く同感なのでありますが、しかし私は、このような法律の性質から申しまして、むしろ暴力行為法が廃止されることを希望するものであります。したがって、現行刑法というものの中に、それぞれの犯罪類型規定してありますので、それぞれの犯罪類型を活用する、あるいは共犯規定がありますので、共犯規定を活用するということによりまして、現在の暴力事犯というものの予防あるいは鎮圧の機能を全うしていったら非常に幸いではないかという意見を持っております。  以上で終わります。
  6. 高橋英吉

    高橋委員長 次に、島田武夫さんにお願いします。
  7. 島田武夫

    島田参考人 すでに皆さん、この法案については十分御審議になりましてすみずみまで御存じのことと思いますので、簡単に申し上げさしていただきます。  私は、いままで法務委員会には他の法律改正問題について参考人に呼ばれてしばしば上がったのでありますが、その場合には法案反対することが多かったのであります。しかし、私はこの法案につきましては、改正に賛成いたすものであります。最近の暴力行為のばっこというものはとうてい見のがすことができないほど極端になっております。これは国民すべてが一様に、例外なく暴力行為取り締まりは望んでおることだと思います。このたびの改正案につきましては、全部が全部必ずしも賛成できない点もないではありませんけれども、時代の要請と社会の情勢にかんがみまして、その成立を希望するものであります。  簡単に申し上げますが、第一条ノ二「銃砲ハ刀剣類ヲ用ヒテ人身体傷害シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役処ス」この規定は、刑法第二百四条の特別罪で刑を加重した規定であります。ただいま熊倉参考人からもお話がありましたが、銃砲刀剣だけを用いて人を傷害した罪でありますが、この銃砲刀剣の何であるかということにつきましては、銃砲刀剣類等所持取締法第二条に規定するものと同じであろうと推測されます。しかし、そのことはこの法律案には書いてありませんから、必ずしも銃砲刀剣類等所持取締法の二条と同じように解せられるかどうか、これは疑問であります。ことに暴力団暴力犯罪関係統計表の第八表によりますと、昭和三十六年傷害罪の全数は六万八千余件でありますが、これに使用された凶器のうち、銃砲が合計九十九丁、刀剣類が九百八十二振りであって、銃砲刀剣以外の刃物類が何と三千五百九個にのぼっております。そこで改正案について疑問に思われるのは、刀剣類以外の刃物類を使用して傷害する場合が非常に多いのに、刀剣類以外の刃物類を使用して傷害した者を加重罪からはずして、それよりも数の少ない銃砲刀剣類を用いた場合だけを加重罪にしておるのはどういうわけであるかという疑問が起こらないでもないのであります。身体保護を厚くしようとするのであれば、これは用いた凶器が何であろうと身体の貴重さに影響はないと思われるのであります。ただ銃砲刀剣を用いて他人の身体傷害するときには範囲が明らかである。悪質犯であるということが正面に出てまいります。そのほかの刃物類の場合には、とっさの衝撃で前後のわきまえもなく他人の身体傷害することも考えられる。このような場合は刑を加重するのは酷であるという見方からかように書かれたのではないかと思われるのであります。しかしながら、たとえば銃砲刀剣類等所持取締法に刃渡り十五センチ以上の刀あるいはあいくちとありますが、十五センチより一センチ短い十四センチの刀で傷害した場合にはどうなるか、あるいは四十五度未満に開刃する飛び出しナイフで傷害した場合はどうなるか、この場合もやはりこの条文が適用されて罰せられるのではないかと思われるのであります。かりに、そうではなくて、銃砲刀剣というものを厳格に解釈して、十四センチのものは本法には入らない、四十五度未満に開刃のものは本法凶器ではないとしまして毛、その行為刑法二百四条によって処罰されますが、裁判官は、おそらく本法を適用する場合と刑法二百四条を適用する場合との刑にさしたる差別はつけないで罰するのが常識であろうと思われる。おそらくこのような計らいをするであろうと思う。したがって、犯人にはさしたる損得にはならない結果に相なるのであります。  次に、この第一条ノ二の「用ヒテ」というのは、用法に従う使用のことであって、銃身でなぐったり、あるいは日本刀の峰打ちをするという場合はこれに含まれない。そして傷害は、用いて生ぜしめるのであるから、文理上暴行の結果犯ではなくて、故意の内容になっておるのであります。したがって、現行刑法傷害罪規定よりも合理的でかつ寛大であるということができるのであります。ただ刑罰が一年以上十年以下は重きに過ぎないかという議論も起こるのであります。特に一年以上としたことには反対説があるかもしれない。しかし、銃砲刀剣類を持って人を傷害する場合には、あやまって人を殺すこともあり得るのであって、非常に危険な行為であります。殺人の短期が三年になっているのと比べて、一年の短期は必ずしも重きに過ぎるとは思わないのであります。なるほど権利保釈はなくなる結果になりますけれども、殺人罪すれすれの犯罪を犯した者に対して、権利保釈がなくなっても、これはやむを得ないと思います。本条は改正刑法の準備草案第二百七十四条に相当するものと思われます。  なお、未遂を認めるというので、傷害は故意に行なわれるのであって、結果犯でないということが、未遂を認めたことによって明らかになっております。未遂のうちで、いわゆる実行未遂は容易に想像されるのであります。銃砲弾丸が被害者に当たらなかったとき、または刀で切りつけたが、被害者が身をかわして逃げたような場合であります。ところが、着手未遂の場合には、ほとんど起こらないのではないかと思われるのでありますが、しいて言えば、引き金を引いたがたまたま弾丸が発射しなかった場合、あるいは刀を振り上げたが刀身が抜けて落ちたという場合が考えられる。これだけの重罪でありますから、未遂があってもよろしいと思われるのであります。このような規定は、各国の刑法が持凶器傷害罪として重く罰している点から見ましても、現行刑法立法の際に規定しておくべきものであったと考えるのであります。しかし、いまからでも立法して差しつかえないのみか、現今の情勢と要求に合すると思うのであります。  次に第一条ノ三でありますが、この改正規定の特異点は、犯罪主体常習者である。常習者という身分を持つということであります。常習として値害、暴行脅迫、毀棄、おのおのの罪を犯す者、または常習としてこれらのおのおのの包括的な常習者、この二通りのものを含んでいることは、先に参考人から申し述べられたとおりであります。それで常習者ということが非常に問題になっているのであります。この常習者の何であるかということにつきましては、いままでの判例、数ありますけれども、合理的な説明はしておらないのであります。これは犯罪の個数とか、前科というものだけによってきまるものではなく、犯人が罪を犯す性格傾向によってきまるものであります。この性格傾向が法律的に非難され得る状態であるということはわかっておりますが、これを判断する規範的な規定はどこにも書いてないのでありすす。私の調べた学説の教えるところによりますと、常習犯人に二種類あって、一つはいわゆる傾向犯人である。傾向犯人というのは生理的、心理的に意思の薄弱な者であって、いろいろな種類の犯罪を繰り返す者である。あるいは殺人、放火、詐欺、横領とか、そういったような変わった種類のものを繰り返して行なう者の一群であります。二は、いわゆる職業犯人と言われるものでありまして、一定の意思に基づいて犯行を繰り返す者であります。このいわゆる傾向犯人、意思の薄弱でいろいろ罪を繰り返す者は、刑罰に処するほか、なお保安処分に付するのが相当であると思うのであります。次に、職業犯人は、一定の目的を持って行為を繰り返す。目的のない行為というものはありませんから、同じような目的で暴行行為を繰り返す者は、暴行行為常習者と見られるのであります。この常習性認定する資料には制限がないのが原則であります。訴訟記録には御承知のように前科調書というものがちゃんとついておりまして、これにたとえば強要罪とかあるいは強姦罪とか、恐喝罪などの前科が書いてあれば、裁判官はおそらくこのような犯人の前歴を参考にして常習性を判断するであろう。このようなものを資料としてはいけないと言ってみたところで、裁判官心証に影響はないと思うのであります。ところが、資料の暴力団構成員の前科概要及び暴力団構成員による暴力犯罪関係事例、これらを見ますと、殺人未遂や恐喝を含めて傷害暴行脅迫器物毀棄の経歴を有する者が非常に多いのであります。したがって改正案のように立法しても結果においては不都合はない。私の言うようにしますと、かえって罪を受ける人に不利益常習性がはっきりとより多く認められるという結果になりますので、罪を受ける人からいえばこの改正案のほうが有利であります。この刑罰が一年以上十年以下と三月以上五年以下となっておりますが、これは準備草案の二百七十七条と同じ刑罰であります。改正案の第一条ノ二、三は、大体準備草案の規定する刑罰をそのまま使用したようであります。したがって、この改正案は準備草案の関係部分を早めに施行しようという企てのように見受けられるのであります。ところが、刑法改正は容易なことではなく、この二、三年のうちにできる見込みは全然ありませんから、その間の応急措置としてこの立法が企てられたものと考えられます。  なお、雑誌などを見ますと、この改正案は労働者団体団体運動を弾圧するのに利用される危険があるという意見が出ているようであります。万一そのようなことがありましてはたいへんであると思いまして、いままでに暴力行為等処罰に関する法律の第一条第二項が公安、労働関係事件に適用された前例があるかどうかを調べてみました。ところが、昭和三十三年から三十七年まで五年間に公安、労働関係事件は百十一件起訴されておりますが、一件4第一条第二項の適用された事件はありません。私は非常にうれしく思いました。日本の労働者諸君の中には暴力行為常習者はいないのであります。暴力団構成員はいないということで、私は安心いたし、ひそかに日本の労働者諸君に敬意を表しておるわけであります。いま法律改正されたからといって、急に労働者諸君が暴力行為常習者になったり、あるいは暴力団構成員になるということは考えられないことであります。なお、争議に関連して発生した傷害暴行脅迫器物毀棄の罪において銃砲刀剣類を使用したかどうかを昭和三十五年から昭和三十七年まで三年間を調べたところ、銃砲刀剣類を使用していないことがわかりました。してみれば、今後の争議におきましても労働者諸君が銃砲刀剣類を使用することはないと私は確信するものであります。この二つの調査の結果は、私をして改正案賛成に踏み切らした重要な拠点になった次第であります。  終わります。
  8. 高橋英吉

    高橋委員長 続いて坂根参考人にお願いいたします。
  9. 坂根茂

    坂根参考人 私は改正案に対して絶対反対であり、政府に対して本改正案の撤回を要求します。  私がこの改正案反対する理由は二つあります。  第一に、暴力団に対する取り締まりをほんとうに強化しようとするのであれば、このような法改正をこのように急いでやることを必要としない。まず何よりも警察行政の姿勢を正し、政治の姿勢を正すことによって、現行刑罰法令のもとで十分にその目的を達することができると思うからであります。警察が暴力団との結びつきを断ち切り、峻厳な態度で取り締まりに当たるならば、相当程度暴力団の跳梁ばっこを押えることができます。警察が暴力団を大目に見、これと結びつき、これを利用しているところに問題があります。  現在、都内江戸川区葛西に日本ロールという会社があります。千名に及ぶ労働者が牛馬のように酷使されるという劣悪な労働条件のもとで、昨年十月十八日初めて労働組合をつくり、家族手当をよこせ、作業用石けんは会社持ちにせよ、あるいは二千五百円の賃上げなど、ささやかな要求で闘争に立ち上がっております。これに対して青木という社長が組合幹部三十三名の首切りを通告、いまなお争議中であります。青木社長は、銀座の武井組という暴力団からぐれん隊風の男数十名を臨時守衛という名目で雇い入れ、連日労働者に対してなぐる、けるの暴行を働き、いまなお多数の負傷者を出しています。これらの暴力団は寮にまで入り込み、労働者の家族にまで髪を引つぱったり、首を締めたり暴行を働いています。これに対して警察は、目の前で労働者が暴行を加えられているのに、労働者が血を流すまでは見て見ぬふりをしています。組合側の抗議によってようやく一人を逮捕した。そのかわり、これをやむなく押えようとした組合側をも逮捕している。労働者に暴行を加え、傷を負わせた暴力団を労働者が取り押えて警官に連絡すると、警察はあとで調べるからと言って逃がしてしまう、こういう事例があります。日本ロールの工場や寮はいまやまさに無法地帯と化していると言っても過言ではありません。常にそうでありますが、労働組合員が暴力団暴行を加えられているときは、見て見ぬふりをするのであるが、労働組合員が暴力団暴行を取り押えようとすると出動してくる、これがいまの警察のやり方であります。さらに暴力団同士がけんかを始める場合には、警察官は飛んで行ってその仲裁に入って仲直りをさせる。こういうふうな状態の中で、日本ロールの労働者は、警察が会社の番兵になっているということと、警察と暴力団はぐるになっている、こういうことを異口同音に怒りをこめて述べています。安保闘争や三池闘争をはじめ労働争議、民主運動に対して、暴力団と警察が一体となって労働者や善良な市民に対して暴行を加え、傷を負わせ、とうとい生命まで奪っている実例は枚挙にいとまがありません。  議員諸公も御存じでしょうが、三年前の六月十五日、維新行動隊の隊長は石井一昌といいますけれども、これが安保批判の会や新劇人グループなどの国会請願隊になぐり込みをかけて、七十数名に暴行を働いて三十名近くの人に重傷を負わせた事件があります。この法廷で石井一昌が何と言っているか、六月十四日の日に公安一課の佐竹という巡査が来てビールを五、六本飲みながらいろいろと話をした。維新行動隊のデモは無届けであるので、したがって、ひとつあしたお前ついていってくれないかと言ったところ、佐竹巡査は、よろしい、じゃ同行しようという了解を与えて、六月十五日にはこの右翼のデモに警官が同行しておる。その席上で、石井一昌が法廷で証言したことによれば、当日、この佐竹巡査から社会党の田中稔男代議士をおどかしてくれということを頼まれたと了解をしておる、こういうことを法廷で述べています。この一言からしても警視庁、警察官と暴力団結びつきというものはまさにこれは明々白々であると思います。  さらに三池闘争の中で、これも三十五年三月二十九日でありますけれども、久保清さんという人が殺されました。殺されたときになぐり込みをかけ、短刀で刺したこれらの暴力団を、警察の機動部隊はその場では取り逃がしておる。こういう実例は枚挙にいとまがありません。  このように警察が暴力団とぐるになっている。ここに問題があると思います。さらに町のダニあるいはぐれん隊などの親分が地元警察に顔がきく存在であるということはだれ知らぬ者のない常識となっていることも、議員の皆さんもよく御存じだろうと思います。警察がこのような暴力団との結びつきを断ち切ることが、暴力団取り締まり強化の第一歩であると考えます。  さらにいまの警察の体制に問題があります。いま警備、公安警察中心の警察の体制になっております。御承知のように警備、公安警察というのは労働運動、民主運動に対する弾圧とスパイ活動をやる部門でありますけれども、この東京警視庁の人員配置を例にとってみましても、機動隊と公安が四千七百八十一名で全体の二八・九%を占めています。直接犯罪の捜査に当たる警察官は二千四百八十一名で全体の八・九%、防犯に至っては一千七百七十九名で、六・四%という状態であります、したがって、これでは吉展ちゃん事件や中田善枝さん事件のようなたいへんな手ぬかりが生まれることは当然でありますし、また暴力団取り締まりを徹底することは不可能であるということができます。  警察が暴力団との結びつきを断ち切り、警備、公安警察中心のあり方を改めて、本気で取り組むならば、暴力団取り締まり現行刑罰法令で十分に行なえるのであります。刑法では傷害の罪には最高十年の懲役を科することになっております。裁判所暴力団事件に対しては実刑の判決を言い渡し、また職業的暴力団には保釈を認めないとともできます。現にそのような運用が行なわれているように見受けられます。したがって、このような改正案を全く必要としないと言うことができるのであります。  次に、このような法律改正よりも、根本的には自民党が暴力団と手を切って、池田内閣が政治の姿勢を正すことによって暴力団を根絶やしにすることができると考えます。数年前に現職の法務大臣、これは中村さんといったと思いますが、テキヤの親分の葬儀に花輪を贈って、国民のひんしゅくを買った事実を皆さんもよく御存じだと思います。今度の都知事選では、自民党と右翼暴力団結びつきが相当程度に明るみに出ました。もちろんここに列席の自民党議員の皆さんは関係していらっしゃらないと考えるのでありますけれども、いわく、にせ証紙、はがきの横流し、これを買っているわけです。泡沫候補、果ては幽霊候補、いわゆるダッチワイフ政策で有名な橋本勝という男、演説会のやじ部隊など、とにかく自民党は右翼暴力団に何百万円とか——これは新聞にも出ておりますが、あるいは何千万円ともいわれる莫大な金を出して東さんを当選させました。暴力団はこの金で生活をし、子分を養い、勢力を伸ばしているのです。このような法律改正をやるよりも、まず自民党が暴力団を飼育しているというこのあり方を改めることが先決ではないでしょうか。  なお池田内閣は、池田さんのよく言われることばを使って申し上げると、政治の姿勢を正すべきだと考えます。このことが暴力団取り締まりのきめ手です。国民の大部分が反対している原子力潜水艦の寄港を認めようとしたり、あるいはF105D水爆機の導入を行なったり、あるいは独占資本本位の高度成長政策、一千万人といわれる失業、半失業者の上に、さらに貧乏と失業をつくり出す冷酷な政治、御承知のように炭鉱労働者七万人の首切り、失対労働者をさらに生活のできないようにこれを打ち切る、このようにまことに冷酷な政治、戦争と人殺し、暴力団犯罪をテーマとする映画、テレビのはんらん、議員諸公の茶の間のテレビにも映るでありましょう。そのような中で国民に希望を与えることのできない政治、このような中で暴力団も商売になるといういまの池田さんを中心とした自民党の政治、これこそが暴力団をはびこらせているのではないでしょうか。日本が完全に独立し、民主主義を確立して、国民が平和で豊かな生活のできる政治を行なうことが、繰り返しますけれども暴力団退治のきめ手であります。このことは自民党の皆さん方といえどもお認めなさるところと考えます。どうかほんとうに暴力団を取り締まろうとするのであれば、その根源である政治の姿勢を正し、警察行政の姿勢を正すべきであります。いまにわかに法改正の必要を認めないということが、私が本改正案反対する第一の理由であります。  次に、この改正案反対する第二の理由は、この改正案暴力団取り締まり強化に名をかりて、労働運動、民主運動に対する弾圧体制の強化をねらっているからであります。最近特に安保闘争以降、労働運動、民主運動に対する弾圧が強められています。安保闘争は日本憲法の基本原理である平和主義、民主主義の実現を目ざして労働者、国民が大きく前進をした歴史的な闘争であり、世界に誇るべき一大国民運動であったわけです。この闘争の中で、労働者、国民は政治的に目を開き、団結が強まりました。このことはほんとうに日本憲法の精神に立つならば、喜ぶべきことなのであります。しかるに資本家陣営と政府は、労働運動、民主運動犯罪視して、これを弾圧し、新安保条約が指向しているところの方向、すなわち、日本の平和と独立と安全を脅かす危険な方向へ、民主主義を抑圧し、労働者、国民の生活を破壊する方向へと引きずっていこうとしているのであります。  刑事弾圧は強められています。不当な解雇が激増しています。労働組合活動、政治活動の権利と民主的自由が抑圧されています。労働組合、民主団体に対する組織破壊の攻撃が強められています。警備公安警察の強化とともに、自衛隊の治安出動準備まで進められていることはすでに明らかなところです。公安条例の改悪、道交法の改悪国税通則法の制定、これらとともに、ILO八十七号条約の批准に便乗した国内法の改悪、労働協約、就業規則の改悪が企てられ、進められています。治安立法として悪名高い政防法が三たび企てられ、労働者、国民反対闘争によってつぶされたことは、いまだに記憶に新しいところであります。このように労働運動、民主運動に対する弾圧の強化とともに、弾圧体制の整備が進められています。  こういう情勢の中で暴力法がどのように悪用されているでしょうか。団体交渉の席上大声を発したといって暴行とされ、起訴された例、これは全日赤という労働組合、ビラ張りを器物損壊として起訴された例、これは国鉄労働組合その他、争議中暴力団の襲撃があり、生命の安全を守ろうとした労働者が起訴された例、これは三池闘争や主婦と生活社の争議などなど、数えきれないほどの事件があります。これらを三十六年度警察庁の犯罪統計書によると、暴力法適用件数三千七百七件、八千三百五十六人のうち、弾圧事件と推定されるものが一千三百五十一件、四千四百三十人で、その割合は件数において三七%、人員において五四%となっているのであります。  また、法務省の犯罪白書、これは昭和三十五年版所載でございますが、昭和三十年から三十四年までの五年間の犯罪統計によると、公安犯罪、いわゆる労働運動、民主運動に対する弾圧事件のうち、暴力法が適用されたものが二丁六%、傷害罪の適用されたものが二〇・五%と暴力法が第一位を占めています。これを労働争議に限ってみますと、傷害罪適用が二三・四%、暴力法適用が一九・六%と、この場合も第二位となっています。いまの暴力法制定当時、労働運動小作争議に適用しないという旨の政府答弁がなされたにもかかわらず、暴力法は現にこのように労働運動、民主運動弾圧の有力な武器としていまもなお悪用されているのであります。  次に、今度の改正案は一体何をねらっているのでしょうか。御承知のように改正点は四点あります。
  10. 高橋英吉

    高橋委員長 坂根さん、まだ長いでしょうか、お願いした十五分は過ぎましたが……。
  11. 坂根茂

    坂根参考人 それでは改正点は御存じと思いますから、省略をいたしたいと思います。  これらの改正のねらいは何かというと、一つには、必要に応じてねらいを定めて弾圧できるようにするということであります。先ほど述べたように、労働争議の中の刑事弾圧の罪名は、傷害がトップを占めております。これらはたいていの場合全治三日間の打撲傷などといってつくり上げられた事件が多いのです。いままでの弾圧事件を見ると、目的は闘争の弾圧であって、罪名は手段とされています。最も都合のよい罪名を選ぶというのがこれまでの実例の傾向です。たとえば労働争議に例をとると、争議の行なわれている現場で傷害事件をでっち上げ、現場にいる労働者や労働組合の幹部、活動家はもとより、現場にいないで何ら事件関係のない上部機関の幹部をも、この改正によって逮捕、起訴することができるようになります。労働組合幹部に対しては、反復する習癖ありとして、たちどころに常習認定が行なわれることは必至です。警察は任意に、大量に、中心部に対してたやすく弾圧を加えることができる、このことをねらっているのであります。  それから、これまで常習の場合を罰する規定一条二項にあるけれども、適用はないという意見がありますが、これまでのところでは刑罰が同じであるからうまみがないので適用がないと私は考えます。  三つには団体交渉やピケットやストライキ、あるいはデモ、ビラ張りなどの団体行動を抑圧することであります。幹部、活動家が簡単に監獄に入れられることによって、団体行動の気勢をそぎ、力を弱め、骨抜きにする。  四つには議会や政府、自治体に対する請願、陳情、デモ、こういったものに対して抑圧をする。  五つには、常習性を調べるということで、労働組合、民主団体に対するスパイ活動がいまより一そう大っぴらに行なえる口実を与えるようにする。この常習性のクローズアップは、警備、公安警察にスパイ活動の口実を与えることは明らかであります。  六つには、幹部、活動家を解雇できるようになります。たやすく刑事事件がつくり上げられ、懲役刑に科せられることになりますから、解雇の理由がつくり上げられることになります。  さらに裁判所法改正はこういうことだと思う。弾圧事件裁判闘争で労働者は無実を主張し、私たちの権利を主張する。こういった裁判闘争が戦えないように、簡単に一人の裁判官がこの刑罰を科する判決を下すことができるようにするというのが、今度の改正のねらいであろうと思います。  以上のように、今度の改正案は、提案理由には、暴力団その他暴力的不良団体取り締まり強化としていますけれども、それはそうではなくて、労働運動、民主運動に対する弾圧の大量、迅速化、弾圧体制の整備強化をこそねらっていると私は考えるのであります。この改正案は、悪名高き政防法の一部上程とひとしく、なしくずし的な制定の第一歩であります。暴力法は、暴力団と労働組合、民主団体を一緒くたにして弾圧対象とした違憲立法であります。この改正案はそれに輪をかけるものであり、まさに改悪案であります。そのようにしてますます違憲性を強めているということが言えるのであります。  以上、私はまず暴力団狩りをやるとするならば、政治の姿勢、警察行政の姿勢を正すことによって、現行法によって十分にまかなえるということ、さらにこの法案改正の真のねらいは、暴力団憲法で保障された労働組合、民主団体を一緒くたにして、暴力団として刑事事件対象にして弾圧しようとしている意図が明らかでありますから、私はこれに絶対反対するわけであります。いま、労働者、労働組合はもちろんのこと、法律家、学者、文化人などの心ある人々はいずれも強く反対いたしております。  さらに申し上げておきたいのは、部分的な修正とか乱用防止規定の挿入、附帯決議などが行なわれたとしても、これは絶対に反対です。軽犯罪法を見れば、基本的人権の侵害にならないように運用さるべきだという乱用防止規定が入っているにもかかわらず、これが現在労働運動、民主運動に対して、たとえばビラ張りに軽犯罪法が適用されるという実例を見ましても、この乱用防止規定は何の役にも立たない、本質的に変えられるものではないということを私は考えて、やはり絶対に反対いたします。  最後に、私は、政府がこのような違憲性の強い改正案を直ちに撤回をいたしますとともに、現行暴力法の廃止を提案してもらうことを切に要求して、私の公述を終わることにいたします。
  12. 高橋英吉

    高橋委員長 参考人に対する質疑はありませんか。——別になければ、これにて参考人からの意見聴取は終わりました。  これにて本日の参考人に関する議事は終了いたしました。  参考人各位には、御多用のところ長時間にわたり貴重な御意見開陳をいただき、委員会を代表してここに厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)  午後一時より理事会を開会することとし、暫時休憩いたします。    午後零時五分休憩      ————◇—————   〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕