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猪俣委員 法務大臣にお尋ねいたしますが、
一つは
死刑囚平沢貞通に関する件であります。これは前にやはり
大臣の
所見をお述べいただいた問題でありますが、
平沢は
中央更生保護審査会に対して仮釈放の申請をいたしておりましたところ、最近却下せられたわけであります。先般
磯部弁護士が彼の拘置されております
宮城刑務所を視察いたしますと、所長の
態度及び
教戒師の言動その他から推測すると、どうも
死刑の準備をやっているのじゃなかろうかというように、たいへん心配をして帰っておられるわけであります。ところが、この
平沢に対しましては
再審の
申立てがされておりますが、最近になりまして、
判決にたいへんな間違いがあることが
弁護団から発見せられまして、これにつきまして
再審裁判所に上申をしているのであります。詳しいことはいずれ
大臣もお読みいただけると思いますが、要は、
判決には
平沢が
赤痢が流行しているからこの薬を飲んでくれいと言って飲まして歩いたようになっておりますけれ
ども、
被害者の一人の
生き残りの人、あるいは
未遂に終わったところの銀行の
人たちの
証言は、全部
腸チブスがはやっておるから飲んでくれいと言うて
犯人が持ってきて飲ませようとしたというふうな表現になっているにかかわらず、
判決では
赤痢がはやっておるというふうになっておる。これは
弁護団もそれから
裁判所もどういうミスでありましたか、
赤痢がはやっておるから飲んでくれといったようなことは全然
証拠がないわけで、
犯人は腸チフスということを言って歩いているということが発見せられたわけです。
平沢は、
事件が起こりましてから一年たってから逮捕せられたのでありますが、その間
当局は鋭意
捜査してあるわけでありますから、
検察庁にもあるいは
警察にもいろいろの人の
調書があるわけであります。それを見ますと、全部
腸チブスがはやっておるからという
理由で薬を飲ましたと言っているはずであります。なぜかと申しますと、当時まだ
平沢が逮捕せられなかった前に、
生き残りの人あるいは
未遂に終わった
人たちの言うことがあらゆる
新聞に報道せられておりますが、それを見ますと、全部
腸チブスとなっておるわけであります。そういうことが最近になって発見せられたのみならず、なお
平沢の
自白したという中には、とうてい
平沢が承知しているはずのないところのことが
陳述せられておるわけであります。
平沢が、たとえばどこそこのところに
赤痢がはやって、どこそこの
井戸の水をみんなが飲んでおるという
陳述をしておるように
判決にはなっておりますけれ
ども、そのどこそこの
井戸というようなものは、その近所の人でなければとうていわからざるものであることが、
平沢が出現せざる前の
証人の
調書にみんな出ておるはずでありまして、これも
新聞記事になっておるわけであります。そういうことがどういうことでありますか、
裁判上明らかになっておらぬのであります。
そこで、詳しいことは省略いたしますが、
大臣にお願いいたしたいことは、
一つは
大臣の権能としても限度がありますけれ
ども、
平沢が逮捕せられるまでのあの
警察及び
検察庁におけるもろもろの
捜査の
調書、あるいは
証人の
証言、こういうものがたくさんあるはずであります。この中には
平沢に非常に有利になる、すなわち
平沢の
自白と称するものと非常にそごするような
証拠がたくさんあると思われます。いま申し上げた、
赤痢と言うて歩いたという
判決になっておるのに、
被害を受けた人はみな腸チフス言うてきたというふうに、非常に食い違いがある。こういうふうなことが、
公判廷に
提出せられないところの
警察なり
検察庁で押収になっておるところの
調書その他の
証拠にたくさん出ておると思うわけであります。そこでいま
再審の申し立てを熱心な
弁護団がやっておりますが、これに対しまして、
検察庁から、やはり
真実発見のために、地球より重い人命のためでありますから、そういう
平沢の
供述に矛盾するような
証人の
陳述等があるはずでありますから、そういうふうなものについて
裁判所に出すように
検事に御相談していただきたい。これが第一の
要望でありまして、それにつきましての御
所見を承りたいと思います。
第二点といたしましては、いま私が申し上げましたような事実があるのみならず、先般も私が
一覧表まで
提出いたしましてお見せいたしましたように、どうも
検察官の
調書には幾多の疑義がある。ある
検察官の
調書と称せられるものは偽造であると
平沢は主張いたしておりますし、
平沢を
刑務所にたずねて行ってそこで
調書をつくったことになっておりますが、
刑務所の看守も、そういう
検事は
刑務所には
調べに来ておらないという
証言をしておるのでありまして、どうも奇怪なる
調書ができておるわけであります。しかも、その
調書が基本となりまして
死刑の宣告がされておるというような事情もあるわけでございます。また、
平沢の
自白が
相当の拷問によってでっち上げられたものじゃないかという疑いが、この
証拠となって出ております
平沢の
供述調書の模様を見ると明らかでありまして、ほとんど朝から晩まで
調べたにかかわらず、
調書は二枚しかできておらぬというようなことがたくさん出ているわけであります。どんなに
検事が追及したであろうか、あるいは
警察が追及したであろうかは、この
調書の枚数と取り
調べに当たった時間
関係からも、いかに執拗に
犯人の
自白を迫ったかが想像できるわけであります。かような意味におきまして
平沢の
再審事件は
相当注目すべきものがあると思いますので、いま少しく
再審事件が明らかになるまでの間、
法務大臣が
死刑執行の判を押さないように私
ども懇願したいと思うのであります。
御存じのように、
松川事件におきましては十名からの
死刑囚を出したのでありますが、ついに仙台の
門田判決によりましてことごとく
無罪となった。そのときに
門田判決の中に、あるいは
門田氏の談話の中に、いままで
裁判所に
提出せられなかったところの千六百点にわたる
証拠を
検察官が出してくれたために、その中から珠玉のような
証拠を発見することができて、ついに
無罪の
判決をすることができたという声明をされておるわけであります。こういう例を見ますならば、いま私が申し上げましたような
平沢逮捕以前の一年間にわたります
捜査記録を
裁判所に出していただきますならば、新たなる
真実がここに出てくるのじゃなかろうか、かようにも思われるわけでありますので、このあらゆる
平沢に有利な
証拠書類も
公判廷へ出すように
検察官にすすめていただきたいし、それからいま少しく
再審がはっきりするまで
死刑執行の
判こをお押しなさらぬように、この二点について御
所見を承りたいと思います。