○赤松
委員 そういう御
答弁があるだろうと実は予期しておったわけであります。
事件は二月に発生しておるわけです。すでに六月になろうとするのに、なお現地から詳細な
報告がないということは怠慢のそしりを免れることはできません。そこで私は、第一に総理府に対しまして、判決文なり訴訟記録が参りましたならば、さっそく私
どもに渡していただきたいということをまず希望しておきます。
それから第二に、あなたはいま
新聞の情報程度だということをおっしゃいましたが、おそらく内地の
新聞だと思うのです。内地の
新聞はほんの数行報道しているにすぎません。私も判決文及び訴訟記録はまだ読んでおりませんが、ちょうどここに琉球新報がございますので、あなたが先ほどおっしゃったように、現地におきましてこの
事件が非常なショックを各方面に与えておるが、どのように与えておるかということを、この
新聞の記事を通じて私はあなたにぜひ知っていただきたい。それから私の質問に移りたいと思います。
五月二日の琉球新報によりますと、「軍法
会議で判決」この米兵に対する無罪の判決で「両親や
関係者は憤慨」「大きな社会問題にまで発展した米軍車による上山中学生ひき殺し
事件は一日午前九時から開かれた軍法
会議で加害者の米兵に無罪の判決が下された。青信号の横断歩道を横断中に突っ込み即死させた悪質な事故だけに、殺人なみの重罪を、と訴えていた
関係者たちはこの判決結果に激怒「いくら何でもひどい話だ。これじゃあ文字通りのひかれ損、人権をふみにじるのもはなはだしい」とフンマンをぶちまけている。」「
事件はさる二月二十八日、那覇市上山中学一年生国場秀夫君(一三)が学校からの帰り那覇市内一号線道路上の横断歩道を通っているとき午後四時十分ごろ那覇港方面から北方へ運行中の第三マリン師団第三タンク大隊ロナルド・D・ジャクソン上等兵(二〇)の運転するトラックにはねられ即死したもの。第三マリン師団では現場
調査にもとづきジャクソン上等兵を不注意運転により不法に国場君をひき殺したものとして軍法第百三十四条違反として
事件を過失致死罪として特別軍法
会議にかけた。初日の軍法
会議は四月三十日キャンプ・ヘーグのマリン師団本部法廷でランプ少佐を
議長に六人のマリン将校で構成した陪審メンバーのもと、検事ブロフィー中尉、弁護人ダンセロー中尉が出席して行なわれた。一日の公判では検事側証人としては
事件当時ジャクソン上等兵と助手席に乗っていたバッツ中尉をはじめ、目撃者親里嘉正さん、浦崎信男、学友の屋嘉松江さん、吉川幸枝さん、前田清栄君ら六人が出廷。バッツ中尉は「トラックは十ないし十五マイルで走っていた。交通信号灯は右側にあったと覚えているが、信号灯の色は覚えていない」と証言、学友
たちは「国場君は青信号のときに横断していた」とのべた。弁護人は七人の証人を呼び出した。最後に被告ジャクソン上等兵は「信号標示機の色は太陽の光が後方の建物の壁に反射して識別できなかった」と証言した。これらの証言にもとづいて、法廷構成メンバー(陪審員)五人により「有罪か」「無罪か」の投票が行なわれ、その結果無罪が決定した。これに対し
関係者は「そんな無茶な裁判があるものか、陪審員は被告側の身うちとみなしてよいものばかりであり、被告に有利な評決をすることははじめからわかっていたことだ。子供だましの裁判であり、不当裁判もはなはだしい。民主主義を基盤にしているという
アメリカの横暴であり、住民に対する人命軽視を徹底的に暴露したものである」として、この無罪判決に対し、徹底的に抗議する構えを見せている。軍法
会議の場合、規則により無罪判決に対しては検事側上告はできず、それだけに
関係者は「ひとつの
生命を石ころ同様ふみにじられた。こんな横暴が許されてはならない」と憤慨している。一方、この知らせを受けた国場君の両親も無罪と聞いてあ然とし「これでは秀夫も浮ばれません」と唇をかんでいた。国場君の学校でも「そんなバカなことが許されてなるものか。アチラさんのことだから、刑量の問題で無期か有期になるていどはじゅうぶん予測していたが、まさか、きれいさっぱり無罪とは……」と、激しい怒りをみせ、さっそく問題をとりあげて軍に抗議する一方、各方面に訴えるという。」
これが現地の
新聞の報道であります。そこで一体この
事件について
新聞社のほうではどういう見方をしているか、これはきわめて公正な立場からこの
事件の批判をしておるわけでありますけれ
ども、琉球新報のそれによりますと、「金口木舌」という欄でございますが、「戦後人権尊重という英米法の精神をとり入れて
日本や沖繩の刑事訴訟手続法も大いに改正された。「正当なる法手続き」というのがそれである。
アメリカの西部劇映画をみると、よく無法者に恨みを持つ町の人々が、団結して無法者と闘い、ひっつかまえたあげく町はずれの枝っぷりの良い大木で吊し首にしようとする場面がある。そこへ現われるのが今まで町の人々の指導者であった保安官。彼は捕えた無法者を町の人々のリンチから守り「正当な法手続き」を経て裁判にかけるため大いに奮闘するというわけである。英米法では陪審制度が裁判の主体のようだ。一人あるいは三人の判事の判断より多数の人々の判断に基づいた方がより民主的だからというわけ。ところが陪審員はしろうとがやるから理づくめの専門家より感情に支配される可能性は大きい。戦後の
日本・沖繩でも裁判は検事と弁護士の論戦のヒノキ舞台となって、論告や弁論も判事に対してのべるというよりか傍聴席に対して陳述しているという場面が多くなっている。陪審員制ではなおのこと、いかにして陪審員の同情を買うかということが、検事側、弁護人側の闘争になってくる。こんどの上山中校の国場君ひき殺し
事件にしても「正当なる法手続き」を通して裁判が行なわれたことは間違いない。しかし軍法
会議なるものは陪審制度と同じようなもので、指揮官任命による将校で構成されている以上、やはり弁護士の弁論いかんによっては被告側に同情を寄せられるかも知れない。ましてや沖繩側の証人は通訳を通してだから通訳の資格にも問題はあろう。民族的感情としては「人を殺しても無罪か」ということだ。米軍側もこの感情を尊重しなければならない」。こういうように報道しておるのであります。
そして一般の児童にどういう
影響を与えているか。ここで私はくどくど引用はしませんけれ
ども、一般の児童に与えた
影響というものはきわめて大きい。それは、たとえばこの国場君の中学校の生徒会で米軍に対して抗議運動を起こしておる。この一事をもってしてもわかる。それから抗議の県民大会が開かれた。この大会は沖繩教職員会、それから子
どもを守る会、人権協会など十三団体が主催して、そうして会場には国場君と同じ上山中学三年生の佐久間さんら二百人が参加したのをはじめ、各階層も弔旗をあげて参加した。それと同時に、これは県民大会だけでなしに、ここではあなた
たちと同じ思想を持っておるところの自由民主党も、この点については責任者の糾弾を決意して、そうして無罪判決の真相を徹底的に究明するというところの声明を出しております。この声明の
内容を読み上げてみますると、「米軍人による上山中校生のひき殺し
事件の特別軍事法廷は、衆人の予想に反して無罪となり、われわれはこの判決に驚きと疑念を抱かざるを得ない。この事故は中校生の一団が青信号を確認の上、横断歩道を通過中に起こった事故であり、他の車両は全部停車していたのにも拘らず米軍人が一人信号を無視し、横断歩道通行時の注意を怠たり、中校生をひき殺した事実はすでに
新聞に報道されている。事故当時米軍人の琉珠人命軽視の非難さえ起こり、運転者の厳罰は当然と考えていたものである。しかるにかかる歴然たる交通違反行為が無罪になったのは全く理解できないものがある。われわれはこの判決に対し一大関心をもって真相を究明し、いささかでも公正を欠く点があれば人道上の立ち場からこの裁判の責任者を徹底的に弾劾する決意である」、こういうように自由民主党が声明を出すと同時に、さらに立法院の
行政法務
委員会は五月の十四日午前十時から
委員会を開いて、そうしてこの
事件を審議しました。この日は幸地
警察局長を参考人として招き、そうして事故の実情聴取を行なったわけであります。
このように、すでに立法院におきましても、また自由民主党におきましても、社会大衆党におきましても、政界におきましてはあげてこの不当なる判決に対する憤りが沖繩で渦を巻いている。また、民間におきましても、先ほど申し上げましたように県民大会が開かれようとしておる。こういうときにあたりまして、先ほどあなたは適切な措置を講じたい、こう言われたのでございますけれ
ども、なるほど、判決文を見なければ正確なことはわからないとおっしゃいまするが、すでに私は琉珠新報を読み上げて
事件の概要を述べ、しかも自由民主党などは公式に声明を出し、あるいは立法院がまたこの問題を取り上げて、
行政法務
委員会におきましてすでに究明をしているというのでありますから、あなたは
事件の概要がわからないとかおっしゃらないと思います。したがって、先ほど適切な措置をとるということをおっしゃいましたが、一体どのような措置をおとりになるつもりであるか、これをお伺いしたいと思います。