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1963-03-14 第43回国会 衆議院 法務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年三月十四日(木曜日)    午前十時四十八分開議  出席委員    委員長 高橋 英吉君    理事 唐澤 俊樹君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊佐次君 理事 林   博君    理事 牧野 寛索君 理事 坂本 泰良君    理事 坪野 米男君    上村千一郎君       岸本 義廣君    小金 義照君       千葉 三郎君    猪俣 浩三君       田中幾三郎君    志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中垣 國男君  出席政府委員         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      宮地 直邦君         警  視  監         (警察庁警備局         長)      三輪 良雄君         検     事         (刑事局長)  竹内 寿平君         法務事務官         (人権擁護局         長)      稲川 竜雄君  委員外出席者         厚 生 技 官         (薬務局製薬課         長)      平瀬 整爾君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月十二日  委員上村千一郎君及び松本一郎辞任につきそ  の補欠として森清君及び星島二郎君が議長の指  名で委員に選任された。 同日  委員星島二郎君及び森清辞任につき、その補  欠として松本一郎君及び上村千一郎君が議長の  指名委員に選任された。 同月十四日  委員片山哲辞任につき、その補欠として田中  幾三郎君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 三月十一日  簡法中改正法律施行法の一部を改正する法律案  (内閣提出第一二一号)(参議院送付) 同月十三日  下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の  一部を改正する法律案内閣提出第一四三号)  (予)  は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  小委員補欠選任  法務行政に関する件      ————◇—————
  2. 高橋英吉

    高橋委員長 これより会議を開きます。  法務行政に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますのでこれを許します。志賀義雄君。
  3. 志賀義雄

    志賀(義)委員 刑事局長警備局長には直接にはお話しませんでしたが、この間法務大臣警察庁長官には特に本庁においてお目にかかって、去る十二日に行なわれるはずであった一つの狂言めいた事件共産党に対する事件が起こされようとしていたのを前もって八日にやめてくれという意味で申し入れをしたのでございます。それは刑事局長もうお聞きでございましょうか。——事件の概略を申し上げげますと、こういうことです。  去る十二日に石黒義成という人物が天王寺の駅で共産党と名乗る三人の男につかまって自動車に連れ込まれ、阪神間のあるところから逃げ出してきたということになる予定だったそうでございます。法務大臣警察庁長官も、そんなことは聞いたことないと言われたのですが、聞いたことないはずです仕組まれて、これからやろうとする事件だったんでございますから。それでこの石黒という男について、法務大臣警察庁長官に申し入れましたが、それについて御調査いただけたでございましょうか。警備局長一つ……。
  4. 三輪良雄

    三輪政府委員 志賀委員からそういうお尋ねと申しますか、調査の御依頼がございましたので、直ちに警察庁といたしましては、警視庁、それから阪神と申しますので、大阪兵庫の両府県につき、調査をいたしたわけでございます。石黒という男は、現在所在は私の方でわかっておりませんが、この間おいでをいただきましたときの、幾つかの手がかりから調査を進めたわけでございまして、神田須田町の万惣というくだもの店にかっておったということでございますので、ここについてまず調べてみたのでございます。そういたしますと、そこの支配人から伺ったところによりますと、これは今志賀委員が言われましたように、今後起こるという問題ではなくて、二月の十六日に、この本人支配人に会いましたときに、二週間ばかり大阪共産党に不法監禁されておったということを、過去の事実として述べておるのでございます。一日に水を二はいしか飲ましてくれないときもあったとか、相手は四人で、そのうちの一人は神田のある印刷工場の人であるとか、二週間たって、弁護士に会わしてくれたら全部言うと、こう言った。それで弁護士のところへ行くというので、すきを見て逃げ出した。その経緯は、石川県にいるときに、母が危篤だという電報がきたので行ったところがつかまったというような……
  5. 志賀義雄

    志賀(義)委員 どこでつかまったのですか。
  6. 三輪良雄

    三輪政府委員 大阪だということを言っておったということでございます。それで今夜というのは二月十六日会ったその日に、また十一時の汽車で大阪に行くのだ、今に大阪京橋事件というので、この事件が新聞に出るということを言い置いて行ったというのでございます。しかし、その後に、三月二日ごろに本人神田駅付近にいるのを、万惣の女店員が見たということを、本人から聞いております。本人住所台東三ノ輪柴田ということになっておるのでございますけれども本人はそこにおりません。  そこで、もう一つ手がかりとしてお示しをいただきましたわけですけれども上野署傷害事件で逮捕されたことがある、こういうことでございました。この点につきまして調査をいたしてみますと、上野署ではございませんで下谷北署でございましたが、傷害事件で、昨年の十一月に起こった事件でございますが、今の、本人住所となっております柴田という家で起こったことでございます。本人の言うところによりますと、そこのお嬢さんの一人が彼の愛人であったと申しますか、そういう関係があって、おったのだけれども、何か裏切られたというようなことで、自殺をするんだというようなことで、遺書を持って、それも夜中の午前二時に、十一月二日にそこに行ったというのでございます。
  7. 志賀義雄

    志賀(義)委員 行ったというのは、忍び込んだのですか。
  8. 三輪良雄

    三輪政府委員 そういうことでしよう、訪問といっても、寝ているときでございますから。そこで本人は、自殺をするんだと言って遺書を示したのだけれども、たまたまそこに一緒におりました妹さんの方が、そんなことをやれるならやってみろというようなことであったので、かっとして、持って行ったなたで傷をつけたというのがこの事件でございます。自殺をするのに、なたを持って行ったというのは変な話でございますけれども、そこに他の男の人がおって、じゃまをされるというようなことを当時供述しておったようでありますが、ともあれ、なたでお嬢さんの一人を傷つけた。全治一週間ということですから、傷としては大きな傷でなかったのですが、そういうことで被害者の申告がありまして捜査をいたしましたが、七日にある人につき添われて自首をいたしております。そこで、これを取り調べまして検事の方に送致し、勾留の結果、これは略式命令で、罰金二万円ということで事件が落着をし、釈放したということを聞いております。  そういうことでございまして、過去の事実として、大阪で監禁をされて逃げ出したということでございますので大阪府並びに兵庫県について、そういうことを思わせる事件報告があるかということで聞きましたが、いずれもそういうことを聞いていないということでございます。以上お答え申し上げます。
  9. 志賀義雄

    志賀(義)委員 どうもいろいろあるようですが、きょうは簡単に、この傷害事件だけお伺いをすることにいたしますけれども、ただいま住所はわかりませんと申しますが、泊まっておったというのは、台東三ノ輪八十一番地柴田儀作方でございますけれども、三月八日の夜、石黒台東三ノ輪荒川荘というところに泊まっております。それは御存じないのでございますね。この荒川荘には、ある人と一緒に泊まっております。何か特定人に、今身柄を拘束されているというようなことはございませんか。
  10. 三輪良雄

    三輪政府委員 ただいままでのところでは、私の方では、本人がどこにおるかわかりません。居住地には、今申しましたようにおりませんし、それからどこに行ったかということを、三ノ輪出張所等調べてみましたところ、転出先は二回ほど申し出ておりますが、どうもそれはあいまいだということで、転出の手続もしておりません。従って、住所不定と申すほかないのであります。現在どこにおるかわかりませんので、だれかに監禁されておるかどうかということもわかっておりません。
  11. 志賀義雄

    志賀(義)委員 十一月の初めというのは、十一月六日と警察ではなっておると思いますが、そこまでは書いてありませんが、どうですか。傷害事件は。
  12. 三輪良雄

    三輪政府委員 起こりましたのは、十一月二日となっております。
  13. 志賀義雄

    志賀(義)委員 そこを石黒自分住所の名義にしていたというのですが十一月二日午前二時ごろ、柴田の家の裏から、なたを持って、二階のベランダから忍び込んでおります。そして、この勝江さんという娘さんに切りつけておる。こういうことでございますから、自分住所ベランダから忍び込んで、しかもあなたのおっしゃるところによりますと、あなた自身もおかしいと言っているのですが、遺書ですか、自殺するとかいってなたを持ち込んで切りつけたと、こういうことで、どうも話がおかしいのですが、これは届け出もなかったのでございますか。十一月七日に今おっしゃった下谷北署に自首しております。そこで逮捕されたという形になっておるのでございますが、八日に送検された。あなたのおっしゃるように、一週間ばかりで起訴されて、略式命令で、罰金二万円、釈放と、こういうことになっておるのでございますが、何事も、こういう刑事事件というものは時間がかかるものでございますが、大へんすばやく処理されておりますが、担当検事はどなただったのでございましょうか。
  14. 三輪良雄

    三輪政府委員 傷害事件につきましては、おっしゃる通りのようでございますが、ただ全然関係のない家と言いますか、入ったことのない家に入ったということではないようで、本人の言うことでございますが、愛人ということで、一年くらいの期間かと聞いておりますが、そこにいたことはあるようでございます。同居をしておったことはあるようでございます。  それから事件は、こちらとしては取り調べ検事送致をいたしたわけでございますが、検事さんのお名前は片倉という検事さんと承知いたしておりますが、あるいは間違っているといけませんので、法務省お尋ねをした方がよろしいかと思います。
  15. 志賀義雄

    志賀(義)委員 それで凶器まき割りなたでございますね。被害者が受けた傷は左の額に二センチ、〇・五センチの頭部外傷だということでございますが、その凶器はございますか、またお調べになったところでは計画的な犯行でございましょうか。
  16. 三輪良雄

    三輪政府委員 凶器はもちろん証拠として送ってあるものと承知をしております。今どこにありますか、ここでは承知しておりませんけれども……。それから先ほど申しましたように、傷つけた人が愛人ではないわけですけれども、その上のまたお嬢さんがおられるようで、その人の御婚約中の方ですか、あるいは御亭主になった方ですか、その方がおられて、それにじゃまをされるといけないからということを当人が言っておったと聞いております。初めから勝江さんという被害者に傷をつけるという気持ではなかったようにおそらく調べた結果出たのだろうと思っております。
  17. 志賀義雄

    志賀(義)委員 私のお伺いしたいのは、事件の状況、それから傷害の程度から見て、略式罰金というのは少しおかしいのじゃないかと思いますが、何か特別にこの事件に限って簡単にされる理由があったのでございましょうか。警察側の御意見警備局長からお伺いしたいと思います。
  18. 三輪良雄

    三輪政府委員 本人の述べていたという概要を私も聞いているだけでございますが、その当の愛人という人に自分は裏切られたから自殺するのだということを言い、同じ部屋に寝ていました妹さんが、そんなこと自殺ができるならやってみろということで抵抗してかかってきたので、かっとしてやったのだということを当時言っておったようだが、傷は全治一週間ということでございまして、なたで力一ぱい投げおろせばそんなことで済むわけではございませんので、どういう格好になりましたか、幸いにして大きな傷ではなかったように聞いております。それから略式であることにつきましては、これは私の方は検事送致をいたしまして検事の方で御採用下さることでありまして、法務省お尋ねしていただきたいと思います。
  19. 竹内寿平

    竹内政府委員 ただいまお話石黒に関する傷害事件でございますが、私の方では、地検から何ら報告が来ておりませんのでわかりませんが、ただいま初めてそういう事件があることを承知いたしましたので、今係の者にどういう事件の内容かを調べさしておるところでありますが、一般的に言いまして、何か特殊な事件でございますと、むろん軽微な事件でも報告があるわけでございますけれども報告のないところを見ますと、ありふれた一般の傷害事件として処理しておるのじゃないかというふうに想像いたすわけであります。いずれもう間もなく調べた結果がわかるかと思います。その上でお答えをいたします。
  20. 志賀義雄

    志賀(義)委員 警備局長さん、今の傷害事件の起こる前に指をつめた男、そのうちの一人は赤いシャツを着た吉岡と名乗っておったそうでありますがこれが娘さんの家に十月二十八日、十月三十日、十一月一日と三回にわたって来ております。これは何か石黒関係があるか、そういう男が来ているというようなことを御存じでございましょうか。
  21. 三輪良雄

    三輪政府委員 ただいまの事実は聞いておりませんので、それが傷害関係がありますかどうか、もう一ぺん確かめてみたいと思います。
  22. 志賀義雄

    志賀(義)委員 と申しますのは、事件の当夜、それからまた事件が起こったときにも、この柴田という家の近所にこういう人がいたようでございますから私は単純な柴田の何ですか、あいそづかしを言われて、持ってきたなたでおどしたとか何とかということ以外に、若干何かあるのかないのか、その点をお調べ願いたいのです。  さて罰金でございますが、いつお受け取りになったのでしょうか。まだそれはわかりませんね。
  23. 竹内寿平

    竹内政府委員 今ちょっと……。
  24. 志賀義雄

    志賀(義)委員 そうしますと、法務省の方では、これがどうして本人が持ってきたのか、そういう点まだわかりませんか。
  25. 竹内寿平

    竹内政府委員 事件そのものがわかっておりませんものですから、その事情はもちろんわかりません。今調べましてお答えを申し上げます。
  26. 高橋英吉

    高橋委員長 ちょっと速記をとめて。    〔速記中止
  27. 高橋英吉

    高橋委員長 速記を始めて。
  28. 志賀義雄

    志賀(義)委員 罰金を受け取った場合には領収書を出しておられるのでしょうね。
  29. 竹内寿平

    竹内政府委員 むろん出しております。
  30. 志賀義雄

    志賀(義)委員 人がいないところへ領収書を送られたということになると、それは返っているはずですから、これは実に奇怪な事件なんですよ。別に伏せておいて答の方から先に出してあなたをとっちめてやろうとも思っていなかったのだけれども、何でもないようで大へん奇怪な事件なんですよ。それで、私が三月八日に法務大臣に伺い、警察庁長官に伺ったときは、三月の十二日にそれをやられたこととして発表する予定であった。そして本人は二月に起こった事件だということを申しておったと言うのです。しかし、そういうふうに逃げて警察に連絡したとかということで発表するというのが、兵庫県、大阪府の警察では全然御存じない。こういうことで、これがどうも共産党がやったなんということになっておりますから、それで私はお尋ねするのですが、罰金を受け取ったなら領収書が出るはずです。領収書を送ろうにも、送ってきた先に該当者がいないとなると、これは一体どういうことになるか。そうなりますと、領収書はどうなっているのか、そういうことまでも伺わなければなりません。
  31. 竹内寿平

    竹内政府委員 今二人の者にそれぞれ調べさせておりますことは——今の罰金領収書が届いたか届かぬか、届かなくて、それがもとへ戻ってきたかどうかというところまでは、あとからお話がございましたので、二人ともそれを知らずに出ておりますから、十分なお答えができないと思いますので、もしお許しを得られれば、今よく伺いましたので、伺ったことを基礎にして十分調査した上で、ここで総合的に一緒お答え申し上げたいと思いますが、いかがでございましょうか。
  32. 志賀義雄

    志賀(義)委員 最後に一言。そういうことですから、これが略式命令罰金になった。そしてどこかから、本人と無関係な、全然その場所に該当者がいないところから二万円送ってこられたというようなことになると、受領証のこともございますが、こういう奇怪なことが罰金一つについてもあるのに、よくも検事さんが略式命令で釈放なさったものだ、こういう疑問が起こってきますね。ですから、そういう点をよくお調べになって、その上でまたあらためて伺いましょう。御存じないということですから。  法務大臣に申し上げておいたのですが、あなたこの前、ほんとうかと言われたけれども、こういうものは私は証拠のないことは申しません。よく刑事局長を督励してお調べ願いたいと思います。刑事局長には、こういうことが明らかになりました上でまたあとであらためて伺いたいと思います。
  33. 高橋英吉

  34. 猪俣浩三

    猪俣委員 法務大臣お尋ねいたしますが、明日当法務委員会で、再審に関する小委員会を開きまして、参考人を呼んで御意見を承ることになっておりますが、その参考人の一人に安倍検事をお願いしておりましたところ、法務省人事課長から出席できないという通知があった。私は実は法務大臣に廊下でその点をお聞きしておきたいと思っておったのですが、私もおくれてきたし、大臣もおくれてきたので、出すべき機会がなくて、公の席上で出すわけでありますが、国会からわざわざ参考人として御出席を願う——ことに再審問題でありますから、検事とか判事とかいう立場の方々、現職の御意見というものが非常に参考になる。国会から正式にそういう申し出をしたにかかわらず、何ゆえかこれをこばんでいらっしゃる。明日は従って安倍検事出席しないとすると、お一人になってしまうわけであります。国会のかような立法に関する調査の目的も阻害せられることになりますが、安倍検事出席を差しとめた理由がありましたならお聞かせいただきたいと思います。
  35. 中垣國男

    中垣国務大臣 お答えいたします。安倍検事参考人としての出頭を阻止したというのではないのでございまして、延期をお願いしたというように私は承知いたしております。その理由としましては、再審制度につきましては早くから法務委員会におきましても小委員会をつくられまして、慎重に御審議をいただいておるということも承知いたしておりますので、法務省といたしましても、再審問題につきましては内部的にいろいろと意見を交換しておるところでございまして、現職検事でありますから、やはりある程度法務省再審制度に対する考え方等もよく承知をしていただいて、なお個人立場参考人として出られることは一向に差しつかえないと思うのでありますが、私もこの再審制度には非常な関心を持っておりますので、そういうことも十分承知をしていただいてからの方がよかろうというふうに考えましたので、別に御審議を阻害するとか軽視するとか、そういうことは毛頭ないのでございまして、私ども法務行政の中におきましての再審制度というものに対する考え方を慎重に考えたい、こういうことから出頭方の御延期をお願いしたわけでございます。
  36. 猪俣浩三

    猪俣委員 小委員会として安倍検事参考人としておいで願うようになったのは、検察あるいは法務の代表としてではないと思います。特殊の研究をなさっておる安倍さんに、しかも安倍さんは法務総合研究所にいらっしゃって、そういうことを専門に研究しておられる方でありまして、何も法務省なり検察庁を代表しておいでになるというのでは意味がないのです。それならばあなたに質問するかあるいは竹内さんに質問すればいいわけなんです。ですから安倍さんの言うたことを、法務省意見であるとかあるいは検察庁意見であるというふうにわれわれが考えるはずはないので、わざわざ個人としての出席を要求しているはずなのであります。これは実は日本弁護士連合会から私のところに、一体そういうようなことで、国会の審査するということを法務省で勝手に出席を拒むようなことをやっていいのかという質問が私にありました。私も、検事現職でありますから、それは何か公務上の都合があるならばやむを得ないことであろうが、それは一つ聞いてみなければならぬ。こういう答弁をしてあったわけでありますが、今あなたの答弁は、何か現職公務の差しつかえじゃなしに、安倍検事の言うことについて何か第一令をはめるという意味か、あるいは何か法務省の結論を言わせるという意味——それじゃ意味はないのですよ。出てきていただいたって。それはあなたでいいじゃありませんか。その辺がどうも官僚主義なんだ。これは日弁連がさようなことを訴えて参りました。またその奥もあるわけですけれども、それは私はここで申しません。どうも法務省というところは官僚的なところがあっていけない。公務に差しつかえなかったら、せっかく法務委員会が今再審制度を検討しているとき、なぜ進んで協力していただけないのか。法務省意見を聞くならあなたに聞きますよ。おかしいんだ。それはどういうわけなんですか、意見調整のために出席延期させる、あるいは差しとめる、どういう意味なんですか。
  37. 中垣國男

    中垣国務大臣 先ほど猪俣さんにお答えいたしました通りに、法務省代弁者として出頭していただこうなどとは実は毛頭考えておらないのでありまして、法務省におきましても、慎重にこの再審制度については関心を持ちまして検討しておりますので、そういうことも知っておかれるということは、法務省の職員として私は当然のことであると思います。そういうことをば御承知の上で、なお個人としてここに出席されるのでありますから、ここでいかなることをお答えになろうともそれをとやかくいう考え方等は全然ございません。箝口令をしくとか、法務省できまったことしか言わせないとかそういうことではないのでございまして、最近再審制度というものがあらゆる方面から相当やかましく論議されておりますので、法務省としましてもこれに無関心でおるわけに参りませんので検討しておる。従って、そういうこと等も十分念頭に入れていただいて出ていかれた方がかえってよかろうと、そう判断をいたしましたので、もう少し先に参考人として出頭されるようにお願いしてみたらどうだということで、拒否でなくて、お願いを申し上げたのでございます。
  38. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうおっしゃると、私は申しますけれども、これは安倍検事は非常に不満なんであります、法務省監督官の態度について。何がゆえに出席を拒否しなければならないか、私は拒んだと聞いておるのですが、今聞けば延期だという。私ども国会といたしましては、そういうことはしない、十分打ち合わせをしないなまの声を聞きたいのです。また、法務省考えは、法務省のそれぞれの機関から来て御意見を承る。私ども現職にある人のなまの声を聞きたい。法務省でコントロールして、そして出てくるならば、意味がないわけなんですよ。どうもこれは大臣の本心じゃない、下僚の人たちのさしがねだと思うのですけれども、そういうことでは、ほんとうの生きた法律ができない。私どもは、役人のワクの中へはまった人の声なら何も尊重しません。現職に働いている方の生地そのままの御意見を承って参考にしたい、こういう意味で御出席を要求した。また安倍検事もその意味で、国会であるから自分の平素考えていることを申し述べたいという考えでいたらしい。それに対しストップをかけている。私ども疑惑を持つのですよ。私どもはそれを法務省意見などと受け取るはずがない。そういうことは、どうもほんとう国会活動に対して協力する態度じゃないと思うのです。たとえば東大の先生、そういう人たちを呼びましても、何も東大を代表してその教授が意見を述べるわけじゃない。その教授自身の知識から割り出したその教授自身の所感を聞くわけです。それがまたわれわれは参考になるわけです。どうも今の御答弁は私どもふに落ちないのでありますが、それ以上申し上げましても水かけ論になるからこれでやめますけれども、今後もあることだけれども、はなはだ遺憾の意を表しておきます。
  39. 高橋英吉

    高橋委員長 ちょっと速記をとめて。   〔速記中止
  40. 高橋英吉

    高橋委員長 速記を始めて。
  41. 猪俣浩三

    猪俣委員 それからなお大臣にあれですが、やっぱり安倍検事の御意見を聞くことはいいでありましょうけれども、それは安倍検事自身の個人意見を尊重するような処置をとっていただきたい。せっかく委員会で呼び出したものを——僕は小委員長の態度も軽率だと思う。そういうことをなあなあでやられたのではいかぬ。私もまたそれをよく確かめてから質問する時間がなかったことははなはだ遺憾でありますが、いずれにいたしましても、ちょっと不明朗だと思うわけです。安倍検事が心穏やかならざるものがあるように聞いておりますから、その点も御配慮あってしかるべきものだと思うのです。  そこで今再審問題として法務委員会でも検討いたしておりますが、最近になりまして、先般私お尋ねをいたしました帝銀事件の平沢貞通、これは最高裁判所の判決が確定いたしておりまして、いつでも死刑執行ができる状態になっておりますが、法務大臣は、再審の道もあるし十分考慮するような御答弁がありまして、直ちに死刑が執行されるのじゃないかというようなことが、宮城の刑務所へ送られて以来一時出ておりましたのが、そうじゃないのだということが世の中に明らかになりまして、平沢を守る人たちを安堵さしたのでありますが、そこで今再審の申し立てもしてあるようでありますが、私は、これに対しまして、結局、検察庁側から無理に反対をしないようにして、そして再審は何べんでもやっていただきたいというふうに思うのです。今の再審制度にもいろいろな壁がありますために、当委員会で今研究を始めているのですが、そこでその資料といたしまして、なお、これは検察行政のあり方といたしましてお尋ねいたしたいことは、この平沢貞通に対しましての聞き取り書き、これをたんねんに調べますと、どうも奇怪なる事実が出てくる。これは記録そのものの調査から出てくるわけあります。これも十分お含みの上再審に対する検察官の態度をきめていただきたい。  それを申しますならば、昭和二十三年八月の二十八日行なわれましたる高木検事、佐々木事務官の第四回聞き取り書き、これは八月二十八日から八月二十九日、二日間にわたりまして十二枚の聞き取り書きができておる。それから昭和二十三年八月三十一日及び翌日の九月一日、二日間にわたりまして五枚の調書ができておる。なおまた三十五回の聞き取り書き、これは九月二十三日と二十四日にまたがって十枚できておる。三十六回の聞き取り書き、これは九月二十三日と九月二十四日に三十四枚できておる。それから四十三回の聞き取り書き、これは九月二十六日と九月二十七日でやはり二日。四十四回の聞き取り書きは九月二十六日から九月二十八日にまたがっておる。それから四十四回の追記というのがありまして、これが九月二十六日から九月二十八日にまたがっておる。四十五回がやはり九月二十七日から九月二十八日。その他五十二回、五十三回、五十四回、五十六回の聞き取り書き、いずれも警視庁におきまする高木主任検事の取り調べ調書でありますが、長らく裁判官をやられまして現在退職せられておる人の意見を聞きますと、二日にわたった調書というものは異例である、これは徹夜で調べたという推測がされる、こういう御意見であらます。ことに第七回は、昭和二十三年八月三十一日から九月一日の二日間にわたりまして五枚しか書いてないのです。五枚の聞き取り書きをつくるために二日間にわたっておる。これは何を意味しているか。調書はたった五枚しかないのですよ。しかもそれは二日間にわたって取り調べておるわけです。これは何としても徹夜で拷問して調べたと思うより仕方がないということが、長い間裁判長の職責にあった人の感想であります。これが調書の上に実に明らかに出ている。常識上、五枚の聞き取り書きを書くのに二日かかるということは異常であります。本人がどんなに拒んでも拒んでも追及々々、深夜から暁に及んだことが想像される。これが調書の上に出ておりまして、非常に取り調べに無理がある。しかも、こういう自白が唯一の証拠として今日死刑の判決が出ているわけであります。ことに四十四回の追記と称する調書ははなはた奇怪なる——推定でありますから、真実のところはわかりませんが、署名は本人の署名でないことは明らかであるが、拇印までがどうも違うのではないかというので今調査をしている。かような異常なる取り調べの姿、何かそこに無理があると存ずるのであります。これは二日にわたった。きょう調べたならきょうとにかく署名捺印というのが普通の例であります。ところが、きょうから調べながら、きょう署名捺印せずに、あすの日付の署名捺印というような調書というのは、私どももあまり見かけないのです。一体かようなことは、普通検察官はやっていることであるかどうか、竹内さんにお尋ねいたします。
  42. 竹内寿平

    竹内政府委員 ただいま老練な裁判官の御意見でもあるということで、二日間にわたって五枚の調書しかつくっていないような場合に、徹夜で調べたという推定ができるというお話でございましたが、これは取り調べの実情に必ずしも合っていないのでありまして、もちろん、取り調べましたならば、取り調べの結果を調書につくるというのが常態でございますから、仰せのように、きょう調べましてその結果を調書につくるというのが普通でございますが、この事件は、今もお話のございましたように、検事調べだけでも六十二通の調書ができているぐらい長い間にわたって調べ事件でございまして、全然話をしないとか、解きほぐしてだんだん気を楽にして話してもらうというようなために、ほとんど一日つぶれてしまって何にも調書にとどめる事情が明らかにならないような場合に、調書をつくること自体が非常識なことでございます。二日間にわたって調べた結果が五枚の調書にまとまったということ、そのこと自体がそういう調べの状況であったということがわかるわけでございます。従って、その間夜っぴて調べたということはあり得べからざることでございまして、私どもは、その調書の実態を見ても、二日間にわたって調べて五枚しか調書ができないような調べの状況であったことが想像されるわけです。もちろん、夜っぴて調べをする必要はない。六十二通にものぼるように非常に長期間にわたっての調べであります。また、通常そういう場合が絶無かと申しますと、これは一般の事件におきましても間々あることでございまして、ことに黙秘権を行使するような場合には、一行も一字も調書にとどめることができない場合もあるわけでありまして、公判調書でございましたら、そのときは公判の始末書きというものをつくらなければならないわけでございますが、検事調書の場合には、その場合はつくらないで、供述を書きとめる必要がありますような事態になりましてから、そのときの時点で、よく読み聞かせまして、その通りであったかどうかを確かめた上で調書をつくる。これが検察の調書をつくる場合の実務の実況でございます。でありますから、ただいまのような御推定は、私どもとしては、そのまま受け取るわけには参りかねるような次第でございます。
  43. 猪俣浩三

    猪俣委員 あなたの答弁それ自体が私どもははなはだ奇怪だと思うのです。御存じのように、今度の刑事訴訟法は本人の自白に重きを置かぬわけです。客観的な科学的捜査に重きを置くわけです。二日間にわたって五枚しか書けない、それだけの事実しか述べないというような——もし黙秘権を使ったら、それはそのままでいい、黙秘権を使って一言しか言わなかったならば、一言書いて、その日それで終わればよろしい。二日間かかったことは、おどかして、そうして最後のような御答弁でありますが、私たちから見ればそこに無理があるのではないかと思う。なぜなら、本人は公判廷になってから終始一貫否認し続け、今日までも無実を訴え続けている人物ですよ。しかも当時コルサコフ病という病気にかかっている人物です。これを執拗に追いかけて自白を強要したということがわれわれには感得できるのです。もし一行しか言わなかったら、それを書いておけばいい。翌日また調べればいい。何がゆえに二日間にわたって、そうして五枚しか書けないような供述をとったのであるか、そこに何としても執拗な強要があったと私ども考えるわけです。自白を重要な証拠とした時代ならいざ知らず、今日は、それに重きを置くことが刑事訴訟法の本旨ではないわけです。そういうふうに無理に取り調べをしておったから公判廷以来終始彼は否認するようなことに相なった。ここに一覧表を差し上げますから、詳しく調べてありますから点検していただきたいが、これは私は異常だと思うのであります。かような検察官の相当無理な調べが長い間続いたということが、この調書のでき工合からも考えられるわけであります。  これは法務省の方針としては——ども要望するのは、その日調べたことは、結論に至らぬでも、その日のうちにちゃんと結末をつけておく。二日間にわたるということになれば、今この老練なる裁判長の観察のごとく、徹夜で調べたのではないかという疑いが持たれるし、現に平沢はそういうふうに言っておるわけです。平沢の、夜中の一時半の調べは普通であったという上申が出ているわけです。それと符合を合わせるごとく、こういう調書になっているわけです。だから、あなた方がそんな道理はないと言ったって、建前はないはずなんです、あなた方は建前だけで説明なさるからその通りなんですが、ない建前のことがあり得るから困る。私が今問題にいたしております松川事件証拠問題もそうです。あり得べからざることがあるから、全部無罪になるようなことが起こってくる。これは当法務委員会におきましても、検察活動につきまして再検討していただきたいと思って、私は法務委員長まで国政調査権に基づく調査の申請をしておりますが、しかし今、裁判中でありますから、裁判が確定してからと思いますけれども、あなた方の方でも十二分なる準備をしていただいて、協力していただきたい。これは決して一検察庁の問題だけではない、民主政治の根幹である人権擁護の大きな基本的問題です。松川事件におけるような検察官のやり方をやっておりましては、これはとても人権保護も何もあったものではない。ですからこれは検察庁としても当法務委員会に協力して、真相を明らかにしていただきたいのです。それは将来のことでありますが、この帝銀事件におきます平沢貞通の調べ方、調書の上から見ましたる強引な取り調べぶり、こういうことがしょっちゅうあることだとなると、私は容易ならざることだと思うのです。一体こんなことが通常あっていいことですかどうですか、御意見を承りたい。
  44. 竹内寿平

    竹内政府委員 猪俣先生のお考え、私よくわかるわけでございます。なぜかならば、私どもは旧刑事訴訟法のもとで捜査をやって参ったものでございますので、そういう考え方に立ちますと、捜査の経過というものを一件記録に明らかにするということが取り調べの公正を担保する相当有力な方法であるというふうに私ども考えておるわけであります。その意味から申しますと、何日ゼロの回答がありましても、ゼロであったということを記録上明らかにとどめる、日時の順に記録を編綴することが公正な取り調べをしたという証拠になるわけでございまして、そういう建前をとっておりました者の目から見ますると、ただいま先生の御指摘になるような点は私もよくわかるわけでございますが、新刑事訴訟法になりますと、そうではございませんで、聞き取り書きというものは、今申しましたような捜査の経過を表わすものではなくて、その人の供述を、ただ信憑性のあるものとして記録にとどめるだけでございます。それが将来証拠になることもあり得るのでございます。  そこで今、夜っぴて調べたかどうかということは、その調書自体からは先生御指摘のようにわからないわけでございますが、それには留置記録、何時に留置場から出して何時に留置場へおさめたというような記録が別途あるわけでございます。それからまた立ち合いの事務官は、その捜査の時間等を一々手控えまして、それが夜っぴて調べたものでないということは、別の資料によって明らかにするというのが新刑訴法の建前であります。でありますから、今のようなことも日常時に起こるわけでございまして、その点は新刑訴法がそういう建前になっておるように私は理解しております、御了承願いたいと思います。
  45. 猪俣浩三

    猪俣委員 建前はそれに違いありませんが、その建前通りやっているかどうか、お調べいただきたい。私はここに詳細に取り調べの月日、回数、そればら記録のページ数、取り調べの場所等を一覧表に書いて差し上げてありますが、これを見ると、のべつひまなしに二日にわたっておるのですそんなことは私どもが取り扱った事件にはかつてないのです。だから、これがはたしてその裁判長をやった人の推測のごとく、相当深夜まで調べたものであるかどうか、これは御調査願いたい。二日間にわたった調書につきましては、回数及び調書のページ数まで全部一覧表に書いてありますから、高木検事をお調べ願いたい。そういう疑惑があるわけであります。  なお、この帝銀事件に対しまして、当時警視庁の捜査主任をやっておりました成智英雄という警部が、平沢は犯人ではないという詳細な論文を数回にわたって発表しておりますが、法務省ではそれを御検討なさったかどうか、これは大臣にお聞きいたします。
  46. 中垣國男

    中垣国務大臣 私も全文を読んでおりますし、また刑事局におきましても十分に検討をいたしております。
  47. 猪俣浩三

    猪俣委員 当時の捜査の中心的人物がああいう詳細な論文を発表されておりますが、これは刑事局長いかにお考えになりますか。
  48. 竹内寿平

    竹内政府委員 警視庁の元警視であられた成智英雄氏のことでございますが、この帝銀事件は高木検察官が主任検事としてこの捜査に当たったのでございますが、当時警視庁におきましては目白警察署に捜査本部を設けまして、警視庁の捜査第一課の係員を主体といたしまして行なわれたものでございます。御承知のように、犯人がわからない時代の捜査というのは、いろんな角度からいろんな考え方を持って捜査に当たるわけでございまして、およそ捜査の経験に徴しまして考えられるあらゆるケースをそれぞれの係官が担当をしていって、それが全くアリバイが成立し、白になってしまえばその線は落としていく。これが捜査の常道であろうかと思うのでございまして、帝銀事件もそういう捜査方式をとったのでございます。その間に、捜査の過程においてたくさんの投書や密告などがございまして、これらの投書、密告といえども軽視するわけにはいきませんので、それにつきましてもそれぞれ裏づけ捜査をいたしておるのでございます。そこでそういうふうに指摘された容疑——まだ薄い容疑でございますけれども、そういう個々の人物につきましては一々裏づけをしてアリバイがあるかないかということを洗っていくわけでございまして、主体は捜査一課でやりましたが、そういう密告等に基づくいろいろな想定のもとに始めたアリバイ捜査のようなものを捜査二課の方で分担をしたということでございます。この捜査二課の方の係員の一人であったのがただいまお話のございました成智警視でございますが、当時は警部補でございまして、まだ捜査の全貌をにらんでいるという立場にはなく、その幾つかの中間の指揮者のまた下にあって個々の事件の捜査を命ぜられてこれに当たっておった方のようでございます。そういう成智さんの立場というものを御理解をいただかなければならぬと思うのでございます。今先生は、これは捜査の中心の方だと言われましたが、今申しましたように、捜査の中心ではなくて、捜査の主体をなした捜査一課の所属の人でもなく、むしろアリバイの補助捜査をしておる第二課の所属の方であって、しかも捜査の全貌についてタッチをしていなかった方であるということをまずお含みおき願いたいのであります。  帝銀事件の捜査は、御承知のように松井名刺の追跡が一つの大きな線でございました。もう一つは手口、容器、犯人の毒物に対する知識、犯行の大胆さといったような点から、当初、成智さんが指摘しておるような旧軍関係者、ことに関東軍の防疫給水班関係者の調査にも非常に重点が置かれまして捜査がなされたのでございます。それはただいま残っております記録によって明らかでございますが、その結果、旧軍関係者の方からは犯人は発見されませんで、松井名刺を追跡していった方の線から平沢が現われてきた。こういう捜査のいきさつになっておるのでございます。でありますから、ただいま成智さんが事新しげに申されておりますことは、捜査の過程ですでに十分捜査の上白になった関係のものでございます。ただ、成智さんはその方面を担当しておりましたので、そういう容疑を持って熱意を傾けて捜査をしたことは事実でありますけれども、結果的に見ますと、その方の関係は白になってしまって、松井名刺の線から出た平沢が真犯人として現われてきた、こういうことに相なっておるのであります。さように私は承知しております。
  49. 猪俣浩三

    猪俣委員 まあ、法務省としては、検事のやり方が間違ったという答弁は上司としておできにならぬだろうから、あなたの立場は了といたしますがしかし成智氏の論文が、その地位のいかんにかかわらず——私は地位がどういう地位であったということではない、あの論文は非常に合理的だと僕は思うのです。ああいう十数人を一挙に葬るようなことは、毒物の知識がない絵かきにできるはずがないということは、これは万人があの論文を見て胸を打たれたところらしいのであります。  そこで私が申し上げることは、いや実は検事が間違っておったなんということはあなた方が、言うはずもないし、私もそれを期待するわけではありませんが、とにかく世人において、ああいう当時の捜査の任に当った人がああいう非常に合理的なる論文を発表されたということは、裁判についての疑惑が非常に出るわけでありまして、そこでやはり再審というものについて検察庁もお考えになって——裁判所側はあるいは再審に踏み切るのではないかと思われるのですが、むやみに反対をなさらず、進んで再審に協力して、そして真実を発見すると奪うことがいいのじゃなかろうか。今、平沢は白か黒かという問題をここで議論しても始まらぬが、これは非常に疑惑に満ちた点が多々出てきております。それをいつか当法務委員会で明らかにしたいと思うのでありますが、ただきょうは検事のやった確たる調書に基づきまして疑惑の点をただ一点だけ申し上げたい。こういう詳細に今は検討いたしておるわけであります。いずれ当法務委員会でも調査をしていただきたいと思うのでありますが、とにかく確定判決がある犯人でありますので、はなはだ地位が不安でありますが、法務大臣がこれはどこまでも審理を尽くすという御答弁で、われわれは一応安心しているのでありますが、しからば、今再審の申し立てがされておるわけであります。これに対して検察官がどこまでも反対する態度は、かえって検察の威信のためにならぬかと思うのでありますが、これに対して、裁判所の方から検察官に必ず再審の同意、不同意を求めてくると思うのであります。この再審の申し立てに対して一体不同意をなさるのであるか、同意をなさるか、法務大臣の決意を承りたい。先般、あなたは、再審もあることであるからまだ審理は十分尽くせると御答弁があった。今、再審の申し立てをしておる。検察官に対して同意、不同意を求める段階にきております。それに対しまして検察官が強硬に反対をなされば、あるいは裁判所の決意も鈍るかもしれません。私どもは、協力をして再審をやって、国民の疑惑を解くようにしていただきたい。それは、確定判決をくつがえすということを簡単にやることは裁判の威信にも関することもちろんであるが、その最高裁判所自身が、一人の人の生命は全地球よりも重いという判決を下しておることは御承知通りでしょう。全地球よりも人間の命がとうといという判決を下した裁判所ならば、今、この無実を訴えている平沢の再審をすることに対して、たといそれを検察庁が同意してやっても、裁判の威信を害するからけしからぬなどと言うはずはないと思う。一個の生命は全地球よりも重い。民主政治の建前ならば、裁判の威信よりも一個の生命の方が大切だと見なければならない。そういうお考え法務大臣も、まだ再審があるからすぐ刑を執行するようなことは考えておらぬという御答弁ができたものと思うのでありますが、今、この再審問題が起こってきております。それに対して法務大臣はどういう御態度で臨まれるか、御所信を承りたいのであります。
  50. 中垣國男

    中垣国務大臣 平沢の問題につきましては、たびたびここでお答えをいたしておるわけでございますが、現に平沢は、東京高等裁判所におきまして、再審が受理されまして、審理中のものであります。従いまして、先ほど猪俣先生は、新しい事実等も、出てきておるからこの委員会で明らかにしたいというお言葉でありましたけれども、私の希望といたしましては、やはりそれは裁判所においてそういうことをやっていただきたいというのが私のほんとう考え方であります。同時に、人命を尊重するという立場に立って裁判というものが慎重に行なわれるべきであるということには全く同感であります。従いまして、再審の受理をするかしないかということは、これは検察庁よりも裁判官の判断によってなされることだと思いますので、もし私にそういうことに対する意見を聴取されますならば、再審を阻止するようなことには断じて私は賛成はいたしません。再審をしていただくことはけっこうであります。ただ問題といたしましては、現に、平沢の問題が、高等裁判所の第四回目か五回目かだったと思うのでありますが、再審要求に基づきましてその審理が行なわれておるという段階にあるのでございますから、この場で平沢氏のために担当しておられる弁護士の方が十分努力をしていただきたいものだ、かように考えております。その他の問題につきましては、先生は平沢の無罪を信じておられるようでございますが、私の立場から申し上げますと、私は、絶えず法務大臣の在職中、私の責任におきまして申し上げることは、裁判所の判決というものは尊重しなければならないものである、そのことが一点であります。第二点は、すべての制度を活用いたしまして、そうしてどこまでも真実を明らかにするという、そういう機会は与えてあげることが当然である。こういうふうに考えておるのでございます。
  51. 猪俣浩三

    猪俣委員 今大臣のお説のように、私ども再審の裁判が開始せられますときに、ここでそういう白か黒かなんという議論をする考えはありません。すべて判決が、そういう再審が終わりましてからの問題であることは、松川事件も同じことであろうと思うのであります。だから、それは御心配御無用だと思います。要は、今はっきりされましたから、私ども大臣に対しまして敬意を表するものですが、再審の同意、不同意の際に、検察庁としてはこれを阻止するような行動をとらないということを表明していただきまして、これは前途に光明が出てきたと思うわけであります。  そこでもう一点お尋ねいたしますことは、この平沢貞通の問題につきまして、人権擁護局へ人権問題として調査を要求し、当時の人権擁護委員調査を始めた。それは、この成智元警視庁の捜査官が発表せられましたような、これは相当毒物に関する知識と経験のある者だということから、真犯人が他にあるということで調査を始めたわけであります。相当熱心に調査をやっておりまして、相当疑惑に満ちた人物が浮かび上がってきたわけでありますが、何ゆえか法務省から人権擁護局長に対して、平沢の人権問題については調査まかりならぬという指令が出てきた。これは捜査官は捜査官として捜査する。また人権擁護局は擁護局として独立の権限で、検察庁と別な見地からやはり調査をするということによって、人権の擁護が全うされるわけでありますが、せっかくそういうふうな——人権擁護委員会は、役人のみならず、民間の人たちも入っておるわけです。その委員会で決定いたしまして活動を始めておるのを、局長に対して圧迫して停止さしてしまった。こういう事実がある。これは今の人権擁護局長以前の局長で、鈴木前局長の時代だと思うのでありますが、それを非常に遺憾とせられておったということを聞くわけです。なお、当時の人権擁護委員であります磯部委員も、その現実のことをよく知っておりまして、非常に憤慨せられたわけでありますが、これは私は前もって通告いたしておりませんから、稲川局長、もし答弁できたら、この平沢事件に対して人権擁護局にそういう訴えがあって、人権擁護委員会でこれの調査に乗り出した事実があるのかないのか、それからそれが停止されたのかどうか、停止されたとするならば、いかなる手続で停止されたか、その辺を、もし御存じであれば御説明願いたい。
  52. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 御質問の点でございますが、調査いたしましたところ、御質問のような趣旨の、真犯人が別にあるという申し立てを人権擁護局が受理したことは間違いございません。それによってある程度調査に着手したのでございますが、これは東京法務局でやっております。ところが、だんだん考えまして、結局、この事件はもちろん人権問題ではあるのだが、それ以上に、犯人が別にいるという事件が重点になって起こったということでございます。そこで人権擁護局の機構とか性質からいって、真犯人を探し出すというのは本旨じゃなかろうという結論になりまして、昭和三十年の十二月二十四日、東京高等検察庁検事長あてに、従来調べました一件書類をつけまして、これを回送しているという結論になっております。
  53. 高橋英吉

  54. 上村千一郎

    ○上村委員 ちょっと人権擁護局長にお尋ねいたしたいと思うわけでございますが、最近サリドマイド禍の奇形免の問題につきまして朝日新聞、毎日新聞、読売新聞あるいは中部日本新聞というようなところに、非常に大きく扱われておるわけであります。また厚生省方面につきましても、医薬品の安全確保をはかるために薬事法をどうするかとか、いろいろな世論が非常に高まって参りました。これがそもそもの発端をなしておるのは、愛知県の豊橋の人権擁護委員会に、これが関係者から人権救済の提訴が行なわれた。これが発端になって、そして実は大きな問題を現在日本全国に投げかけているというふうに思われますし、また、新聞などもかかる報道をいたしておるわけです。かかる人権擁護の提訴があったか、なかったか。あったとすれば、だれからどうような提訴があったのかをお尋ねをいたしておきたいと思います。
  55. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 御質問の点につきましては、現在までのところ全国から八件の提訴がきております。だれからという名前は御容赦願いたいと思います。名古屋が二件、京都が二件、広島、高松、浦和、大分という八件でございます。それにつきましては、非常にこれはショッキングな不幸なできごとでありますので、目下極秘裏に調査を開始しております。
  56. 上村千一郎

    ○上村委員 実はサリドマイド禍奇形児の救済の両親連盟というようなものが結成の運びになっておる。そして、全国的にかかる不幸な方々の両親の方方が立ち上がろうといたしております。こういうようなことについては、人権擁護局としてはお調べになったのかどうか。なお、ある程度その方々は名前を発表されてけっこうである。そして秘密々々でいったのでは、かかる不幸なものに対する国の徹底的な対策というものは立ち得ないという意味において、名前も明らかにしながら、そして全国的に訴えをいたそうといたしておるわけであります。ですからある程度虜調査の途中ではあると思いますけれども、できるだけ内容を詳細にお尋ねをいたしたい、こう思うわけですが、その点につきまして局長からお話を承りたいと思います。
  57. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 全国のそういう不幸な方々の父兄連盟というものの交渉はまだ聞いておりません。現在までそういうような八件の申告に対しまして、調査の範囲は、被害者関係人と立ち会いました医師、それから主として提訴されております薬がイソミンという大日本製薬の製造にかかるものでありますので、販売の薬局あるいは製薬会社、それから許可認可に関係します厚生省の係官、それからわれわれもよくわからないのですが、できるだけ医学的な文献というようなものを対象にして調査を進めております。  そこで、各一件ごとに詳しく申し上げかねますが、大体その申請の趣旨といいますものを要約して申し上げますと、申請者である母親は、大体八件のものを総括いたしますと、昭和三十六年から昭和三十七年にかけていずれも奇形児を出産しております。奇形児の状況は各自若干症状に軽重の差があるようでありますが、上肢が短かくて掌骨の全部または一部が欠損して、いわゆる通常アザラシ形と称する病状を呈しておるようになっております。これらの奇形児の母親は、いずれも妊娠一カ月ないし三カ月ごろに、大日本製薬株式会社の製造にかかりまするところのサリドマイド系の睡眠薬イソミンを六錠ないし四十錠くらいを服用しているのであります。ただし、そのうち一名の者は、イソミンの配合された胃腸薬のブロバンMを約十二錠くらい服用いたしております。それから奇形児出産の原因は、これは本人の申し立てでございますが、新聞、雑誌等の記事から考えると、サリドマイド系の薬品の服用にあるのではないかと思われるということを述べております。従って、もしそれが事実であれば、奇形児出産の責任は、製薬会社のみでなく、かかる薬品の販売を承認した国家にも当然あるのであるから、国に対して、この不幸な子供の将来を保護し、かかる不幸を今後起こさないような対策を何らか要求するというのが大体の申請の内容でございます。  それから診療に当たりました医師の所見でございますが、明らかにこれはサリドマイドが原因であるという所見を述べた医師はないようでございます。そうしまして、結局まだ調査の過程でございまするが、そのような調査範囲の対象にいたしましたものの中からわれわれが問題点を取り出して考えてみました場合に、第一は、イソミンという薬と奇形児の出産との間に医学的な因果関係の証明がつくかどうかという問題が一点、それから、かりに医学的な因果関係が証明されたとして、本件の具体的な事件について臨床的な因果関係の証明がつくかどうかということが調査の難点になっております。第三は、このような新薬の認可について、一体胎児にどういう影響を与えるかということの検討が、従来医学的にも、あるいは行政上の認可についても不足してたのではなかろうかという疑いが私どもには持たれておるのであります。第四点は、しからばこのような不幸な出来事の奇形児をどういう方法で将来保護すべきかという点。この四点にしぼられてきております。
  58. 上村千一郎

    ○上村委員 人権擁護局としての御見解としては、だれの人権が侵害されているというようなお考えのもとにこれの調査を進められておるのか、その点につきまして明らかにしていただきたいと思います。
  59. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 それは、関係者の不幸なことはもちろんでありますが、この奇形児そのものの人権を侵害している、それが侵されているという考え方調査の対象にして進めております。
  60. 上村千一郎

    ○上村委員 人権問題としての立場から言えば、その点は少なくとも一つの人権侵害であるというようなものだろうという意味で、私も全く見解を同じうしているものでありますが、今、人権擁護局でどの程度まで調査が進んでおるか、その点を一つお知らせを賜わりたいと思います。
  61. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 先ほど申し上げましたわれわれの問題にする四点の問題のうち、医学的な証明をわれわれが考えていくことはどうも不可能なことなのであります。それはさておきまして、結局第三点、第四点に対する考慮をどうすればいいかという問題になります。すなわち、新薬の認可に対して、従来その薬を飲む本人だけでなく、胎児にどういう影響を与えるかという点の配慮が、医学的にも、あるいは行政的にも欠けているのじゃないか、その点がこの侵害の原因になったかならないかという問題が一つ。それから、そういう不幸なできごとの結果生まれました胎児に対して、国がどういう対策を講じたらいいかという問題の点であります。たとえば私ども調査いたしました範囲では、国といたしまして、現在あります一般的に考えられておりますのは、四つほどあるようでございます。第一は、身体障害児を発見し、その治療の指針を与えることを目的とする療育指導の問題があるようであります。これが児童福祉法の二十一条の十一にあるようでございます。それから第二が、医療を要する身体障害児について、国が現物給付をして医療給付を行なう育成療養施設があるようであります。これが二十一条の十二の問題であります。たとえば島田療育園とか琵琶湖湖畔にあります琵琶湖学園というような一般的な施設があるようございます。第三は、医師などを必要とする身体障害児に、国が現物給付をいたしまして行なっておりまする補装具の支給交付をしておる問題がございます。第四は、長期にわたって治療を必要とする身体障害児を入所させて治療及び独立自活に必要な知識、技能を与えるために設置される肢体不自由児の施設があるようであります。ただそこで、このような既設の国の制度というものが、一体サリドマイドのような奇形児にとって適当なものかどうかということは、これは検討されなければならないのじゃないか。つまり、これら奇形児の定型的な障害である四肢奇形というのは、従来の治療とか補装具によってはその目的を達し得ないのじゃないかというような、私どもしろうとながら疑問が持たれるのであります。第二は、肢体不自児施設の職員とかベッドの数の増加というような充実をはかるとともに、このような制度の活用というのがもっと深く、広く活用されるという運用でなければいけないのじゃないか。しかも現在、島田療育園あるいは琵琶湖学園におきましても、これは有料でございます。私立の施設でありまして、それに国がある程度の補助をして施設をしている。従って、一人の子供を預ける場合に二万円ないし三万円を取られるというような状況であるやに聞いております。そういたしますると、そのような不幸な子供たちを預けるために二万、三万の私費を投じてやる負担にたえるかどうかという問題もあると思うのであります。それから、現在乳児であるこれら奇形児については、治療可能なときまで、今申し上げたような療育園等の施設に入園できる少数の例外を除いては、大体家庭において行なわれることが多いのではなかろうかというふうに見た場合に、その問題を一体どうするか。家庭においてそういう奇形児を養育しなければならないかという面をほうっておいていいかどうかというような問題が考えられるのでありまするが、非常に大きな問題でありますし、国の政治の問題にも関係してくるのでありまして、私どもといたしましては、まだ結論を出すには至っておらないのであります。
  62. 上村千一郎

    ○上村委員 実は新聞紙その他拝見いたしますと、大体大きく取り上げられる導火線になっておるのは愛知県の豊橋市に起きましたことからかと思います。それを管轄しておりまするところの名古屋法務局の豊橋支局、そこの人権擁護係のところ並びに豊橋人権擁護委員協議会の方からは実は結論が出ておるのか出てないのか。あるいはその調査に関連いたしまして、人権擁護局の方からいろいろと指示を与えながらあるいは協力をしながら進めておるのかどうか、その点を一つお尋ねいたしたいと思います。
  63. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 ただいま御指摘の豊橋の問題につきましては、人権擁護委員の方々が非常に熱心に御協力下され、また応援を下すって、調査なり方法を目下考究中であると聞いております。
  64. 上村千一郎

    ○上村委員 実はこれが導火線になったかと思いまするが、厚生大臣の方から中央薬事審議会の方へ医薬品の安全を確保する対策という点について諮問をしておるというように、厚生省方面におきましても非常に大きな問題に取り上げておるわけであります。厚生省の方と人権擁護局の方は、この問題について協議したのかどうか、あるいは協議したとすればどういうふうな点に立ち至っておるのか、この点についてお尋ねいたします。
  65. 稲川竜雄

    ○稲川政府委員 人権擁護局といたしましては、正式な、たとえば向こうの局長と私が協議するというのでなく、自然にそういう連係ができまして、向こうの会議にはこちらの係官が出席いたしまして、向こうの対策を承ったり、あるいはわれわれの考えている意見を申し上げるという段階に至っております。
  66. 上村千一郎

    ○上村委員 ここに見えますところの厚生省の製薬課長にお尋ねをしておきたいと思います。  新薬は、厚生大臣の諮問機関である薬事審議会の新薬特別部会またはその下部機構でありまするところの新薬調査会で審査されるのが建前になっております。そしてその許可は大体四カ月以上、長いのになりますと三年くらいかかる。しかるにイソミンの場合には昭和三十二年八月十二日に申請書が出されて、そして同年の十月十二日、わずか二カ月の間しか許可されるのにかかっていない。なお、通常新薬の場合は、成分の効能のほかに動物実験とか臨床実験のデータをつけるのが原則であるけれども、このイソミンについては、すでに外国で使用されておるというだけのことで、かかるデータをつけずに、ただ新薬調査会のみで許可されておるというふうに聞き及んでおるが、その真相はどうか、お尋ねをしておきます。
  67. 平瀬整爾

    ○平瀬説明員 御質問の点についてお答え申し上げます。  これは昭和三十二年のたしか八月に申請されまして、十月に許可になっております。新薬は、一応原則的には新薬調査会、新薬特別部会を通りまして常任部会でやるというのが常例でありますが、内規がございまして、一応外国でたとえば薬局方に載っておるとか、非常に広く繁用されて一応害がないものであるというふうな場合には、新薬調査会だけで、上に上げないという場合もあるのでございます。  もう一つの、今の薬理学とか臨床の点でございますが、薬理のデータはついております。
  68. 上村千一郎

    ○上村委員 実は日本の医学というものは世界的にも高水準にあるものだと私は思う。これを見ますと、外国で使用されておるというので手間を省いていくというのは、そのもとには、外国でもうすでに使われておるのだから日本はよかろうというふうに、日本の医薬の関係の自主性というものを非常に軽視しておる。逆に言えば、いわゆる舶来崇拝というものがどこかこの間にひそんでおるのではなかろうか。この点についてあなたはどういうふうにお考えになりますか。
  69. 平瀬整爾

    ○平瀬説明員 その点につきましては、確かに今先生のおっしゃいます通り、外国で使われているからといって、すぐわれわれはうのみにしているわけではございませんので、どの程度に広く繁用されて、どの程度に効能、効果があるか、常にそれを検討しておるのでございますが、最近は特にその点につきましては、幾ら外国で繁用されておっても、今後は必ず特別部会、常任部会に上げたいというふうに私は考えております。
  70. 上村千一郎

    ○上村委員 今度の事件というものが大きな反省資料になっておることは、新聞紙その他、並びに厚生省がとっておる態度から容易に推察ができますが、このイソミンについて、サリドマイド系の睡眠薬について外国の情勢は当時どうなっておったのですか。本件が起きのが昭和三十六、七年ごろだと思いますが、その当時のサリドマイド系睡眠薬というものは西ドイツで大きく問題になり、イギリスで大きく問題になり、あるいはアメリカでも問題になっておるといういわくつきのものなんですね。その問題については厚生省では調査をされておるのですか。その点についてお尋ねしてみたいと思います。
  71. 平瀬整爾

    ○平瀬説明員 この問題につきましては、一昨年の十一月にドイツのハンブルグの遺伝研究所のレンツという博士が発表したことから反響を巻き起こしまして、日本にも伝わって参りますし、イギリスにも話が参ります。われわれの方といたしましても、何分にもまだ学問的には結論が出ておりませんので、調査は進めております。イギリスでは販売を中止したとか、カナダではどうしたとか、今ここに資料を持っておりませんから詳しいことは申し上げられませんが、調べております。それで、われわれといたしましては、いろいろ調査いたしまして学問的にこれがはっきりすれば、これは問題ないのでございますが、何分にもまだ白黒がはっきりいたしませんが、社会不安がどんどん起きて参りましたので、五月には出荷停止、九月に販売停止で市販品を回収するという対策をとったわけでございます。
  72. 上村千一郎

    ○上村委員 そうすると、先ほど人権擁護局長が御答弁になられました際に、このサリドマイド系の新薬を施用しておることが奇型児に因果関係を持つのか持たないのか必ずしもはっきりしない。これはなるほどその点もあるかもしれぬけれども、世界的にはすでにこれと因果関係があると考えられ、しかもなおかつ市販を停止する、あるいは製造をやめるということに相なっておるわけでありますが、ただ、今厳密に人体実験というものはできぬわけです。もし奇型児が生まれたら大へんなことです。動物実験だけではおさまらない。人体実験ができない。そこで画然たる因果関係の科学的な立証を待っておったら、いつまでたっても対策は確立できない。しからば、世界的な趨勢によってこれを判断をして、そしてサリドマイド系の睡眠薬によって奇型児が生ずるというような点において諸対策を練っておるのかどうか、その点についてお尋ねしたいと思います。
  73. 平瀬整爾

    ○平瀬説明員 先ほども申されましたように、三月の八日に中央薬事審議会に、医薬品の安全確保に対する方策についてという厚生大臣の諮問を出しまして、医薬品安全対策特別部会というのを学識経験者を集めてつくりまして、その第一回をこの十八日、第二回を十九日にやる予定になっております。実は昨年五、六回懇談会形式ではやったのでございますけれども、今度諮問が出ましたので、正式の特別部会で論議いたしまして、おそらくその白黒は非常にむずかしいと思いますが、今も先生の申されましたように、これは非常に社会不安を起こしておりますので、まず今後新たに申請されます新薬に対しまして、医薬品が胎児に及ぼす影響はどういうふうな実験方法をとったらいいのか、そういう方法がまだきまっておりませんので、たとえば、マウスを使うとか、ラットをどうするとかいうこまかいデータが要ると思いますが、そういうこまかい胎児に及ぼす影響を調査するについてのある程度の方法をきめてもらいまして、それを今後は申請書につけて申請するというふうにしたいと思っております。
  74. 上村千一郎

    ○上村委員 厚生省の方では、サリドマイド系の奇型児の調査関係について、どなたか専門家に因果関係についての調査を依頼されておるのかどうか。もし依頼されておるとすればだれに、そして予算はどれだけとっておるか、この点についてお尋ねしておきたいと思います。
  75. 平瀬整爾

    ○平瀬説明員 東大の分院の森山豊教授に依頼しております。これは厚生科学研究費でございますが、二十万円の調査費で委託いたしまして、調査を願っております。
  76. 上村千一郎

    ○上村委員 これは森山教授お一人というわけではありますまい。一体二十万円で、しかも直接人体実験ができないとすると、いつまで待つおつもりなのか、これで十分だとお思いになられるのかどうか、あるいはされるとすれば、今後どういうふうな予算措置をされるお考えなのか。こんな世界的な大問題になっており、しかも日本の各地において今かかる不幸をみられた両親の方々が一斉に立ち上がろうとするような状態、社会不安がきわめて大きく起きておることは最近の諸新聞におきまして報じられ、サリドマイド系の奇型児の問題は、最近一般国民のほとんどが知り始めてきているというこの問題に、予算約二十万円というのは、一体これはどういうことか、こう思われるのでありますが、厚生省の方は、これに対する予算関係について何か考慮されておるかどうか、この点についてお尋ねしておきたいと思います。
  77. 平瀬整爾

    ○平瀬説明員 これにつきましては、確かに非常に予算も少なくて申しわけなく思っておるのでございますが、この対策特別部会が今後開かれますと同時に、来年度予算におきましては、ある程度の規模の予算を科学技術庁なり、特別予算なりあるいは一般予算なり、方々に当たりましてぜひ獲得したいと思っております。
  78. 上村千一郎

    ○上村委員 実はきょうは厚生省の直接担当の局長、課長の方々がいろいろな会議にお出になっておられると思いますから、今あなたにこれ以上のことを御質問しましても無理かと存じますので、ただ希望を申し上げておきたいと思います。来年度予算、来年度予算といって待っておるひまはない。それほどのものである。何らか緊急な措置というものが講じられるはずだ、こう思うのであります。不幸な方々の心持をお伝えをして、さらに上司の方にお伝えを賜わりたいと思います。  最後に一点だけ法務大臣お尋ねをいたしておきたいと思います。実はお聞きの通りのことでございまして、この事件法務省人権擁護局に実は不幸な方々が救済を求めておる。それがいわば発火点となりまして、こういう大きな問題が社会的にまた国家的にいろいろ関心が持たれてきたという案件なのでございます。それでいわばもとはと言いますれば、人権擁護局の方へ助けを求めてきたという案件でございます、それで要は、緊急対策もございますし——不幸をしょわれました奇型児の方々、これは一生ほんとうにお気の毒だと思うのであります。実は私もこの奇型児の方々の提訴を受けまして幼児に面接しましたけれども、からだの状態はアザラシ型でございますし、しかも一人は女の方で、顔を見ればにこにこ笑っておられる。血色もいい、知能程度も少しも障害がないのであります。からだだけに不具を生じておる。しもか先ほどお調べになったように、国家がいろいろとこの新薬の許可関係について反省しなければならない諸問題を含んでおることであります。生まれてきた子供につきましてはどこにも責めるところはございません。一つの文化の被害者だと思える点でございます。これが一生背負っていくところの不幸、悩みというものはほんとうにお気の毒だと思うのであります。先ほど人権擁護局長がおっしゃったわけでございますが、これが収容施設といたしましても現在二カ所しかない。国家も約四千万くらいでございますか、これに補助をいたしておるようでございますが、実は私立でございますので、二万円、三万円と月々費用がかかっていくということでは、この御家族といたしましてはどうにもたえられないことでありましょうし、この事案全体といたしましては、国家の救いの手というものがあまりにも手薄であると思うのでございます。今後国立のかかる収容施設というものが必要でありましょう、と申しますのは、ただいまあるところの二つの私立の施設というものは、知能程度が多少低い方々で身体に障害のある方々を収容されている。これは知能は普通の方と少しも変わりがない。しかもなおかつ身体は、いわばほんとうにお気の毒な状態を呈しているといたしますれば、独立のものを考えないでその中に入れるということは、今後非常に不幸なものがある。ある意味におきましては、先ほど人権擁護局長がおっしゃったように、その生まれてきた奇型児の人権の擁護というような立場から、法務関係といたしましても重大な関心がございます。この点につきまして大臣の御所見を承って私の質問を終わることにいたします。
  79. 中垣國男

    中垣国務大臣 新しい薬のために、その影響を受けて不具者となって生まれるというこのことにつきましては、ほんとうに人道上見のがすことのできない悲惨な問題であると思うのであります。そこで、先ほど厚生省の課長からも答えられたようでありますが、さしずめ市販を禁止する措置をとるということも言われましたので、それをできるだけ急いでいただきたいということを考えます。ただ、私先ほどから応答を承っておりましてはたして新薬の薬害であるかどうかということがまだはっきりしないというようなことも実は承ったのでありまして、できるだけそういうことの医化学的な根拠を明らかにしていかなければならない。これは政府といたしましても、この問題には重要な関心を持ちまして、そういうことに対する善処をしなければならない。かように考えます。  それから施設の問題であります。これも所管は厚生省でございますけれども、やはり政府といたしましては、そういう人たちを十分収容できるような予算措置を当然のこととして考えなければならないと思います。私は、今度の問題を通じて考えますことは、新しい薬に対してもう少し徹底した規制をつくる必要があるのじゃなかろうか。ただいまのところ、人権擁護局長並びに厚生省当局の答弁の中から見ますと、はたしてサリマイドの原因なのかどうかということには、医者も言明しにくいようなことを聞いたのでありますが、われわれが日々見ます新聞その他の機関によりまして知るところでは、やはり世界的にこういうことが指摘されておるのでありますから、そういうことが原因になっておるかいないかの問題ではなくて、一日も早くそういった不幸なできごとの起きないような、そういう措置の方がもっと先だろうと思います。そういう点を含めまして、閣議等におきましても、本日の応答を報告いたしまして、できる限りの対策をいたしたい、こう思っております。
  80. 上村千一郎

    ○上村委員 法務大臣の御答弁につきまして、全く感謝を申し上げて、私の質問は終わります。
  81. 高橋英吉

  82. 猪俣浩三

    猪俣委員 一点簡単に……。  これは政党出身の法務大臣としてはなかなか困難なお答えになろうかと思いますけれども、民主政治の結果として選挙が非常に盛んになる。これはけっこうなことです。しかし、非常に激烈をきわめてくるとともに選挙の腐敗が非常に目立ってきた。これは民主政治の自家中毒現象だと思うのです。これをそのままにしておきますと、民主政治そのものが弱ってきてしまう。何としても自家中毒現象を除去しなければならぬ。きょう新聞を開きますと、まず長野県の上出市長選挙で千円札が同封されて送られた。これは今警察で取り調べ中であるが、前にもそういうことが行なわれたが それはとうとうわけがわからぬでしまったのだと書いてある。それに味をしめたのではなかろうかと思うのでありますが、これは捜査の状況はどうです。上田市の千円札を封入して送ったという状態はどういうことなんですか、そういう事実があるのですか、ないのですか。新聞で読んだだけなのですが。
  83. 宮地直邦

    ○宮地(直)政府委員 いまだ詳細な報告を受けておりません。
  84. 猪俣浩三

    猪俣委員 そこで、公職選挙法の趣旨に従って取り締まりをしていただくより仕方がないのですが、これは実はあまり強化しますと、今度は選挙が萎靡してしまう。さればというて、今言ったようにこれが野放しになると自家中毒現象を起こして民主政治が倒れてしまう。非常にめんどうなことであっても、取り締まりだけはやはり厳重にしていただかなければならぬ。事前の取り締まり、選挙中及び事後と三段階あると思いますが、一等困難なのは事前だと思うのです。もうすでに事前運動の取り締まりの期間に入っているわけですが、そこで私は選挙法の精神からしますと、いわゆる利益誘導あるいは利益を与える、個人的に金をやる、今言ったような長野のようなこと、それが今度は何か集団的に利益を与える、利益によって選挙権を左右するということが一等いけない。選挙違反の中心的ないけないところだと思うのです。それからはいろいろな問題が起こる。自民党諸君が言っておる中央につながる政治なんということをあまり強調されることは、私は自治体の本質を誤らしむる邪道だと思うのですが、今そこを論争しても初まらないし、あなたにそういう所見を求めることは非常識ですから求めませんが、どうもこういうことは、やはり民主政治の発達のためにお互いに自戒自粛すべきものじゃなかろうかと思うのです。一応の説明もいいかもしれませんが、地方選挙になると極端なんですよ。政府党じゃなければ交付金も減らされる、補助金も減らされる、橋がかからぬ、学校が建たぬなんて演説をして歩く。中央のおえら方がそんな考えでああいうスローガンをおつくりになったのではないでしょうけれども、下のチンピラどもがみなそうやってあおり立てる。これは実はほんとうに大きな政治問題だと思うのです。ですけれども、今あなたにそれに対する対策と言ったって、これは容易じゃないと思いますけれども、ことに中央の相当の地位にある方は、やはりお互い民主政治の円満な発達のため気をつけなければならぬと思うのですが、何か新聞を見ると、大野伴睦先生が消防団の会合に出て、おれは東都知事選挙対策委員長だ、あとは以心伝心でよく、了解してくれというようなあいさつをされた、こう書いてある。こういうことが一体事前運動になるかならぬか。僕はやはり法務省としては相手がどうであろうが、そういうことに対する法律見解を統一されておく必要があると思うのですよ。まあ大野さんがそういう会議に出て、選挙のときはよろしくというようなことを言っても、そういうことまでわれわれ言ったらいかぬが、おれは東都知事の選挙対策委員長だ、あとは以心伝心で了解しろ、なんということは、選挙演説じゃないかと思うのですけれども、そういうことをやっていいのか悪いのか、今の選挙法ではそれまでは許されるのかどうか、そういう見解が実はわからぬわけです。法務省は、検事総長の検察官に対する訓示にも、公明な選挙が行なわれるように十分選挙の粛正に遺憾なきを期せよなんという訓示をされているのであるが、一体事前運動というものはどこまで許されるものか、その限界は法務省にありますかどうか。これは法務大臣、そういう限界ございましょうか。事前運動というのはどの辺まで許されるのであるか、その法務省の態度を一つお聞かせ願いたいのです。
  85. 中垣國男

    中垣国務大臣 お答えいたします。選挙を公正に行なうということが最も民主政治の基盤になることであると思いますので、政府といたしましては、かねてから予備費を支出いたしまして選挙公明化運動を推進して参っておるでございます。その公明化運動の実効が上がっているかいないかということでございますが、実は非常に上がっておるところもございまして、ある県、ある市等のごときは選挙違反が一件もなかったといりようなところもございます。ところで、それとは逆に、従来の選挙違反等の実績から見まして実に驚くほどの大じかけな選挙違反者を出したという、ほんとうに遺憾な結果に終わっておるところもございます。従いまして、政府といたしましては引き続き選挙公明化運動は推進して参るのでございますが、ただいまのような、猪俣さんの御指摘になったような事前運動に対する問題、利益誘導寺に対する問題は、法律上の規制といたしましては、昨年の選挙制度の衆議院における委員会のときにもよく議論になったと思うのでございますが、私も当時あの委員をいたしておったのでございますが、非常にはっきりすることがむずかしい点があるかと思います。たとえば利益誘導と思われるようなことでも、政策として当然それを演壇から訴え得る場合もございますし、あるいはまた、先ほどの事前運動のことでございますが、特定の候補者に対する、自分が支持しておる意思を明らかにすることがはたして事前運動であるかどうかということは、これもなかなか法律上それが事前運動ということは断定しがたいという当時の政府委員からの答弁もあったのでございまして、私もあの選挙の委員の一人といたしまして、ほとんど一日も欠席をしなかった組の一人でございますが、今日といえども非常に関心を持っております。まぎらわしいようなことが、法律のいわゆる違反になるかならないかといったようなすれすれのところで問題になっておることは、今まですでに衆議院の予算委員会等におきましても、あるいはある県知事が名前入りのふろしき、タオルを出したとか、あるいはまたあるところの市には大臣とそこの市長の名前の竣工式の祝賀のビラを張ったというようなこと等もございまして、慎重に私の方も検討しておるのでありますが、このまぎらわしいという点を、はたして法的な処罰ができるかどうかということになりますと、これも問題があると思います。ただ、そういう問題は、これは一種の準備運動といたしまして、まぎらわしい点が実際の現状においてもし今日といえどもありますならば、選挙管理委員会等がこれに注意を発する。また、明らかに事前運動と思われるけれども、どうもはっきりとした法的処置ができないのではないかといったようなまぎらわしい問題につきましては、警察等からも警告を発せられる。こういうことを今日やっておるのでありまして、従来に見ない徹底した取り締まりを実は今度の統一選挙を目前にいたしまして行なっておることは事実でございます。現に事前運動のために逮捕、告発されておる者も全国的にはたくさんございますし、なおまた先ほど三段階においての取り締まりのことも御指摘をなさったのでありますが、このたびは特に投票前といえども逮捕、捜査をばするということを決定をいたしまして、先月の二十七、八日に行なわれました検察長官会同におきましても、その旨を私から強く要望を申し伝えたところでございます。  そこで、現在の法律を改正することによりまして、さっき言ったようなまぎらわしい点が明らかになるかどうかということになりますと、これは私はしろうとでございますから、あと刑事局長からあるいは専門的な、私と違ったことを言われるかもしれませんが、どうもほんとうはやりにくいのじゃないか。これは選挙というものに対する自覚を候補者も有権者も良識的に高めていただいて、そういう面からの粛正と申しますか、公明化を期さなければ、幾ら法律をどうしてみたところが、どうも人間の知恵がだんだん進んで参りまして、まぎらわしいことばかりが行なわれて、まぎらわしい行為をした者としなかった者との得票上の差が現われることはほんとうに遺憾であると思います。この問題につきましては、法務省に限らず、自治省におきましても、また警察庁におきましても、それぞれ検討をしておられると思いますし、国会におきましても、選挙の特別委員会あるいは法務委員会、内閣委員会等においてもいろいろ御質疑があるかと思うのでありますが、法務省といたしましては、この問題につきましてはもっと十分検討を加えまして、できるだけよい制度を生み出していきたい、こういうふうに考えております。
  86. 竹内寿平

    竹内政府委員 事前運動につきましてはっきりした考え方があるかという御質問でございますが、一応法律の解釈といたしましては、抽象的ながらものさしは持っておるつもりでございます。事前の運動が禁止されますのは、やはり選挙運動と見られるかどうかということにかかるわけでございまして、選挙運動については法律は定義を与えておらないのでございますので、この選挙運動かどうかということは、一応判例なり、それからその後たびたび行なって参りました選挙に際して取り締まりをして参りましたわれわれの法律解釈、それが裁判所でどの程度にいれられているかといったような法律解釈の先例、実績を積み上げましたものから一つの選挙運動という考え方が固まってきておるわけでございます。事前の行為が選挙運動であるかどうかということになりますと、その選挙運動の考え方に照らして判断をするほかないわけでございます。事前の場合におきましては、たくさんのまぎらわしい行為があるわけでありまして、すでに一般に明らかにして参りました幾つかのまぎらわしい行為といたしましては、立候補準備のための行為、あるいは選挙運動そのものの準備行為、あるいは政治活動、後援会活動、社交的な行為、地盤を培養するための行為、このようなものは従来選挙運動に似ておるのでありますけれども、選挙運動それ自体ではないという考えに立っておるわけであります。しかしながら、こういうことを言ったからといってすぐ選挙運動にならぬとは言えないのでありまして、具体的には実態をよく見まして、口では政治活動だと申しましても、それは選挙運動になるという実態でありますれば、その実態に即して選挙運動として、従って事前運動として取り締まる、こういうことになろうかと思うのでございます。
  87. 猪俣浩三

    猪俣委員 なかなかむずかしいが、私は四、五日前に北海道の札幌に行きましたが、札幌市内に大きな選挙のときの立て看板と同じ、たとえば町村金五というようなことが書いてありますので、よくそばへ行って見ますと、後援会事務所というふうに書いてある。よく見えないぐらいなんですが、それがほとんど全市に立っています。そうすると今度は、道会議員か何かの候補者と思われるようなものが同じような立て看板を立てておる。それもそばへ行ってみると、小さい字で後援会事務所、こう書いてある。これなんかもどうも脱法行為だと思います。それだから選挙に際して立て看板の数をかげんなんかしたって、何にも意味がないのです。ちょっと極端じゃないかと思うが、そのままやっているわけです。これは保守党だけじゃない、革新党もみな同じなので、同罪だと思うので、僕は保守党だけを責めるわけではありません。革新党にもそういうのがあるわけであります。これは今言ったようになかなか取り締まり困難だと思いますが、ただやはり、あまり甘やかした態度を取り締まり当局はおとりにならぬように、その点をきぜんとしてやっていただきたい。これはなかなかむずかしいけれども、さればといってほっておくことはできないと思うが、今大臣答弁されたように、ほんとうに全体が選挙というものが貴重なものであるというその認識から始まらぬと、法律だけで処罰したってなかなか困難だと思うが、その意味におきまして私は連関して考えられることは、こういう地方選挙とか国会議員選挙以外の選挙についても、やはり僕は公職選挙法のような取り締まりが必要なのじゃなかろうか。選挙というものについて、国会議員の選挙だけやかましく言っても、そういう選挙がだらしなく行なわれると、その余勢でやはり選挙というものに対するだらしのない観念ができてしまう。その意味において、これは御意見だけ承って私は質問をやめるのでありますが、たとえば弁護士会あるいは医師会、これはみな公の機関です。あるいは商工会議所、こういうところの選挙、これもどうも目に余ることをやっておるようですが、相当の有識者階級がこういうことをやっておる。それが下へ波及しない道理はないと思う。こういうものは一体野放しでいいのかどうか。なお最も根本的なことを申しますと、政党の総裁とか委員長です。自民党でいえば総裁、社会党でいえば委員長ですが、こういう人たちこそ、自民党の総裁なら直ちに総理大臣に続くところの最も重要なポストにつく。そういう選挙が野放しでやっていいということは出てこないと思う。陣笠の選挙はやかましくやりながら、総理大臣になる人の選挙は野放しで買収のしほうだいというばかな話はないと思うのです。自民党の中曽根君が首相公選論なんて唱えておる理由一つもそこにあると思うのですが、私は、こういう政党の総裁なり委員長の選挙にもやはり取り締まりの規則を置くべきものじゃなかろうかと思う。これはしかし大きな問題になりますので、ただ法務大臣の御所見を承っておきたい。こういうすべての選挙が浄化されなければ、ただ国会議員、県会議員あるいは知事、市長の選挙だけを粛正すると言ったってなかなか容易じゃない。やはり全般に選挙に対する倫理性というものが高揚されなければ、民主政治は自家中毒に陥って滅びてしまうと私は思うのです。法務大臣は閣議にも列席せられるのでありますが、そのようなことを閣議にお諮りになっていただきたいと私は思うのですが、御所見を承りたい。
  88. 中垣國男

    中垣国務大臣 お答えいたします。民間の団体に対しまして、選挙によって選ばれる、たとえば商工会議所の会頭であるとか、医師会長、弁護士会長、そういうものを政府提案によりまして法律で選挙制度をするということは、これはなかなかいろいろ議論があろうかと思いますので、そのことにつきまして直ちに政府がそれを検討するということを申し上げるのは差し控えたいと思うのでありますが、私は、選挙と名のつくものは、率直に言いますと、学級の級長選挙下あろうと、またいなかの農協の組合長の選挙であろうと、全部が正しく行なわれるような、そういう文化国家に日本がなってほしいものだという考え方をしております。総裁選挙あるいは委員長選挙等を一つの制度のもとに行なったらどうかというお考えに対しましては、私も非常にうなずけるところがあるのでありまして、閣議で正式にこれを議案といたしまして私が提出することのお約束はちょっといたしかねますけれども、そういう貴重な御意見が述べられましたということは閣議の席で懇談のような形で申し上げたいと思います。
  89. 高橋英吉

  90. 志賀義雄

    志賀(義)委員 さっき刑事局長お尋ねいたしましたことはどうなりましたか。
  91. 竹内寿平

    竹内政府委員 先ほど調査をいたしました点で、わかりました限りを御報告申し上げたいと思います。  まず石黒義成についての事件でございますが、傷害事件といたしまして昨年十一月八日、下谷警察署から東京地検に送検になっております。それで東京地検におきましては、上野、浅草方面を担当しております刑事部の片倉検事が担当して取り調べに当たりました。  事案の概要は、先ほどお話のありましたように、十一月二日午前二時ごろ、もと同居しておりました先である柴田儀作方で、柴田さんの六女柴田某女に対しまして、ささいなことで憤慨をして、まき割りのなたで前額部を殴打して、治療約十日間の傷を負わした、こういう事案でございます。ところでこの事件は、身柄は逮捕されておるので、検察庁が受理しましたときには身柄つきの事件となっております。検察庁では勾留の処分をいたしました上で取り調べを進め、十一月十五日に、これは在庁略式と申しまして、本人が役所にいる間に本人に直接略式命令を手渡すという形の処分をいたしております。むろん略式命令でございますが、それによりますと罰金二万円となっております。  そこで罰金にいたしました理由でございますが、本人は前科がないということと、傷害の程度が——婦人に対して傷をつけたのでありますからこれは軽い傷害ではございませんが、しかしながら、内部にまで傷害を与えるようなものではなく、まあ傷害としては十日の治療日数を要する程度の傷である。それから動機につきまして、被害者と被告とはかねて夫婦約束をしておったものであるが、被害者の方が最近いや気を見せてきたのでそれに憤慨したというようなことが動機になっておるようでございます。それから改俊の情もあるというようなことから、この事件の背景について、先ほどお話のありましたようなことはこの事件の上には出ていないようでございまして、検事もそういう点は考慮した形跡がありませんが、右のような点から罰金ということに相なったようでございます。普通でございますと、罰金略式命令をやりますと、すぐ身柄を釈放して住所地に略式命令を送付するわけでございすが、本人は、住所はどこだ、柴田方だ、先ほどの被害者住所であるということでありまして、上野、浅草方面を担当しておる検事としては、本人がそう言ったからといって、被害者の家が住所であるというようなことも考えられませんし、それからまた保証人もないということでございまして、これまたつくってきた保証人では信頼が置けないということから在庁略式という措置をとったということでございます。  ところが十二月十二日になりまして罰金の二万円を郵便で送ってたきそうでございます。
  92. 志賀義雄

    志賀(義)委員 どこから送ってきましたか。
  93. 竹内寿平

    竹内政府委員 それから先がまだ調査ができないわけでございますが、主任検事の話では、本人と思うが、だれから送ってきたかわからない。そしてそれから先が徴収済みになって帳簿の上では落ちておりますが、徴収をして今度は受け取ったということの通知を出さなきゃならぬが、その通知がどこへ当てて出されたか、そしてそれが返ってきたかということは、今度は全然別の帳簿になって処理されておるそうでございまして、その点の調査のために一両日御猶予をいただきたい、こういうことでございます。
  94. 志賀義雄

    志賀(義)委員 どうも刑事局長お答えになることがおかしくはありませんか。ささいな事件だとおっしゃるけれども、なたを持って入っていますね。私ども調べでさえ午前二時に忍び込んでいるということがわかっている。どうしてこれを在庁略式にされたのですか。そしてその被害者の家が住所だと言っていた。そんなことはなかろうと言われたならば、どこの住所を確かめられたのか。それから、こういうふうな事件であれば、だれが身元引き受け保証人になったのか、そういう点、そこに書類はございませんか。
  95. 竹内寿平

    竹内政府委員 保証人がないということだけはわかっておりますが、なぜないのか、なぜその傷害の程度を罰金で済ましたかといったようなこまかいことはわかりませんので、先ほど申しましたように、調査させていただいてから総合的にお答えを申し上げたいと思います。
  96. 志賀義雄

    志賀(義)委員 いいですか。身先引受人がわからないのですよ。住所もはっきりしません。だれから送ってきたかわからないが二万円送ってきたというのです。私から言いましょう。どこから送ってきたかわからないなんて、検察庁ともあろうものが何ということですか。横浜市磯子区磯子町一六七、石黒義成、この名儀で送ってきております。こういう罰金を送られてきたら必ず受け取りを出されるのでしょう。出されませんか、出されますか。
  97. 竹内寿平

    竹内政府委員 これは出すことになっております。
  98. 志賀義雄

    志賀(義)委員 ではそれを調べて下さい。しかも、今申し上げた横浜市磯子区磯子町一六七には石黒義成はいないのですよ。全然架空の名儀ですよ。よくそんなことで検察庁は釈放しておりますね。そんなばかなことはないでしょう。これが架空ならばその受取書は返ってきているはずです。返ってきたらこれはおかしいと問題にされるはずです。ただいまのお話ではそういうことが全くないじゃありませんか。これはあなたの方の責任になりますから、磯子区磯子町一六七、これをお調べ願いたいと思います。検察庁の方でもこれを一つ調べ願いたいと思います。
  99. 高橋英吉

    高橋委員長 志賀君、一つ詳細に調べてもらって次会に……。
  100. 志賀義雄

    志賀(義)委員 ちょっと待って下さい。次会までに調べてもらうことがあるのです。こういう場合に身元保証人をつけない例があるのかどうか、これもおかしいでしょう、全く奇怪千万です。それで大臣、先日お話したときに、自分の方の役所では絶対関係しておらないとおっしゃたのですが、これでは関係してないとは言えませんよ。  なお申しますが、この石黒という男は今どこにいるか、少なくとも昨日までは千代田区内の某旅館におりました。これは監禁状態にあるように思われます。しかも、どうも治安当局者が関係しているのではないかと思われます。職権を持たない私どもでも、いつも法務大臣が、志賀君、どこからそんなこと調べてくるのかねと言われるくらいこういうふうに調べるでしょう。あなたのところの検察庁、これは何ということですか。身元引受人も出さない、住所も確かめない、凶器を持って入っているのに、大したことないから在庁略式にした、常識で考えたってこれは裏に何かがあるのです。私どもはこの男がどういう男か知っている。悪の道に入らないようにも協力するのですよ。それを治安関係者が裏から糸を引くのではないかというように思われで、こういうあいまいなことをされたのでは困るでしょう。きょうは傷害事件のことだけ伺いましたが、一つこの奇怪な事態を明らかにするように御協力願いたいのです。週刊誌を初め近ごろの地方紙をごらんなさい。一面の半分くらい例の田中清玄と全学連の問題が出ております。いろいろなこういう事件がございますが、調査検察庁でやっていただくについては一つ御協力願いたいのですが、その点法務大臣からはっきりとおっしゃって下さい。
  101. 中垣國男

    中垣国務大臣 お答えいたします。ただいままでにわかった分だけを刑事局長からお答えしたわけでありますが、御指摘になりました点は全部調べ上げまして、次の機会に報告をさせます。  また、私が志賀さんに三月八日に大臣室で会いましたときに、どうも石黒某が監禁されるのをきっかけにでっち上げをもって共産党に対する弾圧を一つ誘導するような、こういう計画があるということでごさいましたので、私も実はそういうことがあってはならぬと思いまして、さっそく公安調査庁の関係者を呼びまして調査いたしましたところ、そういうことは全然ないということでございましたが、ないのがあたりまえだということで安心をしたわけでございまして、その辺、何にもないということをお答えしたわけでございます。ところが、この問題につきましては、あなたのようなそういう見方でそれが事実だとしますと、これは非常に重要な問題であると思いますので、一応私も関心を持ちまして、法務省関係機関を通じまして十分調査をさせます。その上でまた意見を述べることにさせていただきたいと思います。
  102. 志賀義雄

    志賀(義)委員 警察庁どうですか。ただいま申し上げたようなことでありましたが、どうにもこれはおかしいのであります。千代田区の某旅館に昨日までいた。そういうことを調べるのが警察庁じゃないかと思うのですが……
  103. 宮地直邦

    ○宮地(直)政府委員 法務省と連絡をとりまして調査いたします。
  104. 高橋英吉

    高橋委員長 志賀さんも了承されましたので、この問題はこれで打ち切ります。      ————◇—————
  105. 高橋英吉

    高橋委員長 この際、再審制度調査委員補欠選任についてお諮りいたします。  小委員池田清志君、上村千一郎君、赤松勇君及び田中幾三郎君が委員辞任されましたので、小委員が四名欠員になっております。この際、小委員補欠選任を行ないたいと存じますが、これは先例により委員長において指名するに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  106. 高橋英吉

    高橋委員長 御異議ないものと認め、唐澤俊樹君、上村千一郎君、赤松勇君及び田中幾三郎君を小委員指名いたします。  次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時二十三分散会