○
大内参考人 私は
船舶通信士協会の大内でございます。ただいま
電波法の一部を
改正する
法律案の審議が行なわれておりまして、
参考人として呼ばれまして、私
ども船舶通信士の現在における実情を、皆様にお話しできます
機会を与えられたことを非常に喜んでおります。
電波法の
改正問題は、もうすでに足かけ七年になりまして、いろいろな点で論議が尽くされているように言われておりますが、私
ども現場の
通信士の実態を見ております
立場から申し上げますと、いろいろな点でいかんとも承服しがたい点がいろいろあるのでございます。第一に、私
どもは、
昭和二十五年に
電波法が制定されまして、その後十何年かたちまして、
世界の
海上無線通信体制の
一環として
日本の
無線通信の業務に従事しております
船舶通信士といたしましては、この
改正案に対しまして、あまりにも実態と実情が無視されておるという点を強く痛感いたして反対いたしておるわけでございます。
第一の
理由は、私
どもは、
船舶の
通信士になるためには、
無線通信士という資格を
国家試験によって得なければならない。その知識、技能というものは、
電波法に規定されておりますそうした知識を全部身につけなければいかぬ。
船舶における
無線通信士の第一の任務というのは何か。二十四時間五〇
○KCの
電波を常時聴守して、航海の安全のために自分の仕事の本来の任務とすべきである。そうした場合の知識、能力があるかどうかという点が第一義の点として強くわれわれの資格の
内容にまで及んで、そういう知識、能力があると認定された者に対して、
無線通信士の資格が与えられておる。また、
無線通信士にとっては、そういう際に能力が発揮できるようにいろいろな技術的な
基準を定めたものが
電波法であるわけでございまして、それが今回の
改正案によりますと、二十四時間
人間の耳による聴守は必要としない、一日八時間でよろしい。しからば、その場合一日八時間の
通信士によって航海の安全が保たれるか、その他の条件はどういう条件が
整備されておるか。
無線機器の発達に相応してどういう施設がなされておるか。われわれ現場におりまして、実際の
無線通信士の仕事に従事しておる者の
立場から言いますならば、何もない。
それから、もう
一つ、私
どもは
現行三名乗っておる
通信士を一名にするということによって、たとえば失業の問題が起きる、あるいは
労働過重になる、こういう問題もございますけれ
ども、そういう問題を抜きにいたしまして、私
どもの職業的な
立場から納得しがたい点が幾つかある。
一つは、そういうふうにして私
どもの仕事というものは、ことごとに法規の中で厳格にいろいろの点が定められておる。たとえば自分の局を呼ばれた場合には直ちに応答しなさい、自分の名前を呼ばれたらはいと答えなさい、まるで幼稚園の子供にでも言うようなことを規則に書いてある。自分の局が呼ばれたときに直ちに応答しなければならない。こういうことは、何でもないことであるけれ
ども、
海上の
無線通信の場合にはきわめて重大な点がある。どういう用件をもって自分の局が呼ばれておるのか。それに返答しなかった場合にどういう事態が起こるのか。そういう場合にどういう順序をもって相手の船を呼び、どういう手続でもって返事をするかということも、こまかく規定されておる。相手の名前を三回呼んで、その繰り返しを二回やって、なお返事がなかった場合には二分間休んでまた呼びなさい。それでも出ないときには十五分間の間隔を置いて呼びなさい。こういうように非常にこまかい点まで規定されておるのです。こういう規則をもし破ってめちゃくちゃに相手の名前を連呼したり、あるいは応答しなかったという事実があれば、これは
無線通信士としての能力といいますか、これに対しましていろいろな警告が来る。
最近
日本の船が、
アメリカその他の国から、過度呼び出しと称しまして、たびたび厳重な違反通信の通告が参っておる。
日本船ばかりではございませんが、
日本船が
アメリカへ行き、ヨーロッパに行き、また
外国の船が
日本に来てこういう通信をやる場合に、どの国でも、
電波に対する監視局というものがございまして、
世界的にも監視網がある。そういう場合に、そういう単なる形式的な違反、ささいな違反であっても、これは厳重にお互いに
各国が協定いたしまして、そういうものをなくするために
海上無線通信の秩序を保っていかなければならない。こういう意味合いからして非常に事こまかに通信の手続をきめておる。これは
日本ばかりではない。そうしなければ、通信というものは、相手があって成り立つものですから、自分だけ先に通信をやろうと思っても、他の船の妨害になったり、ひいては通信の秩序を妨害するようなことになっては
無線通信の
体制を
維持できないわけです。これは最近、
日本船の場合には遠距離から
日本内地に向かって通信をする。こういう場合、これは非常に困難なものです。たとえば一通の電報を送るのに五分間の送受ができるということがたびたび言われております。この五分間の時間の間に一通の電報を送るために、それに至るまで実際に
日本船の
通信士はどういう仕事をしておるか。どうしても自分の当直時間中にこの電報をやらないとまずいというので、二十四時間一生懸命やる。自分の当直時間にできないと次の
通信士に手渡ししなければならない。そういうことのないようにしなければならぬ。そういう場合に、呼んでも出ない、四たび出ない、また違反になる。その距離が長くなればなるだけ、呼び出しに要する時間は、三時間または四時間、五時間、十時間、そういうふうな非常に苦難な労苦と焦慮をもって通信をかわしておるのが実情でございます。たとえば、自分の局を呼ばれたら直ちに返事しなさいという場合に、相手がどういう用件を持っておるかわからない。いつでもそれに応答でき得る
体制を整えること自体が、
船舶の航行安全のために、
船舶相互間の
海上における安全
体制を
維持するために必要だ。それがためにこういう手続を国内的にも国際的にもきめておるわけです。そうした通信の秩序を保ち、
維持するためにこまかい規則をつくってやっている。われわれが法規を尊重して毎日の仕事をしなければ、
海上の
無線通信体制というものは
維持できないわけです。そうした法規のもとで
運用しておる
現行体制の中で、今度二十四時間勤務する必要がない、一日八時間でよろしい。その裏づけになる
設備であるとか、方法であるとかは、どういう点によって条件が変わっているかというと、何もないわけなんです。そういう中で
運用時間を減らし、あるいは
定員を三名から一名にする、こういうような法規の
改正でございますので、私
どもとしてはどうしても納得いたしがたいということが第一でございます。
次に、盛んに問題になっております
オートアラームの問題でございますけれ
ども、現在
日本船はこの一年あるいは一年半以前から、二百数十隻にわたって
オートアラームが設置されております。いずれも、
政府によって、この
機械を使ってよろしいという証明された型式検定に合格した製品である。それが実際においてはほとんど役に立たないのではないかというクレームが各船から私
どもに一ぱいきております。これは
条約によりまして、また国内法によりまして、
オートアラームを設置した船は、航行中一日一回は必ずテストしなければならない、テストしてその結果は必ず船長またはブリッジ当直士官のところへ報告しなければならぬということがきまっております。ところがテスト・ボタンを押しても全然
作動しないという
機械もある。この
機械はテストしても鳴らないということを船長に報告したら、それでは船長はどうしたらいいか、それはそれっきりなんです。この
機械は故障ですという報告だけすればいい。それを受理した船長は、この
機械は故障だから、これはいけないから、
人間の耳によって聴守しなさいという指示をするとかなんとかいうことは何もない。こういうことがきまっておる。
機械がこわれた、どうにもならぬからそれでよろしいのだということで、何もないのです。なぜこういうふうになったかというと、先ほ
どもお話がありましたけれ
ども、
オートアラームを採用することによって
通信士の
定員をきめようということでもって国際
会議に出た場合に、この
機械は信頼できないということが
各国から盛んに言われたわけです。そういうような信頼のできない
機械であるならば、
通信士をして一日一回機能のテストを行なって、その結果を船長に報告させることにしようじゃないかということがきまっただけでその対策がない。こわれても、役に立たなくても、やむを得ないからそのまま使っていかなければならぬというシステムなんです。
日本だけではありませんけれ
ども、
世界の
船舶通信士はこれを実際において信頼してきていない、これが実情なのです。
しかし、
外国の場合、一名の
通信士で何でやっていけるかというと、陸上におけるいろいろな航行安全のための
設備というものが完備しておるのです。たとえば大西洋のある一定の地域に入りますと、いかなる船でも向こうのコースト・ガードという局に向かって自分のポジション、行先、スピード、そういうものを一ぺんだけ報告する。そういたしますと、大西洋上の一切の
船舶の動静がたった一ぺんの報告でもって、毎日何時にどの地点にどういう船がおるかということが、電子計算機その他によってはっきりわかるようになっておる。何か一たん事があれば直ちに救助におもむく、あるいは船に知らせる。
船舶相互同士でもって助け合う。病人が出て命があぶない。その付近を通っている船には
日本船がいる。
日本船にはドクターが乗っておるので、その
日本船に向かってコースト・ガードから指示がかかる。直ちに現場に急行して盲腸にかかった
外国船の
船員の命を救え。そういうことがたった一ぺんの通報によってわかるようになっておる。そういうシステムの中では、たとい一名の
通信士によってもあるいは航行の安全が保たれるかもしれない。今度は、
電波法を直すことによって、こういうふうな陸上
設備の計画がある、どういう場合にも、どこを通っても、こういう方法によって
船舶の助辞が把握できる、いかなる事態が起きても直ちに救助の
体制ができるようになりつつある、従って二十四時間聞く必要はない、従って
電波法を変えようということであれば、われわれ現場の
通信士としてもこれは反対できないわけなんです。しかしそれが
一つもないのです。
それからもう
一つは、航行の安全に
支障はないと言われても、今度の
電波法の
改正によりますと、
オートアラームをつける船自体が、単に国際航海に従事する
船舶にのみ限って使用される。そういたしますと、
日本の近海を走っている船は
オートアラームを必要としないわけです。
日本の周辺を走っているものは、夜間の十一時から朝の九時までは全然
人間による聴守というものがされないのです。そこがブランクになってしまう。なるほど、
海上保安庁の
海岸局がありまして、二十四時間聞いております。ですからSOSさえあれば直ちにキャッチできる
体制がある。しかし、その際に直ちに巡視艇が行って救助できるかというと、目と鼻の先を走っている場合でなければ、
船舶相互間によって救助はできないわけです。そういうことがわれわれ
通信士には何よりも危険である、日常の仕事を通して一番あぶない、今後こういう船には乗りたくないとみな感じておる。もちろん航行安全のために働くのは、単に
通信士だけではない。船長以下全
乗組員が協力して
船舶の安全な運航をはかっておるので、何で
通信士だけが航行安全のためにがやがや言うのかと言われますけれ
ども、私
どもは日常の仕事の中でそれを痛感しておるわけです。昨年もことしも大きな商船の海難事故があった。たとえば夜中の一時でも二時でもSOSが発せられますと、直ちに応答して救助におもむくということが行なわれておる。先般フィリピン沖で
日本船が海難を起こした。夜中にSOSを打って結局は沈没してしまいましたけれ
ども、付近航行中の
日本船舶が二十四時間聞いておりましたために、直ちに急行して全員を救助した、こういう事実があるのです。これが
現行法が
改正になって一名になれば、そういう場合にはできないわけです。
日本の近海でも、そういう意味ではブランクになってしまう。そういう点、私
どもは非常に重大な不安を感じているわけです。
もう
一つは、
公衆通信の問題でございます。先ほど申し上げました
通り、
日本の船は
船舶の経済的な運航をはかるために、
公衆電報を取り扱うということが重大な要素をなしている。
外国に行った場合、
日本の近海には絶えず三百隻という船が密集している。東南アジア、インド洋にかけて、三百隻以上の船がいつも毎日のように通信している。その三百隻の船が、長崎の
無線局を一斉に呼んだ場合には、お互い
混信してしまうから、順番を待たなければいかぬ。いつ自分の順番がくるかということで、二十四時間ずっと自分の
受信機の前にすわって聞いていなければいけない。一たん長崎の局をつかまえると、電報というものは三分か五分ではけてしまうのですが、それに至るまでの時間というものは大へんな時間がかかるわけです。一人の
人間じゃとても不可能です。それは今後は心配はいらない。海外においても、電電公社が
日本の
船舶を相手にするような中継基地をつくるから心配はいらないのだ、一人でも十分できる、こういうことであれば、私
どもは反対できない。むしろ進んで
賛成して、そういう新しい
海上無線通信に対してわれわれが協力することは当然のことだと思うのですが、そういうものは何もないわけです。
数えてみますとたくさんございますけれ
ども、もう
一つ最後に納得できない点は、いろいろな事情によって、どうしても船主の経済の負担を免れるために
乗組員の
定員の削減は必要である、
合理化は必要である。
〔佐藤(洋)
委員長代理退席、
委員
長着席〕
そういうことによって
定員を削減するのであれば、たった一人になった
通信士は、いわゆる技量優秀で、いかなる困難な通信に対しても適切な方法がとれるというきわめて能力の高い
通信士が配置されるのが当然なんです。ところが、今度の
改正案はそうでない。今後は一級の
無線通信士の資格があれば経験は必要としない。今までは四年必要であるとか、あるいは二年必要であるとかいうのが
現行の規定でございますけれ
ども、今度三名を一名にすると同時に、そういう業務経歴も必要としないような
改正になっておる。これははなはだしい無理だと思うのです。数が少なくなれば、それに対応して質のよろしい、経験の豊かな者をもって船を運航させるという
改正であればわかるけれ
ども、
通信士の
定員を削減したあげく、未経験でもよろしい――これははなはだ納得できない点がこういう場合にもあるわけです。
まだたくさん、私らの
立場からながめて御
理解を賜わりたい点がございますけれ
ども、今申し上げたようなことによりまして、私
どもはどうしても今度の
電波法改正については納得しがたい、こういう点がございますので、何とぞ皆さんの御
理解を得まして、これからの御審議のほどをお願いいたしたいと思います。