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中島参考人 私はただいま御
指名をいただきました
中島英信でございます。
中小企業研究所の所長をいたしておりますが、
中小企業団体の
関係から、
日本中小企業政治連盟の
相談役をいたしております。
いま
中小企業者が非常に待望をしております
中小企業基本法につきまして、
政府並びに与党である自民党におかれても、また
社会党及び
民社党の方におかれても、この制定に非常に熱意を持っておられて、非常に長い間にわたって御研究を続けられて案をおつくりになったということについては、心から敬意を表するのであります。
委員の皆さんも御専門の方がそろっていらして、
中小企業問題には皆さま非常に通じていらっしゃいますので、あまり長い前置きは必要でないと存じます。現在わが国の
中小企業に与えられている基本的な課題は、二重
構造あるいは
企業間
格差を解消して、
中小企業の自立、安定、向上をはかることであり、また
経済発展に即応して
企業の
近代化をはかり、生産性を向上させることであって、それらを通じて
中小企業の従事者の生活水準を向上させるとともに、
国民経済の健全な発展に資するということにあるかと思います。そういう見地から、簡単に私の所感を申し述べさしていただきます。
最初、
政府案について申し上げたいと思います。今回の
中小企業基本法政府案を拝見しますと、
中小企業に関する
施策が総合的に体系化されておりまして、いろいろ新しい
施策が盛り込まれております。現在の
中小企業問題の
一つの
焦点を生産性等の
格差にとらえて、これを物的生産性と価値生産性の両面にとらえて、各種の
施策の
系列をこれに対応さしてあるようでありますが、こういう考え方も私は十分にうなずけることと存じます。ただ、先ほどほかの
参考人の方も言われたように、これで一〇〇%完ぺきであるかというと、それはなかなかそうはいかないかと思うのであります。さらに十分なものにするためには、いろいろつけ加えられる必要の点も若干ございますし、なお多少問題なのは、この
政府案というのは、
中小企業の現状の分析というのはわりあいに私の正確に確かにしておられると思うのでありますが、この
施策の
方向を立てるときに、若干のずれもあるんじゃないかという感じがいたすのであります。
それで、第一の点は、この
基本法の中核になっているのは、この第三条の国の
施策であるかと思います。つまり前文や
政策目標にうたわれてきたいろいろな考え方というものがここに要約されて、その項目がはっきりと打ち出されておりまして、これに従っていろいろ具体的な
施策が展開していくということになっておりますから、その
意味において
一つの
焦点がこの第三条の国の
施策にあると思うのでありますが、この第三条第一項では設備の
近代化をはじめ八つの項目が並んでおります。そこで問題は、私は第二項に
一つあると思います。私はこの第二項というのは削除されたらよいのではないかと思うのであります。もしどうしても削除できなければ、やはりここで私は二壁
構造の解消なりあるいは
企業間
格差の解消という文句をはっきり入れられる必要があるのではないかと思うのであります。その削除をしたらどうかという
意味は、この前文において、また第一条の
政策の目標において、
中小企業政策に対する基本的な考え方をはっきりと打ち出しておられます。ですから、この第三条でもう一度これを繰り返す必要というのはないのではないかと思うのであります。もしどうしてもこれは削除できないということになりますと、これは私かなり重要な
意味を持ってくると思うのであります。つまり、それは重複しているわけではないんだ、どうしてもこれはここにうたわなければならぬということになりますと、その
意味というのは私はかなり大切な
意味を持ってくると思うのであります。と言いますのは、ここで第二項は「前項の
施策は、
経済的
社会的諸事情の変化を
考慮して、産業
構造の高度化及び産業の国際競争力の強化を促進し、
国民経済の均衡ある
成長発展に資するように講ずるものとする。」とありますが、ここで
中小企業施策の指導的な観念として、産業
構造の高度化と産業の国際競争力の強化という二つを非常にはつきりと打ち出しておられます。私は、もちろんこれは、わが国の産業
経済政策を考える場合に、当然重要な目標であると思います。今後
日本の
経済は、ますますこの産業
構造を高度化していかなければなりませんし、現在のような貿易及び為替の
自由化の状況のもとにおいて、
日本の産業の国際競争力を強めるということは、非常に私は重要であると思います。ただ、
中小企業政策を考える場合に、これだけでよいのかということが、私は問題になるかと思うのであります。つまりこれは重要な
重点でありますけれども、これだけを強調するということになりますと、若干の危険性がある。少なくとも
中小企業者をいろいろ不安におとしいれるのではないかと思うのです。産業
構造の高度化及びその国際競争力の強化ということたけであれば、これは大
企業、中
企業、小
企業全体を通じて産業
政策の
一つの
方向でありますし、これだけをうたい出すなら、特に
中小企業政策というものでなくてもいいわけであります。むしろこれは一般産業
政策そのものである、むしろこの
政策のいろいろな
影響を受けてくるものが
中小企業であるという
意味において、こういう
中小企業の
立場から考えますならば、これに対応するものを考えるというところに、
中小企業基本
政策に要請されているものがあるのではないかと思うのであります。これは決して抽象論ではなしに、非常に私は現実的な問題ではないかと思います。と言いますのは、
関連法で
中小企業投資育成株式会社法が出ておりますが、あれはどういう
企業に投資をするかという場合に、やはりこれは
自由化工業本位になるように承っております。軽工業なり
商業、サービス業は当然除外されていく。もちろん軽工業の中には例外があります。また
中小企業近代化促進法を取り上げてみましても、現在
中小企業業種別臨時措置法によっていろいろな業種が指定されておりますけれども、これが全部指定されることにはならないようなふうに伺っておりますが、こういう業種指定をする場合にも、この第三条の二項の原則というものは当然働いてくる。それは業種の選定をする場合に、何らか基準が必要であるということはわかりますけれども、この第三条の二項が業種の選定をする場合にも働いていくことになります。したがって、どうしても重化学工業であるとか、あるいは軽工業の小でも、輸入防遏あるいは輸出の増進に
関連のあるものは含まれてきますけれども、その他のものは取り残される。いわんや
商業、サービス業においては、らち外に置かれるおそれがあるわけであります。こうなりますと、
中小企業の大部分というものは、やや置き去りにされた形になり、あるいはやや軽く見られて、特定の産業なり特定の業種が重要視されることになりはしないかと思うのであります。これでは
中小企業対策の本旨という点から見て、若干問題があるように思うのであります。きょう、どなたでしたか、
参考人の方が、
中小企業対策は
秀才教育だけではだめだというお話がありましたが、その点は私も実は同感でありまして、
秀才教育も必要でありますけれども、ただ
秀才教育だけではいけないのではないか。むしろ秀才のほうは普通の一般的な産業
政策を援用するだけでもこれは伸びていく。まして天才的
企業になれば、放任しておいてもどんどんこれは大きくなっていくわけであります。この
中小企業対策というものを要請する一番の根拠というものは、やはり大多数の
中小企業の実情であり、これがどこにいくかということにあるのではないかと思うのであります。
以上で第一を終わりまして、第二点として申し上げる点は、以上申し上げたこととちょっと
関連しますけれども、そういうような点の出てくる
一つの基礎として、この
基本法の根底にある考え方であります。たびたび
国民経済の
成長発展という群集が繰り返されております。私は今日
国民経済の
成長ということは非常に大切であると思います。現在世界各国における
経済政策の重要な理念とされておりますし、わが国においても当然
経済の
成長をはかっていくということは重要であります。ただ人間のからだでも、からたが大きくて背が高ければいいというだけのものではなくて、体は小さくても、非常に頭がよくて、心臓その他内臓も強くて、筋肉も非常にしっかりしているという人間もあって、これは
社会的にも非常に有用であると思うのでありますが、ただそのスケールだけを問題にするわけにはいかない。からだが大きい、骨格がどうであるとか、筋肉の構がどうであるとかということだけを目標にするわけにはなかなかいかないと思います。特に
中小企業の場合においては、やはり公正な
経済的な秩序を要望しておるわけであります。また個人の
経済活動の自由というのは、やはり
中小企業の最もねらうところであると思うのであります。
アメリカの
中小企業政策の基本が自由
企業政策にあるわけでありますが、
日本においても、やはり
中小企業というのは大部分が個人
企業であり、個人の
経済活動の自由というものは尊重されるということに基本が置かれなければならない。さらに重要なことは、やはり
経済政策といえども、その最高の目標というのは、生活水準を高め、
国民の福祉を実現することであると私は思うのであります。そういう
意味からいいますと、
経済政策の理念としては、そういったものをあわせてとったときに、初めて健全な形になるのではないかと思うのであります。特に
中小企業は、従事者の総数からいって千八百万人をこえておりますし、家族を合わせれば、ある
意味で
国民の半ばをこえているという重要な人口の部分を占めておるのであります。したがって、これらの生活の福祉を実現するということは、国の
経済にとっても非常に重要なものであるというふうに考えます。その
意味で、第一条の
政策の目標等も、この中の最後に「
中小企業の従事者の地位の向上」という文句が入っておりまして、こういう点私は非常にけっこうであると思います。しかし、できるならば、この場合明確に
中小企業の従事者の所持及び生活水準の向上というように、その内容をもう少しはっきりとなさったらいかがであるかと存じます。この点は、先ほどほかの
参考人の方も、
竹内さんですか、おっしゃいましけれども、農業
基本法あたりには、こういう点についてはかなりはっきりと、農業従事者が他産業の従事者と均衡する生活を営むことを目標として、その地位の向上をはかるというふうに、非常に明確にこういう観念が打ち出されておりますけれども、
中小企業の場合においても同様にお考えになってよろしいのではないかというふうに存じます。
第三の点でありますが、これもいままでいろいろな方がお述べになったので、ごく簡単に触れますが、全体的な感じとしまして、
零細企業対策が不十分であるかと存じます。現在
中小企業というのは、一口に
中小企業と言いますけれども、
中小企業の範囲はだんだん拡大していきますし、したがって、その内部に中
企業、小
企業、
零細企業の質的な差が出てきておるということを見ることができます。
従業員を一人か二人使っておる
零細企業と、
従業員三百人くらいを使って年間十数億の売り上げをしておるような
企業とは、これはかなり質的に違っておる。したがって、こういう
中小企業の内部における
階層的な分化の現状に即してやはり対策も立てられなければならないということは、
階層別の対策を必要とするのではないかと思います。そういう
意味で、
零細企業対策にもう少しきめのこまかさが要るよりに感じます。もちろんそういう点を
考慮されて「小規模
企業」という章を特に設けられておりますので、
考慮されておることはわかりますけれども、できるならばこれをもう少し内容に具体的なこまかさがあってよいのではないかと思います。
それから、第四点といたしまして、過当競争対策でございます。これは第十七条に出ておりますが、この内容を拝見しますと、
中小企業団体法というような
組織法に規定されておる対策の範囲に大体尽きておるようでありまして、できるならば、この点についてはもう一歩前進されてはいかがかと思います。たとえば
企業登録制をしくとか、最低価格制をしくとかいう問題があるかと思います。今日低賃金労働者に対しては最低賃金制がありますが、所得の少ない低所得の
零細企業に対しては、最低価格制ということも考えられるかと思います。きょう午前中に出られた石田
参考人は、いま最低賃金
関係の会合に出ておられるわけですが、私も実はそれへ出る予定だったのですが、陳述が午後になったのでこちらに残りましたけれども、おそらく最低賃金制というのは今後ますますその施行が拡大し、強化されていくと思います。こういう状況で
零細企業がその
立場を守るには、やはりこれは最低価格制といったようなものを考える必要があるのではないかと思います。
第五点は、十九条に「事業活動の機会の適正な確保」というのがございます。この内容も私は非常にけっこうだと思います。多小
中小企業界にはいろいろ
意見もございますけれども、私は大体基本的な考え方においてはこの
方向で考えられるべきものかと思っております。ただいかにもこれに対する
きめ手といいますか、これを保証するものがないのではないか。その
意味で、ここに盛られておる施薬を
政府がおやりになるにつきましては、その
施策を裏づけるものとして、その行政的な処理に当たる機関というものがあってもいいのではないか。たとえば中政連案の中には公正
経済委員会というのが提唱されておりますけれども、そういう名称はともかく、公正
経済委員会というようなもので、
中小企業を取り巻くいろいろな不公正な
取引条件の
是正、あるいは大
企業あるいはその他のものとの間の紛争の処理であるとか、そういった問題がたくさんありますので、そういう点から見て、この項目をさらに裏づけるものとして、そういう行政機関を設置されたらばよろしいのではないかと思います。
それから第六点は、
下請及び
系列化の問題であります。この条文を拝見しますと、「
下請取引の適正化」ということをあげられておりますけれども、
企業系列の問題に触れておられないのであります。実際現在において、
技術革新あるいは流通革命あるいは消費革命等によって、
中小企業の基盤は非常に変動しつつありますけれども、ここへ出てきておる大きな問題は、やはり
系列化の問題であると思うのです。この
系列化に対する対策というものがはっきりと打ち出されていない。もちろん機械工業のようなものにおける
系列というのは、
下請というものとほぼ同じ内容のものになりますから、それはよいと思いますけれども、原料産業を親
工場にした
系列というものもありますし、特に現在では、この
商業部面においても、
系列化の問題というのは相当大きな問題になっておると思うのであります。その
意味において、ただ
下請取引の適正化というだけではなしに、
下請取引、
企業系列の適正化というふうに、
系列化の問題を加えられてはいかがであるかと思います。
第七点でありますが、これはサービス業の問題であります。
商業については特に第十四条でありますか、ここに一章を設けられております。おそらくサービス業はこれに入っているということであるのかもしれませんけれども、この文章をよく読んでみますと、どうもサービス業というのは入っていないような感じに受け取れるのであります。今日
中小企業におけるサービス業というのも非常に大きな割合を占めておりますので、もし
商業に関するものをここにおあげになるならば、
商業及びサービス業とするとか、何かの方法においてサービス業を含むということをはっきりとされて、それに応ずる
施策をお加えになってはいかがであるかと思います。
第八点でありますが、二十条に
官公需の問題が出ております。これも従来のわが国における
中小企業施策の中には出ていなかったものでありまして、こういったものが
基本法に盛られたということは非常にけっこうであると思います。しかし、これもできるならばばく然と国等の受注機会を確保するということだけでなしに、一定割合以上を
中小企業のために確保するという
意味で、この一定割合というようなことばを挿入されて、
中小企業者にも安心を与えられるし、またいろんな
施策を実際に講ぜられる場合に、
一つの考え方を明瞭に打ち出されるということが必要ではないかと思います。
実はその他いろいろ申し上げたいこともございますけれども、時間の
関係もございますので、おもな点だけを拾ったわけでありますが、最後に
政府案に関して
一つ申し上げたいのは、
中小企業政策審議会であります。これはいろいろな
法案と
関連して審議会がたくさんできて、現在
日本にはずいぶんたくさんの審議会があるかと思います。これはもちろん諮問機関としてある程度の役割りを果たしておりますし、重要でありますが、私は、
中小企業政策の
重要性という点から見て、これにかえて
中小企業者の中から選ばれた
代表者をもって
組織する
中小企業経済会議というようなものを設立して、これによって
中小企業政策に関するいろいろな討議をここで行なうようにしたらよいかと思うのであります。ここにいらっしゃる
委員の先生方は、皆さん国
会議員として非常に有能で、またよくその選挙民の意向を
代表して活動されていらっしゃるわけでありますが、
中小企業者はまたこれに対して自分たちの実際の生活の中からいろいろな要望を持ち出すわけであります。その
意味において、この
中小企業経済会議のような、これは一種の機能
会議でありますけれども、
消費者代表であるよりもこれは生産者
代表であるし、個人
代表であるよりもこれは
組織代表になります。地域
代表よりもこれは職域
代表になりますけれども、こういったものを活用して、こういう職能
会議的なものをつくりあげていくということは、今後科学的な、近代的な政治機構をつくりあげていくという面から見ても、非常に
重要性を持つと思うのでありますが、特に
中小企業問題あるいは
中小企業政策のように複雑な内容を持つ問題について、こういう
会議を活用するということに非常に
意味があるのではないかと存じておるわけであります。
以上、
政府案を主にして申し上げましたけれども、時間の
関係で
社会党及び
民社党の御案について十分に
意見を申し上げることはできませんけれども、一言だけ申し上げますと、私は三案を拝見しまして、わりあいに
共通点も多いのではないかというふうに考えました。普通保守、革新という二つの政党のいろいろな対立の
関係がおありになるようでありますが、ただ
中小企業政策に関しては、わりあいに同一の点も持っておられるような感じを持ったわけであります。
一、二感じた点を申し上げますと、
組織の整備の問題を取り上げておられるのは、
社会党、
民社党両方でありまして、これは非常にけっこうだと思います。たとえば
社会党の案と
民社党の案というのは、かなり案の内容が違っておるようであります。ですから
組織を整備するということは非常にけっこうでありますが、これは、理論的にも実際的にも、いろんな検討を必要とするのではないかというふうに考えます。
それから、中業
分野の
確定でありますが、これも非常に
中小企業界の要望というのは、事業
分野の
確定ということにかなり強く出ております。両党の案というのは、そういったものをお取り上げになっておられると思いますが、これはおそらく
中小企業者というのは、この二つのものに対しては相当に期待を持っておるかと思います。ただ率直に、これは私個人の
意見でありますが、率直に申し上げて、やはり
経済というものは絶えず変化し、絶えず発展しておるわけでありますから、
中小企業を
保護するということは、
経済の発展を停滞させ、阻害するものであってはならないと思うのであります。しかし、それはほっておいていいという
意味ではなしに、先ほど
北野さんからお話がありましたけれども、大
企業がその
経済的な合理性を無視して
中小企業の
分野に進出するとか、あるいは
経済的な合理性を持っておっても、非常に急激に圧迫を
中小企業に加えるならば、当然
中小企業はその経営が倒れてくる。やはりそこに大きな
社会的緊張を生ずるおそれもありますので、そういう
意味からいいますと、これを放任しておくことはできない。その
意味で調整が必要だと思うわけであります。これに対しては、実際的にこれを処理するために調整的な機関が必要だ。この点で調整
委員会の案が出ておりますが、この調整
委員会の案には、私も、先ほど申し上げたような同じ
趣旨でもって、
賛成をいたすわけであります。
その他、時間の
関係でいろんなことを申し上げることはできませんけれども、私は
政府及び自民党の方々のいろんな熱意と御努力に期待し、また
社会党、
民社党の方々もこの
中小企業のために
基本法の成立に非常に御活躍をなさっておられますので、本国会において、
中小企業者が待望するような、また国の
経済政策としても非常に合理性を持っておるような
中小企業基本法が制定されることが、非常に望ましいと思っておるものであります。